説明

電動モータ

【課題】ステータと、該ステータとの間に所定の間隔をあけて配設されるロータとを備える電動モータにおいて、精度管理を容易として磁束量の変更を可能とし、製品ばらつきによる影響を受け難くする。
【解決手段】ステータ40の半径方向内方もしくは外方に配置されるロータ41が、該ロータ41の回転軸線に沿う位置を一定とした固定ロータ42と、該固定ロータ42に対する近接・離反を可能として前記回転軸線に沿う方向での移動を可能とした可動ロータ43とから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータと、該ステータとの間に所定の間隔をあけて配設されるロータとを備える電動モータに関する。
【背景技術】
【0002】
ロータと、ステータとが軸方向に対向するように配置され、ロータを軸方向に移動させてステータとの間の間隔を変化させるようにした電動モータが、特許文献1で知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2004/088826号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで電動モータで車輪を駆動するようにした電動車両での電動モータでは、車両発進時には要求トルクが大きく、マグネット磁束量が大きいことが望ましく、高速運転時には要求回転数が高く、マグネット磁束量が小さいことが望まれている。これに対して上記特許文献1で開示されたものでは、磁束量のコントロールはしているものの、ロータおよびステータ間のギャップ管理は精度を上げることが難しく、電動モータの性能にそれが影響することが考えられる。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、精度管理を容易として磁束量の変更を可能とし、製品ばらつきによる影響を受け難くした電動モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、ステータと、該ステータとの間に所定の間隔をあけて配設されるロータとを備える電動モータにおいて、前記ステータの半径方向内方もしくは外方に配置される前記ロータが、該ロータの回転軸線に沿う位置を一定とした固定ロータと、該固定ロータに対する近接・離反を可能として前記回転軸線に沿う方向での移動を可能とした可動ロータとから成ることを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は、第1の特徴の構成に加えて、前記固定ロータおよび前記可動ロータに、それらのロータの周方向に同一の等間隔をあけて複数のマグネットがそれぞれ設けられ、前記固定ロータおよび前記可動ロータの対向部で前記固定ロータ側のマグネットおよび前記可動ロータ側のマグネットの同一極が対向するように、前記固定ロータおよび前記可動ロータでのマグネットの位相が定められることを第2の特徴とする。
【0008】
本発明は、第1の特徴の構成に加えて、前記固定ロータおよび前記可動ロータに、それらのロータの周方向に同一の等間隔をあけて複数のマグネットがそれぞれ設けられ、前記固定ロータおよび前記可動ロータの対向部で前記固定ロータ側のマグネットおよび前記可動ロータ側のマグネットの一部が対向するように、前記固定ロータおよび前記可動ロータでのマグネットの位相がずれて設定されることを第3の特徴とする。
【0009】
本発明は、第3の特徴の構成に加えて、前記固定ロータおよび前記可動ロータの対向部で、前記固定ロータ側のマグネットのN極およびS極の一方の一部が、前記可動ロータ側のマグネットのN極およびS極の他方に対向するように、前記固定ロータおよび前記可動ロータに前記マグネットが位相をずらせて配置されることを第4の特徴とする。
【0010】
本発明は、第1〜第4の特徴の構成のいずれかに加えて、前記固定ロータおよび前記可動ロータが同一サイズに形成され、前記固定ロータに前記可動ロータが最接近している初期状態で前記固定ロータおよび前記可動ロータから成る前記ロータが、前記ステータの軸線に沿う幅内に配置されるように前記固定ロータおよび前記可動ロータが形成されることを第5の特徴とする。
【0011】
本発明は、第1〜第4の特徴の構成のいずれかに加えて、前記可動ロータが、その軸線に沿う長さを前記固定ロータの軸線に沿う長さよりも小さくして形成され、前記固定ロータに前記可動ロータが最接近している初期状態で前記固定ロータおよび前記可動ロータから成る前記ロータが、前記ステータの軸線に沿う幅内に配置されるように前記固定ロータおよび前記可動ロータが形成されることを第6の特徴とする。
【0012】
本発明は、第1〜第6の特徴の構成に加えて、前記固定ロータが固定されるモータ軸の回転動力を被駆動部材に伝達する動力伝達装置と、前記固定ロータとの間に配置される前記可動ロータが前記モータ軸に摺動可能に支持されることを第7の特徴とする。
【0013】
さらに本発明は、第1〜第7の特徴の構成のいずれかに加えて、前記可動ロータの移動範囲が、前記ステータの中心軸線に直交する方向から見て該ステータの一部に前記可動ロータが重なる範囲に設定されることを第8の特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の特徴によれば、ステータの半径方向内方もしくは外方にロータが配置されるので、可動ロータが移動してもロータおよびステータ間の間隔が変化することはなく、組み付け時の精度管理によって所定の性能を発揮することができる。しかもロータが、回転軸線に沿う位置を一定とした固定ロータと、該固定ロータに対する近接・離反を可能とした可動ロータとから成るものであるので、可動ロータの移動によって磁束量を変化させることができ、低回転高トルクモータと高回転低トルクモータとの切換が可能であり、低回転高トルクモータおよび高回転低トルクモータの性能を顕著にすることができる。さらにロータを軸方向に分割することでパーミアンス係数を大きくすることができ、高温作動時の減磁タフネスの向上を図ることができる。
【0015】
また本発明の第2の特徴によれば、固定ロータおよび可動ロータの対向部で固定ロータ側のマグネットならびに可動ロータ側のマグネットの同一極が対向することにより、固定ロータおよび可動ロータ間に反発力が発生し、可動ロータを固定ロータから離反させやすくなる。
