説明

電力変換装置

【課題】通電モードによるインダクタンスの不均衡を解消し,ともに低インダクタンス化を図った電力変換装置を提供すること。
【解決手段】本発明の電力変換装置は,上アームモジュール110と,下アームモジュール130と,負荷に繋がる出力バスバー9とを有し,上アームモジュール110のミドルサイドバスバー115と下アームモジュール130のミドルサイドバスバー135と出力バスバー9とが接続されており,電源側と負荷側との間で電力変換を行うものである。ここにおいて,前記3つのバスバーの接続箇所では,3つのバスバーが重ね合わせられるとともに,それらの端部が同一の方向に向けられており,出力バスバー9の端部122が重ね順の中央に配置されており,その一方の面側にミドルサイドバスバー115が配置されており,他方の面側にミドルサイドバスバー135が配置されており,その状態で3つのバスバーの端部が溶接により接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,電源と負荷との間に配置されて電流の操作による電力変換を行う電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から,電池等の電源とモータ等の負荷との間に電力変換装置を配置して電流の操作により電力を変換することが行われている。この電力変換装置により,電源からの直流を三相交流に変換してモータに供給することができる。また,モータで回生発電を行う状況での交流から直流への変換も,この電力変換装置により行われる。このような電力変換装置の例が,特許文献1に示されている。
【0003】
この種の電力変換装置は通常,同文献の図6に記載されているように,電源のハイサイド線とローサイド線との間に,ハイサイドスイッチとローサイドスイッチとの直列接続を複数列設けた回路構成を取る。そして,各列の両スイッチの中間点を負荷であるモータへ接続するのである。同文献の図3および図8には,このような回路構成における一方のスイッチの中間点側端子(21)と負荷側端子(31)との接合箇所の状況が示されている。同図では,中間点側端子(21)と負荷側端子(31)との端部付近が,端部同士を同じ向きに揃えて重ね合わせられており,その状態で溶接により接合されている。ここで同図では,スイッチの中間点側端子(21)がほぼ平板状に描かれ,負荷側端子(31)は90°折り曲げられた形状をなしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−259685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,前記した特許文献1の技術には,次のような問題点があった。すなわち特許文献1中には,一方のスイッチの中間点側端子(21)と負荷側端子(31)との2つの端子の接合状況しか示されていない。しかしパワーモジュールの設計によっては,両方のスイッチのそれぞれの中間点側端子と負荷側端子との計3つの端子を1箇所で接合する構成が採用される場合がある。
【0006】
このような箇所に特許文献1の図3等の技術を適用すると,次のようになる。まず,ともに平板状である両スイッチの中間点側端子同士を重ね合わせる。そして,重ね合わせた2枚の中間点側端子の一方の外側の面に対して負荷側端子を押し当てて重ねることになる。こうして3枚の端子を重ね合わせた上で溶接により接合することになる(図25参照)。
【0007】
しかしこれでは,負荷側端子91からの距離が,ハイサイドスイッチの中間点側端子92とローサイドスイッチ中間点側端子93とで異なってしまう。そしてこのような形態の接合では,ハイサイド通電時,ローサイド通電時ともに,電流は溶接箇所94で折り返すように流れることになる。このため,ハイサイド通電時(図26)とローサイド通電時(図27)とで電流経路の形状が異なり,インダクタンスに差があることになる。よって,インダクタンスの大きいローサイド通電時(図27)には,サージが起こる可能性が高いことになる。
【0008】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,両スイッチ側端子と負荷側端子との3枚の端子を1箇所で接合した箇所を有する電力変換装置において,ハイサイド通電時とローサイド通電時とでのインダクタンスの不均衡を解消し,ともに低インダクタンス化を図った電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の電力変換装置は,電源のハイサイド線に繋がる上アームモジュールと,電源のローサイド線に繋がる下アームモジュールと,負荷に繋がる出力バスバーとを有し,上アームモジュールおよび下アームモジュールにそれぞれミドルサイドバスバーが設けられており,上アームモジュールのミドルサイドバスバーと下アームモジュールのミドルサイドバスバーと出力バスバーとが接続されており,電源側と負荷側との間で電力変換を行う装置であって,前記3つのバスバーの接続箇所では,前記3つのバスバーが重ね合わせられるとともに,それらの端部が同一の方向に向けられており,出力バスバーが重ね順の中央に配置されており,その一方の面側に上アームモジュールのミドルサイドバスバーが配置されており,他方の面側に下アームモジュールのミドルサイドバスバーが配置されており,その状態で前記3つのバスバーの端部が溶接により接合されているものである。
【0010】
本発明の電力変換装置では,上アームモジュールおよび下アームモジュールの状態により,ミドルサイドバスバーおよび出力バスバーの電位が操作される。これにより,電源側と負荷側との間での電力変換を行う。ここにおいて本発明では,前記3つのバスバーの接続箇所にて,出力バスバーが重ね順の中央に位置している。つまり,上アームモジュールのミドルサイドバスバーも下アームモジュールのミドルサイドバスバーも,出力バスバーに密着している。このため,上アーム通電時でも下アーム通電時でも,インダクタンスが小さくサージが起きにくい。
【0011】
本発明の電力変換装置ではさらに,上アームモジュールと下アームモジュールとの間に位置するとともに,出力バスバーを保持する出力バスバーユニットと,上アームモジュール,下アームモジュール,および出力バスバーユニットを互いに固定させる固定部材とを有し,出力バスバーユニットは,固定部材により,上アームモジュールと下アームモジュールとの間の位置に固定されていることが望ましい。このようにすることで,出力バスバーの前記の配置を容易に実現できる。この場合にさらに,上アームモジュールと下アームモジュールとの間の間隔が,出力バスバーユニットの厚さにより規定されているとよりよい。これにより,上アームモジュールと下アームモジュールとの間の間隔を規定するための専用部品の数を削減できるからである。
【0012】
