電子デバイス
【課題】 作用電極に一定の電圧(0Vを含む)を印加すれば電子デバイス中の導電性高分子層のドーピング状態または脱ドーピング状態が保持され、メモリ機能が発現する電子デバイスを提供する。
【解決手段】 表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、導電性高分子層2に接触している電解質3とを含む電子デバイス10であって、電解質3はイオン性液体を含み、作用電極1における印加電圧を変動させることにより、導電性高分子層2がドーピングまたは脱ドーピングされ、作用電極1における印加電圧を一定にすることにより、導電性高分子層2がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持されることを特徴とする電子デバイス。
【解決手段】 表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、導電性高分子層2に接触している電解質3とを含む電子デバイス10であって、電解質3はイオン性液体を含み、作用電極1における印加電圧を変動させることにより、導電性高分子層2がドーピングまたは脱ドーピングされ、作用電極1における印加電圧を一定にすることにより、導電性高分子層2がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持されることを特徴とする電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面上に導電性高分子層が形成されている作用電極と、その導電性高分子層に接触している電解質とを含む電子デバイスに関し、詳しくは、その電解質にイオン性液体を含み、作用電極に一定の電圧(0Vを含む)を印加すれば、その導電性高分子層のドーピング状態または脱ドーピング状態が保持されることにより、メモリ機能が発現する電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン性液体とは、一般に、カチオンとアニオンとから形成されており、室温(たとえば、10℃〜30℃)において液体であるものをいう。常温溶融塩ともいう。
【0003】
かかるイオン性液体は、一般にイミダゾリニウムなどのカチオンと、適当なアニオン(Br-、Cl-、−SO4-、BF4-、PF6-など)との組み合わせで構成されており、高いイオン伝導性や優れた熱安定性を有するため、電池やコンデンサなどの電解液または電解質などへの応用について研究が進められている(たとえば、非特許文献1〜非特許文献3を参照)。
【0004】
また、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性高分子は、各種アニオン、各種カチオンがドーピングされることによって導電性が高められ、電池やコンデンサなどの電解質などへの応用について研究が進められている。
【0005】
しかし、上記導電性高分子を各種アニオンまたは各種カチオンを含む溶媒中に浸漬して電圧を印加しても、導電性高分子がドーピングされる領域の電圧(ドーピング領域電圧)と、導電性高分子が脱ドーピングされる領域の電圧(脱ドーピング領域電圧)は、ほとんど同じであり、ドーピング領域電圧と脱ドーピング領域電圧と差が大きい導電性高分子はは、従来においては見出されていなかった。
【非特許文献1】大野弘幸監修、「イオン性液体」、シーエムシー出版、(2003年)
【非特許文献2】P. Bonhote,他4名、Inorg. Chem., 35,p1168,(1996)
【非特許文献3】A. B. McEwen,他3名、Journal of The Electrachemical Society,146,p1687,(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、作用電極に一定の電圧(0Vを含む)を印加すれば電子デバイス中の導電性高分子層のドーピング状態または脱ドーピング状態が保持され、メモリ機能が発現する電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、表面上に導電性高分子層が形成されている作用電極と、導電性高分子層に接触している電解質とを含む電子デバイスであって、電解質はイオン性液体を含み、作用電極における印加電圧を変動させることにより、導電性高分子層がドーピングまたは脱ドーピングされ、作用電極における印加電圧を一定にすることにより、導電性高分子層がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持されることを特徴とする電子デバイスである。
【0008】
本発明にかかる電子デバイスにおいて、作用電極における印加電圧を0Vにすることにより、導電性高分子層をドーピング状態または脱ドーピング状態に保持することができる。
【0009】
また、本発明にかかる電子デバイスにおいて、上記導電性高分子層は、ドーピング状態における導電率と脱ドーピング状態における導電率とが異なるものとすることができる。また、上記導電性高分子層は、ドーピング状態における色彩と脱ドーピング状態における色彩とが異なるものとすることができる。
【0010】
また、本発明にかかる電子デバイスは、表面上に導電性高分子層が形成されている対電極をさらに含むことができる。
【0011】
また、本発明にかかる電子デバイスは、対電極と、対電極と電解質との間に形成されているカウンター層とをさらに含むことができる。ここで、上記カウンター層は対電極の表面上に形成されていてもよい。
【0012】
さらに、本発明にかかる電子デバイスは、電子の透過を抑制することなく電解質の透過を抑制する隔膜をさらに含み、電解質が隔膜により作用電極側の電解質と対電極側の電解質とに分けられ、少なくとも作用電極側の電解質はイオン性液体を含むことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、作用電極に一定の電圧(0Vを含む)を印加すれば電子デバイス中の導電性高分子層のドーピング状態または脱ドーピング状態が保持され、メモリ機能が発現する電子デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明にかかる電子デバイスは、図1〜図4を参照して、表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、導電性高分子層2に接触している電解質3と、対電極4とを含む電子デバイス10,20であって、電解質3はイオン性液体を含み、作用電極1における印加電圧(作用電極1と対電極4との間に印加する電圧であって、対電極4における電圧に対する作用電極の電圧をいう、以下同じ)を変動させることにより、導電性高分子層2がドーピングまたは脱ドーピングされ、作用電極1における印加電圧を一定にすることにより、導電性高分子層2がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持される。
【0015】
すなわち、本発明は、イオン性液体を含む電解質3を用いることにより、導電性高分子層2がドーピングされるときの電圧(ドーピング電圧という、以下同じ)と、導電性高分子層2が脱ドーピングされるときの電圧(脱ドーピング電圧という、以下同じ)との差が大きくなることを見出し、作用電極1における印加電圧を変動させて導電性高分子層2をドーピングまたは脱ドーピングした後、ドーピング電圧と脱ドーピング電圧との間の一定の電圧を作用電極1に印加させることにより、上記ドーピング状態または脱ドーピング状態を保持し、これによりメモリ機能を発現させることにより完成させたものである。
【0016】
ここで、イオン性液体とは、カチオンとアニオンとから形成されており、室温(たとえば、10℃〜30℃)において液体であるものをいう。常温溶融塩ともいう。イオン性液体は、イオン(カチオンおよびアニオン)のみで形成されているため、100%イオン化しているものと考えられる。
【0017】
イオン性液体のカチオンは、イオン性液体を形成するカチオンであれば特に制限はないが、各種4級化窒素を含むカチオンが好ましい。たとえば、アンモニウムおよびその誘導体、イミダゾリニウムおよびその誘導体、ピリジニウムおよびその誘導体、ピロリジニウムおよびその誘導体、ピロリニウムおよびその誘導体、ピラジニウムおよびその誘導体、ピリミジニウムおよびその誘導体、トリアゾニウムおよびその誘導体、トリアジニウムおよびその誘導体、トリアジン誘導体カチオン、キノリニウムおよびその誘導体、イソキノリニウムおよびその誘導体、インドリニウムおよびその誘導体、キノキサリニウムおよびその誘導体、ピペラジニウムおよびその誘導体、オキサゾリニウムおよびその誘導体、チアゾリニウムおよびその誘導体、モルフォリニウムおよびその誘導体、ピペラジンおよびその誘導体が好ましい。中でも、イミダゾリニウムおよびその誘導体、アンモニウムおよびその誘導体、ピリジニウムおよびその誘導体がより好ましい。ここで、誘導体とは、その基本形となる化合物において置換可能な水素原子のうち少なくとも1つを、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、エーテル基、エステル基、アシル基またはアミノ基などの置換基に置換した化合物をいう。
【0018】
また、イオン性液体のアニオンは、イオン性液体を形成するアニオンであれば特に制限はなく、スルホン酸基アニオン(−SO3-)、硫酸基アニオン(−SO4-)、カルボキシル基アニオン(−COO-)、BF4-、PF6-、ビス(トリフルオロメチルスルホニルアニオン((CF3SO2)2N-)、(トリス(トリフルオロメチルスルフォニル)カルボアニオン((CF3SO2)3C-)、NO3-、ニトロ基アニオン(−NO2-)などが、好ましく挙げられる。
【0019】
ここで、スルホン酸基アニオン(−SO3-)は、RASO3-と記載され(ここで、RAは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、エーテル基、エステル基、アシル基などを含む置換基を示す、また、フッ素原子を含んでもよい)、たとえば、p−CH3C6H4SO3-(p−トルエンスルホン酸アニオン)、C6H5SO3-(ベンゼンスルホン酸アニオン)などが挙げられる。また、RASO3-においては、RAにフッ素原子を含むものがより好ましい。たとえば、CF3SO3-、CHF2CF2CH2SO3-、CHF2−(CF2)3−CH2SO3-などが挙げられる。
【0020】
また、硫酸基アニオン(−OSO3-)は、RBOSO3-と記載され(ここで、RA、RBは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、エーテル基、エステル基、アシル基などを含む置換基を示す、また、フッ素原子を含んでもよい)、たとえば、CH3CH2OCH2CH2OSO3-、C6H5OCH2CH2OSO3-などが挙げられる。またRBOSO3-においては、RBにフッ素原子を含むものがより好ましい。たとえば、CHF2CF2CH2OSO3-、CHF2−(CF2)3−CH2OSO3-、CF3−(CF2)2−CH2OSO3-、CF3−(CF2)6−CH2OSO3-などが挙げられる。
【0021】
また、カルボキシル基アニオン(−COO-)としては、たとえば、RCCOO-、HOOCRCCOO-、-OOCRCCOO-、NH2CHRCCOO-などが挙げられる(ここで、RCは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、エーテル基、エステル基、アシル基などを含む置換基を示す、また、フッ素原子を含んでもよい)。
【0022】
また、ニトロ基アニオン(−NO2-)としては、たとえば、RDNO2-などが挙げられる(ここで、RDは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、エーテル基、エステル基、アシル基などを含む置換基を示す、また、フッ素原子を含んでもよい)。
