説明

電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法及び分析のためのコンピュータプログラム

【課題】電力取引市場における約定価格を決定する要因を解明し、入札情報、電圧制約等電力系統の要因の定量的評価を可能にする。
【解決手段】電力系統1における潮流方程式及び需給バランス関係式を含んで構成された等式制約条件と、有効・無効電力上下限、電圧上下限及び潮流上下限を含んで構成された不等式制約条件とを満たした上で、全ての電力供給者(12と14)と需要者(13と15)の社会余剰を示す目標関数の値を最大化するシングルプライスオークションの最適解及びその双対解を求め、最適解及び入札関数に基づいて、約定価格決定母線を検索し、等式制約条件及び不等式制約条件を有価制約条件と無価制約条件とに分け、約定価格決定母線における電圧感度を計算することにより、約定価格を消費コスト、発電コスト、入札関数、有価制約条件の等価価値及び入札量の上下限制約のそれぞれに関する項から構成される線形多項式に分解して計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力系統における電力取引市場の分析に関し、より詳細には、電力系統の電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法及び約定価格の決定要因を分析するためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、欧米を中心とする世界各国において、電力市場の自由化が進められており、その一環として、電力取引市場が創設されている。代表的な例として、北欧のノールド・プール(Nord Pool)、米国のPJMISOやNYISOのエネルギー市場、ドイツのEEXといった電力取引市場が挙げられる。日本では、電力取引制度の導入に備え、2005年4月に卸電力取引所が開設される予定となっている。これらの電力取引市場における取引方法(約定方法)として、基本的にシングルプライスオークション方式(single price auction)が採用されている。
【0003】
図1は、電力取引制度が導入された場合の電力系統の構成を示す模式図である。図1に示したように、電力系統1は、電力取引市場に参加する者の発電機SG12(SGは発電機SG1、SG2、…、SGNGの集合を意味する)と負荷SD13(SDは負荷SD1、SD2、…、SDNDの集合を意味する)、及び電力取引市場に参加しない者の発電機G14(Gは発電機G1、G2、…、GNgの集合を意味する)と負荷D15(Dは負荷D1、D2、…、DNdの集合を意味する)から構成される。電力取引市場に参加しない者の発電機G14は固定価格で電力系統1へ電力を提供し、電力取引市場に参加しない者の負荷D15は固定価格で電力系統1から電力を消費する。一方、電力取引市場に参加する者(発電機SG12、負荷SD13)は、電力取引所を介して入札により電力の売買価格を決定する。但し、取引が成立しなかった者の負荷(SD13中の負荷)は、発電機G14から電力を買うこともできる。
【0004】
一般的に、電力取引市場をスポット市場、電力を市場へ販売する参加者(例えば、発電機SG12)を売り手(スポット供給者)、市場から電力を購入する参加者(例えば、負荷SD13)を買い手(スポット需要者)、スポット市場で決定した取引量を約定量、スポット市場で決済された価格(MCP)を約定価格と称する。また、電力取引市場に参加しない電力供給者(G14)を非スポット供給者、電力需要者(D15)を非スポット需要者と称する。
【0005】
シングルプライスオークション方式で取引を行う場合、まず、各売り手(SG12)と買い手(SD13)は各自の入札データ(即ち、入札価格と入札量)を電力取引所へ提出する。すべての入札データが積み上げられ、図2aに示した市場供給曲線と図2bに示した市場需要曲線が作成される。前記市場供給曲線と前記市場需要曲線との交点での価格(約定価格)と量(約定量)(図2c)がオークションの取引結果となる。即ち、シングルプライスオークションは、価格優先の原則に従い、入札価格の低い売り手と入札価格の高い買い手から先に約定を決定し、需給が均衡する一点の入札価格を市場全体の約定価格として決済する。その結果、電力需要家余剰と電力供給家余剰の合計である社会余剰が最大化される効率的な資源配分を実現させることができる。
【0006】
しかしながら、電力系統におけるエリア間の流通電力の量が連系設備(エリア間の送電線)による託送可能量を超過する場合では、託送可能量を制約条件(エリア間の流通電力の量が託送可能量と等しくなる)としてエリアごとに再度約定処理を行い、電力系統を複数に区分してオークションを行う市場分断方式を採用するしかない。市場分断方式採用の結果として、混雑連系線の送り側エリアの約定価格が安くなり、混雑連系線の受け側エリアの約定価格が高くなる。その他に、実際の電力系統では、送電能力による混雑の他、電圧と無効電力等の制約による混雑も起こり得る。そのため、前記約定価格と約定量で決められた売り手の発電機と買い手の負荷を含んだ電力系統の構成が、電力系統運用の安定性と信頼性等の制約条件を満たしていない場合、入札者が新たな条件を追加した上再度オークションを実施し、全ての制約条件を満たすまでこのような調整過程が繰り返し行われることになる。
【0007】
これに対して、上記したシングルプライスオークション方式が採用される場合、電力系統の運用に関する主な要因(有効電力と無効電力のバランス、電圧制限、送電能力)を制約条件とし、電力需要者余剰と電力供給者余剰の合計である社会余剰が最大化となるように、約定価格と約定量を計算する方法が提案されている。次に、該計算方法について説明する。
【0008】
まず、シングルプライスオークションのシミュレーションモデルを説明する。
【数5】

