説明

電動ブレーキ制御システム

【課題】ペダル非待機状態でのシステム起動による初回制動時、温度ドリフトによるオフセットにかかわらず、ドライバー要求を超える液圧制動力の発生を防止できると共に、ペダル非操作状態でのブレーキ引き摺りを解消すること。
【解決手段】電動ブレーキ制御システムは、電動ブースタ3を倍力装置とする電動型制御ブレーキユニットAと、ストロークセンサ70と、ペダル待機状態を検出する接触スイッチ75と、ゼロ点補正手段(図3)と、倍力制御手段(図3)と、を備える。ゼロ点補正手段(図3)は、システム起動時にペダル非待機状態であるとき、前回ゼロ点データに、ストロークセンサ70のセンサバラつきロス分を加算して得られたゼロ点補正値を、ゼロ点データとする。倍力制御手段(図3)は、ペダル非待機状態での実ストロークScからゼロ点Soを減算した値を指令値ストロークStとし、指令値ストロークStに基づいて電動ブースタ3の倍力制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ操作時、電動ブースタを倍力装置としてホイールシリンダへのブレーキ液圧を作り出す電動ブレーキ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電動倍力装置を備えた電動ブレーキ制御システムは、ドライバー操作による入力部材の移動量を検出するポテンショメータによるストロークセンサを設け、センサ検出値に基づいて電動モータを制御する。この電動ブレーキ制御システムは、ペダル操作をしないままでイグニッションキースイッチをオンとしたときにシステム起動(以下、「通常起動」という。)する。これに加え、イグニッションキースイッチがオフ状態でペダル操作を行うことによりシステム起動する機能(以下、「B−SW起動」という。)を有する。
【0003】
従来、電動倍力装置としては、ストロークセンサによるセンサ検出値からゼロ点データを減算した値をペダルストローク情報とし、ペダルストローク情報に基づいて電動モータの制御を行うものが知られている。ここで、システム起動時にペダル待機状態である通常起動時には、ペダル待機状態にて取得されたセンサ検出値をゼロ点データとして用いる。また、システム起動時に非待機状態であるB−SW起動時には、前回のシステム起動時にペダル待機状態にて取得されたセンサ検出値(前回ゼロ点データ)をゼロ点データとして用いる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−227230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の電動倍力装置にあっては、B−SW起動時での初回制動の際、前回ゼロ点データをゼロ点データとし、ペダルストローク情報の算出に用いるようにしている。このため、前回ゼロ点データを使う場合は、ゼロ点データを取得する時期が今回と前回とで異なることにより熱環境が変化し、ゼロ点の真値に対し温度ドリフトによるオフセットが生じる可能性がある。そして、温度ドリフトによるオフセットが、ブレーキ液圧を高める方向に生じた場合、ドライバーのペダル操作に基づいて発生する液圧制動力がドライバー要求を超えるばかりでなく、ペダル非操作状態で液圧制動力が発生することに起因するブレーキ引き摺りが懸念される、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、ペダル非待機状態でのシステム起動による初回制動時、温度ドリフトによるオフセットにかかわらず、ドライバー要求を超える液圧制動力の発生を防止できると共に、ペダル非操作状態でのブレーキ引き摺りを解消することができる電動ブレーキ制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の電動ブレーキ制御システムは、電動型制御ブレーキユニットと、ペダル操作量センサと、ペダル待機状態検出手段と、ゼロ点補正手段と、倍力制御手段と、を備える手段とした。
前記電動型制御ブレーキユニットは、ブレーキペダルに対するペダル操作時、電動ブースタを倍力装置としてホイールシリンダへのブレーキ液圧を作り出す。
前記ペダル操作量センサは、前記ブレーキペダルに対するペダル操作量を検出する。
前記ペダル待機状態検出手段は、前記ブレーキペダルに対するペダル待機状態であるか否かを検出する。
前記ゼロ点補正手段は、システム起動時にペダル非待機状態であるとき、前回のシステム起動時にペダル待機状態で取得した前回ゼロ点データに、前記ペダル操作量センサのセンサバラつきロス分を加算して得られたゼロ点補正値を、ゼロ点データとする。
前記倍力制御手段は、前記ペダル非待機状態での前記ペダル操作量センサによるセンサ検出値から前記ゼロ点データを減算した値をペダル操作量情報とし、ペダル操作量情報に基づいて前記電動ブースタの倍力制御を行う。
【発明の効果】
【0008】
よって、システム起動時にペダル非待機状態であるとき、ゼロ点補正手段において、前回ゼロ点データにセンサバラつきロス分を加算した値がゼロ点データとされる。そして、倍力制御手段において、ペダル非待機状態でのセンサ検出値からゼロ点データを減算した値をペダル操作量情報として電動ブースタの倍力制御が行われる。
すなわち、ペダル非待機起動時において、温度ドリフトによるオフセットが、ゼロ点の真値からブレーキ液圧を高める側(減算側)に生じている場合、前回ゼロ点データに加算されるセンサバラつきロス分により、ペダル非待機起動時のゼロ点データがブレーキ液圧を低下させる側(加算側)に移動する。例えば、温度オフセットの最大値をセンサバラつきロス分とした場合、ペダル非待機起動時のゼロ点データは、温度オフセット量が最大値のときにゼロ点の真値に一致する。そして、最大値を下回る温度オフセット量のときは、ペダル非待機起動時のゼロ点データが、ゼロ点の真値よりブレーキ液圧を低下させる側にオフセットさせた設定になる。
この結果、ペダル非待機状態でのシステム起動による初回制動時、温度ドリフトによるオフセットにかかわらず、ドライバー要求を超える液圧制動力の発生を防止できると共に、ペダル非操作状態でのブレーキ引き摺りを解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の電動ブレーキ制御システムを示す全体システム図である。
【図2】実施例1の電動ブレーキ制御システムにおける電動型制御ブレーキユニットを示す断面図である。
【図3】実施例1の電動ブレーキ制御システムにおけるブレーキコントローラにて実行されるシステム起動後の初回ゼロ点補正処理および初回制動制御処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図4】実施例1のブレーキコントローラにて実行されるB−SW起動後の初回制動制御処理で用いられるフィルタ時定数を決定するためのフィルタ時定数マップの一例を示す三次元マップ図である。
