説明

電力変換装置

【課題】
電流型インバータ装置において大容量のコンデンサを用いずにリアクトルのインダクタンスを小さくし、それによりリアクトルを小型化することができる電力変換装置を提供すること。
【解決手段】
電力変換装置におけるゲート信号生成回路(21)は、ゲイン回路(20)の出力信号と、三角波信号発生回路(17)の三角波信号と、商用周波数の2倍周波数のsin波信号とが入力されて、三角波信号の振幅をスイッチング回路(24)から太陽電池モジュール(1)に戻る電流に基づき変化させることにより、出力電圧の歪みに対して降圧コンバータ(23)のスイッチング素子(2)のゲートのON/OFF時間を変化させるよう構成されており、スイッチング回路(24)と当該スイッチング回路(24)を駆動制御するPWM制御回路(22)とにより構成されたインバータ部(25)により直流電力を交流電力に変換するよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の直流電力を交流電力に変換する電力変換装置において、インバータ装置の出力歪みを低減する制御方式に関するものである。特に、電流型インバータ装置において、平滑用リアクトルのインダクタンスを小さくし、小型化しても電流型インバータ装置の出力歪みを低減できる太陽光発電用電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電用電力変換装置における従来の電流型インバータ装置としては、特許文献1に開示されたものがある。図18は特許文献1に記載された従来の電流型インバータ装置を示す回路図である。
【0003】
図18に示す従来の太陽光発電用電力変換装置110は、太陽電池アレイ部112からの直流電力を受ける電流型インバータ部114、および出力フィルタ回路116を含む。
【0004】
電流型インバータ部114は、太陽電池アレイ部112で発電された直流出力を交流出力に変換するものであり、高周波リプルを平滑化する電流平滑用リアクトル118にダイオード120,122,124,126をそれぞれ直列接続した4個の半導体スイッチング素子128,130,132,134をブリッジ形に接続して構成するスイッチング回路136、およびこのスイッチング回路136の各半導体スイッチング素子128,130,132,134にスイッチング制御信号を出力するパルス幅変調制御回路(PWM制御回路)138を含む。このPWM制御回路138は、例えばスイッチング回路136の出力電流を図示されない電流検出器により検出してフィードバックするフィードバック制御系であり、スイッチング回路136の出力状態が適正になるように、パルス幅を調整した複数組のPWMパルスをスイッチング制御信号として、スイッチング回路136を構成する各半導体スイッチング素子128,130,132,134に供給する。
【0005】
さらに、電流平滑用リアクトル118の入力側には、太陽電池アレイ部112と並列に接続され、太陽電池アレイ部112に生じる電圧変動を平滑にする平滑用コンデンサ140が設けられている。その結果、太陽電池アレイ部112で発生した電圧は、平滑用コンデンサ140により安定化され、電流平滑用リアクトル118に必要な電流が流れる。この電流平滑用リアクトル118により高周波リプルが平滑化された電流は、スイッチング回路136に流れる。すなわち、電流平滑用リアクトル118と平滑用コンデンサ140とによりローパスフィルタが構成されて、太陽電池アレイ部112から平坦な発電電力を供給することが可能な構成となる。
【0006】
そして平滑用コンデンサ140の容量は、出力周波数の2倍に対して、電流平滑用リアクトル118と平滑用コンデンサ140によるローパスフィルタが十分に変動を吸収できるように設定する必要がある。
【0007】
また、出力フィルタ回路116は、スイッチング回路136の出力端に接続されるコンデンサ142およびリアクトル144を含み、高周波成分の少ない出力を得るため逆L字形となっている。この出力フィルタ回路116には図示されない負荷および商用電力系統が連系接続される。
【0008】