【0023】
また、電解質には、イオン性液体の他に溶媒が含まれていてもよい。溶媒は、イオン性液体と相溶して溶液となるものであれば特に制限はなく、プロピレンカーボネート、アセトニトリルなどが好ましく挙げられる。また、電解質は、液体であっても固体であってもよい。液体の電解質は、イオン性液体、イオン性液体を含む溶液などで形成される。固体の電解質は、イオン性液体、イオン性液体を含む溶液をゲル化剤(たとえば、反応性モノマーなど)でゲル化することなどにより形成される。
【0024】
また、導電性高分子は、導電性を有する高分子であれば特に制限はなく、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリパラフェニレンビニレン、ポリフルオレン、ポリアニリン、ポリキノンおよびこれらの誘導体などが好ましく挙げられる。ここで、誘導体とは、その基本形となる化合物において置換可能な水素原子のうち少なくとも1つを、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、エーテル基、エステル基、アシル基またはアミノ基などの置換基に置換した化合物をいう。
【0025】
また、これらの導電性高分子は、化学重合法または電解重合法などにより合成される。化学重合法とは、適当な酸化剤の存在下で、たとえばチオフェンなどの原料モノマーを酸化脱水して重合する方法である。酸化剤としては、過硫酸塩、過酸化水素、または鉄、銅、マンガンなどの遷移金属元素の塩が用いられる。電解重合法とは、たとえば、チオフェンなどの原料モノマーを溶媒に溶解し、陽極上で酸化重合を行なう方法である。一般的に、ポリマーの酸化還元電位はモノマーの酸化還元電位に比べて低いため、重合過程でポリマー骨格の酸化重合が進む。
【0026】
なお、これらの導電性高分子に予めドーパントを添加しておくことも可能である。ドーパントは、上記化学重合法または電解重合法において、原料モノマーとドーパントとを共存させた状態で原料モノマーを重合させることにより、導電性高分子に添加される。このようなドーパントとしては、導電性高分子の導電性を高めるものであれば特に制限はないが、−SO3-(スルホン酸基アニオン)、−SO4-(硫酸基アニオン)、−COO-(カルボキシル基アニオン)、BF4-、PF6-などが好ましく挙げられる。
【0027】
ここで、図5に示すような3電極系セル、図6に示すような2電極系セルにおいて、表面上に導電性高分子層が形成されている作用電極と対電極との間に電圧を印加したときの導電性高分子層に生じる現象について検討する。なお、本明細書においては、サイクリックボルタモグラムとは、サイクリックボルタモグラム測定におけるサイクリックボルタモグラムをいうものとする。
【0028】
3電極系セルは、図5を参照して、参照電極9と、表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、対電極4とが、それぞれの主面間の距離がD19(参照電極−作用電極間)、D14(作用電極−対電極間)となるように、電解質3と接触している。ここで、作用電極の表面上に形成された導電性高分子層2も、電解質3を接触している。
【0029】
図5に示す3電極系セル50の作用電極1と対電極4との間に電圧を印加したときの導電性高分子層2のサイクリックボルタモグラムを図7(a)に示す。図7(a)においては、横軸は作用電極1と対電極との間に電圧を印加したときに作用電極1の参照電極9に対する電位差を基にして算出した作用電極1の水素標準電極に対する電位差(以下、作用電極電位という)を示し、縦軸は導電性高分子層2に流れる電流を示す。
【0030】
図7(a)を参照して、作用電極1における印加電圧を上げることにより作用電極電位が上がり導電性高分子層2に電解質3中のアニオンがドーピング(または、カチオンが脱ドーピング)され、作用電極1における印加電圧を下げることにより作用電極電位が下がり導電性高分子層2に電解質3中のアニオンが脱ドーピング(または、カチオンがドーピング)される。ここで、図7(a)に示されているI過程、II過程、III過程およびIV過程は、サイクリックボルタモグラムにおけるサイクリック過程を示す。すなわち、作用電極においては、I過程は作用電極電位増大・正電流増大の過程を、II過程は作用電極電位増大・正電流減少の過程を、III過程は作用電極電位減少・負電流増大の過程を、IV過程は作用電極電位減少・負電流減少の過程をそれぞれ示している。
【0031】
ここで、一般の電解質(たとえば、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(以下、TEABF4という)などの電解質をプロピレンカーボネート(以下、PCという)などの溶媒に溶かしたもの)を用いた場合は、図7(a)の破線のサイクリックボルタモグラムに示すように、ドーピング領域電圧VD(ドーピング開始電圧VDSからドーピング終了電圧VDEまでの電圧をいう、以下同じ)と、脱ドーピング領域電圧VR(脱ドーピング開始電圧VRSから脱ドーピング終了電圧VREまでの電圧をいう、以下同じ)とがほぼ同じになる。
【0032】
これに対して、イオン性液体を含む電解質を用いた場合は、図7(a)の実線のサイクリックボルタモグラムに示すように、ドーピング領域電圧VDと脱ドーピング領域電圧VRとの間に大きな差が生じる。これは、イオン性液体は、導電性高分子の脱ドーピングを起こりにくくさせる作用を有するためと考えられる。
【0033】
なお、図7(a)において、破線のサイクリックボルタモグラムと実線のサイクリックボルタモグラムとの間の最小電圧差をV0と表示する。
【0034】
次に、図5に示すような3電極系セル50の対電極4として、たとえば表面上に導電性高分子層が形成されている対電極であって、図7(a)の破線のサイクリックボルタモグラムの特性を有する電極を用いると、作用電極1におけるサイクリックボルタモグラムは図7(b)の実線のサイクリックボルタモグラムとして表され、対電極4におけるサイクリックボルタモグラムは図7(b)の破線のサイクリックボルタモグラムとして表される。
【0035】
ここで、図5を参照して、対電極4においては作用電極1とは電気化学的に逆反応が起こっているため、対電極4におけるボルタモグラムである図7(b)の破線のボルタモグラムにおいては、I過程は対電極電位(作用電極1と対電極4との間に電圧を印加したときに対電極4の参照電極9に対する電位差を基にして算出した対電極4の水素標準電極に対する電位差をいう、以下同じ)減少・負電流増大過程に、II過程は対電極電位減少・負電流減少過程に、III過程は対電極電位増大・正電流増大過程に、IV過程は対電極電位増大・正電流減少過程にそれぞれ該当する。
【0036】
一方、2電極系セルは、図6を参照して、表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、表面上に導電性高分子層12が形成されている対電極4とが、それらの主面間の距離がD14(作用電極−対電極間)となるように、電解質3と接触している。ここで、作用電極の表面上に形成された導電性高分子層2も、電解質3を接触している。2電極系セルにおいては、イオン性液体を含む電解質を用いる。ここで、表面上に導電性高分子層12が形成されている対電極4は、図5に示すような3電極系セルの対電極4としては図7(b)の破線のボルタモグラムの特性を有するものとする。また、作用電極1の表面上に形成される導電性高分子層2と、対電極4の表面上に形成される導電性高分子層12とは、同一であっても異なっていてもよい。
【0037】
図6に示す2電極系セル60の作用電極1と対電極4との間に電圧を印加したときの導電性高分子層2のサイクリックボルタモグラムを図7(c)に示す。図7(c)においては、横軸は作用電極1における印加電圧を示し、縦軸は導電性高分子層2に流れる電流を示す。
【0038】
図7(c)のサイクリックボルタモグラムは、理論的には、、図7(b)の実線のサイクリックボルタモグラム(作用電極1におけるサイクリックボルタモグラム)と、破線のサイクリックボルタモグラム(対電極4におけるサイクリックボルタモグラム)とを、それぞれのI過程、II過程、III過程およびIV過程を対応させて合成することによって得られる。
【0039】
図7(c)を参照して、作用電極1における印加電圧を上げることにより導電性高分子層層2に電解質3中のアニオンがドーピング(または、カチオンが脱ドーピング)され、作用電極1における印加電圧を下げることにより導電性高分子層2に電解質3中のアニオンが脱ドーピング(または、カチオンがドーピング)される。また、電解質中にイオン性液体を含むことから、図7(c)のサイクリックボルタモグラムには、ドーピング領域電圧VDと脱ドーピング領域電圧VRとの間に大きな差が生じる。これは、イオン性液体は、導電性高分子の脱ドーピングを起こりにくくさせる作用を有するためと考えられる。
【0040】
このことから、上記2電極系セルにおいて、作用電極1における印加電圧を変動することにより、導電性高分子層2をドーピングまたは脱ドーピングして、作用電極1における印加電圧をドーピング領域電圧VDと脱ドーピング領域電圧VRとの間の一定の電圧とすることにより、導電性高分子層2をドーピング状態または脱ドーピング状態に保持することができる。
【0041】
なお、図7(a)および図7(b)における最小電圧差V0の大きさが、図7(c)におけるサイクリックボルタモグラムと原点(0V)と間の最小電圧差V0の大きさと同じになる。また、図7(a)〜図7(c)において、破線のサイクリックボルタモグラムにおけるVDS、VDE、VRSおよびVREの各点を白丸で、実線のサイクリックボルタモグラムにおけるVDS、VDE、VRSおよびVREの各点を黒丸で示す。このVDS、VDE、VRSおよびVREの各点の表示形式は、以下の図8(a)〜図8(c)においても同様である。
【0042】
上記のように、図1〜図4を参照して、表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、導電性高分子層2に接触しイオン性液体を含む電解質3とを含む電子デバイス10,20を形成することにより、作用電極1における印加電圧を変動させることにより導電性高分子層2がドーピングまたは脱ドーピングして、作用電極1における印加電圧をドーピング領域電圧VDと脱ドーピング領域電圧VRとの間の一定電圧とすることにより、導電性高分子層2がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持され、メモリ機能を有するデバイスを形成することができる。
【0043】
ここで、電解質中のイオン性液体の含有量は、特に制限はないが、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。イオン性液体の含有量が50質量%未満であると、ドーピング領域電圧VDと脱ドーピング領域電圧VRとの間の差が小さくなり、メモリ機能を発揮できる印加電圧の範囲が狭くなる。
【0044】
また、図5に示す3電極系セル50において、作用電極1の表面上に形成される導電性高分子2によっては、図8(a)に示すように、一般の電解質を用いた場合の作用電極1の表面上に形成されている導電性高分子2のサイクリックボルタモグラム(破線のサイクリックボルタモグラム)のドーピング領域電圧VDおよび脱ドーピング領域電圧VRが、イオン性液体を含む電解質を用いた場合の作用電極の表面上に形成されている導電性高分子2のサイクリックボルタモグラム(実線のサイクリックボルタモグラム)のドーピング領域電圧VDおよび脱ドーピング領域電圧VRの間に位置する場合がある。
【0045】
