説明

難燃性耐衝撃性熱可塑性成形組成物

改良された衝撃特性および耐燃性を特徴とする熱可塑性成形組成物を開示する。この組成物は、(a)芳香族ポリカーボネート、(b)熱可塑性ポリエステルおよび(c)繰り返し構造単位


(式中、R、R、R、RおよびRは、互いに独立して、水素、アルキルまたはアリール基であり;nは、0〜5であり;mは10〜10000であり、かつRはハロゲンである。)を含むハロゲン化アクリレート、(d)耐衝撃性改良剤、(e)リン含有化合物、および(f)フッ素化ポリオレフィンを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性成形組成物、特に難燃性耐衝撃性ポリカーボネート組成物、に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートおよびポリアルキレンテレフタレートを含む熱可塑性成形組成物は既知である。多くのそのような組成物が特許文献に開示されている。これに関連して、外観、色安定性および熱安定性が優れた耐衝撃性熱可塑性組成物を開示している米国特許第4,888,388号が挙げられる。この組成物は、特定のグラフトゴムコポリマー、ポリカーボネートおよび飽和ポリエステルを含む。分解に対して安定化されており、ハロゲン化リン化合物を含む自消性ポリカーボネート組成物が、米国特許第3,557,053号に開示されている。リン化合物を添加剤として、主に難燃剤として、含む組成物も知られている。リン化合物とハロゲン化添加剤との組み合わせが、熱可塑性組成物に耐燃性を付与することが開示されてきた。米国特許第5,276,077号は、この関連で、ポリカーボネート、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーおよびゴム状コア/シェルグラフトコポリマー耐衝撃性改良剤を含む耐着火性組成物の開示で注目されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
難燃性耐衝撃性熱可塑性組成物を開示する。ポリカーボネート、熱可塑性ポリエステル、ハロゲン化アクリレート、耐衝撃性改良剤、リン含有化合物およびフッ素化ポリオレフィンを含むこの組成物は、機械的特性、加工性および難燃性の良好な組み合わせを特徴とする。ハロゲン化アクリレートは、繰り返し構造単位
【化1】

