説明

電位降下法による塗膜抵抗の測定方法

【課題】 迷走電流の影響を排除して正確に塗膜抵抗を判定できる方法を提供する。
【解決手段】 上記課題は、被覆材に被覆された塗膜抵抗を電位降下法で測定する方法において、通電ケーブルにM系列符号パターンによりオン/オフするインタラプタを設置し、得られた電位差を相互相関処理することを特徴とする塗膜抵抗の測定方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電位降下法による塗膜抵抗の測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗膜抵抗は、塗膜劣化度の評価に用いられており、電位降下法、接地抵抗計による方法などで測定されている(非特許文献1)。
【0003】
電位降下法は、測定対象内の流電陽極等の電気防食措置を外し、仮通電を行い管対地電位の変化量により測定するものである。仮通電は、測定対象区間の中間位置における流電陽極のオン/オフを一定間隔で繰り返し行う方法であり、流電陽極の電圧では管対地電位の変化量が測定できない場合は、電池などを用いて、電位変化を与えて行う。図6に示したように、管対地電位の測定は、仮通電位置及び測定対象区間の両端のターミナルで測定し、3点の電位変化量の平均値を用いて、塗膜抵抗値を次式(1)により求めることができる。
【0004】
【数1】

R・・・・・・塗膜抵抗(Ω・m
ΔP/S・・・管対地電位の変化量の平均値(V)
I・・・・・・流電陽極発生電流又は通電電流(A)
L・・・・・・測定対象管延長(m)
D・・・・・・管の実外径(m)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】社団法人日本ガス協会、「高圧導管指針」JGA指−204−06、P256
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の電位降下法による塗膜抵抗の測定において、迷走電流が多い埋設環境下では管対地電位の変化量が計測し難く、正確な塗膜抵抗の測定が困難であった。
本発明の目的は、迷走電流の影響を排除して、正確に塗膜抵抗を測定できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討の結果、計測に擬似ランダム信号を用い、検出信号を相互相関処理することによってS/N比を改善し、これによって目的を達成することができた。
【0008】
すなわち、本発明は、被覆材に被覆された塗膜抵抗を電位降下法で測定する方法において、通電ケーブルにM系列符号パターンによりオン/オフするインタラプタを設置し、得られた電位差を相互相関処理することを特徴とする塗膜抵抗の測定方法に関するものである。
【0009】
印加電圧の波形と検出信号の波形の相互相関処理を行った場合、その相互相関処理の演算中、例えば検出信号をシフトして掛算を行う過程において、印加電圧とシフトされた検出信号が同じパターンとなって同期のとれた位置に相互相関のピークが出現する。印加電圧とパターンの異なるノイズは、相互相関処理を行うことによって相殺されるため、ピーク値にほとんど影響を与えない。印加電圧に擬似ランダム信号を用いた場合、印加電圧に因らないノイズが印加電圧のパターンと同じパターンにはならないため、印加電圧に起因する検出信号のみが電位差の代表値として検出されることになり、S/N比が大きく改善される。この代表値を用いて電位分布を求め、その電位分布の変化量から前述の従来法と同様の方法により塗膜抵抗値を高精度で得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、迷走電流の影響を排し、塗膜抵抗を正確に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例である塗膜抵抗測定方法を説明する図である。
【図2】M系列信号発生用シフトレジスタの例を示す図である。
【図3】M系列信号波形とその自己相関信号波形の例を示す図である。
【図4】本発明により得られた管対地電位及び通電電流の時系列チャート及びM系列相関関数を示す図である。
【図5】従来法における管対地電位及び通電電流の時系列チャートを示す図である。
【図6】従来の電位降下法による塗膜抵抗測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の方法で測定される被覆材は、金属をプラスチックなどで被覆したものである。金属は、鉄、炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼などの鋼、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等、金属であれば特に制限されない。形状も用途に応じた如何なる形状でもよいが、典型的な形状は管と板である。塗膜は、抵抗を測定できるものであれば、特に制限されないが、典型的なものは、ポリエチレン、ポリウレタン等である。
【0013】
被覆材は、土壌中に埋設されているものの外、淡水や海水など水中に設置されているものも含まれる。
【0014】
