説明

電動圧縮機用の電動モータ

【課題】電動圧縮機の大型化を抑制しつつ、電動機側で回転バランスの調整が可能な電動圧縮機用の電動モータの提供にある。
【解決手段】複数のスロット19に固定子巻線20が巻回されハウジング12に固定された固定子鉄心21と、固定子鉄心21の外周側に配置され回転軸16に連結されると共に内周側に円筒状の磁石群集合体23が支持された回転支持体22とを備えた電動圧縮機用の電動モータ15であって、回転支持体22は、磁石群集合体23を支持する円筒部22Cと、円筒部22Cの一方の端部のフランジ部22Bと、フランジ部22Bの中心に設けたボス部22Aとを備え、回転支持体22の円筒部22C及びフランジ部22Bには凹部25及び貫通孔26がそれぞれ形成され、磁石群集合体23は、ハルバッハ配列の磁石群27、28、29を軸心方向に3列に連設させ、かつ、円周方向に磁極の位相を所定角度αだけずらして配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動圧縮機用の電動モータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、密閉ケース内に電動機部としての永久磁石電動機と、永久磁石電動機によりクランクシャフトを介して回転駆動されるロータリ式の圧縮部とを備えた密閉型圧縮機が開示されている。永久磁石電動機は、巻線用の磁極歯が複数形成された固定子と、この固定子の外周側に配置される永久磁石回転子とからなっている。永久磁石回転子は、外周側の回転子鉄心と、この回転子鉄心の内周側に射出成形により取り付けられる樹脂ボンド永久磁石とを備え、回転子鉄心にはクランクシャフトが固着されている。この永久磁石電動機は、固定子が内周側に配置され回転子が外周側に配置された電動機である。また、この密閉型圧縮機は、圧縮部と電動機部とが一体化された電動圧縮機である。
【0003】
固定子の巻線が通電されると、回転子鉄心の内周側の永久磁石によって形成される磁束を横切るように電流が流れることにより永久磁石回転子及びこの永久磁石回転子と固着されたクランクシャフトが回転する。クランクシャフトが回転することにより、密閉ケース内に設けられた吸込管から吸い込んだ冷媒ガスを圧縮部で圧縮し、吐出管を介して密閉ケース外に吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−180576公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で開示された従来技術においては、回転子鉄心の内周側に永久磁石が設けられ、永久磁石は円周方向にN極とS極とが交互に配置された構成を有している。例えば、図12に示すように、永久磁石71は、内周側がN極に着磁され外周側がS極に着磁された磁石と、内周側がS極に着磁され外周側がN極に着磁された磁石とを円周方向に交互に配置したラジアル配向の磁石配列を有している。この場合、内周側のN極から出た磁束は、永久磁石71の内周側に隙間を介して配置された固定子鉄心73内を通過し隣接するS極の方向に向う磁束の流れ(磁力線)が形成される。永久磁石71内では、内周側のS極から外周側のN極に向う磁束の流れと、外周側のS極から内周側のN極に向う磁束の流れとが形成される。そして、回転子鉄心72内では、N極からS極に向う磁束の流れが形成される。このように、回転子鉄心72内を磁束が通過することにより、磁束のループ(磁気回路)が形成されるので、回転子鉄心72を鉄材などの強磁性体で構成しないと永久磁石電動機の磁気特性が変化し、モータ特性(トルク特性など)が悪化してしまう問題がある。
【0006】
ところで、圧縮部と電動機部とが一体化された電動圧縮機においては、圧縮部における負荷変動に対処するために、回転軸などにバランスウェイトを設置したものがある。しかし、バランスウェイトを設置する場合には、設置するためのスペースが必要となり、電動圧縮機が大型化し、車両などへの搭載性が悪化する問題がある。
そこで、電動圧縮機の大型化を抑制するために、電動機部における回転子鉄心の形状を変更して電動圧縮機の回転バランスを得る試みがある。しかし、回転子鉄心72の形状を変更しようとすると下記不具合が発生する恐れがある。すなわち、回転子鉄心72に孔加工を施して回転子鉄心72の形状を変更した場合には、孔には磁束の流れが形成されず、永久磁石電動機の磁気特性が変化し必要とするトルクが得られない問題がある。また、回転子鉄心の肉厚を一部変化させる加工を施しても、磁気特性が変化し、同様の問題がおこる。