(式中、
、R、R、RおよびR は、互いに独立して、水素、アルキルまたはアリール基であり、
n は、0〜5であり、
m は、10〜10000であり、かつ
R は、ハロゲンである。)
を含む。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の組成物は、
(a) (コ)ポリカーボネート、24〜94重量パーセント(pbw)、好ましくは35〜78pbw、
(b) 熱可塑性ポリエステル、4〜74pbw、好ましくは6〜55pbw、
(c) ハロゲン化アクリレート、1〜30pbw、好ましくは5〜15pbw、
(d) 耐衝撃性改良剤、20pbw以下のポジティブ量(positive amount)、好ましくは3〜15pbw、
(e) 少なくとも一種類のリン含有化合物、15pbw以下のポジティブ量、好ましくは2〜15pbw、および
(f) フッ素化ポリオレフィン、1pbw以下のポジティブ量、好ましくは0.05〜0.5pbw
を含む。
【0005】
本発明のポリカーボネート成分は、よく知られている、市販の熱可塑性樹脂である。そのケミストリー、特性および製造は、多くの文献に開示されている(これに関して、モノグラフH.Schnell,“Chemistry and Physics of Polycarbonates”,Interscience Publishers,ニューヨーク,ニューヨーク,1964年参照。参照することによって本明細書中に組み込まれる。)。本明細書中で使用される用語「ポリカーボネート」は、一般的に、ホモポリカーボネートとコポリカーボネートとをいう。重量平均分子量10,000〜200,000、好ましくは20,000〜80,000かつASTM D−1238による300℃、1.2kgにおける溶融流量約1〜65g/10分、好ましくは2〜15g/10分のポリカーボネートが本発明との関連で好適である。これらの樹脂は、例えば、既知の二相界面重縮合法(上記Schnellの書類を参照。)や溶融エステル交換法(D.G.LeGrandら,“Handbook of Polycarbonate Science and Technology”,Marcel Dekker Verlag,ニューヨーク,バーゼル,2000年,12頁以降参照。)によって製造されうる。
【0006】
ポリカーボネートの製造に好適な芳香族ジヒドロキシ化合物は、一般式HO−Z−OH(式中、Zは、炭素原子を6〜30個有し、一個以上の芳香族基を含む二価有機基である。)の芳香族ジヒドロキシ化合物である。そのような化合物の例は、ジヒドロキシジフェニル、ビス(ジヒドロキシフェニル)アルカン、インダンビスフェノール、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(ヒドロキシフェニル)ケトンおよびα,α’−ビス(ヒドロキシフェニル)ジイソプロピルベンゼンを包含する群に属する、ビスフェノールである。これらの化合物の中で、ヒドロキノン、レソルシノール、ビス−ヒドロキシフェニル)−アルカン、ビス−(ヒドロキシフェニル)−エーテル、ビス−(ヒドロキシフェニル)−ケトン、ビス−(ヒドロキシフェニル)−スルホキシド、ビス−(ヒドロキシフェニル)−スルフィド、ビス−(ヒドロキシフェニル)−スルホン、およびα,α−ビス−(ヒドロキシフェニル)−ジイソプロピルベンゼンが挙げられる。これらおよび別の好適な芳香族ジヒドロキシ化合物は、例えば、米国特許第3,028,356号、第2,999,835号、第3,148,172号、第2,991,273号、第3,271,367号および第2,999,846号に記述されている(これらは全て参照することによって本明細書中に組み込まれる。)。好適なビスフェノールの別の例は、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−フェニル)−プロパン(ビスフェノールA)、2,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチル−ブタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサン、α,α’−ビス−(4−ヒドロキシ−フェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,2−ビス−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス−(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、ビス−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−メタン、2,2−ビス−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、ビス−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−スルフィド、ビス−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−フェニル)−スルホキシド、ビス−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−スルホン、ジヒドロキシ−ベンゾフェノン、2,4−ビス−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサン、α,α’−ビス−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼンおよび4,4’−スルホニルジフェノールである。
【0007】
特に好ましい芳香族ビスフェノールの例は、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロパンおよび1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサンである。最も好ましいビスフェノールは、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン(ビスフェノールA)である。
【0008】
熱可塑性芳香族ポリカーボネートの製造に好適な連鎖停止剤は、例えば、フェノールおよびp−tert.−ブチルフェノール、並びに長鎖アルキルフェノール、例えばDE−A 2842005による4−(1,3−テトラメチルブチル)−フェノールまたはアルキル置換基中に炭素原子を全部で8〜20個有するモノアルキルフェノールもしくはジアルキルフェノール、例えば、3,5−ジ−tert.−ブチルフェノール、p−イソオクチルフェノール、p−tert.−オクチルフェノール、p−ドデシル−フェノールおよび2−(3,5−ジメチルヘプチル)−フェノールおよび4−(3,5−ジメチルヘプチル)−フェノールである。使用される連鎖停止剤の例は、一般的に、その場合に使用されるジフェノールのモルの合計に対して、0.5mol%〜10mol%である。
【0009】
