説明

電動パワーステアリング装置

【課題】従動回転体と駆動回転体の軸間調整を、簡単な装置で行えるようにすることを目的とする。
【解決手段】ラック軸20にラック歯20aとボールネジ部20bを形成し、ラック歯20aに噛合するピニオンシャフト21をギヤハウジング11に回転可能に軸支し、ボールネジ部20bに噛合するボールナット50とこれと一体回転する従動回転体54をギヤハウジング11に回転可能に軸支し、駆動回転体71を電動モータ70の駆動軸70aに回転連結した電動パワーステアリング装置において、ボールナット50と前記従動回転体54をギヤハウジング11に従動回転体54と駆動回転体71の軸間距離が変化するよう定められた半径方向に移動可能に設け、ラック軸20を摺動可能に案内支持する滑り軸受73をギヤハウジング11に半径方向に移動可能に設け、半径方向に滑り軸受73を移動させてその位置に保持する調整保持装置78をギヤハウジング11に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータのアシスト力をボールネジを介してラック軸に伝えるようにした電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のボールネジを使った電動パワーステアリング装置として、特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
図7に示す電動パワーステアリング装置100は、電動モータ101のアシスト力を駆動プーリ102、タイミングベルト103、従動プーリ104、ボールネジ105を介してラック軸110に伝える構造になっている。ラック軸110の両端は図略のボールジョイントを介して車輪に連結され、ラック軸110の軸方向移動によって車輪の向きが変えられるようになっている。図略のハンドルは、図略のピニオンシャフトを介してラック軸110に形成されたラック歯に回転連結され、ハンドルの回転はラック軸110の軸方向移動に変換されるようになっている。
【0004】
電動モータ101のアシスト力がスムーズにラック軸110に伝達されるためには、前記タイミングベルト103に最適なベルトテンションを付与する必要がある。前記駆動プーリ102を調整カラー111にこれの軸心に対して偏心した位置で回転可能に軸支し、調整カラー111を回してタイミングベルト103のベルトテンションが最適なところになったところで、ロックナット112を調整カラー111のおねじ111aに螺合させ、調整カラー111をこれの角度を維持した状態でギヤハウジング113に固定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−145431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した装置は、調整カラー111のみならず、電動モータ101の駆動軸113と同軸に連結された回転軸114と、この回転軸114を回転可能に軸支する軸受115が必要となり、部品点数が多く、構造が複雑となり、組付けに手間がかかる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、ギヤハウジングにラック軸を軸方向移動可能に挿通し、前記ラック軸に一端側にラック歯を形成するとともに他端側にボールネジ部を形成し、前記ラック歯に噛合するピニオン歯を形成したピニオンシャフトをラック軸と交差する軸線回りに前記ギヤハウジングに回転可能に軸支し、前記ボールネジ部に噛合するボールナットとこれと一体回転する従動回転体を前記ギヤハウジングに回転可能に軸支し、従動回転体と回転伝達しこれと平行な軸線回りに回転する駆動回転体を電動モータの駆動軸に回転連結し、電動モータを前記ギヤハウジングに取付けた電動パワーステアリング装置において、前記ボールナットと前記従動回転体を前記ギヤハウジングに従動回転体と駆動回転体の軸間距離が変化するよう定められた半径方向に移動可能に設け、前記ラック軸を摺動可能に案内支持する滑り軸受を前記ギヤハウジングに前記半径方向に移動可能に設け、前記半径方向に滑り軸受を移動させてその位置に保持する調整保持装置をギヤハウジングに設けたものである。
【0008】
この構成によれば、ラック軸とピニオンシャフトの噛合い点を支点にラック軸を傾ける構造となっているため、ボールナット、従動回転体、滑り軸受をギヤハウジングに定められた半径方向に移動可能に設ける簡単な構成で達成できる。部品点数が少なく、構造が簡単となり、組付けが簡単となる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、前記従動回転体は従動プーリであり、前記駆動回転体は駆動プーリであり、従動プーリと駆動プーリにタイミングベルトを掛け渡したものである。
