説明

電力変換システム

【課題】本発明の目的は、複数台の異なる出力容量の単位電力変換器をそれぞれ異なる電流分担状態で動作させ、単位電力変換器間を環流する横流を抑制することのできる電力変換システムを提供することにある。
【解決手段】電力変換システムは、直流電源2に接続された第1の単位電力変換器1と、直流電源4に接続された第2の単位電力変換器3と、第1の電力変換器1の出力が接続される入力点6と第2の電力変換器3の出力が接続される入力点7を有し、入力電流を合成して負荷9に給電する結合リアクトル5と、第1の単位電力変換器1を制御する第1の制御装置27と、第2の単位電力変換器3を制御する第2の制御装置28とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数台の電力変換器が並列に接続された電力変換システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
さまざまな利用分野に応じて、用途に見あった種々の出力容量の電力変換システムを速やかに構築する手法が種々開示されている。例えば、すでに開発されている単位電力変換器を複数台並列接続して、電力変換システムの出力容量を目的に合致させて組み上げる方式の提案がなされている。下記の特許文献1では、2台の単位電力変換器は同一出力容量、つまり、2台の単位電力変換器の電流分担はほぼ等しい値で対等に動作させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3780901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の電力変換システムの構築法では、単位電力変換器の種類は一種類に限定されている。つまり、同一容量の単位電力変換器を2台組み合わせてほぼ同一出力電流分担で並列動作させるために、組み合わせにはむだが多く、結果として出力容量の品揃えがまばらとならざるを得ない問題点がある。また、特許文献1には、同一容量の単位電力変換器間を無駄に環流する横流を抑制すると言う概念しか開示されてない。
【0005】
本発明の目的は、複数台の異なる出力容量の単位電力変換器をそれぞれ異なる電流分担状態で動作させ、単位電力変換器間を環流する横流を抑制することのできる電力変換システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
電力変換システムは、第1の電流を出力する第1の単位電力変換器と、第1の単位電力変換器を制御する第1の制御装置と、第2の電流を出力する第2の単位電力変換器と、第2の単位電力変換器を制御する第2の制御装置と、第1の単位電力変換器の出力が入力される第1の巻線および第2の単位電力変換器の出力が入力される第2の巻線とを有し、入力電流を合成して負荷に給電する結合リアクトルとを備える。
【0007】
第1の制御装置は、第1の単位電力変換器の電流指令と第1の電流および第2の電流の検出値の和成分との差が0に近づくように補償する第1の電流補償器を設け、第2の制御装置は、第2の単位電力変換器の電流指令と第1の電流および第2の電流の検出値との差成分との差が0に近づくように補償する第2の電流補償器を設ける。
【0008】
第1の制御装置は、第1の電流補償器の出力と第1と第2の電流分担比に応じてゲイン調整した第2の電流補償器の出力との差に基づいて第1の単位電力変換器を制御するとともに、第2の制御装置は、第2の電流補償器の出力と第1と第2の電流分担比に応じてゲイン調整した第1の電流補償器の出力との和に基づいて第2の単位電力変換器を制御する。
【0009】
すなわち、電力変換システムは、2台の単位電力変換器のそれぞれの制御装置は、電流指令に対して検出した2つの電流の和成分にゲイン処理した帰還信号が一致するよう動作する成分と、他方の単位電力変換器の電流指令に対して検出した2つの電流の差成分にゲイン処理した帰還信号が一致するよう動作する成分に電流分担比処理した成分とを加減算してそれぞれの単位電力変換器への制御信号として出力することを特徴としている。
【0010】
上記電力変換システムは、出力電流がそれぞれ異なる電力変換器の電流分担値を維持しつつ、2台の電力変換器間を環流する横流を最小化するよう動作する。
【0011】
また、電力変換システムは、出力電流の異なる2台の単位電力変換器の出力をそれぞれの電流分担比の逆数に比例した巻線を共通磁路を形成する鉄心に磁束を相殺するよう施して結合リアクトルを構成していることを特徴としている。
【0012】