本発明の電力変換装置ではまた,前記3つのバスバーの接続箇所では,出力バスバーが,上アームモジュールおよび下アームモジュールのミドルサイドバスバーより厚くされていることが望ましい。このようにすることで,上アームモジュールや下アームモジュールの製造工程に影響することなく,前記3つのバスバーの接続箇所での接合性が向上する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,両スイッチ側端子と負荷側端子との3枚の端子を1箇所で接合した箇所を有する構成であって,ハイサイド通電時とローサイド通電時とでのインダクタンスの不均衡を解消し,ともに低インダクタンス化を図った電力変換装置が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の形態に係る電力変換装置の回路図である。
【図2】第1の形態におけるモータの接続状況を示す回路図である。
【図3】第1の形態に係る電力変換装置の構造を示す分解斜視図である。
【図4】上アームパワーモジュールに内蔵されるハイサイド回路の回路図である。
【図5】下アームパワーモジュールに内蔵されるローサイド回路の回路図である。
【図6】第1の形態に係る電力変換装置の組立時の各部材の配置を説明する正面図である。
【図7】第1の形態に係る電力変換装置の組立姿を示す正面図である。
【図8】第1の形態におけるバスバーの接合箇所の構成図である。
【図9】図8の接合箇所におけるハイサイド通電時の電流経路を示す図である。
【図10】図8の接合箇所におけるローサイド通電時の電流経路を示す図である。
【図11】参考形態に係る電力変換装置の構造を示す分解斜視図である。
【図12】参考形態に係る電力変換装置の組立時の各部材の配置を説明する正面図である。
【図13】参考形態に係る電力変換装置の組立姿を示す正面図である。
【図14】参考形態におけるバスバーの接合箇所の構成図である。
【図15】第2の形態におけるバスバーの接合箇所の構成図である。
【図16】第2の形態に対する参考形態(その1)におけるバスバーの接合箇所の構成図である。
【図17】第2の形態に対する参考形態(その2)におけるバスバーの接合箇所の構成図である。
【図18】第2の形態に対する参考形態(その3)におけるバスバーの接合箇所の構成図である。
【図19】第3の形態に係る電力変換装置の構造を示す分解斜視図である。
【図20】第3の形態における下アームパワーモジュールユニットの,一部の部品を取り外した状態での斜視図である。
【図21】第3の形態における,上アームパワーモジュールユニットと下アームパワーモジュールユニットとを組み付けた状態を示す断面図である。
【図22】変形例に係る上アームパワーモジュールに内蔵される回路の回路図である。
【図23】変形例に係る下アームパワーモジュールに内蔵される回路の回路図である。
【図24】変形例に係る上下アーム1列分の回路図である。
【図25】従来の3端子接合箇所の断面図である。
【図26】図25におけるハイサイド通電時の電流経路を示す図である。
【図27】図25におけるローサイド通電時の電流経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の形態]
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,車両等においてモータと電池との間に配置され,電流操作により電力変換を行う電力変換装置に本発明を適用したものである。まず,本形態の電力変換装置の回路構成を説明する。本形態の電力変換装置は,回路としては図1の回路図のように構成されている。図1に示す本形態の電力変換装置の回路1は,ハイサイド回路2とローサイド回路3とを有している。
【0016】
ハイサイド回路2は,ハイサイド電極4とミドルサイド電極群5U,5V,5Wとの間のスイッチングを行う回路である。このためハイサイド回路2には,3つのスイッチング素子7HU,7HV,7HWが設けられている。スイッチング素子7HU,7HV,7HWはいずれも,絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)である。スイッチング素子7HU,7HV,7HWにはそれぞれ,還流ダイオードDが付設されている。
【0017】
ローサイド回路3は,ミドルサイド電極群5U,5V,5Wとローサイド電極6との間のスイッチングを行う回路である。このためローサイド回路3は,3つのスイッチング素子7LU,7LV,7LWにより,ハイサイド回路2と同様に構成されている。上記のパワーモジュール1において,ハイサイド電極4は電池の正極端子に接続され,ローサイド電極6は電池の負極端子に接続される。また,ミドルサイド電極群5U,5V,5Wは,図2に示すように,出力バスバー9U,9V,9Wを介して,モータMの端子8U,端子8V,端子8Wにそれぞれ接続される。
【0018】
続いて,本形態の電力変換装置の具体的構成を説明する。本形態の電力変換装置10の構成を図3の分解斜視図に示す。図3に示すように電力変換装置10は基本的に,上アームパワーモジュールユニット11と,出力バスバーユニット12と,下アームパワーモジュールユニット13とにより構成されている。これらを,スペーサ101とともに一体化したものが本形態の電力変換装置10である。
【0019】
上アームパワーモジュールユニット11は,上アームパワーモジュール110と冷却器111とを一体化したものである。上アームパワーモジュール110は,図1に示したハイサイド回路2を内蔵している。同様に下アームパワーモジュールユニット13は,下アームパワーモジュール130と冷却器131とを一体化したものである。下アームパワーモジュール130は,ローサイド回路3を内蔵している。出力バスバーユニット12は,図2に示した出力バスバー9U,9V,9Wを一体的に保持するものである。出力バスバーユニット12はまた,スペーサ101とともに,組み付け状態での冷却器111と冷却器131との間隔を規定する役割をも有している。
【0020】
上アームパワーモジュール110についてさらに説明する。上アームパワーモジュール110は,ハイサイドバスバー114,ミドルサイドバスバー115U,115V,115Wの4つのバスバーを有している。これらはいずれも,上アームパワーモジュール110の本体部分に対して同じ向き(図3中では上向き)に突出して設けられた長方形の平板状の部材である。そしてこれらのうち,ミドルサイドバスバー115U,115V,115Wの3つは互いに等間隔に配置されている。そしてハイサイドバスバー114は,それらに対して広い間隔を置いて配置されている。さらに,これらのバスバーはいずれも,図3中で下アームパワーモジュールユニット13の方へ向かう向きに屈折した形状とされている。また,上アームパワーモジュール110の本体部分に対して前記4つのバスバーとは逆向き(図3中では下向き)に突出して,制御端子群112が設けられている。
【0021】
