説明

電子おむつシステム

【課題】おむつ内のより広範囲に渡って濡れを検出することができ、さらに濡れを報知する場合の濡れの量のレベルを段階的に設定することができる、濡れ検出可能なおむつ及びおむつシステムを提供する。
【解決手段】おむつDに、濡れを検知する電極として3本の導電素材4A〜4Cを配置する。おむつの濡れを検出する検出装置10は、おむつに接続する送信部20と、この送信部20から無線で送信される導通検出信号を受信する受信器40とを有し、4A−4B間の濡れと4B−4C間の濡れとをそれぞれ独立に検出する回路構成を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、おむつ内において広範囲に渡って濡れ検出が可能であって、濡れ検出の感度および精度に優れたおむつの濡れ検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会の進行により、いわゆる寝たきり老人が増える傾向にあるが、在宅介護および老人保健施設などにおいて、これらの利用者の介護にあたっては尿、便の処理が大きな問題であって、簡単に処理できることは利用者および介護人の負担軽減に繋がるため、近年は使い捨ての紙おむつの使用が主流である。
【0003】
また、従来からの一般的な尿の処理方法は、おむつを中心とした装具による自然排尿後の処理とバルーン・カテーテル等による留置カテーテルの装用による持続的な排尿の処理とに大別されるが、前者が主流である。上記のおむつなどの装具による処置に関しては、利用者、老人または幼児がいつ用便を行ったか不明であるので、介護人は時間を区切って着用者のおむつを取り替える等の処置を行う場合が多い。しかしながら、このような処置を行った場合、利用者によっては長時間用便をしたままの状態が継続することになり、不快感をもたらすとともに、おむつかぶれ、冷え、床ずれ等の苦痛を与える結果となっている。また、高齢者、要介護者にとって排泄物が残るおむつを着用し続けることは、人間の尊厳をも損なう大きな問題である。
【0004】
上記の問題に対処するために、おむつの濡れを外部の人間が知ることができるように色の変化や濡れを利用した通電による検知や圧力による検知方法が数多く提案されており、この中でも濡れを検出するセンサーと報知器に関する提案が多くなされている。主なものとして2本の導電素材間が尿などで濡れることで通電することを利用した検出方法がある(例えば、特許文献1ないし3参照)。
【0005】
さらに、おむつの濡れを検知する回路と、検知回路からの信号を受けて電波を発信する回路と電波を受信して信号に変換する回路と、受信号により音声またはランプを表示する報知回路を連動させる、複数の利用者に対応した装置についても知られている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】実開昭52−171988号公報
【特許文献2】特開2005−52563号公報
【特許文献3】特開2005−52564号公報
【特許文献4】実開昭53−138894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記先行技術文献に開示されているおむつはいずれも、濡れを検知する電極としての導電素材を2本しか備えておらず、以下のような課題があった。例えば、寝たきりの状態でおむつに排尿する場合、必ずしも仰向けの体勢で排尿するとは限らず、側臥またはうつ伏せの体勢で排尿することもよくあるが、このような体勢で排尿した場合には、おむつ内部において、尿は下側へより多く吸収されてしまう。あるいは、おむつの着用者が男性の場合、おむつ内部でのペニスの傾きによって右または左に偏って尿が吸収される場合も多い。このような場合、濡れを検知する導電素材を2本しか備えていない従来のおむつでは、濡れを検知できる領域が限られているために、尿が2本の導電素材の間を橋渡しすることなく電気的絶縁状態のままで、警報を発しないことがある。あるいは、尿が2本の導電素材の間を橋渡しするまでに時間がかかり、遅れて警報を発することもある。
【0007】