【0016】
本発明の第3の特徴によれば、固定ロータおよび可動ロータの対向部で固定ロータ側のマグネットならびに可動ロータ側のマグネットの一部が対向することにより、非通電状態において外力でロータを回転する際のコギングトルクを低減することができる。
【0017】
本発明の第4の特徴によれば、固定ロータおよび可動ロータの対向部で固定ロータ側のマグネットのN極およびS極の一方の一部が、可動ロータ側のマグネットのN極およびS極の他方に対向することにより、非通電状態において外力でロータを回転する際のコギングトルクを低減することができる。また磁束が小さくなることで高回転低トルクモータ寄りの性能とすることができる。
【0018】
本発明の第5の特徴によれば、固定ロータおよび可動ロータが同一サイズに形成されるので、固定ロータおよび可動ロータに設けられるマグネットを同一のものとして統一することができる。また固定ロータに可動ロータが最接近している初期状態で、前記ステータの軸線に沿う幅内にロータが配置されるので、初期状態ではロータを分割していない従来のロータと同じ環境とし、充分な性能を発揮することができる。
【0019】
本発明の第6の特徴によれば、可動ロータの軸線に沿う長さが固定ロータの軸線に沿う長さよりも小さく、固定ロータに可動ロータが最接近している初期状態で、前記ステータの軸線に沿う幅内にロータが配置されるので、低回転高トルクモータおよび高回転低トルクモータの性能を発揮し易くするとともに、反発力による影響を可動ロータが受け易くして可動ロータの移動に要する力を低減することができる。
【0020】
本発明の第7の特徴によれば、固定ロータが固定されるモータ軸からの動力を被駆動部材側に伝達する動力伝達装置と、固定ロータとの間でモータ軸で可動ロータが摺動可能に支持されるので、固定ロータおよび動力伝達装置間に可動ロータをスペース効率良く配置することができる。
【0021】
さらに本発明の第8の特徴によれば、可動ロータが、ステータの中心軸線に直交する方向から見て該ステータの一部に前記可動ロータが重なる範囲で移動するようにして、可動ロータの移動量を最小限にしながら電動モータの性能を変化させることができ、電動モータをコンパクトな構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施の形態の自動二輪車の側面図である。
【図2】電動モータの可動ロータを固定ロータに近接させて第1の変速ギヤ列を確立した状態でのパワーユニットの構成を示す縦断面図である。
【図3】電動モータの可動ロータを固定ロータに近接させて第2の変速ギヤ列を確立した状態でのパワーユニットの構成を示す縦断面図である。
【図4】電動モータの可動ロータを固定ロータから離反させて第2の変速ギヤ列を確立した状態でのパワーユニットの構成を示す縦断面図である。
【図5】固定ロータおよび可動ロータのマグネットの相対配置を示す図である。
【図6】第2の実施の形態での固定ロータおよび可動ロータのマグネットの相対配置を示す図である。
【図7】マグネットの位相ずれによる磁束の変化を示す図である。
【図8】第3の実施の形態での固定ロータおよび可動ロータのマグネットの相対配置を示す図である。
【図9】第4の実施の形態のパワーユニットの縦断面図である。
【図10】第5の実施の形態のパワーユニットの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお以下の説明で前後、上下および左右の各方向は自動二輪車に搭乗した乗員から見た方向を言うものとする。
【0024】
本発明の第1の実施の形態について図1〜図5を参照しながら説明すると、先ず図1において、電動車両である電動二輪車の車体フレームFは、前輪WFを下端部で軸支するフロントフォーク11ならびに該フロントフォーク11に連結される棒状の操向ハンドル12を操向可能に支承するヘッドパイプ13と、該ヘッドパイプ13から緩傾斜で後下がりに延びるメインフレーム14と、前記ヘッドパイプ13から急傾斜で後下がりに延びるダウンフレーム15と、前記メインフレーム14の後端部から下方に延出される左右一対のセンターフレーム16…と、該センターフレーム16…の下端部および前記ダウンフレーム15の下端部間を結んで前記センターフレーム16…と一体に形成される左右一対のロアフレーム17…と、前記センターフレーム16…の上端部から後方に延びる左右一対のシートレール18…と、前記センターフレーム16…の下部および前記シートレール18…の後端寄り中間部間を結ぶリヤフレーム19…とを備える。
【0025】
前記センターフレーム16…の下部に設けられたブラケット20には、被駆動部材である後輪WRを後端部で軸支するスイングアーム21の前端部が支軸22を介して揺動可能に支承され、前記シートレール18の後部および前記スイングアーム21の後部間にはリヤクッションユニット23が設けられる。
【0026】
前記メインフレーム14、前記ダウンフレーム15、前記センターフレーム16…および前記ロアフレーム17…で囲まれる領域にはパワーユニットPAが配置されており、このパワーユニットPAは、前記ダウンフレーム15、前記センターフレーム16および前記ロアフレーム17で支持される。このパワーユニットPAの出力軸25には、該パワーユニットPAの左側方に配置される駆動スプロケット26が固定されており、この駆動スプロケット26と、前記後輪WRに設けられる被動スプロケット27と、前記駆動スプロケット26および前記被動スプロケット27に巻き掛けられる無端状のチェーン28とでチェーン式伝動機構29が構成される。
【0027】
前記メインフレーム14上には、前記パワーユニットPAの上方に位置するようにして収納ボックス30が搭載され、その収納ボックス30の後方に配置される乗車用シート31が、前記シートレール18で支持される。
【0028】
図2において、前記パワーユニットPAは、前記後輪WRと平行な回転軸線を有する電動モータ32と、その電動モータ32および前記後輪WR間に介設される動力伝達装置33を前記チェーン式伝動機構29とともに構成するギヤ変速機構34とを備える。
【0029】