【0010】
この構成によれば、タイミングベルトの長さを調整することにより、従動プーリに対し駆動プーリを任意の位置に設置することが可能となる。つまり、電動モータを任意の場所に設置することが可能となる。タイミングベルトは、ゴム製のものが殆どであり、タイミングベルトとプーリの噛合いの音が小さい。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、前記従動回転体は従動ギヤであり、前記駆動回転体は駆動ギヤであり、従動ギヤと駆動ギヤは互いに噛合したものである。
【0012】
この構成によれば、ギヤ同士の噛合いにテンションを掛ける必要がなく、ギヤの歯が折損する可能性が非常に低く、信頼性が高い。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1、2、3に記載の電動パワーステアリング装置において、前記ギヤハウジング内に滑り軸受を半径方向に移動可能に案内支持する案内面が設けられている。
【0014】
この構成によれば、案内面の滑りを利用しているため、部品点数がより少なくなり、構造がより簡単となり、組付けがより簡単となる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1、2、3に記載の電動パワーステアリング装置において、前記調整保持手段は、滑り軸受を挟んで両側にギヤハウジングに螺合され滑り軸受に進退可能当接する一対の調整ネジである。
【0016】
この構成によれば、ギヤハウジングに一対の調整ネジを螺合させるだけで滑り軸受を半径方向に移動させその位置に保持することができる。部品点数がより少なくなり、構造がより簡単となり、組付けがより簡単となる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、前記ボールナットを前記ギヤハウジングに回転可能に軸支するために、転がり軸受をボールナットとギヤハウジング間に配置し、転がり軸受は、ボールナットに軸方向移動不能に取り付けられる内輪と、ギヤハウジングに嵌合される外輪と、内輪と外輪間で転動する転動体からなり、ボールナットと前記従動回転体をギヤハウジングに半径方向に移動可能に設けるために、ギヤハウジング内に前記外輪を半径方向に案内する案内面が設けられている。
【0018】
この構成によれば、非常に簡単な構成で、ボールナットと従動回転体を滑らかに回転させることが出来、しかも半径方向に移動させることが出来る。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の電動パワーステアリング装置において、前記外輪の半径方向移動調整終了後において、前記案内面を外輪に軸方向の弾性力を付与した状態で保持する弾性保持装置を前記ギヤハウジングに設けた。
【0020】
この構成によれば、ボールナット、従動回転体、ラック軸に対し軸方向の弾性力を付与した状態で支持でき、ラック軸の支持剛性が高まる。
【0021】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の電動パワーステアリング装置において、前記弾性保持装置として外輪の軸方向両側にゴム製のスペーサを配置し、スペーサの外輪側に案内面を形成した。
【0022】
この構成によれば、スペーサの摩擦係数が高いため、スペーサの案内面と外輪間の摩擦力が高くなり、ラック軸の半径方向の支持剛性が高まる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ラック軸とピニオンシャフトの噛合い点を支点にラック軸を傾ける構造となっているため、ボールナット、従動回転体、滑り軸受をギヤハウジングに定められた半径方向に移動可能に設ける簡単な構成で達成できる。この結果、部品点数が少なく、構造が簡単となり、組付けが簡単となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態における電動パワーステアリング装置の全体構成図である。
【図2】本発明の実施形態における図1のA−A線拡大断面図である。
【図3】本発明の実施形態における図1のB矢視拡大図である。
【図4】本発明の実施形態における図1の一部拡大図である。
【図5】本発明の実施形態における図1のC−C線拡大断面図である。
【図6】本発明の実施形態における図1のD−D線拡大断面図である。
【図7】従来の電動パワーステアリング装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態について、図1乃至図6を参酌しつつ説明する。図1は電動パワーステアリング装置の全体構成図であり、図2は図1のA−A線拡大断面図であり、図3は図1のB矢視拡大図であり、図4は図1の一部拡大図であり、図5は図1のC−C線拡大断面図であり、図6は図1のD−D線拡大断面図ある。
