説明

電力変換装置およびその制御方法

【課題】高品質な電力に変換できる電力変換装置およびその制御方法を提供すること。
【解決手段】電力変換装置は、複数のスイッチング素子を有する電力変換部10と、3相交流電源2から電力変換部10へ入力される電流を制御する入力電流指令Ir*,Is*,It*を生成する入力電流指令生成部23と、入力電流指令Ir*,Is*,It*に基づき前記複数のスイッチング素子を駆動するゲート信号Sgを出力するゲート信号演算器24とを備える。入力電流指令生成部23は、3相交流電源2の電圧に含まれる振動成分を検出する。入力電流指令生成部23は、検出した振動成分に基づき、振動成分の正相成分を抑制する正相振動補償成分と、振動成分の逆相成分を抑制する逆相振動補償成分とを生成する。そして、入力電流指令生成部23は、正相振動補償成分および逆相振動補償成分を含む入力電流指令Ir*,Is*,It*を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力変換装置として、例えば、交流電源の電力を直流電力へ変換するコンバータ装置や、交流電源の電力を任意の周波数・電圧の交流電力へ直接変換するマトリクスコンバータなどが知られている。
【0003】
電力変換装置は、半導体スイッチなどのスイッチング素子をスイッチングすることによって電力変換を行うことから、スイッチングに起因する高調波ノイズが発生する。そこで、従来の電力変換装置においては、入力側にフィルタを配置することで、スイッチングに起因する高調波ノイズを除去している(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−354815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の電力変換装置では、入力電圧に振動成分が含まれる場合、かかる振動成分によって電力品質が低下するという問題があった。例えば、入力側に配置したフィルタを構成するリアクトルとキャパシタによって共振現象が発生した場合、入力電圧に共振成分が含まれることによって入力電流の高調波成分が増加したり、マトリクスコンバータでは、入力電圧の振動成分によって出力電圧精度が低下したりする場合がある。さらに、交流電源や配線に内在するリアクタンスや浮遊容量によって入力電圧に含まれる振動成分が変化する場合がある。
【0006】
開示の技術は、高品質な電力に変換できる電力変換装置およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の開示する電力変換装置は、一つの態様において、複数のスイッチング素子を有する電力変換部と、3相交流電源から前記電力変換部へ入力される電流を制御する入力電流指令を生成する入力電流指令生成部と、前記入力電流指令に基づき前記複数のスイッチング素子を駆動するゲート信号を出力するゲート信号演算器とを備え、前記入力電流指令生成部は、前記3相交流電源の電圧に含まれる振動成分を検出する振動成分検出器と、前記振動成分検出器によって検出された前記振動成分に基づき、前記振動成分の正相成分を抑制する正相振動補償成分と、前記振動成分の逆相成分を抑制する逆相振動補償成分とを生成する振動補償成分生成器と、前記正相振動補償成分および前記逆相振動補償成分を含む前記入力電流指令を生成する生成器とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本願の開示する電力変換装置の一つの態様によれば、高品質な電力に変換できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、第1の実施形態に係る電力変換装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、図1に示す双方向スイッチの一例を示す図である。
【図3】図3は、図1に示す制御部の一例を示す図である。
【図4】図4は、図3に示す共振補償成分生成器の一例を示す図である。
【図5】図5は、図3に示す共振周波数検出器の一例を示す図である。
【図6】図6は、第2の実施形態に係る制御部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、添付図面を参照して、本願の開示する電力変換装置およびその制御方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態における例示で本発明が限定されるものではない。
【0011】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る電力変換装置の構成について、図1を参照して説明する。図1は、第1の実施形態に係る電力変換装置の構成を示す図である。なお、以下においては、電力変換装置として、マトリクスコンバータを一例に挙げて説明する。入力電圧に含まれる振動成分として、共振成分を一例に挙げて説明する。
【0012】
図1に示すように、マトリクスコンバータ1は、電力変換部10と、入力電圧検出部11と、入力フィルタ12と、出力電流検出部13と、制御部20とを備える。かかるマトリクスコンバータ1は、3相交流電源2と電動機3との間に設けられ、電力変換部10に設けられたスイッチング素子をスイッチングすることによって、3相交流電源2の交流電圧から所定の周波数および電圧を生成し、電動機3へ供給する。
【0013】
電力変換部10は、3相交流電源2の各相と電動機3の各相とを接続するスイッチング素子である双方向スイッチS1〜S9(以下、双方向スイッチSと総称する場合がある)を備える。双方向スイッチS1〜S3は、3相交流電源2のR相,S相,T相と電動機3のU相とをそれぞれ接続する。双方向スイッチS4〜S6は、3相交流電源2のR相,S相,T相と電動機3のV相とをそれぞれ接続する。双方向スイッチS7〜S9は、3相交流電源2のR相,S相,T相と電動機3のW相とをそれぞれ接続する。
【0014】