この場合において、図5に示すような3電極系セル50の対電極4として、たとえば表面上に導電性高分子層が形成されている対電極を用いる。かかる対電極4におけるサイクリックボルタモグラムは、図8(b)のサイクリックボルタモグラムで表される。
【0046】
さらに、図6を参照して、表面上に導電性高分子層2が形成されており図8(b)の実線のサイクリックボルタモグラムの特性を有する作用電極1と、表面上に導電性高分子層12が形成されており図8(b)の破線のサイクリックボルタモグラムの特性を有する対電極4とを含む2電極系セル60を形成する。この2電極系セル60における作用電極1の表面上に形成されている導電性高分子2のサイクリックボルタモグラム(図8(c)のサイクリックボルタモグラム)は、理論的には、図8(b)の実線のサイクリックボルタモグラムと、破線のサイクリックボルタモグラムとを、それぞれのI過程、II過程、III過程およびIV過程を対応させて合成することにより得られる。
【0047】
図8(c)を参照して、作用電極1の表面上に形成されている導電性高分子2のサイクリックボルタモグラムには、ドーピング領域電圧VDと脱ドーピング領域電圧VRとの間に0Vが存在する。このことは、作用電極1における印加電圧が0Vであっても(換言すれば、作用電極1と対電極4との間に電圧を印加しなくても)、導電性高分子2のドーピング状態または脱ドーピング状態が保持されることを意味する。
【0048】
このことから、上記2電極系セルにおいて、作用電極1の表面上に上記のような導電性高分子を形成し、この作用電極1における印加電圧を変動することにより、導電性高分子層2をドーピングまたは脱ドーピングして、作用電極1における印加電圧を0Vとしても、導電性高分子層2をドーピング状態または脱ドーピング状態に保持することができる。
【0049】
すなわち、図1〜図4を参照して、作用電極1の表面上に上記のような導電性高分子層2を形成し、この導電性高分子層2に接触しイオン性液体を含む電解質3と、対電極4とを含む電子デバイス10,20を形成することにより、作用電極1における印加電圧を変動させることにより導電性高分子層2がドーピングまたは脱ドーピングして、作用電極1における印加電圧を0Vとしても(すなわち、作用電極1と対電極4との間に電圧を印加しなくても)、導電性高分子層2がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持され、メモリ機能を有する電子デバイスを形成することができる。
【0050】
本発明にかかる電子デバイスにおいて、導電性高分子のドーピング状態における導電率と脱ドーピング状態における導電率とを異なるようにすることができる。ドーピング状態と脱ドーピング状態との間で導電性高分子の導電率に差を設けることにより、メモリー機能を有する電子デバイス(メモリーデバイス)、スイッチング機能を有する電子デバイス(スイッチングデバイス)を容易に作製することができる。ここで、導電性高分子にドーピングまたは脱ドーピングされるドーパントは、イオン性液体中のアニオンまたはカチオンであるため、ドーピング状態と脱ドーピング状態との間で導電性高分子層の誘電率に差を設けることは容易である。
【0051】
また、本発明にかかる電子デバイスにおいて、導電性高分子層のドーピング状態における色彩と脱ドーピング状態における色彩とを異なるようにすることができる。ドーピング状態と脱ドーピング状態との間で導電性高分子層の色彩に差を設けることにより、色表示機能をを有する電子デバイス(色表示デバイス)を容易に作製することができる。
【0052】
たとえば、導電性高分子層にアニオンがドーピングまたは脱ドーピングする場合は、導電性高分子の色彩は以下のように異なる。ポリチオフェン層は、ドーピング状態で青色、脱ドーピング状態で赤色である。ポリピロール層は、ドーピング状態で黒青色、脱ドーピング状態で黄色である。ポリフルオレン層は、ドーピング状態で黄色、脱ドーピング状態で紫色である。ポリアニリン層は、ドーピング状態で緑色、脱ドーピング状態で透明(無色)である。このようにして、各種の導電性高分子を選択することにより、色の異なる色表示デバイスを作製することができる。
【0053】
本発明にかかる電子デバイスにおいて、作用電極には、電極としての機能を発揮しうる程度の導電性を有する材料であれば、その材料には特に制限はない。色表示素子としての機能を有する電子デバイスを形成する場合は、導電性高分子の色彩を観察することができるようにする観点から、作用電極として導電性の透明電極を用いることが好ましい。このような透明電極として、SnO2電極が好ましく挙げられる。
【0054】
本発明にかかる電子デバイスにおいては、図1を参照して、表面上に導電性高分子層12が形成されている対電極4を含むことが好ましい。図1に示す電子デバイス10においては、作用電極1の導電性高分子層2がドーピングされるときには、電解質3に含まれるイオン性液体のアニオンが導電性高分子層2に移動するため、イオン性液体中のアニオンが不足し、過剰のカチオンが分解することによって電荷中性条件を保つため、イオン性液体の劣化の原因となる。このとき、電子デバイス10中にその表面上に導電性高分子層12が形成されている対電極4が存在すると、対電極4の導電性高分子層12が脱ドーピングされて、導電性高分子12中のアニオンがイオン性液体に移動して、イオン性液体中のアニオン不足を解消するため、イオン性液体の劣化が抑制される。また、図1に示す電子デバイス10において、作用電極1の導電性高分子層2が脱ドーピングされるときには、導電性高分子2中のアニオンがイオン性液体に移動するため、イオン性液体中のアニオンが過剰となり、イオン性液体の劣化の原因となる。このとき、電子デバイス10中にその表面上に導電性高分子層12が形成されている対電極4が存在すると、対電極4の導電性高分子層12がドーピングされて、すなわち、イオン性液体中のアニオンが導電性高分子層12に移動して、イオン性液体中のアニオン過剰を解消するため、イオン性液体の劣化が抑制される。
【0055】
ここで、対電極4の表面上に形成される導電性高分子層12の材料は、作用電極1の表面上に形成される導電性高分子層2の材料と同一であっても異なっていてもよい。
【0056】
また、本発明にかかる電子デバイスにおいては、図2を参照して、対電極4と、対電極4と電解質3との間に形成されているカウンター層22とを含むことが好ましい。ここで、カウンター層22とは、電極(ここでは対電極4をいう)と電解質3との間で電子の授受または擬似的な電荷移動を行なうことができる層をいう。カウンター層22としては、作用電極1の導電性高分子層2のドーピングまたは脱ドーピングの際に、酸化還元反応が起こる金属層(たとえば、ルテニウム、マンガン、亜鉛など。以下、酸化還元金属層という)およびそれらの金属酸化物層(以下、酸化還元金属酸化物層という)などが挙げられる。また、対電極4として表面積の大きい活性炭電極を用いると、この活性炭電極(対電極4)と電解質3との間に電気二重層が形成される。この電気二重層は、対電極4と電解質3との間の電子の授受を行なうことから、カウンター層22に該当する。
【0057】
なお、図1に示す電子デバイスにおいて、対電極4の表面上に形成された導電性高分子層12は、電解質3に含まれるイオン性液体と導電性高分子層12との間でアニオンの移動を行なうことにより、対電極4と電解質3との間で電子の授受を行なうことから、図2に示す電子デバイスにおけるカウンター層22に該当する。したがって、図1の電子デバイス10は、図2の電子デバイス20のカウンター層22として導電性高分子層12を用いたひとつの実施形態に該当する。
【0058】
さらに、本発明にかかる電子デバイスにおいては、上記カウンター層22は、対電極4の表面上に形成されていることが好ましい。カウンター層22が、対電極4の表面上に形成されていることにより、容易に図1または図2に示すような電子デバイス10,20を作製することができる。このようなカウンタ層22としては、図1および図2を参照して対電極4の表面上に掲載されている導電性高分子層12、図2を参照して対電極4上に形成されている酸化還元金属層および金属酸化物層層(カウンター層22)が挙げられる。
【0059】
また、本発明にかかる電子デバイスにおいては、図3または図4を参照して、電子の透過を抑制することなく電解質の透過を抑制する隔膜31をさらに含み、電解質3が隔膜31により作用電極1側の電解質3aと対電極4側の電解質3bとに分けられ、少なくとも作用電極1側の電解質3aはイオン性液体を含むことが好ましい。
【0060】
ここで、作用電極1側の電解質3aと対電極4側の電解質3bとは同一の電解質でも異なる電解質であってもよいが、隔膜31を設けることによって、作用電極1側の電解質3aと対電極4側の電解質3bとで異なる電解質を用いることが可能となり、作用電極1の表面上に形成される導電性高分子層2と、対電極4の表面上に形成される導電性高分子層12またはカウンター層22との組み合わせの幅が広がり、目的に応じた電子デバイスの設計がより容易になる。隔膜31は、電子の透過を抑制することなく電解質の透過を抑制する膜であれば特に制限はないが、ガラスフィルター、陶磁性多孔質体などが好ましく挙げられる。
【0061】
以下に、図1〜図4に対応する本発明にかかる電子デバイスの実施形態をまとめる。
【0062】
(実施形態1)
図1を参照して、本発明にかかる一つの電子デバイス10は、表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、表面上に導電性高分子層12が形成されている対電極4と、導電性高分子層2,12に接触している電解質3とにより構成され、電解質3にはイオン性液体が含まれる。
【0063】
この電子デバイスは、上記のように、作用電極1における印加電圧(作用電極1と対電極4との間に印加する電圧であって、対電極4における電圧に対する作用電極の電圧)を変動させることにより、導電性高分子層2がドーピングまたは脱ドーピングされ、作用電極1における印加電圧を一定にすることにより、導電性高分子層2がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持され、メモリ機能を発現させることができる。
【0064】
(実施形態2)
図2を参照して、本発明にかかる他の電子デバイス20は、表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、表面上にカウンター層22が形成される対電極4と、導電性高分子層2およびカウンター層22に接触している電解質3とにより構成され、電解質3にはイオン性液体が含まれる。
【0065】
この電子デバイスは、上記のように、作用電極1における印加電圧を変動させることにより、導電性高分子層2がドーピングまたは脱ドーピングされ、作用電極1における印加電圧を一定にすることにより、導電性高分子層2がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持され、メモリ機能を発現させることができる。
【0066】
(実施形態3)
図3を参照して、本発明にかかるさらに他の電子デバイス30は、表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、表面上に導電性高分子層12が形成されている対電極4と、導電性高分子層に接触している電解質3と、電子の透過を抑制することなく電解質3の透過を抑制する隔膜31とにより構成され、電解質3は隔膜31により作用電極1側の電解質3aと対電極4側の電解質3bとに分けられ、少なくとも作用電極1側の電解質3にはイオン性液体が含まれる。
【0067】
この電子デバイスは、上記のように、作用電極1における印加電圧を変動させることにより、導電性高分子層2がドーピングまたは脱ドーピングされ、作用電極1における印加電圧を一定にすることにより、導電性高分子層2がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持され、メモリ機能を発現させることができる。また、隔膜31により作用電極1側の電解質3aと対電極4側の電解質3bとで異なる電解質を用いることができ、目的に応じた多様な電子デバイス設計が可能となる。