このように構成した本発明の請求項2に係る発明は、出力電流の異なる2台の単位電力変換器の出力成分のうち単位変換器間を環流する横流成分を結合リアクトルで抑制していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電流分担の異なる2台の単位電力変換器の出力電流分担を所望の値に制御しつつ、単位電力変換器間を不要に環流する横流を抑制制御出来る。また、2台の単位電力変換器の出力を合成する結合リアクトルでも単位変換器出力を合成しつつ、単位変換器間を環流する横流を抑制できる効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る電力変換システムの一実施形態を示す全体構成図である。
【図2】単位電力変換器の出力を合成する結合リアクトルについての構成図である。
【図3】パルス幅変調された2台の単位電力変換器の出力と結合リアクトル内の磁束の関係を示す図である。
【図4】本発明の制御方法についての回路解析シミュレーションの結果図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明に係る電力変換システムの実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1に示す電力変換システム30は、直流電源2に接続された第1の単位電力変換器1と、直流電源4に接続された第2の単位電力変換器3と、第1の単位電力変換器1の出力が接続される入力点6と第2の単位電力変換器3の出力が接続される入力点7を有し、入力電流を合成して負荷9に給電する結合リアクトル5と、第1の単位電力変換器1を制御する第1の制御装置27と、第2の単位電力変換器3を制御する第2の制御装置28とを備える。
【0017】
第1の単位電力変換器1と第2の単位電力変換器3は複数のIGBT(insulated gate bipolar transistor)やFWD(free wheeling diode)などを使用し、スイッチングによって交流電流を出力するインバータ回路が挙げられる。第1の単位電力変換器1からの出力を第1の電流、第2の単位電力変換器3からの出力を第2の電流とする。インバータ回路のスイッチングを制御するための第1の制御装置27および第2の制御装置28が備えられる。負荷9は電動機Mが挙げられ、電動機Mへの速度指令や電動機Mに取り付けたエンコーダで検出した速度などによってスイッチングを制御する。
【0018】
第1の単位電力変換器1と第2の単位電力変換器3の出力には、各出力電流を検出する電流検出器10,11が接続されている。電流検出器10,11は、ホールCTやシャント抵抗である。検出された電流はスイッチング制御のために、各制御装置27,28に帰還される。
【0019】
結合リアクトル5は、入力点6から引き出し点8までを第1の巻線5a、入力点7から引き出し点8までを第2の巻線5bとして、途中の引き出し点8から負荷9に出力する。第1の単位電力変換器1が分担された電流と第2の単位電力変換器3が分担された電流との比をm:nとする。入力点6からは総電流のm分の電流が流れ込み、入力点7からは総電流のn分の電流が流れ込み、引き出し点8で両電流が結合されて出力される。従来技術とは異なり、電流分担比のmとnは異なる。
【0020】
結合リアクトル5の入力点6から引き出し点8までの第1の巻線5aの巻き数と、入力点7から引き出し点8までの第2の巻線5bの巻き数の比は単位電力変換器1,3の電流分担の逆数に比例する形で巻かれている。上述した制御装置27,28の能動的な制御の働きによる横流抑制のほか、結合リアクトル5でも、あらかじめ設定された値が異なる2種類の電流値の単純加算動作に対してインピーダンスはそれぞれ小さく働き、この設定値に対してずれた横流成分に対しては、この成分を受動的に抑制するように動作する。
【0021】
なお、各単位電力変換器1,3、結合リアクトル5および負荷9は三相回路であり、図1は簡略化している。また、制御装置27,28は入出力部分に相当する前後の三相交流から直流変換、直流から三相交流変換などの座標変換部分は省略して示している。加算器24と減算器26の出力は三相の変調波相当の波形であり、電力変換器1,3内のスイッチング素子のON・OFF制御に具体的に用いられる際には図示していない搬送波との比較が行なわれ、パルス幅変調制御が行なわれる。
【0022】
第1の制御装置27は、各単位電力変換器1,3から出力された第1および第2の電流の和成分の負帰還信号を生成する加算器12と、電流指令と電流の和成分の負帰還信号との差分を取る減算器19と、減算器19の差分が0または0に近づくように補償する第1の電流補償器21とを備え、第1の電流補償器21の出力を第2の電流補償器22の出力で減算して出力する。
【0023】
第2の制御装置28は、各単位電力変換器1,3から出力された第1と第2の電流の差成分の負帰還信号を生成する減算器13と、電流指令と電流の差成分の負帰還信号との差分を取る減算器20と、減算器20の差分が0または0に近づくように補償する第2の電流補償器22とを備え、第2の電流補償器22の出力を第1の電流補償器21の出力と加算して出力する。
