説明

電圧非直線抵抗体の製造方法及び電圧非直線抵抗避雷素子

【課題】焼結密度が高く結晶粒径の小さな電圧非直線抵抗体の製造方法及びV1mA/tが高くてV−I特性や静電容量等の電気的な特性が良好な電圧非直線抵抗避雷素子を提供する。
【解決手段】少なくとも酸化亜鉛(ZnO)粉末とコバルト(Co)化合物粉末とアンチモン(Sb)化合物粉末とを混合し、この混合物を950℃から1350℃の加熱温度で反応させて粒成長抑制剤となるZn7−xCoSb12(0≦x≦7)を含む酸化物を作製し、微粉化して予め準備する。この粒成長抑制剤を含む酸化物の粉末は添加物として、主成分の酸化亜鉛(ZnO)粉末と化合物の形の周知の添加物粉末に混合し、この上記混合物を金型にて加圧成形してから、成形体を焼結して電圧非直線抵抗体の製造する。電圧非直線抵抗体は、側面に高絶縁層を施し、上下面に電極を設けて電圧非直線抵抗体形避雷素子を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電圧非直線抵抗体の製造方法及び電圧非直線抵抗避雷素子に係り、特に酸化亜鉛(ZnO)を主成分とする電圧非直線抵抗体の製造方法及び電圧非直線抵抗避雷素子に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、電力系統では送電線路中に遮断器を設置しており、この遮断器が開閉する際に発生する開閉サージや、落雷に基づく雷サージなどの過電圧を抑制するため、避雷器等の過電圧保護装置が備えられている。過電圧保護装置の主要部品である避雷素子として、最近ではZnOを主成分とするセラミックスの電圧非直線抵抗体が多用されている。
【0003】
この電圧非直線抵抗体は、ZnOと酸化ビスマス(Bi)を含むZnO−Bi系と、ZnOと酸化プラセオジウム(Pr11)を含むZnO−Pr11系に大別される。前者の電圧非直線抵抗体は、後者のものに比較して均一性の高い素子が得られ易く、また不純物に対して鈍感であるため、製造がし易くて経済的であることから、高電圧用の避雷器に使用することが主流となっている。
【0004】
一般に、前者の電圧非直線抵抗体を用いた避雷素子は、次のように焼結体を製作して用いている。即ち、主成分のZnOに、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、珪素(Si)等の酸化物粉末を混合してから、円板状やドーナツ状等の定めた形に成形し、これを高温の焼結炉内で焼結して焼結体を作り、この焼結体の両端面に研磨を施した後、両研磨面に電極を設けて使用する。
【0005】
近年、省エネルギー或いはCO排出量削減の観点から、送電線での電力損失を低減するために、送電系統電圧の超高圧化が世界的に進められている。このため、避雷器で使われている避雷素子に対しても、超高圧に対応できるようにすることが求められている。
【0006】
上記したZnOを主成分とする避雷素子は、多結晶セラミックスの粒界特性を利用しているため、動作開始電圧VXA(電流xAを流した時の素子電圧で、一般的にはxとしては1mA、即ちV1mAが使われる。)は、電極間に存在する粒界数に比例する。
【0007】
避雷器を超高圧化に対応させるには、通常に製作した避雷素子を用いると、多くの個数を積層する必要があるから、積層した避雷素子全体が長くなり、収納する容器も大きくしなければならなくなる。したがって、避雷器全体を小型にするためには、単位厚さ当たりの粒界数が多い、即ち粒径が小さくて単位厚さ当たりのV1mA(V1mA/t)が高い避雷素子が求められる。
【0008】
一般的には、電気的特性が良好で、しかも機械的強度が高い電圧非直線抵抗体を得るには、結晶粒径が均一でかつ高密度の焼結体を作製する必要がある。しかし、ZnOには或る特定の方向(c軸)に粒成長し易い異常粒成長と呼ばれる性質があり、焼結体の粒径は不均一になり易くなる。その上、ZnO−Bi系電圧非直線抵抗体では、主要添加物のひとつであるBiが、825℃以上で溶けて液相となる。このため、液相焼結に伴う著しい異常粒成長が起こり、一層粒径が不均一になり易い傾向があるから、これに伴い焼結体内部の焼結密度にばらつきが生じやすい傾向もあった。
