説明

電動コンプレッサ

【課題】組み立て時における電子部品や回路基板への異物の付着や破損を防止することができるインバータアセンブリを備えた電動コンプレッサを提供する。
【解決手段】電動コンプレッサ1のインバータアセンブリ5において、回路基板14とベース部材8の基底部8aとの間、回路基板14とベース部材8の側壁部8bとの間、及び回路基板14のハウジング2側の面上に伝熱性を有する弾性部材18を配置し、回路基板14は弾性部材18中に埋没され、弾性部材18とハウジング2との間には、隙間19が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動コンプレッサに係り、特にインバータアセンブリを備えた電動コンプレッサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な電動コンプレッサは、冷媒を圧縮する圧縮機構部と、圧縮機構部を駆動する電動モータと、電動モータの回転を制御するインバータアセンブリとを備えており、インバータアセンブリの内部には、インバータ回路を構成する電子部品が実装された回路基板が収容されている。
【0003】
特許文献1には、電動コンプレッサのハウジング表面に一体形成された側壁部と、ハウジングとは別体に形成された蓋部材とから構成されるインバータアセンブリの構造が記載されている。この構造では、電子部品が実装された回路基板を蓋部材に取り付けた後に当該蓋部材をハウジング表面に一体形成された側壁部に接合する組み立て手順を採用することにより、蓋部材をハウジングに接合する際には、電子部品や回路基板が蓋部材によって保護される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−251161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インバータ回路を構成する電子部品や回路基板は、圧縮機構部や電動モータ等の他の機械部品に比べてデリケートである。そのため、電動コンプレッサの組み立て時において、埃等の異物が付着することによって故障したり、意図しない衝撃によって破損したりしてしまうおそれがある。
【0006】
特許文献1に記載のインバータアセンブリの構造では、電動コンプレッサの組み立て時における電子部品や回路基板への異物の付着や破損をある程度防止することができるが、例えば電子部品のリード部や回路基板の表面は蓋部材に取り付けた後も露出した状態のままであるため、組み立て時における電子部品のリード部や回路基板の表面への異物の付着や破損を十分に防止することはできない。
【0007】
この発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、組み立て時における電子部品や回路基板への異物の付着や破損を防止することができるインバータアセンブリを備えた電動コンプレッサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明に係る電動コンプレッサは、冷媒を圧縮する圧縮機構部と、圧縮機構部を駆動する電動モータと、圧縮機構部および電動モータを収容するハウジングと、電動モータの回転を制御するインバータアセンブリとを有する電動コンプレッサにおいて、インバータアセンブリは、ハウジングに取り付けられるとともに、基底部および基底部からハウジングの方向に立設された側壁部によって画定される収容室を有するベース部材と、ベース部材の収容室内に配置される回路基板と、回路基板のハウジング側の面上に実装される電子部品とを備え、ベース部材の側壁部は、回路基板のハウジング側の面を越えてハウジングに向けて延び、回路基板と基底部との間、回路基板と側壁部との間、及び回路基板のハウジング側の面上に伝熱性を有する弾性部材を有し、回路基板は弾性部材中に埋没され、弾性部材とハウジングとの間には、隙間が形成されることを特徴とする。
これにより、組み立て時における電子部品や回路基板への異物の付着や破損を防止することができるインバータアセンブリを備えた電動コンプレッサを得ることができる。
【0009】
電子部品の回路基板側の先端部は、弾性部材に埋没していてもよい。
【0010】
弾性部材は、ゲル状素材によって構成されてもよい。
【0011】
弾性部材は回路基板と基底部との間に配置されるシート層と、回路基板と側壁部との間及び回路基板のハウジング側の面上に配置される充填層とから構成されてもよい。
【0012】
電子部品は、伝熱性部材を介してハウジングに接するように配置されてもよい。
【0013】
