説明

雰囲気調整剤および細胞培養方法ならびに細胞培養キット

【課題】ハンドリング性に優れた雰囲気調整剤およびそれを用いた細胞培養方法ならびに細胞培養キットを提供する。
【解決手段】細胞培養キット1は、容器本体10の内部に、培地用皿12、カプセル用皿13を収納し、密封用蓋11によって、内部を密閉することができるようになっている。培地用皿12には、細胞用の培地12aと細胞がセットされる。培養開始の際には、カプセル用皿13に水13aを入れておき、これに雰囲気調整カプセル14を浸すことができるようにしておく。雰囲気調整カプセル14は、水溶性の包装体14aによって、炭酸塩と酸類を含む剤14bを内包したものである。雰囲気調整カプセル14が水に浸漬されると、一定時間の後に包装体14aが溶け、剤14bが水13a中に溶け出して化学反応を起こし、炭酸ガスを発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば細胞を培養するための培地のpHを調整する雰囲気調整剤およびそれを用いた細胞培養方法ならびに細胞培養キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や生物学研究のために、様々な動物の細胞が単離され、その細胞の培養、増殖が行われている。この際、血清などの細胞増殖因子を添加した培地が用いられるが、高い培養性能や増殖性能を発揮させるためには、培地のpH、温度や湿度などを適宜調整して、これらを培養期間中一定に保つことが必要となる。例えば、培地のpHを調整するためには、雰囲気中の二酸化炭素(CO2)濃度を調整する手法があり、インキュベータなどの細胞培養装置が用いられている。
【0003】
ところで、特許文献1〜3には、嫌気性の細菌を培養する際に、雰囲気調整剤として炭酸ガスを供給する手法が提案されている。特許文献1では、アスコルビン酸類、金属酸化物、水および活性炭からなる酸素吸収剤とアルカリ土類金属水酸化物とを含む雰囲気調整剤を細胞培養キット内に投入して密閉した状態で培養を行うことにより、容器内の炭酸ガス濃度を調整し、所望のpHを得ることを可能にしている。また、特許文献2および特許文献3では、培地と炭酸ガス発生型脱酸素剤を容器内に投入して密封することにより、嫌気性細菌の培養に適した雰囲気を形成している。このような炭酸ガス発生型の剤は、上述した細胞培養の際の雰囲気調整用にも転用され得る。
【特許文献1】特開平10−327845号公報
【特許文献2】実用新案第3034364号公報
【特許文献3】実開平5−13200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような雰囲気調整剤は、通常、アルミニウム(Al)などの小袋に密封された状態で保管されており、培養開始時に開封して使用される。このため、容器内に投入する前に、容器の外部で雰囲気調整剤の小袋を開封する必要がある。ところが、雰囲気調整剤は開封して小袋から取り出すと、すぐに化学反応が始まり、容器内に投入する前に、炭酸ガスが発生してしまうこととなる。従って、ハンドリングが困難であるという問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、ハンドリング性に優れた雰囲気調整剤およびそれを用いた細胞培養方法ならびに細胞培養キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による雰囲気調整剤は、培養用培地が密封される気密性容器内の雰囲気を調整するものであって、炭酸塩および酸類を内包すると共に水溶性を有する包装体とを備えたものである。
【0007】
また、このような雰囲気調整剤では、炭酸塩として、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、酸類として酒石酸(C466)を用いることが好ましい。また、包装体としては、例えば多糖類やタンパク質、具体的にはプルラン((C6105n)を用いることが好ましい。
【0008】
本発明による細胞培養方法は、炭酸塩および酸類を水溶性の包装体に内包した雰囲気調整剤を水に浸し、この水に浸した雰囲気調整剤と、細胞を培養するための培地とを気密性容器内に密閉した状態で細胞の培養を行うものである。但し、ここでいう「水」は、純水に限られず、何らかの物質を水に溶解させた水溶液をも含む概念とする。
【0009】
本発明による細胞培養キットは、炭酸塩および酸類を水溶性の包装体に内包した雰囲気調整剤と、この雰囲気調整剤と細胞培養用の培地とを密閉することが可能な気密性容器とを備えたものである。
【0010】