熱可塑性芳香族ポリカーボネートは、既知の方法で、好ましくは、三以上の官能性を有する化合物、例えば、三以上のフェノール基を有する化合物、を、使用されるジフェノールの合計に対して、0.05〜2.0mol%、混合することによって分枝されうる。
【0010】
好適なポリカーボネート樹脂は、例えば、ペンシルヴェニア州ピッツバーグのBayer MaterialScience LLCから、およびドイツのレーフェルクーゼンのBayer MaterialScience AGから、商品名Makrolonのもとで市販されている。
【0011】
成分(b)として好適な(コ)ポリエステルとしては、ホモ−ポリエステルおよびコ−ポリエステル樹脂が挙げられ、これらは分子構造がカルボン酸から誘導される少なくとも一つの結合を含み、好ましくは炭酸から誘導される結合を含まない樹脂である。これらは既知の樹脂であり、ジオール成分と二酸との既知の方法による縮合またはエステル交換重合によって製造されうる。これらの例は、シクロヘキサンジメタノールとエチレングリコールとテレフタル酸またはテレフタル酸およびイソフタル酸の組み合わせとの縮合で誘導されるエステルである。シクロヘキサンジメタノールとエチレングリコールと1,4−シクロヘキサンジカルボン酸との縮合で誘導されたポリエステルも更に好適である。好適な樹脂としては、ポリ(アルキレンジカルボキシレート)、特にポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(1,4−ブチレンテレフタレート)(PBT)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)(PTT)、ポリ(エチレンナフタレート)(PEN)、ポリ(ブチレンナフタレート)(PBN)、ポリ(シクロヘキサンジメタノールテレフタレート)(PCT)、ポリ(シクロヘキサンジメタノール−コ−エチレンテレフタレート)(PETGまたはPCTG)、およびポリ(1,4−シクロヘキサンジメチル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)(PCCD)が挙げられる。
【0012】
米国特許第2,465,319号、第3,953,394号および第3,047,539号−これらは全て参照することによって本明細書中に組み込まれる−は、そのような樹脂の製造に好適な方法を開示している。好適なポリアルキレンテレフタレートは、約25℃においてオルトクロロフェノール中8%溶液の相対粘度によって測定される固有粘度が少なくとも0.2デシリットル/グラム、好ましくは少なくとも約0.4デシリットル/グラムであることを特徴とする。上限は臨界ではないが、一般的に、約2.5デシリットル/グラムを超えない。特に好ましいポリアルキレンテレフタレートは、固有粘度0.4〜1.3デシリットル/グラムの範囲のポリアルキレンテレフタレートである。
【0013】
本発明における使用に好適なポリアルキレンテレフタレートのアルキレンユニットは、炭素原子を2〜5個、好ましくは2〜4個含む。ポリブチレンテレフタレート(1,4−ブタンジオールから製造される。)およびポリエチレンテレフタレートが、本発明における使用に好ましいポリアルキレンテレフタレートである。別の好適なポリアルキレンテレフタレートとしては、ポリプロピレンテレフタレート、ポリイソブチレンテレフタレート、ポリペンチルテレフタレート、ポリイソペンチルテレフタレート、およびポリネオペンチルテレフタレートが挙げられる。アルキレンユニットは直鎖であっても分枝鎖であってもよい。
【0014】
好ましいポリアルキレンテレフタレートは、テレフタル酸基に加えて、炭素原子を8〜14個有する別の芳香族ジカルボン酸または炭素原子を4〜12個有する脂肪族ジカルボン酸からの基、例えばフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、4,4’−ジ−フェニル−ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸またはシクロヘキサン二酢酸からの基、を20mol%以下含みうる。
【0015】
好ましいポリアルキレンテレフタレートは、エチレングリコールまたはブタンジオール−1,4−基に加えて、炭素原子を3〜12個有する別の脂肪族ジオールまたは炭素原子を6〜21個有する脂環式ジオール、例えばプロパンジオール−1,3、2−エチルプロパンジオール−1,3、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール−1,5、ヘキサンジオール−1,6、シクロヘキサンジメタノール−1,4、3−メチルペンタンジオール−2,4、2−メチル−ペンタンジオール−2,4、2,2,4−トリメチルペンタンジオール−1,3、および−1,6、2−エチルヘキサンジオール−1,3、2,2−ジエチルプロパンジオール−1,3、ヘキサンジオール−2,5、1,4−ジ−(β−ヒドロキシエトキシ)−ベンゼン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパン、2,4−ジヒドロキシ−1,1,3,3−テトラ−メチル−シクロブタン、2,2−ビス−(3−β−ヒドロキシエトキシフェニル)−プロパンおよび2,2−ビス−(4−ヒドロキシプロポキシフェニル)−プロパンからの基、を20mol%以下含みうる(DE−OS 2407674、2407776、2715932)。
【0016】
ポリアルキレンテレフタレートは、比較的少量の3−もしくは4−価アルコールまたは3−もしくは4−塩基性カルボン酸、例えばDE−OS 1900270および米国特許第3692744号に記述されているもの、を混合することによって分枝されうる。好ましい分枝剤の例は、トリメシン酸、トリメリット酸、トリメチロール−エタンおよび−プロパン並びにペンタエリトリトールを含有する。好ましくは、酸成分に対して1mol%以下の分枝剤が使用される。
【0017】
専らテレフタル酸およびその反応性誘導体(例えばジアリルエステル)とエチレングリコールおよび/またはブタンジオール−1,4とからのみ製造されるポリアルキレンテレフタレート(ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート)およびこれらのポリアルキレンテレフタレートの混合物が特に好ましい。
【0018】
少なくとも二種類の上記酸成分および/または少なくとも二種類の上記アルコール成分から製造されるコポリエステルも好ましいポリアルキレンテレフタレートであり、ポリ(エチレングリコール/ブタンジオール−1,4)−テレフタレートが特に好ましいコポリエステルである。
【0019】
好適なポリアルキレンテレフタレートは、米国特許第4,267,096号、第4,786,692号、第4,352,907号、第4,391,954号、第4,125,571号、第4,125,572号および第4,188,314号、第5,407,994号に開示されている。これらの開示を参照することによって本明細書中に組み込む。
【0020】
本発明との関連で成分(c)として好適なハロゲン化アクリレートは、繰り返し構造単位
【化2】