【0009】
上記の理由のため、通常ZnO−Bi系電圧非直線抵抗体には、粒成長抑制作用を有する酸化珪素(SiO)や酸化アンチモン(Sb)を多量添加すると同時に、1100℃以上の温度で焼結して形成されていた。この方法により、現在ではV1mA/t=200〜400V/mmの避雷素子が市販されている。
【0010】
非特許文献1に記載されている如く、Sbが粒成長抑制剤として働く焼結過程の化学反応メカニズムは、次のように考えられている。即ち、ZnOと上記添加物を混合した成形体を焼成すると、ZnOとSbが下記(1)式の反応で、ZnSb12の如く表わされるスピネル粒子を形成する。そして、スピネル粒子が粒界に析出して粒成長過程で粒界移動を妨げ、その結果粒成長が抑制されるというものである。
7ZnO+Sb+O⇒ZnSb12 (1)
一方、SiOが粒成長抑制剤として働く化学反応メカニズムは、次のように考えられている。即ち、ZnOとSiOが(2)式の反応で、ZnSiO粒子を形成し、これが粒成長を抑制する。
2ZnO+SiO⇒ZnSiO (2)
ZnSb12は、いくつかの反応過程を経て950℃以上で生成されるが、その一つの反応過程として、次の(3)式の過程がある。
2ZnBiSb14+17ZnO⇔3ZnSb12+3Bi(3)
この反応過程は、Biの液相を経由する反応であるため、ZnSb12は粒成長がし易い。また、ZnSiOは1050℃付近で生成されるものの、1150℃では非晶質になってしまうから、必ずしも熱的に安定な粒成長抑制剤ではないことは明らかである。
【0011】
上記の(1)式及び(2)式から、反応が完全に起こるためには、Sbが1モルに対してZnOを7モル、またSiOが1モルに対してZnOを2モル、をそれぞれ必要とする。それ故、粒成長抑制効果を高めるべく、SbやSiOを多量に添加すると、添加分以上のZnOがZnSb12やZnSiOの形成に消費される。これらの形成物は絶縁物であって、電気的には積極的な働きをしないから、多量に焼結体の中に含まれていると、避雷素子の実効面積が大幅に減り、この結果静電容量が低下する等の問題も生じてくる。
【0012】
周知の如く介在物による粒成長抑制ピニングに関する理論式に、Zenerの式がある。この式は、粒成長抑制剤によって抑えられる粒径Dは、粒成長抑制剤の粒径r及び粒成長抑制剤の添加比率fとから、D∝(r/f)で表される。この理論によれば、得られる粒径Dを小さくしようとする場合には、粒成長抑制剤の粒径rが大きくなると、粒成長抑制剤を多量に添加しなければならなくなる。それ故、ZnO−Bi系電圧非直線抵抗体に対する効果的な粒成長抑制剤は、焼結過程で熱的に安定であって、混合した当初の微粒子状態を保つ物質であることが必要になる。
【0013】
電気特性が良好で、直流負荷やサージに対する信頼性に優れたZnO−Bi系電圧非直線抵抗体を得る製造方法として、特許文献1及び2に記載の方法が提案されている。特許文献1のものは、少なくともBiと酸化チタン(TiO)とSbとの混合粉を450〜850℃で熱処理されて調製した合成粉末を、主成分のZnOに対して添加して製造している。
【0014】
また、特許文献2のものは、ZnO粉末と、BiとSbとを混合し、400〜700℃の範囲の熱処理を施して得たBiとSbの合成粉末をつくり、添加物として特定の金属酸化物の中から選ばれる少なくとも二つ以上を合成粉末に添加し、加圧成形した後焼結して製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第3313533号公報
【特許文献2】特開平10−308302号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】松岡道雄編 「日本が生んだ世界的発明酸化亜鉛バリスタ」 オーム社 pp.43(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
特許文献1及び2に記載された製造方法では、予めBi、Sb、TiOを450〜850℃で反応させ、或いは予めBi、Sbを400〜700℃で反応させて、BiSbOやBiSbOを合成するため、低温で焼結体を緻密化できる。しかし、使用するBiSbOやBiSbOそのもの自体には、粒成長抑制剤としての効果がないから、V1mA/tが前者では380V/mm程度、後者では440V/mm程度が最大である。
