説明

電動モータ

【課題】接地手段を損傷させることなく冷却することができる電動モータを提供する。
【解決手段】内部空間14を有するモータケース10と、モータケース10の壁面13を貫通して配置される軸受40Bと、軸受40Bに支承される回転軸32と、モータケース10に固定され、本体61と、導電材62とを具備する接地手段60とを備え、内部空間14にはモータケース10の外よりも高圧にガスが充填され、本体61は、回転軸32の外周に沿った円弧状の内周面61aを具備し、モータケース10に固定され、導電材62は、先端が回転軸32に接触するように本体61の内周面61aに配置され、接地手段60とモータケース10との間に、バイパス流路56を設け、バイパス流路56を通じて、モータケース10の内部空間14と外部とを連通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転速度を変動させつつ、稼働する電動モータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インバータを用いて電動モータの回転速度を制御することが行なわれている。しかしながら、インバータから出力される電圧はパルス波となるため、電動モータの回転軸に軸電流が流れ、軸受を介して、接地されたモータケースに流れる際に、回転軸を支える軸受内で放電する現象が起こる。そして、この放電によって、軸受が損傷する電食が発生し、問題となっている。このような電食を防止する対策として、接地手段を用いて、回転軸に貯まった電荷を、軸受を介さずにモータケースに流す方法が考えられる。このような接地手段として、環状の本体をモータケース側に固定し、本体の環状内を回転軸が貫通するように配置し、本体の環状内面から無数の繊維状導電材が回転軸に向けて植えられ、繊維状導電材の先端が回転軸に接触することで、繊維状導電材を通じて回転軸に貯まって電荷をモータケースに流す構成が提案されている。(例えば、特許文献1,2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4485897号公報
【特許文献2】特表2010−525787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電動モータは、長時間の運用や大きな負荷が掛かるような運用によって、稼働中に高温となるため、内部を冷却する冷却手段を備えたものがある。冷却手段の冷却方法には、モータ内に液状冷媒を吹きかけ、蒸発する際に気化熱を奪い冷却するものがある。このような冷却方法を用いた場合、電動モータ内の圧力は、液状冷媒が蒸発することで、モータ外よりも高くなるため、モータケースと回転軸との間の隙間、および軸受の隙間からガス状冷媒が外部へ漏出する流れが発生するが、接地手段の繊維状導電材が、発生したガス状冷媒の流れになびくことで、劣化が促進されて、脱落してしまい、本来の機能を果たさなくなる上に、脱落した繊維状導電材が軸受に絡まったり、軸受の潤滑油に不純物として混入するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情を考慮し、接地手段を損傷させることなく冷却することができる電動モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、内部空間を有するモータケースと、該モータケースの壁面を貫通して配置される軸受と、該軸受に支承される回転軸と、該モータケースに固定され、本体と、導電材とを具備する接地手段とを備え、該内部空間にはモータケースの外よりも高圧にガスが充填され、該本体は、該回転軸の外周に沿った円弧状の内周面を具備し、該モータケースに固定され、該導電材は、可撓性を備え、一端側が該回転軸に接触するように該本体の該内周面に配置され、接地手段とモータケースとの間に、バイパス流路を設け、該バイパス流路を通じて、モータケースの内部空間と、軸受を構成するアウタレースとインナレースとの間の隙間とを連通することを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1記載の電動モータであって、前記バイパス流路の流路断面積が、前記本体と前記回転軸との間の隙間の断面積よりも大きく設定されたことを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2記載の電動モータであって、筒形状を備え、筒内面に、ラビリンスシールが形成され、筒状一側端部が前記モータケースに固定されつつ、環内を回転軸が貫通するシール部材を備え、前記接地手段は、該シール部材の筒状他側端部に配置され、該シール部材を介して該モータケースに固定されたことを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の電動モータであって、前記バイパス流路は、前記接地手段の前記本体と前記モータケース側との合わせ面の少なくともどちらか一方の面に形成された溝部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明において、外部よりも高圧なモータケース内のガスは、通気抵抗の大きな接地手段の隙間ではなく、バイパス流路を通じて、軸受の隙間からモータケース外に漏出する。これにより、冷却時に冷媒のガスが発生した場合にも、接地手段の導電材を痛めることなく冷却しつつ、電動モータのインバータ制御(可変周波数制御)を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動モータの断面図である。