本発明による雰囲気調整剤および細胞培養方法ならびに細胞培養キットでは、雰囲気調整剤が水に浸漬されると、雰囲気調整剤の包装体が水溶性を有していることにより、包装体が溶け、内包されている炭酸塩と酸類が水中に溶け出す。これにより、炭酸塩と酸類とが化学反応を起こし、炭酸ガス(二酸化炭素)を発生する。このように、雰囲気調整剤を水に浸すことで容易に炭酸ガスを発生させることができる。また、このとき、包装体が水に溶けるまでには一定の時間を要するため、雰囲気調整剤を水に浸してから、これを容器内に投入して密閉状態とするまでの間に誤って炭酸ガスが発生してしまうことがない。
【発明の効果】
【0011】
本発明の雰囲気調整剤および細胞培養方法ならびに細胞培養キットによれば、雰囲気調整剤の包装体が水溶性を有しているので、水に浸漬されると、包装体が水に溶けて内包されていた炭酸塩と酸類が水中に溶け出し、炭酸ガス(二酸化炭素)が発生する。このように、雰囲気調整剤を水に浸すことで容易に炭酸ガスを発生させることができる。また、包装体が水に溶けるまでには一定の時間を要するため、雰囲気調整剤を容器内に投入して密閉状態とするまでの間に誤って炭酸ガスが発生してしまうことがない。よって、優れたハンドリング性を実現できる。また、発生する炭酸ガスを無駄なく利用することができるため、雰囲気中の二酸化炭素濃度を効率良く上昇させ、一定に保持することができる。これにより、培地のpHが好適に調整され、細胞の培養性能、増殖性能が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施の形態に係る細胞培養キット1の概略構成を示す断面図である。細胞培養キット1は、後述の雰囲気調整カプセル(雰囲気調整剤)14を用いて細胞の培養、増殖を行うものである。この細胞培養キット1は、例えば、容器本体10の内部に、培地用皿12、カプセル用皿13を収納し、密封用蓋11によって、その内部を密閉することができるようになっている。培地用皿12には、培地12aと培養対象となる細胞(図示せず)がセットされる。なお、「容器本体10」および「密封性蓋11」が、本発明の「気密性容器」に対応している。また、本発明の細胞培養方法については、以下の細胞培養キット1および雰囲気調整カプセル14の説明によって具現化されるので、その説明を省略する。
【0014】
容器本体10および密封用蓋11は、細胞培養キット1の気密性を確保するものであり、例えば、角型の透明なプラスチック容器などにより構成されている。密封用蓋11の4辺には、それぞれ留め具11aが設けられており、これらの留め具11aやゴムパッキン(図示せず)などによって、容器本体10と密封用蓋11との周縁部が圧着されて容器内部が密封されるようになっている。
【0015】
培地用皿12は、例えばシャーレなどの実験用のプラスチック製の平皿などである。培地12aは、培養対象となる細胞に生育環境を提供するものであり、炭素源や
1192760268687_0
、無機塩類など
1192760268687_1
の供給源となると共に、
1192760268687_2
の増殖に必要な足場や液相を与える物理的な役割を果たすものである。この培地12aは、例えば、基礎培地に血清などを添加して構成される。また、細胞としては、ヒトなどの生物組織の一部を単離したもの、例えば、歯根膜細胞、線維芽細胞、上皮細胞、平滑筋細胞などが挙げられる。
【0016】
カプセル用皿13は、雰囲気調整カプセル14を水13aに浸すために設けられるものである。培養を開始する際には、このカプセル用皿13に水13aを入れておき、雰囲気調整カプセル14を浸すことができるようにしておく。また、容器本体10の内部において、雰囲気調整カプセル14を、水13aを入れたカプセル用皿13に所望のタイミングで落とすことができるような機構を付加するようにしてもよい。このように構成することで、細胞培養キット1内の密閉状態を保ったまま、連続的に炭酸ガスを発生させることができるため好ましい。なお、水13aとしては、純水の他、生理食塩水など、何らかの物質を水に溶解させた水溶液を用いるようにしてもよい。
【0017】
雰囲気調整カプセル14は、容器本体10内部の雰囲気、具体的には二酸化炭素(CO2)濃度を調整するものであり、これによって培地12aのpHを調整することができる。この雰囲気調整カプセル14は、水13aに浸漬された後、一定の時間、例えば30秒〜30分程の時間で二酸化炭素ガス(炭酸ガス)を発生させるようになっている。ここで、図2に、雰囲気調整カプセル14の概略構成を示す。この雰囲気調整カプセル14は、例えばカプセル容器としての包装体14aの中に、剤14bを封入したものである。
【0018】
包装体14aは、剤14bを内包して保管するためのものであり、水溶性を有する材料、例えば水溶性ポリマーにより構成されている。水溶性ポリマーとしては、多糖類からなる材料、具体的には、化1に示したプルラン((C6105n)、セルロースなどが挙げられる。もしくは、ゼラチンなどのタンパク質から構成するようにしてもよい。