【0018】
したがって、特許文献1及び2の製造方法で製造したZnO−Bi系電圧非直線抵抗体では、現在要求されているような超高圧対応の避雷素子のV1mA/tに対しては不十分なものとなってしまっていた。
【0019】
本発明の目的は、主成分のZnOに対して、粒成長抑制剤となる酸化物の添加量を低くしても、焼結密度が高くて結晶粒径の小さな電圧非直線抵抗体が得られる電圧非直線抵抗体の製造方法を提供することにある。
【0020】
本発明の他の目的は、V1mA/tが高く、V−I特性や静電容量等の電気的な特性が良好な電圧非直線抵抗避雷素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の電圧非直線抵抗体の製造方法は、少なくとも酸化亜鉛(ZnO)粉末とコバルト(Co)化合物粉末とアンチモン(Sb)化合物粉末とを混合し、前記混合物を950℃から1350℃の加熱温度で反応させてZn7−xCoxSb2O12(0≦x≦7)を含む酸化物を作製し、前記酸化物を微粉化して予め準備し、主成分の酸化亜鉛(ZnO)粉末と電圧非直線性を発現するのに必要な化合物の形の添加物粉末に、前記Zn7−xCoxSb2O12(0≦x≦7)を含む酸化物の粉末を添加物として混合し、前記混合物を金型にて加圧成形し、前記成形体を焼結することを特徴としている。
【0022】
好ましくは、前記酸化亜鉛(ZnO)粉末とコバルト(Co)化合物粉末とアンチモン(Sb)化合物粉末とを混合するとき、ビスマス(Bi)化合物粉末、珪素(Si)化合物粉末、ホウ素(B)化合物粉末のうち少なくとも一つを添加したことを特徴としている。
【0023】
更に好ましくは、前記化合物粉末に更にマンガン(Mn)化合物粉末、クロム(Cr)化合物粉末、ニッケル(Ni)化合物粉末を添加して混合したことを特徴としている。
【0024】
また、本発明の電圧非直線抵抗体の製造方法は、少なくとも酸化亜鉛(ZnO)粉末とコバルト(Co)化合物粉末とアンチモン(Sb)化合物粉末とを混合し、前記混合物を950℃から1350℃の加熱温度で反応させてZn7−xCoxSb2O12(0≦x≦7)を含む酸化物を作製し、前記酸化物を微粉化して予め準備し、主成分の酸化亜鉛(ZnO)粉末に、酸化ビスマス(Bi)粉末、酸化コバルト(Co)粉末、酸化マンガン(MnO)粉末、酸化アンチモン(Sb)粉末、酸化クロム(Cr)粉末、酸化珪素(SiO)粉末を電圧非直線性が発現するのに必要な配合比で添加すると共に、これらとの重量比で前記Zn7−xCoxSb2O12(0≦x≦7)を含む酸化物を0.01から0.2を添加して混合し、前記混合物を金型にて加圧成形し、前記成形体を焼結することを特徴としている。
【0025】
更に、本発明の電圧非直線抵抗体形避雷素子は、前記Zn7−xCoxSb2O12(0≦x≦7)を含む酸化物の粉末を添加して製造した電圧非直線抵抗体は、側面に高絶縁層を施すと共に、上下面にそれぞれ電極を設けて構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の電圧非直線抵抗体の製造方法によれば、主成分のZnO粉末と化合物の形の添加物粉末に、粒成長抑制剤(Zn7−xCoSb12)を含む酸化物を添加するものであるから、微粒子状態であっても焼成工程全般にわたって粒成長抑制剤が熱的に安定に存在できる。このため、混合物の焼結中に微粒子が成形体の緻密化、及び粒成長過程で粒界移動の抑制粒子とてして働くから、焼結密度が高くて結晶粒径の小さな焼結体を得ることができる。しかも、予め準備した粒成長抑制剤を含む酸化物は、微粒子化して用いるため、従来から知られているものに比べて、主成分ZnOに対しての添加量を低く抑えることができる利点がある。
【0027】
また、本発明の如く電圧非直線抵抗体を用いて避雷素子を構成すると、V1mA/tが高く、かつV−I特性や静電容量等の電気的特性が良好な電圧非直線抵抗避雷素子を作製でき、超高圧用の避雷器等の過電圧保護装置を小型にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)から(b)は、本発明の一実施例である電圧非直線抵抗体の製造方法を示す工程図である。