双方向スイッチSは、例えば、図2に示すように、ダイオードD1,D2と、単一方向のスイッチング素子Q1,Q2によって構成することができる。図2は、図1に示す双方向スイッチSの一例を示す図である。スイッチング素子Q1,Q2として、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体スイッチが用いられる。そして、かかる半導体スイッチのゲートに信号を入力して各半導体スイッチをON/OFFすることで、通電方向が制御される。なお、双方向スイッチSは、図2に示す構成に限定されるものではなく、例えば、単一方向のスイッチング素子を互いに逆方向に並列接続した構成であってもよい。
【0015】
入力電圧検出部11は、3相交流電源2からマトリクスコンバータ1へ入力される電圧(以下、入力電圧と記載する)を検出する。具体的には、入力電圧検出部11は、3相交流電源2の各相電圧の瞬時値Er,Es,Et(以下、入力相電圧値Er,Es,Etと記載する)を検出する。入力相電圧値ErはR相電圧の瞬時値、入力相電圧値EsはS相電圧の瞬時値、入力相電圧値EtはT相電圧の瞬時値である。なお、入力電圧検出部11は、図1に示すものに限定されるものではなく、前記入力相のうち2相分の線間電圧の値を検出し、かかる線間電圧の値に基づいて入力相電圧値Er,Es,Etを演算する構成とし入力電圧を検出するようにしてもよい。
【0016】
入力フィルタ12は、3相交流リアクトル12aと3相交流キャパシタ12bを備え、双方向スイッチS1〜S9のスイッチングに起因する高調波を除去する。3相交流リアクトル12aは、リアクトルL1,L2,L3を備える。リアクトルL1,L2,L3は、それぞれ3相交流電源2のR相,S相,T相と電力変換部10との間に設けられる。また、3相交流キャパシタ12bは、キャパシタC1,C2,C3を備える。キャパシタC1はR相とS相との間、キャパシタC2はS相とT相との間、キャパシタC3はT相とR相との間にそれぞれ接続される。
【0017】
出力電流検出部13は、電力変換部10と電動機3との間に流れる電流を検出する。具体的には、出力電流検出部13は、電力変換部10と電動機3のU相,V相,W相の各相との間に流れる電流の瞬時値Iu,Iv,Iw(以下、出力相電流値Iu,Iv,Iwと記載する)を検出する。なお、出力電流検出部13として、例えば、磁電変換素子であるホール素子を利用して電流を検出する電流センサを用いることができる。出力相電流値IuはU相電流の瞬時値、出力相電流値IvはV相電流の瞬時値、出力相電流値IwはW相電流の瞬時値である。
【0018】
制御部20は、電動機3の角速度指令ω*、入力力率指令φ、入力相電圧値Er,Es,Etおよび出力相電流値Iu,Iv,Iwに基づいて、双方向スイッチS1〜S9の各スイッチング素子のオン/オフを行うゲート信号Sgを生成する。なお、制御部20は、入力相電圧値Er,Es,Etを入力電圧検出部11から取得し、出力相電流値Iu,Iv,Iwを出力電流検出部13から取得する。また、入力力率指令φは、図示しない設定器によって制御部20に設定される。
【0019】
制御部20は、位相検出器21と、出力電圧指令生成部22と、入力電流指令生成部23と、ゲート信号演算器24とを備える。
【0020】
位相検出器21は、PLL(Phase Locked Loop)を備えており、3相交流電源2の周波数frst(以下、入力電圧周波数frstと記載する)および3相交流電源2の電圧位相θrst(以下、入力電圧位相θrstと記載する)を検出する。
【0021】
出力電圧指令生成部22は、角速度指令ω*を入力し、かかる角速度指令ω*に応じた3相の出力電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を生成する。出力電圧指令Vu*はU相の出力電圧指令、出力電圧指令Vv*はV相の出力電圧指令、出力電圧指令Vw*はW相の出力電圧指令である。
【0022】
出力電圧指令生成部22は、上記出力電圧指令演算として、V/f制御あるいはベクトル制御を行う。V/f制御は、電動機3の周波数と電圧の特性に基づいて出力電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を生成する制御である。また、ベクトル制御は磁束成分とそれに直交するトルク成分に基づき出力電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を生成する制御である。なお、これらの制御は、いずれも周知な制御方式であるので詳細な説明は省略する。
【0023】
なお、角速度指令ω*は、マトリクスコンバータ1の図示しない速度指令演算部によって生成され、この速度指令演算部から出力電圧指令生成部22へ出力される。速度指令演算部は、例えば、マトリクスコンバータ1の図示しない操作パネルへの使用者による操作に応じて操作パネルから出力される操作情報に基づいて角速度指令ω*を演算して出力する。
【0024】
入力電流指令生成部23は、入力力率指令φと、入力相電圧値Er,Es,Etと、入力電圧位相θrstとに基づいて、3相の入力電流指令Ir*,Is*,It*を演算し、かかる入力電流指令Ir*,Is*,It*をゲート信号演算器24へ出力する。入力電流指令Ir*はR相の電流を制御する入力電流指令、入力電流指令Is*はS相の電流を制御する入力電流指令、入力電流指令It*はT相の電流を制御する入力電流指令である。なお、入力電流指令生成部23は、入力相電圧値Er,Es,Etを入力電圧検出部11から取得し、入力電圧位相θrstを位相検出器21から取得する。
【0025】
入力電流指令生成部23によって生成される入力電流指令Ir*,Is*,It*には、後述するように、3相交流電源2と入力フィルタ12とによって発生する共振現象を抑制する成分である正相振動補償成分と逆相振動補償成分とが含まれる。正相振動補償成分は、共振成分の正相成分を抑制する成分であり、逆相振動補償成分は、共振成分の逆相成分を抑制する成分である。
【0026】
このように、正相振動補償成分と逆相振動補償成分とを入力電流指令Ir*,Is*,It*に含むことで、高品質な電力を出力させることができる。すなわち、入力電圧の共振成分が3相不平衡となる場合、正相振動補償成分のみであれば、共振成分の逆相成分によって共振現象の抑制効果が低くなるが、正相振動補償成分に加えさらに逆相振動補償成分をも含むことで、共振現象の抑制効果を高めることができる。
【0027】