【0068】
(実施形態4)
図4を参照して、本発明にかかる他の電子デバイス20は、表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、表面上にカウンター層22が形成される対電極4と、導電性高分子層2およびカウンター層22に接触している電解質3とにより構成され、電解質3は隔膜31により作用電極1側の電解質3aと対電極4側の電解質3bとに分けられ、少なくとも作用電極1側の電解質3にはイオン性液体が含まれる。
【0069】
この電子デバイスは、上記のように、作用電極1における印加電圧を変動させることにより、導電性高分子層2がドーピングまたは脱ドーピングされ、作用電極1における印加電圧を一定にすることにより、導電性高分子層2がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持され、メモリ機能を発現させることができる。また、隔膜31により作用電極1側の電解質3aと対電極4側の電解質3bとで異なる電解質を用いることができ、目的に応じた多様な電子デバイス設計が可能となる。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例として、3電極系セルにおけるサイクリックボルタモグラムの結果に基づいて、具体的に電子デバイスを構成した例について説明する。
【0071】
(実施例1)
図5に示す3電極系セルにおいて、電解質3であるイオン性液体としてブチルメチルイミダゾリニウムテトラフルオロボレート(以下、BMImBF4と表す)を用い、作用電極1として表面上に導電性高分子層2である厚さ50μmのポリチオフェン層が形成されているSnO2電極を用い、対電極4として白金電極を用い、参照電極としてAg/AgNO3(0.01M)電極を用い、作用電極1と参照電極9との距離D19を1cm、作用電極1と対電極4との距離D14を1cmとした。
【0072】
上記の3電極系セルにおいて、作用電極1と対電極4との間の印加電圧を最低電圧−2.5Vから最高電圧0.8Vの範囲内で5mV/秒の割合で変化させて、サイクリックボルタモグラム1(以下、SVG1という)を測定した。このSVG1においては、印加電圧は、SHE(標準水素電極)を基準とした電圧に換算して表記している。
【0073】
上記の3電極系セルにおいて得られたSVG1の概略を図9に示す。図9に示すように、上記の3電極系セルにおいて、ドーピング領域電圧VDが0V〜0.8Vであり、脱ドーピング領域電圧VRが−2.5V〜−1.5VであるSVG1が得られた。このことから、上記の3電極系セルにおいては、作用電極1であるSnO2電極における印加電圧を−1.5V〜0Vの範囲内とすることにより、作用電極1上に形成されている導電性高分子層2であるポリチオフェン層のドーピング状態または脱ドーピング状態を保持することができる。
【0074】
上記のSVG1の結果から、図2に示す電子デバイスにおいて、作用電極1がSnO2電極であり、作用電極1の表面に形成される導電性高分子層2が厚さ50μmのポリチオフェン層であり、電解質3がBMImBF4であり、対電極4が0Vに自然電位を有する活性炭電極(このとき、対電極4と電解質3との間にカウンター層22である電気二重層が形成される)であり、作用電極1と対電極4との距離D14が2.5mmである電子デバイスを作製すると、この電子デバイスは、作用電極1における印加電圧を−1.5V〜0Vの範囲内とすることにより、作用電極1上に形成されている導電性高分子層2であるポリチオフェン層のドーピング状態または脱ドーピング状態が保持され、メモリ機能を有することがわかる。
【0075】
(実施例2)
図5に示す3電極系セルにおいて、電解質3であるイオン性液体としてエチルメチルイミダゾリニウムテトラフルオロボレート(以下、EMImBF4と表す)を用い、作用電極1として表面上に導電性高分子層2である厚さ50μmのポリチオフェン層が形成されているSnO2電極を用い、対電極4として白金電極を用い、参照電極としてAg/AgNO3(0.01M)電極を用い、作用電極1と参照電極9との間隔D19を1cm、作用電極1と対電極4との間隔D14を1cmとした。
【0076】
上記の3電極系セルにおいて、作用電極1と対電極4との間の印加電圧を最低電圧−1.0Vから最高電圧1.0Vの範囲内で5mV/秒の割合で変化させて、サイクリックボルタモグラム(以下、SVG2という)を測定した。このSVG2においては、印加電圧は、SHE(標準水素電極)を基準とした電圧に換算して表記している。
【0077】
上記の3電極系セルにおいて得られたSVG2の概略を図10に示す。図10に示すように、上記の3電極系セルにおいて、ドーピング領域電圧VDが0.5V〜1.0Vであり、脱ドーピング領域電圧VRが−1.0V〜0.5VであるSVG2が得られた。このことから、上記の3電極系セルにおいては、作用電極1であるSnO2電極における印加電圧を0.5Vとすることにより、作用電極1上に形成されている導電性高分子層2であるポリチオフェン層のドーピング状態または脱ドーピング状態を保持することができる。
【0078】
上記のSVG2の結果から、図1に示す電子デバイスにおいて、作用電極1がSnO2電極であり、作用電極1の表面に形成される導電性高分子層2が厚さ50μmのポリチオフェン層であり、電解質3がEMImBF4であり、対電極4が自然電位が0Vである活性炭電極(このとき、対電極4と電解質3との間にカウンター層22である電気二重層が形成される)であり、作用電極1と対電極4との距離D14が2.5mmである電子デバイスを作製すると、この電子デバイスは、作用電極1の表面上に形成されているポリチオフェン層における印加電圧を0.5Vとすることにより、作用電極1の表面上に形成されている導電性高分子層2であるポリチオフェン層のドーピング状態または脱ドーピング状態が保持され、メモリ機能を有することがわかる。
【0079】
(実施例3)
図5に示す3電極系セルにおいて、電解質3としてPCに1M(モル/リットルの濃度をいう)のTEABF4を溶解した液を用い、作用電極1として表面上に導電性高分子層2である厚さ50μmのポリチオフェン層が形成されているSnO2電極を用い、対電極4として白金電極を用い、参照電極としてAg/AgNO3(0.01M)電極を用い、作用電極1と参照電極9との間隔D19を1cm、作用電極1と対電極4との間隔D14を1cmとした。
【0080】
上記の3電極系セルにおいて、作用電極1と対電極4との間の印加電圧を最低電圧0.0Vから最高電圧0.8Vの範囲内で5mV/秒の割合で変化させて、サイクリックボルタモグラム(以下、SVG3という)を測定した。このSVG3においては、印加電圧は、SHE(標準水素電極)を基準とした電圧に換算して表記している。
【0081】
上記の3電極系セルにおいて得られたSVG3の概略を図11に示す。図11に示すように、イオン性液体を含まない電解液を用いた場合は、ドーピング領域電圧VDおよび脱ドーピング領域電圧VRが0.0V〜0.8VであるSVG3が得られた。
【0082】
ここで、SVG3と上記SVG2とを対比すると、SVG3におけるドーピング領域電圧VDおよび脱ドーピング領域電圧VRが、SVG2におけるドーピング領域電圧VDと脱ドーピング領域電圧VRとの間に存在していることがわかる。
【0083】
上記のSVG2およびSVG3の結果から、図3に示す電子デバイスにおいて、作用電極1および対電極4がSnO2電極であり、作用電極1および対電極4の表面に形成される導電性高分子層2が厚さ50μmのポリチオフェン層であり、隔膜31である厚さ1mmのガラスフィルターによって電解質3が作用電極1側の電解質3aと対電極4側の電解質3bとに分けられ、作用電極1側の電解質3aがEMImBF4であり、対電極4側の電解質3bが1MのTEABF4を含有するPC溶液であり、作用電極1と対電極4との距離D14が2.5mmである電子デバイスを作製すると、この電子デバイスは、作用電極1であるSnO2電極における印加電圧を0Vとすることにより、すなわち、作用電極1に電圧を印加しなくても、作用電極1の表面上に形成されている導電性高分子層2であるポリチオフェン層のドーピング状態または脱ドーピング状態が保持され、メモリ機能を有することがわかる。
【0084】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明にかかる一つの電子デバイスを示す断面模式図である。
【図2】本発明にかかる他の電子デバイスを示す断面模式図である。
【図3】本発明にかかるさらに他の電子デバイスを示す断面模式図である。
【図4】本発明にかかるさらに他の電子デバイスを示す断面模式図である。
【図5】本発明における3電極系セルを示す模式図である。
【図6】本発明における2電極系セルを示す模式図である。
【図7】(a)および(b)は3電極系セルにおける一つのサイクリックボルタモグラムを示す模式図であり、(c)は2電極系セルにおける一つのサイクリックボルタモグラムを示す模式図である。
【図8】(a)および(b)は3電極系セルにおける他のサイクリックボルタモグラムを示す模式図であり、(c)は2電極系セルにおける他のサイクリックボルタモグラムを示す模式図である。
【図9】3電極系セルにおけるサイクリックボルタモグラムの一例を示す概略図である。
【図10】3電極系セルにおけるサイクリックボルタモグラムの他の例を示す概略図である。
【図11】3電極系セルにおけるサイクリックボルタモグラムのさらに他の例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0086】
1 作用電極、2,12 導電性高分子層、3 電解質、3a 作用電極側の電解質、3b 対電極側の電解質、4 対電極、9 参照電極、10,20,30,40 電子デバイス、22 カウンター層、31 隔膜、50 3電極系セル、60 2電極系セル。
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面上に導電性高分子層が形成されている作用電極と、その導電性高分子層に接触している電解質とを含む電子デバイスに関し、詳しくは、その電解質にイオン性液体を含み、作用電極に一定の電圧(0Vを含む)を印加すれば、その導電性高分子層のドーピング状態または脱ドーピング状態が保持されることにより、メモリ機能が発現する電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン性液体とは、一般に、カチオンとアニオンとから形成されており、室温(たとえば、10℃〜30℃)において液体であるものをいう。常温溶融塩ともいう。
【0003】
かかるイオン性液体は、一般にイミダゾリニウムなどのカチオンと、適当なアニオン(Br-、Cl-、−SO4-、BF4-、PF6-など)との組み合わせで構成されており、高いイオン伝導性や優れた熱安定性を有するため、電池やコンデンサなどの電解液または電解質などへの応用について研究が進められている(たとえば、非特許文献1〜非特許文献3を参照)。
【0004】
また、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性高分子は、各種アニオン、各種カチオンがドーピングされることによって導電性が高められ、電池やコンデンサなどの電解質などへの応用について研究が進められている。
【0005】
しかし、上記導電性高分子を各種アニオンまたは各種カチオンを含む溶媒中に浸漬して電圧を印加しても、導電性高分子がドーピングされる領域の電圧(ドーピング領域電圧)と、導電性高分子が脱ドーピングされる領域の電圧(脱ドーピング領域電圧)は、ほとんど同じであり、ドーピング領域電圧と脱ドーピング領域電圧と差が大きい導電性高分子はは、従来においては見出されていなかった。
