説明

電動圧縮機の電気回路耐振構造

【課題】インバータ一体型電動圧縮機において、低コストで圧縮機を軽量化でき生産性も優れた電気回路の耐振構造を提供する。
【解決手段】
車両の空調装置に使用され、圧縮機構駆動用のモータ及び該モータの駆動を制御する電気回路を一体に備えた電動圧縮機の電気回路耐振構造において、耐振補強を要求される電子部品(ノイズフィルタを構成するコイル及びコンデンサと、平滑コンデンサ)を専用のプリント基板24に装着し、樹脂25でモールドしたアッセンブリ26を、圧縮機のハウジング内に組み付けて構成する。これにより、モールドに使用する樹脂の量が大幅に減少し、低コストで圧縮機を軽量化でき生産性も向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両空調装置に使用され圧縮機構駆動用のモータ及び該モータの駆動を制御する電気回路を一体に備えた電動圧縮機において、電気回路の耐振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の空調装置に使用する電動圧縮機では、バッテリからの直流電流をインバータによって交流電流に変換しつつ圧縮機構駆動用のモータへの給電を制御しており、インバータを含む電気回路が組み込まれた回路基板を圧縮機ハウジング内に収容する電動圧縮機が知られている。
【0003】
このようなインバータ一体型の電動圧縮機においては、外部電源から供給されてくる電力に対し、ノイズを除去するためのノイズフィルタや、インバータへの供給電力を平滑化するための平滑コンデンサなど電子部品が備えられ、これらの電子部品は大型、大重量、回路基板の装着面からの高さが高いなどにより、振動の影響を受けやすい。
【0004】
このため、従来では、特許文献1等に示すように、電気回路が組み込まれた圧縮機ハウジングの収容空間に樹脂(ゲル)を充填し、電気回路の各部品を樹脂でモールドすることにより耐振性を付与していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−316754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1など従来では、圧縮機ハウジングの電気回路収容空間内に、プリント基板に実装された全ての電子部品を埋没する位置まで樹脂を充填してモールドしていたため、充填する樹脂の量が多くなり、コストアップとなり、圧縮機の重量も増大する。
【0007】
また、樹脂を加熱して硬化する場合、電動圧縮機全体(若しくはインバータ部全体)を、大型の炉を用いて長時間加熱する必要があり、生産性も低下していた。
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、モールドに要する樹脂の消費量を減少してコストダウン、圧縮機の軽量化を図れると共に、生産性にも優れた電動圧縮機の電気回路耐振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明は、車両の空調装置に使用され、圧縮機構駆動用のモータ及び該モータの駆動を制御する電気回路を一体に備えた電動圧縮機の電気回路耐振構造において、以下の構成を有したことを特徴とする。
【0009】
電気回路の中で耐振補強を要求される電子部品を専用の回路基板に装着し、電子部品を樹脂でモールドしたアッセンブリを、圧縮機ハウジング内に組み付けて構成される。
【発明の効果】
【0010】
かかる構成によれば、耐振補強の必要な電子部品のみ樹脂でモールドされるため、樹脂の使用量が減少し、コストダウン、圧縮機の軽量化を図れる。
また、圧縮機本体の組み立てとは別に並行して耐振補強の必要な電子部品のみを回路基板に組み付けた小形な物品を、小型の炉で短時間加熱して樹脂を硬化すればよいため、生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施態様に係る電動圧縮機の外観の概略を示す図
【図2】同上電動圧縮機のモータ駆動制御用の電気回路図
【図3】第1の実施形態における同上電気回路を収納するハウジング内部を示す平面図
【図4】図3のA−A矢視断面図
【図5】同上電気回路の一部(平滑コンデンサとノイズフィルタ)を回路基板に装着した状態を示す斜視図
【図6】同上電気回路の一部を樹脂でモールドしたアッセンブリを示す斜視図
【図7】第2の実施形態における同上電気回路を収納するハウジング内部を示す平面図
【図8】蓋部材を組み付けた状態での図7のA−A矢視断面図
【図9】同上電気回路の一部を樹脂でモールドしたアッセンブリに、第1の放熱シート部材を密着させた状態を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る電動圧縮機の外観の概略を示す。図1において、電動圧縮機1は、3個に分割して形成され直列に締結されたハウジング2A,2B,2C内に、それぞれ圧縮機構3と、該圧縮機構3を駆動するモータ4と、該モータ4の駆動を制御する電気回路5とが収納され、ハウジング2C(インバータケース)の外側開口は、蓋部材6によって閉塞されている。
