説明

電力器機の部分放電位置検出システム及び放電位置検出方法

【課題】電力器機の部分放電位置検出システム及び放電位置検出方法を提供する。
【解決手段】本発明によると、部分放電センサが電磁波部分放電信号を感知し、感知された信号の波形は波形測定装置により測定される。前記波形を変換して伝送モード別信号を分離し、伝送モード別到着時間及び周波数を利用して前記部分放電センサから部分放電位置までの距離を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力器機監視システム及び監視方法に係り、より具体的には、電力器機の部分放電位置検出システム及び部分放電位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力器機で部分放電を起こす放電源の大きさが大部分非常に小さくて、部分放電の位置を正確に把握し難くし、且つ放電源を見つけて除去するのが難しい。したがって、部分放電の位置を推正する技術は、電力器機の故障を予防するのにあって非常に重要な技術である。
【0003】
部分放電位置を推正する技術は、大きく放電によって発生した電磁波放電信号の伝播による減衰を利用する方法と、電磁波放電信号が部分放電センサに到逹する時間差を利用する方法で区分することができる。
【0004】
図1は、電磁波放電信号の減衰を利用する従来の部分放電位置推定技術を説明するための図である。
【0005】
図1を参照すると、電力器機のうち、ガス絶縁母線(Gas Insulated Bus;GIB)を例えば、ガス絶縁母線10は、中央導体12と絶縁され、これを囲む外箱14で構成される。ガス絶縁母線10で部分放電信号を感知するために、複数個の部分放電センサ16が前記ガス絶縁母線10に設置される。
【0006】
ガス絶縁母線10で部分放電が発生すれば、部分放電位置DPに近く設置された部分放電センサには強い信号が感知され、部分放電位置DPから遠く離れた部分放電センサには相対的に弱い信号が感知される。部分放電位置DPは複数個の部分放電センサで感知された部分放電信号を位置−信号の強さグラフとして示し、補間法で近似して推正することができる。
【0007】
図2は、電磁波放電信号が部分放電センサに到逹する時間差を利用する従来の部分放電位置推定技術を説明するための図である。
【0008】
図2を参照すると、時間差を利用する部分放電位置推定技術は、電力器機に2つの部分放電センサ26、28を設置して放電位置を推正する。第1部分放電センサ26と第2部分放電センサ28は所定の間隔Dtを置いて電力器機に設置される。部分放電が発生すれば、第1部分放電センサ26と第2部分放電センサ28は放電信号を感知し、計測器23は放電信号が部分放電センサに到着した時間を計測する。放電信号の到着時間は放電センサと放電位置の距離によって変わるので、放電信号が到着する時間を利用して第1部分放電センサ26と放電位置との間の距離D1と第2部分放電センサ28と放電位置との間の距離D2とを計算することができる。
【0009】
上述のように、従来の部分放電位置推定技術は、電力器機に設置された複数の部分放電センサが必要である。従来技術では、弱い放電信号を検出するためには電力器機に設置された部分放電センサの間隔を狭めなければならないが、電力器機が複雑な構造を有する場合には、部分放電センサを十分に狭い間隔で設置し難い。
【0010】
また、部分放電センサの間隔が広ければ、多数の部分放電センサと計測器とを結線し難く、且つ部分放電センサが感知した信号が計測器に伝達される間、減衰または変形されて放電位置の信頼度が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、1つの部分放電センサを利用して部分放電位置を検出する検出システム及び部分放電位置検出方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の課題は、1つの部分放電センサを利用して部分放電位置検出の正確度が向上した検出システム及び部分放電位置検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題を達成するために、本発明は、電磁波部分放電信号の伝送モード別群速度の差を利用する部分放電位置検出システムを提供する。
【0014】
この検出システムは、電磁波部分放電信号を感知する部分放電センサと、前記部分放電センサで感知された信号の波形を測定する波形測定装置と、前記波形を変換して伝送モード別信号を分離する変換モジュールと、伝送モード別到着時間及び放電信号モード別到着時の周波数を利用して前記部分放電センサから部分放電位置までの距離を計算する演算モジュールとを含む。
【0015】
前記変換モジュールは、周波数及び時間に対する解像度が高い変換アルゴリズムを内蔵することができる。例えば、短区間フューリエ変換(Short Term Furier Transform;STFT)アルゴリズム、またはウェーブレット変換(wavelet transform)アルゴリズムを前記変換モジュールに内蔵することができる。
【0016】
前記演算モジュールは、変換された伝送モード別信号の到着時間及び到着時の周波数から伝送モードの群速度を計算し、伝送モード別到着時間の差と群速度とを利用して放電位置を計算する。
【0017】
上述の課題を達成するために、本発明は、伝送モード別群速度の差を利用する部分放電位置検出方法を提供する。
【0018】
この方法は、部分放電信号の波形を測定する段階と、前記測定された波形を変換して伝送モード別信号を分離する段階と、モード別信号到着時の周波数を利用して伝送モード別群速度を計算する段階と、2つの伝送モードの群速度及び2つの伝送モード間の到達時間の差を利用して部分放電位置を計算する段階とを含む。
【0019】