上アームパワーモジュール110に内蔵されるハイサイド回路2の回路図を図4に示す。ハイサイドバスバー114は,図4に示すように,上アームパワーモジュール110内で各スイッチング素子7HU,7HV,7HWのコレクタに繋がっている。一方,ミドルサイドバスバー115U,115V,115Wはそれぞれ,図4に示すように,上アームパワーモジュール110内でスイッチング素子7HU,7HV,7HWのエミッタに繋がっている。また,制御端子群112は,各スイッチング素子7HU,7HV,7HWを操作するための端子であり,各スイッチング素子7HU,7HV,7HWのゲート電極G等に繋がっている。
【0022】
続いて下アームパワーモジュール130について説明する。下アームパワーモジュール130も,上アームパワーモジュール110と類似の構成のものである。下アームパワーモジュール130は,ミドルサイドバスバー135U,135V,135W,ローサイドバスバー136の4つのバスバーを有している。ただしこれらは,4つすべてが互いに等間隔に配置されている。この配置の点で,上アームパワーモジュール110の4つのバスバーの配置とはやや異なる。また,下アームパワーモジュール130も上アームパワーモジュール110と同様に,制御端子群132を有している。
【0023】
下アームパワーモジュール130の4つのバスバーの間隔は,上アームパワーモジュール110のミドルサイドバスバー115U,115V,115Wの間隔と同じである。これによって,上アームパワーモジュール110と下アームパワーモジュール130とを重ね合わせたときに,ミドルサイドバスバー115U,115V,115Wとミドルサイドバスバー135U,135V,135Wとが1対1で重なり合う位置に来るようになっている。また,そのときにハイサイドバスバー114およびローサイドバスバー136は他のどのバスバーとも重なり合わないようになっている。さらに,下アームパワーモジュール130のバスバーはいずれも,図3中で上アームパワーモジュールユニット11の方へ向かう向きに屈折した形状とされている。図5に,下アームパワーモジュール130に内蔵されるローサイド回路3の回路図を示す。
【0024】
次に,冷却器111,131について説明する。冷却器111,131は,電力変換装置10に冷却水を循環させるためのものである。上アームパワーモジュール110や下アームパワーモジュール130が動作中にかなり発熱するので設けられているものである。冷却器111と冷却器131とは,ほぼ同様の構造を有している。冷却器111,131の材質は,アルミその他の良熱伝導性のものである。図3中に示されるように,冷却器111は基本的に,容器部117と固定部118と流路部119とにより構成されている。冷却器131も同様に,容器部(図3中では裏側になっており見えない)と固定部138と流路部139とを有している。
【0025】
容器部117は,冷却水を収容するバスタブ形状の部分である。その底面140には,放熱フィン141が形成されている。また,底面140の裏面に上アームパワーモジュール110が取り付けられている。これにより,上アームパワーモジュール110で発生した熱が効率よく冷却水に放熱されるようになっている。冷却器131の容器部も同様であり,その底面の裏面152に下アームパワーモジュール130が取り付けられている。
【0026】
固定部118,138は,冷却器111と冷却器131とを互いに固定するための部位である。このため固定部118,138には,貫通穴143,144が設けられている。貫通穴143,144はいずれも,後述する固定用スルーボルトを通すための穴である。冷却器131の容器部も同様である。冷却器111,131にはそれぞれ,2箇所の貫通穴143と2箇所の貫通穴144とが設けられている。前述の容器部117は,貫通穴143と貫通穴144との間に位置している。
【0027】
流路部119,139は,冷却器111と冷却器131との容器部同士を,冷却水の流通ができるように連結させるためのパイプ状の部位である。流路部119は,容器部117の底面140の裏面側に突出して設けられている。そして当然,容器部117の内部空間と流路部119の内部空間とは繋がっている。流路部139は,冷却器131の容器部の底面の裏面152側に突出して設けられている。もちろん流路部139の内部空間は,冷却器131の容器部の内部空間と繋がっている。
【0028】
さらに,冷却器111,131は,それぞれ2箇所に流路部119,139を有している。電力変換装置10を組み上げた状態で冷却水の往路と復路とを形成するためである。前述の放熱フィン141は,流路部119,139と流路部119,139との間の位置に形成されている。また,流路部119と流路部139とは,同径ではない。流路部119と流路部139とを水漏れなくはめ合わせられるように異径とされている。なお,「冷却水」と書いたが,水以外の冷媒を用いてもよい。
【0029】
続いて,出力バスバーユニット12について説明する。出力バスバーユニット12は,図3中に示されるようにバスバー保持部ブロック120と,固定部ブロック121とを有している。バスバー保持部ブロック120は,出力バスバー9U,9V,9Wを保持するブロックである。出力バスバー9U,9V,9Wは,図3中水平方向に固定部ブロック121を貫通している。出力バスバー9U,9V,9Wにおける,バスバー保持部ブロック120よりも図中手前側の部分には,出力端123U,123V,123Wが設けられている。これらは,図2に示したモータMの端子8U,端子8V,端子8Wに接続される部分である。
【0030】
一方,出力バスバー9U,9V,9Wにおける,バスバー保持部ブロック120よりも図中奥側の部分には,90°曲がって図中上向きに向けられた接合端122U,122V,122Wが設けられている。これらは,上アームパワーモジュールユニット11および下アームパワーモジュールユニット13に出力バスバーユニット12を固定したときに,ミドルサイドバスバー115U,115V,115W,およびミドルサイドバスバー135U,135V,135Wともに,1対1対1で重なり合う位置に来るようになっている。重なり順は,接合端122U,122V,122Wが中心であり,その一面側にミドルサイドバスバー115U,115V,115Wが配置され,他面側にミドルサイドバスバー135U,135V,135Wが配置される順序である。
【0031】
固定部ブロック121は,上アームパワーモジュールユニット11および下アームパワーモジュールユニット13に対して,出力バスバーユニット12を固定するための部分である。このため固定部ブロック121には,2箇所の貫通穴124が形成されている。貫通穴124は,前述の貫通穴143とともに,固定用スルーボルトにより固定されるための穴である。すなわち固定部ブロック121は,冷却器111,131の固定部118,138に対して固定されるのである。つまり固定部ブロック121は,組み付け状態では,流路部119,139よりも幅方向(図3中左上−右下方向)の外側に位置する。
【0032】
