説明

電動機の予防保全装置

【課題】作業者の熟練度や能力に左右されることなく電動機の異常を客観的に判断することができ、ひいては、電動機の突発的な故障を未然に防止することのできる電動機の予防保全装置を提供することを目的とする。
【解決手段】電動機の操作量(負荷率)を電動機駆動装置から取得するとともに、取得した操作量と相関関係がある電動機の状態量(巻線温度上昇値)を電動機に設置されているセンサにより取得する。そして、電動機の運転時において取得された操作量と特定状態量との関係を示す評価用データを相関評価モデルと照合し、評価用データと相関評価モデルとの一致度を判定する。本発明の電動機の予防保全装置は、評価用データと相関評価モデルとの一致度に基づいて電動機の異常を監視する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の予防保全装置に係わり、特に、製鉄所の圧延プラントに用いられる電動機のような大型電動機の予兆診断に用いて好適な予防保全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所の圧延プラントを構成する機器の一つに電動機がある。電動機は圧延プラントにおける重要な要素であり、その故障は圧延プラント全体に影響する。このため、圧延プラントの運転においては、電動機に異常が生じていないか監視することにより、電動機の故障を未然に防止することが必要とされている。つまり、電動機の予防保全が必要とされている。
【0003】
従来の電動機の予防保全では、例えば特開昭60−66647号公報に開示されているように、電動機の温度や振動を計測し、その計測値を監視することが行われていた。具体的には、図7及び図8に示すように振動や温度などの監視対象の計測値が時間軸上に読み込まれて、その計測値が閾値を越えていないかどうか監視されていた。そして、図7に示すように監視対象の計測値が閾値を超えていない間は、電動機は正常に保たれていると判断され、図8に示すように監視対象の計測値が閾値を超える異常点が検出されたら、電動機が異常だとして警報が出されていた。また、監視対象の計測値が閾値を超えた各異常点について、異常の程度の大きさによって軽故障と重故障の警報が分けられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−66647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の方法では、電動機の異常が検知されて警報が出された場合、電動機のメンテナンスを実施するか否か、実施するのであればどの程度に実施するのかといった判断は人間、すなわち、現場の作業者に委ねられていた。このため、作業員の能力の差異によって判断が異なり、誤った判断の結果、重大な故障を発生させしてしまう場合があった。前述のように、電動機の故障はプラント全体に影響し、重大な故障であればプラントの操業を停止させてしまうこともある。特に遠隔地のプラントにおいて、突発的な故障が発生した場合には、補修・修理に時間がかかり、多くのリソースが割かれることになる。
【0006】
本発明は、上述のような課題に鑑みなされたもので、作業者の熟練度や能力に左右されることなく電動機の異常を客観的に判断することができ、ひいては、電動機の突発的な故障を未然に防止することのできる電動機の予防保全装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の電動機の予防保全装置は、電動機の操作量を電動機駆動装置から取得するとともに、取得した操作量と相関関係がある電動機の状態量(特定状態量)を電動機に設置されているセンサにより取得する。そして、電動機の運転時において取得された操作量と特定状態量との関係を示すデータ(評価用データ)を相関評価モデルと照合し、評価用データと相関評価モデルとの一致度を判定する。相関評価モデルは、電動機が正常な場合における操作量と特定状態量との相関関係をモデル化したものであって、予め用意されたものが予防保全装置に記憶されている。本発明の電動機の予防保全装置は、評価用データと相関評価モデルとの一致度に基づいて電動機の異常を監視する。
【0008】