【0026】
図1において、電動パワーステアリング装置10は、ギヤハウジング11を有し、ギヤハウジング11の円筒状の円筒部12にラック軸20が挿通されている。ラック軸20の両端に図略のボールジョイントの一端が連結され、ボールジョイントの他端には図略の車輪がそれぞれ連結され、ラック軸20の軸方向の移動によって車輪の向きが変えられるようになっている。
【0027】
図2において、ラック軸20の一端にはラック歯20aが形成され、このラック歯20aにピニオンシャフト21のピニオン歯21aが噛合している。ギヤハウジング11の一端にはギヤハウジング11の長手方向と交差する方向に延びるギヤ部13を有する。前記ピニオンシャフト21は、ラック軸20と交差する軸線回りにギヤハウジング11のギヤ部13にコロ軸受22と玉軸受23を介して回転可能に軸支されている。ラック軸20の軸線とピニオンシャフト21の軸線の両方に交差する方向にギヤハウジング11のギヤ部13にガイド穴16が形成され、このガイド穴16にラックガイド24が摺動可能に嵌挿されている。ガイド穴16の開口側にめねじ16aが形成され、めねじ16aに蓋25が螺着されている。蓋25とラックガイド24間にコイルバネ26が介挿され、このコイルバネ26はラック軸20をピニオンシャフト21に押付ける役目を持っている。ラックガイド24のラック軸20側にラック軸用シート27が取付けられ、このラック軸用シート27はラック軸20のラック歯20aと反対側の背面に滑り接触している。
【0028】
前記ピニオンシャフト20の一端側にこれと同軸に連結軸30を配置し、この連結軸30はコロ軸受31を介してピニオンシャフト20に回転可能に軸支され、連結軸30は玉軸受32を介してギヤハウジング11のギヤ部13に回転可能に軸支されている。連結軸30の内周側にこれと同軸にトーションバー33を配置し、トーションバー33の一端は連結軸30に連結され、トーションバー33の他端はピニオンシャフト21に連結されている。連結軸30の回転は、トーションバー33を介してピニオンシャフト21に伝達されるようになっている。連結軸30は、図略のステアリングコラムを介してハンドルに連結されている。
【0029】
ギヤハウジング11内にはトルクセンサ40が設置されており、このトルクセンサ40はピニオンシャフト21と連結軸30の相対回転量、すなわちトーションバー33のねじれ量を見ることによって、連結軸30に作用するトルクを検出している。
【0030】
図1において、ラック軸20の他端にはボールネジ部20bが形成され、このボールネジ部20bにボールナット50が多数のボールを介して螺合されている。ボールネジ部20bとボールナット50とでボールネジ51が構成される。ボールナット50の外周には円筒状のカラー52が嵌挿され、このカラー52は、一端に大径部52aを有し、他端に小径部52bを有し、大径部52aと小径部52b間に段部52cを有する。大径部52aの内周にめねじ52dが形成され、このめねじ52dに留め金53が螺着されている。前記ボールナット50の一端外周に鍔部50aを有し、この鍔部50aは前記段部52cと前記留め金53とで挟み込まれている。これによりボールナット50はカラー52と一体回転可能となる。
【0031】
カラー52の外周に従動プーリ54が嵌挿され、この従動プーリ54は、カラー52の大径部52aに嵌挿される大径部54aと、カラー52の小径部52bに嵌挿される小径部54bと、大径部54aと小径部54b間に段部54cを有する。カラー52の外周に玉軸受55が嵌挿され、カラー52の一端外周におねじ52eが形成されている。おねじ52eにナット56が螺着され、従動プーリ54の小径部54bと玉軸受55をカラー52の段部52cとナット56とで挟み込むことにより、従動プーリ54と玉軸受55のカラー52に対する軸方向位置を拘束する。前記玉軸受55は、前記カラー52に固定される内輪55aと、後で述べるギヤハウジング11の支持部14の支持面61に嵌合される外輪55bと、内輪と外輪間を転動する転動体(ボール)55cを有する。
【0032】
ギヤハウジング11の他端には半径方向に拡張した支持部14と蓋部15を有し、蓋部15は支持部14にボルト60で固定されている。支持部14の内周にラック軸20と同軸に円筒状の支持面61が形成され、この支持面61に前記玉軸受55の外輪55bが嵌合されている。支持面61の内径は玉軸受55の外輪55bよりも若干大きいので、支持面61と玉軸受55の外輪55b間に図4に示すような隙間aが存在する。蓋部15と玉軸受55の外輪間に第1のスペーサ62と第2のスペーサ63が介挿され、支持部14の段部64と玉軸受55の外輪間に第3のスペーサ65が介挿されている。第2のスペーサ63と第3のスペーサ65は、ゴム製で弾性変形可能である。第1のスペーサ62は、ギヤハウジング11と同材質であるアルミ製で、支持面61に圧入固定される。第1のスペーサ62は、第2のスペーサ63、玉軸受55が支持部14から抜けないように仮止めする機能を持ち、この状態において、第2のスペーサ63と第3のスペーサ65の玉軸受55の外輪55b側の側面は、玉軸受55の外輪55bを半径方向に案内する案内面63a、65aとして機能する。