【図5】実施例1のブレーキコントローラにて実行されるB−SW起動後の初回制動制御処理で用いられる倍力比(=倍力ゲイン)を決定するための倍力比マップの一例を示す三次元マップ図である。
【図6】実施例1のブレーキコントローラにて実行されるB−SW起動時のゼロ点補正制御作用を示す作用説明図である。
【図7】実施例1のブレーキコントローラにて実行されるB−SW起動時の倍力比可変制御概念を示す制御ブロック図である。
【図8】実施例1のブレーキコントローラにて実行されるB−SW起動時の倍力比可変制御効果をあらわすマスターシリンダ圧力比較特性とストローク比較特性を示すタイムチャートである。
【図9】実施例1のブレーキコントローラにてB−SW起動時に行われる倍力比可変制御でのロスストローク開始作用を示す作用説明図である。
【図10】実施例1のブレーキコントローラにてB−SW起動時に行われる倍力比可変制御開始作用を示す作用説明図である。
【図11】実施例1のブレーキコントローラにてB−SW起動時に行われる倍力比可変制御の比較作用を示す比較作用説明図である。
【図12】実施例1のブレーキコントローラにて実行されるB−SW起動時の倍力ゲイン可変制御概念と倍力指令値のフィルタ処理制御概念を示す制御ブロック図である。
【図13】実施例1のブレーキコントローラにて実行されるB−SW起動時の倍力ゲイン可変制御効果と倍力指令値のフィルタ処理制御効果をあらわすマスターシリンダ圧力比較特性とストローク比較特性を示すタイムチャートである。
【図14】実施例1のブレーキコントローラにてB−SW起動時に行われる倍力指令値のフィルタ処理制御開始作用を示す作用説明図である。
【図15】実施例1のブレーキコントローラにてB−SW起動時に行われる倍力指令値のフィルタ処理制御の比較作用を示す比較作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の電動ブレーキ制御システムを実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
図1は、電動車両(電気自動車やハイブリッド車、等)に適用された実施例1の電動ブレーキ制御システムを示す。以下、図1に基づき全体システム構成を説明する。
【0012】
実施例1の電動ブレーキ制御システムは、図1に示すように、ドライバー操作入力部材1と、電動ブースタ3と、マスターシリンダ5と、ブレーキコントローラ7と、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8と、前輪左ホイールシリンダ9FLと、前輪右ホイールシリンダ9FRと、後輪左ホイールシリンダ9RLと、後輪右ホイールシリンダ9RRと、を備えている。なお、ドライバー操作入力部材1と、電動ブースタ3と、マスターシリンダ5と、を一体に構成することにより電動型制御ブレーキユニットAが構成される。
【0013】
前記ドライバー操作入力部材1は、ブレーキ操作時、ドライバーのペダル踏力を電動型制御ブレーキユニットAに対して入力する入力部材である。このドライバー操作入力部材1は、図1に示すように、ブレーキペダル10と、クレビスピン11と、クレビス12と、インプットロッド13と、を有する。そして、ドライバーがブレーキペダル10にペダル踏力を加えると、クレビスピン11およびクレビス12を介してインプットロッド13に伝達され、インプットロッド13を図1の左方向にストロークさせる。
【0014】
前記電動ブースタ3は、ブレーキ操作時、電気的に発生させた力を用いてペダル踏力をアシストすることができる電動倍力装置である。この電動ブースタ3は、図1に示すように、電動モータ30を有する。そして、ブレーキ操作時、電動モータ30の回転力を、後述するボールねじ機構36(図2)を介して軸方向のアシスト推力に変換する。
【0015】
前記マスターシリンダ5は、ブレーキ操作時、液圧ピストンへ加えられる入力をマスターシリンダ圧に変換するシリンダ部材である。このマスターシリンダ5は、図1に示すように、ブレーキ作動油を溜めるリザーブタンク50を有する。そして、ブレーキ操作時、ペダル踏力に電動ブースタ3によるアシスト推力を加えた力により液圧ピストンを押し、リザーブタンク50からのポートを閉じてマスターシリンダ圧(プライマリ液圧、セカンダリ液圧)を発生させる。
【0016】
前記ブレーキコントローラ7は、制動力が必要な様々の場面で電動ブースタ3の電動モータ30やABSブレーキ液圧アクチュエータ8の各ソレノイドに対し制御指令を出力する電子制御装置である。このブレーキコントローラ7には、図1に示すように、ストロークセンサ70(ペダル操作量センサ)、レゾルバ71、マスターシリンダ圧センサ72、車速センサ73、イグニッションキースイッチ74、接触スイッチ75(ペダル待機状態検出手段)等から制御必要情報が入力される。そして、制御必要情報に基づき演算処理が行われ、演算処理結果による制御指令が、電動モータ30やABSブレーキ液圧アクチュエータ8の各ソレノイドに対し出力される。
【0017】
前記ストロークセンサ70は、電動型制御ブレーキユニットAが固定されるダッシュパネルに対するインプットロッド13の絶対変位量(実ストロークSc)を検出するポテンショメータである。前記レゾルバ71は、電動モータ30の回転角度を検出する回転角センサである。なお、レゾルバ71からのセンサ情報は、モータ回転情報としてだけでなく、アシスト部材の相対変位量情報としても用いられる。前記マスターシリンダ圧センサ72は、プライマリ液圧によるマスターシリンダ圧力Pを検出する。前記車速センサ73は、車速Vcarを検出する。イグニッションキースイッチ74は、イグニッションキー操作によりオン信号を出力する。接触スイッチ75は、例えば、ペダル待機状態のときオフ信号を出力し、ペダル非待機状態のときオン信号を出力するペダル待機状態検出手段である。
【0018】
前記ABSブレーキ液圧アクチュエータ8は、図1に示すように、電動型制御ブレーキユニットAと各輪のホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RRとの間に介装され、各輪のホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RRへのブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)を独立に制御する。このABSブレーキ液圧アクチュエータ8と電動型制御ブレーキユニットAとは、プライマリ液圧配管61とセカンダリ液圧配管62により接続されている。そして、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8と各輪のホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RRとは、X配管構成による左前輪圧配管63と右前輪圧配管64と左後輪圧配管65と右後輪圧配管66により接続されている。