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、電動圧縮機の大型化を抑制しつつ、電動機側で回転バランスの調整が可能な電動圧縮機用の電動モータの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、請求項1記載の発明は、複数のスロットが形成され該スロットに固定子巻線が巻き回されハウジングに固定された固定子と、前記固定子の外周側に配置され回転軸に一体回転可能に取り付けられた回転子とを備え、前記回転子は、前記回転軸と一体回転可能に固定された回転支持体と、前記回転支持体に支持された磁石とを備えた電動圧縮機用の電動モータであって、前記磁石群の円周方向の磁極配列が、ハルバッハ配列であることを特徴とする。
【0009】
請求項1記載の発明によれば、磁石の円周方向の磁極配列がハルバッハ配列なので、磁束は回転支持体内をほとんど通過しない。従って、回転支持体の形状を変化させ圧縮機の回転バランスの調整を行っても、電動モータの磁気特性には影響をほとんど及ぼすことなく、電動モータのトルク特性はほとんど変化しない。よって、電動圧縮機の大型化を抑制しつつ、電動機側で回転バランスの調整が可能である。なお、ハルバッハ配列の磁石とは、磁石内における磁化方向が位置により少しずつ変化するように磁化されて、磁石における磁極中心に磁束が集中するように形成された磁石のことを指す。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の電動圧縮機用の電動モータにおいて、前記回転支持体は、非磁性金属より形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、回転支持体は非磁性金属より形成されているので、強磁性体で回転支持体を構成する場合に比べて、回転支持体の形状を変化させても、電動モータの磁気特性への影響を格段に小さくできる。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項2に記載の電動圧縮機用の電動モータにおいて、前記非磁性金属が、アルミニウムであることを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、アルミニウムは非磁性金属の中でも強度がありかつ比重が小さい。よって、電動モータの軽量化が図れると共に、回転に伴う慣性モーメントを小さくできる。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動圧縮機用の電動モータにおいて、前記回転支持体は、前記磁石を支持する円筒部と、前記円筒部の一方の開口を閉鎖するフランジ部と、前記フランジ部の中心部に形成され、前記回転軸に固定されるボス部とを備え、前記回転支持体の前記フランジ部に貫通孔を形成したことを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の発明によれば、回転支持体のフランジ部に貫通孔を形成することによって回転バランスの調整が可能である。また、貫通孔によって電動モータ内を冷媒が通りやすくなり、固定子の冷却性が向上する。なお、冷媒は固定子と回転子との間の隙間を通る。回転支持体に貫通孔を形成しても電動モータの磁気特性には影響を及ぼさない。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動圧縮機用の電動モータにおいて、前記回転支持体は、前記磁石を支持する円筒部と、前記円筒部の一方の開口を閉鎖するフランジ部と、前記フランジ部の中心部に形成され、前記回転軸に固定されるボス部とを備え、前記回転支持体の前記円筒部に凹部を形成したことを特徴とする。
【0017】
請求項5記載の発明によれば、回転支持体の円筒部に凹部を形成することによって回転バランスの調整が可能である。永久磁石として粉末状の磁性体を樹脂で固めたボンド磁石を採用した場合、円筒部に貫通孔を設けると磁石の一部が拘束されず遠心力によって径方向外側へと変形しうる懸念があるが、凹部であればそのような問題がない。