(式中、
、R、R、RおよびR は、互いに独立して、水素、アルキルまたはアリール基、好ましくはC1〜18−アルキルまたはフェニルであり、
n は、0〜5、好ましくは0〜3であり、
m は、10〜10000、好ましくは50〜1000であり、
R は、ハロゲン、好ましくは臭素または塩素である。)
を含む。フェニル環は、5個以下のR基によって置換されうる。
【0021】
最も好ましくは、R、R、R、RおよびRは、それぞれ水素であり、nは1であり、かつ、Rは臭素である。
【0022】
好ましいハロゲン化アクリレートは、FR 1025P(ニュージャージー州フォートリーのAmeribrom社の製品)である。
【0023】
本発明との関連で好適なハロゲン化アクリレートは、モノマー
【化3】

(式中、R、R、R、RおよびR、nおよびRは、上記のとおりである。)
のラジカル重合によって製造されうる。
【0024】
本発明の組成物との関連で成分(d)として好適な耐衝撃性改良剤は、少なくとも一種類のビニルモノマー5〜95wt%、好ましくは30〜90wt%が、一種類以上のエラストマー架橋グラフトベース95〜5wt%、好ましくは70〜10wt%上にグラフトしており、グラフトベースのガラス転移温度が10℃未満、好ましくは0℃未満、特に好ましくは−20℃未満である、グラフトポリマーである(パーセントは、耐衝撃性改良剤の重量に対するパーセントである。)。
【0025】
グラフトベースの中央粒度(median particle size)(d50)は、一般的に、0.05〜10μm、好ましくは0.1〜5μm、特に0.2〜1μmである。
【0026】
グラフト相は、好ましくは、
A) 一種類以上のビニル芳香族化合物(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、メタクリル酸(C〜C)−アルキルエステル(好ましくはメチルメタクリレートおよびエチルメタクリレート)50〜99重量部と
B) 一種類以上のビニルシアニド(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル)、(メタ)アクリル酸(C〜C)−アルキルエステル(好ましくは、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、tert.−ブチルアクリレート)および不飽和カルボン酸の誘導体(好ましくは、無水物およびイミド;好ましくはマレイン酸無水物およびN−フェニルマレイミド)1〜50重量部と
の混合物である。
【0027】
Aに含まれる好ましいモノマーは、スチレン、α−メチルスチレンおよびメチルメタクリレートであり、好ましいモノマーBとしては、アクリロニトリル、マレイン酸無水物およびメチルメタクリレートが挙げられる。特に好ましいAはスチレンであり、特に好ましいBはアクリロニトリルである。
【0028】
好適なグラフトベースとしては、ジエンゴム、EP(D)Mゴム、アクリレート、ポリウレタン、シリコーンおよびエチレン/ビニルアセテートゴムが挙げられる。ジエンゴム(例えば、ブタジエンおよびイソプレン)が好ましいグラフトベースであり、ポリブタジエンゴムが特に好ましい。
【0029】
例えば米国特許第3644574号;GB 1409275およびUllmann,Enzyklopaedie der Technischen Chemie,第19巻(1980年),280頁以降(これらは全て参照することによって本明細書中に組み込まれる。)に記述されているABSポリマーもまた好適なグラフトポリマーである。それらは、フリーラジカル重合によって、例えばエマルジョン、懸濁、溶液または塊状重合によって、好ましくはエマルジョンまたは塊状重合によって、製造されうる。エマルジョン重合ABSが特に好ましい。
【0030】
特に好適なグラフトゴムは、更に有機ヒドロペルオキシドとアスコルビン酸との開始剤システムを使用するレドックス開始によって製造されるABSポリマーである(これに関連して、米国特許第4,937,285号参照。これは参照することによって本明細書中に組み込まれる。)。
【0031】
アクリレートゴム、好ましくはアクリル酸アルキルエステルと、任意に別の重合性エチレン性不飽和モノマー、グラフトベースの重量に対して40%以下と、のポリマーも更にグラフトベースとして好適である。好ましい重合性アクリル酸エステルとしては、C〜C−アルキルエステル、例えばメチル、エチル、ブチル、n−オクチルおよび2−エチルヘキシルエステル並びにこれらのモノマーの混合物、が挙げられる。
【0032】
グラフトベースの架橋に関して、一を超える重合性二重結合を有するモノマーが共重合されうる。架橋モノマーの好ましい例は、炭素原子を3〜8個有する不飽和モノカルボン酸と、炭素原子を3〜12個有する不飽和一価アルコールまたはOH基2〜4個および炭素原子2〜20個を有する飽和ポリオールと、のエステル、例えばエチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート;多価不飽和複素環化合物、例えばトリビニルおよびトリアリルシアヌレート;多官能性ビニル化合物、例えばジ−およびトリ−ビニルベンゼン;および更にトリアリルホスフェートおよびジアリルホスフェートである。好ましい架橋モノマーは、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジアリルフタレートおよび少なくとも三つのエチレン性不飽和基を有する複素環化合物である。特に好ましい架橋モノマーは、環状モノマートリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアクリロイルヘキサヒドロ−s−トリアジン、トリアリルベンゼンである。架橋モノマーの量は、グラフトベースの重量に対して、好ましくは0.02〜5%、特に0.05〜2%である。
【0033】
別の好適なグラフトベースとしては、DE−A 3704657、DE−A 3704655、DE−A 3631540およびDE−A 3631539に記述されているようなグラフト活性部位を有するシリコーンゴムが挙げられる。
【0034】
中央粒度(d50)は、その上下に50重量%の粒子が存在する直径である。これは、超遠心測定法によって決定されうる(W.Scholtan,H.Lange,Kolloid,Z.und Z.Polymere 250(1972年),782〜1796頁)。
【0035】
本発明との関連で成分(e)は、式(III)または(IV)
【化4】