前記パワーユニットPAのケース35は、車幅方向右側に配置される右側側壁36と、車幅方向左側に配置される左側側壁37と、右側側壁36および左側側壁37の中間部に配置される中間壁38とを有して前記車体フレームFに支持されており、ステータ40と、該ステータ40との間に所定の間隔をあけて配設されるとともに少なくとも一部を軸方向移動可能としたロータ41とを備える前記電動モータ32は、リング状に構成される前記ステータ40が前記右側側壁36に固定されるようにして前記右側側壁36および前記中間壁38間で前記ケース35に収容される。
【0030】
前記電動モータ32の前記ロータ41は、前記ステータ40の半径方向内方もしくは外方に配置されるものであり、この実施の形態では前記ステータ40の半径方向内方に前記ロータ41が配置される。しかも前記ロータ41は、その回転軸線に沿う位置を一定とした固定ロータ42と、該固定ロータ42に対する近接・離反を可能として前記回転軸線に沿う方向での移動を可能とした可動ロータ43とから成るものであり、前記出力軸25と平行な軸線を有するとともに前記ケース35に両端部が回転自在に支承されるモータ軸44に前記固定ロータ42が固定され、前記可動ロータ43が前記モータ軸44に摺動可能に支持される。
【0031】
前記中間壁38を回転自在に貫通する前記モータ軸44の一端部は前記右側側壁36に第1ボールベアリング45を介して回転自在に支承される。また前記モータ軸44の他端部は、前記左側側壁37に設けられた貫通孔46内に同軸に挿入されており、その貫通孔46の内周および前記モータ軸44の他端部外周間に第2ボールベアリング47が介装される。
【0032】
前記モータ軸44は、第1ボールベアリング45を介して前記右側側壁36で回転自在に支承される第1軸部44aと、第1軸部44aよりも大径の第2軸部44bと、第2軸部44bよりもさらに大径の第3軸部44cと、第3軸部44cよりも小径に形成される第4軸部44dと、第4軸部44dよりも小径に形成されるとともに前記中間壁38を貫通して前記左側側壁37まで延出される第5軸部44eと、第5軸部44eよりも小径に形成されるとともに第2ボールベアリング47を介して前記左側側壁37に回転自在に支承される第6軸部44fとを軸方向一端から他端側に向けて順にかつ一体に有する。
【0033】
第2軸部44bには、第1ボールベアリング45の内輪45aおよび第3軸部44c間に介装される円筒状のスペーサ48が嵌装され、第3軸部44cに前記固定ロータ42が固定される。
【0034】
前記モータ軸44には、外径を第3軸部44cと同一にして第4および第5軸部44d,44eを同軸に囲繞する大径筒部50aと、外径を大径筒部50aよりも小径として第5軸部44eを同軸に囲繞する小径軸部50bとを有して段付きの円筒状に形成されるスリーブ50が相対回転不能かつ軸方向摺動可能に支承されており、前記固定ロータ42と同一サイズに形成される可動ロータ43が、前記スリーブ50の大径筒部50aに固定される。
【0035】
前記スリーブ50の大径筒部50aおよび前記モータ軸44の第5軸部44e間には、前記スリーブ50の軸方向移動を円滑化するための複数のボール51,51…が介装され、前記スリーブ50の小径筒部50bの前記左側側壁37寄りの内周には、第5軸部44eの前記左側側壁37寄り外周に設けられるスプライン溝52に係合されるスプライン歯53が突設される。
【0036】
前記ケース35の中間壁38には、前記左側側壁37を回転自在に貫通する前記出力軸25の一端部が第3ボールベアリング54を介して回転自在に支承され、前記左側側壁37および前記出力軸25間には、第4ボールベアリング55と、第4ボールベアリング55よりも外方に配置される環状のシール部材56とが介装される。しかも前記ケース35の外方で前記出力軸25の他端部に、前記チェーン式伝動機構29の一部を構成する駆動スプロケット26が固定される。
【0037】
前記動力伝達装置33の一部を構成するギヤ変速機構34は、選択的に確立される第1および第2の変速ギヤ列GA1,GA2を有する。第1の変速ギヤ列GA1は、前記モータ軸44に相対回転自在に支承される第1の駆動ギヤ57と、前記出力軸25に固定されて第1の駆動ギヤ57に常時噛合する第1の被動ギヤ58とから成り、第2の変速ギヤ列GA2は、第1の駆動ギヤ57よりも大径に形成されて前記モータ軸44に相対回転自在に支承される第2の駆動ギヤ59と、第1の被動ギヤ58よりも小径にして前記出力軸25に一体に形成されるとともに第2の駆動ギヤ59に常時噛合する第2の被動ギヤ60とから成る。
【0038】
第1および第2の駆動ギヤ57,59は、前記スリーブ50の小径筒部50bの外周に、該スリーブ50との軸方向相対位置を一定として相対回転可能にそれぞれ支承されるものであり、第1の駆動ギヤ57および前記スリーブ50の小径筒部50b間にはニードルベアリング61が介装され、第1の駆動ギヤ57に関して前記可動ロータ43とは反対側に配置される第2の駆動ギヤ59と、前記スリーブ50の小径筒部50bとの間にはニードルベアリング62が介装される。すなわち前記モータ軸44に相対回転不能かつ軸方向摺動可能に支承されるスリーブ50に固定される可動ロータ43は、前記動力伝達装置33および前記固定ロータ42との間に配置され、前記モータ軸44に摺動可能に支持されることになる。
【0039】
また前記ギヤ変速機構34は、前記モータ軸44の軸線方向に移動することで第1および第2の駆動ギヤ57,59に対する係脱を切り換えて第1および第2の変速ギヤ列GA1,GA2を択一的に確立せしめるドグ63を有しており、このドグ63は、第1および第2の駆動ギヤ57,59間で前記スリーブ50の小径筒部50bの外周に摺動可能に嵌装される。
【0040】
前記ドグ63は、駆動部材64で前記モータ軸44の軸線方向に駆動されるものであり、この駆動部材64が、前記ロータ41の可動部、すなわち可動ロータ43に連結される。ところで前記モータ軸44の少なくとも一部は、同軸の摺動孔65を有して中空に形成されており、この第1の実施の形態では前記モータ軸44の第5および第6軸部44e,44fに前記モータ軸44の他端側に開放した有底の前記摺動孔65が同軸に設けられ、棒状に形成される前記駆動部材64が前記摺動孔65に摺動可能に嵌合される。