電動機の異常監視の具体的な方法としては、評価用データと相関評価モデルとの一致度が所定の異常判定値よりも低下していることを電動機の異常として検知することが好ましい。また、一定期間内に一致度が所定の異常判定値を下回った回数を計数することも好ましい異常監視の方法の一つである。また、一定期間ごとに一致度が所定の異常判定値を下回った回数(異常回数)を計数し、異常回数の経時的変化を記録することも好ましい異常監視の方法の一つである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、電動機の操作量と特定状態量との間に相関関係がある場合、電動機が正常なときと異常なときとではその関係に不一致が生じ、異常の度合いが大きいほど一致度が低下することに着目したものである。本発明では、上述のように、電動機が正常な場合における操作量と特定状態量との相関関係をモデル化した相関評価モデルを基準として、あるタイミングで取得された操作量と特定状態量との関係が電動機の正常時の関係かどうかが判定される。これによれば、従来方法のように単に振動や温度の計測値を閾値と比較する方法に比較して、作業員の熟練度や能力に左右されることなく電動機の異常を客観的に且つ正確に判断することができる。したがって、本発明によれば、電動機の故障の兆候を事前に知り、その症状に応じたメンテナンスを適切に実施することが可能であり、プラント全体の運転に影響するような電動機の突発的な故障を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1−3の電動機の予防保全装置が適用されるシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1による相関評価モデルを示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態1による異常監視の方法を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態2による異常監視の方法を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態3による異常監視の方法を示すグラフである。
【図6】巻線コイル絶縁層の経年劣化を示す図である。
【図7】従来の電動機の予防保全で行われていた電動機の異常監視の方法を示すグラフである。
【図8】従来の電動機の予防保全で行われていた電動機の異常監視の方法を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1について図1、図2及び図3に基づいて説明する。
【0012】
図1は本実施の形態の電動機の予防保全装置が適用されるシステムの構成を示すブロック図である。このシステムでは、電動機1と電動機駆動装置2とは離れた場所に配置され、それぞれリモートIO盤3,4を介してネットワーク5に接続されている。電動機駆動装置2が出力する操作信号は、リモートIO盤4を介してネットワーク5へ出力され、同ネットワーク5からリモートIO盤3を介して電動機1に入力される。電動機1は、電動機駆動装置2から送信された操作信号によってその回転を制御される。電動機1には、その状態量を測定するためのセンサとして、2つの測温抵抗体6,7が設けられている。その一つは、電動機1の巻線温度を測定するための巻線温度測定用測温抵抗体(Resistance Temperature Detector)6である。もう一つは、電動機1を冷却している冷媒の温度を測定するための冷媒温度測定用測温抵抗体7である。
【0013】
本実施の形態の電動機予防保全装置8はネットワーク5に接続されている。電動機駆動装置2から出力される操作信号には電動機1の操作量である負荷率のデータが含まれる。電動機予防保全装置8は電動機1の負荷率のデータをリモートIO盤4からネットワーク5を介して収集し、保存する。また、電動機予防保全装置8は、巻線温度測定用測温抵抗体6と冷媒温度測定用測温抵抗体7の各測定データをリモートIO盤3からネットワーク5を介して収集し、保存する。電動機予防保全装置8による負荷率データの取り込みタイミングと、各測定データの取り込みタイミングとは同期されている。
【0014】
電動機予防保全装置8は、負荷率データから負荷率の二乗平均平方根を算出するとともに、巻線温度測定用測温抵抗体6と冷媒温度測定用測温抵抗体7の各測定データから電動機1の巻線温度の上昇値を算出する。負荷率の二乗平均平方根と巻線温度上昇値との間には、以下に述べるような相関関係がある。
【0015】
電動機1の損失には、鉄損、銅損、漂遊負荷損、機械損などが含まれる。その中でも銅損は損失の大半を占めている。巻線温度上昇値は電動機1の損失に比例することから、銅損と巻線温度上昇値とは比例関係にある。ここで、銅損とは巻線コイルの発熱量のことを指す。巻線コイルの発熱量をQとすると、発熱量Qは次の式1によって表される。式1において、iは巻線電流、Rは巻線抵抗、tは時間である。
【0016】
【数1】