【図2】本発明の一実施形態を示し、図1の要部拡大図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るシール部材の断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るシール部材の正面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る接地手段の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。本実施形態の電動モータ1は、図1に示すように、交流の電動モータで、モータケース10、固定子20、回転子30とを備えている。
【0013】
モータケース10は、円筒状の周壁11と、周壁11の両端を塞ぐ端壁12、貫通壁13とで構成され、これら周壁11、端壁12、貫通壁13で内部空間14が形成されている。周壁11の内周面には、固定子20が配置されている。固定子20は、筒状の固定鉄心(図示せず)に電線(図示せず)が巻かれた固定コイル21で構成されている。
【0014】
端壁12の中央には、内部空間14に突出する筒形状を有する支承筒部12aが設けられ、この支承筒部12aの内部空間側端部には、玉軸受40Aと端側シール部材50Aが配置されている。貫通壁13の中央には、筒孔13aが設けられ、この筒孔13aにコロ軸受40B(軸受)と貫通側シール部材50B(シール部材)が配置されている。また、玉軸受40Aとコロ軸受40Bは、それぞれの転動体と転動体との間に隙間が設定されている。
【0015】
シール部材50A,50Bは、図1、図3、図4に示すように、略筒形状を備え、筒内周面に断面略三角形形状を備えた複数の環状突起51からなるラビリンスシール52を備えている。端側シール部材50Aは、端壁側端部53が支承筒部12aに隙間無く固定され、貫通側シール部材50Bは、貫通壁側端部54(筒状一側端部)が貫通壁13の筒孔13aに隙間無く固定されている。
【0016】
接地手段60は、図5に示すように、環形状を備えた導電材からなる本体61を備え、本体61の環状内周面61a(内周面)から無数の繊維状導電材62(導電材)が、環の中心に向かって植えられている。繊維状導電材62は、導電性を有する繊維状の素材で形成されている。また、接地手段60は、貫通側シール部材50Bの内部空間側端部55(筒状他側端部)にボルト63で固定され、貫通側シール部材50Bとともに、環内に後述する回転軸32が挿通した状態で、繊維状導電材62の先端が回転軸32の外周面に接するように、繊維状導電材62の長さが設定されている。
【0017】
回転子30は、筒状の回転コイル31と回転軸32で構成されている。回転コイル31は、筒状の鉄心(図示せず)に電線(図示せず)が巻かれ、筒内に回転軸32が挿嵌されている。また、回転子30は、回転コイル31が固定子20の筒内に挿通された状態で、軸受40A,40Bを介して端壁12、貫通壁13に支承されている。
【0018】
貫通側シール部材50Bと接地手段60との合わせ面には、貫通側シール部材50Bの内部空間側端部55に、図3、図4に示すように、バイパス流路56としての溝部が形成されている。バイパス流路56は、その断面形状が、本体61と回転軸32との間の隙間の断面積よりも大きくなるように設定されている。
【0019】
また、本実施形態の電動モータ1には、冷却手段として冷媒流路15が設けられている。冷媒流路15は、外部から供給される冷媒が電動モータ1内を循環するための経路で、周壁11と固定コイル21との間に設定されており、冷媒流路15に液状冷媒が流通する間に、固定コイル21を液状冷媒が冷却する。固定コイル21を冷却した冷媒は、気液混合状態となって端壁12側の内部空間14に排出され、コイルエンド22を冷却し、ガス冷媒となる。そして、液状冷媒が気化してガス冷媒となったことによって、端壁12側の内部空間14内圧力が上昇し、ガス冷媒は、固定コイル21と回転コイル31との間の隙間を通って、圧力が低い貫通壁13側の内部空間14に移動する。貫通壁13側の内部空間14へ移動したガス冷媒は、排出口(図示せず)を通じて冷媒循環路(図示せず)に排出されるとともに、バイパス流路56とコロ軸受40Bの隙間とを通じて、圧力の低いモータケース10外へ漏出する。