【0041】
前記駆動部材64の内端部には、前記ドグ63に連結されるドグ操作子66が連結されるものであり、前記駆動部材64の軸線と直交する方向に延びるピンである前記ドグ操作子66が前記駆動部材64から半径方向両外方に延出され、このドグ操作子66の両端部が前記ドグ63に連結される。
【0042】
一方、前記モータ軸44の第5軸部44eには、その軸線方向に延びる第1の長孔67が前記ドグ操作子66を挿通させるようにして設けられており、前記スリーブ50の前記小径筒部50bには、その軸線方向に延びる第2の長孔68が前記ドグ操作子66を挿通させるようにして設けられる。
【0043】
第2の長孔68は、前記ドグ63が第1および第2の駆動ギヤ57,59に択一的に係合するようにして前記ドグ操作子66が前記スリーブ50に対して軸方向に相対移動するのを許容する長さを有するように形成され、第1の長孔67は、前記ドグ63が第1および第2の駆動ギヤ57,59に択一的に係合する際の前記ドグ操作子66の移動を許容するとともに第2の駆動ギヤ59に係合した状態の前記ドグ63が前記固定ロータ42から離反する方向に前記ドグ操作子66が移動するのを許容する長さを有するように形成される。
【0044】
すなわち第1および第2の長孔67,68の長手方向一端側に前記ドグ操作子66があるときには、図2で示すように、前記ドグ63が第1の駆動ギヤ57に係合することで第1の変速ギヤ列GA1が確立しており、この状態で前記可動ロータ43は前記固定ロータ42に最も接近した初期状態にある。
【0045】
次いで第2の長孔68の長手方向他端部および第1の長孔67の長手方向中間部に前記ドグ操作子66があるときには、図3で示すように、前記ドグ63が第2の駆動ギヤ59に係合することで第2の変速ギヤ列GA2が確立しており、この状態で前記可動ロータ43は初期状態のままである。
【0046】
さらに第1の長孔67の長手方向他端側に位置するまで前記ドグ操作子66を移動させると、第2の長孔68の長手方向他端縁に前記ドグ操作子66が当接、係合することで第2の変速ギヤ列GA2を確立したままで前記スリーブ50がモータ軸44の軸方向に摺動し、前記可動ロータ43は前記固定ロータ42から離反することになる。
【0047】
すなわち電動モータ32の出力特性を高トルク低回転型とした状態で第1の変速ギヤ列GA1が確立する状態と、電動モータ32の出力特性を高トルク低回転型とした状態で第2の変速ギヤ列GA2が確立する状態と、電動モータ32の出力特性を低トルク高回転型とした状態で第2の変速ギヤ列GA2が確立する状態とを前記駆動部材64の軸方向移動によって切換えることができる。
【0048】
しかも前記固定ロータ42に前記可動ロータ43が最接近している初期状態で前記固定ロータ42および前記可動ロータ43から成る前記ロータ41は、図2および図3で示すように、前記ステータ40の軸線に沿う幅内に配置されるように、同一サイズの前記固定ロータ42および前記可動ロータ43が形成される。
【0049】
また可動ロータ43が、前記固定ロータ42から最も離反した状態で、前記可動ロータ43の一部は、図4で示すように、ステータ40の中心軸線と直交する方向から見てステータ40に重なっており、可動ロータ43の移動範囲は、ステータ40の中心軸線と直交する方向から見て前記ステータ40の一部に可動ロータ43が重なる範囲に設定されている。
【0050】
ところで前記駆動部材64には、該駆動部材64を前記モータ軸44の軸方向に駆動する動力を発揮するアクチュエータ70が連結されるものであり、このアクチュエータ70は、電動モータ71と、該電動モータ71の出力を減速して伝達するギヤ減速機構72とから成り、ギヤ減速機構72を収容するギヤケース73に前記電動モータ71が取付けられる。
【0051】
このアクチュエータ70は、前記動力伝達装置33の上方、この第1の実施の形態では、前記パワーユニットPAのケース35の上部に配置される。
【0052】
前記駆動部材64の外端には環状溝74が設けられており、扇状に形成されるとともにその扇の要の部分が回動軸75に固定される回動部材76に、前記モータ軸44とともに回転する前記駆動部材64の外端部を跨ぐ抱持部76aが形成され、前記環状溝74内に嵌入されるローラ77が前記抱持部76aに軸支される。また前記ギヤ減速機構72の出力端である駆動軸78は前記回動軸75に連動、連結される。すなわちアクチュエータ70によって前記回動部材76が回動することになり、この回動部材76で抱持された前記駆動部材64が前記モータ軸44の軸方向に駆動されることになる。
【0053】
また前記回動部材76の外周の周方向に間隔をあけた3箇所には、凹部79,80,81が設けられており、それらの凹部79〜81に係合することを可能としたローラ82が一端部に軸支されたアーム83の他端部が前記ケース35に軸84を介して回動可能に支持されており、前記ケース35および前記アーム83間には、前記ローラ82を前記回動部材76の外周に押しつける方向に前記アーム83を付勢するばね85が設けられる。
【0054】
前記回動部材76の外周の3つの凹部79〜81は、第1および第2の長孔67,68の長手方向一端側に前記ドグ操作子66があるとき(図2で示す状態のとき)、第2の長孔68の長手方向他端部および第1の長孔67の長手方向中間部に前記ドグ操作子66があるとき(図3で示す状態のとき)、ならびにドグ操作子66が第1の長孔67の長手方向他端側に位置しているとき(図4で示す状態のとき)に前記ローラ82を係合させるようにして配置されており、各凹部79〜81に前記ローラ82が係合することでその状態が安定的に保持される。
【0055】
前記回動部材76および前記アーム82は、前記ケース35の左側側壁37に、該左側側壁37を外側方から覆うようにして取付けられるカバー86(図1参照)内に収容される。
【0056】
ところで前記固定ロータ42および前記可動ロータ43には、図5で示すように、それらのロータ41の周方向に同一の等間隔をあけて複数のマグネット87F…,87M…がそれぞれ設けられており、前記固定ロータ42および前記可動ロータ43の対向部で前記固定ロータ42側のマグネット87F…および前記可動ロータ43側のマグネット87M…の同一極が対向するように前記固定ロータ42および前記可動ロータ43でのマグネット87F…,87M…の位相が定められる。
