説明

電力測定器における結線状態検出方法

【課題】三相3線電力ラインの2電力計法による測定において、線間電圧基準から相電圧基準として各相の力率を表示して、電圧,電流の位相関係をより分かりやすくするとともに、誤結線を確実に検出できるようにする。
【解決手段】線間電圧U1を基準とした第一相の相電流I1の位相差θ1と第三相の相電流I2との位相差θ2を、それぞれ相電圧を基準とした位相差α1,α2に変換して、第一相,第三相の力率PF1(cos(α1)),力率PF2(cos(α2))を表示させ、α1,α2>0゜である場合には異常を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相3線の電力ラインの電力を2電力計法にて測定する電力測定器における結線状態検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三相3線の電力ラインの電力測定には、通常、2電力計法が採用される。2電力計法においては、図6に模式的に示すように、R,S,Tの各相のうち、例えばR−S間の線間電圧U1,T−S間の線間電圧U2,R相の相電流I1およびT相の相電流I2を測定して、(U1×I1)+(U2×I2)より総電力が求められる。なお、U1,I1,U2,I2はベクトル値である。
【0003】
また、測定にあたって、各相に電圧計の測定プローブと電流計の測定プローブとを取り付ける(結線する)が、往々にして間違える場合がある。特に、測定プローブを接続する相を間違えたり、電流計の測定プローブにクランプセンサを用いる場合には、電流の流れ方向と逆向きにクランプしてしまうことがある。
【0004】
そこで、上記のような誤結線をチェックするため、線間電圧U1,U2と相電流I1,I2の位相関係により結線状態を確認できるようにしている。その一例が特許文献1に記載されており、これについて説明する。
【0005】
特許文献1に記載されている電力測定器では、電圧入力部と電流入力部とから入力される交流電圧と交流電流とをA/D変換した波形データを波形メモリに格納したのち、交流電圧についてフーリエ変換して基本波成分を抽出する。
【0006】
そして、基本波成分を用いて交流電圧の位相角を算出し、例えばディスプレイの表示画面に、図7に示すような線間電圧U1,U2、相電流I1,I2の位相関係をベクトルで表示する。
【0007】
また、例えば線間電圧U1を基準としたときの相電流I1,I2の位相差をθ1,θ2として、次のような位相判定を行う(なお、下記の閾値は一例で、機種ごとに異なる場合がある)。
I1−U1位相差判定;−90゜≦θ1≦30゜(範囲内OK,範囲超NG)
I2−U2位相差判定;30゜≦θ2≦150゜(範囲内OK,範囲超NG)
【0008】
【特許文献1】特開2000−258484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の従来例によれば、ベクトル表示によって結線の状態を視覚的に判断することができ、また、測定している電圧,電流が歪んでいても、確実な結線の判断を行うことができる。
【0010】
しかしながら、三相3線の電力ラインの電力測定で一般に用いられる2電力計法では、電圧表示が線間電圧であることから、もともと電流との位相差が30゜あり、そのため、線間電圧を基準とした位相差表示では、各相の位相関係(力率)が分かりずらい、という問題がある。
【0011】
また、力率(電源品質)や結線の方法によっては、結線が間違っていても位相判定がOKと判定される場合がある。これについて、図8および図9により説明する。
【0012】
例えば、測定対象の三相3線の電源ラインの相電圧と相電流との関係が図9(a)のベクトル図の関係、すなわち、各相において電圧に対して電流が70゜遅れ状態にあるとして、図8に示すような誤結線をした場合を想定する。
【0013】
このときの線間電圧U1を基準にした場合の相電流I1の位相差θ1は、図9(a)を参照して、θ1=120゜−70゜−30゜=20゜となり、−90゜≦θ1≦30゜の範囲内なので、結線確認の判定はOKとなる。
【0014】
また、線間電圧U1を基準にした場合の相電流I2の位相差θ2は、図9(a)を参照して、θ2=120゜−70゜+90゜=140゜となり、30゜≦θ2≦150゜の範囲内なので、結線確認の判定はOKとなる。