また、濡れを検知する導電素材を2本しか備えていないおむつでは、濡れ検知を、2本の導電素材間のみに導通があったか否かで判断するために、おむつシステム全体としての検知感度を状況に応じて調節することが困難である。すなわち、少量の尿でも検出・報知が必要な場合や、逆に多量の排尿があったとき以外は検出・報知が不要な場合に対応させて、適宜、適切な検知感度レベルを設定することは困難であった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、おむつ内のより広範囲に渡って濡れを検出することができる濡れ検出可能なおむつおよびおむつシステムを提供することであり、本発明のさらなる目的は、濡れを報知する場合の濡れの量のレベルを段階的に設定することができる、濡れ検出可能なおむつシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した目的を達成するために、本発明に係る濡れ検出可能なおむつは、非導電性のおむつ本体に3本の帯状の第1ないし第3の導電素材A、BおよびCが、装着者の腹部にあてがわれる部分から、少なくとも装着者の臀部にあてがわれる部分に至るまで、ほぼ平行に敷設されており、中央の第2の導電素材が、幅方向の中央部に配置されている。
【0010】
この構成によれば、本発明に係るおむつは、濡れを検知する電極として機能する導電素材をおむつ本体の幅方向の中央部とその両側に、合わせて3本配置したので、おむつ内の偏った方向にのみ排尿がされた場合でも、濡れの検知が可能になる。さらには、従来の濡れ検知の精度を維持しまたは向上させながら、上記のようにおむつ内のより広範囲な領域の濡れを検出することが可能になる。すなわち、前記したように、おむつの濡れ検知は、2本の導電素材間に尿などの液体によって発生する導通を検知することによって行うが、濡れ検知の精度を確保するためには、導電素材間の間隔を一定の範囲内に制限する必要がある。したがって、導電素材の数を従来の2本から3本に増やすことにより、導電素材間の間隔を維持して2本の場合と同程度の検知精度を確保する場合には、2本の場合に濡れ検出可能であった領域の約2倍の面積における濡れ検出が可能となり、あるいは従来よりも導電素材間の間隔をやや狭くして検知精度を向上させた場合でも、全体としてより広範囲に渡る領域における濡れ検出が可能となる。
【0011】
好ましくは、前記おむつ本体は、中間に水分吸収素材を挟んで表面素材と水分不透過性フィルムとを接合してなり、前記第1ないし第3の導電素材A、BおよびCが当該おむつ本体の水分吸収素材と表面素材または水分不透過性フィルムとの間に配置されている。導電素材は、水分吸収素材がある部分においては肌側の表面素材の表面側、表面素材の裏面側と水分吸収素材の間、水分吸収素材の中、水分吸収素材と外側の水分不透過性フィルムの間などに配置することができるが、着用者に不要な違和感を与えないため、および汗や湿気などのわずかな濡れで誤作動を起こさないためには、水分吸収素材と水分不透過性フィルムの間に配置することが好ましい。但し、漏れを直ちに感知したい場合は、水分吸収素材よりも上(肌側)に導電素材を配置することが好ましいので、この場合は表面素材の裏面側と水分吸収素材の間に配置する。
【0012】
本発明に用いるおむつ素材としては、後述する検知装置の接続部が貫通可能な素材であればよく、一般家庭に普及している高齢者向け、幼児向けの通常の使い捨て紙おむつに使用されている素材を使用することができ、このような公知の素材であればどのようなものを用いてもよい。このような紙おむつの素材のうち肌に接触する表面素材としては、目付量が10〜30g/m2 程度のレーヨン、ポリプロピレン、ポリエステル繊維などの不織布などが代表的に使用される。また、水分吸収素材としては、綿状パルプとポリアクリル酸などの高分子吸収体などをブレンドしたもの、綿状パルプとティッシュペーパー等からなる構造体、または超吸水性ポリマーなどが代表的に使用される。水分不透過性フィルムとしては、ポリエチレン、ポリエステル等の厚さ15〜40μmのプラスチックフィルムが代表的に使用される。その他の取り付け素材、伸縮素材などの各種パーツ部分についても通常の使い捨て紙おむつに使用される公知の素材を使用できる。以上の表面素材や水分不透過性フィルムなどのおむつ素材は、接着剤を用いるか、または、熱融着などの手段により接合一体化させる。
【0013】
なお、本発明において、以下におむつと記載する場合は、着用者が一枚だけつけるような紙や布でできた従来型のおむつだけでなく、尿とりパッドをも包含する。尿取りパッドとは、従来型のおむつよりも小さく、かつ従来型のおむつの内側に配置し、濡れた場合には該パッドのみを交換して使用するものである。該パッドの使用により、おむつの交換作業が軽減されるだけでなく、おむつの交換頻度をも減らせるので、資源の節約が可能となる。
【0014】
尿とりパッドの素材としては、水分吸収性が高く、皮膚アレルギー等人体に悪影響を及さず、交換作業等において取り扱いが容易なものであれば、特に限定されないが、一般家庭や老人保健施設などへの普及の観点からは、従来型のおむつと同じ素材であることが好ましい。
【0015】