【図2】本発明の一実施例の電圧非直線抵抗避雷素子を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の電圧非直線抵抗体の製造方法及び電圧非直線抵抗避雷素子を、図1及び図2を用いて説明する。この電圧非直線抵抗体の製造方法では、大きく区分すると図1(a)の粒成長抑制剤を作製して準備する工程S1と、図1(b)の電圧非直線抵抗体を製造する工程S2からなっている。
【0030】
粒成長抑制剤の作製のため図1(a)の工程S1に示す如く、まず粒成長抑制剤の作製のため、最初に所定の割合のZnO粉末とSb粉末とCo粉末とを、加水してボールミル等の混合破砕手段を用いて混合粉砕する(工程S1a)。
【0031】
続いて、アルミナ坩堝等の反応容器内に入れた混合物を、加熱炉内で例えば950℃で2時間保持することにより反応させ、粒成長抑制剤となるZn7−xCoSb12(以下、「特定型粒成長抑制剤」と称する。)を作製する(工程S1b)。作製した特定型粒成長抑制剤を含む酸化物は、破砕手段により数μm以下に粉砕して微粉化処理の上、例えばフリーズドライ法により乾燥後に粉末のままで準備保存する(工程S1c)。
【0032】
上記の特定型粒成長抑制剤を作成する際、他にガラス物質を作製しやすいBi、SiO、Bのうち少なくとも一つを更に添加しても良く、また更にMnO、Cr、NiO等を上記ガラス物質がガラス化する範囲で添加しても良い。
【0033】
なお、上記の工程S1aにおいては、Co粉末及びSb粉末を添加して混合したものであるが、混合物は加熱反応処理されるものであるから、反応の過程で酸化物となるものであれば、これら以外の形のCo化合物やSb化合物であっても使用することができる。
【0034】
また、上記した特定型粒成長抑制剤の作製する反応温度は、950℃の例を示したが、反応温度は950℃から1350℃の範囲で合成することができる。しかも、反応させる時間は2時間の保持に限られず、粒成長抑制効果の良好な特定型粒成長抑制剤を作製できる保持時間の選択ができる。
【0035】
上記した混合破砕手段は、当然のことながら十分に混合や粉砕ができるならばボールミルに限らず使用できるし、特定型粒成長抑制剤を含む酸化物の乾燥も十分に乾燥ができるならば、他のものを用いることができる。
【0036】
そして、図1(b)の工程S2に示す如く電圧非直線抵抗体を製造する。まず、製造する際には、主成分のZnO粉末と、一般に使用するBi、Sb、Co、Mn、Cr、Ni、Si、Al等の如き化合物の形の添加物粉末とを混合するとき、これらとの重量比で0.01から0.2の特定型粒成長抑制剤を含む酸化物粉末を添加し、通常と同様に結合材入りの水を加えて混合手段により十分に混合する(工程S2a)。作られた混合物は、乾燥後通常行われているように金型に入れ、円板状やドーナツ状の予め定めた形に加圧成形を行い(工程S2b)、最後に加圧成形物を焼結炉内で焼結を順に行う(工程S2c)ことにより、電圧非直線抵抗体を製造する。
【0037】
上記のように特定型粒成長抑制剤を含む酸化物を加えて製造した電圧非直線抵抗体は、混合物の焼結中において特定型粒成長抑制剤が熱的に安定して存在する。このため、特定型粒成長抑制剤の微粒子が電圧非直線抵抗体の緻密化や、粒成長過程で粒界移動の抑制粒子として働くようになるから、焼結密度が高くて結晶粒径の小さな電圧非直線抵抗体の焼結体を製造することができる。したがって、作製した電圧非直線抵抗体は、V1mA/tが高くかつV−I特性、静電容量などの電気的な特性が良好なものとなる。
【0038】
一般的な製造法で作成されたZnO−Bi系電圧非直線抵抗体用成形体を加熱していくと、900℃近傍でZnSb12が生成することは従来から知られており、またZnSb12が粒成長抑制剤となることも公知である。しかし、本発明者らの検討によると、900℃近傍では上記成形体の焼結が進んでおり、その密度は焼成収縮量の50%にも達し、結晶粒径や焼結密度のばらつきが生じていると推定される。また、ZnSb12はZnBiSb14などの共融液相とZnOの反応で生成する。