【0019】
前記ABSブレーキ液圧アクチュエータ8の各構成要素を説明する。ABSブレーキ液圧アクチュエータ8は、図1に示すように、2つの液圧ポンプ80,80と、1つのポンプモータ81と、4つのABSインバルブ82,82,82,82と、4つのABSアウトバルブ83,83,83,83と、を有する。そして、2つのカットバルブ84,84と、2つのサクションバルブ85,85と、2つのリザーバ86,86と、2つのダンパ87,87と、を有する。
【0020】
前記液圧ポンプ80,80は、減圧によりリザーバ86内に貯えられたブレーキ液をマスターシリンダ5に戻す。前記ポンプモータ81は、ブレーキコントローラ7から送られてくる駆動指令により液圧ポンプ80を駆動させる。前記ABSインバルブ82,82,82,82は、ブレーキコントローラ7から送られてくるソレノイド指令により、増圧または保持の油圧経路に切り替える。前記ABSアウトバルブ83,83,83,83は、ブレーキコントローラ7から送られてくるソレノイド指令により、増圧または保持または減圧の油圧経路に切り替える。
【0021】
前記カットバルブ84,84は、VDC機能・TCS機能・ブレーキLSD機能・ブレーキアシスト機能・左右制動力配分機能の作動時、マスターシリンダ5からの通常ブレーキ経路を遮断する。前記サクションバルブ85,85は、VDC機能・TCS機能・ブレーキLSD機能・ブレーキアシスト機能・左右制動力配分機能の作動時、マスターシリンダ5から液圧ポンプ80への経路を開放する。前記リザーバ86,86は、減圧時、各輪のホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RR内から抜いたブレーキ液を一時的に貯えておく。前記ダンパ87,87は、VDC機能・TCS機能・ABS機能・EBD機能・ブレーキLSD機能・ブレーキアシスト機能・左右制動力配分機能の作動時、ブレーキ液の脈動を抑え、ブレーキペダル10に伝わる振動を弱める。
【0022】
前記各ホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RRは、前後各輪のブレーキディスクのキャリパに設定され、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8からのブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)が印加される。そして、各ホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,8RRへのブレーキ液圧の印加時、ブレーキパットによりブレーキディスクを挟圧することにより、前後輪に液圧制動力を付与する。
【0023】
図2は、実施例1の電動ブレーキ制御システムにおける電動型制御ブレーキユニットAを示す。以下、図2に基づいて、電動型制御ブレーキユニットAの構成要素であるドライバー操作入力部材1、電動ブースタ3、マスターシリンダ5の具体的構成を説明する。
【0024】
前記ドライバー操作入力部材1は、図2に示すように、インプットロッド13と、インプットピストン14と、一対のコイルスプリング15,16と、を備えている。
【0025】
前記インプットロッド13は、ブレーキペダル10が連結されたペダル踏力伝達部材である。つまり、ドライバーがブレーキペダル10に対しペダル踏力を加えると、インプットロッド13にペダル踏力が伝達され、インプットロッド13を図2の左方向にストロークさせる。このインプットロッド13に形成されたフランジ部13aは、ペダル待機状態のときにハウジングカバー32に対し当接することで、インプットロッド13の軸方向位置をストッパ規制する。このため、この当接位置のハウジングカバー32側には、ペダル待機状態であるか否かを検出する接触スイッチ75が設けられている。
【0026】
前記インプットピストン14は、マスターシリンダ5のプライマリピストン51の内側位置まで延在配置されたペダル踏力伝達部材である。このインプットピストン14は、インプットロッド13に対して球面結合により同軸上に連結され、インプットロッド13と一体に追従して進退動作をする。
【0027】
前記一対のコイルスプリング15,16は、インプットピストン14のフランジ部と、マスターシリンダ5のプライマリピストン51と、の間に介装され、ブレーキ非操作時、インプットピストン14を付勢中立位置に保つ。すなわち、ブレーキ操作時において、インプットピストン14には、図2の右方向にピストン端面の受圧面積とプライマリ液圧による液圧反力が作用し、図2の左方向にペダル踏力が作用する。加えて、ブレーキ操作時にコイルスプリング15,16の相対変位量があるときは、インプットピストン14に対し、コイルスプリング15,16の相対変位量とバネ定数に応じたバネ力が、図2の右方向あるいは左方向に作用する。
【0028】
前記電動ブースタ3は、図2に示すように、電動モータ30と、ブースタハウジング31と、ハウジングカバー32と、バネ受けカバー33と、軸受け34,35と、ボールねじ機構36と、リターンスプリング37と、を備えている。
【0029】
前記ブースタハウジング31は、ドライバー操作入力部材1側にハウジングカバー32が油密状態でボルト40により固定され、マスターシリンダ5側にバネ受けカバー33が連結プレート41を介してボルト・ナット42により油密状態で固定される。そして、ハウジングカバー32に設けたスタッドボルト43により、3部品構成によるハウジング部材が図外のダッシュパネルに固定される。
【0030】
前記電動モータ30は、前記ハウジング部材に内蔵され、ハウジングカバー32に固定されたモータステータ30aと、モータステータ30aに対しエアギャップを介して配置されたモータロータ30bと、により構成される。モータステータ30aは、積層板によるステータティースにモータコイルが巻き付けられている。モータロータ30bは、永久磁石を有する中空円筒状部材であり、軸受け34,35を介し、ブースタハウジング31とハウジングカバー32に回転可能に支持されている。この電動モータ30の隣接位置には、レゾルバステータ71aとレゾルバロータ71bにより構成されたレゾルバ71が配置されている。
【0031】
前記ボールねじ機構36は、電動モータ30の回転力を、軸方向のアシスト推力に変換する機構であり、ボールねじ固定シャフト36aと、ボール36bと、ボールねじ可動シャフト36cと、を有して構成される。ボールねじ固定シャフト36aは、モータロータ30bに固定され、モータロータ30bと共に回転するが、軸方向の移動が規制された軸方向固定部材である。ボール36bは、ボールねじ固定シャフト36aの内周面に形成された半円螺旋溝と、ボールねじ可動シャフト36cの外周面に形成された半円螺旋溝に複数個介装される。ボールねじ可動シャフト36cは、バネ受けカバー33に対しリターンスプリング37からの付勢力を受けて配置され、回転動作は規制されるが、軸方向に移動可能な軸方向可動部材である。