【非特許文献1】大野弘幸監修、「イオン性液体」、シーエムシー出版、(2003年)
【非特許文献2】P. Bonhote,他4名、Inorg. Chem., 35,p1168,(1996)
【非特許文献3】A. B. McEwen,他3名、Journal of The Electrachemical Society,146,p1687,(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、作用電極に一定の電圧(0Vを含む)を印加すれば電子デバイス中の導電性高分子層のドーピング状態または脱ドーピング状態が保持され、メモリ機能が発現する電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、表面上に導電性高分子層が形成されている作用電極と、導電性高分子層に接触している電解質とを含む電子デバイスであって、電解質はイオン性液体を含み、作用電極における印加電圧を変動させることにより、導電性高分子層がドーピングまたは脱ドーピングされ、作用電極における印加電圧を一定にすることにより、導電性高分子層がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持されることを特徴とする電子デバイスである。
【0008】
本発明にかかる電子デバイスにおいて、作用電極における印加電圧を0Vにすることにより、導電性高分子層をドーピング状態または脱ドーピング状態に保持することができる。
【0009】
また、本発明にかかる電子デバイスにおいて、上記導電性高分子層は、ドーピング状態における導電率と脱ドーピング状態における導電率とが異なるものとすることができる。また、上記導電性高分子層は、ドーピング状態における色彩と脱ドーピング状態における色彩とが異なるものとすることができる。
【0010】
また、本発明にかかる電子デバイスは、表面上に導電性高分子層が形成されている対電極をさらに含むことができる。
【0011】
また、本発明にかかる電子デバイスは、対電極と、対電極と電解質との間に形成されているカウンター層とをさらに含むことができる。ここで、上記カウンター層は対電極の表面上に形成されていてもよい。
【0012】
さらに、本発明にかかる電子デバイスは、電子の透過を抑制することなく電解質の透過を抑制する隔膜をさらに含み、電解質が隔膜により作用電極側の電解質と対電極側の電解質とに分けられ、少なくとも作用電極側の電解質はイオン性液体を含むことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、作用電極に一定の電圧(0Vを含む)を印加すれば電子デバイス中の導電性高分子層のドーピング状態または脱ドーピング状態が保持され、メモリ機能が発現する電子デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明にかかる電子デバイスは、図1〜図4を参照して、表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、導電性高分子層2に接触している電解質3と、対電極4とを含む電子デバイス10,20であって、電解質3はイオン性液体を含み、作用電極1における印加電圧(作用電極1と対電極4との間に印加する電圧であって、対電極4における電圧に対する作用電極の電圧をいう、以下同じ)を変動させることにより、導電性高分子層2がドーピングまたは脱ドーピングされ、作用電極1における印加電圧を一定にすることにより、導電性高分子層2がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持される。
【0015】
すなわち、本発明は、イオン性液体を含む電解質3を用いることにより、導電性高分子層2がドーピングされるときの電圧(ドーピング電圧という、以下同じ)と、導電性高分子層2が脱ドーピングされるときの電圧(脱ドーピング電圧という、以下同じ)との差が大きくなることを見出し、作用電極1における印加電圧を変動させて導電性高分子層2をドーピングまたは脱ドーピングした後、ドーピング電圧と脱ドーピング電圧との間の一定の電圧を作用電極1に印加させることにより、上記ドーピング状態または脱ドーピング状態を保持し、これによりメモリ機能を発現させることにより完成させたものである。
【0016】
ここで、イオン性液体とは、カチオンとアニオンとから形成されており、室温(たとえば、10℃〜30℃)において液体であるものをいう。常温溶融塩ともいう。イオン性液体は、イオン(カチオンおよびアニオン)のみで形成されているため、100%イオン化しているものと考えられる。
【0017】
イオン性液体のカチオンは、イオン性液体を形成するカチオンであれば特に制限はないが、各種4級化窒素を含むカチオンが好ましい。たとえば、アンモニウムおよびその誘導体、イミダゾリニウムおよびその誘導体、ピリジニウムおよびその誘導体、ピロリジニウムおよびその誘導体、ピロリニウムおよびその誘導体、ピラジニウムおよびその誘導体、ピリミジニウムおよびその誘導体、トリアゾニウムおよびその誘導体、トリアジニウムおよびその誘導体、トリアジン誘導体カチオン、キノリニウムおよびその誘導体、イソキノリニウムおよびその誘導体、インドリニウムおよびその誘導体、キノキサリニウムおよびその誘導体、ピペラジニウムおよびその誘導体、オキサゾリニウムおよびその誘導体、チアゾリニウムおよびその誘導体、モルフォリニウムおよびその誘導体、ピペラジンおよびその誘導体が好ましい。中でも、イミダゾリニウムおよびその誘導体、アンモニウムおよびその誘導体、ピリジニウムおよびその誘導体がより好ましい。ここで、誘導体とは、その基本形となる化合物において置換可能な水素原子のうち少なくとも1つを、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、エーテル基、エステル基、アシル基またはアミノ基などの置換基に置換した化合物をいう。
【0018】
また、イオン性液体のアニオンは、イオン性液体を形成するアニオンであれば特に制限はなく、スルホン酸基アニオン(−SO3-)、硫酸基アニオン(−SO4-)、カルボキシル基アニオン(−COO-)、BF4-、PF6-、ビス(トリフルオロメチルスルホニルアニオン((CF3SO2)2N-)、(トリス(トリフルオロメチルスルフォニル)カルボアニオン((CF3SO2)3C-)、NO3-、ニトロ基アニオン(−NO2-)などが、好ましく挙げられる。
【0019】
ここで、スルホン酸基アニオン(−SO3-)は、RASO3-と記載され(ここで、RAは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、エーテル基、エステル基、アシル基などを含む置換基を示す、また、フッ素原子を含んでもよい)、たとえば、p−CH3C6H4SO3-(p−トルエンスルホン酸アニオン)、C6H5SO3-(ベンゼンスルホン酸アニオン)などが挙げられる。また、RASO3-においては、RAにフッ素原子を含むものがより好ましい。たとえば、CF3SO3-、CHF2CF2CH2SO3-、CHF2−(CF2)3−CH2SO3-などが挙げられる。
【0020】
また、硫酸基アニオン(−OSO3-)は、RBOSO3-と記載され(ここで、RA、RBは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、エーテル基、エステル基、アシル基などを含む置換基を示す、また、フッ素原子を含んでもよい)、たとえば、CH3CH2OCH2CH2OSO3-、C6H5OCH2CH2OSO3-などが挙げられる。またRBOSO3-においては、RBにフッ素原子を含むものがより好ましい。たとえば、CHF2CF2CH2OSO3-、CHF2−(CF2)3−CH2OSO3-、CF3−(CF2)2−CH2OSO3-、CF3−(CF2)6−CH2OSO3-などが挙げられる。
【0021】
また、カルボキシル基アニオン(−COO-)としては、たとえば、RCCOO-、HOOCRCCOO-、-OOCRCCOO-、NH2CHRCCOO-などが挙げられる(ここで、RCは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、エーテル基、エステル基、アシル基などを含む置換基を示す、また、フッ素原子を含んでもよい)。
【0022】
また、ニトロ基アニオン(−NO2-)としては、たとえば、RDNO2-などが挙げられる(ここで、RDは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、エーテル基、エステル基、アシル基などを含む置換基を示す、また、フッ素原子を含んでもよい)。
【0023】
また、電解質には、イオン性液体の他に溶媒が含まれていてもよい。溶媒は、イオン性液体と相溶して溶液となるものであれば特に制限はなく、プロピレンカーボネート、アセトニトリルなどが好ましく挙げられる。また、電解質は、液体であっても固体であってもよい。液体の電解質は、イオン性液体、イオン性液体を含む溶液などで形成される。固体の電解質は、イオン性液体、イオン性液体を含む溶液をゲル化剤(たとえば、反応性モノマーなど)でゲル化することなどにより形成される。
【0024】
また、導電性高分子は、導電性を有する高分子であれば特に制限はなく、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリパラフェニレンビニレン、ポリフルオレン、ポリアニリン、ポリキノンおよびこれらの誘導体などが好ましく挙げられる。ここで、誘導体とは、その基本形となる化合物において置換可能な水素原子のうち少なくとも1つを、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、エーテル基、エステル基、アシル基またはアミノ基などの置換基に置換した化合物をいう。
【0025】
また、これらの導電性高分子は、化学重合法または電解重合法などにより合成される。化学重合法とは、適当な酸化剤の存在下で、たとえばチオフェンなどの原料モノマーを酸化脱水して重合する方法である。酸化剤としては、過硫酸塩、過酸化水素、または鉄、銅、マンガンなどの遷移金属元素の塩が用いられる。電解重合法とは、たとえば、チオフェンなどの原料モノマーを溶媒に溶解し、陽極上で酸化重合を行なう方法である。一般的に、ポリマーの酸化還元電位はモノマーの酸化還元電位に比べて低いため、重合過程でポリマー骨格の酸化重合が進む。
【0026】
なお、これらの導電性高分子に予めドーパントを添加しておくことも可能である。ドーパントは、上記化学重合法または電解重合法において、原料モノマーとドーパントとを共存させた状態で原料モノマーを重合させることにより、導電性高分子に添加される。このようなドーパントとしては、導電性高分子の導電性を高めるものであれば特に制限はないが、−SO3-(スルホン酸基アニオン)、−SO4-(硫酸基アニオン)、−COO-(カルボキシル基アニオン)、BF4-、PF6-などが好ましく挙げられる。
【0027】
ここで、図5に示すような3電極系セル、図6に示すような2電極系セルにおいて、表面上に導電性高分子層が形成されている作用電極と対電極との間に電圧を印加したときの導電性高分子層に生じる現象について検討する。なお、本明細書においては、サイクリックボルタモグラムとは、サイクリックボルタモグラム測定におけるサイクリックボルタモグラムをいうものとする。
【0028】
3電極系セルは、図5を参照して、参照電極9と、表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、対電極4とが、それぞれの主面間の距離がD19(参照電極−作用電極間)、D14(作用電極−対電極間)となるように、電解質3と接触している。ここで、作用電極の表面上に形成された導電性高分子層2も、電解質3を接触している。
