説明

電力機器の異常診断装置

【課題】高周波数領域(20kHz以上)を計測するには、高周波領域用の振動センサやAEセンサが必要である。しかし、AEセンサは高価であるので診断装置のコストアップにつながる。高価なAEセンサ等を使わずに、機器内部の異物による振動や、締結ネジの緩みによる振動を低コストで診断する装置が要求されている。
【解決手段】従来、ノイズが多いとされていた低周波数領域(20kHz以下)にて機器内部の異物等による振動を本考案で示すノイズ除去アルゴリズムを使用して計測することで、低周波数領域(20kHz以下)でもノイズの影響を受けることなく機器内部の異物等による振動を計測することが可能となる。このため、振動センサとCPUの低コスト化により装置の低コスト化も実現できる。また、電源周波数(50Hzまたは60Hz)の倍音成分に特徴的に現れる機器由来の振動が原因で起こる締結ネジの緩みなどの異常振動の計測も可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁開閉器(GIS:Gas Insulated Switchgear)やガス遮断器(GCB:Gas Circuit Breaker)や電力用トランスなどの電力用機器の異常診断装置に関わり、詳しくは、異物による振動とねじの緩みによる異常振動を検出する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現状では、ガス絶縁開閉器等の点検は、定期的におこなっており、その点検の仕方は主に目視によりおこなっている。通常は、ベテランの保守員が実施している。しかしながら、ベテランの保守員自らが点検を行うのは、年に数回程度である。前回点検と次回点検の間に故障の予兆が発生した場合には、見つけることが出来ない。故障の予兆があったにもかかわらず、見つけるのが遅れ、実際に電力機器の故障をまねくことになってしまう。従って、ベテランの保守員等に頼らずとも機器で判断できるように、一般には電力機器にセンサを取付け、取込んだデータ信号を解析して、故障を診断する装置が開発されている。
【0003】
特開平11−218525には、実際の塵埃の音に近い音を発生させ、異物検出用のAE(Acoustic
Emission)センサの較正を定量的に精度よく行う為に、異物がガス絶縁機器の接地容器に衝突したときに生ずる振動音に類似した一定の大きさの衝撃音を発生することができ、それを用いて、AEセンサの較正を行う方法が挙げられている。
【0004】
機器内部の異物等や放電による振動を計測する手段として、特開2002−90413では振動センサやAEセンサを用いて取得したデータを、ノイズの多い低周波数領域(20kHz以下)を避け、ノイズの少ない高周波数領域(20kHz以上)についてFFT,ウェーブレット等の周波数解析などで計測する方法が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−218525号公報
【特許文献2】特開2002−90413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高周波数領域(20kHz以上)を計測するには、高周波数領域用の振動センサやAEセンサが必要である。これらのセンサは専用の特殊アンプが必要となり低周波数領域用の振動センサに比べ高価である。また、周波数解析においても処理時間の増加、メモリ容量の増加、高速ADCの使用などの問題を解決する為には高性能なCPUが必要となり、CPUコストも高価となる。このため、機器内部の異物等による振動を計測する装置を低コストで実現することが不可能である。また、高周波数領域(20kHz以上)では、電源周波数(50Hzまたは60Hz)の倍音成分に特徴的に現れる機器由来の振動成分が減少するため、締結ネジの緩みなどの、機器由来の振動が原因で起こる異常振動の計測が困難となる。
【0007】