【0009】
式(1)中F(X)は電力需要者余剰と全ての電力供給者余剰を含む社会余剰を示す目標関数であり、式(2)中G’(X)は電力系統における等式制約条件(即ち、潮流方程式)であり、式(3)中H(X)は電力系統における不等式制約条件(即ち、有効・無効電力上下限、電圧上下限、潮流上下限等)であり、式(4)中K(X)はスポット市場バランス(送電損失を含む自由化発電と需要の需給バランス)等式制約条件であり、Xは母線電圧を示す独立変数であり、全てのPgi、PGi、PDiはXの関数となる。
【0010】
式(1)〜(4)は、等式制約条件G’(X)とK(X)、不等式制約条件H(X)を満たした上で、目標関数F(X)を最大化する最適解Xを解く問題(一般的に、シングルプライスオークション問題と称する)を表している。
【0011】
式(1)において、非スポット市場の負荷の消費電力の量とその電気料金は事前に与えられるため、πdiとPdiは定数となり、最適解Xに影響を与えない。ωi(Pgi)が発電機の増分燃料費関数であり、Pgiの1次関数で表すことができる。φi(PGi)とθi(PDi)はそれぞれ図3aと図3bに示した線形関数または区分線形関数とする。図3aに示した入札関数(供給曲線)は、売り手iがφi(PGi)以上の価格で最大PGiまでの電力を売ることを示し、図3bに示した入札関数(需要曲線)は、買い手iがθi(PDi)以下の価格で最大PDiまでの電力を買うことを示す。なお、約定時(最適解となる時)の電力量における入札価格を限界入札価格と呼ぶ。
【0012】
式(1)を解いて、最適解Xを求めることにより(即ち、SPAモデルによるシングルプライスオークションにより)、各売り手、各買い手の約定量PGi(X)、 PDi(X)と非スポットの発電機出力Pgi(X)が得られる。さらに、各売り手、各買い手の約定量PGi(X)、 PDi(X)をそれぞれ入札関数φi(PGi)、θi(PDi)に代入すれば、各売り手の限界入札価格(πGi)と各買い手の限界入札価格(πDi)が計算される(φi(PGi)、θi(PDi)は与えられたものであるため)。
【0013】
図3cに示したように供給曲線(図3a)と需要曲線(図3b)が交差すれば、約定価格π は各売り手の限界入札価格(πGi)中一番高い限界入札価格(πGmax)又は各買い手の限界入札価格(πDi)中一番安い限界入札価格(πDmin)により決定される(即ち、π =πGmax=πDmin)ため、約定価格はシングルプライス(一価格)となる。
【0014】
しかしながら、供給曲線(図3a)と需要曲線(図3b)の交点が複数存在する場合(即ち、πGmax ≠πDmin)、約定価格πを下記の式(9)〜(11)により計算する必要がある。
【0015】
【数6】

但し、c(0≦c≦1)は約定価格決定係数であり、最も安価な点を約定する場合、cを1とする。
【0016】
また、市場を複数に分離させる場合(市場分断の場合)では、分離された市場k毎に、売り最高約定価格πGmax,k(πGmax,k=max{πGi,k i(PGi,k): i,k= 1,…, NG,k, PG,k≠0})と買い最低約定価格πDmin,k(πDmin,k= min{πDi,k i(PDi,k): i,k= 1,…, ND,k, PDi,k≠0 })を決定し、それぞれの約定価格(πk)を上記したように決定する。
【0017】
従って、上記したシングルプライスオークションのシミュレーションモデルを用いて、電力系統の運用に関する主な要因を制約条件とし、社会余剰が最大となる約定価格と約定量を計算することができるが、計算された約定価格(π又はπk)の値はどの要素から構成されているか、また、各売り手・買い手の入札データおよび各電力系統の制約が該約定価格の値にどの程度の影響を与えているかについて評価できない。
【0018】
しかしながら、電力系統の連系線運用および混雑管理を効率化するため、又は、スポット市場における入札データを評価可能にするため、約定価格に関する詳細な情報の解明が求められている。
【0019】
これまで、電力系統における電気料金の導出と評価に関して、数多くの解析方法が提案されてきた。これらの方法は、基本的にラグランジュ乗数をシャドウプライス(shadow price)として各種費用と制約条件の等価価値を評価する方法と、母線におけるノーダルプライス(Nodal Price)の分解方法に分類できる。ラグランジュ乗数をシャドウプライスとして各種費用と制約条件の等価価値を評価する場合、直接約定価格を評価できないといった課題があった。
【0020】
一方、ノーダルプライスの分解方法において、各電源及び制約条件がノーダルプライスに与える影響を定量的に評価することを実現させたノーダルプライスの分解方法は下記の特許文献1に開示されている。該分解方法は、電力系統の各要因をノーダルプライスに直接関連付け、各ノーダルプライスを詳細構成要素に分解する。分解されたノーダルプライスの各項は、ヒューリスティックなものではなく、母線のノーダルプライスにおけるそれぞれの要因による影響の度合いであるため、分解によって得られたノーダルプライスにおける詳細情報が電源と送電線網運用、混雑管理の効率化、及び発送電設備の投資評価に利用される。
【0021】
しかしながら、特許文献1に開示されているノーダルプライスの分解方法には、電力取引制度が導入された場合の電力系統の構成が考慮されていないため、電力取引が行われた場合、入札情報を含んだ電力系統の各要因による判定価格への影響を直接評価することができないといった課題があった。
【特許文献1】特開2001−268790号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段及びその効果】
【0022】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、電力取引市場における約定価格を決定する要因を解明し、約定価格の詳細構成要素を導出することにより、入札情報、電圧制約等を含んだ電力系統の様々な要因の約定価格への影響を定量的に評価することを可能にすることを目的としている。
【0023】
上記目的を達成するために本発明に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法(1)は、電力取引市場で入札により決済された約定価格で電力を販売する売り手の発電機と、前記約定価格で電力を購入する買い手の負荷と、固定電気料金で電力を提供する非スポット市場の発電機と、前記固定電気料金で電力を消費する非スポット市場の負荷とを含んで構成される電力系統の電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法において、前記電力系統における潮流方程式及び送電損失を含む自由化発電と需要の需給バランス関係式を含んで構成された等式制約条件と、有効・無効電力上下限、電圧上下限及び潮流上下限を含んで構成された不等式制約条件とを満たした上で、全ての電力需要者余剰と全ての電力供給者余剰とを含む社会余剰を示す目標関数の値を最大化するシングルプライスオークションの最適解及びその双対解を求め、前記最適解及び前記売り手と前記買い手のそれぞれの入札関数に基づいて、約定価格決定母線を検索し、前記等式制約条件及び前記不等式制約条件を、前記約定価格にその価値が陽に評価される有価制約条件と、前記約定価格にその価値が陽に評価されない無価制約条件とに分け、前記有価制約条件、前記無価制約条件、前記最適解及び前記双対解に基づいて、前記約定価格決定母線における電圧感度を計算することにより、前記約定価格を、前記非スポット市場の負荷の消費コストに関する項と、前記非スポット市場の発電機の発電コストに関する項と、前記買い手の入札関数に関する項と、前記売り手の入札関数に関する項と、前記有価制約条件の等価価値に関する項と、入札量の上限制約に関する項と、入札量の下限制約に関する項とから構成される線形多項式に分解して、前記各項の値を計算することを特徴としている。
【0024】
上記電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法(1)によれば、電力取引市場で入札により決済された約定価格で電力を販売する売り手の発電機と、前記約定価格で電力を購入する買い手の負荷と、固定電気料金で電力を提供する非スポット市場の発電機と、前記固定電気料金で電力を消費する非スポット市場の負荷とを含んで構成される電力系統の電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法において、前記電力系統における潮流方程式及び送電損失を含む自由化発電と需要の需給バランス関係式を含んで構成された等式制約条件と、有効・無効電力上下限、電圧上下限及び潮流上下限を含んで構成された不等式制約条件とを満たした上で、全ての電力需要者余剰と全ての電力供給者余剰とを含む社会余剰を示す目標関数の値を最大化するシングルプライスオークションの最適解及びその双対解を求め、前記最適解及び前記売り手と前記買い手のそれぞれの入札関数に基づいて、約定価格決定母線を検索し、前記等式制約条件及び前記不等式制約条件を、前記約定価格にその価値が陽に評価される有価制約条件と、前記約定価格にその価値が陽に評価されない無価制約条件とに分け、前記有価制約条件、前記無価制約条件、前記最適解及び前記双対解に基づいて、前記約定価格決定母線における電圧感度を計算することにより、前記約定価格を、前記非スポット市場の負荷の消費コストに関する項と、前記非スポット市場の発電機の発電コストに関する項と、前記買い手の入札関数に関する項と、前記売り手の入札関数に関する項と、前記有価制約条件の等価価値に関する項と、入札量の上限制約に関する項と、入札量の下限制約に関する項とから構成される線形多項式に分解して、前記各項の値を計算するため、分解された前記多項式から前記約定価格を決める要因(詳細情報)が解明され、入札情報、非スポット市場の発電機及び負荷の運用情報、電圧及び電力などの制約条件等を含む要因による前記約定価格への影響を定量的に評価することを実現させることができる。
【0025】
また、本発明に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法(2)は、上記電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法(1)において、前記目標関数を下記の式(1)で表し、前記等式制約条件を下記の式(2)と(4)で表し、前記不等式制約条件を下記の式(3)で表すことを特徴としている。
【0026】
上記電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法(2)によれば、前記目標関数を下記の式(1)で表し、前記等式制約条件を下記の式(2)と(4)で表し、前記不等式制約条件を下記の式(3)で表すため、前記シングルプライスオークションのシミュレーションモデルが数式で定式化され、前記シングルプライスオークションの最適解を求めることができる。
【0027】
【数7】