図18に示す太陽光発電用電力変換装置110においては、インバータ主回路動作が電流型のままで、入力電流のリプル電流を吸収して、電圧を安定化させる平滑用コンデンサ140を太陽電池アレイ部112に並列に接続することにより、リプル電流を許容できる構成としている。このため、図18に示した太陽光発電用電力変換装置110は、全てをリアクトルに依存していた以前から用いられていた従来の電流型インバータ装置と比較して、小さなリアクトルの値となっている。このような以前から用いられていた従来の電流型インバータ装置では、入力電流を平滑化するために、例えば100mHといった非常に大きなリアクトルの値を必要としていたが、図18に示す太陽光発電用電力変換装置110においては、電流型インバータ装置の入力部分のリプル電流を許容できる限り、リプル電流を大きく設定することが可能となり、その分リアクトルを小さくすることができる構成になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−324847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電流型インバータ装置において、リアクトルのインダクタンスを小さくするとインバータの出力波形が歪むため、大きなインダクタンスのリアクトルを用いる必要がある。インダクタンスを大きくすると、リアクトルのサイズが大きくなり、装置としても大型化になるという問題を有する。特許文献1に開示された太陽光発電用電力変換装置110のように平滑用コンデンサ140を追加することによりリアクトルを小型化するためには大容量のコンデンサが必要である。
【0011】
このようなコンデンサとしては電解コンデンサが用いられる。しかし、電解コンデンサは、一般的に寿命が10年以下であり、周囲温度が10℃上昇すると寿命が半減するという問題がある。このように、電流型インバータ装置においては電解コンデンサを用いると寿命の問題が発生し、電流型インバータ装置における優位性が消されてしまうという課題を有する。従って、寿命の観点から、電流型インバータ装置においては電解コンデンサを用いない構成とした方が望ましい。
【0012】
一方、小容量のコンデンサを用いて装置の小型化を図る場合は、フィルムコンデンサやセラミックコンデンサを用いる構成が考えられるが、リアクトルの大きさが1/10、1/100になるほどの小型化を望むことはできない。また、大容量のコンデンサを用いる場合には、リアクトルを小型化することができるがコンデンサが大容量であるため、装置は大型化する。
【0013】
本発明は、前記従来の装置における課題を解決するものであり、電流型インバータ装置において大容量のコンデンサを用いずにリアクトルのインダクタンスを小さくして、リアクトルを小型化することができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明の電力変換装置の一態様としては、太陽電池モジュールからの直流電圧を降圧するためのスイッチング素子とダイオードとで構成される降圧コンバータと、前記降圧コンバータの出力を平滑する平滑リアクトルと、前記平滑リアクトルに接続され4個のスイッチング素子とダイオードとを直列接続した4組の直列接続体でブリッジ回路が構成されたスイッチング回路と、前記スイッチング回路の各スイッチング素子にスイッチング制御信号を出力するPWM制御回路と、前記スイッチング回路から前記太陽電池モジュールに戻る電流を検出する電流センサと、前記電流センサの直流成分を除去するハイパスフィルタと、前記ハイパスフィルタの出力を定数倍するゲイン回路と、前記ゲイン回路の出力信号と三角波信号と商用周波数の2倍周波数のsin波信号(正弦波信号)とを入力し、前記三角波信号の振幅を前記スイッチング回路から前記太陽電池モジュールに戻る電流に基づき変化させることにより、出力電圧の歪みに対して降圧コンバータのスイッチング素子のゲートのON/OFFの時間を変化させるスイッチング制御信号を出力するゲート信号生成回路と、で構成され、前記スイッチング回路と前記PWM制御回路によるインバータ部により直流電力を交流電力に変換して出力電圧を形成するものである。このように構成された本発明の電力変換装置は、ゲート信号生成回路の制御によりインバータの出力の歪みを低減する構成であり、リアクトルのインダクタンスを小さくしてもインバータの出力歪みを低減することを可能となる。
【0015】