【0017】
式1より、巻線温度上昇値は電流の二乗に比例することが得られる。その関係を式2に示す。式2において、ΔTは巻線温度上昇値である。
【0018】
【数2】

【0019】
一方、電動機1の負荷率は巻線電流により求めることができる。その関係を式3に示す。式3において、Lは負荷率である。
【0020】
【数3】

【0021】
負荷率の二乗平均平方根をRMSとすると、二乗平均平方根RMSは次の式4によって表される。式4において、Lは負荷率、TはRMSを演算する時間、tはRMSを演算する時間内のサンプリング時間、j=1,2,…nである。
【0022】
【数4】

【0023】
式4と式3により、次の式5の関係が得られる。
【0024】
【数5】

【0025】
さらに、式2と式5により、次の式6の関係が得られる。
【0026】
【数6】

【0027】
式6より、巻線温度上昇値ΔTと負荷率の二乗平均平方根の二乗値RMSとの間には比例関係があることが分かる。本実施の形態では、電動機1の正常運転時の一定期間に前述の各データを収集し、巻線温度上昇値ΔTと負荷率の二乗平均平方根RMSの関係を示すデータを複数取得する。そして、取得したデータを用いて最小二乗法によりΔTとRMSとの関係を示す近似式を決定する。次の式7がその近似式である。式7において、κは既知の係数、cは既知の定数である。式7をグラフで表すと図2のようになる。
【0028】
【数7】