また、本発明に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法(3)は、上記電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法(1)又は(2)において、前記最適解での入札価格が一番高い売り手の発電機に接続されている母線と、前記最適解での入札価格が一番安い買い手の負荷に接続されている母線をそれぞれ前記約定価格決定母線とすることを特徴としている。
【0028】
一般的に、シングルプライスオークションでは、約定価格が各売り手の限界入札価格中一番高い限界入札価格又は各買い手の限界入札価格中一番安い限界入札価格により決定される。
【0029】
上記電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法(3)によれば、前記最適解での入札価格が一番高い売り手の発電機に接続されている母線と、前記最適解での入札価格が一番安い買い手の負荷に接続されている母線をそれぞれ前記約定価格決定母線とするため、前記約定価格決定母線が前記約定価格を決定する母線となる。
【0030】
また、本発明に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法(4)は、上記電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法(2)又は(3)において、前記売り手の発電機に接続されている約定価格決定母線における電圧感度を下記の式(5)と(7)により計算し、前記買い手の発電機に接続されている約定価格決定母線における電圧感度を下記の式(6)と(7)により計算することを特徴としている。
【0031】
上記電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法(4)によれば、前記売り手の発電機に接続されている約定価格決定母線における電圧感度を下記の式(5)と(7)により計算し、前記買い手の発電機に接続されている約定価格決定母線における電圧感度を下記の式(6)と(7)により計算するため、前記電圧感度の値をそれぞれ計算することができる。
【0032】
【数8】

【0033】
また、本発明に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法(5)は、上記電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法(4)において、前記約定価格を、前記最適解での各売り手の入札価格中一番高い入札価格と、前記最適解での各買い手の入札価格中一番安い入札価格との線形結合とし、下記の式(8)に示すように分解し、計算することを特徴としている。
【0034】
上記電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法(5)によれば、前記約定価格を、前記最適解での各売り手の入札価格中一番高い入札価格と、前記最適解での各買い手の入札価格中一番安い入札価格との線形結合とし、下記の式(8)に示すように分解し計算するため、前記約定価格を前記非スポット市場の負荷の消費コストに関する項と、前記非スポット市場の発電機の発電コストに関する項と、前記買い手の入札関数に関する項と、前記売り手の入札関数に関する項と、前記有価制約条件の等価価値に関する項と、入札量の上限制約に関する項と、入札量の下限制約に関する項とから構成される線形多項式に分解し、さらに各項の値を計算することができる。
【0035】
【数9】