前記導電素材としては、通電性を有する素材であれば特に限定されないが、例えば有機高分子主体の導電性繊維、金属線、カーボン繊維、金属蒸着フィルム、金属テープ素材などの公知の通電素材を使用することができるが、装着者にとって装着時に違和感が少なく、すなわち断面積が小さくかつ柔らかく、しかも濡れ検知の感度が高い材料であることが望ましい。
【0016】
おむつの柔軟性を損なわず環境負荷もかけないようにするためには、金属を含む繊維素材、リッツ線のような補強繊維に金属線を絡めたような線材、または金属を含むフィルム素材を使用することが好ましい。また、導電素材は、表面素材の表面もしくは裏面、または水分不透過性フィルムの表面(肌側)に直接形成するようにしてもよく、特に、プリント、または金属の蒸着により形成することが、おむつの柔軟性を維持する上で好適である。あるいは、水分吸収可能な適当な厚みをもつ素材の両面に導電素材を配置した1本のテープ状の積層素材を使用することも可能である。一方、導電素材の濡れ検知感度に関しては、導電素材の固有抵抗値が低いほど、濡れの検知感度が高まる傾向があるので、導電素材の固有抵抗値は、一般的には、低いことが望ましい。当該抵抗値は濡れ検出装置の検出能力や感度設定によって適宜選択することができるが、導電素材として必要とされる抵抗値は200Ω/cm以下、より好ましくは50Ω/cm以下である。
【0017】
さらに、本発明のおむつシステムでは、その検知装置を導電素材に電気的に接続するとき、検知器の接続端子の強い力でおむつを挟み込んで、表面素材や水分不透過性フィルムなどのおむつ素材を貫通させて接続端子を導電素材に直接接触させることが、接続作業の手間を省く上で効果的である。このため、導電素材は接続端子に挟みやすく、かつ挟まれても壊れたり変形したりすることなく、しかも通電性が損なわれにくいものを採用することが好ましい。
【0018】
このような、柔軟性、濡れ検知感度および接続端子との適合性から特に適した導電素材の一例として、有機高分子主体の導電性繊維、またはそれからなる糸が挙げられ、それらの中でも、特開2005−264419号公報に記載されている硫化銅ナノ微粒子を分散状態で含有している導電性ポリビニルアルコール系繊維からなる糸が特に好ましい。
【0019】
他の導電素材としては、前記金属を蒸着したフィルム素材を使用する場合は、蒸着金属が剥がれたり、穴があいたり切れたりする可能性があるので、硬い金属蒸着プラスチックフィルムよりも、金属を含む繊維からなる不織布や金属粉を分散した例えばウレタンフィルムなどを使用することが望ましい。また、前記線材を使用する場合には、端部の導電素材と検出装置間の接続信頼性を向上させるために、端部に幅広の導電性テープを貼り付けたり、導電性の接着剤や導電性の塗料をフィルムの上から染み込ませて接続するポイントを作ったりするなどの方法を採用することもできる。
【0020】
前記金属を含むフィルム素材としては、例えば、アルミニウム、亜鉛、銅、錫、銀、金、クロム、ニッケルなどの金属素材をプラスチックフィルムへ蒸着またはラミネートすることによって薄膜状に付着させたものがあり、このようなフィルム素材としてはアルミニウムなどの金属を蒸着した包装材料が広く普及している。また、金属を含む繊維、前記線材、またはフィルムなどを細かく砕いた素材を、ポリオレフィン素材、ポリエステル素材、またはポリウレタン素材などへ分散して、薄膜に加工したシート素材なども挙げることができる。フィルム素材の使用幅は、引っ張り強度、検出感度、またはおむつの風合いを損ねないなどの理由から、適宜選択すればよいが、幅1〜20mm程度、好ましくは幅2〜8mm程度である。
【0021】
前記金属を含む繊維素材としては、例えば、アルミニウム、亜鉛、銅、硫化銅、錫、銀、ニッケル、クロムなどを合成繊維や天然繊維に蒸着したり練り込んでなる素材を挙げることができ、このような繊維素材としては日本蚕毛染色社製アクリル繊維ないしナイロン繊維からなる有機導電性繊維サンダーロン(登録商標)や三菱マテリアル社製銀被覆ポリエステル繊維シルファイバー(登録商標)などが市販されている。繊維素材の太さとしては検出感度やおむつの風合いを損ねないなどの理由から、適宜選択すればよいが、概ね10〜500デシテックスの範囲で好ましくは50〜200デシテックスである。
【0022】
また、前記した目的を達成するために、本発明に係る濡れ検出可能なおむつシステムは、前記3本の導電素材を備えるおむつと、このおむつの通電状態を検出する検出装置とを備えている。この構成によれば、おむつ内の広範囲に渡る領域の濡れ検知が可能であるおむつを使用して、これに接続した検出装置によっておむつの濡れ検出を行うので、既述のように、おむつ内で偏った方向に排尿がされたような場合においても、濡れを検出することが可能になる。