【0032】
前記マスターシリンダ5は、図2に示すように、リザーバタンク50と、プライマリピストン51と、セカンダリピストン52と、シリンダハウジング53と、ポートシリンダ54と、連動スプリング55と、プライマリリターンスプリング56と、セカンダリリターンスプリング57と、を備えている。
【0033】
前記リザーバタンク50は、ブレーキ液を貯えているタンクであり、シリンダハウジング53に固定されている。リザーバタンク50内の液室は、ブレーキ非操作時、プライマリピストン51により形成されるプライマリ液圧室58と、セカンダリピストン52により形成されるセカンダリ液圧室59に対しポートを介して連通している。ブレーキ操作時には、プライマリピストン51とセカンダリピストン52の図2の左方向へのストロークによりポート連通を遮断し、ピストン推力に応じてプライマリ液圧とセカンダリ液圧を上昇させる。なお、ポートは、プライマリピストン51、セカンダリピストン52、シリンダハウジング53、ポートシリンダ54の必要位置に形成されている。
【0034】
前記プライマリピストン51は、ブレーキ非操作時、プライマリリターンスプリング56による付勢力により、図2に示すように、ポート連通位置に配置される。そして、ブレーキ操作時には、インプットピストン14から一対のコイルスプリング15,16を介してドライバーのペダル踏力が与えられると共に、ボールねじ可動シャフト36cから皿バネ38を介してアシスト推力が与えられる。このペダル踏力とアシスト推力の総和が、プライマリピストン51へのピストン推力になる。
【0035】
前記セカンダリピストン52は、ブレーキ非操作時、セカンダリリターンスプリング57による付勢力により、図2に示すように、ポート連通位置に配置される。そして、ブレーキ操作時には、連動スプリング55を介して、プライマリピストン51からペダル踏力とアシスト推力が与えられる。このペダル踏力とアシスト推力の総和が、セカンダリピストン52へのピストン推力になる。
【0036】
図3は、実施例1のブレーキコントローラ7にて実行されるシステム起動後の初回ゼロ点補正処理および初回制動制御処理の構成および流れを示す(ゼロ点補正手段、倍力制御手段)。以下、図3の各ステップについて説明する。
【0037】
ステップS1では、ブレーキコントローラ7(ECU)を起動することでシステム起動をし、ステップS2へ進む。
ここで、システム起動のパターンとしては、通常起動パターンとB−SW起動パターンがある。前記通常起動パターンは、ブレーキペダル操作をしないままでイグニッションキースイッチ74をオンとしたときにシステム起動するパターンをいう。前記B−SW起動パターンは、電源スイッチはオン状態であるがイグニッションキースイッチ74がオフ状態でブレーキペダル操作を行うことによりシステム起動するパターンをいう。
【0038】
ステップS2では、ステップS1でのシステム起動に続き、ストロークセンサ70からの実ストロークSc、マスターシリンダ圧センサ72からのマスターシリンダ圧力P、車速センサ73からの車速Vcarを読み込み、ステップS3へ進む。
【0039】
ステップS3では、ステップS2での入力情報の読み込みに続き、接触スイッチ75からのスイッチ信号に基づいて、ペダル待機状態であるか否かを判断する。Yes(ペダル待機状態)の場合はステップS11へ進み、No(ペダル非待機状態)の場合はステップS4へ進む。
ここで、B−SW起動パターンによりシステム起動が開始されたときには、既にペダル非待機状態(ペダル踏み込み状態)であるとの判断に基づいて、ステップS4〜ステップS9へ進み、システム起動直後の初回ゼロ点補正処理と初回制動処理が行われる。一方、通常起動パターンによりシステム起動が開始されたときには、ペダル待機状態であるとの判断に基づいて、ステップS11〜ステップS12へ進み、システム起動直後の初回ゼロ点補正処理が行われる。
【0040】
ステップS4では、ステップS3でのペダル非待機状態であるとの判断に続き、前回のシステム起動時のペダル待機状態で取得した前回ゼロ点データに、ストロークセンサ70の最大センサバラつきロス(センサバラつきロス分)を加算して得られたゼロ点補正値を、今回のB−SW起動時のゼロ点データとし、ステップS5へ進む。
すなわち、今回のB−SW起動のゼロ点データは、
ゼロ点データ=前回ゼロ点データ+最大センサバラつきロス
の式により取得される。
また、最大センサバラつきロスは、ストロークセンサ70の温度ドリフトによるオフセット量を予め実験により計測しておき、計測した温度オフセット量の最大量をあらわす値に設定される。
【0041】
ステップS5では、ステップS4での今回のゼロ点データの算出に続き、ゼロ点データメモリに書き込まれていたゼロ点データを、ステップS4で算出された今回のゼロ点データに書き換えてゼロ点Soを決めるゼロ点補正を実施し、ステップS6へ進む。
【0042】
ステップS6では、ステップS5でのゼロ点補正実施、あるいは、ステップS10でのペダル非待機状態であるとの判断に続き、実ストロークScからゼロ点Soを差し引くことにより指令値ストロークSt(=Sc−So)を演算し、この指令値ストロークStがゼロ以下であるか否かを判断する。Yes(指令値ストロークSt≦0)の場合はステップS8へ進み、No(指令値ストロークSt>0)の場合はステップS7へ進む。
【0043】
ステップS7では、ステップS6でのSt>0であるとの判断に続き、車速Vcarと指令値ストロークStに応じ、ドライバーが遅れを感じないフィルタ時定数Ts(一次遅れ時定数)を決定し、ステップS8へ進む。
ここで、フィルタ時定数Tsは、図4の三次元マップに示すように、車速Vcarと指令値ストロークStがゼロのとき、最大時定数Tslimitとされる。そして、車速Vcarが大きいほど、最大時定数Tslimitから徐々に小さくなる値(応答遅れを抑えた値)に決定される。また、指令値ストロークStが大きいほど、最大時定数Tslimitから徐々に小さくなる値に決定される。
【0044】
ステップS8では、ステップS6でのSt≦0であるとの判断、あるいは、ステップS7でのフィルタ時定数Tsの決定に続き、指令値ストロークStとマスターシリンダ圧力センサ値Pに応じて倍力比K(=倍力ゲインK)を決定し、ステップS9へ進む。
ここで、倍力比Kは、図5の三次元マップに示すように、マスターシリンダ圧力Pが設定圧PM以上の領域で、かつ、指令値ストロークStが0〜Smまでの領域では、最大倍力比Kmaxに決定される。さらに、マスターシリンダ圧力Pが設定圧PM以上の領域で、かつ、指令値ストロークStがSm〜SFまでの領域では、最大倍力比Kmaxから最小倍力比Kminに徐々に低下する値に決定される。そして、マスターシリンダ圧力Pが設定圧PM未満の領域で、かつ、指令値ストロークStが0〜SFまでの領域では、最小倍力比Kminに決定される。