【0036】
また、本発明に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析のためのコンピュータプログラム(1)は、電力取引市場で入札により約定された約定価格で電力を販売する売り手の発電機と、前記約定価格で電力を購入する買い手の負荷と、固定電気料金で電力を提供する非スポット市場の発電機と、固定電気料金で電力を消費する非スポット市場の負荷とを含んで構成される電力系統において、下記の式(2)で表す潮流方程式及び下記の式(4)で表す送電損失を含む自由化発電と需要の需給バランス関係式を含んで構成された等式制約条件と、下記の式(3)で表す有効・無効電力上下限、電圧上下限及び潮流上下限を含んで構成された不等式制約条件とを満たした上で、下記の式(1)で表す全ての電力需要者余剰と全ての電力供給者余剰とを含む社会余剰を示す目標関数の値を最大化するシングルプライスオークションの最適解及びその双対解を求めるステップと、約定価格決定母線となる前記最適解での入札価格が一番高い売り手の発電機に接続されている母線と、前記最適解での入札価格が一番安い買い手の負荷に接続されている母線とをそれぞれ検索するステップと、前記等式制約条件及び前記不等式制約条件から分けられた前記約定価格にその価値が陽に評価される有価制約条件、前記約定価格にその価値が陽に評価されない無価制約条件、前記最適解及び前記双対解に基づいて、前記売り手の発電機に接続されている約定価格決定母線における電圧感度を下記の式(5)と(7)とにより計算し、前記買い手の発電機に接続されている約定価格決定母線における電圧感度を下記の式(6)と(7)とにより計算するステップと、下記の式(8)により、前記約定価格を前記非スポット市場の負荷の消費コストに関する項と、前記非スポット市場の発電機の発電コストに関する項と、前記買い手の入札関数に関する項と、前記売り手の入札関数に関する項と、前記有価制約条件の等価価値に関する項と、入札量の上限制約に関する項と、入札量の下限制約に関する項とに分解して計算するステップとをコンピュータに実行させることを特徴としている。
【0037】
上記電力取引市場における約定価格の決定要因分析プログラム(1)によれば、下記の式(2)で表す潮流方程式及び下記の式(4)で表す送電損失を含む自由化発電と需要の需給バランス関係式を含んで構成された等式制約条件と、下記の式(3)で表す有効・無効電力上下限、電圧上下限及び潮流上下限を含んで構成された不等式制約条件とを満たした上で、下記の式(1)で表す全ての電力需要者余剰と全ての電力供給者余剰とを含む社会余剰を示す目標関数の値を最大化するシングルプライスオークションの最適解及びその双対解を求めるステップと、約定価格決定母線となる前記最適解での入札価格が一番高い売り手の発電機に接続されている母線と、前記最適解での入札価格が一番安い買い手の負荷に接続されている母線とをそれぞれ検索するステップ、前記等式制約条件及び前記不等式制約条件から分けられた前記約定価格にその価値が陽に評価される有価制約条件、前記約定価格にその価値が陽に評価されない無価制約条件、前記最適解及び前記双対解に基づいて、前記売り手の発電機に接続されている約定価格決定母線における電圧感度を下記の式(5)と(7)とにより計算し、前記買い手の発電機に接続されている約定価格決定母線における電圧感度を下記の式(6)と(7)とにより計算するステップと、下記の式(8)により、前記約定価格を前記非スポット市場の負荷の消費コストに関する項と、前記非スポット市場の発電機の発電コストに関する項と、前記買い手の入札関数に関する項と、前記売り手の入札関数に関する項と、前記有価制約条件の等価価値に関する項と、入札量の上限制約に関する項と、入札量の下限制約に関する項とに分解して計算するステップとをコンピュータに実行させるため、前記約定価格における前記各項を占める割合、前記各項の影響度合いから、入札情報を含む電力系統における様々な要因が前記約定価格へ与える影響を定量的に分析、評価することができる。
【0038】
【数10】

【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
図1は、本発明の実施の形態に係る電力市場における約定価格の決定要因分析方法が適用された電力系統の要部を概略的に示した構成図である。図中1は電力取引制度を導入した場合の電力系統を示しており、電力系統1は、電力取引市場に参加するスポット市場の発電機SG12(SGは発電機SG1、SG2、…、SGNGの集合を意味する)とスポット市場の負荷SD13(SDは負荷SD1、SD2、…、SDNDの集合を意味する)、及び電力取引市場に参加しない非スポット市場の発電機G14(Gは発電機G1、G2、…、GNgの集合を意味する)と非スポット市場の負荷D15(Dは負荷D1、D2、…、DNdの集合を意味する)を含んで構成されている。非スポット市場の発電機G14は固定価格で電力系統1へ電力を提供し、非スポット市場の負荷D15は固定価格で電力系統1から電力を消費する。一方、電力取引市場に参加する者(発電機SG12、負荷SD13)は、電力取引所を介して入札により電力の売買価格を決定する。但し、取引が成立しなかった者の負荷(SD13中の負荷)は、発電機G14から電力を買うことも可能である。
【0040】
図1に示した電力系統1において、シングルプライスオークションが行われた場合、シングルプライスオークションのシミュレーションモデルを式(1)〜(4)により表す。
式(1)中、F(X)は電力供給者余剰と電力需要者余剰の合計である社会余剰を示す目標関数であり、その第1項は非スポット市場の負荷D15の消費コスト(既知量)を示しており、その第2項は非スポット市場の発電機G14の発電コストを示しており、その第3項はスポット市場の買い手(負荷SD13)の購入コストを示しており、その第4項はスポット市場の売り手(発電機SG12)の販売コストを示している。非スポット市場の負荷の消費量とその料金は事前に与えられるため、第1項は既知量となり、目標関数の最適解に影響しない。ωi(Pgi)は発電機の増分燃料費関数のため、通常Pgiの1次関数で表される。また、買い手の入札関数θi(PDi)と売り手の入札関数φi(PGi)は一般的に線形関数または区分線形関数で表現できる。
【0041】
G’(X)は電力系統における等式制約条件、即ち、潮流方程式であり、H(X)は電力系統における不等式制約条件、即ち、有効・無効発電電力上下限、電圧上下限及び潮流上下限等の制限であり、K(X)はスポット市場バランス等式制約条件、即ち、送電損失を含む自由化発電と需要の需給バランス等式である。
【0042】
Xは、上記した目標関数F(X)、等式制約条件G’(X)、不等式制約条件H(X)及び等式制約条件K(X)の独立変数であり、図1に示した電力系統1における母線電圧の実部と虚部からなるベクトルである。また、電力の量Pgi、PGi、PDiもXの関数である。
【0043】
また、式(1)において、非スポット市場の負荷(D15)の消費電力の量とその電気料金は事前に与えられるため、πdiとPdiは定数となり、最適解Xに影響を与えない。ωi(Pgi)が発電機(G14)の増分燃料費関数であり、Pgiの1次関数で表すことができる。買い手(SD13)の入札関数θi(PDi)と売り手(SG12)の入札関数φi(PGi)はそれぞれ図3bと図3aに示した線形関数または区分線形関数とする。図3aに示した入札関数(供給曲線)は、売り手i(SG12中のSGi)がφi(PGi)以上の価格で最大PGiまでの電力を売ることを示し、図3bに示した入札関数(需要曲線)は、買い手i(SD13中のSDi)がθi(PDi)以下の価格で最大PDiまでの電力を買うことを示す。
【0044】
式(1)を解くことにより、電力供給者(SG12とG14)余剰と電力需要者(SD13とD15)余剰の合計である社会余剰を最大化する最適解Xを求めることができる。さらに、最適解Xにより、各売り手(SG12)、各買い手(SD13)の約定量PGi(X)、 PDi(X)と非スポットの発電機(G14)の出力Pgi(X)が得られる。さらに、約定量PGi(X)、 PDi(X)をそれぞれ入札関数φi(PGi)、θi(PDi)に代入すれば、各売り手(SG12)の限界入札価格(πGi)と各買い手(SD13)の限界入札価格(πDi)がそれぞれの入札関数φi(PGi)、θi(PDi)により計算される。
【0045】
図3cに示したように供給曲線(図3a)と需要曲線(図3b)が交差すれば、約定価格(MCP)π は各売り手(SG12)の限界入札価格(πGi)中一番高い限界入札価格(πGmax)又は各買い手(SD13)の限界入札価格(πDi)中一番安い限界入札価格(πDmin)により決定され、即ち、π=πGmax=πDminとなる。
【0046】
供給曲線(図3a)と需要曲線(図3b)の交点が複数存在する場合(即ち、πGmax≠πDmin)では、約定価格πを式(9)〜(11)により計算することができる。
【0047】
ここで、上記したシングルモデルプライスオークションのシミュレーションモデルを用いて、約定価格πを計算することができたが、計算結果は約定価格πの値のみであり、入札情報および各電力系統の要因が該約定価格の値にどの程度の影響を与えているかはまだ不明である。
【0048】
次に、約定価格πを分解するために、成行売り入札(即ち、入札価格を任意とする入札)の量を表すパラメータP=(P1, ..., Pn)を導入し、式(1)における目標関数F、制約条件G(制約条件Gは式(2)における制約条件G’と式(4)における制約条件Kとを合わせたものとする)、式(3)におけるHを全てXとPの関数とし、そのラグランジュ関数Lを式(12)で表す。
【数11】