【0018】
請求項6記載の発明は、請求項4に記載の電動圧縮機用の電動モータにおいて、前記貫通孔に、前記回転支持体とは異なる非磁性金属を埋め込んだことを特徴とする。
【0019】
請求項6記載の発明によれば、貫通孔に回転支持体とは異なる非磁性金属を埋め込むことができるので、貫通孔を設けるのみよりも一層回転バランスをとり易くなる。また、貫通孔を設けることによる回転支持体の剛性低下を防ぐことができる。
【0020】
請求項7記載の発明は、請求項5に記載の電動圧縮機用の電動モータにおいて、前記凹部に、前記回転支持体とは異なる非磁性金属を埋め込んだことを特徴とする。
【0021】
請求項7記載の発明によれば、凹部に回転支持体とは異なる非磁性金属を埋め込むことができるので、凹部を設けるのみよりも一層回転バランスをとり易くなる。また、凹部を設けることによる回転支持体の剛性低下を防ぐことができる。
【0022】
請求項8記載の発明は、請求項6または7に記載の電動圧縮機用の電動モータにおいて、前記非磁性金属が真鍮であることを特徴とする。
【0023】
請求項8記載の発明によれば、真鍮は非磁性金属の中でも比重が大きいので、さらに回転バランスをとり易くなる。
【0024】
請求項9記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の電動圧縮機用の電動モータにおいて、前記磁石を前記回転軸の軸心方向に複数列に連設させると共に、前記磁石の磁極の位相をそれぞれ円周方向に所定角度だけずらして配置したことを特徴とする。
【0025】
請求項9記載の発明によれば、電動モータのトルクリップルが大幅に低減する。従って、電動モータのNV特性の改善が可能である。なお、トルクリップルとは、モータの回転に際しトルクが持つ変動幅のことを指し、NV特性とは電動機における振動・騒音特性のことを指す。
【0026】
請求項10記載の発明は、請求項9に記載の電動圧縮機用の電動モータにおいて、前記磁石を前記回転軸の軸心方向に2または3列に連設させることを特徴とする。
【0027】
請求項10記載の発明によれば、2または3個の磁石を軸心方向に連設させて形成されているので、少ない個数で効果的にトルクリップルを軽減可能である。
【0028】
請求項11記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の電動圧縮機用の電動モータにおいて、前記磁石が、前記円周方向の磁極配列がハルバッハ配列であると共に、前記磁極の位相を前記回転軸の軸心方向に対して螺旋状にずれるように着磁した一個の円筒状磁石であることを特徴とする。
【0029】
請求項11記載の発明によれば、複数個の磁石を軸心方向に連設させる必要が無く、組み付けが容易である。また、電動モータのトルクリップルが大幅に低減し、電動モータのNV特性の改善が可能である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、電動圧縮機の大型化を抑制しつつ、電動機側で回転バランスの調整が可能な電動圧縮機用の電動モータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1の実施形態に係る電動モータを備えた電動圧縮機の全体構成を示す縦断面図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】第1の実施形態に係る電動モータの構成を示す斜視図である。
【図4】第1の実施形態に係る電動モータにおける磁石の配置を示す。(a)磁石群の配置を示す斜視図であり、(b)1列目の磁石群の磁極の位相を示し、(c)2列目の磁石群の磁極の位相を示し、(d)3列目の磁石群の磁極の位相を示す。
【図5】第1の実施形態に係る電動モータにおける磁化方向と磁束の流れを説明するための要部拡大断面である。
【図6】第1の実施形態に係る電動モータのトルク特性を示すグラフである。
【図7】第2の実施形態に係る電動モータの構成を示す斜視図である。
【図8】第3の実施形態に係る電動モータの構成を示す斜視図である。
【図9】図8における左側面図である。
【図10】第3の実施形態に係る電動モータの作用説明用の縦断面模式図である。
【図11】その他の実施形態に係る電動モータの磁石の構成を示す斜視図である。