【0033】
蓋部15を支持部14にボルト60で固定すると、第1のスペーサ62は玉軸受55の外輪55b側へさらに圧入され、第2のスペーサ63と第3のスペーサ65は玉軸受55に密着するよう弾性変形し、玉軸受55の外輪は第1のスペーサ62、第2のスペーサ63、第3のスペーサ65を介して蓋部15と段部64で挟み込まれる。前記案内面63a、65aが玉軸受55の外輪55bに押付ける押圧面として機能し、前記第2のスペーサ63と第3のスペーサ65が軸方向の弾性力を付与する弾性体として機能する。
【0034】
この結果、ボールナット50、従動プーリ54、ラック軸20に対し軸方向の弾性力を付与した状態で支持でき、ラック軸20の軸方向の支持剛性が高まる。また、第2のスペーサ63と第3のスペーサ65はゴム製を使用しているため、第2のスペーサ63の案内面63aと第3のスペーサ65の案内面65aの摩擦係数が高く、第2のスペーサ63の案内面63aと外輪55b間、第3のスペーサ65の案内面65aと外輪55b間の摩擦力が高まり、ラック軸20の半径方向の支持剛性が高まる。蓋部15、第1のスペーサ62、第2のスペーサ63、第3のスペーサ65、段部64、ボルト60によって、ボールナット50、従動プーリ54、ラック軸20に軸方向の弾性力を付与する弾性保持装置80が構成される。
【0035】
支持面61には図4に示すように2本のリング状の溝66、67が形成され、各溝66、67にOリング68、69が嵌め込まれている。これらのOリング68、69は、隙間aを埋めるような形でボールナット50を半径方向に弾性的に支持する。
【0036】
図1において、支持部14に支持面61と平行にモータ挿入穴14aが形成され、このモータ挿入穴14aに電動モータ70の駆動軸70aが挿入された状態で電動モータ70が支持部14に取付けられている。電動モータ70の駆動軸70aに駆動プーリ71が取付けられ、前記従動プーリ54と駆動プーリ71にタイミングベルト72が掛け渡されている。従動プーリ54と駆動プーリ71が互いに平行になるように、前記電動モータ70は支持部14に取付けられている。
【0037】
ラック軸20はラック歯20aとボールネジ部20b間で円実部20cを有し、円実部20cに滑り軸受73が摺動可能に嵌合されている。図5に示すように円筒部12には挿通穴12aの他に摺動穴12bと大径穴12cが形成され、図6に示すように摺動穴12bは断面がトラック形状になるように形成されている。つまり、摺動穴12bはガイド穴14と同方向に円を延ばした形状に形成されている。
【0038】
ガイド穴14と平行な方向が、円筒部12における定められた半径方向に相当する。円筒部12には滑り軸受73を挟んで定められた半径方向の両側にネジ穴12d、12eが形成され、各ネジ穴12d、12eに調整ネジ74、75が螺合されている。各調整ネジ74、75にロックナット76、77が螺合されている。前記ネジ穴12d、12eは前記定められた半径方向に形成されており、調整ネジ74、75は定められた半径方向に滑り軸受73に対し螺進する。ネジ穴12d、12eと調整ネジ74、75とロックナット76、77とで、滑り軸受73を定められた半径方向に移動させその位置に保持する調整保持装置78を構成する。
【0039】
図5において前記大径穴12cは摺動穴12b側で圧入穴12fを有し、この圧入穴12fに抜け防止部材79が圧入されている。摺動穴12bの滑り軸受73と対応する側面と抜け防止部材79の滑り軸受73側の側面が滑り軸受73を、ラック軸20の軸方向移動不能にかつ定められた半径方向に移動可能に案内する案内面12g、79aとして機能する。
【0040】
ギヤハウジング11はアルミの材質で主に作られており、ダイキャスト金型によってギヤハウジング11を作るときに挿通穴12a、摺動穴12b、大径穴12c、圧入穴12fが同時に形成される。この後、ネジ切りタップによって、ネジ穴12d、12eが加工される。円筒状の支持面61は、切削によって所定の寸法に加工される。
【0041】
次に、電動パワーステアリング装置の組付け動作について説明する。
【0042】
ギヤハウジング11のギヤ部13にピニオンシャフト21と連結軸30とトルクセンサ40を組付けた状態から説明する。