但し、λ、ρは双対解である。
【0049】
式(12)におけるラグランジュ関数LをPの要素であるPGkで偏微分すれば、式(13)が得られる。
【数12】

但し、μPGKはスポット市場母線GKのSPAノーダルプライスとなる。 式(1)〜(4)により、目標関数F、制約条件GとHには、わずかの項のみ特定のスポット市場の母線の成行売り入札量PGKに直接関係しているため、特定の成行売り入札量PGKでLを偏微分した後に、式(13)の項はほとんど消去されて式(14)となる。
【0050】
【数13】

式(13)において、φ (PGK)はスポット市場の母線GKの売り手の入札関数であり、ρGmax、ρGminは売り手の入札量上限制約および下限制約のラグランジュ乗数であり、その限界値に引っかからない場合0となる。
【0051】
式(14)において、PGKを約定価格決定母線GKに接続するスポット市場の発電機(SG12中の1つ)の入札量とすれば、φ (PGK)は売り手の最大限界価格πGmaxとなる。即ち、売り手の最大限界価格πGmaxを式(15)で表すことができる。
【0052】
同じ方法により、PDKを約定価格決定母線DKに接続するスポット市場の負荷(SD13中の1つ)の入札量とすれば、買い手の最小限界価格πDminを導出し、式(16)で表すことができる。さらに、式(9)により、約定価格πを式(18)で表すことができる。
【0053】
【数14】

但し、cは約定価格決定係数であり、ρGmax、ρGminは売り手の入札量上限制約および下限制約のラグランジュ乗数であり、ρDmax、ρDminは買い手の入札量上限制約および下限制約のラグランジュ乗数であり、その限界値に引っかからない場合0となる。
【0054】
したがって、式(18)における母線GKのSPAノーダルプライスμPGKと母線DKのSPAノーダルプライスμPDKとを分解すれば、約定価格πの分解を実現することができる。即ち、約定価格πには約定価格決定母線GKとDKの限界等価社会余剰と入札量上下限制約のラグランジュ乗数が含まれ、母線GKとDKが入札量上下限制約にかかっていない場合(ρGmax、ρGmin、ρDmax、ρDminは0となる)、約定価格πは限界等価社会余剰、すなわち母線GKとDKに成行売り入札を微小量投入した場合の社会余剰の増加分を示していることが分かる。
【0055】
次に、母線GKのSPAノーダルプライスμPGKと母線DKのSPAノーダルプライスμPDKの分解について説明する。
式(1)の最適解Xで、Hを活性化制約とすれば、該最適解は式(19)〜(21)を満たす。
【数15】

【0056】
一方、約定価格をより詳細に分解するために、どの制約要因を特に約定価格に陽に反映するかを決定する必要がある。電力系統運用における各要因あるいは制約を、市場価値があり取引できる要因と、市場価値がなく取引できない要因、又は緩和できる制約と緩和できない制約に分類することができる。例えば、送電線潮流制約と母線電圧制約などは技術革新及び設備投資により緩和できるため、市場のニーズにより取引できる要因に属する。一方、母線注入電力の合計がゼロである電力バランス制約はキルヒホッフの物理法則のため、緩和できない非取引要因に属する。本発明では、制約条件GとHの中で、価格を陽に表現しない制約式(非取引要因)を無価制約条件Mとし、残りの制約式、即ち、料金を陽に表現する制約式(取引できる要因)を有価制約条件Nとする。さらに、αを無価制約条件Mにおけるラグランジュ乗数、βを有価制約条件Nにおけるラグランジュ乗数とすると、式(19)の第2項目と第3項目(λ∂G /∂X+ρ∂H /∂X)をα∂M /∂X+β∂N /∂Xに置き換えることができる。即ち、式(19)を式(22)に書き換えることができる。
【0057】
【数16】

