説明

電子ビーム照射方法、及び走査電子顕微鏡

【課題】本発明は、予備照射領域内に異なる複数の材質が含まれていたり、予備照射領域内のパターンの密集度が位置によって異なるような試料であっても、帯電の不均一さを抑制することが可能な荷電粒子ビーム照射方法、及び荷電粒子線装置の提供を目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するために、予備照射領域を複数の領域に分割し、当該複数の領域に対し、異なるビーム照射条件のビームを用いて、帯電を付着する荷電粒子ビーム照射方法、及び荷電粒子線装置を提案する。上記構成によれば、予備照射領域内で、各位置の帯電の差異を抑制し得るような照射条件に基づいて、予備照射領域に対する帯電の付着が可能となるため、荷電粒子ビームや試料から放出される電子に対する電界の影響を抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡及び電子ビーム照射方法、及びそのためのコンピュータプログラムに係り、特に、ビーム照射によって予め試料に帯電を付着させ、当該帯電付着領域に対して、ビームを照射するときの電子ビーム照射方法,電子顕微鏡、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置の一態様である走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)では、電子ビームを照射することにより発生する帯電を活用した観察法が知られている。その観察法を用いた観察対象として、例えば、半導体デバイスのコンタクトホールがある。半導体デバイスの微細化に伴って、ホールのアスペクト比(穴径に対する穴の深さの比)は増加の傾向にある。例えばアスペクト比が20のホールの観察を考えた場合、ホールの底から放出される電子が、ホールの側壁に衝突する可能性が高くなり、当該電子を検出することができなくなるため、穴底の形状観察が困難になる場合がある。
【0003】
上記帯電を活用した観察法は、一例として穴底から放出される電子を引き上げるために、用いられる。穴底で発生した二次電子を引き上げるためには、穴の表面(入口)に正の帯電を与え、引き上げ電界を形成することが必要である。このため、観察とは別にプリドーズ(予備照射)と呼ばれる低倍率、或いは観察用のビームに比べて二次電子の放出効率(試料から放出される電子/試料に入射する電子)が大きなビームを用いた電子線照射を行うことで、正の帯電を与えている。
【0004】
正帯電を与えた後に、通常の観察を行うと、穴底で発生した二次電子は、表面の正帯電により形成される引き上げ電界によって穴の外に引き上げられる。この電子を検出することで、穴の底の形状を観察することが可能である。特許文献1乃至4には、電子ビーム照射による予備照射によって、試料に帯電を付着させた後に、観察用のビームを照射する観察法が説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−208085号公報(対応米国特許USP6,344,750)
【特許文献2】特表2002−524827号公報(対応米国特許USP6,570,154)
【特許文献3】特開平05−151927号公報(対応米国特許USP5,412,209)
【特許文献4】特開2009−99540号公報(対応米国特許公開公報US2009/0084954)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体デバイスの集積化に伴い、パターンの微細化,複雑化が進み、予備照射領域内における帯電が面内において不均一になる可能性のあることが、発明者らの検討によって明らかになった。即ち、特許文献1乃至3に説明されているように予備帯電領域全域に亘って均一なビーム照射条件にて予備帯電照射を行うと、部分的に他とは異なる帯電が生じる可能性がある。このように、予備帯電が照射領域内で不均一となると、その不均一な帯電によって、ホール底から放出される電子が偏向される可能性がある。また、観察用のビームも偏向される可能性がある。
【0007】
また、特許文献4に説明されているように予備照射を、倍率を変えつつ、複数段階で行うことによって、ホール周りの電位分布を平坦化する手法によっても或る程度の帯電均一化を実現できるものの、例えば、予備照射領域内に異なる材質の部材が複数含まれていたり、パターンの密集度が面内で異なることによって生じる帯電の偏りまでは十分に解消し得るものではなかった。
【0008】