【図12】従来技術に係る電動モータの磁束の流れを説明するための要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る電動圧縮機用の電動モータを図1〜図6に基づいて説明する。
図1は、電動モータを備えた電動圧縮機の全体構成を示す縦断面図であり、図1における電動圧縮機の左側を前部側とし、電動圧縮機の右側を後部側とする。
図1に示す電動圧縮機のハウジングは、フロントハウジング11とリヤハウジング12により形成されている。フロントハウジング11及びリヤハウジング12は、隔壁13を間に挟んで接合されており、図示しないが、ボルトによって互いに締結されている。
【0033】
隔壁13によりハウジング内の密閉空間は前部空間30と後部空間31とに区画されている。前部空間30には冷媒を圧縮する回転圧縮部14が設けられている。回転圧縮部14は、図示しないが、例えば、スクロール式の圧縮機構を備えている。後部空間31には電動モータ15が設けられている。また、リヤハウジング12には冷媒ガスの吸入口32が設けられ、フロントハウジング11には、回転圧縮部14にて圧縮された冷媒ガスの吐出口33が設けられている。また、隔壁13には、吸入口32から後部空間31に導入された冷媒ガスを前部空間30に案内する開口13Aが形成されている。
リヤハウジング12の中央部には回転軸16が配設され、回転軸16はリヤハウジング12に設けられた軸受17と、隔壁13に設けられた軸受18により回転自在に軸支されている。回転軸16は、図示しないが、回転圧縮部14における圧縮機構と連結されている。(例えば、スクロール式の圧縮機構の場合には、可動スクロールと連結)
【0034】
図1及び図2に示すように、電動モータ15は、固定子鉄心21と、固定子鉄心21の外周側に配置され回転軸16に一体回転可能に取り付けられた回転支持体22とを備えている。なお、固定子鉄心21が固定子に相当し、回転支持体22が回転子に相当する。
【0035】
固定子鉄心21は、円筒状の形状を有し、外周側には円周方向に等間隔で複数のスロット19(この場合には、12個のスロット19)が形成されスロット19には固定子巻線20が巻き回されている(図2において一部のスロット19の固定子巻線20のみを図示している)。固定子巻線20は、分布巻又は集中巻形式で巻き回されており、3相の交流電圧が印加されている。固定子鉄心21は、内周側に設けられた支持部材24に固着されており、支持部材24は回転軸16を通す筒状の部位と、リヤハウジング12に固定される部位を有し、リヤハウジング12に図示しないボルトなどにより固定されている。支持部材24と回転軸16との間には、隙間が形成されている。
【0036】
回転支持体22は、有底円筒状で後方が開放され、前方の開口は閉鎖された形状を有している。回転支持体22は、回転軸16に嵌合固定された筒状のボス部22Aと、ボス部22Aの前端部に設けられたフランジ部22Bと、フランジ部22Bの外周縁から後方へ向かって延設された筒状の円筒部22Cとを備えている。回転支持体22は、アルミニウムにより形成されている。回転支持体22はアルミニウム以外の非磁性金属により形成してもよい。
【0037】
図3に示すように、回転支持体22の円筒部22Cには凹部25が形成されている。凹部25は、回転軸16の軸心方向において所定の幅を有し円周方向に所定角度だけ円筒部22Cを繰り抜くことにより形成されている。また、回転支持体22のフランジ部22Bには、丸孔状の貫通孔26が形成されている。凹部25及び貫通孔26は、電動圧縮機における回転バランス調整用の加工部である。すなわち、電動圧縮機の回転圧縮部14では、回転に伴い負荷変動が発生し回転がアンバランスとなる。その回転のアンバランスを解消するために電動モータ15に凹部25及び貫通孔26を設けたものである。また、凹部25及び貫通孔26は、回転軸16の軸心に対し軸対称とならない位置に形成されている。
【0038】
図1及び図4(a)に示すように、回転支持体22の円筒部22Cの内周面には、磁石群集合体23が固着されている。磁石群集合体23は、軸心方向に3列に連設されることにより形成されている。ここで、1列目の環状磁石群を磁石群27とし、2列目の環状磁石群を磁石群28とし、3列目の環状磁石群を磁石群29とする。磁石群27、28、29は、それぞれ円弧状磁石片23Aと円弧状磁石片23Bと円弧状磁石片23Cを円周方向に交互に配置して形成されている。