【0039】
このため、ZnSb12の粒成長が起こり易いので、上記(4)式によりZnSb12を多量に生成しないと十分な粒成長抑制剤として作用しなくなる。また、更にZnSb12は、熱的には必ずしも安定ではなく、ZnサイトにCoが固溶して一部を置換した上記の特定型粒成長抑制剤が、高温でも安定に存在することが判明した。
【0040】
したがって、上記の如く特定型粒成長抑制剤を予め作製しておき、ZnO−Bi系電圧非直線抵抗体の添加物の一部として更に添加することによって、電圧非直線抵抗体製造時の理想的な粒成長抑制剤にとして活用することができる。
【0041】
上記した特定型粒成長抑制剤の作製の際、ZnO、Sb、Coの各粉末に、更にZnO−Bi系電圧非直線抵抗体の添加物であってガラス化し易い物質のBi、SiO、Bの各粉末を少なくとも一つを添加しても良く、また更には酸化マンガンMnO、Cr、NiOの粉末を添加して混合して作製することもできる。
【0042】
このようにしてガラス化した酸化物と特定型粒成長抑制剤を共存させると、酸化物中に含まれるガラス形成物質に特定型粒成長抑制剤の粒子が析出するようになる。この場合のようにガラス形成物質を共存させると、特定型粒成長抑制剤の作製がZnO、Sb、Coの各粉末だけを混合した場合に比較して容易になる、しかも、このように作製した特定型粒成長抑制剤を、非直線抵抗体の製造時に添加物とて用いると、ガラス物質の働きによってより低い温度で密度が高い焼結体を製造できる利点がある。
【0043】
製造した電圧非直線抵抗体を用いて、図2に示す如く電圧非直線抵抗避雷素子1が製作される。即ち、円板状やドーナツ状等の予め定めた形状に焼結した電圧非直線抵抗体2は、その側面の全周に高抵抗層4の絶縁被覆を施している。また、電圧非直線抵抗体2の両端面は研磨した上で、この研磨面に例えばアルミニウムを溶射して電極3a、3bをそれぞれ形成する。
【0044】
上記のように製造した電圧非直線抵抗避雷素子1は、系統電圧に応じて複数枚の焼結体素子を、電極3a、3bを介して直列に積み重ねて素子柱を作り、この素子柱を容器内に収納して避雷器等の過電圧保護装置を構成する。
【0045】
なお、以下の実施例の説明では、特定型粒成長抑制剤を添加する前の組成を、簡略化してベース組成と称し、また特定型粒成長抑制剤とベース組成の重量比を、簡略化して粒成長抑制剤/ベース比と称して使用している。また、各実施例で使用した電圧非直線抵抗避雷素子は、全てその直径を33mm、電極の直径を30mm、素子厚さを4.0mmに調整したものである。
【0046】
以下に、実施例1から4を用いて特定型粒成長抑制剤(Zn7−xCoSb12)の作製と、この特定型粒成長抑制剤の粉末を添加した電圧非直線抵抗体の製造方法について、順に説明する。
【実施例1】
【0047】
本発明の0≦x≦7である特定型粒成長抑制剤の代表的組成であるx=3.5、即ちZn3.5Co3.5Sb12(以下、「x3.5特定型粒成長抑制剤」と称する。)を、下記のような手順で合成した後、微粒子化して予め作製した。
【0048】
ZnO粉末を61.8モル%、Co粉末を20.6モル%、Sb粉末を17.6モル%の配合比で、これらの総量が20gになるように秤量した粉末材料を、容量2Lのモノマロンポットに純水1Lと共に投入し、ボールミルにて20時間、混合と粉砕を行った。粉砕用ボールは、直径5mmのイットリア部分安定化ジルコニアボールを使用した。混合と粉砕が終わったスラリーを、フリーズドライ法にて乾燥粉を得た。この粉末をアルミナ坩堝に詰め、電気炉で600℃/時間の昇温速度で1100℃まで昇温後、2時間保持した。その後、ヒータを切り、自然冷却にて300℃まで冷却し、電気炉から坩堝を取り出した。得られた粉末の電子顕微鏡(SEM)観察で求めた平均粒径は、およそ0.5μmであった。
【0049】
次に、特定型粒成長抑制剤の粉末を準備し、これを添加したZnO−Bi系の電圧非直線抵抗体の製造方法について説明する。
【0050】