【0023】
好ましくは、前記検出装置は、おむつに連結されて前記通電状態を示す検出信号を無線で送信する送信器と、前記検出信号を受信して報知する受信器とを備えている。このように、検出装置を送信器と受信器とに分離した構成としたことで、おむつ側に連結される送信器を小型・軽量化でき、おむつ装着者の、装着による違和感が軽減される。また、送信器と受信器との間の通信を無線としたことにより、おむつ装着者の行動範囲および受信器の設置場所に一定の自由度が確保される。
【0024】
さらに好ましくは、前記送信器は、おむつに接続されて、前記第1と第2の導電素材A,B間(左側)の導通状態を検知する第1検知回路と、前記第2と第3の導電素材B,C間(右側)の導通状態を検知する第2検知回路とを有し、前記受信器は、前記第1の検出信号を受けて前記第1と第2の導電素材A,B間の導通状態を認識する第1認識回路と、前記第2の検出信号を受けて前記第2と第3の導電素材B,C間の導通状態を認識する第2認識回路とを有している。このような構成とすることで、おむつ内の左側と右側の各領域における濡れをそれぞれ独立に検出することが可能となり、これにより、検出・報知を行うべき濡れの量を段階的に調整することが可能になる。すなわち、例えば少量の尿でも検出・報知が必要な場合には、左右いずれかの片側だけの濡れを検出・報知するようにし、逆に多量の排尿があったとき以外は検出・報知を不要とし、左右両方の濡れを検出したときのみ報知するなど、状況に応じて、適宜、適切な検知感度レベルを設定することが可能になる。
【0025】
本発明において、濡れによる通電の確認方法としては、濡れ検知機能を持つ装置のコードに接続された接続端子や、濡れ検知機能を兼ね備えた接続端子を導電素材の端末部分に噛み込ませる方法が挙げられるが、いずれにしても、接続端子は、表面素材、水分吸収素材および水分不透過性フィルムを貫通させて導電素材に直接接触させることが、導電素材の端末部分を露出させたりする手間を省く上で好都合である。このため、検知装置の接続端子の形状として、例えば樹脂製の突起部(オス部)とこれを受ける波型の歯をもつ金属製メス部を備えたクリップ、鰐口クリップ、金属製の針とこれを受ける板とを備えたクリップ、互いに噛み合う波型の歯を持つボタン状のクリップなどが好適に用いられる。
【0026】
以上のように導電素材に検知装置を接続した状態で、検出装置により微弱な電圧を掛けておき、導電素材間が濡れることで回路が形成されて通電することを検知する方法が好ましく採用される。また、一方の導電素材を被覆することにより水分量の変化を検出するコンデンサーとして用い、静電容量から濡れの程度を検出するものを採用してもよい。その他にもイオン化傾向の異なる素材を使用することで、濡れた場合の電位差を生じさせて見かけの電池回路を形成し、ここで発生した電気を検出する方法などを挙げることができる。また、おむつ内に塩類を添加して通電性を高める方法を併用することもできる。
【0027】
漏れの検出方法としては、公知の通電の有無ないし通電量を測定可能な濡れ検出装置を用いる方法を挙げることができる。さらに検出感度の設定によって通電の有無ないし通電量から濡れの有無や程度を、実際の使用状況や実態に合わせて検出することもできる。すなわち、尿などの漏れではなくて汗や湿気で反応しないようにすることや、取替えの頻度があまり多くならないように着用者が不快と感じる程度の濡れの場合にのみ反応するように設定することもできる。
【0028】
本発明を適用するおむつにおいて、例えば3本の導電素材を、おむつの長手方向に沿って所定の間隔を保持して平行に、おむつの製造ラインの流れ方向に連続的に配列して、おむつの前部から後部にかけて貫いていることが好ましい。
【0029】
また、濡れ検出装置は、接続端子が直付けされたものを用い、その接続端子によって導電素材の前部または後部の端末部分を挟み込むことにより、検知装置をおむつに直接セットしてもよく、あるいは、先端に接続端子が設けられた延長コードを有する検知装置を用い、その接続端子によって導電素材の前部または後部の端末部分を挟み込み、検知装置は別の個所にセットするようにしてもよい。また、検出装置は、濡れを検知すると音や光を発したり画面表示を行う検知器であってもよいし、あるいは、濡れを検知するための送信器と、送信器から離れた位置に配置され、送信器から送られる検知情報に呼応して音や光を発したり画面表示を行う受信器とを備えたものであってもよい。さらに、該装置が送信器と受信器とを備えたものである場合、送受信器には、例えば受信器から濡れの有無を音声や画面表示で問いかけたり、送信器から濡れの有無を音声や画面表示で報告したりすることができるような意思伝達機能が付与されたものであってもよい。また、排尿時刻を自動的に記録し、利用者の排尿パターンを調べる機能を付与されたものであってもよい。