続いて,本形態の電力変換装置10の組立について,図6により説明する。本形態の電力変換装置10は前述のように,上アームパワーモジュールユニット11と下アームパワーモジュールユニット13と出力バスバーユニット12とを互いに組み付けることで組み立てられる。図6は,図3に示したものを図3中右下から見た正面図である。図6には,図3に示したものが2組分描かれている。すなわち,図6中の範囲X,範囲Yの中にそれぞれ,図3に示したものが1組ずつ存在している。ただし図6では,図3中のスペーサ101は,出力バスバーユニット12に隠れて見えないため省略されている。実際には,範囲X,範囲Yの中にそれぞれ,2本のスペーサ101が存在する。
【0033】
なお図6では,範囲Xのものと範囲Yのものとで,出力バスバーユニット12のバスバー保持部ブロック120の形状が少し異なっている。しかしこれは,配置される位置に応じて出力端123U,123V,123Wの位置を少し変えただけのことであり,発明の特徴に影響するほどのことではない。
【0034】
ここで,出力バスバーユニット12の固定部ブロック121の厚さT1は,上アームパワーモジュールユニット11の上アームパワーモジュール110の厚さT2と,下アームパワーモジュールユニット13の下アームパワーモジュール130の厚さT3との合計より大きい。厚さT1はまた,図3中のスペーサ101の長さに等しい。
【0035】
図6にはさらに,図3に示したもの以外のものも現れている。すなわち,固定用スルーボルト14,パワーモジュール固定板15,冷却器蓋16である。固定用スルーボルト14は,図3中の上アームパワーモジュールユニット11と下アームパワーモジュールユニット13と出力バスバーユニット12とを互いに固定するためのボルトである。図6中には2本の固定用スルーボルト14が描かれているが,実際には4本の固定用スルーボルト14が用いられる。そのうち2本が,図3中手前側の貫通穴143,124に通される。残り2本は,図3中奥側の貫通穴144,スペーサ101に通される。
【0036】
パワーモジュール固定板15は,電力変換装置10の全体を固定するための土台となる固定板である。また,冷却器蓋16は,電力変換装置10におけるパワーモジュール固定板15と反対側の端部に位置する板材であり,冷却水の流路を塞ぐ蓋としての役割をも有するものである。
【0037】
パワーモジュール固定板15のすぐ内側には,図6中の範囲Xの冷却器111が配置される。すなわちパワーモジュール固定板15は,冷却器111の容器部117の開口を閉鎖するものでもある。そしてパワーモジュール固定板15には,流路部150が設けられている。流路部150は,冷却器111の流路部119や冷却器131の流路部139と同様のパイプ状の部位である。図6中には1つの流路部150しか見えていないが,実際には,冷却器111の2つの流路部119に対応して2つの流路部150が設けられている。パワーモジュール固定板15の2つの流路部150が電力変換装置10における冷却水の入り口と出口になる。パワーモジュール固定板15にはまた,固定用スルーボルト14を通すための貫通穴151が形成されている。図6中には2つの貫通穴151しか現れていないが,実際には,冷却器111の4つの貫通穴143,144に対応して4つの貫通穴151が形成されている。
【0038】
一方,冷却器蓋16のすぐ内側には,図6中の範囲Yの冷却器131が配置される。すなわち冷却器蓋16は,冷却器131の容器部の開口を閉鎖するものでもある。しかし冷却器蓋16には,パワーモジュール固定板15に設けられているような流路部は設けられていない。冷却器蓋16よりさらに先(図6中右側)へ冷却水を導く必要はないからである。冷却器蓋16にも,固定用スルーボルト14を通すための貫通穴161が形成されている。もちろん実際には貫通穴161も4箇所に設けられている。
【0039】
電力変換装置10の組立の際には図6に示すように,図中左から,
パワーモジュール固定板15,
上アームパワーモジュールユニット11, (範囲X)
出力バスバーユニット12, ( 〃 )
下アームパワーモジュールユニット13, ( 〃 )
上アームパワーモジュールユニット11, (範囲Y)
出力バスバーユニット12, ( 〃 )
下アームパワーモジュールユニット13, ( 〃 )
冷却器蓋16
の順に配置する。
【0040】
そして固定用スルーボルト14を各要素の貫通穴に通す。すなわち,4本の固定用スルーボルト14のうち2本は,図3中,上アームパワーモジュール110や下アームパワーモジュール130よりも手前側に位置し,
貫通穴151,143,124,143,143,124,143,161
を通る。残り2本は,奥側に位置し,
貫通穴151,144,スペーサ101,貫通穴144,144,スペーサ101,貫通穴144,161
を通る。
【0041】
このとき,次のそれぞれを密着させる。ここで,冷却器111,131の容器部の開口部の縁辺には適宜のシール部材を挟み込む。
・パワーモジュール固定板15と,上アームパワーモジュールユニット11の冷却器111(範囲X)の容器部117側の面
・冷却器111(範囲X)の上アームパワーモジュール110側の面(ただし上アームパワーモジュール110のない領域)と,出力バスバーユニット12の固定部ブロック121(範囲X)
・冷却器111(範囲X)の上アームパワーモジュール110側の面(ただし上アームパワーモジュール110のない領域)と,スペーサ101(範囲X)
・固定部ブロック121およびスペーサ101(範囲X)と,下アームパワーモジュールユニット13の冷却器131(範囲X)の下アームパワーモジュール130側の面(ただし下アームパワーモジュール130のない領域)
・冷却器131(範囲X)の容器部側の面と,冷却器111(範囲Y)の容器部117側の面
・冷却器111(範囲Y)の上アームパワーモジュール110側の面(ただし上アームパワーモジュール110のない領域)と,固定部ブロック121およびスペーサ101(範囲Y)
・固定部ブロック121およびスペーサ101(範囲Y)と,冷却器131(範囲Y)の下アームパワーモジュール130側の面(ただし下アームパワーモジュール130のない領域)
・冷却器131(範囲Y)の容器部側の面と,冷却器蓋16
【0042】
また,範囲X,Yのそれぞれにおいて,冷却器111の流路部119と冷却器131の流路部139とをはめ合わせる。このときはめ合わせ部には適宜のOリングを挟み込む。そして固定用スルーボルト14を締結する。これにより全体を固定し,一体化する。すなわち,固定用スルーボルト14の締結により,上アームパワーモジュールユニット11と下アームパワーモジュールユニット13とを互いに固定させる。そして,出力バスバーユニット12もまた固定される。出力バスバーユニット12が固定される位置は当然,上アームパワーモジュールユニット11と下アームパワーモジュールユニット13との間の位置である。
【0043】