【0020】
以上のように、上記本実施形態の構成では、液状冷媒が気化し、ガス冷媒になることによって、モータケース10内の圧力は、外部よりも高圧となり、ガス冷媒がコロ軸受40Bの隙間からモータケース10外に漏出する際に、バイパス流路56を流通するため、接地手段60の繊維状導電材62を痛めることなく、回転軸32に帯電した電荷を除去することができる。
【0021】
また、バイパス流路56の流路断面形状が、環状本体61と回転軸32との間の断面総面積よりも大きくなるように設定されたことによって、流通抵抗の大きな接地手段60と回転軸32との間の隙間ではなく、バイパス流路56を通じて、モータケース10内のガス冷媒が、モータケース10外に漏出するため、接地手段60の繊維状導電材62をより一層痛めることなく、回転軸32に帯電した電荷を除去することができる。
【0022】
モータケース10に貫通側シール部材50Bを設け、この貫通側シール部材50Bの内部空間側端部55に接地手段60が配置されたことによって、電動モータ1外に漏出するガスの量が低減し、バイパス流路56、および接地手段60と回転軸32との間の隙間を流れるガスの流速が低下するため、繊維状導電材62をより一層痛めることなく、回転軸32に帯電した電荷を除去することができる。
【0023】
貫通側シール部材50Bにバイパス流路56となる溝部を設けることによって、接地手段60の電荷除去性能に影響を及ぼすことなく、エンドミルによる切削等の比較的単純な加工によってバイパス流路56を設けることができる。
【0024】
なお、上記本実施形態の接地手段60は、本体61が環形状を備えているが、環形状に限定されるものではなく、たとえば回転軸32の外周に沿った半円の円弧形状、および扇形状であっても良く、状況に応じて種々の形状を採用することができる。
【0025】
また、接地手段60の繊維状導電材62は、本体61の環状内周面61aに繊維状の導電材が密集して植えられているが、繊維状の部材に限定されるものではなく、たとえば短冊状のシート材を回転軸32の軸方向に沿って、本体61の内周面に配置し、シート面が回転軸32の表面に接する構成としても良く、状況に応じて種々の形状を採用することができる。
【0026】
また、本実施形態では、バイパス流路56を通過したガス冷媒は、コロ軸受40Bの隙間を通過して、モータケース10外へ漏出する構成となっているが、軸受内の隙間以外にガス冷媒が漏出する流路を設定することもできる。
【符号の説明】
【0027】
1…電動モータ
10…モータケース
13…貫通壁(壁面)
14…内部空間
32…回転軸
40B…コロ軸受(軸受)
50B…貫通側シール部材(シール部材)
52…ラビリンスシール
54…貫通壁側端部(筒状一側端部)
55…内部空間側端部(筒状他側端部)
56…バイパス流路
60…接地手段
61…本体
61a…環状内周面(内周面)
62…繊維状導電材(導電材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有するモータケースと、
該モータケースの壁面を貫通して配置される軸受と、
該軸受に支承される回転軸と、
該モータケースに固定され、本体と、導電材とを具備する接地手段とを備え、
該内部空間にはモータケースの外よりも高圧にガスが充填され、
該本体は、該回転軸の外周に沿った円弧状の内周面を具備し、該モータケースに固定され、
該導電材は、先端が該回転軸に接触するように該本体の該内周面に配置され、
該接地手段と該モータケースとの間に、バイパス流路を設け、
該バイパス流路を通じて、該モータケースの内部空間と外部とを連通することを特徴とする電動モータ。
【請求項2】
請求項1記載の電動モータであって、
前記バイパス流路の流路断面積が、前記本体と前記回転軸との間の隙間の断面積よりも大きく設定されたことを特徴とする電動モータ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の電動モータであって、
筒形状を備え、筒内面に、ラビリンスシールが形成され、筒状一側端部が前記モータケースに固定されつつ、環内を回転軸が貫通するシール部材を備え、
前記接地手段は、該シール部材の筒状他側端部に配置され、該シール部材を介して該モータケースに固定されたことを特徴とする電動モータ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の電動モータであって、
前記バイパス流路は、前記接地手段の前記本体と前記モータケース側との合わせ面の少なくともどちらか一方の面に形成された溝部からなることを特徴とする電動モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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