(式中、
、R、RおよびR は、互いに独立して、C−〜C−アルキル、またはそれぞれ任意にアルキル、好ましくはC−〜C−アルキルによって置換されていてもよいC−〜C−シクロアルキル、C−〜C20−アリールもしくはC−〜C12−アラルキルであり、
n は、互いに独立して、0または1、好ましくは1であり、
N は、0.1〜30、好ましくは0.5〜10、特に0.7〜5であり、
X は、炭素原子を6〜30個有する単核もしくは多核芳香族基、または炭素原子を2〜30個有する脂肪族基である。脂肪族基は直鎖であっても分枝されていてもよい。)
のホスフェート化合物、ホスホネートアミン、ホスファゼンまたはホスフェートである。
【0036】
最も好ましい態様において、Xは、
【化5】

のいずれかである。
【0037】
好ましくは、R、R、RおよびRは、互いに独立して、C〜C−アルキル、フェニル、ナフチルまたはフェニル−C〜C−アルキルであり、それぞれアルキル基、好ましくはC〜C−アルキルによって置換されていてもよい。特に好ましい芳香族基は、クレシル、フェニル、キシレニル、プロピルフェニルまたはブチルフェニルである。
【0038】
特にトリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレシルホスフェート、ジフェニルクレシルホスフェート、ジフェニルオクチルホスフェート、ジフェニル−2−エチルクレシルホスフェート、トリ−(イソプロピルフェニル)ホスフェート、メチルホスホン酸ジメチルエステル、メチルホスホン酸ジフェニルエステル、フェニルホスホン酸ジエチルエステル、トリフェニルホスフィンオキシドまたはトリクレシルホスフィンオキシドが式(IV)の好適なリン化合物に含まれる。特に好ましいモノリン化合物は、トリフェニルホスフェートである。
【0039】
式(V)
【化6】