電力変換装置10を組み立てると,図7のようになる。図7は,図6に示したものの全体を組立状態にして,図6と同じ方向から見た図である。図7の状態では,[0041]に述べた各部がそれぞれ密着している。この状態では,上アームパワーモジュール110および下アームパワーモジュール130は,固定部ブロック121に大部分が隠されてしまっており,わずかに下端部付近と制御端子群112,132とバスバー群とが見えているのみである。なお図7では,固定用スルーボルト14が,冷却器蓋16に対して,より詳しく言えば冷却器蓋16の貫通穴161に対して直接ネジ止めされているように見える。しかしそのことは必須ではない。固定用スルーボルト14を図7中で冷却器蓋16より右方に突出させ,そこに適宜のナットを配置してネジ止めすることにしてもよい。
【0044】
そして,範囲X,Yのそれぞれにおいて,上アームパワーモジュール110と下アームパワーモジュール130との間には隙間Pがある。[0034]で説明した各部材の厚さの関係のためである。すなわち図7の状態では,固定部ブロック121の両面に,冷却器111と冷却器131とが密着している。同様にスペーサ101の両端にも冷却器111と冷却器131とが密着している。言い替えると,固定部ブロック121の厚さおよびスペーサ101の長さが,冷却器111と冷却器131との間隔を規定している。このようにして,電力変換装置10における上アームパワーモジュール110と下アームパワーモジュール130との間隔Pが規定されている。
【0045】
図7の状態ではまた,範囲X,Yのそれぞれにおいて,バスバー保持部ブロック120の上方で,バスバー群が集中している。ここに集中しているバスバーは,U,V,Wの相記号を省略すれば,ハイサイドバスバー114,ミドルサイドバスバー115,接合端122(出力バスバー9),ミドルサイドバスバー135,ローサイドバスバー136である。ただしこれらは実際には,それらのすべてが接触し合っているわけではない。実際に接触しているのは,U,V,Wの各相ごとに,ミドルサイドバスバー115,接合端122,ミドルサイドバスバー135の3枚である。ハイサイドバスバー114は,他のどのバスバーとも接触していない。ローサイドバスバー136も同様である。
【0046】
ミドルサイドバスバー115,接合端122,ミドルサイドバスバー135の3枚のバスバーは,重なり合っている。そして,[0020]および[0023]で述べた,ミドルサイドバスバー115およびミドルサイドバスバー135の屈折形状により,互いに圧接し合う状態となって密着している。そして,先端を溶接により接合すると完成である。これらのことはU,V,Wのどの相でも同じなので,以下の説明では原則として相記号を省略する。
【0047】
図8に,これら3つのバスバーの接合箇所の構造を示す。図8から明らかなように,この接合箇所でこれら3つのバスバーは,皆同じ向き(上向き)に先端を向けて配置されている。そして,重なり順は,接合端122が中央に位置し,これをミドルサイドバスバー115とミドルサイドバスバー135とで挟んでいる,という順序である。また先端には,3つのバスバーのすべてを覆って溶着部17が形成されている。このような構造の接合箇所が,U,V,Wの各相に1つずつ存在する。
【0048】
接合箇所が図8の構造になっていることにより,次のような利点がある。すなわち,通電時におけるインダクタンスが,上アーム通電時(ハイサイド通電時)でも下アーム通電時(ローサイド通電時)でも,等しく小さいのである。このため,上アーム通電時と下アーム通電時とのいずれでも,サージが起こる可能性は低い。これは,図8の接合箇所では,どちらのアームの通電時でも,電流経路の形状が同じだからである。そしてこのことは,前述の3つのバスバーの重ね順により実現されている。
【0049】
このことを,図9および図10により説明する。これらは,図8の接合箇所における通電時の電流経路を示す図である。ただしこれらの図では,各バスバーの形状をやや簡略化して描いている。図9は,上アーム通電時の電流経路を示している。上アーム通電時には,図1の回路図中の上アーム側のスイッチング素子7H(U,V,W)のうち,当該接合箇所に繋がっている相のものがオンである。そして下アーム側のスイッチング素子7L(U,V,W)のうち,当該接合箇所に繋がっている相のものがオフである。このため当該接合箇所の電位は,ハイサイド電極4の電位である。このとき,ミドルサイドバスバー115を図中上向きに,つまり上アームパワーモジュール110の本体から溶着部17へ向かって電流が流れる。そして電流は溶着部17で折り返され,接合端122を図中下向きに流れる。つまり図2中のモータMへ向かって流れていく。この電流は,上記上アーム側のスイッチング素子7H(U,V,W)のエミッタ電流である。そしてこのとき,ミドルサイドバスバー135には電流が流れない。
【0050】
図10は,下アーム通電時の電流経路を示す。下アーム通電時には,上記上アーム側のスイッチング素子7H(U,V,W)がオフである。そして上記下アーム側のスイッチング素子7L(U,V,W)がオンである。このため当該接合箇所の電位は,ローサイド電極6の電位である。よって,下アーム通電時には上アーム通電時と異なり,接合端122を図中上向きに,つまりモータMから溶着部17へ向かって流れる。そして,溶着部17で折り返された電流はミドルサイドバスバー135を図中下向きに流れる。つまり下アームパワーモジュール130の本体へ向かって流れていく。この電流は,上記下アーム側のスイッチング素子7L(U,V,W)のコレクタ電流である。もちろんこのとき,ミドルサイドバスバー115には電流が流れない。
【0051】
つまり,いずれの通電モードでも,図8の接合箇所を流れる電流の経路は折り返し状である。そして,図中上向きの電流経路と図中下向きの電流経路との間の間隔は,図9でも図10でもほとんど同じであり,どちらの間隔も小さい。[0046]で説明した重ね順により,中央の接合端122の両面にミドルサイドバスバー115とミドルサイドバスバー135とが密着している構造だからである。このため,上アーム通電時でも下アーム通電時でも,インダクタンスが小さく,サージが起こりにくいのである。なお,図6および図7では,図1に示した回路1を2セット分含む電力変換装置10を示したが,このことは必須ではない。回路1を1セット分含む構成でもよいし,逆に3セット分以上の回路1を含む構成でも良い。
【0052】
[参考形態]
ここで,参考形態について説明する。図11の分解斜視図に,参考形態の電力変換装置20の構成を示す。図11は,第1の形態の図3に相当する図である。図11に示す電力変換装置20においては,上アームパワーモジュールユニット11および下アームパワーモジュールユニット13に関しては,図3に示す第1の形態中のものと特段の違いはない。ただし図11では,部品番号の一部を省略している。図11の電力変換装置20の,図3の電力変換装置10に対する相違点は,次の2点である。
・出力バスバーユニット12の替わりに出力バスバーユニット18を用いていること。
・スペーサ101の本数が,2本ではなく4本であること。
【0053】