以下に、予備照射領域内に異なる複数の材質が含まれていたり、予備照射領域内のパターンの密集度が位置によって異なるような試料であっても、帯電の不均一さを抑制することを目的とする荷電粒子ビーム照射方法、及び荷電粒子線装置について説明する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための一態様として、予備照射領域を複数の領域に分割し、当該複数の領域に対し、異なるビーム照射条件のビームを用いて、帯電を付着する荷電粒子ビーム照射方法、及び荷電粒子線装置を提案する。
【発明の効果】
【0010】
上記態様によれば、予備照射領域内で、各位置の帯電の差異を抑制し得るような照射条件に基づいて、予備照射領域に対する帯電の付着が可能となるため、荷電粒子ビームや試料から放出される電子に対する電界の影響を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】観察点の入力と、試料に付着する帯電の電位の入力に基づいて、プリドーズ条件を決定する工程を説明するフローチャート。
【図2】倍率と帯電電位の関係を説明する図。
【図3】プリドーズ領域の分割に基づいて、プリドーズ条件を決定する工程を説明するフローチャート。
【図4】帯電変化が異なる分割領域がプリドーズ領域内に複数存在する例を説明する図。
【図5】帯電変化領域を除外したプリドーズ領域の設定例を説明する図。
【図6】プリドーズ領域内の帯電量の分布をグラフ化した図。
【図7】二次電子のイールドを考慮したプリドーズ条件を求める工程を説明するフローチャート。
【図8】帯電形成のためのビーム照射と、観察のためのビーム照射を併せて行うための条件設定から観察に至るまでの工程を説明するフローチャート。
【図9】走査電子顕微鏡を含む測定,検査システムの一例を説明する図。
【図10】走査電子顕微鏡の概略構成図。
【図11】設計データ上での測定点の設定に基づいて、プリドーズ条件を決定するプロセスを説明する図。
【図12】設計データ上での測定点の設定に基づいて、プリドーズ条件を決定するプロセスを説明するフローチャート。
【図13】プリドーズ領域内に付着した帯電をベクトルを用いて表現した例を説明する図。
【図14】プリドーズ領域内に付着した帯電をベクトルを用いて表現した例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
近年の半導体デバイスの微細化,高集積化により、コンタクトホールはより細く、深くなっている。これらはHARC(High Aspect Ratio Contact)と呼ばれ、観察が困難となりつつある。
【0013】
HARCの観察法として、試料に予め正の帯電を付着させる予備帯電法が知られている。予備帯電法は観察用のビームを照射する前に、帯電を付着するためのビームを照射し、帯電を付着することによって、試料から放出される電子の軌道を制御するものであり、プリドーズ、或いはプリチャージ法とも呼ばれる。しかしながら、昨今のホールパターンの高アスペクト化によって、観察に必要な帯電電位が増加する傾向にある。より深い穴底から二次電子を引き上げるためには、より強い引き上げ電界を形成する必要があり、結果として、表面に与える正帯電電位も高くする必要がある。
【0014】
正帯電電位とプリドーズの倍率には負の相関があり、電位を上げるには、倍率をより下げる必要がある。これにより、プリドーズ範囲は広くなるため、表面帯電形成時の周囲のパターンの影響が大きくなる。例えば、プリドーズ範囲内に別材料のパターンが含まれる場合には、形成した正帯電の変化(緩和)が起こる帯電時定数が異なるため、一部のみ帯電が抜けるあるいは残るといった現象が起こる。一部の帯電のみが変化するあるいは変化しないことにより、表面直上に形成される電界分布は変化し、一次電子の軌道に影響を与える。
【0015】
観察の際には、高倍率を用いるため、わずかな軌道への影響でも画像には大きく現れる。通常の観察では、S/N改善のために、複数のフレームを重ねた画像を取得するが、フレームを重ねる間に電子線が曲がり、輪郭のぼけた画像となる。
【0016】
また、1つのHARCを観察する毎にプリドーズと観察を切り替える場合、プリドーズと観察の時間が別々に必要であるため、スループットが低下する可能性がある。
【0017】
発明者らは、観察する領域の周囲に形成される予備照射によって付着する帯電の影響により、一次電子(電子ビーム)が影響を受け、観察位置のずれが発生したり、ホール底から放出される電子の軌道が偏向され、ホール側壁に衝突し検出ができなくなる可能性があることに着目した。
【0018】