【0029】
電動機予防保全装置8には、式7に示す一次方程式が相関評価モデルとして記憶されている。電動機予防保全装置8は、この相関評価モデルを用いて電動機1の異常を監視する。具体的には、電動機1の運転時、ある時間帯の負荷率のデータからRMSの二乗値を算出するとともに、その時間帯内の各測温抵抗体6,7の測定データから巻線温度上昇値ΔTを算出する。これにより、前記時間帯におけるRMSの二乗値と巻線温度上昇値ΔTとの関係を示すデータ(評価用データ)が得られる。そして、図3に示すように、得られた評価用データ(図3において点mで示す)を相関評価モデル(図3において実線の直線で示す)と照合する。評価用データを示す点が相関評価モデルを示す直線から離れるほど、両者の一致度は低いということになる。
【0030】
図3に示す点線の直線は、評価用データと相関評価モデルとの一致度を判定するための異常判定ラインである。RMSの値に関し、巻線温度上昇値ΔTの値が異常判定ラインを超える場合には、その評価用データは異常データであると判断することができる。このため、電動機予防保全装置8は、巻線温度上昇値ΔTが異常判定ラインを超えることを電動機1の異常として検知する。なお、異常判定ラインは経験値より設定することができる。例えば、相関評価モデルのラインをΔT軸のプラス方向に所定値だけスライドしたラインを異常判定ラインとして設定することができる。また、相関評価モデルのラインをΔT軸の方向に拡大(例えば1.5倍)したラインを異常判定ラインとして設定することができる。
【0031】
以上述べたように、本実施の形態では、電動機1が正常な場合における負荷率と巻線温度上昇値との相関関係をモデル化した相関評価モデルを基準として、任意の時間帯で取得された負荷率と巻線温度上昇値との関係が正常時の関係かどうかが判定される。これによれば、従来のように単に1つのデータを閾値と比較するのと比較して、電動機1の異常を客観的に且つ正確に判断することができる。
【0032】
実施の形態2.
以下、本発明の実施の形態2について図4に基づいて説明する。ただし、本実施の形態の電動機の予防保全装置は、実施の形態1と同様に図1に示す構成のシステムに適用される。
【0033】
本実施の形態では、電動機予防保全装置8は、一定の監視周期で前記の評価用データを取得し、その都度相関評価モデルと照合する。そして、評価用データが閾値である異常判定ラインを超えた時刻を記録するとともに、一定期間内に評価用データが異常判定ラインを超えた回数を計数する。記録された時刻や回数は、音声や画像によって作業者に報知されるようになっている。
【0034】
従来方法では、監視対象である温度や振動のデータが閾値を超える度に警報が出されるため、閾値は正常値よりある程度大きく設定せざるを得なかった。しかしながら、本実施の形態のように閾値を超えた回数だけをカウントし、その回数を記録して知らせるようにすれば、正常値に近い値に閾値を設定することができる。したがって、本実施の形態では、実施の形態1の場合よりも相関評価モデルに近いラインを異常判定ラインとして設定することができる。例えば、図4では、相関評価モデルのライン実線で示し、実施の形態1の場合の異常判定ラインを点線で示し、本実施の形態の場合の異常判定ラインを一点鎖線で示している。
【0035】
本実施の形態によれば、閾値である異常判定ラインを正常値である相関評価モデルのラインにより近づけて設定できることから、電動機1の異常を早見できる効果がある。
【0036】
実施の形態3.
以下、本発明の実施の形態3について図5及び図6に基づいて説明する。ただし、本実施の形態の電動機の予防保全装置は、実施の形態1と同様に図1に示す構成のシステムに適用される。
【0037】
本実施の形態では、電動機予防保全装置8は、一定の監視周期で前記の評価用データを取得し、その都度相関評価モデルと照合する。そして、評価用データが閾値である異常判定ラインを超えた時刻を記録するとともに、一定期間ごとに評価用データが異常判定ラインを超えた回数(異常回数)を計数し、異常回数の経時的変化を記録する。つまり、本実施の形態では、電動機予防保全装置8は、異常回数の増減を長期的に監視し、電動機1の経年の劣化を予見する。
【0038】
異常回数が一方方向で増加していく、もしくは減少していくのであれば、電動機1が劣化していると判断することができる。例えば、図5に示すように、一定期間ごとの測定に伴い、異常回数が一方向に増加していく場合には、電動機1の経年の劣化を推定することができる。また、図6に示すように、電動機1のコイルを取り巻く絶縁層には長年の運転によって枯れなどの劣化が見られるようになる。これらの劣化傾向を把握するため、測温抵抗体6,7の実測値から得られる温度上昇値と閾値とを比較し、閾値を越えた点の増減を長期的に監視することで、短絡のような重大な故障が起こる前に適切な復旧措置を行うことができる。
【0039】
本実施の形態によれば、評価用データが閾値である異常判定ラインを超えた異常回数の増減を長期的に監視するため、電動機1の経年の劣化を予見できる効果がある。
【0040】
その他.
本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、上述の実施の形態では操作量として電動機の負荷率を用い、状態量として巻線温度上昇値を用いているが、相関関係があるならばその他の操作量と状態量の組み合わせを用いることもできる。
【0041】
1…電動機
2…電動機駆動装置
3、4…リモートIO盤
5…ネットワーク
6…巻線温度測定用測温抵抗体
7…冷媒温度測定用測温抵抗体
8…電動機予防保全装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機駆動装置から入力される操作信号によって回転を制御される電動機の予防保全装置であって、
前記電動機の操作量を前記電動機駆動装置から取得する操作量取得手段と、
前記操作量と相関関係がある前記電動機の状態量を前記電動機に設置されているセンサにより取得する状態量取得手段と、
前記電動機が正常な場合における前記操作量と前記状態量との相関関係をモデル化した相関評価モデルを記憶する相関評価モデル記憶手段と、
前記電動機の運転時において取得された前記操作量と前記状態量との関係を示すデータを前記相関評価モデルと照合し、前記データと前記相関評価モデルとの一致度を判定する一致度判定手段と、
前記一致度に基づいて前記電動機の異常を監視する異常監視手段と、
を備えることを特徴とする電動機の予防保全装置。
【請求項2】
前記異常監視手段は、前記一致度が所定の異常判定値よりも低下していることを前記電動機の異常として検知することを特徴とする請求項1記載の電動機の予防保全装置。
【請求項3】
前記異常監視手段は、一定期間内に前記一致度が所定の異常判定値を下回った回数を計数することを特徴とする請求項1記載の電動機の予防保全装置。
【請求項4】
前記異常監視手段は、一定期間ごとに前記一致度が所定の異常判定値を下回った回数を計数し、前記回数の経時的変化を記録することを特徴とする請求項1記載の電動機の予防保全装置。
【請求項5】
前記操作量取得手段は、前記電動機の負荷率を前記操作量として取得し、
前記状態量取得手段は、前記電動機の巻線温度上昇値を前記状態量として取得し、
前記相関評価モデル記憶手段は、前記巻線温度上昇値と前記負荷率の二乗平均との間に成り立つ一次方程式を前記相関評価モデルとして記憶することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の電動機の予防保全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−137386(P2012−137386A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289975(P2010−289975)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】