出力バスバーユニット18について説明する。出力バスバーユニット18は,出力バスバー9U,9V,9Wを保持する役割を有する点で出力バスバーユニット12と共通する。出力バスバーユニット18の,出力バスバーユニット12に対する主要な相違点は,電力変換装置の全体の中での配置にある。すなわち,出力バスバーユニット12が図3中で上アームパワーモジュールユニット11と下アームパワーモジュールユニット13との間に挟まれて配置されているのに対し,図11中での出力バスバーユニット18の配置はそうでない。
【0054】
図11で出力バスバーユニット18は,上アームパワーモジュールユニット11,下アームパワーモジュールユニット13,および出力バスバーユニット18の3者のうち端に位置している。すなわち図11では,出力バスバーユニット18と下アームパワーモジュールユニット13とで上アームパワーモジュールユニット11を挟む配置になっている。この配置の違いにより出力バスバーユニット18は,出力バスバーユニット12が果たす役割の1つである,組み付け状態での冷却器111と冷却器131との間隔を規定する役割([0019]参照)を果たさない。その替わりに電力変換装置20では4本のスペーサ101を使用しているのである。
【0055】
出力バスバーユニット18についてさらに説明する。出力バスバーユニット18は,図11に示されるように,バスバー保持部ブロック180と,固定部ブロック181とを有している。バスバー保持部ブロック180は,バスバー保持部ブロック120と同様に,出力バスバー9U,9V,9Wを保持するブロックである。
【0056】
固定部ブロック181は,固定のためのブロックである。ただし出力バスバーユニット18は,出力バスバーユニット12が固定用スルーボルト14により固定されるのと異なり,図6中のパワーモジュール固定板15または冷却器蓋16にボルト留めされる。そのため,電力変換装置20におけるパワーモジュール固定板15や冷却器蓋16には,そのための形状(ボルト穴等)が形成されている必要がある。あるいは,出力バスバーユニット18を固定するための部材を別途設けてもよい。なお,固定部ブロック121に貫通穴124が設けられているのと異なり,固定部ブロック181にはそのような穴は設けられていない。
【0057】
続いて,参考形態の電力変換装置20の組立について,図12により説明する。図12は,第1の形態の図6に相当する図である。図6中に出力バスバーユニット12が現れているのに対し,図12では出力バスバーユニット18が現れていない。第1の形態では,固定用スルーボルト14により出力バスバーユニット12を含めた全体を1度に組み付けるのに対し,参考形態ではそうでないからである。
【0058】
参考形態では,出力バスバーユニット18以外の各構成要素,すなわち,パワーモジュール固定板15,上アームパワーモジュールユニット11,下アームパワーモジュールユニット13,冷却器蓋16をまず固定用スルーボルト14に組み付ける。組み付けた状態が図13である。参考形態では,この図13の状態が出来上がってから,後付で出力バスバーユニット18が取り付けられるのである。そのため,図12に出力バスバーユニット18が現れていないのである。
【0059】
図12では,出力バスバーユニット18が現れていない替わりに,スペーサ101が現れている。図12におけるスペーサ101の実際の本数は,範囲X,範囲Yにそれぞれ4本である。この4本という数は,固定用スルーボルト14の実際の本数と同じである。図12での組立においては,4本の固定用スルーボルト14のすべてが,同じ構成要素に対して同じ順で通される。すなわち,すべての固定用スルーボルト14が,図12中左から順に,
パワーモジュール固定板15の貫通穴151,
冷却器111の貫通穴143,144,
スペーサ101,
冷却器131の貫通穴143,144,
冷却器111の貫通穴143,144,
スペーサ101,
冷却器131の貫通穴143,144,
冷却器蓋16の貫通穴161,
に通される。
【0060】
そして固定用スルーボルト14を締め付けることにより,図13の状態となる。図13の状態では,スペーサ101のみにより,冷却器111と冷却器131との間隔が規定されている。すなわち,この間隔の規定に,出力バスバーユニット18は関与していない。最後に,図13中のパワーモジュール固定板15の取り付け箇所153および冷却器蓋16の取り付け箇所163に出力バスバーユニット18を取り付けると,参考形態の電力変換装置20の出来上がりである。なお,図12および図13では,取り付け箇所153,163を,パワーモジュール固定板15および冷却器蓋16に直接形成した例を示したが,これに限らない。出力バスバーユニット18の固定のための部材を別に設けてもよい。
【0061】
参考形態の電力変換装置20でも,U,V,Wの各相ごとに,ミドルサイドバスバー115,ミドルサイドバスバー135,接合端122(出力バスバー9)の3つのバスバーが重ね合わされて接合されている点では,第1の形態の電力変換装置10と共通する。しかし,その3つのバスバーの重ね合わせの順序が異なる。電力変換装置10では図8に示したように接合端122が中央に位置する重ね順となっているのに対し,電力変換装置20では図14に示すように,接合端122が端に位置している。すなわち図14では,ミドルサイドバスバー115が重ね合わせの中央に位置し,これを接合端122とミドルサイドバスバー135とで挟んでいる。
【0062】
このため,通電モードにより,[0007]で説明したインダクタンスの差異がある。つまり,ミドルサイドバスバー115が図26および図27の中間点側端子92に相当し,ミドルサイドバスバー135が中間点側端子93に相当し,接合端122が負荷側端子91に相当する。なお,図14に示したのは,図13中の範囲X内の接合箇所である。範囲Y内の接合箇所では,ミドルサイドバスバー115とミドルサイドバスバー135との配置はそのままで,接合端122はミドルサイドバスバー135の右側に位置することになる。その場合でも同じ問題がある。
【0063】
なお,参考形態の構成では,第1の形態のように接合端122(出力バスバー9)を重ね順の中央に位置させることはできない。図13の状態が出来上がった時点で,ミドルサイドバスバー115とミドルサイドバスバー135とが互いに圧接し合っており,それらの間を開いて接合端122を差し込むことは困難だからである。また,図13の状態を組む時に接合端122をミドルサイドバスバー115とミドルサイドバスバー135の間に挟み込むこともできない。出力バスバーユニット18をその時点でその位置に位置決めする手段がないからである。以上が参考形態の説明である。
【0064】
[第2の形態]
次に,本発明の第2の形態を説明する。第2の形態は,第1の形態に対して1点変形を施したものである。その余の点は第1の形態と同じであり,第1の形態での説明を援用する。第2の形態は,図8に示される3つのバスバーの厚さの関係に関してのみ,第1の形態のものと相違する。すなわち,第1の形態では図8に,ミドルサイドバスバー115,ミドルサイドバスバー135,接合端122(出力バスバー9)の3つのバスバーの厚さがいずれも同じぐらいであるように描かれているが,第2の形態ではそうではないのである。
【0065】