【0030】
おむつの製造時には、複数の導電素材を巻き出しボビンに巻回しておき、このボビンからおむつの製造ラインの流れ方向に沿っておむつ素材上に連続して供給することが、おむつを連続製造する上で好適であり、これにより、導電素材は互いに平行に、おむつの前部から後部に貫通状に配列された構成となる。また、おむつに導電素材を固定する方法としては、単に置いてゆくだけの方法もあるが、置いていくのと同時に導電素材の固定性を高めるために、その一部または全部を接着剤で固定したり、熱で融着したり、導電素材にあらかじめホットメルト成分を含有または付着させておいて、これを熱で固定したり、導電素材にあらかじめ粘着性ないし接着性を付与しておいてフィルム素材に接合するなどの方法も挙げることができる。これらの技術を採用することが製造コスト上からも好適であり、また、販売単価を下げることができる。
【0031】
導電素材の配列パターンは3本を製造ラインの流れ方向に直線的に配列することが基本的に採用されるが、検知効果を高めるためなどの理由から従来の濡れセンサーのために提案されているような櫛状の配列パターンやジグザグの配列パターンなどを採用することもできる。また、導電素材間の幅も使用状況、検出装置の感度設定や、男女間の差に基づく濡れ状態の違いなどを考慮して適宜設定すればよいが、検出感度の問題から導電素材間の幅は概ね1〜20cmの範囲が挙げられ、好ましくは幅2〜10cmである。
【発明の効果】
【0032】
以上のように、本発明のおむつ及びおむつシステムによれば、おむつ内の広範囲に渡る領域の濡れを検出することができ、さらには、検出・報知を行うべき濡れの量を段階的に調整することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に本発明に係る実施形態を、図面に従って説明するが、本発明はこの構成に限定されるものではない。
【0034】
図1は本発明に使用されるおむつの一実施形態を示す斜視図である。このおむつDはおむつ本体100と導電性素材4A〜4Cとを有している。おむつ本体100は、図1の手前側を前部(腹側)とし、奥側を後部(背側)としており、1は表面素材で、着用者の肌に当たる部分である。2はその下の水分吸収素材、3はさらにその下の水分不透過性フィルム、5は接着部である。接着部5はおむつ本体100の外周部に設けられており、この接着部5では、水分吸収素材2が存在しないで、表面素材1と水分不透過性フィルム3が直接接触した状態で接着されている。これら表面素材1、水分吸収素材2及び水分不透過性フィルム3は非導電性である。前記水分不透過性フィルム3上に、おむつ本体100の長さ方向(図1の矢印X方向)に沿って帯状の導電素材4A〜4Cが配置されている。導電素材4A〜4Cは表面素材1および/または水分不透過性フィルム3に貼り付けられて一体となっているため、導電素材単独では外部に露出しない状態になっている。6はおむつを着用者に固定するためのパーツである。
【0035】
前記おむつDは、X方向に沿って前方X1へ、中間に水分吸収素材2を挟み込むようにして表面素材1と水分不透過性フィルム3を送り出し、この表面素材1と水分不透過性フィルム3の間を例えば接着剤で接合することにより連続的に積層され、このとき導電素材4A〜4Cが水分不透過性フィルム3上にX方向に沿って連続的に供給される。また、前記表面素材1、水分吸収素材2、水分不透過性フィルム3及び導電素材4A〜4Cを含むおむつDが、その前部と後部に相当する部分において、幅方向Yに沿った切断線9で切断されて、おむつDが連続生産される。D1はこうして切断された1つ前のおむつを示している。このとき、前記導電素材4A〜4Cを表面素材1または水分不透過性フィルム3上に事前に蒸着もしくは貼付けておくことにより、既存のメーカーの製造ラインで生産することができて、生産コストの低減化が可能となる。
【0036】