【0045】
ステップS9では、ステップS8での倍力比Kの決定に続き、決定した倍力比Kと、倍力制御におけるペダル操作量情報である指令値ストロークSt(=Sc−So)と、を用いて倍力指令値を演算し、ステップS10へ進む。
ここで、フィルタ時定数Tsが決定されていない場合は、倍力指令値を電動モータ30へのモータ出力値とする。一方、ステップS7にてフィルタ時定数Tsが決定されている場合は、倍力指令値と決定したフィルタ時定数Tsを用いて電動モータ30へのモータ出力値を決める。
【0046】
ステップS10では、ステップS9での倍力指令値演算に続き、接触スイッチ75からのスイッチ信号に基づいて、ペダル待機状態であるか否かを判断する。Yes(ペダル待機状態)の場合はステップS11へ進み、No(ペダル非待機状態)の場合はステップS6へ戻る。
【0047】
ステップS11では、ステップS3またはステップS10でのペダル待機状態であるとの判断に続き、このペダル待機状態と判断されたときにストロークセンサ70から読み込まれたセンサ値に基づく実ストロークScを用いた学習補正値を、今回のゼロ点データとし、ステップS12へ進む。
ここで、学習補正値は、記憶されているゼロ点学習値を、ペダル待機状態で得られた実ストロークScに応じ、所定の学習補正量だけ加算あるいは減算することで取得する。ゼロ点学習値は、例えば、システム起動状態でペダル待機状態を経験する毎にゼロ点データを取得し、集めた多数のゼロ点データの加算平均値等により決めて記憶しておく。
【0048】
ステップS12では、ステップS11での今回のゼロ点データの設定に続き、ゼロ点データメモリに書き込まれていたゼロ点データを、ステップS11で設定された今回のゼロ点データに書き換え、終了へ進む。
すなわち、図3のフローチャートによるシステム起動直後の初回処理に続いて行われるシステム起動状態での倍力制御(例えば、等倍制御)に備え、予めゼロ点Soを決めておくゼロ点補正が実施される。
【0049】
次に、作用を説明する。
実施例1の電動ブレーキ制御システムにおける作用を、「電動型制御ブレーキユニットAでの倍力制御作用」、「通常起動時のゼロ点補正制御作用」、「B−SW起動時のゼロ点補正制御作用」、「B−SW起動時の倍力比可変制御作用」、「B−SW起動時の倍力指令値へのフィルタ処理制御作用」に分けて説明する。
【0050】
[電動型制御ブレーキユニットAでの倍力制御作用]
ブレーキ非操作状態から、ブレーキペダル10を踏み込み、ペダル踏力によりインプットロッド13およびインプットピストン14を前進動作させる。このインプットピストン14の前進動作に応じて電動モータ30を回転させると、その回転動作がボールねじ機構36により直線動作に変換され、アシスト推力がプリマリピストン51に伝達される。そして、ブレーキ操作に伴うペダル踏力とアシスト推力により、プリマリピストン51およびセカンダリピストン52が前進し、プライマリ液圧がプライマリ液圧室58にて発生し、セカンダリ液圧がセカンダリ液圧室59にて発生する。
【0051】
このとき、ブレーキ液圧を増加させる方向(フロント側)へプリマリピストン51を相対変位させるように電動モータ30の回転を制御すると、アシスト推力が加わることにより倍力比が大きくなり、電動モータ30によるブレーキアシスト作用が実現される。つまり、所定の倍力比が得られるように電動モータ30の回転を制御することで、倍力制御作用が実現されることになる。
【0052】
この倍力制御時、ブレーキ液圧の増大に伴ってブレーキペダル10への反力(ペダル反力)が増大しようとする。しかし、プリマリピストン51のフロント側への相対変位に応じて一対のコイルスプリング15,16のうち、ブレーキペダル10側(リヤ側)のコイルスプリング16のバネ力が増大するので、このバネ力によってペダル反力の増大分が相殺される。このペダル反力調整作用によって、倍力制御実行中のペダルフィーリングを改善することができる。
【0053】
一方、インプットピストン14とプリマリピストン51との間に相対変位が生じないように電動モータ30の回転を制御する。このモータ回転制御により、両ピストン14,51の間に介装した一対のコイルスプリング15,16が付勢中立位置を維持する。したがって、アシスト推力による倍力機能が無く、ペダル踏力のみに応じてプリマリピストン51およびセカンダリピストン52が前進し、プライマリ液圧がプライマリ液圧室58にて発生し、セカンダリ液圧がセカンダリ液圧室59にて発生する。このときの倍力比は、相対変位量がゼロであることで、インプットピストン14の受圧面積とプリマリピストン51の受圧面積との面積比で一義的に決まる。
【0054】
さらに、ブレーキ液圧を減少させる方向(リヤ側)へプリマリピストン51を相対変位させるように電動モータ30の回転を制御する。このモータ回転制御により、倍力比(=制動力)が減少し、回生制動時の回生協調動作を実現することができる。このとき、一対のコイルスプリング15,16のうち、コイルスプリング15のバネ力が増大するので、このバネ力によってペダル反力の減少分が相殺され、回生協調制御中のペダルフィーリングを改善することができる。
【0055】
[通常起動時のゼロ点補正制御作用]
ブレーキペダル操作をしないままでイグニッションキースイッチ74をオンとしたときにシステム起動する通常起動時には、図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS11→ステップS12→終了へと進む流れとなる。
【0056】
すなわち、ペダル待機状態でのシステム起動であるため、ステップS11では、ステップS3でペダル待機状態であると判断されたときにストロークセンサ70から読み込まれたセンサ値に基づく実ストロークScを用いた学習補正値が、今回のゼロ点データとされる。そして、ステップS12では、ゼロ点データメモリに書き込まれていたゼロ点データが、ステップS11で設定された今回のゼロ点データに書き換えられる。
【0057】
上記のように、通常起動時には、ペダル待機状態であることで初回制動制御を行うことなく、システム起動後に行われる倍力制御に備え、実ストロークScを用いた学習補正値をゼロ点Soとするゼロ点補正制御のみを実施する構成を採用した。
このように、システム起動開始と同時に実ストロークScを用いたゼロ点補正を実施することで、前回のシステム起動時と今回のシステム起動時とで、温度環境が大きく変化した場合であっても、今回の温度ドリフトによるオフセット影響が低減される。さらに、ゼロ点Soを学習補正により取得することで、例えば、経時劣化や製造バラつき等の温度ドリフト以外の原因によるオフセット影響を低減することができる。