【0057】
再び図1において、前記パワーユニットPAの前方には、該パワーユニットPAが備える前記電動モータ32の作動を制御する制御ユニット88が前記ダウンフレーム15で支持されるようにして配置され、前記センターフレーム16…、前記シートレール18…および前記リヤフレーム19…で囲まれる部分には、前記電動モータ32に電力を供給するための電池ユニット89が、前記センターフレーム16…、前記シートレール18…および前記リヤフレーム19…で支持されるようにして配置される。
【0058】
次にこの第1の実施の形態の作用について説明すると、ステータ40との間に所定の間隔をあけて配設されるロータ41の少なくとも一部を軸方向移動可能とした電動モータ32が車体フレームFに搭載され、その電動モータ32のモータ軸44および後輪WR間に介設される動力伝達装置33の一部を構成するギヤ変速機構34が、前記モータ軸44に相対回転に支承される第1および第2の駆動ギヤ57,59をそれぞれ有する第1および第2の変速ギヤ列GA1,GA2と、前記モータ軸44の軸線方向に移動することで第1および第2の駆動ギヤ57,59に対する係脱を切換えて第1および第2の変速ギヤ列GA1,GA2を選択的に確立せしめるドグ63とを備えており、そのドグ63を前記モータ軸44の軸線方向に駆動する駆動部材64が、前記ロータ41の可動部に連結される。したがって駆動部材64が作動せしめることで第1および第2の変速ギヤ列GA1,GA2を選択的に確立して変速することができるとともにロータ41の可動部を移動させて電動モータ32の出力特性を変化させることができ、出力特性を変化させ得る電動モータ32および後輪WR輪間にギヤ変速機構34を設けることで走行性能の更なる向上を図った上で、走行特性を変化させるための効率的な作動機構を構成することができる。
【0059】
またモータ軸44の少なくとも一部が同軸の摺動孔65を有して中空に形成され、棒状に形成される駆動部材64が前記摺動孔65に摺動可能に嵌合されるので、モータ軸44以外の部分で駆動部材64を配置するためのスペースを少なくし、モータ軸44および駆動部材64をコンパクトに纏めて配置することができる。
【0060】
また前記ロータ41が、その回転軸線に沿う位置を一定とした固定ロータ42と、該固定ロータ42に対する近接・離反を可能として前記回転軸線に沿う方向での移動を可能とした前記可動部としての可動ロータ43とから成り、前記ステータ40の半径方向内方に配置されるので、可動ロータ43が移動してもロータ41およびステータ40間の間隔が変化することはなく、組み付け時の精度管理によって所定の性能を発揮することができる。しかも可動ロータ43の移動によって磁束量を変化させることができ、低回転高トルクモータと高回転低トルクモータとの切換が可能であり、低回転高トルクモータおよび高回転低トルクモータの性能を顕著にすることができる。さらにロータ41を軸方向に分割することでパーミアンス係数を大きくすることができ、高温作動時の減磁タフネスの向上を図ることができる。
【0061】
また前記モータ軸44に相対回転不能かつ軸方向摺動可能に支持される円筒状のスリーブ50に、前記可動ロータ43が固定されるとともに、前記可動ロータ43側に配置される第1の駆動ギヤ57ならびに第1の駆動ギヤ57を可動ロータ43との間に挟む第2の駆動ギヤ59が軸方向相対位置を一定として相対回転可能に支持され、前記駆動部材64に連結されるドグ操作子66が該駆動部材64から半径方向外方に延出され、前記モータ軸44にその軸線方向に延びる第1の長孔67が前記ドグ操作子66を挿通させるようにして設けられ、前記スリーブ50にその軸線方向に延びる第2の長孔68が前記ドグ操作子66を挿通させるようにして設けられ、第2の長孔68は、前記ドグ63が第1および第2の駆動ギヤ57,59に択一的に係合するようにして前記ドグ操作子66が前記スリーブ50に対して軸方向に相対移動するのを許容する長さを有するように形成され、第1の長孔67は、前記ドグ63が第1および第2の駆動ギヤ57,59に択一的に係合する際の前記ドグ操作子66の移動を許容するとともに第2の駆動ギヤ59に係合した状態の前記ドグ63が前記固定ロータ42から離反する方向に前記ドグ操作子66が移動するのを許容する長さを有するように形成される。
【0062】
したがって駆動部材64に連結されるドグ操作子66が第2の長孔68の長手方向一端部にあって第1の駆動ギヤ57にドグ63が係合することによって第1の変速ギヤ列GA1が確立するとともに可動ロータ43を固定ロータ42に最も接近させた状態と、前記ドグ操作子66が第2の長孔68の長手方向他端部および第1の長孔67の長手方向中間部にあって第2の駆動ギヤ59にドグ63が係合することによって第2の変速ギヤ列GA2が確立するとともに可動ロータ43を固定ロータ42に最も接近させた状態と、第1の長孔67の長手方向他端側に位置するまで前記ドグ操作子66を移動させることによって第2の長孔68の長手方向他端縁に前記ドグ操作子66が当接、係合することで第2の変速ギヤ列GA2を確立したままで可動ロータ43を固定ロータ42から離反させる状態とを切換えることが可能であり、駆動部材64を単純に軸方向に作動せしめるだけで、電動モータ32の出力特性の切換および動力伝達機構での変速切換を行うことができる。
【0063】
また前記駆動部材64に、該駆動部材64を駆動する動力を発揮するアクチュエータ70が連結されるので、電動モータ32の出力特性の切換および動力伝達装置33での変速切換の操作性を高めることができ、しかもアクチュエータ70が動力伝達装置33の上方に在るようにして電動車両にアクチュエータ70を効率的に配置することができる。
【0064】
また前記固定ロータ42および前記可動ロータ43に、それらのロータ41の周方向に同一の等間隔をあけて複数のマグネット87F…,87M…がそれぞれ設けられ、前記固定ロータ42および前記可動ロータ43の対向部で前記固定ロータ42側のマグネット87F…および前記可動ロータ43側のマグネット87M…の同一極が対向するように、前記固定ロータ42および前記可動ロータ43でのマグネット87F…,87M…の位相が定められるので、固定ロータ42および可動ロータ43間に反発力が発生し、可動ロータ43を固定ロータ42から離反させやすくなる。