【0024】
電流指令は単位電力変換器1と3が出力するべき総和の電流値を含んだ信号である。電流指令は、電動機Mへの速度指令と電動機Mからの速度帰還信号との差から演算される。電動機Mから速度帰還信号を受信し、電流指令を生成するためのマイコンを備える。電流指令は、端子16からゲイン調整器17,18を介して減算器19,20に入力される。出力電流の和成分と差成分の負帰還信号もゲイン調整器14,15を介して減算器19,20に入力される。
【0025】
各電流補償器21,22は、それぞれ減算器19,20の出力を受け、ゲイン処理された速度指令と負帰還信号との差分とが0または0に近くなるように制御する回路である。このため2台の単位電力変換器間を環流する横流を最小化するよう動作する。
【0026】
第1の制御装置17は、第1の電流補償器21の出力とゲイン調整器25を介した第2の電流補償器22の出力とを減算器26で減算し、減算した値を単位電力変換器1でスイッチングする制御信号として出力する。第2の制御装置18は、第2の電流補償器22の出力とゲイン調整器23を介した第1の電流補償器21の出力とを加算器24で加算し、加算した値を単位電力変換器3でスイッチングする制御信号として出力する。
【0027】
各ゲイン調整器14,15,17,18,23,25でゲイン調整される値は、図1に示すように電流分担比であるmとnの値で表される。すなわち、各ゲイン調整器14,15,17,18,23,25は、各単位電力変換器1,3の出力する電流分担比に基づいてゲイン調整する。加算器12、24、減算器13、26および各ゲイン調整器14,15,17,18,23,25は、オペアンプやマイクロコンピュータなどを使用して構成する。上述した加算や減算は図1の+と−でも表しており、+と+では加算、+と−では減算となる。
【0028】
このように、第1の単位電力変換器1は2つの制御信号を生成するためのゲイン調節器14,17,25、電流補償器21,減算器26よりなる制御装置27によって、変換器間を環流する横流成分を零に制御され、電流分担値に応じた出力電流をそれぞれ発生するようにも制御される。また第2の単位電力変換器2は2つの制御信号を生成するためのゲイン調節器15,18,23、電流補償器22,加算器24よりなる制御装置28によって、単位電力変換器間を環流する横流成分を零に制御され、電流分担値に応じた出力電流をそれぞれ発生するようにも制御される。
【0029】
上記のように、結合リアクトル5は、第1の単位電力変換器1と第2の電力変換器3をそれぞれ入力点6、7に接続されている。入力点6から引き出し点8までの第1の巻線5aの巻線数は、入力点7から引き出し点8までの第2の巻線5bの巻線数に対して電流分担比の逆数に設定する。これらの巻線は同一鉄心29に同じ巻き向きに巻かれている(図2)。
【0030】
入力点6から流入する第1の電流I1と、入力点7から流入する第2の電流I2はそれぞれ引き出し点8に向って流れ、電流分担比の逆数に比例した巻線との間で磁束Φ1、Φ2を生じさせる。巻線5a,5bの向きを同一の方向とすれば、発生する磁束Φ1、Φ2は相殺し合い、リアクトルL分は小さな値と見え、2系統からの電流の結合は損失少なく実現できる。また、所定の電流分担値の電流と電流分担比の逆数に比例した巻線5a,5bとの間に発生する磁束Φ1、Φ2の相殺は、電流分担が所定値からずれた成分には、リアクトルL分の増加として働くので、ずれである循環電流成分(横流)を受動的に抑制するよう働く。
【0031】
微視的に見た電流I1、I2と発生磁束Φ1、Φ2の概略関係図を図3に示す。電力変換器1,3はパルス幅変調され回路にはリアクトルL分が存在するので、純粋な方形波状の電流とはならないが、模式図としては、電流分担に比例した波高値を持った電流と説明できる。
【0032】
ここで、結合リアクトル5における発生磁束Φ1、Φ2はそれぞれ入力点6から引き出し点8間の巻線数×I1、入力点7から引き出し点8間の巻線数×I2となる。巻線数を電流分担比の逆数に比例した値に設定し、かつ、両巻線を共通磁路を形成する鉄心に施し、搬送波を同期させて位相差を極力なくしてパルス波形を時間軸上で重ねるよう位相制御する。
【0033】
その場合、発生磁束Φ1、Φ2は多くの時間領域で相殺され、それぞれの電流分担比成分に対しては結合リアクトルL分を極小化して見え損失の少ない結合器として結合リアクトルは振る舞う。また、電流分担比を崩す成分である変換器間を環流する横流成分に対しては磁束相殺が不平衡となり、その成分に対しては結合リアクトルが大きなリアクトルLとして働き、横流抑制効果を発揮する。
【0034】