伝送モード別信号を分離する段階において、時間及び周波数解像度が高い変換技法が適用されることができる。このような変換技法は、多様に紹介されるか、または公知されている。例えば、短区間フューリエ変換、またはウェーブレット変換を本発明に適用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、1つの部分放電センサで感知された部分放電信号を伝送モード別で分離し、伝送モード別到着時間及び群速度の差を利用して部分放電センサから部分放電位置までの距離を測定することができる。
【0021】
本発明は、複数の部分放電センサで感知された部分放電信号を比較する従来の部分放電位置検出方法に比べて、さらに向上した信頼度で部分放電位置を検出することができる。
【0022】
したがって、電力器機に設置するセンサの数を減らして費用を節減することができ、電力器機で部分放電位置を点検して補修することによって、電力器機の故障を予め防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来技術に係る部分放電位置検出方法を説明するための図である。
【図2】従来技術に係る部分放電位置検出方法を説明するための図である。
【図3】本発明の望ましい実施形態に係る部分放電位置検出方法を説明するための図である。
【図4】本発明の望ましい実施形態に係る部分放電位置検出方法を説明するためのフローチャートである。
【図5】部分放電信号の波形を示したグラフである。
【図6】部分放電信号の到着時間−周波数グラフである。
【図7】本発明の望ましい実施形態に係る部分放電位置検出システムを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の望ましい実施形態をより詳細に説明する。本発明は、ここで説明される実施形態に限定されず、他の形態に具体化されることもできる。むしろ、ここで紹介される実施形態は開示された内容が徹底し、完全になれるように、そして当業者に本発明の思想を十分に伝達するために提供されるものである。
【0025】
図3は、本発明の望ましい実施形態に係る部分放電位置検出方法を説明するための図である。
【0026】
本実施形態において、外箱32と中央導体34とを含む同軸構造のガス絶縁母線GIBを例として説明するが、本発明はより複雑な構造のガス絶縁開閉装置(Gas Insulated Switchgear;GIS)、変圧器及び電力用ケーブルなどの多様な電力器機に適用されることができる。
【0027】
図3を参照すると、電力器機、例えば同軸構造のガス絶縁母線GIB内で部分放電が発生すれば、放電発生位置DPで発生された電磁波部分放電信号(electromagnetic partial discharge Signal)はTEMモードとTE11、TE21、TE31、TE41モードのような多様な伝送モードが合成された形態で伝播される。
【0028】
理論的に、TEMモードを除いた各モードは固有の遮断周波数があり、遮断周波数以上の電磁波信号のみが該当のモードに進行すると知られている。
【0029】
伝送モードは互いに異なる群速度で伝播されるので、伝送モード別で前記部分放電センサ36に感知される時間が異なる。したがって、伝送モード別到着時間を利用して前記部分放電センサ36から前記部分放電位置DPまでの距離Lを検出することができる。
【0030】
電力器機で部分放電が発生すれば、TEMモードが光速度Cで伝播され、前記部分放電センサ36に最も速く感知され、他の伝送モードが群速度Vgで伝播されて前記部分放電センサ36に感知される。前記感知された部分放電信号をオシロスコープのような波形測定装置38で測定して距離Lを計算することができる。
【0031】
図4は、本発明の望ましい実施形態に係る部分放電位置検出方法を説明するためのフローチャートである。
【0032】
図5は、部分放電信号の波形を示したグラフであり、図6は、部分放電信号の時間−周波数グラフである。
【0033】
図4、図5、及び図6を参照すると、前記波形測定装置38を利用して前記部分放電センサ36で感知された部分放電信号の波形を測定する(S1段階)。
【0034】
前記部分放電信号は様々な伝送モードが合成された形態で、図5に示すように、前記波形測定装置38で測定される。
【0035】
測定した波形から前記伝送モードの群速度Vgを計算するために、前記部分放電信号の伝送モード別到着時間と周波数とを計算する(S2段階)。
【0036】
図5の第1時点52でTEMモードの信号が最も速く感知される。TEMモードの信号が感知された後、第2時点54でTEMモードの次に群速度が速いTE11モードの信号が感知されてTEMモードと合成される。
【0037】
前記波形測定装置38で測定された部分放電信号をモード別到着時間及び周波数を同時に分析することができる技法を用いて変換し、前記伝送モードの到着時間及び周波数をより正確に求めることができる。
【0038】
本発明の一実施形態において、短区間フューリエ変換(Short Term Furier Transform;STFT)、またはウェーブレット変換(wavelet transform)などの時間及び周波数解像度が高い多様な変換技法を用いることができる。
【0039】
例えば、短区間フューリエ変換STFTを利用して前記測定された部分放電信号を変換して、図6のような周波数−時間分布を得ることができる。短区間フューリエ変換により前記部分放電信号は伝送モード別で分離された。図6の分布図において、第1時点62に到達した信号は光束で伝播されるTEMモードであり、第2時点64に到逹した信号はTEMモードの次に群速度が速いTE11モードであり、前記第2時点64での到着信号の周波数66は668MHzである。
【0040】
前記伝送モード別到着時間及び周波数を利用して群速度を計算する(S3段階)。
【0041】
前記TEMモードは光速度Cで伝播され、前記TEMモード以外の他の伝送モードの群速度vgは下記の数1式により計算されることができる。
【数1】