図1の実施形態において、前記3本の第1〜第3の導電素材4A〜4Cが、おむつの濡れを検知する電極として機能する。これら3本の導電素材4A〜4Cのうち真ん中に位置する第2の導電素材4Bが、おむつ本体100のY方向中央に配置され、この第2の導電素材4Bの両側に第1の導電素材4Aおよび第3の導電素材4Cが、第2の導電素材4Bに平行に、かつ第2の導電素材4Bからそれぞれ等間隔に配置されている。第2の導電素材4Bと、第1および第3の導電素材4A、4Cとの間隔W1は、おむつの使用環境や必要な濡れ検知の精度、使用する導電素材の濡れ検出感度等を考慮して適宜決定されるが、広い範囲にわたって濡れ検出を可能にするために、好ましくは、第2の導電素材4Bと水分吸収素材2のY方向端部とのY方向距離W2の4分の1以上である。また、3本の導電素材4A〜4CのX方向の配置範囲は、装着者の排尿を確実に検知するために、装着者の腹部にあてがわれる部分から、少なくとも装着者の臀部にあてがわれる部分までとされる。
【0037】
このように、3本の導電素材4A〜4Cを配置することにより、導電素材を2本のみ使用する場合に比べて、濡れ検知の精度を維持しながら広範囲に渡る濡れの検知が可能となり、おむつ内で偏った方向に排尿がされたような場合においても、濡れを検出することが可能になる。なお、本実施形態においては、導電素材4として、硫化銅ナノ粒子を分散状態で含有している導電性ポリビニルアルコール系繊維からなる糸を用いている。
【0038】
図2は図1のおむつDを用いた濡れ検出可能なおむつシステムを示す概略図である。このおむつシステムは、図1のおむつDに、おむつの濡れを検出・報知する濡れ検出装置10を接続したものである。図2において検出装置10は送信器20と受信器40を有しており、導電素材間の抵抗値があらかじめ設定された値よりも低くなり、濡れを検知したときは、送信器20から受信器40に検知信号が送信され、この検知信号を受け取った受信器40はLED、スピーカなどの報知手段によって、おむつに濡れが生じたことを報知する。
【0039】
図3は、前記送信器20の構造を示す模式図である。送信器20は、検出装置10と導電素材4A〜4Cとを接続する3つの接続部22が2個の橋渡し部26によって連結された一体化構造を有している。接続部22は、おむつ本体の導電素材と検知装置とを接続する部材であり、本実施形態において、具体的には各接続部22がクリップ部23を備えている。このクリップ部23は、図4に示すように、クリップレバー24に一体成形された樹脂製のオス形クリップ23aと、接触歯を有する金属製のメス形クリップ23bとで構成されている。メス形クリップ23bは接続部22及び橋渡し部26の内部に収納された後述する送信器回路に接続されている。クリップレバー24は、接続部22にヒンジ25を介して開閉自在に取り付けられている。図5に示すように、おむつD端部の導電素材4A〜4Cが配置されている部分を、クリップ部23によって直接挟み込んで、表面素材1や水分不透過性フィルム3などのおむつ素材を貫通させて、メス形クリップ23bを導電素材4A〜4Cと接触させることにより、接続部22を導電素材4A〜4Cに接続させる。この状態で、導電素材4A〜4Cがメス形クリップ23bを介して接続部22内の電路25(送信器20の回路の一部)に電気的に接続される。
【0040】
図3に示す送信器20は、おむつDの装着者の腹部周りの湾曲状態や、動作に伴う変形に合わせて図3の紙面の裏表方向に屈曲するように、接続部22と橋渡し部26との間に、ヒンジ部28を設けている。また、橋渡し部26の内部には、回路および電池が収納されるが、これら回路および電池を含む電気系統の構成については後に詳しく説明する。
【0041】
図6(a)は、受信器40の構造の一例を示す斜視図である。受信器40は、ボックス形状のケース41内に回路が内蔵されている。受信器40の設置は、例えば、ケース41の背面のフック(図示せず)をベッドの手すりなどに引っ掛けて設置される。ケース41の正面上部には、おむつ内の濡れを検出したときに報知するための報知装置としてのLED55A,55Bおよび送信器20の電池37の消耗を報知する装置としてのLED57が設置されている。図6(a)の実施形態では、LEDの下方に、片側のみの濡れ検出と両側の濡れ検出を選択する切替スイッチ63を設け、LEDの側方には、二次的な報知装置としてブザー59を配置し、さらにその下方にブザー59の音量を調節する調節ボリューム42を配置している。ケース41の正面下部には、押しボタン式の電源スイッチ44が設けられている。図6(b)に示すケース41の下面には、送信器20からの信号を受信するための外部アンテナ端子46、2次報知手段としてのナースコールに接続するためのナースコール接続端子47およびナースコール押しボタン接続端子48、外部電源端子49などの接続端子が配設されている。
【0042】