観察したい試料の表面形状によっては、SEM測定の準備としてプリドーズを実施し、あらかじめ試料表面を正帯電させておくことがある。プリドーズによって形成した正帯電は、プリドーズを行った領域に含まれるパターンおよび材質によって変化(緩和)する。緩和の速度は、材料固有であり、また表面の形状によっても異なる。緩和の速度が速い場合には、観察中に正帯電が減少する。正帯電が減少する速度は、プリドーズ領域内で一定ではなく、含まれるパターンや材質によって異なるため、一次電子は、帯電の不均一な減少によって形成される電界に従い、曲げられる。上記の現象が観察中に起こると、観察している対象が、一定の方向に移動(ドリフト)していく。画像を取得する際には、これによりパターンの輪郭がぼけた画像となる。
【0019】
よって本実施例では、観察中の帯電変化の影響を抑制することで、観察中の画像のドリフト等を抑制する方法、及び装置について、図面を用いて説明する。
【0020】
特に本実施例では、プリドーズ領域内に含まれるパターンを考慮して、帯電分布が均一となるように複数の条件の異なるプリドーズを組み合わせた帯電形成方法を設定する。また、1フレーム内で複数の走査条件を持つことで、正帯電を形成するプリドーズ中に観察を行う。
【0021】
上述のようにプリドーズ領域内に含まれるパターンを考慮して、帯電分布が均一となるようにプリドーズを行うことにより、観察中の帯電変化の影響を抑制し、画像への影響(ドリフト)を抑える。また、面内の帯電分布を均一とすることにより、1回のプリドーズでイメージシフトを用いた複数点の観察が実施でき、スループットの向上が見込める。
【0022】
以下に、適正なプリドーズ条件の設定を可能とする方法,装置,システム、及びコンピュータプログラム(或いは当該コンピュータプログラムを記憶する記憶媒体、或いは当該プログラムを伝達する伝達媒体)について、図面を用いて説明する。より具体的には、測定装置の一種である測長用走査電子顕微鏡(Critical Dimension-Scanning Electron Microscope:CD−SEM)を含む装置,システム、及びこれらで実現されるコンピュータプログラムについて説明する。
【0023】
図9は、データ管理装置901を中心として、複数のSEMが接続されたシステムを例示している。特に本実施例の場合、SEM902は主に半導体露光プロセスに用いられるフォトマスクやレチクルのパターンの測定や検査を行うためのものであり、SEM903は主に、上記フォトマスク等を用いた露光によって半導体ウェハ上に転写されたパターンを測定,検査するためのものである。SEM902とSEM903は、電子顕微鏡としての基本構造に大きな違いはないものの、それぞれ半導体ウェハとフォトマスクの大きさの違いや、帯電に対する耐性の違いに対応した構成となっている。
【0024】
各SEM902,SEM903にはそれぞれの制御装置904,905が接続され、SEMに必要な制御が行われる。各SEMでは、電子源より放出される電子ビームが複数段のレンズにて集束されると共に、集束された電子ビームは走査偏向器によって、試料上を一次元的、或いは二次元的に走査される。
【0025】
電子ビームの走査によって試料より放出される二次電子(Secondary Electron:SE)或いは後方散乱電子(Backscattered Electron:BSE)は、検出器により検出され、前記走査偏向器の走査に同期して、フレームメモリ等の記憶媒体に記憶される。また、走査偏向器による走査は任意の大きさ,位置、及び方向について可能であり、後述する画像を形成するための走査やエッジ部分への選択的走査を可能にしている。
【0026】
以上のような制御等は、各SEMの制御装置904,905にて行われ、電子ビームの走査の結果、得られた画像や信号は、通信回線906,907を介してデータ管理装置901に送られる。なお、本例では、SEMを制御する制御装置と、SEMによって得られた信号に基づいて測定を行うデータ管理装置を別体のものとして、説明しているが、これに限られることはなく、データ管理装置にて装置の制御と測定処理を一括して行うようにしても良いし、各制御装置にて、SEMの制御と測定処理を併せて行うようにしても良い。またビームの照射条件等を、外部の記憶媒体に記憶しておき、制御装置を当該記憶媒体にアクセス可能に構成することも可能である。
【0027】
また、上記データ管理装置、或いは制御装置等のコンピュータには、測定処理を実行するためのプログラムが記憶されており、当該プログラムに従って測定、或いは演算が行われる。当該プログラムは、コンピュータにて読み取り可能な記録媒体に記憶されている。更にデザインデータ管理装置には、半導体製造工程に用いられるフォトマスク(以下単にマスクと称することもある)やウェハの設計データが記憶されている。この設計データは例えばGDSフォーマットやOASISフォーマットなどで表現されており、所定の形式にて記憶されている。なお、設計データは、設計データを表示するソフトウェアがそのフォーマット形式を表示でき、図形データとして取り扱うことができれば、その種類は問わない。また、データ管理装置とは別に設けられた記憶媒体にデザインデータを記憶させておいても良い。