(式中、
、R、RおよびR、nおよびN は、上記のとおりであり、
q は、互いに独立して、0、1、2、3または4、好ましくは0、1または2であり、かつ
およびR は、互いに独立して、C〜C−アルキル、好ましくはメチルであり、かつ
Y は、C〜C−アルキリデン、C〜C−アルキレン、C〜C12−シクロアルキレン、C〜C12−シクロアルキリデン、−O−、−S−、−SO−、SOまたは−CO−である。)
の化合物が特に有利である。
【0040】
ビスフェノールAまたはそのメチル置換誘導体から誘導された式(V)の化合物が特に好ましい。
【0041】
上記リン化合物は既知(EP−A 363608、EP−A 640655参照。)であり、既知の方法(Ullmanns Encyklopaedie der technischen Chemie,第18巻,301頁以降1979年;Houben−Weyl,Methoden der organischen Chemie,第12/1巻,43頁;Beilstein 第6巻,177頁参照。)によって製造されうる。
【0042】
ホスホネートアミンは、式(VI)
3−y−NB (VI)
(式中、
A は、式(VIa)
【化7】

または式(VIb)
【化8】

(式中、
11およびR12 は、互いに独立して、C〜C10−アルキルまたはC〜C10−アリールであり、
13およびR14 は、互いに独立して、C〜C10−アルキルまたはC〜C10−アリールである。)
の基であり、
y は、0、1または2であり、かつ、Bは、独立して水素、C〜C−アルキル、またはC〜C10−アリールである。
は、水素、エチル、n−もしくはiso−プロピル、非置換もしくはC〜C−アルキル−置換C〜C10−アリール、特にフェニルまたはナフチルである。)
に一致する。
【0043】
11、R12、R13およびR14のアルキルは、好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−、iso−、sec.−もしくはtert.−ブチル、ペンチルもしくはヘキシルであり、アリールは、好ましくは、フェニルナフチルまたはビナフチルである。
【0044】
一例として、式(VIa−1)
【化9】

の5,5,5’,5’,5’’,5’’−ヘキサメチルトリス(1,3,2−ジオキサホスホリナン−メタン)アミノ−2,2’,2’’−トリオキシドが挙げられる。
【0045】
ホスホネートアミンの製造は、例えば、米国特許第5,844,028号(参照することによって本明細書中に組み込まれる。)に記述されている。
【0046】
式(VIIa)または(VIIb)
【化10】