本発明の電力変換装置は別の態様としては、前記2倍周波数のsin波信号(正弦波信号)の位相を変化させること、前記ゲイン回路の出力信号にオフセット値を加算すること、前記2倍周波数のsin波信号が、前記三角波信号と前記ゲインの出力を加算した信号の包絡線内に設定されていることにより、リアクトルのインダクタンスを小さくしてもインバータの出力歪みを低減することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電力変換装置によれば、降圧コンバータの出力電圧をインバータの入力電圧に対応して変化させることにより、リアクトル印加電圧を一定にすることができ、さらに出力のフィードバック信号の変化に応じて変調時のPWMのON/OFFの幅を変化させることにより、インバータの出力ひずみを低減することができ、インダクタンスを小さくしても出力波形の歪みを抑えることを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る実施形態を示す電力変換装置の構成図
【図2】本発明に係る実施形態におけるインバータ部の動作の説明図
【図3】本発明に係る実施形態におけるPWM制御回路の信号処理システムの説明図
【図4】降圧コンバータに対する従来のゲート信号生成方式を示す電力変換装置の構成図
【図5】降圧コンバータに対する従来のゲート信号生成方式を説明する波形図
【図6】従来方式により生成されたゲート信号による電流型インバータ装置の出力電圧波形図(L=100mH)
【図7】従来方式により生成されたゲート信号による電流型インバータ装置の出力電圧波形図(L=10mH)
【図8】ゲート信号生成回路に対して2倍周波数のsin波信号が入力される場合の電力変換装置の構成図
【図9】ゲート信号生成回路において2倍周波数のsin波信号が入力されるときのゲート信号生成方式を説明する図
【図10】ゲート信号生成回路において2倍周波数のsin波信号が入力されるときの降圧コンバータのゲート信号による電流型インバータ装置の出力電力波形(L=10mH)
【図11】ゲート信号生成回路において2倍周波数のsin波信号が入力されるときの降圧コンバータのゲート信号による電流型インバータ装置の出力波形(L=1mH)
【図12】本発明に係る実施形態における電流センサとハイパスフィルタの出力波形
【図13】本発明に係る実施形態におけるゲート信号生成回路を説明する波形図
【図14】本発明に係る実施形態におけるゲート信号生成回路を説明する波形図
【図15】本発明に係る実施形態における電流型インバータ装置の出力電力波形(L=1mH)
【図16】本発明に係る実施形態において位相を+5%変化させたときの電流型インバータ装置の出力電圧波形
【図17】本発明に係る実施形態において位相を−5%変化させたときの電流型インバータ装置の出力電圧波形
【図18】従来の太陽光発電用電流型インバータ装置の回路図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る好適な実施形態の電力変換装置について、添付の図1〜図17を参照しながら説明する。本発明の電力変換装置としては、太陽光発電用電力変換装置について説明し、太陽電池の直流出力を交流出力に変換して出力するインバータ装置を含んでいる。
【0019】
図1は本発明に係る実施形態を示す電力変換装置の構成図である。太陽電池モジュール1(PV)は、複数の太陽電池(図示省略)と、太陽電池と同数の逆電流阻止用ダイオード(図示省略)とより構成される。なお、太陽電池モジュール1においては、太陽電池と逆電流阻止用ダイオードが出力容量に応じて必要な数だけ直列あるいは並列に接続されて構成される。太陽電池モジュール1からは直流電圧が出力される。
【0020】
太陽電池モジュール1の出力は降圧コンバータ23に入力される。降圧コンバータ23は、半導体スイッチング素子2と、ダイオード4とにより構成されており、太陽電池モジュール1の出力電圧を降圧する。半導体スイッチング素子2としては電力用のMOS−FETやIGBTなどが用いられる。降圧コンバータ23の出力は平滑リアクトル3に接続される。平滑リアクトル3では降圧コンバータ23の出力における高周波リップルを平滑化する。平滑リアクトル3の出力はインバータ部25に入力される。
【0021】
インバータ部25は、太陽電池モジュール1で発電され降圧された直流電力を交流電力に変換するものである。インバータ部25は、ダイオード9,10,11,12をそれぞれ直列接続した4個の半導体スイッチング素子5,6,7,8をブリッジ形に接続して構成されたスイッチング回路24と、このスイッチング回路24の各半導体スイッチング素子5,6,7,8にスイッチング制御信号を出力するパルス幅変調制御回路(PWM制御回路)22を含む。スイッチング回路24は、ダイオード9,10,11,12と半導体スイッチング素子5,6,7,8がそれぞれ直列接続された4組の直列接続体を含み、4組の直列接続体によりブリッジ回路が構成されている。半導体スイッチング素子5,6,7,8としては電力用のMOS−FETやIGBTなどが用いられる。