制約条件M、NとUは全て列ベクトルであり、ラグランジュ乗数αとβは行ベクトルである。
また、式(22)〜(24)はラグランジュ関数Lが常に最大値となるための必要条件である。
【0058】
次に、約定価格の構成を分解するために、式(1)の最適解Xにおいて、式(25)が示す条件が成立することを仮定する。
【数17】

【0059】
即ち、式(25)に表す条件が成立すれば、与えられた変数Pの近傍で唯一の関数[X(P), a(P)]が存在する。しがたって、式(22)〜(24)が成立する限り、変数(X, a)はPと独立ではなく、Pの関数となる。X(P)とa(P)を式(22)と(24)に代入することにより、式(26)と(27)が得られる。
【0060】
【数18】

さらに、Pの要素であるPGKで式(26)を偏微分すれば、式(28)が得られる。
【0061】
【数19】

但し、FXX=∂2F(X, P)/∂X2、FXPGK=∂2F(X, P)/∂X∂PGK、Ux=∂U(X, P)/∂X、 Uα=∂U(X, P)/∂α、UPGK=∂U(X, P)/∂PGK、MX=∂M(X, P)/∂X、MPGk=∂M(X, P)/∂PGK、XPGk=∂X/∂PGK、αPGk=∂α/∂PGKとする。
式(25)が成立すれば、式(28)を式(29)に書き換え、約定価格決定母線GKにおける電圧感度XPGkとラグランジュ乗数αPGkを求めることができる。
同じ方法により、約定価格決定母線DKにおける電圧感度XPDkとラグランジュ乗数αPDkを表す式(30)を導出することができる。
【0062】
【数20】

但し、FXX=∂2F(X, P)/∂X2、FXPDK=∂2F(X, P)/∂X∂PDK、UX=∂U(X, P)/∂X、Uα=∂U(X, P)/∂α、UPDK=∂U(X, P)/∂PDK 、MX=∂M(X, P)/∂X、MPDk=∂M(X, P)/∂PGK、XPDk=∂X/∂PDK 、αPDk=∂α/∂PDKとする。
【0063】
一方、変数X、目標関数F、制約条件MとN、ラグランジュ乗数をすべてPの関数で表示すると、ラグランジュ関数Lは式(31)に書き換えられる。
【数21】

【0064】
そこで、成行売り入札量PGK で式(31)のラグランジュ関数L を偏微分すれば、式(32)が得られる。
【数22】

【0065】
最適解Xで、FX=0、M=0、また、MXXPGK+MPGK=0(式(28)より)のため、式(33)が得られる。
同じ方法により、約定価格決定母線DKにおいて、式(34)を導出することができる。
【数23】