【0015】
ちなみに、結線が図6に示すように正しく行われている場合には、図9(b)を参照して、θ1=−70゜−30゜=−100゜となり、−90゜≦θ1≦30゜の範囲外なので、結線確認の判定はNGとなる。また、θ2=120゜−70゜−30゜=20゜となり、30゜≦θ2≦150゜の範囲外なので、結線確認の判定はNGとなる。
【0016】
したがって、本発明の課題は、三相3線の電力ラインの電力測定で一般に用いられる2電力計法による測定において、線間電圧基準から相電圧基準として各相の力率を表示することにより、電圧,電流の位相関係をより分かりやすくするとともに、誤結線を確実に検出できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明は、請求項1に記載されているように、三相3線の電力ラインの電力を2電力計法にて測定する電力測定器における結線状態検出方法において、上記2電力計法にて上記電力ラインの第一相と第二相の線間電圧U1,第二相と第三相の線間電圧U2,上記第一相の相電流I1および上記第三相の相電流I2をそれぞれ測定して、少なくとも一方の上記線間電圧U1を基準として、上記線間電圧U1と上記第一相の相電流I1との位相差θ1と、上記線間電圧U1と上記第三相の相電流I2との位相差θ2を求めたのち、上記第一相の相電圧に対する上記第一相の相電流I1の位相差をα1,上記第三相の相電圧に対する上記第三相の相電流I2の位相差をα2,上記第一相の力率をPF1,上記第三相の力率をPF2として、上記第一相および上記第三相の力率PF1,PF2を、
α1=θ1+30゜としてPF1=cos(α1)
α2=θ2−90゜としてPF2=cos(α2)
よりそれぞれ求めるとともに、上記2電力計法による線間電圧U1,U2を相電圧u1,u2に変換し、所定の表示手段に上記PF1,PF2の値とともに、上記相電圧u1,u2と相電流I1,I2の位相関係をベクトル表示することを特徴としている。
【0018】
本発明において、請求項2に記載されているように、α1>0゜のときには上記PF1を負の値とし、α2>0゜のときには上記PF2を負の値として上記表示手段上で異常報知することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、線間電圧U1を基準とした第一相の相電流I1の位相差θ1と第三相の相電流I2との位相差θ2を、それぞれ相電圧を基準とした位相差α1,α2に変換して、第一相,第三相の力率PF1(cos(α1)),力率PF2(cos(α2))の値とともに、2電力計法による線間電圧U1,U2を相電圧u1,u2に変換して相電圧u1,u2と相電流I1,I2の位相関係をベクトル表示するようにしたことにより、電圧,電流の位相関係をより分かりやすくすることができる。
【0020】
また、α1,α2>0゜は、電圧に対して電流が進みであることを意味するが、例えばモータ負荷の場合、「進み」になることはあり得ないので結線に問題があり、として異常表示することにより、誤結線を確実に検出できる。
【0021】
異常表示として、ブザーや表示ランプ等を動作させてもよいが、力率PF1,PF2を負の値として表示することにより、ブザーや表示ランプ等を別途用意することなく、ユーザーに結線異常を適確に知らせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、図1ないし図5により、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1は本発明が備える電力測定器の構成を示すブロック図、図2は本発明の動作説明用のフローチャート、図3は電圧,電流の位相関係を示すベクトル図、図4(a),(b)は相電圧基準の電流位相差の求め方を示すベクトル図、図5は表示画面の表示例を示す模式図である。
【0023】
まず、図1を参照して、この電力測定器は、基本的な構成として、電圧入力部11および電流入力部12と、入力された交流電圧,交流電流をそれぞれデジタルに変換するA/D変換部11a,12aと、変換された波形を取り込む波形取込部13と、取り込まれた波形を処理する演算制御手段としてのCPU14と、少なくともROM,RAM領域が確保されている記憶部15と、表示部16とを備えている。