したがって、倍力制御での必要情報であるストローク情報(ペダル操作量情報)が正確なものとなり、特に、通常起動によるシステム起動後の最初に行われる倍力制御の制御精度を高めることができる。
【0058】
[B−SW起動時のゼロ点補正制御作用]
イグニッションキースイッチ74がオフ状態でブレーキペダル操作を行うことによりシステム起動するB−SW起動では、既にペダル非待機状態であるため、実ストロークScによるゼロ点補正以外の手法によりゼロ点補正を行うことが必要である。以下、これを反映するペダル非待機起動状態でのゼロ点補正作用を説明する。
【0059】
B−SW起動時には、図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5へと進む。すなわち、ステップS4では、前回のシステム起動時のペダル待機状態で取得した前回ゼロ点データに、ストロークセンサ70の最大センサバラつきロスを加算して得られたゼロ点補正値が、今回のゼロ点データとされる。次のステップS5では、ゼロ点データメモリに書き込まれていたゼロ点データを、ステップS4で算出された今回のゼロ点データに書き換えることにより、ゼロ点Soを決めるゼロ点補正が実施される。
【0060】
すなわち、B−SW起動は、
(a)下り坂等を走行中にイグニッションキー信号が、所定時間(例えば、120sec)以上遮断された(遮断されている間にブレーキ操作無し)。その後、ドライバーがブレーキ操作を行う。
(b)登坂路にて停車中、イグニッションキー信号がオフ状態でブレーキ操作を行う。
等のシーンで発生する。
このB−SW起動時、温度ドリフトによるオフセットにより、前回のシステム起動時のペダル待機状態で取得した前回ゼロ点が、ゼロ点の真値からブレーキ液圧を高める側に生じている場合がある。この場合、B−SW起動による初回制動時、前回ゼロ点を用いると、ドライバー要求を超える液圧制動力の発生やブレーキ引き摺りが課題となる。
【0061】
これに対し、B−SW起動時において、温度ドリフトによるオフセットが、ゼロ点の真値からブレーキ液圧を高める側(図6の右側)に生じているとする。この場合、実施例1では、前回起動時のインプットロッドゼロ点(=前回ゼロ点データ)に加算される最大センサバラつき量(=最大センサバラつきロス)により、ペダル非待機起動時のゼロ点が、ゼロ点の真値よりブレーキ液圧を低下させる側(図6の左側)に移動する。
【0062】
例えば、温度オフセットの最大値である最大温度オフセット分を最大センサバラつきロス分とした場合、B−SW起動時のゼロ点は、温度オフセット量が最大値のときにゼロ点の真値に一致する。そして、図6に示すように、最大値を下回る温度オフセット量のときは、B−SW起動時のゼロ点が、ゼロ点の真値よりブレーキ液圧を低下させる側(図6の左側)にオフセットさせた設定になる。
【0063】
上記のように、実施例1では、B−SW起動時、前回ゼロ点データに、ストロークセンサ70の最大センサバラつきロスを加算して得られたゼロ点補正値を、ゼロ点とする構成を採用した。
この構成により、B−SW起動時におけるゼロ点が、温度ドリフトによるオフセットにかかわらず、ゼロ点の真値以上のブレーキ液圧を低下させる側の値にオフセットさせた設定とされる。
したがって、B−SW起動による初回制動時、温度ドリフトによるオフセットにかかわらず、ドライバー要求を超える液圧制動力の発生が防止されると共に、ペダル非操作状態でのブレーキ引き摺りが解消される。
【0064】
[B−SW起動時の倍力比可変制御作用]
B−SW起動時に上記ゼロ点補正制御を行うと、補正によるB−SW起動時のゼロ点と真値との差分(=ロスストロークα)だけ発生するブレーキ液圧が低下することになる。このため、ブレーキ液圧の低下分を補うことが必要である。以下、これを反映するB−SW起動時の倍力比可変制御作用を説明する。
【0065】
指令値ストロークSt≦0のとき、つまり、倍力制御開始前のB−SW起動時には、図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS8→ステップS9へと進む。すなわち、ステップS8では、指令値ストロークStとマスターシリンダ圧力Pに応じて倍力比Kが決定される(図5参照)。次のステップS9では、決定した倍力比Kと、倍力制御におけるペダル操作量情報である指令値ストロークStと、を用いて倍力指令値が演算される。
【0066】
例えば、図8の実ストローク特性に示すように、非待機起動時のゼロ点が真値になる時刻t0にて実ストロークScが上昇を開始する場合には、図8のマスターシリンダ圧力の通常時特性に示すように、マスターシリンダ圧力PはP3まで上昇する。これに対し、非待機起動時にゼロ点補正を行いながらも倍力比をそのまま変更しない場合、図8の指令値ストローク特性に示すように、時刻t1から時刻t2まで指令値ストロークStが上昇する。この非待機起動時のゼロ点補正に伴って、図8の非待機状態起動時特性に示すように、マスターシリンダ圧力PはP1(<P3)までの上昇に抑えられる。
【0067】
そこで、実施例1では、B−SW起動時にゼロ点補正を行いながらも、指令値ストロークStとマスターシリンダ圧力Pに応じて倍力比Kを増加させるように決定した。この実施例1の場合には、ペダル操作によりゼロ点の真値を通過する時刻t0のとき、図9に示す状態となり、ロスストロークが開始される。そして、ペダル操作により非待機起動時ゼロ点となる時刻t1のとき、図10に示す状態となり、ロスストロークを終了し、倍力比可変制御が開始される。そして、図8の指令値ストローク特性に示すように、時刻t1から時刻t2まで指令値ストロークStが上昇する。このとき倍力比Kの増加に伴って、図11に示すように、倍力比Kの増加制御を行わない比較例に比べ、プライマリピストン51およびセカンダリピストン52が、図11の左方向により押し込まれ、マスターシリンダ圧力Pを高める。
【0068】
このB−SW起動時の倍力比増加制御をマスターシリンダ圧力特性により確認すると、図8の実施例1特性に示すように、マスターシリンダ圧力PをP2(P1<P2≦P3)まで上昇させることができる。つまり、通常時特性に近いレベルまでマスターシリンダ圧力Pを高めることができ、B−SW起動時のゼロ点補正によるブレーキ液圧の低下分が、倍力比Kの増加により補われることになる。
【0069】
上記のように、実施例1では、B−SW起動時、システム起動後の初回制動を行う際、倍力制御での倍力ゲインを増加させる構成を採用した。
この構成により、B−SW起動時のゼロ点補正によるブレーキ液圧の低下分が、倍力比Kの増加により補われる。
したがって、B−SW起動による初回制動時、ブレーキ液圧が低下するゼロ点補正制御を行うにもかかわらず、ドライバー要求に近いブレーキ液圧の発生による制動力が確保される。
【0070】
次に、実施例1の倍力比可変制御において、図5に示すように、倍力比マップを設定した。この倍力比マップの設定についての考え方を説明する。