【0028】
また、データ管理装置901には、シミュレータ908が接続されている。シミュレータ908には、外部の記憶媒体、或いはデータ管理装置901に記憶された設計データと、半導体製造プロセス条件等に基づいて、パターンレイアウトを作成するプログラムと、それを実行する演算装置が内蔵されており、当該シミュレーション後のレイアウトデータを、データ管理装置に伝送可能に構成されている。なお、本実施例では、シミュレーションをシミュレータ908内にて行う例について説明するが、これに限られることはなく、例えばデータ管理装置901内にて、上記プログラムを実行することにより、シミュレーションを行うようにしても良い。
【0029】
また、データ管理装置901は、SEMの動作を制御するプログラム(レシピ)を、半導体の設計データに基づいて作成する機能が備えられており、レシピ設定部としても機能する。具体的には、設計データ,パターンの輪郭線データ、或いはシミュレーションが施された設計データ上で所望の測定点,オートフォーカス,オートスティグマ,アドレッシング点等のSEMにとって必要な処理を行うための位置等を設定し、当該設定に基づいて、SEMの試料ステージや偏向器等を自動制御するためのプログラムを作成する。すなわち、データ管理装置901や制御装置905は測定条件設定装置として機能する。
【0030】
図10は、走査電子顕微鏡の概略構成図である。電子源1001から引出電極1002によって引き出され、図示しない加速電極によって加速された電子ビーム1003は、集束レンズの一形態であるコンデンサレンズ1004によって、絞られた後に、走査偏向器1005により、試料1009上を一次元的、或いは二次元的に走査される。電子ビーム1003は試料台1008に内蔵された電極に印加された負電圧により減速されると共に、対物レンズ1006のレンズ作用によって集束されて試料1009上に照射される。試料1009は、試料室1007内の真空雰囲気内に配置される。
【0031】
電子ビーム1003が試料1009に照射されると、当該照射個所から二次電子、及び後方散乱電子のような電子1010が放出される。放出された電子1010は、試料に印加される負電圧に基づく加速作用によって、電子源方向に加速され、変換電極1012に衝突し、二次電子1011を生じさせる。変換電極1012から放出された二次電子1011は、検出器1013によって捕捉され、捕捉された二次電子量によって、検出器1013の出力Iが変化する。この出力Iに応じて図示しない表示装置の輝度が変化する。例えば二次元像を形成する場合には、走査偏向器1005への偏向信号と、検出器1013の出力Iとの同期をとることで、走査領域の画像を形成する。また、図10に例示する走査電子顕微鏡には、電子ビームの走査領域を移動する偏向器(図示せず)が備えられている。この偏向器は異なる位置に存在する同一形状のパターンの画像等を形成するために用いられる。この偏向器はイメージシフト偏向器とも呼ばれ、試料ステージによる試料移動等を行うことなく、電子顕微鏡の視野(Field Of View:FOV)位置の移動を可能とする。また、イメージシフト偏向器と走査偏向器を共通の偏向器とし、イメージシフト用の信号と走査用の信号を重畳して、偏向器に供給するようにしても良い。
【0032】
なお、図10の例では試料から放出された電子を変換電極にて一端変換して検出する例について説明しているが、無論このような構成に限られることはなく、例えば加速された電子の軌道上に、電子倍像管や検出器の検出面を配置するような構成とすることも可能である。
【0033】
制御装置905は、走査電子顕微鏡の各構成を制御すると共に、検出された電子に基づいて画像を形成する機能や、ラインプロファイルと呼ばれる検出電子の強度分布に基づいて、試料上に形成されたパターンのパターン幅を測定する機能を備えている。
【0034】
制御装置905には、パターンの測定、或いは検査用画像を形成するための領域を帯電させる第1の電子ビームの条件と、画像形成用の第2の電子ビームのビーム条件が書き込まれたレシピを記憶する記憶媒体が内蔵されている。走査電子顕微鏡は、当該記憶媒体に記憶された条件に従って、電子ビームの試料への到達エネルギー,ビーム電流、及び/又は倍率を制御する。これらのビーム条件は、いずれも試料帯電を制御するためのものであり、予め試料帯電と各ビーム条件(到達エネルギー,ビーム電流,倍率、或いはこれら条件の2以上の組み合わせ等)を記憶媒体に記憶させておき、プリドーズ条件の指定に基づいて、これら条件を読み出して設定するようにしても良い。