電力機器において、重大事故につながる要因として、機器内部の異物混入が原因で発生する絶縁異常や、締結ネジの緩みなどの接触不良による通電異常が多くあり、これらの異常を初期の段階で発見することが重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来、ノイズが多いとされていた低周波数領域(20kHz以下)にて、機器内部の異物等による振動を本考案で示すノイズ除去アルゴリズムを使用して計測することで、低周波数領域(20kHz以下)でもノイズの影響を受けることなく機器内部の異物等による振動を計測することが可能となる。また、電源周波数(50Hzまたは60Hz)の倍音成分に特徴的に現れる機器由来の振動が原因で起こる締結ネジの緩みなどの異常振動の計測も可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、このため、振動センサとCPUの低コスト化により機器内部の異物等による振動を計測する装置が低コストで実現できる。また、機器の締結ネジの緩みなどに起因する振動を初期の段階で発見することができ、適切な処置を行うことが可能となるので、機器のネジの緩みが原因で、発生する可能性がある事故や故障を、事前に防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明におけるハードウェア構成例である。
【図2】本発明における診断フローである。
【図3】本発明におけるFFT解析によるデータ抽出例である。(電源周波数50Hz、サンプリング周波数12.5Hz) (a)FFT、 (b)データ群1 (部分放電発生の原因となる機器内部異物の振動検出用)、 (c)データ群2 (ネジの緩み等の機器由来振動による異常検出用)
【図4】本発明による電力診断例である。 (a)ノイズ処理前 異常振動なし、 (b)ノイズ処理前 異常振動あり、 (c)ノイズ処理後 異常振動なし、 (d)ノイズ処理後 異常振動あり
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、電力機器の故障診断装置の開発を長らくおこなっており、長年の経験から、低周波数領域(20kHz以下)の信号は、ねじやボルトの緩みに由来する振動によるものが多く、その機器由来の振動は電源周波数(50Hzまたは60Hz)の倍音成分に強く現れる傾向があることを見出した。
【0012】
前記のねじ等の緩みによる振動は、部分放電発生の原因となる機器内部の金属異物などによる異常振動を検出しようとする場合には、外部ノイズとなる。しかしながら、FFT等の周波数解析において電源周波数(50Hzまたは60Hz)の倍音成分を間引くことで、ねじ等の緩みによる振動、すなわち外部ノイズを除去することができる。
【実施例】
【0013】
また、締結ネジの緩みなどによる振動は機器由来の振動に起因するものであり、電源周波数(50Hzまたは60Hz)の倍音成分に特徴的に現れるため、この電源周波数(50Hzまたは60Hz)の倍音成分を抽出することで締結ネジの緩みなどによる異常振動を検出できる。以下に本考案において、周波数解析手法としてFFT(Fast Fourier Transform)解析を適用した場合のハードウェア構成と診断フローを示す。
【0014】
周波数解析手法として、FFT(Fast Fourier Transform)解析を適用した場合の構成を図1に示す。振動センサで収集したデータを、アンプを通して増幅した後、A/D変換器でディジタルデータに変換して、CPUへ取り込む。内部で、図2に示す診断処理を行った後、診断結果を出力装置へ送付する。
【0015】
図2の診断フローを用いて各処理を説明する。データ取得のサンプリング周波数(fsmp)はサンプリング定理より計測周波数範囲の最大値の2倍以上とする。FFTの基本周波数が電源周波数(50Hzまたは60Hz)の2分の1倍になるように設定する。このときnは自然数とする。ノイズ除去処理、FFTにより基本周波数が電源周波数(50Hzまたは60Hz)の2分の1倍ごとに分割された周波数成分のデータから2種類のデータ群へ抽出する。データ群1は、部分放電発生の原因となる機器内部異物の振動検査用で、電源周波数(50Hzまたは60Hz)をfとする式(1)を満たす周波数成分(ftmp1)のみを抽出する。抽出したftmp1の全てのデータを計測データ群1として保存する。
tmp1
= f × N + f × (1/2)・・・・(1)
* fsmp/2 < ftmp1
* N = (1,2,3,‥‥)
* 1/2はFFT実施時に設定した値
* f × (1/2)については電源周波数(50Hzまたは60Hz)を超えなければ更に自然数倍してもよい。
例えば:f × (1/2)を2倍で行う時
tmp1 = f × N + ((f × (1/2))×2)・・・・(1’)
【0016】
データ群2は、ネジの緩み等の機器由来振動による異常検出用で、電源周波数(50Hzまたは60Hz)を、fとする式(2)を満たす周波数成分(ftmp2)のみを抽出。抽出したftmp2の全てのデータを計測データ群2として保存する。
tmp2 = f × N ・・・・(2)
* fsmp/2 <