さらに、入力電流指令Ir*,Is*,It*に含まれる正相振動補償成分および逆相振動補償成分は、入力電流指令生成部23によってそれぞれむだ時間に応じた位相補償が施される。そのため、入力電圧の共振成分が3相不平衡となる場合においても、共振抑制特性を低下させるむだ時間の影響を排除することができ、共振現象を効果的に抑制することができる。かかる入力電流指令生成部23の構成については、後で詳述する。
【0028】
ゲート信号演算器24は、位相検出器21から入力電圧位相θrstを取得し、出力電圧指令生成部22から出力電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を取得し、入力電流指令生成部23から入力電流指令Ir*,Is*,It*を取得する。また、ゲート信号演算器24は、入力電圧検出部11から入力相電圧値Er,Es,Etを取得し、出力電流検出部13から出力相電流値Iu,Iv,Iwを取得する。
【0029】
そして、ゲート信号演算器24は、入力電流指令Ir*,Is*,It*、出力電圧指令Vu*,Vv*,Vw*、入力相電圧値Er,Es,Et、入力電圧位相θrstおよび出力相電流値Iu,Iv,Iwに基づいて、ゲート信号Sgを生成する。以下、ゲート信号演算器24によるゲート信号Sgの生成について具体的に説明する。
【0030】
ゲート信号演算器24は、3相の入力電流指令Ir*,Is*,It*から電流分配率αを求める。そのため、まず、ゲート信号演算器24は、入力電流指令Ir*,Is*,It*の中で最大値になる入力電流指令の値(以下、Iと記載する)、中間値になる入力電流指令の値(以下、Iと記載する)、最小値になる入力電流指令の値(以下、Iと記載する)を判別する。
【0031】
また、ゲート信号演算器24は、入力電圧位相θrstに基づいて、E、E、Ebaseを判別する。Eは、入力相電圧値Er,Es,Etの中で最大値になる入力相電圧値(以下、Eと記載する)、Eは、入力相電圧値Er,Es,Etの中で最小値になる入力相電圧値(以下、Eと記載する)である。また、Ebaseは、入力相電圧値Er,Es,Etの中で絶対値が最大値になる入力相電圧値(以下、Ebaseと記載する)である。
【0032】
ゲート信号演算器24は、EbaseがEの場合、下記式(1)に基づいて、電流分配率αを求め、EbaseがEの場合、下記式(2)に基づいて、電流分配率αを求める。
α=I/I ・・・(1)
α=I/I ・・・(2)
【0033】
そして、ゲート信号演算器24は、出力電圧指令Vu*,Vv*,Vw*、入力相電圧値Er,Es,Etおよび入力電圧位相θrstに基づいて、電流分配率αに応じた入力電流が流れるように、ゲート信号Sgを生成する。また、ゲート信号演算器24は、ゲート信号Sgの生成を、入力の短絡状態や出力の開放状態を避けることができるように、出力相電流値Iu,Iv,Iwに基づいて、出力電流の極性を判断して行う。
【0034】
[入力電流指令生成部23の構成]
次に、入力電流指令生成部23の具体的な構成について説明する。図3は、入力電流指令生成部23の一例を示す図である。入力電流指令生成部23は、上述したように、3相交流電源2と入力フィルタ12との間の共振現象を抑制する成分である正相振動補償成分と逆相振動補償成分を含む入力電流指令Ir*,Is*,It*を生成する。
【0035】
図3に示すように、入力電流指令生成部23は、回転座標変換器31と、成分検出器32と、共振周波数検出器33と、位相補償演算器34と、共振補償成分生成器35と、入力電流指令出力器36とを備える。なお、成分検出器32は振動成分検出器に対応し、共振補償成分生成器35は振動補償成分生成器に対応し、入力電流指令出力器36は出力器に対応する。
【0036】
回転座標変換器31は、入力電圧位相θrstに基づいて入力相電圧値Er,Es,Etを回転座標変換することにより、回転座標系上のd軸電圧成分Vdとq軸電圧成分Vqに変換する。回転座標変換器31は、例えば、下記式(3)に示す座標変換行列[c1]に基づいた演算処理によって、入力相電圧値Er,Es,Etをd軸電圧成分Vdとq軸電圧成分Vqに変換する。
【数1】

【0037】
d軸電圧成分Vdおよびq軸電圧成分Vqにおいて、3相交流電源2の基本波成分は直流成分として現れ、共振成分は直流成分に重畳されたリプル成分として現れる。これは、入力電圧位相θrstに基づいて回転座標変換しているからである。成分検出器32は、かかるリプル成分をd軸電圧成分Vdおよびq軸電圧成分Vqから分離することによって、入力電圧の共振成分Vdh,Vqhおよび入力電圧の基本波成分Vdl,Vqlを求める。
【0038】
具体的には、成分検出器32は、ローパスフィルタ32a,32bおよび減算器32c,32dを備える。ローパスフィルタ32aは、d軸電圧成分Vdからリップル成分を除去することによって、d軸方向における入力電圧の基本波成分Vdl(以下、d軸基本波成分Vd1と記載する)を抽出する。また、減算器32cは、d軸電圧成分Vdからd軸基本波成分Vdlを減算することによって、d軸方向における入力電圧の共振成分Vdh(以下、d軸共振成分Vdhと記載する)を抽出する。
【0039】
一方、ローパスフィルタ32bは、q軸電圧成分Vqからリップル成分を除去することによって、q軸方向における入力電圧の基本波成分Vql(以下、q軸基本波成分Vqlと記載する)を抽出する。また、減算器32dは、q軸電圧成分Vqからq軸基本波成分Vqlを減算することによって、q軸方向における入力電圧の共振成分Vqh(以下、q軸共振成分Vqhと記載する)を抽出する。
【0040】
共振周波数検出器33は、入力相電圧値Erに基づき、入力電圧に重畳された共振成分の角周波数ωc(以下、共振周波数ωcと記載する)を求める。かかる共振周波数ωcの情報は、共振周波数検出器33から位相補償演算器34および共振補償成分生成器35へ入力される。なお、ここでは、共振周波数検出器33は、入力相電圧値Erに基づき、共振周波数ωcを求めることとしたが、これに限定されるものではない。例えば、入力相電圧値Esや入力相電圧値Etに基づいて、共振周波数検出器33が共振周波数ωcを求めるようにしてもよい。
【0041】