【0024】
2電力計法であることから、電圧入力部11には、三相3線の電力ラインのR,S,Tの各相の交流電圧(線間電圧)が入力され、A/D変換器11aでデジタルデータに変換されたうえで、波形取込部13に保存される。
【0025】
また、電流入力部12には、例えばR,Tの各相の交流電流(相電流)が入力され、A/D変換器12aでデジタルデータに変換されたうえで、波形取込部13に保存される。
【0026】
次に、図2の動作フローチャートを参照して、CPU14は、波形取込部13から交流電圧の波形データを受け取り、これについてフーリエ変換し、基本波成分を抽出する(ステップS1〜S3)。
【0027】
次に、CPU14は、基本波成分を用いて交流電圧の実効値を算出し、記憶部15に格納する(ステップS4〜S5)。また、基本波成分を用いて交流電圧の位相角を算出し、記憶部15に格納する(ステップS6〜S7)。
【0028】
入力されたすべての波形について処理が終了したかどうか判断し(ステップS8)、YESであれば、記憶部15からすべての位相角を読み出す(ステップS9)。そして、例えばR−S間の線間電圧U1を基準として、R相の相電流I1の位相差θ1と、T相の相電流I2の位相差θ2を算出する(ステップS10)。
【0029】
次に、R相の相電圧をu1,T相の相電圧をu2として、上記位相差θ1,θ2を線間電圧U1基準から、相電圧u1,u2基準に変換して位相差α1,α2を得たのち、R相,T相の力率PF1,PF2を算出し(ステップS11)、その位相差α1,α2、力率PF1,PF2を記憶部15に保存する(ステップS12)。
【0030】
ここで、図3,図4により、上記ステップS11での位相差α1,α2、力率PF1,PF2の求め方について説明する。図3は線間電圧U1,U2と相電流I1,I2,I3の位相関係を示すベクトル図で、図4(a),(b)は線間電圧基準の位相差θ1,θ2と相電圧基準の位相差α1,α2との関係を示すベクトル図である。
【0031】
図3のベクトル図に示すように、線間電圧U1は相電圧u1に対して30゜の進みをもつ。また、線間電圧U1と相電圧u2との間には90゜の角度が存在する。位相差α1は相電圧u1から見た相電流I1の位相角、位相差α2は相電圧u2から見た相電流I2の位相角である。また、図3において、時計方向が負(位相遅れ)で、反時計方向が正(位相進み)である。
【0032】
図4(a)を参照して、線間電圧U1から見た相電流I1の位相差θ1は負(遅れ)であり、−θ1=30゜−α1であるから、
α1=θ1+30゜
として算出され、R相の力率PF1は、PF1=cos(α1)で表される。
【0033】
次に、図4(b)を参照して、線間電圧U1から見た相電流I2の位相差θ2は正(進み)であり、θ2+(−α2)=90゜であるから、
α2=θ2−90゜
として算出され、T相の力率PF2は、PF2=cos(α2)で表される。
【0034】
本発明では、表示部16に、結線確認用の情報としてPF1,PF2を表示する。その際、α1>0゜のときには「進み力率」(異常)としてPF1にマイナス符号「−」を付して表示し、同様に、α2>0゜のときには「進み力率」(異常)としてPF2にマイナス符号「−」を付して表示する。
【0035】
ここで、先の図8,図9(a)で説明した誤結線の場合を本発明に当てはめて説明する。上記従来例では、誤結線の場合、本来NG(エラー)と判定されるべきところ、θ1=20゜,θ2=140゜となり、いずれもI−Uの位相差判定において上記判定基準内であるため、OK判定とされたが、本発明の場合には、
α1=20゜+30゜=50゜
α2=140゜−90゜=50゜
となり、α1,α2>0゜なので、マイナス符号「−」が付けられて、
PF1=cos(α1)=cos50゜=−0.64
PF2=cos(α2)=cos50゜=−0.64
として表示部16に表示される。
【0036】
これにより、例えばモータ負荷の場合、「進み」になることはあり得ないので、ユーザーに対して、結線に問題ありと注意を促すことができる。なお、これに代えて、ブザーや表示ランプを駆動して結線に異常があることを報知してもよい。
【0037】