電子部品は、ハウジングに直接接するように配置されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、組み立て時における電子部品や回路基板への異物の付着や破損を防止することができるインバータアセンブリを備えた電動コンプレッサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電動コンプレッサの縦断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る電動コンプレッサのインバータアセンブリの内部構造を示す模式断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る電動コンプレッサのインバータアセンブリの組み立て方法、およびハウジングへの取り付け方法を示す模式断面図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る電動コンプレッサのインバータアセンブリの内部構造を示す模式断面図である。
【図5】この発明のその他の実施の形態に係る電動コンプレッサのインバータアセンブリの内部構造を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態について添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係る電動コンプレッサの縦断面図を図1に示す。
電動コンプレッサ1のハウジング2の内部には、冷媒Rを圧縮する圧縮機構部3と、圧縮機構部3を駆動する電動モータ4とが収められている。また、ハウジング2の表面2aには、電動モータ4の回転を制御するインバータアセンブリ5が取り付けられている。
【0017】
図1において、吸入口6から吸入された低温低圧の冷媒Rは、電動モータ4を経由して圧縮機構部3に吸入され、圧縮機構部3で圧縮されて高温高圧になった後、吐出口7から吐出される。インバータアセンブリ5は、図示しないボルト等の締結手段により圧縮機構部3に吸入される低温低圧の冷媒Rが流通する近傍のハウジング表面2aに取り付けられている。
【0018】
図2は、インバータアセンブリ5の内部構造を示す模式断面図である。この図に示されるように、インバータアセンブリ5は、アルミニウム等の伝熱性材料によって形成された基底部8aおよび側壁部8bから構成されるベース部材8を備えている。ベース部材8の内部には、基底部8aおよび基底部8aからハウジング2の方向に立設された側壁部8bによって画定される収容室9が形成されており、収容室9の底部には、次に述べる回路基板14とベース部材8とを電気的に絶縁するための絶縁シート10が貼り付けられている。ベース部材8の側壁部8bは、収容室9の開口部がハウジング表面2aを向くように、ハウジング2の延出部2bに接合されている。
【0019】
ベース部材8の収容室9内には、インバータ回路を構成する電子部品11〜13が実装された回路基板14が収容されており、回路基板14は、ボルト15,16によってベース部材8の基底部8aに設けられた突出部8cに固定されている。
【0020】
電子部品11〜13は、例えばスイッチング素子(IGBT等)、ドライバIC、コンデンサ、トランス、コイル等であり、動作時に発熱を伴う素子である。電子部品11〜13は、回路基板14の上面14a(ハウジング表面2a側を向く面)に実装されており、アルミニウム等の伝熱性材料によって形成された伝熱性部材17を介して、ハウジング表面2aに接するように配置されている。
【0021】
回路基板14の下面14b(ベース部材8の基底部8a側を向く面)とベース部材8の基底部8aとの間、回路基板14の側面14cとベース部材8の側壁部8bとの間、および回路基板14の上面14aには、伝熱性を有する弾性部材18が配置されており、電子部品11〜13のリード部11a〜13aは、弾性部材18に埋没している。また、電子部品11〜13の回路基板14側の先端部である基端部11b〜13bも弾性部材18に埋没している。
【0022】
弾性部材18は、シリコーン等の初期状態において流動性を有する経時硬化型の素材によって構成されており、インバータアセンブリ5の組み立て時に流動性を有する状態で収容室9内に流し込まれ、時間の経過とともに硬化して弾力性を有するゲル状になる。
【0023】
ベース部材8の側壁部8bは、回路基板14の上面14aを越えてハウジング2に向けて延びているため、流し込まれた弾性部材18が収容室9の外部に溢れ出るのを防止すると共に、回路基板14の上面14aの弾性部材18とハウジング表面2aとの間には、隙間19が形成される。
【0024】
上記の構造のインバータアセンブリ5では、電動コンプレッサ1の動作時に電子部品11〜13が発する熱は、伝熱性部材17を介してハウジング表面2aに伝えられる。先に述べたように、インバータアセンブリ5は、圧縮機構部3に吸入される低温低圧の冷媒Rが流通する近傍のハウジング表面2aに取り付けられているため、このハウジング表面2aにおいて放熱が行われる。また、電子部品11〜13から回路基板14に伝わった熱は、回路基板14の全体を覆う弾性部材18を介してベース部材8に伝えられ、この経路によっても放熱が行われる。