図4は、本願の制御法について回路解析ソフトを用いてシミュレーションした結果の一例である。台形状の電動機速度指令を与え、2台の単位電力変換器1,3の電流分担比を2:1と設定し、負荷への最大電流の分担をそれぞれ800Aと400A、合計1200Aとしたときの電流波形である。出力は三相交流のうちの一相であるU相の波形を代表として示す。IUallが結合リアクトルから取り出したU相電流の総和、IU1は単位電力変換器1が出力したU相電流成分、IU2は単位電力変換器3が出力したU相電流成分である。
【0035】
IU1とIU2はそれぞれ電流分担比である2:1の割合に分担制御されており、IUallはIU1とIU2の和になっていることが分かる。差成分である横流についてはIU1−2*IU2を示している。和電流IUallの最大値が1200A級に対して、横流は瞬間的な最大値でも15A程度に抑制できていることが分かる。
【0036】
本実施例によれば、並列接続された複数台数の電力変換器間を無駄に環流する横流を抑制制御しつつ、出力電流の異なる単位電力変換器の組み合わせ構成を可能と出来る。
【0037】
また、複数台の電力変換器出力を合成する結合リアクトルの巻線数を電流分担比の逆数とし同一磁路に配置する構成と、電流位相を制御することにより主電流自体によっても横流を抑制することが可能となる。
【0038】
なお、電流分担比が異なる単位電力変換器の組み合わせを可能とした電力変換システムでは、あらかじめ単位電力変換器を数種類用意しておけば、短期間で所望の電力変換装置を無駄なく構築出来、装置の原価低減を図ることができる。
【0039】
電流分担比のmとnが異なる場合を説明したが、mとnが同じである場合であっても、本発明のシステム30を利用することはできる。
【0040】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【符号の説明】
【0041】
1、3:単位電力変換器
2、4:直流電源
5:結合リアクトル
5a、5b:巻線
6、7:単位電力変換器からの電流の入力点
8:結合電流の引き出し点
9:負荷
10、11:電流検出器
12:加算器
13:減算器
14、15、17、18、23、25:ゲイン調整器
16:総和の電流指令が入力される端子
19、20、24、26:信号加算器
21、22:電流補償器
27、28:制御装置
29:結合リアクトルの鉄心
30:電力変換システム
I1、I2:単位電力変換器の出力電流
IUall:U相の総和電流
IU1、IU2:単位変換器のU相電流
Φ1、Φ2:結合リアクトル内の磁束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電流を出力する第1の単位電力変換器と、
第2の電流を出力する第2の単位電力変換器と、
前記第1の単位電力変換器の出力が入力される第1の巻線および第2の単位電力変換器の出力が入力される第2の巻線とを有し、入力を合成して負荷に給電する結合リアクトルと、
前記第1の単位電力変換器の電流指令と第1の電流および第2の電流の検出値の和成分との差が0または0に近づくように補償する第1の電流補償器を設け、第1の単位電力変換器を制御する第1の制御装置と、
前記第2の単位電力変換器の電流指令と第1の電流および第2の電流の検出値との差成分との差が0または0に近づくように補償する第2の電流補償器を設け、第2の単位電力変換器を制御する第2の制御装置と、
を備え、
前記第1の制御装置は、
前記第1の電流補償器の出力と第1の電流と第2の電流の分担比に応じてゲイン調整した第2の電流補償器の出力との差に基づいて第1の単位電力変換器を制御し、
前記第2の制御装置は、
前記第2の電流補償器の出力と第1の電流と第2の電流の分担比に応じてゲイン調整した前記第1の電流補償器の出力との和に基づいて第2の単位電力変換器を制御する
電力変換システム。
【請求項2】
前記結合リアクトルの第1の巻線の巻線数と第2の巻線の巻線数は、それぞれ第1の電流と第2の電流の出力分担電流比の逆数に比例し、共通磁路を有する鉄心に巻かれるよう構築されていることを特徴とする請求項1に記載の電力変換システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−51842(P2013−51842A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188937(P2011−188937)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月5日 社団法人電気学会発行の「平成23年 電気学会全国大会 講演論文集」に発表
【出願人】(506158197)公立大学法人 滋賀県立大学 (29)
【Fターム(参考)】