【0029】
図5に示す3電極系セル50の作用電極1と対電極4との間に電圧を印加したときの導電性高分子層2のサイクリックボルタモグラムを図7(a)に示す。図7(a)においては、横軸は作用電極1と対電極との間に電圧を印加したときに作用電極1の参照電極9に対する電位差を基にして算出した作用電極1の水素標準電極に対する電位差(以下、作用電極電位という)を示し、縦軸は導電性高分子層2に流れる電流を示す。
【0030】
図7(a)を参照して、作用電極1における印加電圧を上げることにより作用電極電位が上がり導電性高分子層2に電解質3中のアニオンがドーピング(または、カチオンが脱ドーピング)され、作用電極1における印加電圧を下げることにより作用電極電位が下がり導電性高分子層2に電解質3中のアニオンが脱ドーピング(または、カチオンがドーピング)される。ここで、図7(a)に示されているI過程、II過程、III過程およびIV過程は、サイクリックボルタモグラムにおけるサイクリック過程を示す。すなわち、作用電極においては、I過程は作用電極電位増大・正電流増大の過程を、II過程は作用電極電位増大・正電流減少の過程を、III過程は作用電極電位減少・負電流増大の過程を、IV過程は作用電極電位減少・負電流減少の過程をそれぞれ示している。
【0031】
ここで、一般の電解質(たとえば、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(以下、TEABF4という)などの電解質をプロピレンカーボネート(以下、PCという)などの溶媒に溶かしたもの)を用いた場合は、図7(a)の破線のサイクリックボルタモグラムに示すように、ドーピング領域電圧VD(ドーピング開始電圧VDSからドーピング終了電圧VDEまでの電圧をいう、以下同じ)と、脱ドーピング領域電圧VR(脱ドーピング開始電圧VRSから脱ドーピング終了電圧VREまでの電圧をいう、以下同じ)とがほぼ同じになる。
【0032】
これに対して、イオン性液体を含む電解質を用いた場合は、図7(a)の実線のサイクリックボルタモグラムに示すように、ドーピング領域電圧VDと脱ドーピング領域電圧VRとの間に大きな差が生じる。これは、イオン性液体は、導電性高分子の脱ドーピングを起こりにくくさせる作用を有するためと考えられる。
【0033】
なお、図7(a)において、破線のサイクリックボルタモグラムと実線のサイクリックボルタモグラムとの間の最小電圧差をV0と表示する。
【0034】
次に、図5に示すような3電極系セル50の対電極4として、たとえば表面上に導電性高分子層が形成されている対電極であって、図7(a)の破線のサイクリックボルタモグラムの特性を有する電極を用いると、作用電極1におけるサイクリックボルタモグラムは図7(b)の実線のサイクリックボルタモグラムとして表され、対電極4におけるサイクリックボルタモグラムは図7(b)の破線のサイクリックボルタモグラムとして表される。
【0035】
ここで、図5を参照して、対電極4においては作用電極1とは電気化学的に逆反応が起こっているため、対電極4におけるボルタモグラムである図7(b)の破線のボルタモグラムにおいては、I過程は対電極電位(作用電極1と対電極4との間に電圧を印加したときに対電極4の参照電極9に対する電位差を基にして算出した対電極4の水素標準電極に対する電位差をいう、以下同じ)減少・負電流増大過程に、II過程は対電極電位減少・負電流減少過程に、III過程は対電極電位増大・正電流増大過程に、IV過程は対電極電位増大・正電流減少過程にそれぞれ該当する。
【0036】
一方、2電極系セルは、図6を参照して、表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、表面上に導電性高分子層12が形成されている対電極4とが、それらの主面間の距離がD14(作用電極−対電極間)となるように、電解質3と接触している。ここで、作用電極の表面上に形成された導電性高分子層2も、電解質3を接触している。2電極系セルにおいては、イオン性液体を含む電解質を用いる。ここで、表面上に導電性高分子層12が形成されている対電極4は、図5に示すような3電極系セルの対電極4としては図7(b)の破線のボルタモグラムの特性を有するものとする。また、作用電極1の表面上に形成される導電性高分子層2と、対電極4の表面上に形成される導電性高分子層12とは、同一であっても異なっていてもよい。
【0037】
図6に示す2電極系セル60の作用電極1と対電極4との間に電圧を印加したときの導電性高分子層2のサイクリックボルタモグラムを図7(c)に示す。図7(c)においては、横軸は作用電極1における印加電圧を示し、縦軸は導電性高分子層2に流れる電流を示す。
【0038】
図7(c)のサイクリックボルタモグラムは、理論的には、、図7(b)の実線のサイクリックボルタモグラム(作用電極1におけるサイクリックボルタモグラム)と、破線のサイクリックボルタモグラム(対電極4におけるサイクリックボルタモグラム)とを、それぞれのI過程、II過程、III過程およびIV過程を対応させて合成することによって得られる。
【0039】
図7(c)を参照して、作用電極1における印加電圧を上げることにより導電性高分子層層2に電解質3中のアニオンがドーピング(または、カチオンが脱ドーピング)され、作用電極1における印加電圧を下げることにより導電性高分子層2に電解質3中のアニオンが脱ドーピング(または、カチオンがドーピング)される。また、電解質中にイオン性液体を含むことから、図7(c)のサイクリックボルタモグラムには、ドーピング領域電圧VDと脱ドーピング領域電圧VRとの間に大きな差が生じる。これは、イオン性液体は、導電性高分子の脱ドーピングを起こりにくくさせる作用を有するためと考えられる。
【0040】
このことから、上記2電極系セルにおいて、作用電極1における印加電圧を変動することにより、導電性高分子層2をドーピングまたは脱ドーピングして、作用電極1における印加電圧をドーピング領域電圧VDと脱ドーピング領域電圧VRとの間の一定の電圧とすることにより、導電性高分子層2をドーピング状態または脱ドーピング状態に保持することができる。
【0041】
なお、図7(a)および図7(b)における最小電圧差V0の大きさが、図7(c)におけるサイクリックボルタモグラムと原点(0V)と間の最小電圧差V0の大きさと同じになる。また、図7(a)〜図7(c)において、破線のサイクリックボルタモグラムにおけるVDS、VDE、VRSおよびVREの各点を白丸で、実線のサイクリックボルタモグラムにおけるVDS、VDE、VRSおよびVREの各点を黒丸で示す。このVDS、VDE、VRSおよびVREの各点の表示形式は、以下の図8(a)〜図8(c)においても同様である。
【0042】
上記のように、図1〜図4を参照して、表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、導電性高分子層2に接触しイオン性液体を含む電解質3とを含む電子デバイス10,20を形成することにより、作用電極1における印加電圧を変動させることにより導電性高分子層2がドーピングまたは脱ドーピングして、作用電極1における印加電圧をドーピング領域電圧VDと脱ドーピング領域電圧VRとの間の一定電圧とすることにより、導電性高分子層2がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持され、メモリ機能を有するデバイスを形成することができる。
【0043】
ここで、電解質中のイオン性液体の含有量は、特に制限はないが、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。イオン性液体の含有量が50質量%未満であると、ドーピング領域電圧VDと脱ドーピング領域電圧VRとの間の差が小さくなり、メモリ機能を発揮できる印加電圧の範囲が狭くなる。
【0044】
また、図5に示す3電極系セル50において、作用電極1の表面上に形成される導電性高分子2によっては、図8(a)に示すように、一般の電解質を用いた場合の作用電極1の表面上に形成されている導電性高分子2のサイクリックボルタモグラム(破線のサイクリックボルタモグラム)のドーピング領域電圧VDおよび脱ドーピング領域電圧VRが、イオン性液体を含む電解質を用いた場合の作用電極の表面上に形成されている導電性高分子2のサイクリックボルタモグラム(実線のサイクリックボルタモグラム)のドーピング領域電圧VDおよび脱ドーピング領域電圧VRの間に位置する場合がある。
【0045】
この場合において、図5に示すような3電極系セル50の対電極4として、たとえば表面上に導電性高分子層が形成されている対電極を用いる。かかる対電極4におけるサイクリックボルタモグラムは、図8(b)のサイクリックボルタモグラムで表される。
【0046】
さらに、図6を参照して、表面上に導電性高分子層2が形成されており図8(b)の実線のサイクリックボルタモグラムの特性を有する作用電極1と、表面上に導電性高分子層12が形成されており図8(b)の破線のサイクリックボルタモグラムの特性を有する対電極4とを含む2電極系セル60を形成する。この2電極系セル60における作用電極1の表面上に形成されている導電性高分子2のサイクリックボルタモグラム(図8(c)のサイクリックボルタモグラム)は、理論的には、図8(b)の実線のサイクリックボルタモグラムと、破線のサイクリックボルタモグラムとを、それぞれのI過程、II過程、III過程およびIV過程を対応させて合成することにより得られる。
【0047】
図8(c)を参照して、作用電極1の表面上に形成されている導電性高分子2のサイクリックボルタモグラムには、ドーピング領域電圧VDと脱ドーピング領域電圧VRとの間に0Vが存在する。このことは、作用電極1における印加電圧が0Vであっても(換言すれば、作用電極1と対電極4との間に電圧を印加しなくても)、導電性高分子2のドーピング状態または脱ドーピング状態が保持されることを意味する。
【0048】
このことから、上記2電極系セルにおいて、作用電極1の表面上に上記のような導電性高分子を形成し、この作用電極1における印加電圧を変動することにより、導電性高分子層2をドーピングまたは脱ドーピングして、作用電極1における印加電圧を0Vとしても、導電性高分子層2をドーピング状態または脱ドーピング状態に保持することができる。
【0049】
すなわち、図1〜図4を参照して、作用電極1の表面上に上記のような導電性高分子層2を形成し、この導電性高分子層2に接触しイオン性液体を含む電解質3と、対電極4とを含む電子デバイス10,20を形成することにより、作用電極1における印加電圧を変動させることにより導電性高分子層2がドーピングまたは脱ドーピングして、作用電極1における印加電圧を0Vとしても(すなわち、作用電極1と対電極4との間に電圧を印加しなくても)、導電性高分子層2がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持され、メモリ機能を有する電子デバイスを形成することができる。
【0050】
本発明にかかる電子デバイスにおいて、導電性高分子のドーピング状態における導電率と脱ドーピング状態における導電率とを異なるようにすることができる。ドーピング状態と脱ドーピング状態との間で導電性高分子の導電率に差を設けることにより、メモリー機能を有する電子デバイス(メモリーデバイス)、スイッチング機能を有する電子デバイス(スイッチングデバイス)を容易に作製することができる。ここで、導電性高分子にドーピングまたは脱ドーピングされるドーパントは、イオン性液体中のアニオンまたはカチオンであるため、ドーピング状態と脱ドーピング状態との間で導電性高分子層の誘電率に差を設けることは容易である。
【0051】