【0022】
図2は本発明に係る実施形態におけるインバータ部25の動作説明図である。図2の(a)は商用周波数Eの波形図であり、図2の(b),(c)は半導体スイッチング素子5,7を駆動制御する商用周波数のスイッチング制御信号をそれぞれ示している。また、図2の(d)は、商用周波数の正弦波の全波整流された波形(基準正弦波)と、高周波の三角波キャリア信号(三角波信号)の波形を示している。図2の(d)では三角波キャリア信号を説明するため低周波で記述しているが、実際には20kHz程度の高周波の三角波キャリア周波数が用いられている。図2の(e),(f)は半導体スイッチング素子6,8を駆動制御するスイッチング制御信号をそれぞれ示している。
【0023】
図2の(b),(c)に示すように、半導体スイッチング素子5,7は商用周波数の半サイクル毎にON/OFF駆動制御されている。また、図2の(e),(f)に示すように、半導体スイッチング素子6,8は高周波の三角波キャリア周波数の波形と、商用周波数正弦波の全波整流型の波形との比較により決定された信号パターンによりON/OFF駆動制御されている。図3は、PWM制御回路22における半導体スイッチング素子6,8のドライブ回路に対する信号処理システムを示す説明図である。三角波キャリア信号と全波整流された基準正弦波信号とを比較し、論理回路により半導体スイッチング素子6,8をON/OFF駆動制御するスイッチング制御信号を形成して、半導体スイッチング素子6,8のドライブ回路へ出力する。
なお、上記の実施の形態においては三角波キャリア信号を用いた例で説明したが、三角波を鋸波状波の信号を用いた構成でもよい。
【0024】
上記の実施形態の電力変換装置においては、平滑リアクトル3とインバータ部25とにより電流型インバータ装置が構成される。電流型インバータ装置はスイッチング回路24のスイッチング状況に応じて直流電流をスイッチング動作で切り換えた電流波形が交流側に出力される。交流側電圧は負荷16に依存して発生するが、その極性によらずインバータ部25は負荷16に対して常に電流源として作用する。このため、半導体スイッチング素子5,6,7,8には、OFF時に半導体スイッチング素子5,6,7,8に印加される逆電圧を阻止するためのダイオード9,10,11,12が半導体スイッチング素子5,6,7,8のそれぞれに直列に接続されている。PWM制御回路22によりPWM制御を行うことにより、電流型インバータ装置の平滑リアクトル3が十分大きい場合には、電流型インバータ装置の出力電圧は正弦波に整形される。
【0025】
スイッチング回路24の出力端側に接続されている高周波成分を除去するコンデンサ13とリアクトル14,15で構成される出力フィルタ回路は、スイッチング回路24に対するフィルタ回路として配置されている。すなわち、スイッチング回路24に対してフィルタ回路を構成するコンデンサ13を並列に、リアクトル14,15を直列に接続している。このフィルタ回路により高周波成分が除去されるため、スイッチング回路24を構成する各半導体スイッチング素子5,6,7,8には高周波電流が流れず低損失となる。出力フィルタ回路は、一般家電や商用電力系統の機器等と連携して負荷16に接続される。
【0026】
ところで、一般的に太陽光発電用のインバータ装置においては、電力リプルの問題が必ず発生する。インバータ装置から出力される交流電流および交流電圧はともに正弦波である。このため、出力電力はsinの2乗に比例した形となる。これに対してインバータ装置の入力電力は直流であるため、その入力電力は一定である。そして、電力リップルは商用周波数の2倍となって現れ、必ずインバータ装置のどこかに電力を蓄積・放出させるデバイスが必要である。
電流型インバータ装置の場合、電力を蓄積・放出するデバイスは平滑リアクトル3である。この平滑リアクトル3のインダクタンスをL[H]、平滑リアクトル3に流れている電流をIl[A]とすると、平滑リアクトル3が蓄えているエネルギーJl[J:ジュール=W・sec]は、下記式1で表される。
【0027】
l=1/2(L・Il2)[J] (1)
【0028】
上記式1より、平滑リアクトル3がエネルギーの蓄積・放出を行った場合、必ず電流Ilがその蓄積・放出に応じて変動する。
【0029】