図7は、本実施形態に係る濡れ検出可能なおむつシステムの検出装置10の回路構成を示すブロック図である。すでに説明したとおり、検出装置10は送信器20と受信器40を備えている。送信器20は、前記した3つの接続部22、第1と第2の導電素材4A,4B間および第2と第3の導電素材4B,4C間の導通をそれぞれ独立に検知する第1導通検知回路および第2導通検知回路31A,31B、送信器側の電源である電池37、この電池37の消耗を検知する電池消耗検知回路35、および第1導通検知回路31A、第2導通検知回路31Bと電池消耗検知回路35からの検知信号とを受けて受信器40側に送信する送信回路33を有する。
【0043】
受信器40は、送信器側の送信回路33からの信号を受信する受信回路51、この受信回路51から第1、第2それぞれの導通検知信号を受けて導通の有無を認識する第1導通認識回路および第2導通認識回路53A,53B、同じく受信回路51から送信器20側の電池消耗有無検知信号を受けて電池消耗の有無を認識する電池消耗認識回路57、第1、第2それぞれの導通認識回路53A,53Bが導通を認識した場合に、おむつの濡れがあったと判定して知らせる第1および第2の報知装置55A,55B、さらには電池消耗認識回路57が送信器20の電池37の消耗を認識したときに報知する電池消耗報知装置59を備えている。図3に示す実施形態においては、前述のように、左右の濡れ検知の報知装置55A,55Bおよび電池消耗報知装置59として、それぞれLEDを使用している。また、図7の受信器40は電源部90を通して外部から直流電力を取り入れている。
【0044】
このように回路構成された検出装置10における検出信号処理の手順は以下のとおりである。おむつの濡れの有無は、対応する導電素材間の導通の有無、すなわち抵抗値の測定によって検出される。本実施例において、抵抗値の判定は、電池37の消耗を抑えるために30秒に1回の頻度で行っている。左側で濡れが発生して設定値以下の抵抗値が検知された場合、第1導通検知回路31Aが、濡れ検出を知らせる第1検出信号を送信回路33に出力する。第1検出信号を受けた送信回路33は、当該信号をさらに受信器40の受信回路51へと無線で送信する。右側で濡れが検出された場合も、同様にして第2導通検知回路31Bから第2検出信号が送信回路33に出力され、送信回路33から受信回路51へ送信される。送信回路33から受信回路51へ検出信号を送信する際、受信回路51側で、第1と第2のいずれの検出信号であるかを区別可能にするために、第1検出信号の周波数をf1とし、第2検出信号の周波数をf1とは異なるf2としている。
【0045】
第1検出信号を受信した受信回路51は、周波数弁別によって、これを第1導通認識回路53Aへ出力し、この第1導通認識回路53Aが、左側LED55Aを点灯させて、おむつの左側に濡れが検出されたことを知らせる。受信回路51が第2検出信号を受信した場合には、同様にして、第2導通認識回路53Bが右側LED55Bを点灯させる。
【0046】
このように、検出装置10内に第1、第2の導通検知回路31A,31Bおよび第1、第2の導通認識回路53A,53Bを備えたことによって、導電素材A,B間の濡れと導電素材B,C間の濡れを、それぞれ独立に検出することが可能となり、おむつDの左側のみが濡れた場合、右側のみが濡れた場合、左右両方が濡れた場合をそれぞれ別個に検出することができ、さらに左右それぞれに対応する報知手段を設けたことにより、各場合それぞれ別個に知らせることが可能になる。
【0047】
受信器40にはさらに、必要に応じて、左側および右側の各濡れ報知手段(LED)55A,55Bとは別に、左右両側の検出を認識する両側検出認識回路61と、左右両方で濡れを検知した場合にのみ濡れを報知する2次報知手段65と、左右のうち一方の濡れ検知に反応して報知するか、左右両方の濡れ検知にのみ反応して報知するかを選択して設定できる切り替えスイッチ63とが設けられる。2次報知手段65としては、例えばブザーやナースコールを用いることができる。濡れを報知する方法としては、上記以外にも、左右独立の濡れ検出機能を利用して段階的に濡れを報知する方式であればどのようなものでもよく、例えば、本実施形態のように左右それぞれの濡れ検出に対応させてLEDを点灯させるのではなく、左右のいずれか一方のみの濡れを検出した場合には1つのLEDを連続点灯させ、左右両方の濡れを検出した場合にそのLEDを点滅させるようにしてもよい。
【0048】