【0042】
この式において、fcは各モード別遮断周波数であり、fは該当のモード別信号到着時の周波数であり、Cは光束である。
【0043】
前記到着時間差△tは下記の数2式として表現されることができる。
【数2】

【0044】
この式において、t及びtは第1及び第2伝送モードの到着時間であり、vg1及びvg2は第1及び第2伝送モードの群速度であり、Lは部分放電センサと放電信号発生位置の距離である。
【0045】
前記伝送モードの群速度と2つの伝送モード間の到着時間との差を利用して部分放電位置を計算する(S4段階)。
【0046】
数2式から分かるように、2つの伝送モード間の到着時間の差は伝送モードの群速度と距離の式として表現される。前記数2式を利用して前記部分放電センサ36から前記部分放電位置DPまでの距離Lを数3式のように計算することができる。
【数3】

【0047】
本発明によると、1つの部分放電センサで感知される部分放電信号を伝送モード別で分離して、到着時間及びこの時の周波数を測定し、前記測定された到着時間及び周波数を利用して伝送モード別群速度を計算することができる。結果的に、2つの伝送モード間の到着時間の差と群速度とを簡単な数学式に代入することによって、部分放電センサから部分放電位置までの距離を計算することができる。例えば、最も速く到着するTMモードと2番目に到着するTE11モードの到着時間の差及び速度を利用し、部分放電センサから部分放電位置までの距離を計算することができる。
【0048】
本発明は、1つの部分放電センサでも部分放電位置を検出することができるので、複数の部分放電センサを使わなければならない既存の方法で発生することができる信号の遅延及び変形、そして多重の部分放電センサの設置時に発生することができる問題事項及びこれによる測定範囲の制限などの問題を改善することができる。
【0049】
図7は、本発明の望ましい実施形態に係る部分放電位置検出システムを示した図である。
【0050】
図7を参照すると、本発明の一実施形態に係る部分放電位置検出システム70は、部分放電信号を感知する部分放電センサ72と、前記部分放電センサ72で感知された信号の波形を測定する波形測定装置74と、前記測定された波形を変換して伝送モード別で分離する変換モジュール75と、前記部分放電センサ72から部分放電位置までの距離を計算する演算モジュール76と、算式が貯蔵された貯蔵領域78とを含む。
【0051】
前記変換モジュール75は、様々な伝送モードが合成された部分放電信号を時間解像度及び周波数解像度が高い時間−周波数分布に変換する変換アルゴリズムを内蔵する。例えば、前記変換モジュール75は短区間フューリエ変換STFT、またはウェーブレット変換などの多様な変換アルゴリズムを少なくとも1つ内蔵することができる。
【0052】
前記変換アルゴリズムにより部分放電信号が時間及び周波数によって分離されることができ、伝送モード別で到着時間及び周波数に差があるので、分離された信号は伝送モードに対応する。
【0053】
前記演算モジュール76は、前記変換モジュール75で変換された信号のうちで2つの伝送モードの周波数及び到着時間が入力されて、伝送モードの群速度を計算し、2つの伝送モードの到着時間の差と前記計算された群速度とを利用して部分放電位置から部分放電センサまでの距離を計算する。
【0054】
本発明の一実施形態において、前記変換モジュール75及び前記演算モジュール76はマイクロプロセッサにプログラムされたことであるか、または各々の機能を実行するハードウェアであり得る。したがって、前記変換モジュール75及び前記演算モジュール76は固有機能を有する半導体チップや単一チップに実現されることができる。前記貯蔵領域78はシステムに別途設置されたメモリであるか、または前記変換モジュール75及び/または演算モジュール76と結合されたメモリであり得る。
【符号の説明】
【0055】