位相補償演算器34は、共振周波数検出器33から出力される共振周波数ωcの情報に基づいて、位相補償量dθを演算する。例えば、位相補償演算器34は、下記式(4)に示す演算式に基づく演算処理によって、位相補償量dθを演算する。なお、下記式(4)において、Tkは制御系内のむだ時間である。ここで、むだ時間Tkは、入力電圧検出部11による検出処理時間、回転座標変換器31、成分検出器32および共振補償成分生成器35による演算処理時間を含む。
dθ=ωc×Tk ・・・(4)
【0042】
共振補償成分生成器35は、d軸共振成分Vdh、q軸共振成分Vqh、共振周波数ωcおよび位相補償量dθに基づいて、d軸共振補償成分Vdh’およびq軸共振補償成分Vqh’を求める。d軸共振補償成分Vdh’は、入力電圧に含まれる共振成分のうちd軸成分を抑制する成分であり、q軸共振補償成分Vqh’は、入力電圧に含まれる共振成分のうちq軸成分を抑制する成分である。なお、共振補償成分生成器35の具体的な構成については、後で詳述する。
【0043】
入力電流指令出力器36は、減算器36a,36bと、逆回転座標変換器36cと、加算器36dとを備え、次のように、共振補償成分を含む入力電流指令Ir*,Is*,It*を生成する。
【0044】
減算器36aは、基本波成分Vdlからd軸共振補償成分Vdh’を減算して、共振補償を施したd軸電圧成分Vd’を生成する。また、減算器36bは、基本波成分Vqlからq軸共振補償成分Vqh’を減算して、共振補償を施したq軸電圧成分Vq’を生成する。
【0045】
減算器36a,36bによって生成されたd軸電圧成分Vd’およびq軸電圧成分Vq’は、逆回転座標変換器36cへ入力される。逆回転座標変換器36cは、調整入力電圧位相θrst’に基づいてd軸電圧成分Vd’およびq軸電圧成分Vq’を座標変換することにより、3相の入力電流指令Ir*,Is*,It*を求める。例えば、回転座標変換器31は、下記式(5)に示す座標変換行列[c2]に基づく演算処理によって、d軸電圧成分Vd’およびq軸電圧成分Vq’を入力電流指令Ir*,Is*,It*へ変換する。
【数2】

【0046】
加算器36dは、上記調整入力電圧位相θrst’を、入力電圧位相θrstと入力力率指令φとに基づいて生成する。具体的には、加算器36dは、位相検出器21から出力された入力電圧位相θrstに、入力力率指令φを加算することによって、調整入力電圧位相θrst’を生成する。このように、入力電圧位相θrstに入力力率指令φを加えることによって、入力電流を入力力率指令φに応じた入力力率に調整することができる。例えば、入力力率指令φを0とすることで、入力力率を1とすることができる。
【0047】
このように、入力電流指令生成部23は、3相交流電源2と入力フィルタ12との間で発生する共振による影響を抑制する共振補償成分を含む3相の入力電流指令Ir*,Is*,It*を生成する。
【0048】
[共振補償成分生成器35の構成]
次に、共振補償成分生成器35の構成について具体的に説明する。共振補償成分生成器35は、入力電圧の共振成分Vdh,Vqhを4つに分解して処理する。
【0049】
具体的には、共振補償成分生成器35は、入力電圧の共振成分Vdh,Vqhを、共振周波数ωcに同期して位相が回転する正相成分のd軸成分およびq軸成分と、共振周波数ωcに対して位相が逆方向に回転する逆相成分のd軸成分およびq軸成分とに分解する。
【0050】
そして、共振補償成分生成器35は、正相および逆相のd軸成分およびq軸成分に対してそれぞれ処理を施す。これにより、入力電圧の共振成分が3相不平衡となる場合に、共振現象を効果的に抑制する共振補償成分を生成する。
【0051】
図4は、共振補償成分生成器35の一例を示す図である。図4に示すように、共振補償成分生成器35は、位相演算器40、分解処理器41と、補償成分生成器42と、合成処理器43とを備える。
【0052】
位相演算器40は、正相成分位相演算器50aおよび逆相成分位相演算器50bを備える。正相成分位相演算器50aは、共振周波数検出器33によって検出された共振周波数ωcに対して周波数補正を行い、さらに積分演算を行うことによって、正相成分位相θpを求める。また、逆相成分位相演算器50bは、−1を乗じた共振周波数ωcに対して周波数補正を施して積分演算することによって、逆相成分位相θmを求める。なお、位相演算器40が共振周波数ωcに対して周波数補正を行うのは、回転座標変換器31において行われた回転座標変換の影響を排除するためである。
【0053】
具体的には、正相成分位相演算器50aは、例えば、下記式(6)に基づく演算処理によって、正相成分位相θpを求める。また、逆相成分位相演算器50bは、例えば、下記式(7)に基づく演算処理によって、逆相成分位相θmを求める。なお、式(6),(7)において、入力電圧周波数frstは、回転座標変換器31の回転周波数、すなわち3相交流電源2の周波数である。
【数3】

【0054】
分解処理器41は、正相成分変換器51a、逆相成分変換器51bおよびローパスフィルタ52a〜52dを備える。正相成分変換器51aは、正相成分位相θpに基づいて、入力電圧の共振成分Vdh,Vqhを回転座標変換する。例えば、正相成分変換器51aは、下記式(8)に示す座標変換行列[c3]に基づく演算処理によって、入力電圧の共振成分Vdh,Vqhの回転座標変換を行う。
【数4】

【0055】
入力電圧の共振成分Vdh,Vqhに含まれる逆相成分は、正相成分変換器51aによる回転座標変換の2倍の周波数を有するリップル成分として現れる。そのため、ローパスフィルタ52a,52bが設けられる。すなわち、ローパスフィルタ52a,52bは、正相成分変換器51aの出力からリップル成分を除去することによって、正相成分のd軸電圧成分Vdpおよび正相成分のq軸電圧成分Vqpを抽出する。
【0056】
逆相成分変換器51bは、逆相成分位相θmに基づいて、入力電圧の共振成分Vdh,Vqhを回転座標変換する。例えば、逆相成分変換器51bは、下記式(9)に示す座標変換行列[c4]に基づく演算処理によって、入力電圧の共振成分Vdh,Vqhの回転座標変換を行う。
【数5】

【0057】
