説明

電動モータ駆動制御を備える医療注射デバイス

本発明は、薬剤をヒトまたは動物の身体に送達するための注射デバイス、特に、だがこれに限定されるものではないが、交換可能な薬剤カートリッジを有する注射デバイスであって、ハウジング、薬剤容器の栓を駆動するピストン・ロッド、薬剤を送達するための出力駆動をピストン・ロッドに与えるモータを含む駆動機構、装置の動作を制御する制御手段とを含んでなる自動注射器を含む注射デバイスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤をヒトまたは動物の身体に送達するための注射デバイス、特に、だがこれに限定されるものではないが、自動注射器を含め、交換可能な薬剤カートリッジを有するデバイスに関する。このようなデバイスは、普通、インスリン投与用に糖尿病に罹った人々によって使用されている。
【背景技術】
【0002】
薬剤送達デバイスが、正規の医療訓練を受けていない人間、すなわち、身体状態の自己管理がかなり普通である患者によって日常的に使われている。このような環境では、この種の薬剤投与デバイスについての必要条件が多数課せられている。注射器は、構造上頑丈であることに加えて、使用者による操作および部品の取り扱いの際に使用しやすくなければならない。糖尿病患者の場合、多くの使用者が、視力が損なわれていたり、肉体的に衰弱していたりする可能性もある。したがって、大き過ぎたり、扱いにく過ぎたりする注射デバイスは、特に手先の器用さが低下した患者にとっては使いにくいものとなる可能性がある。
【0003】
特許文献1が、投与量設定値を電子回路に読み込ませ、投与量設定要素の互いに対する投与量設定運動が電気機械装置、たとえば、読み込まれた投与量設定値に従って電子回路によって制御されるモータによって行われる薬剤送達デバイスを記載している。電子制御により、投与量設定中に使用者が注射デバイスの取り扱いを誤ったことが検出された場合、投与量をリセットすることによって、たとえば、カートリッジホルダを開くことによって注射デバイスが介入することが可能になる。
【0004】
特許文献2の特許明細書が、流体の効率的、精密で再現可能な計量投与のために熱膨張/熱収縮の差を自動的に調節する計量システムを記載している。この計量システムにより、その駆動装置が自身をゼロに再設定し、給送容器からの精密な体積の流体給送を行うことができる。
【0005】
投与が失敗した場合に薬剤投与装置を駆動するモータの機能停止を検出し、使用者に警告することも知られている。しかしながら、モータ停止を検出した後に注射デバイスをリセットする際に問題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,340,357号明細書
【特許文献2】WO2007/094833
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この問題を軽減する薬剤送達デバイスを提供することが本発明の一目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、ハウジング、薬剤容器の栓を駆動するピストン・ロッド、薬剤を送達するためにピストン・ロッドに出力駆動を与えるモータを含む駆動機構、注射デバイスの作動を制御する制御手段とを含んでなる、患者に薬剤を送達する注射デバイスであって、制御手段が、モータ用の入力駆動信号を発生する駆動信号発生器、モータの出力駆動を示すエンコーダ出力信号を発生させるためのエンコーダ、および入力駆動信号およびエンコーダ出力間の比較に依存して注射デバイスの作動制御を変更させる手段とを含んでなることを特徴とする注射デバイスが提供される。
【0009】
入力駆動信号は、モータを駆動するためのステッパ・パルスであってもよい。エンコーダ出力信号は、モータの出力駆動に対応するタイミング特性を有するパルス状信号であってもよい。複数の基準ポイントが注射デバイスに含まれていてもよい。各基準ポイントは、バックストップ位置、投与量送達済、ドア位置、駆動装置位置、リセット閾値のうち任意の1つまたはそれ以上を含む注射デバイスの異なった作動局面を示す。基準ポイントは、好ましくは、それぞれがステッパ・パルスの装置データに関するそれぞれのカウント数に対応するように入力駆動信号に関係する。パルスエンコーダ出力のカウントとステッパ・パルスのカウントとの間の比較が、モータ・スリップを示すかもしれない。モータ・スリップすなわちモータ停止が検出される事象において、制御手段が、基準ポイントの1つに対するスリップ量を決定するように作動し、その際、前記変更手段が、所定基準に従って注射デバイスの作動制御を調整する。操作制御の変動が、たとえば、注射デバイスを目標作動状態に駆り立てるようにするとよい。たとえば、モータは、スリップ量が所定閾値を超えるとき、目標状態を表す所定の基準ポイントに反して計画的に止められ得る。たとえば、モータ駆動力が変化した結果として、注射デバイスの状態が、投与量リセット位置またはカートリッジの交換を可能にする『カートリッジドア開放状態』に変えられるようにしてもよい。あるいは、モータは、ピストン・ロッドを装置データまたは装置リセット位置を定めるバックストップに戻すように制御され得る。
【0010】
本発明の実施形態は、注射器が必要に応じて、そして、使用者が介入することなく自動的にリセット動作を自動的に開始するという点で有利である。これは、バッテリ寿命の向上、存続期間およびモータ停止時騒音の回避または低減に通じる。