・マスターシリンダ圧力Pの設定圧PMは、ペダル緩踏み操作によるコースト減速度領域(P<PM)と、ペダル急踏み操作による急減速度領域(P≧PM)と、を切り分ける圧力である。
・指令値ストロークStの中間ストロークSmは、高い倍力によるバップアップを要する領域(0〜Sm)と、徐々にバップアップを低減する領域(Sm〜フルストロークSF)と、切り分けるストローク値である。
・最小倍力比Kminは、ドライバーによるフルストローク時のストローク量比(実ストローク/指令値ストローク)とする。
・最大倍力比Kmaxは、B−SW起動時のストローク量比(実ストローク(最小回生ギャップ量)/指令値ストローク)とする。
【0071】
上記考え方に基づき、実施例1の倍力比可変制御における倍力比Kは、図5に示すように、マスターシリンダ圧力Pが設定圧PM以上の領域で、かつ、指令値ストロークStが0〜Smまでの領域は、最大倍力比Kmaxに決定される。
このため、ゼロ点補正制御に伴い制動力のバップアップが要求される領域のとき、最大倍力による制動力のバップアップを達成することができる。
【0072】
実施例1の倍力比可変制御における倍力比Kは、図5に示すように、マスターシリンダ圧力Pが設定圧PM以上の領域で、かつ、指令値ストロークStがSm〜SFまでの領域は、最大倍力比Kmaxから最小倍力比Kminに徐々に低下する値に決定される。
このため、等倍制御のように必要倍力比が線形的に減少する場合、必要倍力比の線形的減少に合わせた倍力比によるバップアップを達成することができる。
【0073】
実施例1の倍力比可変制御における倍力比Kは、図5に示すように、マスターシリンダ圧力Pが設定圧PM未満の領域で、かつ、指令値ストロークStが0〜SFまでの領域は、最小倍力比Kminに決定される。
このため、コースト減速度領域に合わせて倍力比を抑えることができる。
【0074】
[B−SW起動時の倍力指令値へのフィルタ処理制御作用]
上記指令値ストロークStが0を超えてからのB−SW起動時には、マスターシリンダ圧力が急増圧し、ペダルフィーリング違和感を与える。このため、指令値ストロークStが0を超えてからのB−SW起動時に限っては、マスターシリンダ圧力の急増圧による違和感を抑えることが必要である。以下、これを反映するペダル非待機起動時における倍力指令値へのフィルタ処理制御作用を説明する。
【0075】
指令値ストロークSt>0のとき、つまり、ゼロ点Soを超えていることで直ちに場入り制御が開始されるB−SW起動時には、図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS8→ステップS9へと進む。すなわち、ステップS7では、指令値ストロークStと車速Vcarに応じてフィルタ時定数Tsが決定される(図4参照)。次のステップS8では、指令値ストロークStとマスターシリンダ圧力センサ値Pに応じて倍力比K(=倍力ゲインK)が決定される(図5参照)。次のステップS9では、決定した倍力比Kと、倍力制御におけるペダル操作量情報である指令値ストロークStと、を用いて倍力指令値が演算される。そして、この倍力指令値とステップS7で決定したフィルタ時定数Tsを用いて所定の倍力性能を出す電動モータ30へのモータ出力値が決められる(図12参照)。
【0076】
例えば、図13の実ストローク特性に示すように、非待機起動時のゼロ点が真値になる時刻t0にて実ストロークScが上昇を開始する場合には、図13のマスターシリンダ圧力の通常時特性に示すように、マスターシリンダ圧力PはP3まで上昇する。これに対し、B−SW起動時にゼロ点補正を行いながらも倍力比をそのまま変更しない場合であって、指令値ストロークStが0を超えてからのB−SW起動時には、図13の指令値ストローク特性に示すように、時刻t2から指令値ストロークStが一気に上昇する。しかし、このB−SW起動時のゼロ点補正に伴って、図13の非待機状態起動時特性に示すように、マスターシリンダ圧力PはP1(<P3)までの上昇に抑えられる。
【0077】
そこで、実施例1では、B−SW起動時にゼロ点補正を行いながらも、指令値ストロークStとマスターシリンダ圧力Pに応じて倍力比Kを増加させるようにし、これにより、図13のマスターシリンダ圧力特性に示すように、制動力不足を回避するようにした。しかし、指令値ストロークStが0を超えてからのB−SW起動時には、倍力比Kの増加のみであるとマスターシリンダ圧力Pが急増圧し、ペダルフィーリング違和感を与える。
【0078】
このため、ゼロ点を超えてからのB−SW起動時に限っては、マスターシリンダ圧力の急増圧による違和感を抑えることが必要である。この実施例1の場合には、倍力指令値をフィルタ時定数Tsによりフィルタ処理することで、マスターシリンダ圧力が滑らかに増圧する特性となるようにしている。つまり、ペダル操作により倍力制御が開始される時刻t2のときには、図14に示す状態となる。この後、倍力指令値にフィルタ処理を施さないと、図15に示すように、プライマリピストン51とセカンダリピストン52は破線位置から実線位置まで一気にストロークし、マスターシリンダ圧力Pを高める。しかし、倍力指令値にフィルタ処理を施すと、図15に示すように、プライマリピストン51とセカンダリピストン52は破線位置から実線位置まで緩やかにストロークし、マスターシリンダ圧力Pを高める。
【0079】
このB−SW起動時の倍力比増加制御と倍力指令値のフィルタ処理制御をマスターシリンダ圧力特性により確認すると、図13の実施例1特性に示すように、緩やかなカーブを描きながらマスターシリンダ圧力PをP2(P1<P2≦P3)まで上昇させることができる。つまり、通常時特性に近いレベルまでマスターシリンダ圧力Pを高めることができ、B−SW起動時のゼロ点補正によるブレーキ液圧の低下分が、倍力比Kの増加により補われることになる。加えて、指令値ストロークStが0を超えてからのB−SW起動時、マスターシリンダ圧力Pが急増圧することによるペダルフィーリング違和感が抑えられる。
【0080】
上記のように、実施例1では、B−SW起動時、システム起動後の初回制動を行う際、倍力制御での倍力指令値に対してフィルタ処理を施す構成を採用した。
この構成により、指令値ストロークStが0を超えてからのB−SW起動時、倍力比Kの増加に伴うペダルフィーリングの悪化が、フィルタ時定数Ts(適切な時定数の一次遅れフィルタ)により緩和される。
したがって、指令値ストロークStが0を超えてからのB−SW起動による初回制動時、制動力不足を回避するために倍力比Kを増加する制御を行うにもかかわらず、ペダルフィーリングが悪化するのが緩和される。
【0081】
次に、効果を説明する。
実施例1の電動ブレーキ制御システムにあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0082】