* N = (1,2,3,ftmp2‥‥)
【0017】
図3に電源周波数が50Hz時で基本周波数を12.5HzでFFTを行った時のデータ群1とデータ群2のデータ抽出を示す。データ群1では式(1’)より行った。
tmp1 = 50 × N + ((50 × (1/22))×2)
tmp1 = 25、75、125、175‥‥
【0018】
データ群1の診断は、正常時に計測したデータ群1と異常時に計測したデータ群1から、予め決めた閾値を超えたときに異常としてもよいし、常設形の場合には過去の学習データより閾値を算出しその閾値を超えたときに異常としてもよい。閾値を超えるデータ数は1個でもよいしそれ以上でも良い。
【0019】
データ群2の診断は、正常時に計測したデータ群2と異常時に計測したデータ群2から、予め決めた周波数毎に設定した閾値を超えたときに異常としてもよいし、常設形の場合には過去の学習データより閾値を周波数毎で個別に算出しその閾値を超えたときに異常としてもよい。閾値を超えるデータ数は1個でもよいしそれ以上でも良い。
【0020】
以下にGISなどの電力設備に上記手法を適用した例を示す。図4に電力設備の正常振動と異常振動のデータをそれぞれ基本周波数12.5HzとしてFFTを実施後、0Hzから2kHzにおいてノイズ除去処理を実施した周波数解析データと、ノイズ除去処理を実施していない周波数解析データを示す。ノイズ除去処理を実施した周波数解析データはデータ群1(部分放電発生の原因となる機器内部異物振動検出用)の処理を実施したものを示す。
【0021】
図4よりノイズ処理実施前では異常振動なし(a)と、異常振動あり(b)の差が明確ではないが、ノイズ除去処理を実施することで電源周波数(50Hzまたは60Hz)の倍音成分に特徴的に現れる機器由来の振動成分が除去され、図4の異常振動(c)と、異常振動あり(d)より、機器内部の異物による振動が抽出されていることがわかる。
【0022】
なお、起動後に1回閾値用のデータを取得するか或いは、数回分のデータの標準偏差等を用いて予め閾値を算出し、ノイズ除去処理を実施したデータが、その閾値を超えた場合(閾値を超えるデータ数は1個でもそれ以上でも良い)、或いは常設形においては過去の学習データより閾値を算出しノイズ除去処理を実施したデータがその閾値を超えた場合(閾値を超えるデータ数は1個でもそれ以上でも良い)に異常とすることで低周波数領域(20kHz以下)での異常振動診断が可能である。
【0023】
さらに、データ群1とデータ群2のそれぞれのデータで診断することで、部分放電の原因となる機器内部の異物の振動と、ネジの緩みなど機器由来の振動に起因する異常の両方を同時に診断できる。その結果によりユーザは、機器内部の確認や、ネジの緩みなどがないかを確認して、適切な保守を行うことで、機器の故障や不具合を事前に防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
この発明は、たとえば、ガス絶縁開閉器などの、部分放電の原因となる機器内部の異物の振動や、機器を締結するねじ類のゆるみを検出する機器の異常診断装置に適応できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力機器に取付けられて、機器の振動を検出する振動センサと、振動センサの信号を増幅するアンプと、アンプの出力信号をディジタル信号に変換するA/D変換器と、前記A/D変換器の出力信号を計測する手段を有し、20kHz以下の周波数帯域でFFT解析を行い、電源周波数の倍音成分を除去することで、部分放電の原因となる機器内部の異物による振動を検出することを特徴とする電力機器の異常診断装置。
【請求項2】
電力機器に取付けられて、機器の振動を検出する振動センサと、振動センサの信号を増幅するアンプと、アンプの出力信号をディジタル信号に変換するA/D変換器と、前記A/D変換器の出力信号を計測する手段を有し、20kHz以下の周波数帯域でFFT解析を行い、電源周波数の倍音成分を抽出することで、機器を締結するネジの緩みによる振動を検出することを特徴とする電力機器の異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−58046(P2012−58046A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200492(P2010−200492)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】