【0039】
図2に示すように、磁石群29は、ハルバッハ配列の円弧状磁石片23A、23B、23Cを円周方向に配置したものである。図5に示すように、円弧状磁石片23Aは、内周面の中心がS極となるように着磁されたハルバッハ配列の円弧状磁石片のことを指し、円弧状磁石片23Bは、周方向の両端面がそれぞれN極とS極になるように着磁されたハルバッハ配列の円弧状磁石片のことを指し、円弧状磁石片23Cは、内周面の中心がN極となるように着磁されたハルバッハ配列の円弧状磁石片のことを指している。円弧状磁石片23AはS極同士を向かい合わせた円弧状磁石片23Bによって挟まれ、円弧状磁石片23CはN極同士を向かい合わせた円弧状磁石片23Bによって挟まれる。この実施形態においては、計8個の円弧状磁石片23A、23B、23Cによりハルバッハ配列の磁石群29が形成されている。磁石群27、28についても上記と同様である。
【0040】
また、図4(b)〜図4(d)に示すように、磁石群27、28、29は、円周方向の磁極の位相を所定角度αだけずらして配置されている。αは磁極の位相のずれ量(角度)を表している。すなわち、図4(b)に示す1列目の磁石群27の磁極の位相を基準としたときに、図4(c)に示す2列目の磁石群28の磁極の位相は、時計方向に所定角度αだけずらして配置されており、図4(d)に示す3列目の磁石群29の磁極の位相は、時計方向に所定角度2αだけずらして配置されている。また、図4(d)に示す3列目の磁石群29の磁極の位相は、図4(c)に示す2列目の磁石群28の磁極の位相に対して時計方向に所定角度αだけずらして配置されている。なお、この実施形態においては、α≒10°に設定されている。
そして、磁石群27、28、29の内周面と固定子鉄心21の外周面との間には隙間Gが形成されている。
【0041】
以上の構成を有する電動モータ15につきその作用説明を行う。
図5に示すように、円弧状磁石片23Cの内周側のN極から出た磁束は、磁石群29の内周側に隙間Gを介して配置された固定子鉄心21内を通過し円弧状磁石片23Aの内周側のS極の方向に向う磁束の流れ(磁力線)が形成される。円弧状磁石片23A内では内周側のS極から外周側のN極に向い、円弧状磁石片23B内では端面のS極から端面のN極に向い、円弧状磁石片23C内では外周側のS極から内周側のN極に向う磁束の流れが形成される。
【0042】
このように、ハルバッハ配列の磁石群29を用いることにより、N極から出た磁束は固定子鉄心21内を通過して隣接するS極に向い、円弧状磁石片23A、23B、23C内を円弧状磁石片23AのS極から円弧状磁石片23CのN極に直接向うことによって、円筒部22C内をほとんど通過しない磁束のループ(磁気回路)が形成される。この磁束の流れを鎖交するように固定子鉄心21のスロット19に巻き回された固定子巻線20に電流が流れることにより、回転支持体22には力が作用し、回転支持体22及び回転軸16は回転駆動される。
よって、円筒部22Cに凹部25を形成しても、電動モータ15における磁束の流れに影響を及ぼすことはなく、電動モータ15のモータ特性(トルク特性など)は変化しない。従って、回転支持体22のフランジ部22Bに形成された貫通孔26に加えて、回転支持体22の円筒部22Cに凹部25を形成することができ、電動モータ15側で電動圧縮機における回転バランスの調整が可能である。
【0043】
また、回転支持体22に凹部25及び貫通孔26を形成することにより、回転バランスの調整が可能なので、回転軸16などにバランスウェイトを配置する必要がなく、電動圧縮機の大型化を抑制することが可能である。
【0044】
さらに、回転支持体22は、鉄材などの強磁性体を用いなくても良くアルミニウムなど非磁性金属を使用することが可能である。特に、アルミニウムは非磁性金属の中でも強度がありかつ比重が小さい。よって、電動モータ15の軽量化が図れると共に、回転に伴う慣性モーメントを小さくできる。
【0045】