【0043】
ギヤハウジング11の円筒部12の摺動穴12bに滑り軸受73を嵌め込み、ギヤハウジング11の円筒部12の圧入穴12fに抜け防止部材79を圧入する。ラック軸20のボールネジ部20bには別の組付けラインにてボールナット50が螺合され、ボールナット50にカラー52と従動プーリ54と玉軸受55とナット56が組付けられている。ギヤハウジング11の支持部14の支持面61に第3のスペーサ65を嵌め込み、溝66、67にOリング68、69を嵌め込む。このような状態で、先程のボールナット50、カラー52、従動プーリ54、玉軸受55、ナット56を組付けたラック軸20を、ギヤハウジング11の円筒部12の挿通穴12aに挿通し、さらに滑り軸受73、大径穴12cに挿通し、ラック軸20のラック歯20aをピニオンシャフト21のピニオン歯21aに噛合わせる。またさらに玉軸受55の外輪をギヤハウジング11の支持部14の支持面61に嵌め込み、このときにOリング68、69を半径方向外方に弾性変形させながらOリング68、69に玉軸受55の外輪を嵌め込む。
【0044】
次にギヤハウジング11の支持部14の支持面61に第1のスペーサ62を嵌め込み、支持面61に第2のスペーサ63を圧入して第2のスペーサ63と玉軸受55が支持部14から抜けないよう仮止めする。ただし、玉軸受55が半径方向に動ける程度に第1のスペーサ62を支持面61に圧入する。従動プーリ52にタイミングベルト72をかける。
【0045】
別の組付けラインにて電動モータ70の駆動軸70aに駆動プーリ71を予め取付けておく。駆動軸70aと駆動プーリ71をモータ挿入穴14aに挿入し、駆動プーリ71にタイミングベルト72をかける。電動モータ70を支持部14にボルトで固定する。
【0046】
ネジ穴12d、12eに調整ネジ74、75を螺合させ、続いてタイミングベルト72に最適なベルトテンションが付与されるまで調整ネジ74のみを矢印F方向に螺進させる。この動作によって、滑り軸受73は摺動穴12bの案内面12gと抜け防止部材79の案内面79aに案内されてガイド穴14と平行な定められた半径方向(矢印F方向)に移動するとともにラック歯20aとピニオン歯21aの噛合い点を支点にしてラック軸20が傾き、ボールナット50、カラー52、従動プーリ54、玉軸受55、ナット56も第2のスペーサ63の案内面63aと第3のスペーサ65の案内面65aに案内されて、定められた半径方向に移動する。すなわち図3において、従動プーリ54は矢印Fの方向に移動し、駆動プーリ71の軸線Pと従動プーリ54の軸線Q間の距離が大きくなり、タイミングベルト72が伸ばされてベルトテンションが駆動プーリ71と従動プーリ54にかかる。
【0047】
ベルトテンションを保持するために、調整ネジ75を螺進させて調整ネジ74の先端を滑り軸受73に当接させ、各調整ネジ74、75にロックナット76、77を螺合させ、ロックナット76、77を円筒部12に当接させる。次に支持部14に蓋部15をボルト60で固定する。ボルト60の固定により玉軸受55の外輪は、第1のスペーサ62、第2のスペーサ63、第3のスペーサ64を介して蓋部15と段部64で挟み込まれ、玉軸受55の外輪55bは第2のスペーサ63の案内面63aと第3のスペーサ65の案内面65aで弾力的に挟みこまれた状態となる。
【0048】
続いて、電動パワーステアリング装置の動作について説明する。運転手がハンドルを回転させると、ハンドルの回転動作が連結軸30、トーションバー33を介してピニオンシャフト20に伝達され、ラック歯20aとピニオン歯21aによってピニオンシャフト20の回転がラック軸20の軸方向移動に変換される。回転トルクが発生した場合は、トーションバー33が捩れ、連結軸30とピニオンシャフト20間に相対回転が発生する。この相対回転をトルクセンサ40で検出すると、電動モータ70が作動し、電動モータ70の力を駆動プーリ71、タイミングベルト72、従動プーリ52、ボールナット50、ラック軸20に伝える。これによって、運転手がハンドルを回したい方向に電動モータ70がパワーアシストする。車輪からラック軸20にかかる外力は、主にピニオンシャフト21とラックガイド24の挟み込みで受けると同時に、滑り軸受73で受ける。ラック軸20にかかる外力は、補助的に第2のスペーサ63、第3のスペーサ65、Oリング68、69の弾性力で受け止める。
【0049】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0050】
上述した実施形態は、従動回転体として従動プーリを使用し、駆動回転体として駆動プーリを使用した例について述べたが、従動回転体として従動ギヤを使用し、駆動回転体として駆動ギヤを使用しても良い。この場合、従動ギヤと駆動ギヤが噛合い、電動モータの力は駆動ギヤ、従動ギヤを介してボールナットに伝わる。従動ギヤと駆動ギヤの軸間距離を最適なものにすることによって、ギヤ同士の噛合いによる音、振動を少なくでき、ギヤの回転方向のバックラッシュを少なくできる。