入力電圧の共振成分Vdh,Vqhに含まれる正相成分は、逆相成分変換器51bによる回転座標変換の2倍の周波数を有するリップル成分として現れる。そのため、ローパスフィルタ52c,52dが設けられる。すなわち、ローパスフィルタ52c,52dは、逆相成分変換器51bの出力からリップル成分を除去することによって、逆相成分のd軸電圧成分Vdmおよびq軸電圧成分Vqmを抽出する。
【0058】
このように、分解処理器41は、入力電圧の共振成分Vdh,Vqhを、正相成分のd軸電圧成分Vdpおよびq軸電圧成分Vqp、逆相成分のd軸電圧成分Vdmおよびq軸電圧成分Vqmの4つに分解する。これにより、入力電圧の共振成分はすべて直流量に変換される。そのため、共振周波数ωcに対して演算周期が長い場合でも、制御性能を低下させずに、共振現象を抑制させる共振補償成分を生成することができる。
【0059】
補償成分生成器42は、各成分Vdp,Vqp,Vdm,Vqmを、それぞれ共振成分の振幅指令Wdp,Wqp,Wdm,Wqmと比較して、比例積分制御(以下、PI制御と記載する)を行う。これにより、補償成分生成器42において、各成分の共振補償成分Vdp’,Vqp’,Vdm’,Vqm’が生成される。
【0060】
かかる補償成分生成器42は、正相補償成分生成器42aおよび逆相補償成分生成器42bを備える。正相成分のd軸電圧成分Vdpおよびq軸電圧成分Vqpは、分解処理器41から正相補償成分生成器42aへ出力される。また、逆相成分のd軸電圧成分Vdmおよびq軸電圧成分Vqmは、分解処理器41から逆相補償成分生成器42bへ出力される。
【0061】
正相補償成分生成器42aは、減算器53a,53b、振幅指令出力器54a,54bおよびPI制御器55a,55bを備える。かかる正相補償成分生成器42aは、正相成分のd軸電圧成分Vdpおよびq軸電圧成分Vqpを振幅指令Wdp,Wqpと比較した結果に基づいて、正相成分の共振補償成分であるd軸正相共振補償成分Vdp’およびq軸正相共振補償成分Vqp’を求める。
【0062】
具体的には、減算器53aは、振幅指令出力器54aから出力された振幅指令Wdpから、正相成分のd軸電圧成分Vdpを減算する。PI制御器55aは、減算器53aによる減算結果に対してPI制御を行うことによって、d軸正相共振補償成分Vdp’を生成する。また、減算器53bは、振幅指令出力器54bから出力された振幅指令Wqpから、正相成分のq軸電圧成分Vqpを減算する。PI制御器55bは、減算器53bによる減算結果に対してPI制御を行うことによって、q軸正相共振補償成分Vqp’を生成する。
【0063】
d軸正相共振補償成分Vdp’は、正相成分のd軸電圧成分Vdpを振幅指令Wdpと一致させる機能を有する。また、q軸正相共振補償成分Vqp’は、正相成分のq軸電圧成分Vqpを振幅指令Wqpと一致させる機能を有する。ここでは、振幅指令Wdp,振幅指令Wqpをゼロとしており、これにより、正相成分のd軸電圧成分Vdpおよびq軸電圧成分Vqpの振幅をゼロにするd軸正相共振補償成分Vdp’およびq軸正相共振補償成分Vqp’が生成される。
【0064】
逆相補償成分生成器42bは、減算器53c,53d、振幅指令出力器54c,54dおよびPI制御部55c,55dを備える。かかる逆相補償成分生成器42bは、逆相成分のd軸電圧成分Vdmおよびq軸電圧成分Vqmを振幅指令Wdm,Wqmと比較した結果に基づいて、逆相成分の共振補償成分であるd軸逆相共振補償成分Vdm’およびq軸逆相共振補償成分Vqm’を求める。
【0065】
具体的には、減算器53cは、振幅指令出力器54cから出力された振幅指令Wdmから、逆相成分のd軸電圧成分Vdmを減算する。PI制御器55cは、減算器53cによる減算結果に対してPI制御を行うことによって、d軸逆相共振補償成分Vdm’を生成する。また、減算器53dは、振幅指令出力器54dから出力された振幅指令Wqmから、逆相成分のq軸電圧成分Vqmを減算する。PI制御器55dは、減算器53dによる減算結果に対してPI制御を行うことによって、逆相成分のq軸逆相共振補償成分Vqm’を生成する。
【0066】
d軸逆相共振補償成分Vdm’は、逆相成分のd軸電圧成分Vdmを振幅指令Wdmと一致させる機能を有する。また、q軸逆相共振補償成分Vqm’は、逆相成分のq軸電圧成分Vqmを振幅指令Wqmと一致させる機能を有する。ここでは、振幅指令Wdm,振幅指令Wqmをゼロとしており、これにより、逆相成分のd軸電圧成分Vdmおよびq軸電圧成分Vqmの振幅をゼロにするd軸逆相共振補償成分Vdm’およびq軸逆相共振補償成分Vqm’が生成される。
【0067】
合成処理器43は、加算器56a,減算器56b、正相成分逆変換器57a、逆相成分逆変換器57bおよび加算器58a,58bを備える。かかる合成処理器43は、上記共振補償成分Vdp’,Vqp’,Vdm’,Vqm’、正相成分位相θp、逆相成分位相θmおよび位相補償量dθに基づいて、むだ時間Tkに応じて位相補償を施した共振補償成分Vdh’,Vqh’を求める。
【0068】
具体的には、加算器56aは、正相成分位相θpに位相補償量dθを加算することによって、正相成分補償位相θp’を求める。かかる正相成分補償位相θp’に基づいて、正相成分逆変換器57aは、d軸正相共振補償成分Vdp’およびq軸正相共振補償成分Vqp’を逆座標変換する。正相成分逆変換器57aは、例えば、下記式(10)に示す座標変換行列[c5]に基づいた演算処理によって、上記逆座標変換を行う。
【数6】

【0069】
また、減算器56bは、逆相成分位相θmから位相補償量dθを減算することによって、逆相成分補償位相θm’を求める。かかる逆相成分補償位相θm’に基づいて、逆相成分逆変換器57bは、d軸逆相共振補償成分Vdm’およびq軸逆相共振補償成分Vqm’を逆座標変換する。逆相成分逆変換器57bは、例えば、下記式(11)に示す座標変換行列[c6]に基づいた演算処理によって、上記逆座標変換を行う。
【数7】

【0070】
そして、加算器58aは、正相成分逆変換器57aによるd軸正相共振補償成分Vdp’の逆座標変換結果と、逆相成分逆変換器57bによるd軸逆相共振補償成分Vdm’の逆座標変換結果とを加算することによって、d軸共振補償成分Vdh’を生成する。また、加算器58bは、正相成分逆変換器57aによるq軸正相共振補償成分Vqp’の逆座標変換結果と、逆相成分逆変換器57bによるq軸逆相共振補償成分Vqm’の逆座標変換結果とを加算することによって、q軸共振補償成分Vqh’を生成する。