ZnO−Bi系の電圧非直線抵抗避雷素子の代表的な組成の一つであるBiを0.5モル%、Coを0.33モル%、MnOを0.5モル%、NiOを0.5モル%、Crを0.5モル%、Bを0.25モル%、SiOを0.5モル%の組成物を1300℃で2時間熱処理して完全にカラス化し、前述と同様な方法で粉砕・乾燥してx3.5特定型粒成長抑制剤以外の添加物粉末を得た。ZnOにこの7成分系組成の添加物及び上述した方法で作製したx3.5特定型粒成長抑制剤を添加し、電圧非直線抵抗避雷素子を作製した。
【0051】
【表1】

表1の各試料に示したベース組成の配合比で、これらの総量が1kgになるように秤量したZnO粉末及び特定型粒成長抑制剤以外の添加物粉末に、ベース組成に対して表1の粒成長抑制剤/ベース比(重量比)になるように秤量したx3.5特定型粒成長抑制剤の粉末を準備した。
【0052】
ベース組成粉末とx3.5特定型粒成長抑制剤の粉末を、容量2Lのモノマロンポットに適量の結合材を混ぜた純水1Lと共に投入し、ボールミルにより20時間、混合と粉砕を行った。粉砕用ボールは、直径10mmのイットリア部分安定化ジルコニアボールを使用した。混合と粉砕の終わったスラリーを、フリーズドライ法にて乾燥粉を得た。この粉末を直径30mmの金型を用いて円板状に成形した後、電気炉で100℃/時間の昇温速度で表1に示した焼結温度まで昇温後、2時間保持した。その後、ヒータを切って自然冷却により300℃まで冷却してから、焼結した電圧非直線抵抗体を電気炉から取り出した。
【0053】
粒成長抑制剤/ベース比及び焼結温度を変えた場合の電圧非直線抵抗避雷素子の各試料で、測定した電気的特性を表1に示している。電圧非直線抵抗避雷素子の電気的特性は、素子厚さ1.0mm当たりの動作開始電圧V1mA/t、直流電流10μAを流した時の素子電圧V10μAと電流1mAを流した時の電圧V1mAの比V10μA/V1mA、8/20μsのインパルス電流2.5kAを流した時の素子電圧V2.5kAとV1mAの比V2.5kA/V1mA、静電容量Capと電圧V1mAの積Cap・V1mAを示してある。
【0054】
なお、比V10μA/V1mA、V2.5kA/V1mAは、各々低電流領域及び大電流領域の電圧・電流非直線性を表し、両者とも1に近いほど良好な特性を示すことになる。Cap・V1mAは、静電容量をV1mAで規格化した値で、この値が大きいほど避雷素子を積層した場合に容量成分による素子間の電圧分担率が1に近づき、避雷素子の電圧負荷が軽減され、課電寿命が延びる。
【0055】
また、焼結体としてうまく焼けたかの指標となる焼結密度を表1中に示し、本発明の方法にて製造した電圧非直線抵抗避雷素子を試料No.1から試料No.9で、また従来方法による粒成長抑制剤を添加していない場合のものを、試料No.R1から試料No.R5で示した。
【0056】
本発明の特定型粒成長抑制剤を添加して製作した試料No.1〜試料No.9では、1000から1100℃間の比較的低い焼結温度でも、5.6から5.7g/cmの焼結密度の高密度焼結体が得られている。一方、粒成長抑制剤を添加しない従来方法での試料No.R1から試料No.R3では、1000から1100℃の焼結温度では十分に焼結しておらず、5.0から5.2g/cm程度の低い焼結密度となっている。このため、V1mA/tは高くなっているものの、V10μA/V1mAやV2.5kA/V1mAは、悪い値となっている。
【0057】
従来方法で高い焼結密度の電圧非直線抵抗体を得るには、試料No.R4で示すように1250℃程度の高い温度が必要であり、この場合には粒成長が進むから、その結果V1mA/tは200V/mm程度に低下してしまうことになる。また、試料No.R5で示す如くベース組成の添加物のうち、粒成長抑制作用があるSbやSiOの添加量を多くすると、例えば1150℃で焼結すれば良好な焼結密度が得られる。しかし、上述の(1)式及び(2)式で示す反応により多量の絶縁物が焼結体中にできるため、特性的には望ましくないCap・V1mA値の低い避雷素子ができてしまうことになる。
【0058】
以上のことから、本発明によるx3.5特定型粒成長抑制剤の粉末を、ベース組成に添加して作製した電圧非直線抵抗避雷素子は、低温で焼結しても焼結密度が高く、このためにV10μA/V1mAやV2.5kA/V1mAが共に良好であり、しかもCap・V1mA値も大きくてV1mA/tが高くできる。したがって、送電系統電圧の超高圧化に対応した避雷器の小型化が期待できる電圧非直線抵抗避雷素子を得ることができる。