次に、先の図9(b)で説明した結線が図6のように正しい場合を本発明に当てはめて説明する。結線が正しい場合には、θ1=−100゜,θ2=20゜となり、いずれもI−Uの位相差判定において上記判定基準から外れるため、NG判定とされた。なお、このNG判定は、電圧に対する電流の位相遅れが70゜と大きく力率が悪いことによる。
【0038】
すなわち、θ1=−100゜である場合、α1=−100゜+30゜=−70゜で、PF1=cos−70゜=0.34となる。また、θ2=20゜である場合、α2=20゜−90゜=−70゜で、同じくPF2=cos−70゜=0.34となる。
【0039】
この場合、α1,α2<0゜なので、PF1,PF2には異常を表す「−」符号は付けられないが、PF1,PF2に対して電源品質の良否判定基準としての閾値(例えば、0.5)を設定し、PF1,PF2が閾値以下の場合に異常を報知することにより、ユーザーに力率に問題があることを知らせることができる。
【0040】
なお、異常報知手段としては、表示部16の表示画面上でPF1,PF2の値をハイライト表示してもよいし、ブザーや表示ランプを駆動してもよい。
【0041】
図5に本発明の表示部16の表示画面例を示す。本発明によれば、まず表示部16の表示画面に、2電力計法により選択された2相,この例では、相電流I1のR相と、相電流I2のT相の力率がそれぞれ表示されるが、好ましくは、図5の左上に示されているように、2電力計法による線間電圧U1,U2を相電圧u1,u2に変換して、相電圧u1,u2と相電流I1,I2の位相関係を示すベクトル表示を行うことにより、電圧,電流の位相関係をより適確に把握することができる。なお、線間電圧から相電圧の変換は、線間電圧を30゜遅らせればよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明が備える電力測定器の構成を示すブロック図。
【図2】本発明の動作説明用のフローチャート。
【図3】電圧,電流の位相関係を示すベクトル図。
【図4】本発明において相電圧基準の電流位相差の求め方を示すベクトル図。
【図5】本発明の表示画面の表示例を示す模式図。
【図6】2電力計法による結線状態を示す模式図。
【図7】2電力計法による線間電圧と相電流の位相関係を示すベクトル図。
【図8】2電力計法での誤結線状態を示す模式図。
【図9】(a)誤結線時における線間電圧と相電流の位相関係を示すベクトル図、(b)正常結線時における線間電圧と相電流の位相関係を示すベクトル図。
【符号の説明】
【0043】
11 電力入力部
12 電流入力部
13 波形取込部
14 CPU
15 記憶部
16 表示部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相3線の電力ラインの電力を2電力計法にて測定する電力測定器における結線状態検出方法において、
上記2電力計法にて上記電力ラインの第一相と第二相の線間電圧U1,第二相と第三相の線間電圧U2,上記第一相の相電流I1および上記第三相の相電流I2をそれぞれ測定して、少なくとも一方の上記線間電圧U1を基準として、上記線間電圧U1と上記第一相の相電流I1との位相差θ1と、上記線間電圧U1と上記第三相の相電流I2との位相差θ2を求めたのち、
上記第一相の相電圧に対する上記第一相の相電流I1の位相差をα1,上記第三相の相電圧に対する上記第三相の相電流I2の位相差をα2,上記第一相の力率をPF1,上記第三相の力率をPF2として、上記第一相および上記第三相の力率PF1,PF2を、
α1=θ1+30゜としてPF1=cos(α1)
α2=θ2−90゜としてPF2=cos(α2)
よりそれぞれ求めるとともに、上記2電力計法による線間電圧U1,U2を相電圧u1,u2に変換し、所定の表示手段に上記PF1,PF2の値とともに、上記相電圧u1,u2と相電流I1,I2の位相関係をベクトル表示することを特徴とする電力測定器における結線状態検出方法。
【請求項2】
α1>0゜のときには上記PF1を負の値とし、α2>0゜のときには上記PF2を負の値として上記表示手段上で異常報知することを特徴とする請求項1に記載の電力測定器における結線状態検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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