【0019】
【化1】

【0020】
また、包装体14aは、プルランにより構成されていることが好ましい。プルランは、でんぷんを原料に黒酵母の一種を培養して得られる天然多糖類であるが、水溶性が高いため、水に浸してから約2〜5分と、比較的短い時間で溶解する。なお、プルランを用いたカプセル容器としては、例えば、NPcaps(商品名:カプスゲル・ジャパン(株)製)を用いることができる。
【0021】
剤14bは、炭酸塩および酸類を含んで構成されることにより、水に溶解することで二酸化炭素を発生する固形状、顆粒状、粉末状の二酸化炭素発生剤である。剤14bが酸類を含むことにより、炭酸塩のみを用いる場合に比べて、効率的に二酸化炭素を発生させることができる。
【0022】
炭酸塩としては、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸カリウム(K2CO3)などを用いることができる。
【0023】
酸類としては、例えば、酒石酸(C466)、クエン酸(C687)、フマル酸(C444)、リンゴ酸(C465)、コハク酸(C464)などを用いることができる。特に、酒石酸やクエン酸は、炭酸塩との化学反応により副生成物として有害な物質、例えばアルデヒド類や一酸化炭素(CO)等を発生しないため、安全性の観点から好ましい。なお、剤14bとしては、炭酸塩として炭酸水素ナトリウム、酸類として酒石酸を用いた発泡剤、例えばバロス発泡顆粒(商品名:堀井薬品工業(株)製)を用いることができる。
【0024】
次に、上記のような雰囲気調整カプセル14を用いた細胞培養キット1の作用、効果について説明する。
【0025】
細胞培養キット1では、培養開始の際に、雰囲気調整カプセル14をカプセル用皿13の水13aに浸すと、剤14bが水溶性を有する包装体14aに封入されていることにより、包装体14aが溶けて、剤14bが水13a中に溶け出す。このとき、剤14bが炭酸塩として炭酸水素ナトリウム、酸類として酒石酸を含んでいる場合には、次の式(1)のような化学反応を生じる。
466 + 2NaHCO3 → Na2446+ 2CO2 + 2H2O ……(1)
【0026】
式(1)に示したように、炭酸水素ナトリウムと酒石酸との化学反応により、酒石酸ナトリウム(Na2446)と二酸化炭素(CO2)と水(H2O)が生成される。理論上は、酒石酸を420mg、炭酸水素ナトリウムを460mg含む発泡剤を用いた場合には、酒石酸ナトリウムを531mg、二酸化炭素を240mg、水を98mg生成することができる。よって、25℃、1気圧の環境下では、133mlの二酸化炭素(炭酸ガス)を発生させることが可能である。このように、雰囲気調整カプセル14が水13aに浸漬されることにより、容器本体10の内部に炭酸ガスが発生し、容器内の雰囲気の二酸化炭素濃度が上昇する。そして、一定期間、上記の化学反応が進むと、雰囲気中の二酸化炭素濃度が一定、例えば5%程度に維持される。
【0027】
このように、雰囲気調整カプセル14は、水13aに浸漬されることによって、容易に炭酸ガスを発生する。また、このとき、包装体14aは水13aによって即座に溶けてしまうのではなく、徐々に溶けていくこととなる。このため、包装体14aに封入されている剤14bが水13a中に溶け出し、炭酸ガスを発生するまでにはある程度の時間(例えば包装体14aをプルランにより構成した場合には2分程度)を要する。よって、雰囲気調整カプセル14をカプセル用皿13の水13a中に浸してから、容器本体10に密封用蓋11をして容器内を密閉状態にするまでの間に、炭酸ガスが誤って発生してしまうことがない。
【0028】
以上説明したように、本実施の形態では、雰囲気調整カプセル14において、包装体14aが水溶性を有しているので、水13aに浸漬されると、包装体14aが水13aに溶けて内包されていた剤14bが水中に溶け出し、炭酸ガス(二酸化炭素)を発生する。このように、雰囲気調整カプセル14を水13aに浸すことで容易に炭酸ガスを発生させることができる。また、包装体14aが水13aに溶けるまでには一定の時間を要するため、容器内に投入して密閉状態とするまでの間に誤って炭酸ガスが発生してしまうことがない。よって、優れたハンドリング性を実現することができる。
【0029】
また、剤14bから発生する炭酸ガスを無駄なく利用することができるため、雰囲気中の二酸化炭素濃度を効率良く上昇させ、一定に保持することができる。これにより、培地のpHが好適に調整され、細胞の培養性能、増殖性能が向上する。
【0030】
さらに、二酸化炭素濃度を一定に保持することができるため、CO2インキュベータなどを用いてガスコントロールを行わなくとも十分に効率的な細胞培養を実現することが可能となる。
【0031】