【実施例2】
【0059】
実施例1で示したx3.5特定型粒成長抑制剤の代わりに、x=0,2,5,7の特定型粒成長抑制剤を作製し、これをベース組成の粉末に抑制粒子/ベース比=0.1の配合で添加し、電圧非直線抵抗避雷素子を作製した。このときの焼結温度は1050℃である。特定型粒成長抑制剤の作製は、ZnO、Co、Sb配合比を、xの値に対応した配合比にすることで作製した。
【0060】
xの各値に対応する電気的特性及び焼結密度を表2に示している。
【0061】
【表2】

この表2には、x=3.5としたx3.5特定型粒成長抑制剤を用いた表1の試料No.8も再掲載している。表2から明らかなように、各試料ではxの値が0から7のどの範囲でも、実施例1で説明したものと同様に高焼結密度にでき、同様な効果が達成できた。
【実施例3】
【0062】
この実施例では、実施例1及び2で示したx3.5特定型粒成長抑制剤に代えて、次に説明する方法で特定型粒成長抑制剤を作製した。即ち、ZnO、Co、Sbモル%、SiO、B%、Biを表3に示す配合比で、これらの総量が1kgになるように秤量した。これらの粉末を、容量2Lのモノマロンポットに純水1Lと共に投入し、ボールミルにて20時間、混合と粉砕を行った。粉砕用ボールは、直径5mmのイットリア部分安定化ジルコニアボールを使用し、また混合と粉砕の終わったスラリーをフリーズドライ法にて乾燥し、乾燥粉を得た。
【0063】
この粉末は、直径50mm、厚さ50mmの円筒状に成形し、アルミナ製さやに入れ、電気炉で100℃/時間の昇温速度で1300℃まで昇温後、2時間この温度に保持した。その後、ヒータを切り、自然冷却にて300℃まで冷却し、電気炉からアルミナさやを取り出した。この粉末をX線回折法(XRD)にて調べたところ、特定型粒成長抑制剤の成分ピークだけが観測された。
【0064】
上記の手順で得られたx3.5特定型粒成長抑制剤及びガラス酸化物を、上述したボールミルにて再度粉砕し、フリーズドライ法で乾燥した。得られた粉末の電子顕微鏡(SEM)観察で求めた平均粒径は、およそ0.5μmであった。粒成長抑制剤/ベース比0.10の割合で配合し、実施例1に示した方法で避雷素子を作製した。なお、焼結温度は1050℃とした。
【0065】
【表3】

表3に、ZnO、Sb、Co、SiO、B、Biの表中記載の組成(モル%)で、作成する酸化物中にガラス化酸化物と特定型粒成長抑制剤を共存させて製造した試料No.14から試料No.31について、測定した電気的特性及び焼結密度を示している。これから、ガラス酸化物が共存する場合でも、本発明の効果が得られることは明らかである。
【0066】
また、ここでは合成(焼結)温度は1250℃の例を示したが、試料No.15、試料No.16で示す如く合成温度を1350℃まで上げても本発明の効果は得られる。なお、合成温度を1250℃以下にすると、ガラス物質が十分反応せず不均一になり易く、また1350℃以上にすると焼結体全体が軟化し、アルミナさやとの反応が著しいため、これ以上の温度で合成するのは得策ではなくなる。
【0067】
試料No.17から試料No.31で示すように、特定型粒成長抑制剤におけるxが3.5に限らず、x=2或いは5の場合でも同様な効果が得られる。このことや上記の実施例2の結果を併せると、本実施例の方法でも0≦x≦7の範囲で本発明の製造方法の効果が得られる。
【実施例4】
【0068】
上記の実施例3では、エネルギー分散型蛍光X線分析法(EDX)による分析の結果、配合した特定型粒成長抑制剤の抑制粒子のxの値が増加する現象が見られ、またガラス酸化物中にZnが検出された。このことから、粒成長抑制剤形成に配合したZnOの一部がガラス酸化物に溶け込んでいることが推測された。このため、設計通りのx値が得られるように実験を繰り返したところ、ガラス酸化物がZnの飽和量に対して1から2の範囲で含まれるように、配合するZnOを更に増量すれば、所定のxが得られることが判明した。
【0069】