図6に示すグラフは、本実施形態における電動モータ15のトルク特性を示すグラフである。横軸に回転角度(°)をとり、縦軸にトルク(任意単位)をとる。実線で示すグラフT1は、本実施形態の構成、すなわち、磁石群27、28、29を軸心方向に3列に連設させ、かつ、円周方向に磁極の位相を所定角度αだけずらして配置したときのトルク特性を示したものである。比較例として破線で示すグラフT2は、磁石群27、28、29を軸心方向に3列に連設させ、かつ、円周方向に磁極の位相をずらさない構成のときのトルク特性を示したものである。
【0046】
比較例として示すグラフT2では、トルクも大きいが、トルクリップルも大きく、電動モータのNV特性の悪化が懸念される。一方、グラフT1では、トルクリップルが大幅に低減する。なお、トルクリップルとは、モータの回転に際しトルクが持つ変動幅のことを指し、NV特性とは電動機における振動・騒音特性のことを指す。
従って、回転支持体22としてアルミニウムを使用し、ハルバッハ配列の磁石群27、28、29を軸心方向に3列に連設させ、かつ、円周方向に磁極の位相を所定角度αだけずらして配置することにより、電動モータ15のNV特性の改善が可能である。
【0047】
また、磁石群集合体23は、3個の磁石群27、28、29を3列に連設させて形成されているので、少ない個数で効果的にトルクリップルを軽減可能である。
また、所定角度αは、磁極数とスロット数により自動的に定まる。例えば、本実施形態のように磁極数が4極で、スロット数が12スロットの場合には、α≒10°が良好であり、3列に連設された磁石群27、28、29をそれぞれ位相を10°ずつずらすと、トルクリップルが最小となる。すなわち、磁石群27および磁石群28における磁極の位相が10°ずれるように磁石群27と磁石群28を配置し、磁石群28と磁石群29における磁極の位相が10°ずれるように磁石群28と磁石群29を配置する。磁石群27と磁石群29における磁極の位相が20°ずれる位置関係にある。
また、6極18スロットの場合には、α≒6.7°が良好であり、3列に連設された磁石群27、28、29をそれぞれ位相を6.7°ずつずらすと、トルクリップルが最小となる。また、8極12スロットの場合には、α≒5°が良好であり、3列に連設された磁石群27、28、29をそれぞれ位相を5°ずつずらすと、トルクリップルが最小となる。
【0048】
第1の実施形態に係る電動モータ15によれば以下の効果を奏する。
(1)磁石群集合体23はハルバッハ配列の磁石群27、28、29から構成され、回転支持体22としてアルミニウムが使用されているので、磁束は回転支持体22の影響を受けにくい。よって、円筒部22Cに凹部25を形成しても、電動モータ15の磁気特性に影響を及ぼさない。従って、回転支持体22のフランジ部22Bに形成された貫通孔26に加えて、回転支持体22の円筒部22Cに凹部25を形成することができ、電動モータ15側で電動圧縮機における回転バランスの調整が可能である。
(2)回転支持体22に凹部25及び貫通孔26を形成することにより、回転バランスの調整が可能なので、回転軸16などにバランスウェイトを配置する必要がなく、電動圧縮機の大型化を抑制することが可能である。
(3)回転支持体22は、鉄材などの強磁性体を用いなくても良くアルミニウムなど非磁性金属を使用することが可能である。特に、アルミニウムは非磁性金属の中でも強度がありかつ比重が小さい。よって、電動モータ15の軽量化が図れると共に、回転に伴う慣性モーメントを小さくできる。
(4)回転支持体22としてアルミニウムを使用し、ハルバッハ配列の磁石群27、28、29を軸心方向に3列に連設させ、かつ、円周方向に磁極の位相を所定角度αだけずらして配置することにより、トルクリップルが大幅に低減する。従って、電動モータ15のNV特性の改善が可能である。
(5)磁石群集合体23は、3個の磁石群27、28、29を3列に連設させて形成されているので、少ない個数で効果的にトルクリップルを軽減可能である。
【0049】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る電動モータを図7に基づいて説明する。
この実施形態は、第1の実施形態における回転支持体22の形状を変更したものであり、その他の構成は共通である。
従って、ここでは説明の便宜上、先の説明で用いた符号を一部共通して用い、共通する構成についてはその説明を省略し、変更した個所のみ説明を行う。
【0050】