【0066】
式(33)と(34)におけるμPGKとμPDKを式(18)に代入すれば、約定価格の分解式は式(35)となる。
【数24】

式(35)において、電圧感度XPGKとXPDKはそれぞれ式(29)と式(30)により求められる。
【0067】
したがって、分解された約定価格πの展開式(式(35))は、非スポット市場の負荷(D15)の消費コストに関する項、非スポット市場の発電機(G14)の発電コストに関する項、買い手(SD13)の入札関数θiに関する項、売り手(SG12)の入札関数φiに関する項、制約条件Nの等価価値に関する項、売り手、買い手の最大入札量に関する項、及び売り手、買い手の最小入札量に関する項の線形結合となっている。
【0068】
なお、制約条件Nが等式制約条件Gと不等式制約条件Hの全てを含めば、ラグランジュ関数Lに現れる全ての要素は零ではないため、約定価格の中で陽に表される。一方、もし制約条件Mが等式制約条件Gと不等式制約条件Hの全てを含めれば、目標関数Fを除いた全ての項は約定価格πの分解式から消去される。
即ち、市場価値のある制約条件Nの設定を決めれば約定価格πは一意的に求まるものであるが、制約条件Nの決め方により約定価格πの分解式が異なることがある。
【0069】
次に、上記した電力取引市場における約定価格の決定要因分析プログラムの処理を図4に示したフローチャートに基づいて説明する。まず、ステップS1では、図1に示した電力系統1において、各売り手(SG12)の入札関数φiと買い手(SD13)の入札関数θi、及び電力系統における送電線(図示せず)定数と電圧・有効電力・無効電力の制約条件などのデータを設定する。ステップS1に続いて、ステップS2では、式(1)〜(4)を解くことにより、最適解Xとその双対解(λ, ρ)を求める。ステップS2に続いて、ステップS3では、式(10)により、最適解で各売り手の入札価格を計算し、入札価格が一番高い売り手の発電機に接続されている母線GKを検出する。ステップS3に続いて、ステップS4では、式(11)により、最適解で各買い手の入札価格を計算し、入札価格が一番安い買い手の負荷に接続されている母線DKを検出する。ステップS4に続いて、ステップS5では、有価制約条件Nと無価制約条件Mに基づいて、式(29)により母線GKにおける電圧感度XPGKを計算する。ステップS5に続いて、ステップS6では、有価制約条件Nと無価制約条件Mに基づいて、式(30)により母線DKにおける電圧感度XPDKを計算する。ステップS6に続いて、ステップS7では、式(35)により約定価格の構成要素の値を求める。
【0070】
上記実施の形態に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法及び分析のためのコンピュータプログラムによれば、シングルプライスオークションにおける約定価格πを買い手(SD13)の入札関数に関する項と、前記売り手(SG12)の入札関数に関する項と、前記非スポット市場の発電機(G14)の発電コストに関する項と、前記非スポット市場の負荷(D15)の消費コストに関する項と、前記有価制約条件Nの等価価値に関する項と、入札量の上限制約に関する項と、入札量の下限制約に関する項とから構成される線形多項式に分解するため、分解された前記多項式から約定価格πを決定する要因に関する詳細情報が解明され、更に、上記各項の値が計算されるため、入札情報、非スポット市場の発電機及び負荷の運用情報、電圧及び電力などの制約条件等を含む要因による約定価格への影響を定量的に評価することが実現される。そのため、本発明に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法及び分析のためのコンピュータプログラムは、電力運用管理、電源及び送電網運用と混雑管理の効率化に使えるだけでなく、投資リスクのマネジメント強化や入札の意思決定等にも利用できる。
【0071】
次に、本発明の電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法及び分析のためのコンピュータプログラムを用いた実施例を示す。
【実施例】
【0072】
図5は、本発明に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法を用いた実施例の電力系統を示す図である。図5中、2は電力系統を示しており、電力系統2は、電力取引市場に参加する第1売り手(発電機)21と、第2売り手(発電機)22と、第1買い手(負荷)31と、第2買い手(負荷)32と、電力取引市場に参加しない非スポット市場の発電機23と、非スポット市場の負荷33と、発電機21に接続されている第1母線41と、負荷31に接続されている第2母線42と、負荷33に接続されている第3母線43と、発電機22に接続されている第4母線44と、負荷32に接続されている第5母線45と、発電機23に接続されている第6母線46と、各母線を接続する送電線51を含んで構成されている。
【0073】
非スポット市場の発電機23は固定電気料金で電力系統2へ電力を提供し、非スポット市場の負荷33は固定電気料金で電力系統2から電力を消費し、一方、第1売り手21と第2売り手22は、電力取引所を介して、シングルプライスオークションで約定された約定価格(電気料金)で各自の発電機で生産された電力を電力系統2へ提供し、第1買い手31と第2買い手32は、電力取引所を介して、シングルプライスオークションで約定された約定価格(電気料金)で電力系統2から電力を購入するようになっている。発電機21〜23は、それぞれ接続されている母線41、母線44、母線46を介して発電電力を電力系統2に注入し、負荷31〜33は、それぞれ接続されている母線42、母線43、母線45を介して電力系統1から消費電力を吸収し、各送電線51は供給・需要の要求に応じて、母線41〜46の間で電力を配送するようになっている。
【0074】
図6aは、電力系統2における各送電線の抵抗r、リアクタンスx及び送電線アドミタンスy/2の値をそれぞれ示す表である。図6bは、電力取引に参加する売り手21と22、買い手31と32のそれぞれの入札関数及び電力の量を示す表である。
また、母線46に接続されている非スポット市場の発電機23の増分燃料費関数はω6(Pg6)=7.0Pg6 であり、有効・無効出力上下限は0.0≦Pg6≦1.0であり、無効出力上下限は0.0≦Qg6≦0.5である。母線43に接続されている非スポット需要家33の有効負荷はPd3=0.3であり、無効負荷はQd3=0.18である。売り手・買い手の無効電力出力の下限は0.0、上限は入札量の1/2とする。全ての母線41〜46に対する電圧の上下限制約は0.95≦Vk≦1.05であり、母線43と母線42との間の送電線51の有効電力潮流上下限は-0.05≦Pf3-2≦0.05であり、非スポット需要家33の電気料金πdiは15.0であり、スポット市場送電ロス率k は0.0とする。なお、全ての値はpu表記である。
【0075】
上記したデータに基づいて、式(1)〜(4)のシングルプライスオークションのシミュレーションモデルを作成し、式(1)を解くことにより、得られた最適解となる母線41〜46の電圧Xの実部と虚部及び社会余剰Fを図7に示している。
【0076】
図7に示した結果により、第1売り手21の限界入札価格は14.969、第2売り手22の限界入札価格は9.586、第1買い手31の限界入札価格は19.284、第2買い手32の限界入札価格は14.969となる。そのため、式(9)〜(10)より約定価格は14.969となり、約定価格決定母線は第1売り手の発電機21に接続されている第1母線41、および第2買い手の負荷32に接続されている第5母線45となる。
【0077】
また、制約条件G中3つの制約条件を無価制約条件Mとし、不等式制約条件H中6つの活性化制約条件を有価制約条件Nとし、約定価格決定係数cを1とすれば、約定価格πを式(36)に分解することができる。
【数25】

【0078】
但し、φ1(PG1)は第1売り手21の入札価格であり、θ2(PD2)は第1買い手31の入札価格であり、πd3は非スポット負荷33の電気料金であり、φ4(PG4)は第2売り手22の入札価格であり、θ5(PD5)は第2買い手32の入札価格であり、ω6(Pg6)は非スポット市場の発電機23の増分燃料費であり、ρV4、ρV6 は第4母線44と第6母線46の電圧上限制約のラグランジュ乗数であり、ρpf3-2は第3母線43から第2母線42へ流れる潮流の上限制約のラグランジュ乗数であり、∂/∂p1は第1母線41の成行売り入札量による偏微分である。
【0079】
さらに、式(29)により第1母線の電圧感度XPGKを計算して、式(36)に代入すれば、約定価格πとその構成要素が、式(37)に示したように計算される。計算された約定価格における各構成要素の影響度合い、占める割合などを図8に示している。
【0080】
【数26】