【0025】
次に、上記の構造のインバータアセンブリ5の組み立て方法、およびハウジング2への取り付け方法について、図3(a)〜(d)を参照して詳細に説明する。
まず、図3(a)に示されるように、ベース部材8の収容室9の底部に絶縁シート10を貼り付ける。次に、図3(b)に示されるように、電子部品11〜13を実装した回路基板14を、ボルト15,16によってベース部材8の突出部8cに固定する。続いて、図3(c)に示されるように、収容室9内に流動性を有する状態の弾性部材18を流し込み、回路基板14の下面14bとベース部材8の基底部8aとの間、回路基板13の側面14cとベース部材8の側壁部8bとの間、及び回路基板14の上面14a、さらに電子部品11〜13の基端部11b〜13cまでが弾性部材18によって覆われるようにした後、弾性部材18が経時硬化してゲル状になるのを待つ。尚、ベース部材8の側壁部8bは、回路基板14の上面14aを越えて上方に延びているため、流し込まれた弾性部材18が側壁部8bを越えて収容室9の外部に溢れ出ることはない。最後に、弾性部材18が硬化して弾力性を有するゲル状になったら、図3(d)に示されるように、ベース部材8の側壁部8bをハウジング2の延出部2bに接合することによって、インバータアセンブリ5をハウジング2に取り付ける。
【0026】
以上説明したように、この発明の実施の形態1に係る電動コンプレッサ1のインバータアセンブリ5では、回路基板14の下面14bとベース部材8の基底部8aとの間、回路基板14の側面14cとベース部材8の側壁部8bとの間、及び回路基板14の上面14a、さらに電子部品11〜13の基端部11b〜13bには、伝熱性を有する弾性部材18が配置される。また、電動コンプレッサ1の組み立て時には、インバータアセンブリ5をハウジング2に取り付けるのに先だって、電子部品11〜13や回路基板14を弾性部材18によって覆うことができる。これにより、電動コンプレッサ1の組み立て時において、電子部品11〜13や回路基板14への異物の付着が防止される。また、回路基板14及び電子部品11〜13の基端部11b〜13bが弾性部材18に埋没しているので、組み付け時の耐衝撃性が向上する。また、電動コンプレッサ1の動作時においても、圧縮機構部3から伝わる振動は弾性部材18によって吸収されるため、電子部品11〜13や回路基板14の破損が防止される。
【0027】
また、ベース部材9とハウジング2とにより区画される空間内全体に弾性部材18を配置するのではなく、回路基板14の上面14に配置された弾性部材18とハウジング表面2aとの間には隙間19が形成される。これにより、弾性部材18の使用量が少なくて済み、その硬化時間が短いために、インバータアセンブリ5の組み立てに要する時間が短くて済む。また、ベース部材9とハウジング2とにより区画される空間内全体に弾性部材18を配置すると、温度上昇によるベース部材9とハウジング2とにより区画される空間内の圧力変動に対応するためにベース部材8に空気孔を形成する等の対策を講じる必要があるが、この実施の形態1の構造では、隙間19によって圧力変動が吸収されるため、そのような対策を講じる必要はい。
【0028】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に係る電動コンプレッサのインバータアセンブリ205の内部構造を図4に示す。尚、以降の説明において、図2の参照符号と同一の符号は、実施の形態1に係る電動コンプレッサ1のインバータアセンブリ5と同一又は同様の構成要素であるので、その詳細な説明は省略する。
【0029】
実施の形態2に係るインバータアセンブリ205では、回路基板14の下面14bとベース部材8の基底部8aとの間に配置される弾性部材220として、αゲル(@登録商標)等の初期状態において既にゲル状のシートが使用され、回路基板14の側面14cと側壁部8bとの間及び回路基板14の上面14aに配置される弾性部材18としては、実施の形態1と同様に初期状態において流動性を有する経時硬化型の素材が使用される。
【0030】
このインバータアセンブリ205を組み立てる際には、収容室9の底部に絶縁シート10と弾性部材220とを配置し、回路基板14をベース部材8の突出部8cに固定した後、回路基板14の上面14aおよび側面14cに流動性を有する状態の弾性部材18を流し込む。
【0031】
回路基板14の下面14bに配置される弾性部材220として初期状態において既にゲル状のシートを使用することによって、実施の形態1に比べて流動性の弾性部材18の使用量が少なくて済む。これにより、弾性部材18の硬化時間がさらに短くなり、インバータアセンブリ205の組み立てに要する時間が短縮される。
【0032】
その他の実施の形態.