電流型インバータ装置の出力電流の歪を小さくするためには、入力電流は変動の少ないものが望ましい。式1より、一定のエネルギーの蓄積・放出を行いつつ平滑リアクトル3を流れる電流Ilの変動を小さくするためには、平滑リアクトル3のインダクタンスLの値を十分に大きくする必要がある。また、電流型インバータ装置の直流部の電圧をed、電圧edの実効値をEd、角周波数をω=2πf(fは商用周波数)とすると、電流型インバータ装置の直流部にはインバータ装置のスイッチング動作に応じて商用電圧が現れ、直流部の電圧edは下記式2で表わされる。
【0030】
ed=Ed−Edcos2ωt (2)
【0031】
上記式2より、商用周波数の2倍周波数で変動する電圧edが平滑リアクトル3に印加されるため、直流電流において変動を生じる。電流型インバータ装置は単に直流電流を正弦波分布パルス列に変調して交流電流に変換するので、直流電流変動は商用周波数の2倍周波数での交流電流の波形歪みを誘発する。
【0032】
図4は、降圧コンバータ23に対して、従来のゲート信号生成方式のゲート信号生成回路21Aを有する電力変換装置の構成図であり、図5は降圧コンバータ23に対する従来のゲート信号生成方式を説明する波形図である。図5において、(a)は三角波信号とDC電圧信号を示し、(b)は降圧コンバータ23における半導体スイッチング素子2が駆動制御されるゲート信号を示している。
【0033】
図4に示す構成において、ゲート信号生成回路21Aには三角波信号とDC電圧信号が入力される。三角波信号の周波数は20kHz程度である。ゲート信号生成回路21Aでは図5に示すように、三角波信号と一定電圧(DC電圧信号)とを比較し、降圧コンバータ23へのPWM出力を生成している。なお、三角波信号発生回路17における生成やゲート信号生成回路21Aの演算は、アナログ演算素子で構成してもよいし、MPU(Micro Processing Unit)によるディジタル信号処理で行ってもよい。 図4に示した電流変換装置の構成において、例えば、平滑リアクトル3のインダクタンスL=100mHの場合と、L=10mHの場合の電流型インバータ装置の出力電圧波形を図6および図7に示す。図6はインダクタンスL=100mHの場合の出力電圧波形であり、図7はインダクタンスL=10mHの場合の出力電圧波形である。図6に示すように、インダクタンスL=100mHではLの値が十分大きいため出力電圧波形は殆ど歪んでいない。しかし、図7に示すようにインダクタンスL=10mHの場合はLの値が小さいため商用周波数の2倍周波数で出力電圧波形が大きく歪んでいる。
【0034】
図8はゲート信号生成回路21Bに対して2倍周波数のsin波信号が入力される場合の電力変換装置の構成図である。図9はゲート信号生成回路21Bにおいて2倍周波数のsin波信号が入力されるときのゲート信号生成方式を説明する図である。図9において、(a)は三角波信号と商用周波数の2倍周波数のsin波信号を示している。図9の(b)は降圧コンバータ23における半導体スイッチング素子2が駆動制御されるゲート信号を示している。
【0035】
図8に示すように、ゲート信号生成回路21Bには三角波信号と商用周波数の2倍周波数のsin波信号が入力される。ゲート信号生成回路21Bでは、図9に示すように、三角波信号と商用周波数の2倍周波数のsin波信号とを比較して(図9の(a)参照)、降圧コンバータ23に入力するためのPWM出力信号を生成している。降圧コンバータ23においては、インバータ部25への直流入力電圧の2倍周波数変動に対応する変動電圧を出力するために、PWMスイッチング動作が行われる。
【0036】
前述のように、ゲート信号生成回路21Bでは、三角波信号と商用周波数の2倍周波数のsin波信号が入力されて、降圧コンバータ30へのPWM出力信号を生成している。三角波信号は20kHz程度、商用周波数の2倍周波数のsin波信号は100Hzまたは120Hzであるが、説明を分かりやすくするため、図9においてはsin波信号の周期を長く示している。
【0037】
図10に平滑リアクトル3のインダクタンスL=10mHのときの電流型インバータ装置の出力電圧波形を示す。前述の図7に示した出力電圧波形と比較して、図10に示した出力電圧波形の歪みが低減している。このことは、電圧edの2倍周波数変動が、降圧コンバータ23で2倍周波数変調波を採用したPWMスイッチング動作を行うことにより、降圧コンバータ23の出力電圧edcを直流部の電圧edに対応して変動させることによりキャンセルでき、平滑リアクトル3の印加電圧を一定にすることが可能であることを示している。