ここで、従来の雰囲気調整剤は、外装袋に炭酸ガスを発生するガス発生剤を封入したものであり、外装袋を開封してガス発生剤を取り出すと炭酸ガスが発生するようになっている。ところが、このような調整剤では、炭酸ガスの発生終了後、容器内に残留物が生じる。これに対し、本実施の形態では、包装体14aおよび剤14bは、水13aに溶けてしまうため、炭酸ガスの発生終了後、容器内に残留物が生じることがない。よって、残留物を除去する必要がなくなり、ハンドリング性の向上に有利となる。
【0032】
(実施例1)
実施例1として、図2に示したような雰囲気調整カプセル14を用いて、容器内の雰囲気を調整する実験を行った。この際、包装体14aとしてのNPcaps(商品名:カプスゲル・ジャパン(株))に、剤14bとしてバロス発泡顆粒(商品名:堀井薬品工業(株)製)を350mg充填して、これを水30mlに対して3つ浸し、2.5lの容器内に密閉したのち、37℃の恒温槽中に保持して容器内の二酸化炭素濃度を測定した。測定は、測定開始〜1時間後までは15秒間隔、1〜12時間後までは5分間隔、12〜24時間後までは30分間隔で行った。測定開始〜24時間後までの結果を図3および表1、測定開始から15分後までの結果を図4および表2に示す。なお、これらの測定結果は、同一条件で2回測定を行った結果の平均値とする。また、測定装置としては、GM70(商品名:ヴァイサラ社製)を用いた。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
表1および図3に示したように、測定を開始してから1時間後には二酸化炭素濃度が5%近くに達し、その後、概ね5%の二酸化炭素濃度が維持されていることがわかる。また、表2および図4に示したように、測定開始、すなわち雰囲気調整カプセル14を水に浸して容器内に密閉してから、2分半程で容器内の二酸化炭素濃度が上昇し始め、5分程で4%近くにまで達することがわかる。
【0036】
(実施例2)
実施例2として、図1に示したような細胞培養キット1を用いて、細胞を培養、増殖させる実験を行った。この際、細胞培養キット1としては、寸法が13,5×19,7×1,8cm(内寸)、容量が0.4Lの角型の容器を用い、培地用皿12としては、寸法が直径35mmの丸型のディッシュを8つ用いた。また、培地12aとしては、DMEM High glucose(glucose濃度:4.5g/l), 10%FBS,1%ペニシリンストレプトマイシン、細胞としては、ヒト歯根膜細胞を1×104個播種したものを用いた。雰囲気調整カプセル14は、包装体14aとしてのNPcaps(商品名:カプスゲル・ジャパン(株))に、剤14bとしてのバロス発泡顆粒(商品名:堀井薬品工業(株)製)を170mg充填したものを用いた。この雰囲気調整カプセル14を、2つ、水5mlに浸したのち、上記培地12aと共に容器内に密封し、37℃の恒温槽内に保持して培養を行った。なお、培地12aは2日ごとに交換した。また、その都度、上記雰囲気調整カプセル14を同一の手順で容器内に密封し、補充するようにした。
【0037】
上記のようにして細胞の培養を行い、播種してから3、5、7、9日後にそれぞれ細胞数をヘモサイトメータ(Haemacytometer)で計測した。その結果を図5に示す。また、5日後および9日後における細胞の形態を位相差顕微鏡にて撮影した。その結果を図6に示す。
【0038】
また、比較例として、アネロパウチ(登録商標:三菱瓦斯化学(株))CO2を雰囲気調整剤に用いたこと以外は、上記実施例と同様にして、細胞の培養、増殖を行った。但し、アネロパウチ(登録商標:三菱瓦斯化学(株))CO2は、アルミニウムの外装袋に、炭酸ガスを発生するガス発生剤が密封されているものであるため、培養開始時に外装袋を開封して、ガス発生剤を容器内に投入するようにした。この比較例についても、細胞数の計測および細胞形態の撮影を行った。これらの結果を、実施例2の結果と共に、図5および図6に示す。
【0039】
図5に示したように、雰囲気調整カプセルを用いた実施例2では、ガス発生剤を外装袋から取り出して容器内に投入するタイプの雰囲気調整剤を用いた比較例に比べて、細胞増殖能が高くなっていることがわかる。また、図6に示したように、増殖した細胞の形態については、両者の間で著明な差は観察されなかった。
【0040】
以上より、炭酸塩および酸類を含む剤14bを水溶性の包装体14aに内包した雰囲気調整カプセル14を用い、この雰囲気調整カプセル14を水に浸すことにより、容器内の二酸化炭素濃度を一定に維持することができることが示された。また、このとき、二酸化炭素は、密閉後一定時間(例えば2分半程)は発生することがないため、容器を密閉する前や、雰囲気調整カプセルを容器内に投入する前に、誤って二酸化炭素が発生してしまうことがないことが示された。
【0041】