【0013】
電気回路5は、インバータと、該インバータへの供給電力を平滑化する平滑コンデンサと、ノイズを除去するノイズフィルタを含んで構成され、例えば図2に示すように構成されている。
【0014】
図2において、電気回路5からの出力が密封端子11を介してモータ4の各モータ巻線4aに給電されることによりモータ4が回転駆動され、圧縮機構3による圧縮が行われる。
【0015】
電気回路5には、外部電源12(バッテリー)からの電力が、高電圧用コネクタ13を介して給電され、ノイズフィルタ14、平滑コンデンサ15を介してインバータ16に供給され、インバータ16で電源12からの直流が疑似三相交流に変換された後、モータ4へと供給される。
【0016】
モータ制御回路17へは、車両の空調制御装置18から、低電圧の電力が制御信号用コネクタ19を介して供給される。上記インバータ16には、還流ダイオード20とIGBT21からなるパワー半導体素子22が3組合計6個設けられている。
【0017】
図3及び図4は、電気回路5を収納するハウジング2C内部を示す。インバータ16及びモータ制御回路17を構成する各電子部品は、第1のプリント基板23に直接装着され、またはリード線を介して電気的に接続されている。
【0018】
一方、平滑コンデンサ15と、ノイズフィルタ14を構成するノイズ低減用コイル14a及びノイズ低減用コンデンサ14bは、上記モータ駆動制御用の各電子部品に比較して、大型、大重量、基板装着面からの高さが高いなど、機関振動や圧縮機自身の振動の影響を受けやすいため、耐振補強することが必要である。
【0019】
そこで、図5に示すように、これら耐振補強が必要な平滑コンデンサ15と、ノイズフィルタ14を構成するノイズ低減用コイル14a及びノイズ低減用コンデンサ14bは、第1のプリント基板23とは別に、専用の第2のプリント基板(回路基板)24に集約して装着する。
【0020】
そして、第2のプリント基板24に装着した耐振補強が必要な電子部品を、図6に示すように、樹脂25でモールドして一体化したアッセンブリ26とする。ここで、モールドに使用する樹脂25としては、シリコーンゲルやウレタン樹脂より硬度が高いエポキシ樹脂等を使用する。
【0021】
ここで、耐振補強が必要な平滑コンデンサ15やノイズ低減用コイル14a及びノイズ低減用コンデンサ14bなど大型、大重量あるいは背の高い(プリント基板装着面からの高さが高い)等の電子部品は、第2のプリント基板24のハウジング2C底壁に対向する側の装着面のみに装着される。
【0022】
一方、第2のプリント基板24の反対側の装着面にも耐振補強が必要な電子部品に比較して小型で背の低い(プリント基板装着面からの高さが低い)電子部品、例えば抵抗等の電子部品が装着されるが、これら電子部品は樹脂でモールドされず、耐振補強が必要な電子部品のみが樹脂でモールドされる。
【0023】
上記のように樹脂でモールドされたアッセンブリ26を、第2のプリント基板24の周縁部を複数のボルト27によってハウジング2Cに締結して固定する。
本実施形態によれば、以下のような種々の効果が得られる。
【0024】
耐振補強が必要な電子部品のみを集約して専用のプリント基板24に装着した上で、樹脂でモールドすることにより、樹脂の使用量を減少させることができ、コストを引き下げることができると共に、圧縮機を軽量化できる。
【0025】
また、樹脂を加熱して硬化する樹脂モールドの場合、圧縮機本体の組み立てとは別に並行して小形の物品を小型の加熱炉を用いて短時間加熱すればよいため、生産性が向上する。
【0026】
また、上記本発明の基本的な効果に加え、本実施形態特有の効果として、耐振補強が必要な大型、大重量、背が高い等の電子部品を、第2のプリント基板24の同一側の装着面に集約的に装着すると共に、プリント基板24の反対側の装着面にも小型で背が低い抵抗等の電子部品を装着することにより、電子部品を可能な限りコンパクトに収納して圧縮機の小型化をより促進できる。さらに、耐振補強が必要な電子部品のみをプリント基板の片側で樹脂モールドすれば済むため、樹脂の消費量を必要最小限に留めることができる。
【0027】
また、エポキシ樹脂等の硬度の高い樹脂でモールドすることにより、プリント基板24の剛性も強化されて反り等を抑制でき、ボルト27によるハウジング2Cへの締結箇所を減少できるので、プリント基板24への電子部品の搭載自由度(配置や部品数)が向上する。
【0028】
図7〜図9は、第2の実施形態を示す。本第2実施形態では、第1実施形態の構成に、放熱性を向上させる構成が追加される。
即ち、第1実施形態同様に形成されたアッセンブリ26の樹脂でモールドされた部分の外壁と、これに対向するハウジング2Cの底壁(内壁)との間に、樹脂またはゲルで形成され柔軟性を有した第1の放熱シート部材28が密着して介装される。
【0029】