【0038】
次に、平滑リアクトル3のインダクタンスL=1mHのときの場合について説明する。図11は、前述の図8に示した電力変換装置の構成において、インダクタンスL=1mHのときの電流型インバータ装置の出力電圧波形を示す。図11に示すように、図8に示した構成における電流型インバータ装置の出力電圧波形は、商用周波数の2倍の周波数で歪んでいる。従って、降圧コンバータ23で2倍周波数変調波を採用したPWMスイッチング動作を行っても十分でないことがわかる。
【0039】
次に、図1に示した本発明に係る実施形態の電力変換装置の構成の場合について説明する。図1に示した電力変換装置においては、電流型インバータ装置のスイッチング回路24から太陽電池モジュール1に戻る電流を検出するために電流センサ18が設けられている。電流センサ18としてはホール型のものや、シャント抵抗により検出するものなどを用いることができる。
【0040】
図12に電流センサ18の出力信号波形を示す。電流センサ18の出力信号は、DC成分を取り除くため、ハイパスフィルタ19に入力される。電流センサ18の出力信号の周波数は商用周波数の2倍周波数であるため、ハイパスフィルタ19のカットオフ周波数は10Hz程度に設定すればよい。これは、カットオフ周波数より低い周波数は信号が減衰するためである。図12においては、電流センサ18の出力信号波形(上側)とともに、ハイパスフィルタ19の出力信号波形(下側)を示す。図12に示すようにハイパスフィルタ19の出力信号は直流成分がカットされ、カットオフ周波数より高い信号は、そのまま通過している。ハイパスフィルタ19の出力信号は電流センサ18の出力信号のオフセット分を除去している。ハイパスフィルタ19の出力信号はゲイン回路20に入力され、ハイパスフィルタ19の出力信号をゲイン倍(G)する。
【0041】
図1に示すように、ゲート信号生成回路21には、三角波発生回路17からの三角波信号と、商用周波数の2倍周波数のsin波信号と、ゲイン回路20の出力信号が入力される。ゲート信号生成回路21では、三角波発生回路17の三角波信号とゲイン回路20の出力信号とを加算する。なお、三角波信号発生回路17における生成やゲート信号生成回路21の演算は、アナログ演算素子で構成してもよいし、MPU(Micro Processing Unit)によるディジタル信号処理で行ってもよい。
【0042】
図13は三角波発生回路17の三角波信号とゲイン回路20の出力信号とを加算した信号と、2倍周波数のsin波信号を示している。2倍周波数のsin波信号は商用周波数の2倍周波数であるので100Hzないし120Hzであるのに対し、三角波信号は20kHz程度である。図13においては、時間軸を合わせているため、三角波信号は狭ピッチ(グレーに塗られた状態)で描かれている。図13に示すように、2倍周波数のsin波信号は、三角波信号とゲイン回路20の出力信号とを加算した信号の包絡線内に入るように設定される。2倍周波数のsin波信号の最大値が三角波信号の最大値にゲイン回路20の出力信号の最小値を加算した信号の値よりも小さく、2倍周波数のsin波信号の最小値が三角波信号の最小値にゲイン回路20の出力信号の最大値を加算した信号の値よりも大きくなるように三角波信号とゲイン回路20の出力信号の加算結果にオフセットを加算して設定する。つまり、図13において、A>Bになるように設定が行われる。この加算された信号と2倍周波数のsin波信号とを比較して降圧コンバータ23の半導体スイッチング素子2のゲート信号が生成される。
【0043】
図14は、ゲート信号生成回路21において2倍周波数のsin波信号と、三角波信号発生回路17からの三角波信号と、ゲイン回路20の出力信号と、が入力されるときのゲート信号生成方式を説明する図である。図14において、(a)は三角波信号とゲイン回路20の出力信号が加算された加算信号と、商用周波数の2倍周波数のsin信号を示している。図14の(b)は降圧コンバータ23における半導体スイッチング素子2が駆動制御されるゲート信号を示している。図14においては、説明を分かりやすくするため、sin波信号の周期を長く示している。
【0044】
図1に示した電力変換装置においては、前述の図4および図8に示した構成では一定振幅であった三角波信号の振幅を、電流型インバータ装置のスイッチング回路24から太陽電池モジュール1に戻る電流に基づき変化させている。このように構成された図1に示した電力変換装置は、出力電圧の歪みに対して、降圧コンバータ23の半導体スイッチング素子2のゲート信号におけるON/OFFの時間を変化させて、平滑リアクトル3の出力電圧の歪みを低減するように制御している。