図7に示すように、この実施形態の電動モータ40は、第1の実施形態と同様に、回転支持体22の円筒部22Cには凹部25が形成され、回転支持体22のフランジ部22Bには貫通孔26が形成されている。この凹部25及び貫通孔26には真鍮から形成された部材が埋め込まれている。すなわち、凹部25には、真鍮からなる円弧状の第1部材41が埋め込まれ、貫通孔26には、真鍮からなる丸板状の第2部材42が埋め込まれている。第1部材41及び第2部材42は回転バランス調整用のバランサである。
その他の構成は、第1の実施形態と同等であり、説明を省略する。
【0051】
このように、第2の実施形態においては、凹部25及び貫通孔26には真鍮からなる第1部材41及び第2部材42がそれぞれ埋め込まれており、第1部材41及び第2部材42は回転支持体22の材料であるアルミニウムとは異なる非磁性金属で形成されている。また、真鍮は黄銅とも呼ばれ、銅と亜鉛との合金であり、非磁性金属の中でも比重が大きい。従って、電動圧縮機における回転バランスを一層とりやすくなり、回転圧縮部14におけるより大きな負荷変動に対応可能となる。また、凹部25や貫通孔26を設けたことによる回転支持体22の剛性低下を第1部材41及び第2部材42が補うことが可能となる。
その他の作用効果については、第1の実施形態における(1)〜(5)と同様であり説明を省略する。
【0052】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る電動モータを図8〜図10に基づいて説明する。
この実施形態は、第1の実施形態における回転支持体22のフランジ部22Bに複数の貫通孔を形成したものであり、その他の構成は共通である。
従って、ここでは説明の便宜上、先の説明で用いた符号を一部共通して用い、共通する構成についてはその説明を省略し、変更した個所のみ説明を行う。
【0053】
図8及び図9に示すように、この実施形態の電動モータ50は、回転支持体22のフランジ部22Bに複数の貫通孔51が形成されている。貫通孔51は、円周方向に等間隔で4個形成されている。
その他の構成は、第1の実施形態と同等であり、説明を省略する。
【0054】
以上の構成を有する電動モータ50につき図10を用いてその作用説明を行う。
吸入口32から吸入された冷媒ガスは、図10に矢印Kで示すように、電動モータ50における磁石群27、28、29の内周面と固定子鉄心21の外周面との間に形成された隙間Gを通って、前方に進み貫通孔51を通って回転圧縮部14側に排出される。
このように、貫通孔51を形成することによって隙間Gを冷媒ガスが通過しやすくなり、固定子鉄心21が冷却され、電動モータ50のトルク特性を変えることなく固定子鉄心21の温度上昇を抑制することが可能となる。
その他の作用効果については、第1の実施形態における(3)〜(5)と同様であり説明を省略する。
【0055】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更しても良い。
○ 第1〜第3の実施形態においては、回転支持体22をアルミニウムで形成するとして説明したが、アルミニウム以外の非磁性金属を使用しても良い。
○ 第1〜第3の実施形態においては、ハルバッハ配列の磁石群27、28、29を軸心方向に3列に連設させ、かつ、円周方向に磁極の位相を所定角度αだけずらして配置するとして説明したが、図11に示すように、円周方向の磁極配列がハルバッハ配列であると共に、磁極の位相を回転軸16の軸心方向に対して螺旋状にずれるように着磁した一個の円筒状磁石61を用いても良い。この場合には、複数個の磁石群を軸心方向に連設させる必要が無く、組み付けが容易である。
○ 第1〜第3の実施形態においては、磁石群27、28、29は、ハルバッハ配列の円弧状磁石片23A、23B、23Cを円周方向に交互に複数個配置することにより形成するとして説明したが、磁石群27、28、29は、それぞれハルバッハ配列の一個の円筒状磁石で形成しても良い。例えば、円筒状磁石は粉末状の磁性体を樹脂で固めて形成したボンド磁石でも良い。ボンド磁石は剛性が低く、円筒部22Cに貫通孔を設けると磁石の一部が拘束されず遠心力によって径方向外側へと変形しうるが、凹部であればそのような問題がない。
○ 第1〜第2の実施形態においては、回転支持体22の円筒部22C及びフランジ部22Bにはそれぞれ凹部25及び貫通孔26が一個ずつ形成されているとして説明したが、2個以上形成されていてもよく、また、どちらか一方のみ形成されていても良い。また、凹部25と貫通孔26はどのような形状でも良い。