さらに、このような雰囲気調整カプセル14を用いて細胞の培養、増殖を行うことにより、細胞の培養性能、増殖性能が向上することが示された。
【0042】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、雰囲気調整カプセル14を、生物組織の細胞を培養する際に使用する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されず、細菌、藻類、菌類などの微生物を培養する際の二酸化炭素濃度を調整する調整剤として用いるようにしてもよい。
【0043】
また、上記実施の形態等では、容器本体10の内部に水13aを入れたカプセル用皿13を設置しておき、培養開始の際に、このカプセル用皿13に雰囲気調整カプセル14を落として浸す場合を例に挙げて説明したが、このような場合に限定されず、容器本体10の外部において、水13aを入れたカプセル用皿13に雰囲気調整カプセル14を浸したのち、これを容器本体10内に設置して、容器内部を密閉するようにしてもよい。このようにした場合であっても、雰囲気調整カプセル14の包装体14aが溶けて剤14bの化学反応が生じるまでに一定の時間を要するため、炭酸ガスが発生する前に十分に雰囲気調整カプセル14を容器内に設置することが可能である。
【0044】
また、上記実施の形態等では、細胞培養キット1内に、培地用皿12およびカプセル用皿13がそれぞれ一つずつ設けられた構成を例に挙げて説明したが、これに限定されず、培地用皿12およびカプセル用皿13は、容器内に複数個設けるようにしてもよい。また、上記実施の形態等では、一度に1〜3つの雰囲気調整カプセル14を用いる場合について説明したが、これに限定されず、一度に4つ以上用いるようにしてもよい。
【0045】
また、容器本体10、密封用蓋11、培地用皿12、カプセル用皿13などの形状、材質、寸法などは、上記実施の形態で説明したものに限定される訳ではない。例えば、容器本体10や密封用蓋11として角型、培地用皿12やカプセル用皿13として丸型のものを例に挙げて説明したが、これに限定されず、容器本体10や密封用蓋11として丸型、培地用皿12やカプセル用皿13として角型のものを用いてもよい。また、培地用皿12やカプセル用皿13は、シャーレなどの平皿に限らず、試験管などの他の容器であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施の形態に係る細胞培養キットの概略構成を表す斜視図である。
【図2】雰囲気調整カプセルの概略構成を表す図である。
【図3】実施例1の測定開始から24時間後までの二酸化炭素濃度を示す図である。
【図4】実施例1の測定開始から15分後までの二酸化炭素濃度を示す図である。
【図5】実施例2および比較例の培養細胞数の計測結果を示す図である。
【図6】実施例2および比較例の培養細胞形態を示す写真である。
【符号の説明】
【0047】
1…細胞培養キット、10…容器本体、11…密封用蓋、12…培地用皿、13…カプセル用皿、14…雰囲気調整カプセル、14a…包装体、14b…剤、11a…留め具、12a…培地、13a…水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養用培地が密封される気密性容器内の雰囲気を調整する雰囲気調整剤であって、
炭酸塩および酸類を内包すると共に、水溶性を有する包装体とを備えた
ことを特徴とする雰囲気調整剤。
【請求項2】
前記包装体は、水溶性ポリマーにより構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の雰囲気調整剤。
【請求項3】
前記包装体は、植物由来の材料により構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の雰囲気調整剤。
【請求項4】
炭酸塩および酸類を水溶性の包装体に内包した雰囲気調整剤を水に浸し、
前記水に浸した雰囲気調整剤と、細胞を培養するための培地とを気密性容器内に密閉した状態で細胞を培養する
ことを特徴とする細胞培養方法。
【請求項5】
炭酸塩および酸類を水溶性の包装体に内包した雰囲気調整剤と、
前記雰囲気調整剤と細胞培養用の培地とを密閉することが可能な気密性容器とを備えた
ことを特徴とする細胞培養キット。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−95315(P2009−95315A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272159(P2007−272159)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(505248657)コアフロント株式会社 (1)
【Fターム(参考)】