【0071】
以上のように、共振補償成分生成器35では、共振成分の正相成分を抑制する正相共振補償成分Vdp’,Vqp’と、共振成分の逆相成分を抑制する逆相共振補償成分Vdm’,Vqm’とを生成する。したがって、入力電圧の共振成分が3相不平衡となる場合においても、共振現象の抑制効果を高めることができる。
【0072】
しかも、共振補償成分生成器35では、正相共振補償成分および逆相共振補償成分に対してむだ時間Tkに応じた位相補償が施される。したがって、入力電圧の共振成分が3相不平衡となる場合においても、共振抑制特性を低下させるむだ時間Tkの影響を排除することができ、共振現象を効果的に抑制することができる。
【0073】
また、共振補償成分生成器35では、むだ時間Tkと共振周波数ωcとに基づき、正相共振補償成分と逆相共振補償成分とを逆座標変換することによって、位相補償を施した正相振動補償成分および逆相振動補償成分を生成する。そのため、複雑な構成を持つことなく、位相補償を施した正相振動補償成分と逆相振動補償成分を生成することができる。ただし、位相補償を施した正相振動補償成分および逆相振動補償成分の生成は、これに限定されるものではない。
【0074】
例えば、分解処理器41において、共振成分の正相成分および逆相成分に対して位相制御を行うことで、位相補償を施した正相振動補償成分と逆相振動補償成分を生成するようにしてもよい。この場合、分解処理器41は、むだ時間Tkと共振周波数ωcとに基づき、共振成分の正相成分および逆相成分を求め、合成処理器43においては、共振周波数ωcに基づき、正相共振補償成分と逆相共振補償成分とを逆座標変換する。
【0075】
また、合成処理器43や分解処理器41で位相補償の処理を行わずに、例えば、分解処理器41と補償成分生成器42との間に位相補償フィルタを設け、分解処理器41から出力される各成分Vdp,Vqp,Vdm,Vqmに位相補償を施すようにしてもよい。また、補償成分生成器42と合成処理器43の間に位相補償フィルタを設け、補償成分生成器42から出力される各成分Vdp’,Vqp’,Vdm’,Vqm’に位相補償を施すようにしてもよい。
【0076】
また、共振補償成分生成器35では、共振周波数検出器33によって繰り返し検出される共振周波数ωcに基づいて、位相補償を施した正相振動補償成分と逆相振動補償成分を生成する。そのため、共振周波数ωcが変動した場合であっても、共振現象を抑制する正相振動補償成分と逆相振動補償成分を精度よく生成することが可能となる。
【0077】
[共振周波数検出器33の構成]
次に、共振周波数検出器33の構成について具体的に説明する。図5は、共振周波数検出器33の一例を示す図である。
【0078】
図5に示すように、共振周波数検出器33は、ハイパスフィルタ60と、ゼロクロス検出器61,67と、積分器62,65,68と、減算器63と、PI制御器64と、正弦波発生器66と、ローパスフィルタ69とを備える。なお、ゼロクロス検出器61が第2のゼロクロス検出器に対応し、ゼロクロス検出器67が第1のゼロクロス検出器に対応し、積分器62が第2の積分器に対応し、積分器65が第1の積分器に対応し、積分器68が第3の積分器に対応する。
【0079】
かかる共振周波数検出器33は、入力されたR相電圧値Erに基づいて、共振周波数ωcを検出する。具体的には、ハイパスフィルタ60は、入力されたR相電圧値Erから周波数の低い3相交流電源2の基本波成分を除去し、共振成分Vrhを抽出する。かかる共振成分Vrhは、ハイパスフィルタ60からゼロクロス検出器61へ入力される。
【0080】
ゼロクロス検出器61は、共振成分Vrhがゼロクロスするタイミングでパルス信号を積分器62へ出力する。共振成分Vrhがゼロクロスするタイミングは、共振成分の半周期毎に発生する。積分器62は、ゼロクロス検出器61から出力されるパルス信号を積分することによって、共振成分Vrhがゼロクロスする回数の値(以下、ゼロクロス回数値Cpと記載する)をカウントする。
【0081】
積分器62は、ゼロクロス回数値Cpを減算器63へ出力する。また、後述するように、積分器68は、ゼロクロス回数値Crを減算器63へ出力する。減算器63は、ゼロクロス回数値Cpからゼロクロス回数値Crを減算し、PI制御器64へ出力する。
【0082】
PI制御器64は、減算器63の出力に対するPI制御を行って、ゼロクロス回数値Cpとゼロクロス回数値Crとの差分に応じた値(以下、差分値Cdifと記載する)とを出力する。これにより、共振周波数検出器33において、共振成分Vrhのゼロクロス回数値Cpと内部のゼロクロス回数値Crとの差がゼロになるように制御される。PI制御器64から出力された差分値Cdifは、ローパスフィルタ69へ入力され、かかるローパスフィルタ69によるフィルタリングによって、共振周波数ωcが抽出される。
【0083】
ここで、ゼロクロス回数値Crは次のように生成される。PI制御器64から出力された差分値Cdifは、積分器65へ入力される。積分器65は、差分値Cdifを積分して積分差分値INTdifを生成し、かかる積分差分値INTdifを正弦波発生器66へ出力する。正弦波発生器66は、積分差分値INTdifに応じた周波数の正弦波信号SIWを生成してゼロクロス検出器67へ出力する。
【0084】
ゼロクロス検出器67は、正弦波信号SIWがゼロクロスするタイミングでパルス信号を積分器68へ出力する。正弦波信号SIWがゼロクロスするタイミングは、正弦波信号SIWの半周期毎に発生する。積分器68は、ゼロクロス検出器67から出力されるパルス信号を積分することによって、正弦波信号SIWのゼロクロス回数の値であるゼロクロス回数値Crをカウントする。
【0085】
なお、共振周波数検出器33の一例として、図5に示す構成を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、フーリエ変換を行って共振周波数ωcを検出する共振周波数検出器を共振周波数検出器33として用いるようにしてもよい。
【0086】
以上のように、第1の実施形態に係る電力変換装置は、複数のスイッチング素子を有する電力変換部10と、3相交流電源2から電力変換部10へ入力される電流を制御するための入力電流指令Ir*,Is*,Itを生成する入力電流指令生成部23とを備える。