第2の形態では図15に示されるように,中央の接合端122が,他の2つ,すなわちミドルサイドバスバー115やミドルサイドバスバー135よりも厚くされている。図15は,第1の形態の図8に相当する図であるが,上アームパワーモジュール110や下アームパワーモジュール130は省略して,接合箇所の先端の溶着部17付近のみを示している。
【0066】
このように重ね合わせの中央に位置する接合端122が厚いことにより,次のような利点がある。電力変換装置10を図7の状態に組んでから3つのバスバーの先端を溶接するとき(図15)の溶接性がよいのである。3枚重ねられたバスバーの端部を溶接して接合するときには,3枚のいずれか1つの先端を選択的に溶接させ,その溶融金属で残り2枚のバスバーを接合することになる。その際,重ね合わせの中央のものを溶融させることが有利であることはもちろんである。第2の形態では,その中央のもの(接合端122)が厚いので,十分な量の溶融金属が発生し,両隣のミドルサイドバスバー115およびミドルサイドバスバー135に良好に濡れ広がる。このため接合性がよいのである。
【0067】
もし,前述の参考形態のように接合端122が重ね合わせの端に位置する構造であると,このように巧くはいかない。その場合には図16に示すように,最も厚い接合端122を溶融させてみても,その溶融金属17は,すぐ隣のミドルサイドバスバー115までは濡れ広がるものの,そのまた隣のミドルサイドバスバー135まで確実に濡れ広がるとは限らないからである。このため,特に接合端122から遠い方のミドルサイドバスバーについて,接合性不良のおそれがある。
【0068】
ここで,重ね合わせの中央ではあるが厚くはないミドルサイドバスバー115を選択的に溶融させることも考えられる。しかしそれも巧くいかない。発生する溶融金属の量が不足気味なため,特に,厚い接合端122上への溶融金属17の広がりが,接合端122の厚さの一部に留まってしまう(図17参照)。このため,接合端122について接合性不良のおそれがある。
【0069】
あるいは,接合端122を厚くする代わりに,重ね合わせの中央に位置するミドルサイドバスバー115を厚くすることも考えられる(図18)。このようにすれば3のバスバー間での接合性自体は良好である。しかし別の問題がある。ミドルサイドバスバー115は前述のように,上アームパワーモジュール110に設けられているものである。ミドルサイドバスバー115は上アームパワーモジュール110の内部で,スイッチング素子に接合されている。ミドルサイドバスバー115が厚いと,その内部接合の際の生産性がよくないのである。ミドルサイドバスバー115が厚いということは,そのまま,内部接合の際の熱容量が大きいということだからである。このため通常は,ミドルサイドバスバー115としては,厚さ0.3〜1.0mmの範囲内の銅板が使用され,これより厚いものはあまり使われない。ミドルサイドバスバー135や,ハイサイドバスバー114,ローサイドバスバー136,制御端子群112も同様である。
【0070】
上記よりやはり,接合端122を厚くしてそれを重ね合わせの中央に配置することが最良なのである。それが第2の形態である。なお,出力バスバー9の全体を厚くすることは必須ではない。接合端122の部分だけ厚いものであってもよい。以上が第2の形態の説明である。
【0071】
[第3の形態]
続いて,本発明の第3の形態を説明する。第3の形態は第1の形態に対して,上アームパワーモジュールユニットや下アームパワーモジュールユニットの具体的形状を変更したものである。
【0072】
第3の形態では,図19の分解斜視図に示される上アームパワーモジュールユニット201および下アームパワーモジュールユニット203を使用する。図19には,多数の上アームパワーモジュールユニット201および下アームパワーモジュールユニット203を交互に配置した状態が示されている。これは,図1に示した回路1を4セット分以上含む電力変換装置30の一部である。図19中に示した範囲X,Y内の上アームパワーモジュールユニット201および下アームパワーモジュールユニット203がそれぞれ,1セットの回路1を構成する。
【0073】
上アームパワーモジュールユニット201は,上アームパワーモジュール210と冷却器211とを一体化したものである。上アームパワーモジュール210には,ミドルサイドバスバー115V,115Wと,制御端子群112とが設けられている。さらに,ハイサイドバスバー114とミドルサイドバスバー115Uも,図19中では下アームパワーモジュールユニット203に隠れて見えないだけで,実際には設けられている。同様に下アームパワーモジュールユニット203は,下アームパワーモジュール230と冷却器231とを一体化したものである。下アームパワーモジュール230には,ミドルサイドバスバー135U,135V,135W,ローサイドバスバー136,制御端子群132が設けられている。なお,図19中の上アームパワーモジュール210および下アームパワーモジュール230は,図3中の上アームパワーモジュール110および下アームパワーモジュール130に対して,上下逆さに描かれている。
【0074】
上アームパワーモジュールユニット201の冷却器211における上アームパワーモジュール210と反対側の面,すなわち図19中に見えている面には,2重の長円状突起部212が設けられている。長円状突起部212の内部が容器部213である。2重の長円状突起部212の間の環状の領域がシール材保持部214である。容器部213の両端付近には,図19中での裏面側に繋がる流路部215が設けられている。流路部215は裏面側では円筒状をなしている。容器部213における流路部215と流路部215との間の領域には,放熱フィン216が設けられている。
【0075】
また,下アームパワーモジュールユニット203の冷却器231における図19中で裏側となっている面も,上記と同様の構造となっている。さらに,冷却器231における図19中に見えている面には,下アームパワーモジュール230の両側に,円筒状の流路部235が設けられている。流路部235は裏面側に開口している。また,冷却器211の流路部215とはめ合わせ可能なものである。また,冷却器211,231ともに,四隅に貫通穴217,218が形成されている。
【0076】
図20に,第3の形態の下アームパワーモジュールユニット203の斜視図を示す。ただし図20では,下アームパワーモジュール230の背面板232を取り除いた状態を示している。図20に示される構造は,上アームパワーモジュールユニット201でも,ローサイドバスバー136の代わりにハイサイドバスバー114が設けられていることを除いて同様である。さらに,第1の形態に登場したパワーモジュールの内部構造もこれと同様である。
【0077】
図21に,上アームパワーモジュールユニット201と下アームパワーモジュールユニット203とを組み付けた状態の断面図を示す。図21中には,3枚ずつの上アームパワーモジュールユニット201および下アームパワーモジュールユニット203が含まれている。図21では,両冷却器211,231の対面箇所における,2重の長円状突起部212間の所に,シール材233が挟み込まれている。また,流路部215と流路部235との間にはOリング234が挟み込まれている。