また、検出回路10は、送信器20の電池37の消耗を検出・報知する手段を備えている。具体的には、送信器20内に、電池消耗検知回路35が設けられており、この電池消耗検知回路35が、あらかじめ設定された電池37の残容量に達したことを検知すると、電池消耗検知信号を送信回路33に出力し、同信号が送信回路33から無線で受信回路51へ、さらに電池消耗認識回路57へと送信され、電池消耗認識回路57が電池消耗報知装置59であるLEDを点灯させる。本実施形態においては、電池消耗検知回路57としては、電池37の電圧を監視することにより残容量を検出する方式のものを用いることができるが、一般に知られている他の方式のものであってもよい。この構成により、送信器20の電源である電池37の交換時期を適切に知ることができ、夜間などに突然送信器20の電源が切れて、おむつの濡れ検出機能が停止することを防ぐことができる。
【0049】
なお、本発明のおむつ及びおむつシステムは使い捨てタイプのおむつに好適に使用されるが、この他にも繰り返し使用される布おむつなどに適用することもできる。また、本発明においては、生産コストと得られる効果のバランスを考慮して、導電素材の本数を3本としたが、4本以上としても本発明と同様の効果が得られることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係るおむつを示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るおむつシステムを示す概略図である。
【図3】同おむつシステムの送信器の構造を示す模式図である。
【図4】図3の受信器のクリップ部を示す模式図である。
【図5】接続部と導電素材との接続状態を示す模式図である。
【図6】(a)は図2のおむつシステムの受信器の構造を示す斜視図、(b)は底面図である。
【図7】図2のおむつシステムの回路構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0051】
1…表面素材
2…水分吸収素材
3…水分不透過性フィルム
4A…第1の導電素材
4B…第2の導電素材
4C…第3の導電素材
10…検出装置
20…送信器
40…受信器
100…おむつ本体
D…おむつ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性のおむつ本体に3本の帯状の第1ないし第3の導電素材A、BおよびCが、装着者の腹部にあてがわれる部分から、少なくとも装着者の臀部にあてがわれる部分に至るまで、ほぼ平行に敷設されてなるおむつであって、
中央の第2の導電素材Bが、前記おむつ本体の幅方向の中央部に配置されている濡れ検出可能なおむつ。
【請求項2】
請求項1において、前記おむつ本体は中間に水分吸収素材を挟んで表面素材と水分不透過性フィルムとを接合してなり、前記第1ないし第3の導電素材A、BおよびCが当該おむつ本体の水分吸収素材と表面素材または水分不透過性フィルムとの間に配置されている濡れ検出可能なおむつ。
【請求項3】
請求項1または2において、前記導電素材A〜Cが有機高分子を主体とする導電性繊維、または当該導電性繊維からなる糸である濡れ検出可能なおむつ。
【請求項4】
請求項1または2において、前記導電素材A〜Cが金属を含むフィルム素材である濡れ検出可能なおむつ。
【請求項5】
請求項1または2において、前記導電素材A〜Cが前記表面素材または前記水分不透過性フィルム上に金属を蒸着して形成されている濡れ検出可能なおむつ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載のおむつと、このおむつの通電状態を検出する検出装置とを備えた濡れ検出可能なおむつシステム。
【請求項7】
請求項6において、前記検出装置は、おむつに連結されて前記通電状態を示す検出信号を無線で送信する送信器と、前記検出信号を受信して濡れがあったことを報知する受信器とを備えている濡れ検出可能なおむつシステム。
【請求項8】
請求項7において、前記送信器は、おむつに連結されて、前記第1と第2の導電素材A,B間の導通状態を検知する第1検知回路と、前記第2と第3の導電素材B,C間の導通状態を検知する第2検知回路とを有し、前記受信器は、前記第1の検出信号を受けて前記第1と第2の導電素材A,B間の導通状態を認識する第1認識回路と、前記第2の検出信号を受けて前記第2と第3の導電素材B,C間の導通状態を認識する第2認識回路とを有している濡れ検出可能なおむつシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−296024(P2007−296024A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124903(P2006−124903)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(301069384)クラレメディカル株式会社 (110)
【Fターム(参考)】