(式中、
R は、互いに独立して、C1〜8−アルキルまたはC1〜8−アルコキシ、C5〜6−シクロアルキル、C6〜20−アリール、C6〜20−アリールオキシ、またはC7〜12−アラルキルであり、
k は、0〜15、好ましくは1〜10である。)
のホスファゼンも更に好適である。
【0047】
例としては、プロポキシホスファゼン、フェノキシホスファゼンおよびメチル−フェノキシホスファゼンが挙げられる。フェノキシホスファゼンが好ましい。ホスファゼンおよびそれらの製造は、例えば、EP−A 728811、DE−A 1961668およびWO 97/40092に記述されている。フッ素化ポリオレフィン、本発明の組成物の成分(e)、は、組成物中に0.05〜0.5pbwの量で混入される。フッ素化ポリオレフィンは既知である(EP−A 640655参照。)。DuPontから入手可能な商品は、Teflon(登録商標)30Nである。
【0048】
フッ素化ポリオレフィンは、更に、フッ素化ポリオレフィンのエマルジョンと、グラフトポリマーのエマルジョンまたはコポリマー、好ましくはスチレン−アクリロニトリル、のエマルジョンと、の凝固混合物の形態で使用されてもよく、エマルジョンの形態のフッ素化ポリオレフィンはグラフトポリマーまたはコポリマーのエマルジョンと混合され、次に凝固される。フッ素化ポリオレフィンは、更に、グラフトポリマーまたはコポリマー、好ましくはスチレン/アクリロニトリルベース、とのプレコンパウンドの形態で使用されてもよい。フッ素化ポリオレフィンは、パウダーの形態で、グラフトポリマーまたはコポリマーのパウダーまたはグラニュールと混合され、常套の手段で温度200〜330℃において溶融状態で配合される。
【0049】
フッ素化ポリオレフィンは、更に、マスターバッチの形態で使用されてもよく、これはフッ素化ポリオレフィンの水性分散体の存在下における少なくとも一種類のモノエチレン性不飽和モノマーのエマルジョン重合によって製造される。好ましいモノマー成分は、スチレン、アクリロニトリルおよびそれらの混合物である。凝固物、プレコンパウンドおよびマスターバッチは、通常、フッ素化ポリオレフィンの固形分が5〜95wt.%、好ましくは7〜60wt.%である。
【0050】
本発明の組成物は、更に、一種類以上の常套の機能性添加剤、例えば充填剤、別の混和性プラスチック、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤およびUV安定化剤、を含みうる。好適な充填剤としては、タルク、クレイ、ナノクレイ(本明細書中で使用される接頭語「ナノ」は、約100ナノメートルよりも小さい粒度をいう。)、シリカ、ナノシリカ、並びに強化剤、例えばグラスファイバーが挙げられる。好適なUV吸収剤としては、ヒドロキシベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアジン、シアノアクリレート、オキサニリド、およびベンゾオキサジノン並びにナノサイズの無機材料、例えば酸化チタン、酸化セリウム、および酸化亜鉛が挙げられる。好適な安定化剤としては、カルボジイミド、例えばビス−(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミドおよびポリカルボジイミド;ヒンダードアミン光安定化剤;ヒンダードフェノール(例えばIrganox 1076(CAS番号2082−79−3)、Irganox 1010(CAS番号6683−19−8);ホスファイト(例えばIrgafos 168、CAS番号31570−04−4;Sandostab P−EPQ、CAS番号119345−01−6;Ultranox 626、CAS番号26741−53−7;Ultranox 641、CAS番号161717−32−4;Doverphos S−9288、CAS番号154862−43−8)、トリフェニルホスフィン、および亜リン酸が挙げられる。好適な加水分解安定剤としては、エポキシド、例えばJoncryl ADR−4368−F、Joncryl ADR−4368−S、Joncryl ADR−4368−L、脂環式エポキシ樹脂ERL−4221(CAS番号2386−87−0)が挙げられる。
【0051】
添加剤は、有効な量で、好ましくは樹脂成分の総重量に対して0.01pbwから全部で約30pbwまでで使用されうる。
【0052】
例示される組成物の製造において、成分および添加剤を、二軸押出機ZSK 30(温度プロファイル120〜255℃)中で溶融配合した。得られたペレットを強制空気対流オーブン中で120℃において4〜6時間乾燥した。パーツを射出成形した(溶融温度265〜285℃、金型温度約75℃)。
【0053】
アイゾッド衝撃強さの決定を、厚さ1/8”または1/4”の試験片を使用して行った。測定は、ASTM D−256に従って行った。
【0054】
メルトフローインデックスを、ASTM 1238に従って、265℃において、荷重5Kgのもとで測定した。難燃性をUL 94に従って、厚さ1/8”または1/16”の試験片を垂直燃焼して決定した。
【0055】
本発明を以下の実施例によって更に説明するが、この実施例は限定と解釈されない。全ての部およびパーセンテージは、特に明記しない限り、「重量」に対する。
【実施例】
【0056】
下記組成物の製造において、以下の成分を使用した。
ポリカーボネート − ASTM D 1238による溶融流量約4g/10分(300℃、1.2Kgにおける。)のビスフェノールAベースのホモポリカーボネート(Makrolon 3208,Bayer MaterialScience LLCの製品。)
固有粘度0.94のポリエチレンテレフタレート
ハロゲン化アクリレート − ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)−FR 1025P、ニュージャージー州フォートリーのAmeribromの製品
ハロゲン化カーボネート − テトラブロモビスフェノールAのオリゴマーカーボネート、Chemtrura Companyの製品
耐衝撃性改良剤 − ゴムを約75%有するABS、Lanxess AGの製品
P化合物III − トリスブロモネオペンチルホスフェート、FR−370、ニュージャージー州フォートリーのAmeribromの製品
P化合物IV − ビスフェノールAビス−(ジフェニルホスフェート)、Reofos BAPP、Chemtruraの製品
フッ素化ポリオレフィン − ポリテトラフルオロエチレンとスチレンアクリロニトリルコポリマーとを等重量含む凝固剤
【0057】
全ての組成物が、ポリカーボネート47.1%、熱可塑性ポリエステル30.6%、ABS 9.1%およびフッ素化ポリオレフィン0.1%を含んでいた。
【0058】