【0078】
第3の形態の特徴は,図21において,冷却器211の放熱フィン216と冷却器213の放熱フィン216とが互いに差し込み合う千鳥状となっていることである。これにより,第1の形態よりさらに放熱性が向上している。また,第1の形態と比較して,冷却器の厚さ方向のサイズがコンパクト化されている。また,固定部118の辺りの造作も簡素化されている。
【0079】
なお,図19および図21では,出力バスバーユニットが省略されている。第3の形態でも実際には,図19および図21中の矢印Qのところに出力バスバーユニットが差し込まれる。第3の形態の出力バスバーユニットについての詳細は省略するが,基本的には第1の形態におけるものと同様のものであり,次の条件を満たしていればよい。
・出力バスバー9U,9V,9Wを保持していること。
・出力バスバー9U,9V,9Wの一部が,上下アームのミドルサイドバスバーと接合される接続端となっていること。
・図19中の貫通穴217に通される2本の固定用スルーボルトにより位置決めされて保持されるものであること。
【0080】
なお,貫通穴218に通される2本の固定用スルーボルトに対しては,出力バスバーユニットの代わりにスペーサが通される。また,第3の形態と第2の形態とは両立可能である。以上が第3の形態の説明である。
【0081】
[変形例]
ここまでの説明では,「パワーモジュール」と称されるものはすべて,図4もしくは図5に示される回路を内蔵するものであった。すなわち,3つのスイッチング素子を内蔵するいわゆる3in1型のものであった。しかしこれに限らず,1in1型のパワーモジュールを用いる構成であってもよい。その場合には,上アーム用のパワーモジュールが図22の回路を内蔵し,下アーム用のパワーモジュールが図23の回路を内蔵する。そしてこれらを,1セットの図1の回路1当たり3個ずつ用いて,図24の上下アーム列を並列に3列構成するようにすればよい。
【0082】
以上詳細に説明したように,上記各実施形態の電力変換装置(参考形態を除く)では,出力バスバーユニットに,固定用スルーボルトを通す穴を設けている。そして,電力変換装置の組立の際に固定用スルーボルトを,上アームパワーモジュールユニット,出力バスバーユニット,下アームパワーモジュールユニットの順に通すようにしている。これにより,上アームパワーモジュールユニットと下アームパワーモジュールユニットとの間に,出力バスバーユニットが配置されるようにしている。したがって,ミドルサイドのバスバー接合箇所において,上アームパワーモジュールからのバスバーと,下アームパワーモジュールからのバスバーとの間に,出力バスバーが挟まれて配置されるようになっている。そして,3つのバスバーが上記の重ね順で重ねられた状態で溶接されているので,通電モードに関わらず接合箇所のインダクタンスが小さく,サージが起きにくい。
【0083】
また,出力バスバーユニットの厚さにより,両パワーモジュールの冷却器間の間隔が規定されるようになっている。このため,電力変換装置における当該間隔の精度がよい。また,間隔規定のためのスペーサの個数が少なくて済んでいる。さらに,3つのバスバーの接合箇所において,重ね順の中央に位置する出力バスバーを,両隣のミドルサイドバスバーより厚くしている。これにより,接合性も向上している。
【0084】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,貫通穴124,143,144,217,218は,必ずしも穴でなくても,凹部でもよい。固定用スルーボルトにより固定される被固定形状でさえあればよい。
【0085】
また,前記各形態では,出力バスバーユニットの厚さにより,上下アームの冷却器間の間隔が定まるようにしている。しかしこのことは必須ではない。流路部119,139(または流路部215,235)まわりの形状によっては,出力バスバーユニットの厚さと関係なく上下アームの冷却器間の間隔が定まるようにすることもできる。その場合には出力バスバーユニットの厚さは,厚すぎなければよい。また,スペーサも不要である。
【符号の説明】
【0086】
4 ハイサイド電極
6 ローサイド電極
9(U,V,W) 出力バスバー
12 出力バスバーユニット
14 固定用スルーボルト
17 溶着部
110 上アームパワーモジュール
115(U,V,W) ミドルサイドバスバー
130 下アームパワーモジュール
135(U,V,W) ミドルサイドバスバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源のハイサイド線に繋がる上アームモジュールと,電源のローサイド線に繋がる下アームモジュールと,負荷に繋がる出力バスバーとを有し,前記上アームモジュールおよび下アームモジュールにそれぞれミドルサイドバスバーが設けられており,前記上アームモジュールのミドルサイドバスバーと前記下アームモジュールのミドルサイドバスバーと前記出力バスバーとが接続されており,電源側と負荷側との間で電力変換を行う電力変換装置において,
前記3つのバスバーの接続箇所では,
前記3つのバスバーが重ね合わせられるとともに,それらの端部が同一の方向に向けられており,
前記出力バスバーが重ね順の中央に配置されており,
その一方の面側に前記上アームモジュールのミドルサイドバスバーが配置されており,
他方の面側に前記下アームモジュールのミドルサイドバスバーが配置されており,
その状態で前記3つのバスバーの端部が溶接により接合されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において,
前記上アームモジュールと前記下アームモジュールとの間に位置するとともに,前記出力バスバーを保持する出力バスバーユニットと,
前記上アームモジュール,前記下アームモジュール,および前記出力バスバーユニットを互いに固定させる固定部材とを有し,
前記出力バスバーユニットは,前記固定部材により,前記上アームモジュールと前記下アームモジュールとの間の位置に固定されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電力変換装置において,
前記上アームモジュールと前記下アームモジュールとの間の間隔が,前記出力バスバーユニットの厚さにより規定されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載の電力変換装置において,
前記3つのバスバーの接続箇所では,前記出力バスバーが,前記上アームモジュールおよび前記下アームモジュールのミドルサイドバスバーより厚くされていることを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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