(1) ブレーキペダル10に対するペダル操作時、電動ブースタ3を倍力装置としてホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RRへのブレーキ液圧を作り出す電動型制御ブレーキユニットAと、
前記ブレーキペダル10に対するペダル操作量を検出するペダル操作量センサ(ストロークセンサ70)と、
前記ブレーキペダル10に対するペダル待機状態であるか否かを検出するペダル待機状態検出手段(接触スイッチ75)と、
システム起動時にペダル非待機状態であるとき、前回のシステム起動時にペダル待機状態で取得した前回ゼロ点データに、前記ペダル操作量センサ(ストロークセンサ70)のセンサバラつきロス分(最大センサバラつきロス)を加算して得られたゼロ点補正値を、ゼロ点データ(ゼロ点So)とするゼロ点補正手段(図3のステップS4,ステップS5)と、
前記ペダル非待機状態での前記ペダル操作量センサ(ストロークセンサ70)によるセンサ検出値(実ストロークSc)から前記ゼロ点データ(ゼロ点So)を減算した値をペダル操作量情報(指令値ストロークSt)とし、ペダル操作量情報(指令値ストロークSt)に基づいて前記電動ブースタ3の倍力制御を行う倍力制御手段(図3のステップS9)と、
を備える。
このため、ペダル非待機状態でのシステム起動(B−SW起動)による初回制動時、温度ドリフトによるオフセットにかかわらず、ドライバー要求を超える液圧制動力の発生を防止できると共に、ペダル非操作状態でのブレーキ引き摺りを解消することができる。
【0083】
(2) 前記倍力制御手段(図3のステップS9)は、ペダル非待機状態でのシステム起動時(B−SW起動時)、システム起動後の初回制動を行う際、倍力制御での倍力ゲイン(倍力比K)を増加させる(図3のステップS8)。
このため、(1)の効果に加え、ペダル非待機状態でのシステム起動(B−SW起動)による初回制動時、ブレーキ液圧が低下するゼロ点補正制御を行うにもかかわらず、ドライバー要求に近いブレーキ液圧の発生による制動力を確保することができる。
【0084】
(3) 前記倍力制御手段(図3のステップS9)は、ペダル非待機状態でのシステム起動時(B−SW起動時)、システム起動後の初回制動を行う際、倍力制御での倍力指令値に対してフィルタ処理を施す(図3のステップS7)。
このため、(2)の効果に加え、指令値ストロークStが0を超えてからのペダル非待機状態でのシステム起動(B−SW起動)による初回制動時、制動力不足を回避するために倍力ゲイン(倍力比K)を増加する制御を行うにもかかわらず、ペダルフィーリングが悪化するのを緩和することができる。
【0085】
以上、本発明の電動ブレーキ制御システムを実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0086】
実施例1では、電動型制御ブレーキユニットAとして、インプットロッド13と同軸配置による電動モータ30を有する備える電動ブースタ3を備えた例を示した。しかし、電動型制御ブレーキユニットとしては、電動モータをハウジングの外部配置とする例としても良い。
【0087】
実施例1では、ペダル待機状態検出手段として、電動型制御ブレーキユニットAに内蔵した接触スイッチ75を用いる例を示した。しかし、ペダル待機状態検出手段としては、ユニット外部のドライバー操作入力部材の位置に設けたブレーキスイッチ等を用いる例であっても良い。
【0088】
実施例1では、ゼロ点補正手段として、ストロークセンサ70の温度オフセットによる最大値を最大センサバラつきロスとし、前回ゼロ点データに最大センサバラつきロスを加算して得られたゼロ点補正値を、ゼロ点データとする例を示した。しかし、ゼロ点補正手段としては、温度オフセットによるストロークセンサのセンサバラつきロスの最大領域にプロットされる複数の値の平均値、あるいは、センサ設計において温度オフセットにより許容するセンサバラつきロスの最大値、等をセンサバラつきロス分とし、前回ゼロ点データにセンサバラつきロス分を加算するような例であっても良い。
【0089】
実施例1では、本発明の電動ブレーキ制御システムを電動車両に適用した例を示した。しかし、電動型制御ブレーキユニットを備えたエンジン車に対しても勿論適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
A 電動型制御ブレーキユニット
1 ドライバー操作入力部材
10 ブレーキペダル
3 電動ブースタ
30 電動モータ
36 ボールねじ機構
5 マスターシリンダ
51 プライマリピストン
52 セカンダリピストン
61 プライマリ液圧配管
62 セカンダリ液圧配管
7 ブレーキコントローラ
70 ストロークセンサ(ペダル操作量センサ)
71 レゾルバ
72 マスターシリンダ圧センサ
73 車速センサ
74 イグニッションキースイッチ
75 接触スイッチ(ペダル待機状態検出手段)
9FL 前輪左ホイールシリンダ
9FR 前輪右ホイールシリンダ
9RL 後輪左ホイールシリンダ
9RR 後輪右ホイールシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルに対するペダル操作時、電動ブースタを倍力装置としてホイールシリンダへのブレーキ液圧を作り出す電動型制御ブレーキユニットと、
前記ブレーキペダルに対するペダル操作量を検出するペダル操作量センサと、
前記ブレーキペダルに対するペダル待機状態であるか否かを検出するペダル待機状態検出手段と、
システム起動時にペダル非待機状態であるとき、前回のシステム起動時にペダル待機状態で取得した前回ゼロ点データに、前記ペダル操作量センサのセンサバラつきロス分を加算して得られたゼロ点補正値を、ゼロ点データとするゼロ点補正手段と、
前記ペダル非待機状態での前記ペダル操作量センサによるセンサ検出値から前記ゼロ点データを減算した値をペダル操作量情報とし、ペダル操作量情報に基づいて前記電動ブースタの倍力制御を行う倍力制御手段と、
を備えることを特徴とする電動ブレーキ制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載された電動ブレーキ制御システムにおいて、
前記倍力制御手段は、ペダル非待機状態でのシステム起動時、システム起動後の初回制動を行う際、倍力制御での倍力ゲインを増加させる
ことを特徴とする電動ブレーキ制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載された電動ブレーキ制御システムにおいて、
前記倍力制御手段は、ペダル非待機状態でのシステム起動時、システム起動後の初回制動を行う際、倍力制御での倍力指令値に対してフィルタ処理を施す
ことを特徴とする電動ブレーキ制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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