なお、第1の放熱シート部材28の配設は、図9に示すように、第1の放熱シート部材28を密着させたアッセンブリ26を上下反転させてハウジング2Cに組み付けることにより、ハウジング2Cの底壁に密着させればよいが、予め、第1の放熱シート部材28をハウジング2Cの底壁に密着させておき、アッセンブリ26の組み付けと同時にアッセンブリ26に密着させるようにしてもよい。
【0030】
また、耐振補強を必要としない小型で背の低い抵抗等の電子部品が装着されたアッセンブリ26の外側表面と、該外側表面を覆う蓋部材との間にも、樹脂またはゲルで形成され柔軟性を有した第2の放熱シート部材29が密着して介装される。
【0031】
第1の放熱シート部材28及び第2の放熱シート部材29は、例えば、シリコーンの樹脂またはゲル等、同一材料で形成されてよいが、特に、第2のプリント基板24の外側は樹脂でモールドされていないので、第2の放熱シート部材29は、電気絶縁性も要求される。
【0032】
第2の実施形態によれば、上記第1の実施形態の効果に加え、以下の効果が得られる。
アッセンブリ26内の電子部品から発生した熱、及びハウジング2C内の他の電子部品から発生してアッセンブリ26が受けた熱を、第1の放熱シート部材28及び第2の放熱シート部材29を介して、ハウジング2C及び蓋部材6から放熱することができ、放熱性が向上し、電気回路の耐久寿命が向上する。
【0033】
また、アッセンブリ26とハウジング2C及び蓋部材6との隙間に、それぞれ柔軟性を有した低硬度の第1の放熱シート部材28及び第2の放熱シート部材29が介在することにより、耐振性ひいては耐久寿命がより向上する。
【0034】
なお、第2の実施形態では、第1の放熱シート部材28と第2の放熱シート部材29との両方の部材を設けたことによって、放熱性,耐振性をより向上させることができるが、第1の放熱シート部材28と第2の放熱シート部材29のいずれか一方のみを設けた構成としてもよく、それなりの効果が得られることは勿論である。
【0035】
また、以上の実施形態では、耐振補強を要し樹脂でモールドされる電子部品として大型、大重量で背の高い平滑コンデンサ及びノイズフィルタを示したが、これらの電子部品に限らず、端子が細い部品なども振動しやすいため、樹脂でモールドしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1…電動圧縮機
2C…ハウジング
3…圧縮機構
4…モータ
5…電気回路
12…外部電源(バッテリ)
14…ノイズフィルタ
14a…ノイズ除去用コイル
14b…ノイズ除去用コンデンサ
15…平滑コンデンサ
16…インバータ
17…モータ制御回路
24…第2のプリント基板
25…モールドされる樹脂
26…アッセンブリ
27…ボルト
28…第1の放熱シート部材
29…第2の放熱シート部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の空調装置に使用され、圧縮機構駆動用のモータ及び該モータの駆動を制御する電気回路を一体に備えた電動圧縮機の電気回路耐振構造において、
前記電気回路の中で耐振補強を要求される電子部品を専用の回路基板に装着し、前記電子部品を樹脂でモールドしたアッセンブリを、圧縮機ハウジング内に組み付けて構成されることを特徴とする電動圧縮機の電気回路耐振構造。
【請求項2】
前記アッセンブリの外壁と前記圧縮機ハウジングの対向する内壁との間に、樹脂またはゲルで形成され柔軟性を有した放熱シート部材が密着して介装されている、請求項1に記載の電動圧縮機の電気回路耐振構造。
【請求項3】
前記耐振補強を要求される電子部品は前記回路基板の一方の装着面に装着されると共に、前記電子部品に比較して前記基板の装着面からの高さが低い電子部品が該基板の他方の装着面に装着されている、請求項1または請求項2に記載の電動圧縮機の電気回路耐振構造。
【請求項4】
前記耐振補強を要求される電子部品のみが樹脂でモールドされ、該モールドされた部分の外壁及び前記基板の他方の装着面側の外壁と、これらにそれぞれ対向する前記圧縮機ハウジングの内壁との間に、樹脂またはゲルで形成され柔軟性を有した放熱シート部材が密着して介装されている、請求項3に記載の電動圧縮機の電気回路耐振構造。
【請求項5】
前記モールドされる樹脂は、エポキシ樹脂である、請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の電動圧縮機の電気回路耐振構造。
【請求項6】
前記放熱シート部材は、シリコーン樹脂またはシリコーンゲルで形成されている、請求項2または請求項4に記載の電動圧縮機の電気回路耐振構造。
【請求項7】
前記耐振補強を要求される電子部品は、ノイズフィルタ及び平滑コンデンサである、請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載の車両空調装置用電動圧縮機の電気回路耐振構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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