ZnOを増量する方法によると、ガラス酸化物が共存していても所望のx値を有する粒成長抑制剤を得ることができ、電圧非直線抵抗体の電気的特性のばらつきを低くでき、上記した本発明の効果をより一層高めることができる。
【0070】
なお、実施例として示していないが、実施例3及び4で示したガラス酸化物は、Si、B、Biには限られず、電圧非直線抵抗避雷素子の電気的特性や焼結性を損ねない範囲で、ガラス物質を形成するMn、Ni、Cr、Al、Ag等を配合して製造しても、本発明の効果を達成することができる。
【符号の説明】
【0071】
S1、S1a、S1b、S1c、S2、S2a、S2b、S2c、…工程、1…電圧非直線抵抗避雷素子、2…電圧非直線抵抗体、3a、3b…電極、4…高抵抗層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸化亜鉛(ZnO)粉末とコバルト(Co)化合物粉末とアンチモン(Sb)化合物粉末とを混合し、前記混合物を950℃から1300℃の加熱温度で反応させてZn7−xCoxSb2O12(0≦x≦7)を含む酸化物を作製し、前記酸化物を微粉化して予め準備し、主成分の酸化亜鉛(ZnO)粉末と電圧非直線性を発現するのに必要な化合物の形の添加物粉末に、前記Zn7−xCoxSb2O12(0≦x≦7)を含む酸化物の粉末を添加物として混合し、前記混合物を金型にて加圧成形し、前記成形体を焼結することを特徴とする電圧非直線抵抗体の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記酸化亜鉛(ZnO)粉末とコバルト(Co)化合物粉末とアンチモン(Sb)化合物粉末とを混合するとき、ビスマス(Bi)化合物粉末、珪素(Si)化合物粉末、ホウ素(B)化合物粉末のうち少なくとも一つを添加したことを特徴とする電圧非直線抵抗体の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、前記化合物粉末に更にマンガン(Mn)化合物粉末、クロム(Cr)化合物粉末、ニッケル(Ni)化合物粉末を添加して混合したことを特徴とする電圧非直線抵抗体の製造方法。
【請求項4】
少なくとも酸化亜鉛(ZnO)粉末とコバルト(Co)化合物粉末とアンチモン(Sb)化合物粉末とを混合し、前記混合物を950℃から1300℃の加熱温度で反応させてZn7−xCoxSb2O12(0≦x≦7)を含む酸化物を作製し、前記酸化物を微粉化して予め準備し、主成分の酸化亜鉛(ZnO)粉末に、酸化ビスマス(Bi)粉末、酸化コバルト(Co)粉末、酸化マンガン(MnO)粉末、酸化アンチモン(Sb)粉末、酸化クロム(Cr)粉末、酸化珪素(SiO)粉末を電圧非直線性が発現するのに必要な配合比で添加すると共に、これらとの重量比で前記Zn7−xCoxSb2O12(0≦x≦7)を含む酸化物を0.01から0.2を添加して混合し、前記混合物を金型にて加圧成形し、前記成形体を焼結することを特徴とする電圧非直線抵抗体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4に記載の製造方法により前記Zn7−xCoxSb2O12(0≦x≦7)を含む酸化物の粉末を添加して製作した電圧非直線抵抗体は、側面に高絶縁層を施すと共に、上下面にそれぞれ電極を設けて構成したことを特徴とする電圧非直線抵抗体形避雷素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−15435(P2012−15435A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152753(P2010−152753)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年1月12日 第48回セラミックス基礎科学討論会実行委員会発行の「第48回セラミックス基礎科学討論会講演要旨集」に発表
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【出願人】(504203572)国立大学法人茨城大学 (99)
【Fターム(参考)】