【符号の説明】
【0051】
11:ギヤハウジング、12:円筒部、12g:案内面、20:ラック軸、20a:ラック歯、20b:ボールネジ部、21:ピニオンシャフト、21a:ピニオン歯、50:ボールナット、54:従動プーリ(従動回転体)、55:玉軸受、63:第2のスペーサ、63a:案内面、65:第3のスペーサ、65a:案内面、70:電動モータ、70a:駆動軸、71:駆動プーリ(駆動回転体)、72:タイミングベルト、73:滑り軸受、74:調整ネジ、75:調整ネジ、76:ロックナット、77:ロックナット、78:調整保持装置、79:抜け防止部材、79a:案内面、80:弾性保持装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤハウジングにラック軸を軸方向移動可能に挿通し、前記ラック軸に一端側にラック歯を形成するとともに他端側にボールネジ部を形成し、前記ラック歯に噛合するピニオン歯を形成したピニオンシャフトをラック軸と交差する軸線回りに前記ギヤハウジングに回転可能に軸支し、前記ボールネジ部に噛合するボールナットとこれと一体回転する従動回転体を前記ギヤハウジングに回転可能に軸支し、従動回転体と回転伝達しこれと平行な軸線回りに回転する駆動回転体を電動モータの駆動軸に回転連結し、電動モータを前記ギヤハウジングに取付けた電動パワーステアリング装置において、
前記ボールナットと前記従動回転体を前記ギヤハウジングに従動回転体と駆動回転体の軸間距離が変化するよう定められた半径方向に移動可能に設け、前記ラック軸を摺動可能に案内支持する滑り軸受を前記ギヤハウジングに前記半径方向に移動可能に設け、前記半径方向に滑り軸受を移動させてその位置に保持する調整保持装置をギヤハウジングに設けたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記従動回転体は従動プーリであり、前記駆動回転体は駆動プーリであり、従動プーリと駆動プーリにタイミングベルトを掛け渡したことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記従動回転体は従動ギヤであり、前記駆動回転体は駆動ギヤであり、従動ギヤと駆動ギヤは互いに噛合することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項1、2、3に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記ギヤハウジング内に滑り軸受を半径方向に移動可能に案内支持する案内面が設けられていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
請求項1、2、3に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記調整保持装置は、滑り軸受を挟んで両側にギヤハウジングに螺合され滑り軸受に進退可能に当接する一対の調整ネジであることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記ボールナットを前記ギヤハウジングに回転可能に軸支するために、転がり軸受をボールナットとギヤハウジング間に配置し、転がり軸受は、ボールナットに軸方向移動不能に取り付けられる内輪と、ギヤハウジングに嵌合される外輪と、内輪と外輪間で転動する転動体からなり、ボールナットと前記従動回転体をギヤハウジングに半径方向に移動可能に設けるために、ギヤハウジング内に前記外輪を半径方向に案内する案内面が設けられていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記外輪の半径方向移動調整終了後において、前記案内面を外輪に軸方向の弾性力を付与した状態で保持する弾性保持装置を前記ギヤハウジングに設けたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記弾性保持装置として外輪の軸方向両側にゴム製のスペーサを配置し、スペーサの外輪側に案内面を形成したことを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−1050(P2012−1050A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136197(P2010−136197)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】