32 外箱
34 中央導体
36、72 部分放電センサ
DP 部分放電位置
38、74 波形測定装置
70 部分放電位置検出システム
75 変換モジュール
76 演算モジュール
78 貯蔵領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波部分放電信号を感知する部分放電センサと、
前記部分放電センサで感知された信号の波形を測定する波形測定装置と、
前記波形を変換して伝送モード別信号を分離する変換モジュールと、
伝送モード別到着時間と周波数とを利用して前記部分放電センサから部分放電位置までの距離を計算する演算モジュールとを含むことを特徴とする部分放電位置検出システム。
【請求項2】
前記変換モジュールは、時間と周波数とを同時に分析することができるアルゴリズムを内蔵することを特徴とする請求項1に記載の部分放電位置検出システム。
【請求項3】
前記アルゴリズムは、短区間フューリエ変換アルゴリズム、またはウェーブレット変換アルゴリズムであることを特徴とする請求項2に記載の部分放電位置検出システム。
【請求項4】
前記演算モジュールは、伝送モード別周波数から群速度を計算し、2つの伝送モードの群速度及び2つの伝送モード間のセンサに到着する時間の差を利用し、前記部分放電センサから前記部分放電位置までの距離を計算することを特徴とする請求項1に記載の部分放電位置検出システム。
【請求項5】
部分放電信号の波形を測定する段階と、
前記測定された波形を変換して伝送モード別信号を分離する段階と、
前記周波数を利用して伝送モード別群速度を計算する段階と、
2つの伝送モードの群速度及び2つの伝送モード間の到着時間の差を利用して部分放電位置を計算する段階とを含むことを特徴とする部分放電位置検出方法。
【請求項6】
前記信号を分離する段階は、時間及び周波数を同時に分析する技法を適用して前記伝送モード別信号を分離することを特徴とする請求項5に記載の部分放電位置検出方法。
【請求項7】
前記技法は、短区間フューリエ変換、またはウェーブレット変換であることを特徴とする請求項6に記載の部分放電位置検出方法。
【請求項8】
前記群速度vgの算式は下記の数1式であることを特徴とする請求項5に記載の電位置検出方法。
【数1】

ここで、Cは光束、fcは伝送モードの遮断周波数、fは該当の伝送モードの到着時点の周波数である。
【請求項9】
前記部分放電位置を計算する段階は、
第1伝送モード及び第2伝送モードを選択する段階と、
第1伝送モード及び第2伝送モード間の到着時間の差を計算する段階と、
前記到着時間の差と前記第1伝送モード及び前記第2伝送モードのセンサに到着時の群速度を下記の数3式に代入し、前記部分放電センサから前記部分放電位置の距離を計算する段階とを含むことを特徴とする請求項8に記載の部分放電位置検出方法。
【数3】

ここで、Lは部分放電位置までの距離、Vg1及びVg2は各々第1伝送モード及び第2伝送モードの群速度、△tは前記到着時間の差である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−531454(P2010−531454A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514604(P2010−514604)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【国際出願番号】PCT/KR2008/003229
【国際公開番号】WO2009/005223
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(591144268)コリア・エレクトリック・パワー・コーポレーション (16)
【氏名又は名称原語表記】KOREA ELECTRIC POWER CORPORATION
【Fターム(参考)】