但し、φ1=14.969、θ2=19.284、πd3=15.0、φ4= 9.586、θ5=14.969、ω6=7.0、ρV4=0.002、ρV6=0.006、ρPf3-2=13.800である。
【0081】
図8に示した数値結果によれば、各要素の中に、有価制約条件1と2の影響度合いが大きく、入札関数の占める割合が大きいことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施の形態に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法及び分析のためのコンピュータプログラムが適用された電力系統の要部を概略的に示した模式図である。
【図2a】実施の形態に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法及び分析のためのコンピュータプログラムにおける市場供給曲線を示す図である。
【図2b】実施の形態に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法及び分析のためのコンピュータプログラムにおける市場需要曲線を示す図である。
【図2c】実施の形態に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法及び分析のためのコンピュータプログラムにおける約定価格決定曲線を示す図である。
【図3a】実施の形態に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法及び分析のためのコンピュータプログラムにおける売り手の入札関数を示す図である。
【図3b】実施の形態に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法及び分析のためのコンピュータプログラムにおける買い手の入札関数を示す図である。
【図3c】実施の形態に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法及び分析のためのコンピュータプログラムにおけるスポット市場の供給と需要曲線を示す図である。
【図4】実施の形態に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析プログラムの処理動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明に係る電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法及び分析のためのコンピュータプログラムが適用された実施例における電力系統の要部を概略的に示す系統図である。
【図6a】実施例における電力系統の送電線定数を示す表である。
【図6b】実施例における入札情報を示す表である。
【図7】実施例における最適解での各母線の有効電力・無効電力を示す表である。
【図8】実施例における約定価格の各構成要素の計算結果を示す表である。
【符号の説明】
【0083】
1、2 電力系統
12 スポット市場の発電機SG
13 スポット市場の負荷SD
14 非スポット市場の発電機G
15 非スポット市場の負荷D
16 操作&表示手段
21 第1売り手
22 第2売り手
23 非スポット市場の発電機
31 第1買い手
32 第2買い手
33 非スポット市場の負荷
41 第1母線
42 第2母線
43 第3母線
44 第4母線
45 第5母線
46 第6母線
51 送電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力取引市場で入札により決済された約定価格で電力を販売する売り手の発電機と、前記約定価格で電力を購入する買い手の負荷と、固定電気料金で電力を提供する非スポット市場の発電機と、前記固定電気料金で電力を消費する非スポット市場の負荷とを含んで構成される電力系統の電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法において、
前記電力系統における潮流方程式及び送電損失を含む自由化発電と需要の需給バランス関係式を含んで構成された等式制約条件と、有効・無効電力上下限、電圧上下限及び潮流上下限を含んで構成された不等式制約条件とを満たした上で、全ての電力需要者余剰と全ての電力供給者余剰とを含む社会余剰を示す目標関数の値を最大化するシングルプライスオークションの最適解及びその双対解を求め、
前記最適解及び前記売り手と前記買い手のそれぞれの入札関数に基づいて、約定価格決定母線を検索し、
前記等式制約条件及び前記不等式制約条件を、前記約定価格にその価値が陽に評価される有価制約条件と、前記約定価格にその価値が陽に評価されない無価制約条件とに分け、
前記有価制約条件、前記無価制約条件、前記最適解及び前記双対解に基づいて、前記約定価格決定母線における電圧感度を計算することにより、
前記約定価格を、前記非スポット市場の負荷の消費コストに関する項と、前記非スポット市場の発電機の発電コストに関する項と、前記買い手の入札関数に関する項と、前記売り手の入札関数に関する項と、前記有価制約条件の等価価値に関する項と、入札量の上限制約に関する項と、入札量の下限制約に関する項とから構成される線形多項式に分解して、前記各項の値を計算することを特徴とする電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法。
【請求項2】
前記目標関数を下記の式(1)で表し、前記等式制約条件を下記の式(2)と(4)で表し、前記不等式制約条件を下記の式(3)で表すことを特徴とする請求項1記載の電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法。
【数1】

【請求項3】
前記最適解での入札価格が一番高い売り手の発電機に接続されている母線と、前記最適解での入札価格が一番安い買い手の負荷に接続されている母線をそれぞれ前記約定価格決定母線とすることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法。
【請求項4】
前記売り手の発電機に接続されている約定価格決定母線における電圧感度を下記の式(5)と(7)により計算し、前記買い手の発電機に接続されている約定価格決定母線における電圧感度を下記の式(6)と(7)により計算することを特徴とする請求項2又は請求項3記載の電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法。
【数2】

【請求項5】
前記約定価格を、前記最適解での各売り手の入札価格中一番高い入札価格と、前記最適解での各買い手の入札価格中一番安い入札価格との線形結合とし、下記の式(8)に示すように分解し、計算することを特徴とする請求項4記載の電力取引市場における約定価格の決定要因分析方法。
【数3】

【請求項6】
電力取引市場で入札により約定された約定価格で電力を販売する売り手の発電機と、前記約定価格で電力を購入する買い手の負荷と、固定電気料金で電力を提供する非スポット市場の発電機と、固定電気料金で電力を消費する非スポット市場の負荷とを含んで構成される電力系統において、
下記の式(2)で表す潮流方程式及び下記の式(4)で表す送電損失を含む自由化発電と需要の需給バランス関係式を含んで構成された等式制約条件と、下記の式(3)で表す有効・無効電力上下限、電圧上下限及び潮流上下限を含んで構成された不等式制約条件とを満たした上で、下記の式(1)で表す全ての電力需要者余剰と全ての電力供給者余剰とを含む社会余剰を示す目標関数の値を最大化するシングルプライスオークションの最適解及びその双対解を求めるステップと、
約定価格決定母線となる前記最適解での入札価格が一番高い売り手の発電機に接続されている母線と、前記最適解での入札価格が一番安い買い手の負荷に接続されている母線とをそれぞれ検索するステップと、
前記等式制約条件及び前記不等式制約条件から分けられた前記約定価格にその価値が陽に評価される有価制約条件、前記約定価格にその価値が陽に評価されない無価制約条件、前記最適解及び前記双対解に基づいて、前記売り手の発電機に接続されている約定価格決定母線における電圧感度を下記の式(5)と(7)とにより計算し、前記買い手の発電機に接続されている約定価格決定母線における電圧感度を下記の式(6)と(7)とにより計算するステップと、
下記の式(8)により、前記約定価格を前記非スポット市場の負荷の消費コストに関する項と、前記非スポット市場の発電機の発電コストに関する項と、前記買い手の入札関数に関する項と、前記売り手の入札関数に関する項と、前記有価制約条件の等価価値に関する項と、入札量の上限制約に関する項と、入札量の下限制約に関する項とに分解して計算するステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする電力取引市場における約定価格の決定要因分析のためのコンピュータプログラム。
【数4】


【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−195848(P2006−195848A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8421(P2005−8421)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【出願人】(505018739)株式会社JPビジネスサービス (1)
【Fターム(参考)】