【0011】
以下、添付図面を参照しながら実施例によってさらに本発明を説明する。図面においては、類似した参照数字は類似したエレメントを示している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態を含み得る自動注射器の正面図である。
【図2】薬剤カートリッジを受けるための開位置で示される薬剤カートリッジドアを備える図1の自動注射器の正面図である。
【図3】本発明の実施形態に使用するためのモータの透視図である。
【図4】エンコーダを備える図3のモータの側面図である。
【図5a】モータ駆動およびエンコーダ出力のタイミングチャートである。
【図5b】モータ・スリップを示しているモータ駆動・エンコーダ出力のタイミングチャートである。
【図6】制御手段により行われ得る決定シーケンスを示すフローチャートである。
【図7】制御手段の機能ブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1において、自動注射器1は、薬剤カートリッジに残っている薬剤の設定投与量、投与回数を含む自動注射器の操作に関する機能情報を表示するディスプレイ3を有するケース2を含んでなる。使用者インタフェース・ボタン4、5、6が備えられていて、プライミング、投与量設定、薬剤カートリッジホルダおよびドア7の開口、および設定投与量の投与起動を含めて、使用者が自動注射器を作動させることができるようになっている。ねじ式ニードルアタッチメント8が備え付けてあり、薬剤を送達するために注射針が取り付けられ、次いで取り外され、廃棄され得るようになっている。カバー(図示せず)を備えて、ケース2の下方部分を覆って嵌合させ、粒子、流体の浸入からデバイスを保護するようにしてもよい。図2は、交換用の薬剤カートリッジ9を受けるためにカートリッジホルダおよびドア7が開位置にある自動注射器1を示している。
【0014】
図3は、駆動機構(図7参照)内のモータ13を示している。このモータは、互いに対して180度で配列された一対のフラグ15を備えている。出力歯車17が自動注射器1のピストン・ロッドを駆動するための駆動機構のギアトレイン(図示せず)と係合する。モータ13は、以下の図5a、5bに概略的に示されるパルス駆動信号またはステッパ・パルスによって駆動されるステッピング・モータであってよい。パルス駆動信号は、制御手段内の電子制御回路によって発生させられる。制御手段は、図5a〜7を参照してより詳しく説明されることになる。
【0015】
図4は、フラグ15と整合した(in resistration with)光学エンコーダ19を示しているモータ13の側面図である。モータ13の駆動軸がフラグ15を回転させるにつれて、フラグの全ての縁が光学エンコーダ19の出力に変化を生じさせ、その結果、エンコーダが駆動軸の角速度を表わす一連の出力パルスを出力する。制御手段(図示しないが、マイクロコントローラ/マイクロプロセッサである)は、これらのパルスを検出し、カウントする。エンコーダ信号がマイクロコントローラ/マイクロプロセッサの割り込み(interrupt)を生じさせる。一回の割り込みが現行のソフトウエアプログラム・フローの一回の中断(interruption)を生じさせ、特殊な中断ソフトウェア・ルーチンを実行させ、中断ルーチン終了後に通常のソフトウェア・フローに戻す。この技術は、外部信号に迅速に反応して、あらゆる信号がマイクロプロセッサによって確実に認識され得るようにするのに用いられる。図4に示される実施形態においては、一対のフラグ15が、180度に位置しており、したがってモータの一回転当たり4つのパルスを発生するようになっている。したがって、モータ軸の一回転で20個のモータ・パルスが発生すると仮定するならば、1つのエンコーダ・パルスは5つのモータ・パルスに相当する。
【0016】
図5aは、デバイスの正常な駆動機構運動中の、モータ駆動すなわちステッパ・パルスとエンコーダ出力パルスとの相対的なタイミングを示している。この実施形態においては、1つのエンコーダ出力パルスに対して5つのモータ・ステッパ・パルスがあり、したがって、制御手段は、1つのエンコーダ出力パルスに対して5つのモータ・ステッパ・パルスを想定するようにプログラムされている。したがって、20個のモータ・ステッパ・パルスが、制御手段が4つのエンコーダ出力パルスをカウントすると同時にカウントされたとき、制御の比較でデバイスが正常に駆動していると判断する。すなわち、モータのスリップまたはモータ停止がまったくない。図5aは、エンコーダ・パルス出力間のカウント比較で、たとえば15個のモータ・ステッパ・パルスが示され、一方、制御手段による実際のカウントが19パルスまたは20パルスに対応している状況を示している。この場合、制御手段は、この比較から、モータ運動がスリップ状態になっていると判断する。この時点で、制御手段にプログラムされているソフトウェアによってサブルーチンが実行させられ、自動注射器の状態が所定の基準ポイントおよびデバイスデータ位置に対する関係にあるという判断を行う。ピストン・ロッドが完全に引き込められた位置にあるとき、それは、他のデバイス基準ポイントが参照され得るバックストップ位置またはデータ位置(すなわち「ゼロ」)を表し得る。データ位置は、絶対モータ位置にも対応し、その結果、この絶対モータ位置に対する増分移動がデバイスの他の作動状態に対応する。これら他のデバイス基準ポイントは、ゼロ位置と、26858個のモータ・ステッパ・パルスを通しての最大モータ移動位置との間にある。たとえば、データ位置からの、薬剤カートリッジ9のドア・ラッチ開位置は、たとえば、「データ位置+4パルス」に対応するモータ位置によって表され得る。プライミング投与は、バックストップ・データ位置からの84個のパルスを通してのモータ13の移動によって達成されたと判断される。