【0059】
本発明を説明の目的で上記に詳細に説明したが、そのような詳細は、請求項によって規定されるものを除いて、もっぱら説明の目的のためであって、変更が発明の精神および範囲から逸脱しない限り当業者によってなされ得ると解釈されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート、熱可塑性ポリエステル、ハロゲン化アクリレート、耐衝撃性改良剤、リン含有化合物、およびフッ素化ポリオレフィンを含有し、前記ハロゲン化アクリレートが、
【化1】

(式中、
、R、R、RおよびR は、互いに独立して、水素、アルキルまたはアリール基であり、
n は、0〜5であり、
m は、10〜10000であり、かつ
R は、ハロゲンである。)
の繰り返し構造単位を含む、熱可塑性成形組成物。
【請求項2】
該ポリカーボネートが24〜94パーセントの量で存在し、該熱可塑性ポリエステルが4〜74パーセントの量で存在し、かつ、該ハロゲン化アクリレートが1〜30パーセントの量で存在し、該耐衝撃性改良剤が20パーセント以下のポジティブ量で存在し、該リン化合物が15パーセント以下のポジティブ量で存在し、かつ、該フッ素化ポリオレフィンが1パーセント以下のポジティブ量で存在し、該パーセントが全て該組成物の重量に対する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
該ポリカーボネートが35〜978パーセントの量で存在し、該熱可塑性ポリエステルが6〜55パーセントの量で存在し、該ハロゲン化アクリレートが5〜15パーセントの量で存在し、該耐衝撃性改良剤が3〜15パーセントの量で存在し、該リン化合物が2〜15パーセントの量で存在し、該フッ素化ポリオレフィンが0.05〜0.5パーセントの量で存在し、該パーセントが全て該組成物の重量に対する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記耐衝撃性改良剤がグラフトポリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
グラフトポリマーが、少なくとも一種類のビニルモノマーの重合生成物5〜95wt%と、それがグラフトしているガラス転移温度10℃未満のエラストマー架橋グラフトベース95〜5wt%と、を含有し、該パーセントが該グラフトポリマーの重量に対する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
該熱可塑性ポリエステルがポリアルキレンテレフタレートである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
該熱可塑性ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
(a) 芳香族ポリカーボネート、24〜94パーセント、
(b) ポリエチレンテレフタレート、4〜74パーセント、
(c) 繰り返し構造単位
【化2】

(式中、
、R、R、RおよびR は、互いに独立して、水素、アルキルまたはアリール基であり、
n は、0〜5であり、
m は、50〜1000であり、かつ、
R は、臭素である。)
を含むハロゲン化アクリレート、1〜30パーセント、
(d) 少なくとも一種類のビニルモノマーの重合生成物5〜95wt%と、それがグラフトしているガラス転移温度10℃未満のグラフトベース95〜5wt%と、を含むグラフトポリマーであって、該wt%が該グラフトポリマーの重量に対する、グラフトポリマー、
(e) リン含有化合物、および
(f) フッ素化ポリオレフィン
を含有する熱可塑性成形組成物。

【公表番号】特表2010−519404(P2010−519404A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551973(P2009−551973)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【国際出願番号】PCT/US2007/005061
【国際公開番号】WO2008/105761
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(503349707)バイエル・マテリアルサイエンス・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (178)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience LLC
【Fターム(参考)】