【0065】
また固定ロータ42および可動ロータ43が同一サイズに形成されるので、固定ロータ42および可動ロータ43に設けられるマグネット87F…,87M…を同一のものとして統一することができる。また固定ロータ42に可動ロータ43が最接近している初期状態で前記ステータ40の軸線に沿う幅内にロータ41が配置されるので、初期状態ではロータ41を、分割していない従来のロータと同じ環境とし、充分な性能を発揮することができる。
【0066】
また前記可動ロータ43の移動範囲が、ステータ40の中心軸線に直交する方向から見て前記ステータ40の一部に前記可動ロータ43が重なる範囲に設定されるので、可動ロータ43の移動量を最小限にしながら電動モータ32の性能を変化させることができ、電動モータ32をコンパクトな構成とすることができる。
【0067】
さらに前記固定ロータ42が固定されるモータ軸44の回転動力を後輪WRに伝達する動力伝達装置33と、固定ロータ42との間に配置される可動ロータ43が、モータ軸44に摺動可能に支持されるので、固定ロータ42および動力伝達装置33間に可動ロータ43をスペース効率良く配置することができる。
【0068】
本発明の第2の実施の形態として、図6で示すように、固定ロータ42側のマグネット87F…と、前記可動ロータ43側のマグネット87M…とが、同一極の一部が対向するように位相をずらして配置されていてもよく、そうすれば非通電状態にあって外力でロータ41を回転する際のコギングトルクすなわち電動二輪車を押し歩きする際のコギングトルクを低減することができる。すなわち図7で示すように、ロータ41を軸方向に分割していない通常の電動モータでの非通電状態における磁束量が曲線Dで示すものであるのに対して、マグネット87F…,87M…の位相をずらせた固定ロータ42および可動ロータ43による磁束量が曲線A,Bで示す磁束量となり、マグネット87F…,87M…の位相をずらせた固定ロータ42および可動ロータ43によってロータ41を構成した電動モータ32で生じる磁束量は曲線A,Bを相互に加算した曲線Cを示すようになり、通常の電動モータよりもコギングトルクが小さくなる。
【0069】
本発明の第3の実施の形態として、図8で示すように、前記固定ロータ42および前記可動ロータ43の対向部で、前記固定ロータ42側のマグネット87F…のN極およびS極の一方の一部が、前記可動ロータ43側のマグネット87M…のN極およびS極の他方に対向するように、前記固定ロータ42および前記可動ロータ43に前記マグネット87F…,87M…が位相をずらせて配置されていてもよい。そうすれば、図7で示すように、ロータ41を軸方向に分割していない通常の電動モータでの非通電状態における磁束量が曲線Dで示すものであるのに対して、マグネット87F…,87M…の位相をずらせた固定ロータ42および可動ロータ43による磁束量が曲線A′,B′で示す磁束量となり、マグネット87F…,87M…の位相をずらせた固定ロータ42および可動ロータ43によってロータ41を構成した電動モータ32で生じる磁束量は曲線A′,B′を相互に加算した曲線C′を示すようになり、通常の電動モータよりもコギングトルクが小さくなる。しかも磁束が小さくなることで高回転低トルクモータ寄りの性能とすることができる。
【0070】
また上記第1〜第3の実施の形態の変形例として、前記可動ロータ43が、その軸線に沿う長さを前記固定ロータ42の軸線に沿う長さよりも小さくして形成され、前記固定ロータ42に前記可動ロータ43が最接近している初期状態で前記固定ロータ42および前記可動ロータ43から成る前記ロータ41が、前記ステータ40の軸線に沿う幅内に配置されるように、前記固定ロータ42および前記可動ロータ43が形成されていてもよく、このようにすれば、低回転高トルクモータおよび高回転低トルクモータの性能を発揮し易くするとともに、反発力による影響を可動ロータ43が受け易くして可動ロータ43の移動に要する力を低減することができる。
【0071】
本発明の第4の実施の形態について図9を参照しながら説明するが、図1〜図5の第1の実施の形態に対応する部分には同一の参照符号を付して図示するのみとし、詳細な説明は省略する。
【0072】
パワーユニットPBは、後輪WRと平行な回転軸線を有する電動モータ32と、その電動モータ32および前記後輪WR間に介設される動力伝達装置93とを有して後輪WRの左側方に配置される。
【0073】
前記パワーユニットPBのケース94は、前記後輪WRの左側で車幅方向右側に配置される右側側壁95と、車幅方向左側に配置される左側側壁96と、右側側壁95および左側側壁96の中間部に配置される中間壁97とを有して固定配置されており、前記後輪WRの回転軸線と平行な回転軸線を有する前記電動モータ32は、そのステータ40が前記左側側壁96に固定されるようにして前記左側側壁96および前記中間壁97間で前記ケース94に収容される。
【0074】
前記電動モータ32のモータ軸44は、前記中間壁97を回転自在に貫通するように配置され、このモータ軸44の左端部は前記左側側壁96にボールベアリング98を介して回転自在に支承され、モータ軸44の右端部は、前記右側側壁95にボールベアリング99を介して回転自在に支承される。
【0075】
前記モータ軸44には、前記中間壁97を回転自在かつ気密に貫通するスリーブ50が相対回転不能かつ軸方向摺動可能に支承されており、前記電動モータ32の可動ロータ43がスリーブ50に固定される。
【0076】
前記後輪WRの車軸100は、前記ケース94の右側側壁95を回転自在に貫通して前記ケース94内に突入されており、この車軸100の内端部および前記中間壁97間にボールベアリング101が介装され、前記車軸100および前記右側側壁95間にはボールベアリング102と、該ボールベアリング102の内方に配置される環状のシール部材103とが介装される。
【0077】