【0087】
そして、入力電流指令生成部23が生成する3相の入力電流指令Ir*,Is*,It*は、共振による影響を抑制する共振補償成分として正相共振補償成分および逆相共振補償成分を含む。したがって、入力電圧の共振成分が3相不平衡となる場合においても、共振現象の抑制効果を高めることができる。
【0088】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態の電力変換装置の構成について、図面を参照して説明する。第2の実施形態に係る電力変換装置は、周波数の異なる複数の共振現象を抑制することができる入力電流指令生成部を有する点で、第1の実施形態に係る電力変換装置と異なる。なお、以下においても、第1の実施形態と同様に、電力変換装置として、マトリクスコンバータを一例に挙げて説明する。また、第2の実施形態の電力変換装置は、入力電流指令生成部の構成が異なる以外は、第1の実施形態の電力変換装置と同じ構成であるため、以下においては、入力電流指令生成部について説明する。
【0089】
図6は、第2の実施形態に係る入力電流指令生成部の構成を示す図である。なお、図6においては、第1の実施形態に係る入力電流指令生成部23と同様の構成については、同一の符号を付している。
【0090】
図6に示すように、第2の実施形態に係る入力電流指令生成部23Aは、複数の共振補償成分生成器35−1〜35−nを備え、周波数の異なるn個の共振現象を抑制することができる。各共振補償成分生成器35−1〜35−nは、第1の実施形態の共振補償成分生成器35と同じ構成である。
【0091】
また、入力電流指令生成部23Aにおける共振周波数検出器33Aは、入力相電圧値Erに基づき、入力電圧に重畳された複数の共振成分の角周波数ωc1〜ωcn(以下、共振周波数ωc1〜ωcnと記載する)を求める。共振周波数検出器33Aは、例えば、フーリエ変換を行って共振周波数ωc1〜ωcnを検出するフーリエ変換器によって共振周波数検出器33Aを構成する。このようにすることで、共振周波数検出器33Aの設計を容易に行うことができる。
【0092】
また、入力電流指令生成部23Aにおける位相補償演算器34Aは、共振周波数検出器33Aによって検出された共振周波数ωc1〜ωcnに基づいて、位相補償量dθ1〜dθnを演算する。かかる位相補償演算器34Aは、各共振周波数ωc1〜ωcn毎に、それぞれ位相補償値を生成する位相補償演算器を備えており、各位相補償演算器によって各位相補償量dθ1〜dθnを生成する。なお、位相補償演算器34Aにおける各位相補償演算器の構成は、第1の実施形態の位相補償演算器34と同じ構成である。
【0093】
各共振補償成分生成器35−1〜35−nは、共振周波数ωc1〜ωcnおよび位相補償量dθ1〜dθnに基づいて、d軸共振補償成分Vdh’1〜Vdh’nおよびq軸共振補償成分Vqh’1〜Vqh’nを求める。例えば、共振補償成分生成器35−1は、共振周波数ωc1および位相補償量dθ1に基づいて、d軸共振補償成分Vdh’1およびq軸共振補償成分Vqh’1を求める。また、共振補償成分生成器35−nは、共振周波数ωcnおよび位相補償量dθnに基づいて、d軸共振補償成分Vdh’nおよびq軸共振補償成分Vqh’nを求める。
【0094】
各共振補償成分生成器35−1〜35−nによって生成されたd軸共振補償成分Vdh’1〜Vdh’nは、加算器80−2〜80−nによって加算され、減算器36aへ出力される。また、各共振補償成分生成器35−1〜35−nによって生成されたq軸共振補償成分Vqh’1〜Vqh’nは、加算器81−2〜81−nによって加算され、減算器36bへ出力される。
【0095】
減算器36aは、d軸方向における基本波成分Vdlから、d軸共振補償成分Vdh’1〜Vdh’nの加算値を減算することによって、d軸電圧成分Vd’を生成する。また、減算器36bは、q軸方向における基本波成分Vqlから、q軸共振補償成分Vqh’1〜Vqh’nの加算値を減算することによって、q軸電圧成分Vq’を生成する。これにより、各共振周波数ωc1〜ωcnを有するn個の共振現象を抑制する正相共振補償成分および逆相共振補償成分を含む入力電流指令Ir*,Is*,It*が生成される。
【0096】
このように、第2の実施形態に係る電力変換装置では、3相交流電源2の電圧に複数の共振成分が含まれる場合、各共振成分に対して共振補償成分を生成し、これら複数の共振補償成分を含む入力電流指令Ir*,Is*,It*を生成する。そのため、3相交流電源2の電圧に複数の共振成分が含まれる場合であっても、各共振現象を効果的に抑制することができる。
【0097】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【0098】
例えば、上述の実施形態においては、電力変換装置の一例として、マトリクスコンバータを説明したが、本発明の電力変換装置はこれに限定されるものではない。例えば、本発明の電力変換装置は、スイッチング素子を制御して交流電力を直流電力へ変換した後、直流電力を交流電力へ変換するインバータ装置であってもよく、また、スイッチング素子を制御して交流電力を直流電力へ変換するコンバータ装置であってもよい。
【0099】
また、上述の実施形態においては、入力電圧に含まれる振動成分として共振成分を一例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、共振成分以外の振動成分が入力電圧に含まれる場合であっても、その振動成分を効果的に抑制し、高品質な電力に変換することができる。
【0100】
また、上述の実施形態では、出力側に接続される負荷として電動機3を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、発電機を出力側に接続される負荷としてもよい。
【符号の説明】
【0101】
1 マトリクスコンバータ(電力変換装置の一例)
2 3相交流電源
3 電動機
10 電力変換部
23 入力電流指令生成部
24 ゲート信号演算器
31 回転座標変換器
32 成分検出器(振動成分検出器の一例)