また、本発明にかかる電子デバイスにおいて、導電性高分子層のドーピング状態における色彩と脱ドーピング状態における色彩とを異なるようにすることができる。ドーピング状態と脱ドーピング状態との間で導電性高分子層の色彩に差を設けることにより、色表示機能をを有する電子デバイス(色表示デバイス)を容易に作製することができる。
【0052】
たとえば、導電性高分子層にアニオンがドーピングまたは脱ドーピングする場合は、導電性高分子の色彩は以下のように異なる。ポリチオフェン層は、ドーピング状態で青色、脱ドーピング状態で赤色である。ポリピロール層は、ドーピング状態で黒青色、脱ドーピング状態で黄色である。ポリフルオレン層は、ドーピング状態で黄色、脱ドーピング状態で紫色である。ポリアニリン層は、ドーピング状態で緑色、脱ドーピング状態で透明(無色)である。このようにして、各種の導電性高分子を選択することにより、色の異なる色表示デバイスを作製することができる。
【0053】
本発明にかかる電子デバイスにおいて、作用電極には、電極としての機能を発揮しうる程度の導電性を有する材料であれば、その材料には特に制限はない。色表示素子としての機能を有する電子デバイスを形成する場合は、導電性高分子の色彩を観察することができるようにする観点から、作用電極として導電性の透明電極を用いることが好ましい。このような透明電極として、SnO2電極が好ましく挙げられる。
【0054】
本発明にかかる電子デバイスにおいては、図1を参照して、表面上に導電性高分子層12が形成されている対電極4を含むことが好ましい。図1に示す電子デバイス10においては、作用電極1の導電性高分子層2がドーピングされるときには、電解質3に含まれるイオン性液体のアニオンが導電性高分子層2に移動するため、イオン性液体中のアニオンが不足し、過剰のカチオンが分解することによって電荷中性条件を保つため、イオン性液体の劣化の原因となる。このとき、電子デバイス10中にその表面上に導電性高分子層12が形成されている対電極4が存在すると、対電極4の導電性高分子層12が脱ドーピングされて、導電性高分子12中のアニオンがイオン性液体に移動して、イオン性液体中のアニオン不足を解消するため、イオン性液体の劣化が抑制される。また、図1に示す電子デバイス10において、作用電極1の導電性高分子層2が脱ドーピングされるときには、導電性高分子2中のアニオンがイオン性液体に移動するため、イオン性液体中のアニオンが過剰となり、イオン性液体の劣化の原因となる。このとき、電子デバイス10中にその表面上に導電性高分子層12が形成されている対電極4が存在すると、対電極4の導電性高分子層12がドーピングされて、すなわち、イオン性液体中のアニオンが導電性高分子層12に移動して、イオン性液体中のアニオン過剰を解消するため、イオン性液体の劣化が抑制される。
【0055】
ここで、対電極4の表面上に形成される導電性高分子層12の材料は、作用電極1の表面上に形成される導電性高分子層2の材料と同一であっても異なっていてもよい。
【0056】
また、本発明にかかる電子デバイスにおいては、図2を参照して、対電極4と、対電極4と電解質3との間に形成されているカウンター層22とを含むことが好ましい。ここで、カウンター層22とは、電極(ここでは対電極4をいう)と電解質3との間で電子の授受または擬似的な電荷移動を行なうことができる層をいう。カウンター層22としては、作用電極1の導電性高分子層2のドーピングまたは脱ドーピングの際に、酸化還元反応が起こる金属層(たとえば、ルテニウム、マンガン、亜鉛など。以下、酸化還元金属層という)およびそれらの金属酸化物層(以下、酸化還元金属酸化物層という)などが挙げられる。また、対電極4として表面積の大きい活性炭電極を用いると、この活性炭電極(対電極4)と電解質3との間に電気二重層が形成される。この電気二重層は、対電極4と電解質3との間の電子の授受を行なうことから、カウンター層22に該当する。
【0057】
なお、図1に示す電子デバイスにおいて、対電極4の表面上に形成された導電性高分子層12は、電解質3に含まれるイオン性液体と導電性高分子層12との間でアニオンの移動を行なうことにより、対電極4と電解質3との間で電子の授受を行なうことから、図2に示す電子デバイスにおけるカウンター層22に該当する。したがって、図1の電子デバイス10は、図2の電子デバイス20のカウンター層22として導電性高分子層12を用いたひとつの実施形態に該当する。
【0058】
さらに、本発明にかかる電子デバイスにおいては、上記カウンター層22は、対電極4の表面上に形成されていることが好ましい。カウンター層22が、対電極4の表面上に形成されていることにより、容易に図1または図2に示すような電子デバイス10,20を作製することができる。このようなカウンタ層22としては、図1および図2を参照して対電極4の表面上に掲載されている導電性高分子層12、図2を参照して対電極4上に形成されている酸化還元金属層および金属酸化物層層(カウンター層22)が挙げられる。
【0059】
また、本発明にかかる電子デバイスにおいては、図3または図4を参照して、電子の透過を抑制することなく電解質の透過を抑制する隔膜31をさらに含み、電解質3が隔膜31により作用電極1側の電解質3aと対電極4側の電解質3bとに分けられ、少なくとも作用電極1側の電解質3aはイオン性液体を含むことが好ましい。
【0060】
ここで、作用電極1側の電解質3aと対電極4側の電解質3bとは同一の電解質でも異なる電解質であってもよいが、隔膜31を設けることによって、作用電極1側の電解質3aと対電極4側の電解質3bとで異なる電解質を用いることが可能となり、作用電極1の表面上に形成される導電性高分子層2と、対電極4の表面上に形成される導電性高分子層12またはカウンター層22との組み合わせの幅が広がり、目的に応じた電子デバイスの設計がより容易になる。隔膜31は、電子の透過を抑制することなく電解質の透過を抑制する膜であれば特に制限はないが、ガラスフィルター、陶磁性多孔質体などが好ましく挙げられる。
【0061】
以下に、図1〜図4に対応する本発明にかかる電子デバイスの実施形態をまとめる。
【0062】
(実施形態1)
図1を参照して、本発明にかかる一つの電子デバイス10は、表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、表面上に導電性高分子層12が形成されている対電極4と、導電性高分子層2,12に接触している電解質3とにより構成され、電解質3にはイオン性液体が含まれる。
【0063】
この電子デバイスは、上記のように、作用電極1における印加電圧(作用電極1と対電極4との間に印加する電圧であって、対電極4における電圧に対する作用電極の電圧)を変動させることにより、導電性高分子層2がドーピングまたは脱ドーピングされ、作用電極1における印加電圧を一定にすることにより、導電性高分子層2がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持され、メモリ機能を発現させることができる。
【0064】
(実施形態2)
図2を参照して、本発明にかかる他の電子デバイス20は、表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、表面上にカウンター層22が形成される対電極4と、導電性高分子層2およびカウンター層22に接触している電解質3とにより構成され、電解質3にはイオン性液体が含まれる。
【0065】
この電子デバイスは、上記のように、作用電極1における印加電圧を変動させることにより、導電性高分子層2がドーピングまたは脱ドーピングされ、作用電極1における印加電圧を一定にすることにより、導電性高分子層2がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持され、メモリ機能を発現させることができる。
【0066】
(実施形態3)
図3を参照して、本発明にかかるさらに他の電子デバイス30は、表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、表面上に導電性高分子層12が形成されている対電極4と、導電性高分子層に接触している電解質3と、電子の透過を抑制することなく電解質3の透過を抑制する隔膜31とにより構成され、電解質3は隔膜31により作用電極1側の電解質3aと対電極4側の電解質3bとに分けられ、少なくとも作用電極1側の電解質3にはイオン性液体が含まれる。
【0067】
この電子デバイスは、上記のように、作用電極1における印加電圧を変動させることにより、導電性高分子層2がドーピングまたは脱ドーピングされ、作用電極1における印加電圧を一定にすることにより、導電性高分子層2がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持され、メモリ機能を発現させることができる。また、隔膜31により作用電極1側の電解質3aと対電極4側の電解質3bとで異なる電解質を用いることができ、目的に応じた多様な電子デバイス設計が可能となる。
【0068】
(実施形態4)
図4を参照して、本発明にかかる他の電子デバイス20は、表面上に導電性高分子層2が形成されている作用電極1と、表面上にカウンター層22が形成される対電極4と、導電性高分子層2およびカウンター層22に接触している電解質3とにより構成され、電解質3は隔膜31により作用電極1側の電解質3aと対電極4側の電解質3bとに分けられ、少なくとも作用電極1側の電解質3にはイオン性液体が含まれる。
【0069】
この電子デバイスは、上記のように、作用電極1における印加電圧を変動させることにより、導電性高分子層2がドーピングまたは脱ドーピングされ、作用電極1における印加電圧を一定にすることにより、導電性高分子層2がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持され、メモリ機能を発現させることができる。また、隔膜31により作用電極1側の電解質3aと対電極4側の電解質3bとで異なる電解質を用いることができ、目的に応じた多様な電子デバイス設計が可能となる。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例として、3電極系セルにおけるサイクリックボルタモグラムの結果に基づいて、具体的に電子デバイスを構成した例について説明する。
【0071】
(実施例1)
図5に示す3電極系セルにおいて、電解質3であるイオン性液体としてブチルメチルイミダゾリニウムテトラフルオロボレート(以下、BMImBF4と表す)を用い、作用電極1として表面上に導電性高分子層2である厚さ50μmのポリチオフェン層が形成されているSnO2電極を用い、対電極4として白金電極を用い、参照電極としてAg/AgNO3(0.01M)電極を用い、作用電極1と参照電極9との距離D19を1cm、作用電極1と対電極4との距離D14を1cmとした。
【0072】
上記の3電極系セルにおいて、作用電極1と対電極4との間の印加電圧を最低電圧−2.5Vから最高電圧0.8Vの範囲内で5mV/秒の割合で変化させて、サイクリックボルタモグラム1(以下、SVG1という)を測定した。このSVG1においては、印加電圧は、SHE(標準水素電極)を基準とした電圧に換算して表記している。
【0073】
上記の3電極系セルにおいて得られたSVG1の概略を図9に示す。図9に示すように、上記の3電極系セルにおいて、ドーピング領域電圧VDが0V〜0.8Vであり、脱ドーピング領域電圧VRが−2.5V〜−1.5VであるSVG1が得られた。このことから、上記の3電極系セルにおいては、作用電極1であるSnO2電極における印加電圧を−1.5V〜0Vの範囲内とすることにより、作用電極1上に形成されている導電性高分子層2であるポリチオフェン層のドーピング状態または脱ドーピング状態を保持することができる。
【0074】