実施の形態1,2では、回路基板14上に実装された電子部品11〜13は、伝熱性部材17を介してハウジング表面2aに接するように配置されていたが、図5に示されるように、電子部品11〜13がハウジング表面302aに直接接するように配置してもよい。
【0033】
実施の形態1において、弾性部材18を十分な絶縁特性と強度を有する素材によって構成することにより、絶縁シート10およびボルト15,16を省略してもよい。同様に、実施の形態2において、弾性部材220を十分な絶縁特性を有する素材によって構成すると共に、弾性部材18を十分な強度及び接着力を有する素材によって構成することにより、絶縁シート10およびボルト15,16を省略してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 電動コンプレッサ、2,302 ハウジング、3 圧縮機構部、4 電動モータ、5,205,305 インバータアセンブリ、8 ベース部材、8a ベース部材の基底部、8b ベース部材の側壁部、9 収容室、11〜13 電子部品、11b〜13b 電子部品の基端部、14 回路基板、14a 回路基板の上面(ハウジング側の面)、14b 回路基板の下面(ベース部材側の面)、14c 回路基板の側面、17 伝熱性部材、18 弾性部材、19,219 隙間、220 弾性部材、R 冷媒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機構部と、該圧縮機構部を駆動する電動モータと、前記圧縮機構部および前記電動モータを収容するハウジングと、前記電動モータの回転を制御するインバータアセンブリとを有する電動コンプレッサにおいて、
前記インバータアセンブリは、
前記ハウジングに取り付けられるとともに、基底部および該基底部から前記ハウジングの方向に立設された側壁部によって画定される収容室を有するベース部材と、
前記ベース部材の前記収容室内に配置される回路基板と、
前記回路基板の前記ハウジング側の面上に実装される電子部品とを備え、
前記ベース部材の前記側壁部は、前記回路基板の前記ハウジング側の面を越えて前記ハウジングに向けて延び、
前記回路基板と前記基底部との間、前記回路基板と前記側壁部との間、及び前記回路基板の前記ハウジング側の面上に伝熱性を有する弾性部材を有し、前記回路基板は前記弾性部材中に埋没され、前記弾性部材と前記ハウジングとの間には、隙間が形成されることを特徴とする、電動コンプレッサ。
【請求項2】
前記電子部品の前記回路基板側の先端部は、前記弾性部材に埋没していることを特徴とする、請求項1に記載の電動コンプレッサ。
【請求項3】
前記弾性部材は、ゲル状素材によって構成されることを特徴とする、請求項1または2に記載の電動コンプレッサ。
【請求項4】
前記弾性部材は前記回路基板と前記基底部との間に配置されるシート層と、前記回路基板と前記側壁部との間及び前記回路基板の前記ハウジング側の面上に配置される充填層とから構成されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動コンプレッサ。
【請求項5】
前記電子部品は、伝熱性部材を介して前記ハウジングに接するように配置されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電動コンプレッサ。
【請求項6】
前記電子部品は、前記ハウジングに直接接するように配置されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電動コンプレッサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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