33 共振周波数検出器(振動周波数検出器の一例)
35 共振補償成分生成器(振動補償成分生成器の一例)
36 入力電流指令出力器
41 分解処理器
42 補償成分生成器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイッチング素子を有する電力変換部と、
3相交流電源から前記電力変換部へ入力される電流を制御する入力電流指令を生成する入力電流指令生成部と
前記入力電流指令に基づき前記複数のスイッチング素子を駆動するゲート信号を出力するゲート信号演算器と
を備え、
前記入力電流指令生成部は、
前記3相交流電源の電圧に含まれる振動成分を検出する振動成分検出器と、
前記振動成分検出器によって検出された前記振動成分に基づき、前記振動成分の正相成分を抑制する正相振動補償成分と、前記振動成分の逆相成分を抑制する逆相振動補償成分とを生成する振動補償成分生成器と、
前記正相振動補償成分および前記逆相振動補償成分を含む前記入力電流指令を出力する入力電流指令出力器と
を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記入力電流指令生成部は、
その内部の演算処理時間および前記3相交流電源の電圧の検出処理時間の少なくとも一方の処理時間を含むむだ時間と前記振動成分の周波数とに応じた位相補償量を演算する位相補償演算器を備え、
前記振動補償成分生成器は、
前記位相補償量に基づいて位相補償を施した前記正相振動補償成分および前記逆相振動補償成分を生成することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記振動補償成分生成器は、
前記3相交流電源の周波数と前記振動成分の周波数に基づいて、前記正相成分の位相と前記逆相成分の位相を演算する位相演算器と、
前記位相演算器によって演算された前記正相成分の位相と前記逆相成分の位相に基づいて、前記振動成分を回転座標変換することによって正相成分と逆相成分へ分解する分解処理器と、
前記分解処理器によって分解された前記振動成分の正相成分に基づいて、前記正相振動補償成分を生成し、前記分解処理器によって分解された前記振動成分の逆相成分に基づいて、前記逆相振動補償成分を生成する補償成分生成器と、
前記位相演算器によって演算された前記正相成分の位相、前記逆相成分の位相および前記位相補償量に基づいて、前記補償成分生成器によって生成された前記正相振動補償成分および前記逆相振動補償成分を逆座標変換することによって、前記正相振動補償成分と前記逆相振動補償成分に前記むだ時間に応じた位相補償を施す逆変換器と
を備えたことを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記入力電流指令生成部は、
前記振動成分の周波数を検出する振動周波数検出器を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記振動周波数検出器は、
入力される信号に応じた周波数の正弦波信号を発生する正弦波発生器と、
前記正弦波信号がゼロクロスするタイミングでパルス信号を出力する第1のゼロクロス検出器と、
前記第1のゼロクロス検出器から出力されるパルス信号を積分する第1の積分器と、
前記3相交流電源の電圧に含まれる振動成分がゼロクロスするタイミングでパルス信号を出力する第2のゼロクロス検出器と、
前記第2のゼロクロス検出器から出力されるパルス信号を積分する第2の積分器と、
前記第2の積分器の積分結果から前記第1の積分器の積分結果を減算する減算器と、
前記減算器の減算結果に対するPI制御を行うPI制御器と、
前記PI制御器の出力を積分して前記正弦波発生器へ入力する第3の積分器と、を備え、
前記PI制御器の出力に基づいて対前記振動成分の周波数を検出することを特徴とする請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記入力電流指令生成部は、
前記3相交流電源の電圧値を当該3相交流電源の電圧位相に同期した回転座標系の軸電圧成分へ変換する回転座標変換器を備え、
前記振動成分検出器は、
前記回転座標変換器によって変換された前記軸電圧成分から前記振動成分を検出することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記入力電流指令生成部は、
前記3相交流電源の電圧の位相に対して、力率指令に応じた位相を調整した前記入力電流指令を出力することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記入力電流指令生成部は、
前記3相交流電源の電圧に複数の振動成分が含まれる場合、各振動成分に対し前記正相振動補償成分および前記逆相振動補償成分を生成し、当該複数の正相振動補償成分および逆相振動補償成分を含む前記入力電流指令を生成することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
複数のスイッチング素子を有する電力変換装置の制御方法であって、
前記3相交流電源から前記スイッチング素子へ入力される電流を制御する入力電流指令を生成する入力電流指令生成ステップと、
前記入力電流指令に基づき前記複数のスイッチング素子を駆動するゲート信号を出力するステップと
を有し、
前記入力電流指令生成ステップは、
前記3相交流電源の電圧に含まれる振動成分を検出する振動成分検出ステップと、
前記振動成分検出ステップによって検出された前記振動成分に基づき、前記振動成分の正相成分を抑制する正相振動補償成分と、前記振動成分の逆相成分を抑制する逆相振動補償成分とを生成する振動補償成分生成ステップと、
前記正相振動補償成分および前記逆相振動補償成分を含む前記入力電流指令を生成する生成ステップと
を含むことを特徴とする電力変換装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−5603(P2013−5603A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134744(P2011−134744)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】