【0045】
図15は、図1に示した電力変換装置の電流型インバータ装置の構成における平滑リアクトル3のインダクタンスL=1mHのときの出力電圧波形を示す。図15に示すように、L=1mHにおいても電流型インバータ装置の出力電圧波形の歪みが低減されていることが理解できる。
【0046】
また、2倍周波数のsin波信号の位相を変化させることにより電流型インバータ装置の出力電圧波形の歪みが変化する。電流型インバータ装置の出力電圧との位相が合っている場合の波形が図15である。50Hzの場合、周期は20msecであるが、この±3%以内に位相を合わせる必要がある。+5%ずれたときの電流型インバータ装置の出力電圧波形を図16に示す。また−5%ずれたときの電流型インバータ装置の出力電圧波形を図17に示す。図16および図17に示したどちらの出力電圧波形も歪みはじめている。
【0047】
上記のように、図1に示した実施形態の電力変換装置の構成においては、電解コンデンサを用いなくても、リアクトルのインダクタンスを小さい状態で電流型インバータ装置の出力電圧波形の歪みを低減できるという優れた効果を奏する。さらに、図1に示した実施形態の電力変換装置の構成においては、インダクタンスを小さくすることができるため、システム全体としての小型化を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の電力変換装置は、直流を交流に変換するインバータを搭載している各種装置に適用でき、有用性の高い発明である。
【符号の説明】
【0049】
1 太陽電池モジュール
2,5,6,7,8 半導体スイッチング素子
3 平滑リアクトル
4,9,10,11,12 ダイオード
13 コンデンサ
14,15 リアクトル
16 負荷
17 三角波発生回路
18 電流センサ
19 ハイパスフィルタ(HPF)
20 ゲイン回路
21,21A,21B ゲート信号生成回路
22 PWM制御回路
23 降圧コンバータ
24 スイッチング回路
25 インバータ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池モジュールからの直流電圧を降圧するためのスイッチング素子とダイオードとで構成される降圧コンバータと、
前記降圧コンバータの出力を平滑する平滑リアクトルと、
前記平滑リアクトルに接続されスイッチング素子とダイオードとを直列接続した4組の直列接続体でブリッジ回路が構成されたスイッチング回路と、
前記スイッチング回路の各スイッチング素子にスイッチング制御信号を出力するPWM制御回路と、
前記スイッチング回路から前記太陽電池モジュールに戻る電流を検出する電流センサと、
前記電流センサの直流成分を除去するハイパスフィルタと、
前記ハイパスフィルタの出力を定数倍するゲイン回路と、
前記ゲイン回路の出力信号と三角波信号と商用周波数の2倍周波数のsin波信号とを入力し、前記三角波信号の振幅を前記スイッチング回路から前記太陽電池モジュールに戻る電流に基づき変化させることにより、出力電圧の歪みに対して前記降圧コンバータの前記スイッチング素子のゲートのON/OFFの時間を変化させるスイッチング制御信号を出力するゲート信号生成回路と、で構成され、
前記スイッチング回路と前記PWM制御回路によるインバータ部により直流電力を交流電力に変換して出力電圧を形成する電力変換装置。
【請求項2】
前記2倍周波数のsin波信号の位相を変化させるよう構成された請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記ゲイン回路の出力信号にオフセット値を加算するよう構成された請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記2倍周波数のsin波信号が、前記三角波信号と前記ゲイン回路の出力信号を加算した信号の包絡線内に設定されている請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−99127(P2013−99127A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240107(P2011−240107)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】