【0017】
図6は、薬剤の投与中に制御手段ソフトウェアにより実行され得る投与ルーチンの一例を示している。60のところで、使用者は、入力ボタン4〜6を介して一回投与量の薬剤の投与を開始したいという希望を入力する。ステップ62で、モータ・ステッパおよびエンコーダ・パルスのカウントが調べられ、それが所定量以上で互いから異なっているかどうか判断される。もしYESならば、制御手段は、駆動機構をバックストップでモータが停止するまで巻き戻し、このポイントで、デバイスは基準位置に戻され得るか、リセットされ得る。次に、制御手段ソフトウェアが、投与される薬剤の不足を算出し、この投与量を投与する手段を実行し得る。もしNOであれば、投与量が完全に排出されるまで投与が継続する。
【0018】
図7は、制御手段70の機能ブロック図である。この制御手段70に、図1の使用者インタフェース・ボタン4〜6および駆動機構74に対応する使用者入力72が接続される。制御手段70は、使用者が必要な投与量をダイヤル設定できるダイヤル・ボタン76と、設定投与量を表示するLCディスプレイ78とを含む。制御手段ソフトウェアは、80のところで、使用者により設定された投与量値に対応する投与量値を設定し、82のところで、これをステッパ・モータ13の適切なパルス値に変換する。84のところで、ソフトウェアは、モータ13の発生するステッパ・パルスの現在のパルスカウントを調べてモータ13の現在位置を決定し、76/80のところで設定された投与量を投与することになるピストン・ロッド位置を表す基準ポイントに対応するステッパ・パルスに関してモータ目標位置86を決定する。制御手段ソフトウェア、すなわち、モータ制御88は、必要なステッパ・パルスを発生し、駆動機構74のモータ13を駆動し、エンコーダ・パルスとモータ・パルスを比較する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング、薬剤容器の栓を駆動するピストン・ロッド、薬剤を送達するための出力駆動をピストン・ロッドに与えるモータを含む駆動機構、およびデバイスの動作を制御するための制御手段、を含んでなる、薬剤を患者に送達するための注射デバイスであって、制御手段が;モータ用の入力駆動信号を発生させる駆動信号発生器;モータの出力駆動を示すエンコーダ出力信号を発生させるためのエンコーダ;および入力駆動信号およびエンコーダ出力間の比較に依存してデバイスの作動制御を変更させる手段;を含んでなる、上記注射デバイス。
【請求項2】
入力駆動信号が、モータを駆動するためのステッパ・パルスを含んでなる、請求項1に記載の注射デバイス。
【請求項3】
エンコーダ出力信号が、モータの出力駆動に対応するタイミング特性を有するパルス信号である、請求項1または請求項2に記載の注射デバイス。
【請求項4】
複数の基準ポイントがデバイスに含まれ、各基準ポイントがデバイスの異なった作動面を示す、請求項1〜3のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項5】
基準ポイントが、バックストップ位置、投与量送達済、ドア位置、駆動位置およびリセット閾値のうちいずれか1つまたはそれ以上を含む、請求項4に記載の注射装置。
【請求項6】
基準ポイントは、それぞれの基準ポイントがデバイスデータに関連するそれぞれのカウント数に対応するように、入力駆動信号に関係している、請求項2〜4または請求項2〜5のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項7】
パルスエンコーダ出力のカウントのステッパ・パルスのカウントとの間の比較が、モータ停止またはモータ・スリップを示す、請求項3に記載の注射デバイス。
【請求項8】
モータ・スリップまたはモータ停止が検出される事象において、制御手段が基準ポイントの1つに対するスリップ量を決定するように作動し、その際、変更手段がデバイスの作動制御を所定の基準に従って調整する、請求項7に記載の注射装置。
【請求項9】
モータが、スリップ量が所定の閾値を超えるとき、所定の基準ポイントに反して計画的に止められる、請求項7に記載の注射デバイス。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の自動注射デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−513786(P2012−513786A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542823(P2011−542823)
【出願日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067827
【国際公開番号】WO2010/076275
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(397056695)サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (456)
【Fターム(参考)】