前記動力伝達装置93は、第1の実施の形態のギヤ変速機構34と基本的には同一の構成を有するギヤ変速機構として構成されるものであり、前記モータ軸44に相対回転自在に支承される第1の駆動ギヤ57ならびに前記車軸100に固定されて第1の駆動ギヤ57に噛合する第1の被動ギヤ58とから成る第1の変速ギヤ列GA1と、第1の駆動ギヤ57よりも大径に形成されて前記モータ軸44に相対回転自在に支承される第2の駆動ギヤ59と、第1の被動ギヤ58よりも小径にして前記車軸100に一体に形成されるとともに第2の駆動ギヤ59に噛合する第2の被動ギヤ60とから成る第2の変速ギヤ列GA2とを備え、第1および第2の変速ギヤ列GA1,GA2を択一的に確立可能である。
【0078】
第1および第2の駆動ギヤ57,59に対する係脱を切り換えて第1および第2の変速ギヤ列GA1,GA2を択一的に確立せしめるドグ63は、前記モータ軸44の右端部に開放して該モータ軸44に設けられる有底の摺動孔65に摺動可能に嵌合される駆動部材64に、ドグ操作子66を介して連結されており、前記モータ軸44には、前記ドグ操作子66を挿通させる第1の長孔67が設けられ、前記スリーブ50には、前記ドグ操作子66を挿通させる第2の長孔68が設けられる。
【0079】
而して上記第1の実施の形態と同様に、前記駆動部材64が軸方向に移動することによって、電動モータ32において可動ロータ43を固定ロータ42に最も接近させた初期状態としつつ第1の変速ギヤ列GA1を確立した状態と、電動モータ32において可動ロータ43を固定ロータ42に最も接近させた初期状態としつつ第2の変速ギヤ列GA2を確立した状態と、第2の変速ギヤ列GA2を確立したままで可動ロータ43を固定ロータ42から離反させる状態とを切り換えることができる。
【0080】
前記駆動部材66の前記ケース94から後輪WR側に突出した端部に設けられる環状溝74には、回動部材76に軸支されるローラ77が係合され、該回動部材76は回動軸75に固定されて前記ケース94および後輪WR間に配置され、この回動部材76に設けられる凹部79〜81に選択的に係合するローラ82を有するアーム83も前記ケース94および後輪WR間に配置される。
【0081】
またアクチュエータ70の駆動軸78にはドラム104が設けられており、このドラム104に一端部が巻き掛け、連結されたケーブル105が、前記ドラム104の回動に応じて前記回動部材76を回動するようにして前記回動軸75に連動、連結される。
【0082】
この第4の実施の形態によっても上記第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0083】
本発明の第5の実施の形態について図10を参照しながら説明するが、第1〜第4の実施の形態に対応する部分には同一の参照符号を付して図示するのみとし、詳細な説明は省略する。
【0084】
パワーユニットPCは、後輪WRと同軸の回転軸線を有する電動モータ32と、その電動モータ32および前記後輪WR間に介設される動力伝達装置107とを備える。
【0085】
前記電動モータ32は、前記後輪WRの左側方に配置されるものであり、前記後輪WRの左側で車幅方向右側に配置される右側側壁108と、車幅方向左側に配置される左側側壁109とで構成されるケース110内に、ステータ40が前記左側側壁109に固定されるようにして収容される。また前記後輪WRの右側にはスイングアーム111が配置されており、前記ケース110および前記スイングアーム111は、図示しない車体フレームで揺動自在に支承される。
【0086】
前記電動モータ32のモータ軸44は、前記右側側壁109を回転自在に貫通するように配置され、このモータ軸44の左端部は前記左側側壁110にボールベアリング112を介して回転自在に支承され、モータ軸44の右端部は、前記スイングアーム111にボールベアリング113を介して回転自在に支承される。
【0087】
前記モータ軸44には、前記右側側壁109を回転自在かつ気密に貫通するスリーブ50が相対回転不能かつ軸方向摺動可能に支承されており、前記電動モータ32の可動ロータ43がスリーブ50に固定される。
【0088】
前記動力伝達装置107は、前記スリーブ50と、前記後輪WRのホイール114のハブ114aとの間に介設される第1および第2の変速ギヤ列GB1,GB2を有し、第1および第2の変速ギヤ列GB1,GB2の択一的な確立を可能としたものである。
【0089】
第1の変速ギヤ列GB1は、前記モータ軸44に相対回転自在に支承される第1の駆動ギヤである第1のサンギヤ115と、前記ハブ114aの内周に固設される第1のリングギヤ116と、第1のサンギヤ115および第1のリングギヤ116に噛合する複数の第1の遊星ギヤ117…とを有して遊星ギヤ機構として構成され、第2の変速ギヤ列GB2は、前記モータ軸44に相対回転自在に支承される第2の駆動ギヤである第2のサンギヤ118と、前記ハブ114aの内周に固設される第2のリングギヤ119と、第2のサンギヤ118および第2のリングギヤ119に噛合する複数の第2の遊星ギヤ120…とを有して遊星ギヤ機構として構成される。
【0090】
第1のサンギヤ115は第2のサンギヤ118よりも小径に形成され、第1および第2の遊星ギヤ117…,120…は同径に形成され、第1のリングギヤ116は第2のリングギヤ119よりも小径に形成される。また第1の遊星ギヤ117…を軸支する遊星キャリア121と、第2の遊星ギヤ120…を軸支する遊星キャリア122とは前記ハブ114aに固設される。
【0091】
第1および第2のサンギヤ115,118に対する係脱を切り換えるドグ63は、前記モータ軸44の右端部に開放して該モータ軸44に設けられる有底の摺動孔65に摺動可能に嵌合される駆動部材64に、ドグ操作子66を介して連結されており、前記モータ軸44には、前記ドグ操作子66を挿通させる第1の長孔67が設けられ、前記スリーブ50には、前記ドグ操作子66を挿通させる第2の長孔68が設けられる。
【0092】
而して上記第1および第2の実施の形態と同様に、前記駆動部材64が軸方向に移動することによって、電動モータ32において可動ロータ43を固定ロータ42に最も接近させた初期状態としつつ第1の変速ギヤ列GB1を確立した状態と、電動モータ32において可動ロータ43を固定ロータ42に最も接近させた初期状態としつつ第2の変速ギヤ列GB2を確立した状態と、第2の変速ギヤ列GB2を確立したままで可動ロータ43を固定ロータ42から離反させる状態とを切り換えることができる。