○ 第1〜第2の実施形態においては、回転支持体22の円筒部22Cには凹部25が形成されていると説明したが、貫通孔でもよい。
○ 第2の実施形態においては、凹部25及び貫通孔26に真鍮からなる第1部材41及び第2部材42をそれぞれ埋め込むとして説明したが、非磁性金属であれば真鍮以外の材料でも良い。
【符号の説明】
【0056】
11 フロントハウジング
12 リヤハウジング
13 隔壁
14 回転圧縮部
15、40、50 電動モータ
16 回転軸
19 スロット
20 固定子巻線
22 回転支持体
22A ボス部
22B フランジ部
22C 円筒部
23 磁石群集合体
25 凹部
26、51 貫通孔
27 磁石群(1列目)
28 磁石群(2列目)
29 磁石群(3列目)
G 隙間
α 磁極の位相のずれ量(角度)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットが形成され該スロットに固定子巻線が巻き回されハウジングに固定された固定子と、前記固定子の外周側に配置され回転軸に一体回転可能に取り付けられた回転子とを備え、前記回転子は、前記回転軸と一体回転可能に固定された回転支持体と、前記回転支持体に支持された磁石とを備えた電動圧縮機用の電動モータであって、
前記磁石の円周方向の磁極配列が、ハルバッハ配列であることを特徴とする電動圧縮機用の電動モータ。
【請求項2】
前記回転支持体は、非磁性金属より形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機用の電動モータ。
【請求項3】
前記非磁性金属が、アルミニウムであることを特徴とする請求項2に記載の電動圧縮機用の電動モータ。
【請求項4】
前記回転支持体は、前記磁石を支持する円筒部と、前記円筒部の一方の開口を閉鎖するフランジ部と、前記フランジ部の中心部に形成され、前記回転軸に固定されるボス部とを備え、前記回転支持体の前記フランジ部に貫通孔を形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動圧縮機用の電動モータ。
【請求項5】
前記回転支持体は、前記磁石を支持する円筒部と、前記円筒部の一方の開口を閉鎖するフランジ部と、前記フランジ部の中心部に形成され、前記回転軸に固定されるボス部とを備え、前記回転支持体の前記円筒部に凹部を形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動圧縮機用の電動モータ。
【請求項6】
前記貫通孔に、前記回転支持体とは異なる非磁性金属を埋め込んだことを特徴とする請求項4に記載の電動圧縮機用の電動モータ。
【請求項7】
前記凹部に、前記回転支持体とは異なる非磁性金属を埋め込んだことを特徴とする請求項5に記載の電動圧縮機用の電動モータ。
【請求項8】
前記非磁性金属が真鍮であることを特徴とする請求項6または7に記載の電動圧縮機用の電動モータ。
【請求項9】
前記磁石を前記回転軸の軸心方向に複数列に連設させると共に、前記磁石の磁極の位相をそれぞれ円周方向に所定角度だけずらして配置したことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の電動圧縮機用の電動モータ。
【請求項10】
前記磁石を前記回転軸の軸心方向に2または3列に連設させることを特徴とする請求項9に記載の電動圧縮機用の電動モータ。
【請求項11】
前記磁石が、前記円周方向の磁極配列がハルバッハ配列であると共に、前記磁極の位相を前記回転軸の軸心方向に対して螺旋状にずれるように着磁した一個の円筒状磁石であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の電動圧縮機用の電動モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−74726(P2013−74726A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211996(P2011−211996)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】