測定にあたっては、まず、被覆材の測定対象区間の両端とその中間で電位計の陽極をターミナルに接続し、陰極には飽和硫酸銅基準電極を接続する。この時、被覆材の測定対象区間の両端を左側からそれぞれ地点1及び地点3とし、中間を地点2とする。そして、図1に示すように、中間に接続されている電位計の陽極に流電陽極を接続するが、その際、本発明では、その間にM系列インタラプタを設置してM系列符号パターンにより通電をオン/オフし、得られた電位差を相関演算器により相互相関処理を行うのである。
【0015】
M系列符号パターンとは、高感度な信号検出が可能なM系列信号によって発生する特有のパターンと周期を有する擬似ランダム信号による符号パターンである。擬似ランダム信号とは、長期間においては繰り返し周期がありランダム性は失われているが、周期内においてはランダム性が保たれているような信号をいう。
【0016】
M系列信号は、図2に示すようなフィードバック回路を有するシフトレジスタによって容易に発生させることができる。図2に示す6段のシフトレジスタによって得られる符号長は、2−1=63である。
【0017】
図3に、M系列信号の信号波形(a)とその自己相関信号波形(b)の例を示す。図3において、横軸は時間、縦軸は信号の大きさ、τaはM系列信号を生成するシフトレジスタに与えられるクロックの周期である。
【0018】
M系列信号は、周期性のある擬似ランダム信号であり、シフトレジスタのビット数に対応する周期(ここでは符号長63の周期性)を持つことから、自己相関をとると、図3(b)に示すようなピーク値を周期的に持つ。このことから、他の信号との相互相関処理を行った場合、M系列信号とパターンの一致する信号のみが高いピーク値を有する相互相関値を持つことがわかる。この性質を利用すれば、ノイズ信号の低減を図ることが可能となる。
【0019】
印加電圧の波形と検出信号の波形との相互相関処理を行った場合、その相互相関処理の演算中、例えば検出信号をシフトして掛算を行う過程において、印加電圧とシフトされた検出信号が同じパターンとなって同期のとれた位置に相互相関のピークが出現する。印加電圧とパターンの異なるノイズは、相互相関処理を行うことによって打ち消されてしまい、ピーク値にほとんど影響を与えない。印加電圧にM系列信号を用いた場合、印加電圧に基づかないノイズが印加電圧のパターンと同じパターンになることはない。したがって、印加電圧に起因する検出信号のみが電位差の代表値として検出されることになり、この代表値を用いて電位分布を求め、その電位分布の変化量(ΔP/S)を求める。さらに、通電電流(I)、測定対象管延長(L)及び管の実外径(D)は既知であるから、前述の式(1)を用いれば塗膜抵抗値(R)を求めることができる。
【0020】
本発明では、擬似ランダム信号を用いているため、複数地点での計測や通電地点より離れた地点での計測も容易である。塗膜抵抗の測定は、通常、埋設施工時に実施されることが多く、抵抗値が低ければ塗覆装の施工状態が不良と判断し、塗覆装欠陥が存在する恐れがある。
【実施例1】
【0021】
図1に示した配置により管対地電位及び通電電流を測定した。図4(a)〜(d)に、M系列符号パターンにより通電オン/オフした場合に得られた時系列チャートを示す。地点2における通電電流チャートを図4(a)に、各地点における管対地電位チャートを図4(b)〜(d)に示す。図4(a)〜(d)の測定値を相互相関処理すると、図4(e)〜(h)となった。地点2における通電電流のM系列相関関数を図4(e)に、各地点における管対地電位のM系列相関関数を図4(f)〜(h)に示す。
【0022】
図4(e)〜(h)における各ピーク値は、図4(a)〜(d)より読み取ることのできる変化量と同一値であった。
一方、図5(a)〜(d)に、従来の通電オン/オフを一定間隔で繰り返し行った場合に得られた時系列チャートを示す。なお、通電オン時間は7秒、通電オフ時間は3秒とした。地点2における通電電流チャートを。図5(a)に、各地点における管対地電位チャートを図5(b)〜(d)に示す。図5(a)〜(d)の測定チャートでは通電地点から遠く離れた地点1(図5(b))および地点3(図5(d))における管対地電位の変化量を読み取ることは困難である。
【0023】
このようにM系列符号パターンで信号変化を与え、相互相関処理を行うことにより、ノイズ信号の成分を除去してS/N比を改善することができ、その結果、通電電流及び管対地電位の変化量、すなわち塗膜抵抗値を高精度で測定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明により、土中の防食被覆鋼管等の塗膜の劣化度を正確に診断することができ、それにより補修等の対策を講じることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆材に被覆された塗膜抵抗を電位降下法で測定する方法において、通電ケーブルにM系列符号パターンによりオン/オフするインタラプタを設置し、得られた電位差を相互相関処理することを特徴とする塗膜抵抗の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−271200(P2010−271200A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123650(P2009−123650)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】