上記のSVG1の結果から、図2に示す電子デバイスにおいて、作用電極1がSnO2電極であり、作用電極1の表面に形成される導電性高分子層2が厚さ50μmのポリチオフェン層であり、電解質3がBMImBF4であり、対電極4が0Vに自然電位を有する活性炭電極(このとき、対電極4と電解質3との間にカウンター層22である電気二重層が形成される)であり、作用電極1と対電極4との距離D14が2.5mmである電子デバイスを作製すると、この電子デバイスは、作用電極1における印加電圧を−1.5V〜0Vの範囲内とすることにより、作用電極1上に形成されている導電性高分子層2であるポリチオフェン層のドーピング状態または脱ドーピング状態が保持され、メモリ機能を有することがわかる。
【0075】
(実施例2)
図5に示す3電極系セルにおいて、電解質3であるイオン性液体としてエチルメチルイミダゾリニウムテトラフルオロボレート(以下、EMImBF4と表す)を用い、作用電極1として表面上に導電性高分子層2である厚さ50μmのポリチオフェン層が形成されているSnO2電極を用い、対電極4として白金電極を用い、参照電極としてAg/AgNO3(0.01M)電極を用い、作用電極1と参照電極9との間隔D19を1cm、作用電極1と対電極4との間隔D14を1cmとした。
【0076】
上記の3電極系セルにおいて、作用電極1と対電極4との間の印加電圧を最低電圧−1.0Vから最高電圧1.0Vの範囲内で5mV/秒の割合で変化させて、サイクリックボルタモグラム(以下、SVG2という)を測定した。このSVG2においては、印加電圧は、SHE(標準水素電極)を基準とした電圧に換算して表記している。
【0077】
上記の3電極系セルにおいて得られたSVG2の概略を図10に示す。図10に示すように、上記の3電極系セルにおいて、ドーピング領域電圧VDが0.5V〜1.0Vであり、脱ドーピング領域電圧VRが−1.0V〜0.5VであるSVG2が得られた。このことから、上記の3電極系セルにおいては、作用電極1であるSnO2電極における印加電圧を0.5Vとすることにより、作用電極1上に形成されている導電性高分子層2であるポリチオフェン層のドーピング状態または脱ドーピング状態を保持することができる。
【0078】
上記のSVG2の結果から、図1に示す電子デバイスにおいて、作用電極1がSnO2電極であり、作用電極1の表面に形成される導電性高分子層2が厚さ50μmのポリチオフェン層であり、電解質3がEMImBF4であり、対電極4が自然電位が0Vである活性炭電極(このとき、対電極4と電解質3との間にカウンター層22である電気二重層が形成される)であり、作用電極1と対電極4との距離D14が2.5mmである電子デバイスを作製すると、この電子デバイスは、作用電極1の表面上に形成されているポリチオフェン層における印加電圧を0.5Vとすることにより、作用電極1の表面上に形成されている導電性高分子層2であるポリチオフェン層のドーピング状態または脱ドーピング状態が保持され、メモリ機能を有することがわかる。
【0079】
(実施例3)
図5に示す3電極系セルにおいて、電解質3としてPCに1M(モル/リットルの濃度をいう)のTEABF4を溶解した液を用い、作用電極1として表面上に導電性高分子層2である厚さ50μmのポリチオフェン層が形成されているSnO2電極を用い、対電極4として白金電極を用い、参照電極としてAg/AgNO3(0.01M)電極を用い、作用電極1と参照電極9との間隔D19を1cm、作用電極1と対電極4との間隔D14を1cmとした。
【0080】
上記の3電極系セルにおいて、作用電極1と対電極4との間の印加電圧を最低電圧0.0Vから最高電圧0.8Vの範囲内で5mV/秒の割合で変化させて、サイクリックボルタモグラム(以下、SVG3という)を測定した。このSVG3においては、印加電圧は、SHE(標準水素電極)を基準とした電圧に換算して表記している。
【0081】
上記の3電極系セルにおいて得られたSVG3の概略を図11に示す。図11に示すように、イオン性液体を含まない電解液を用いた場合は、ドーピング領域電圧VDおよび脱ドーピング領域電圧VRが0.0V〜0.8VであるSVG3が得られた。
【0082】
ここで、SVG3と上記SVG2とを対比すると、SVG3におけるドーピング領域電圧VDおよび脱ドーピング領域電圧VRが、SVG2におけるドーピング領域電圧VDと脱ドーピング領域電圧VRとの間に存在していることがわかる。
【0083】
上記のSVG2およびSVG3の結果から、図3に示す電子デバイスにおいて、作用電極1および対電極4がSnO2電極であり、作用電極1および対電極4の表面に形成される導電性高分子層2が厚さ50μmのポリチオフェン層であり、隔膜31である厚さ1mmのガラスフィルターによって電解質3が作用電極1側の電解質3aと対電極4側の電解質3bとに分けられ、作用電極1側の電解質3aがEMImBF4であり、対電極4側の電解質3bが1MのTEABF4を含有するPC溶液であり、作用電極1と対電極4との距離D14が2.5mmである電子デバイスを作製すると、この電子デバイスは、作用電極1であるSnO2電極における印加電圧を0Vとすることにより、すなわち、作用電極1に電圧を印加しなくても、作用電極1の表面上に形成されている導電性高分子層2であるポリチオフェン層のドーピング状態または脱ドーピング状態が保持され、メモリ機能を有することがわかる。
【0084】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明にかかる一つの電子デバイスを示す断面模式図である。
【図2】本発明にかかる他の電子デバイスを示す断面模式図である。
【図3】本発明にかかるさらに他の電子デバイスを示す断面模式図である。
【図4】本発明にかかるさらに他の電子デバイスを示す断面模式図である。
【図5】本発明における3電極系セルを示す模式図である。
【図6】本発明における2電極系セルを示す模式図である。
【図7】(a)および(b)は3電極系セルにおける一つのサイクリックボルタモグラムを示す模式図であり、(c)は2電極系セルにおける一つのサイクリックボルタモグラムを示す模式図である。
【図8】(a)および(b)は3電極系セルにおける他のサイクリックボルタモグラムを示す模式図であり、(c)は2電極系セルにおける他のサイクリックボルタモグラムを示す模式図である。
【図9】3電極系セルにおけるサイクリックボルタモグラムの一例を示す概略図である。
【図10】3電極系セルにおけるサイクリックボルタモグラムの他の例を示す概略図である。
【図11】3電極系セルにおけるサイクリックボルタモグラムのさらに他の例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0086】
1 作用電極、2,12 導電性高分子層、3 電解質、3a 作用電極側の電解質、3b 対電極側の電解質、4 対電極、9 参照電極、10,20,30,40 電子デバイス、22 カウンター層、31 隔膜、50 3電極系セル、60 2電極系セル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上に導電性高分子層が形成されている作用電極と、前記導電性高分子層に接触している電解質とを含む電子デバイスであって、
前記電解質はイオン性液体を含み、
前記作用電極における印加電圧を変動させることにより、前記導電性高分子層がドーピングまたは脱ドーピングされ、
前記作用電極における印加電圧を一定にすることにより、前記導電性高分子層がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持されることを特徴とする電子デバイス。
【請求項2】
前記作用電極における印加電圧を0Vにすることにより、前記導電性高分子層がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持されることを特徴とする請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項3】
前記導電性高分子層は、ドーピング状態における導電率と脱ドーピング状態における導電率とが異なることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子デバイス。
【請求項4】
前記導電性高分子層は、ドーピング状態における色彩と脱ドーピング状態における色彩とが異なることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子デバイス。
【請求項5】
表面上に前記導電性高分子層が形成されている対電極をさらに含む請求項1から請求項4までのいずれかに記載の電子デバイス。
【請求項6】
対電極と、前記対電極と前記電解質との間に形成されているカウンター層とをさらに含む請求項1から請求項4までのいずれかに記載の電子デバイス。
【請求項7】
前記カウンター層が、前記対電極の表面上に形成されている請求項6に記載の電子デバイス。
【請求項8】
電子の透過を抑制することなく電解質の透過を抑制する隔膜をさらに含み、前記電解質が前記隔膜により作用電極側の電解質と対電極側の電解質とに分けられ、
少なくとも前記作用電極側の電解質はイオン性液体を含むことを特徴とする請求項5から請求項7までのいずれかに記載の電子デバイス。
【請求項1】
表面上に導電性高分子層が形成されている作用電極と、前記導電性高分子層に接触している電解質とを含む電子デバイスであって、
前記電解質はイオン性液体を含み、
前記作用電極における印加電圧を変動させることにより、前記導電性高分子層がドーピングまたは脱ドーピングされ、
前記作用電極における印加電圧を一定にすることにより、前記導電性高分子層がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持されることを特徴とする電子デバイス。
【請求項2】
前記作用電極における印加電圧を0Vにすることにより、前記導電性高分子層がドーピング状態または脱ドーピング状態に保持されることを特徴とする請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項3】
前記導電性高分子層は、ドーピング状態における導電率と脱ドーピング状態における導電率とが異なることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子デバイス。
【請求項4】
前記導電性高分子層は、ドーピング状態における色彩と脱ドーピング状態における色彩とが異なることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子デバイス。
【請求項5】
表面上に前記導電性高分子層が形成されている対電極をさらに含む請求項1から請求項4までのいずれかに記載の電子デバイス。
【請求項6】
対電極と、前記対電極と前記電解質との間に形成されているカウンター層とをさらに含む請求項1から請求項4までのいずれかに記載の電子デバイス。
【請求項7】
前記カウンター層が、前記対電極の表面上に形成されている請求項6に記載の電子デバイス。
【請求項8】
電子の透過を抑制することなく電解質の透過を抑制する隔膜をさらに含み、前記電解質が前記隔膜により作用電極側の電解質と対電極側の電解質とに分けられ、
少なくとも前記作用電極側の電解質はイオン性液体を含むことを特徴とする請求項5から請求項7までのいずれかに記載の電子デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−257149(P2006−257149A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73261(P2005−73261)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】
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