【0093】
前記後輪WRの右側で前記駆動部材66の前記スイングアーム111から突出した端部に設けられる環状溝74には、回動部材76に軸支されるローラ77が係合され、アーム83のローラ82が前記回動部材76に設けられる凹部79〜81に選択的に係合する。しかも前記回動部材76および前記アーム83は前記スイングアーム111に支持されるようにして該スイングアーム111の右側に配置される。
【0094】
また前記スイングアーム111には、電動モータ71を有するアクチュエータ123が支持されており、このアクチュエータ123の出力端が前記回動部材66が固定される回動軸75に直接連結される。
【0095】
この第5の実施の形態によれば、上記第1および第4の実施の形態と同様の効果を奏することができる上に、パワーユニットPCを後輪WRの近傍に纏めてコンパクトに構成することができる。
【0096】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0097】
たとえば上記各実施の形態では、ロータ41がステータ40の半径方向内方に配置される電動モータ32について説明したが、本発明は、ロータがステータの半径方向外方に配置される電動モータにも適用可能である。
【符号の説明】
【0098】
32・・・電動モータ
40・・・ステータ
41・・・ロータ
42・・・固定ロータ
43・・・可動ロータ
44・・・モータ軸
87F,87M・・・マグネット
WR・・・被駆動部材である後輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータ(40)と、該ステータ(40)との間に所定の間隔をあけて配設されるロータ(41)とを備える電動モータにおいて、前記ステータ(40)の半径方向内方もしくは外方に配置される前記ロータ(41)が、該ロータ(41)の回転軸線に沿う位置を一定とした固定ロータ(42)と、該固定ロータ(42)に対する近接・離反を可能として前記回転軸線に沿う方向での移動を可能とした可動ロータ(43)とから成ることを特徴とする電動モータ。
【請求項2】
前記固定ロータ(42)および前記可動ロータ(43)に、それらのロータ(42,43)の周方向に同一の等間隔をあけて複数のマグネット(87F,87M)がそれぞれ設けられ、前記固定ロータ(42)および前記可動ロータ(43)の対向部で前記固定ロータ(42)側のマグネット(87F)および前記可動ロータ(43)側のマグネット(87M)の同一極が対向するように、前記固定ロータ(42)および前記可動ロータ(43)でのマグネット(87F,87M)の位相が定められることを特徴とする請求項1記載の電動モータ。
【請求項3】
前記固定ロータ(42)および前記可動ロータ(43)に、それらのロータ(42,43)の周方向に同一の等間隔をあけて複数のマグネット(87F,87M)がそれぞれ設けられ、前記固定ロータ(42)および前記可動ロータ(43)の対向部で前記固定ロータ(42)側のマグネット(87F)および前記可動ロータ(43)側のマグネット(87M)の一部が対向するように、前記固定ロータ(42)および前記可動ロータ(43)でのマグネット(87F,87M)の位相がずれて設定されることを特徴とする請求項1記載の電動モータ。
【請求項4】
前記固定ロータ(42)および前記可動ロータ(43)の対向部で、前記固定ロータ(42)側のマグネット(87F)のN極およびS極の一方の一部が、前記可動ロータ(43)側のマグネット(87M)のN極およびS極の他方に対向するように、前記固定ロータ(42)および前記可動ロータ(43)に前記マグネット(87F,87M)が位相をずらせて配置されることを特徴とする請求項3記載の電動モータ。
【請求項5】
前記固定ロータ(42)および前記可動ロータ(43)が同一サイズに形成され、前記固定ロータ(42)に前記可動ロータ(43)が最接近している初期状態で前記固定ロータ(42)および前記可動ロータ(43)から成る前記ロータ(41)が、前記ステータ(40)の軸線に沿う幅内に配置されるように前記固定ロータ(42)および前記可動ロータ(43)が形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電動モータ。
【請求項6】
前記可動ロータ(43)が、その軸線に沿う長さを前記固定ロータ(42)の軸線に沿う長さよりも小さくして形成され、前記固定ロータ(42)に前記可動ロータ(43)が最接近している初期状態で前記固定ロータ(42)および前記可動ロータ(43)から成る前記ロータ(41)が、前記ステータ(40)の軸線に沿う幅内に配置されるように前記固定ロータ(42)および前記可動ロータ(43)が形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電動モータ。
【請求項7】
前記固定ロータ(42)が固定されるモータ軸(44)の回転動力を被駆動部材(WR)に伝達する動力伝達装置(33)と、前記固定ロータ(42)との間に配置される前記可動ロータ(43)が前記モータ軸(44)に摺動可能に支持されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電動モータ。
【請求項8】
前記可動ロータ(43)の移動範囲が、前記ステータ(49)の中心軸線に直交する方向から見て該ステータ(40)の一部に前記可動ロータ(43)が重なる範囲に設定されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電動モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−74772(P2013−74772A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214173(P2011−214173)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】