【0035】
図11は、設計データ上での測定点1102(或いは測定のためのFOV)の設定に基づいて、プリドーズ条件を決定するプロセスを説明する図である。図12はその工程の詳細を説明するフローチャートである。なお、本実施例では、プリドーズ領域1101を9分割し、分割された各領域について、プリドーズ条件を設定する例について説明するが、これに限られることはなく、より少ない、或いはより多くの分割領域を設定するようにしても良い。
【0036】
まず、設計データ上にて測定点1102を設定する(ステップ1201)。そして、この測定点1102を中心として、プリドーズ領域1101を設定する(ステップ1202)。プリドーズ領域の大きさは、測定に要するFOVの大きさとプリドーズ領域の大きさとの関係式を予め設定しておき、当該関係式に基づいて、自動で決定するようにしても良いし、任意の大きさを設定するようにしても良い。
【0037】
次に、プリドーズ領域1101を、所定の条件に従って分割する(ステップ1203)。本例では、プリドーズ領域1101を9つの分割領域に分割する初期条件に基づいて分割する。このようにして分割された各分割領域1103について、本例では、2つの試料条件に基づいて、予備照射条件を決定する。
【0038】
試料条件の1つ目は、パターンの密集度である。帯電し易いパターンが密に配置されている領域は、他の領域に比べて帯電量が大きくなるといえる。更に試料条件の2つ目は、パターンを形成する材料の種類である。帯電し易い材料が配置された領域は、その他の領域に比べて帯電量が大きくなる。これらの試料条件に基づいて、プリドーズ領域1101全体の帯電状態が均一、或いは所定の条件を満たすように設定することによって、電子ビームやホール底から放出される電子の軌道の偏向を抑制することができる。そのために、本実施例では、先ず、各分割領域1103について、パターンの密度比を求める(ステップ1204)。各領域のパターンの密度の一例として、分割領域の面積に対するパターンの占有面積の比(パターンの占有面積/分割領域の面積)を求める考え方がある。例えば、分割領域の半分をパターンが占有しているならば、50%の占有率であると言える。
【0039】
このようにして求められる占有率を、測定点1102が含まれる分割領域1108の占有率と比較することにより、分割領域のパターンの密度比を求める。なお、占有率の比較ではなく、パターン面積の絶対量の比較に基づいて、密度比を算出するようにしても良い。また、密度比ではなく、パターン面積の絶対量に比例して増加減少するパラメータを設定し、当該パラメータに基づいて、後述するプリドーズ条件を設定するようにしても良い。なお、比率ではなく、比率の大きさに応じてランク付けを行い、当該ランクを密度比に替わるパラメータとするようにしても良い。
【0040】
本実施例では、当該比率や密度比等に替わるパラメータ等をも包含する表現として、帯電パラメータという表現を用いる。この帯電パラメータは、電子ビームの照射に基づく帯電のし易さ、付着する帯電の大きさ、或いは変動のし易さを示す指標である。また、分割領域内でパターンが局所的に密集している場合や、右半分のみにパターンが存在している場合、面積値とは異なる要因に基づいて、測定点に対する帯電の影響度が変わることも考えられるため、これらのパターンの形状に応じた影響度も加味した帯電パラメータを設定するようにしても良い。また、帯電の付着の程度が、パターンの形状に応じて大きく変化するものであるならば、パターン形状に応じた帯電パラメータを設定しておくことも考えられる。
【0041】
次に、ステップ1204にて求められたパターンの密度比に基づく帯電パラメータを、所定の閾値と比較することにより、帯電領域を決定する(ステップ1205)。所定の閾値を越える、或いは所定の閾値以上の帯電パラメータを持つ分割領域は、帯電量が大きくなると考えられる領域である。即ち、他の分割領域に比べて、電子ビームや測定点から放出される電子の軌道を偏向する可能性のある電界を形成する帯電が付着すると考えられる領域である。図11では、プリドーズ領域1101の(A,a)及び(C,b)が、そのような領域であるとして、第1の帯電マップ1104を形成した例を例示している。“α”で表される部分が帯電領域(例えば分割領域1105)として判断された領域である。
【0042】
なお、パターンの面積の情報は、図9に例示するデータ管理装置901、或いは他の記憶媒体に記憶された設計データの設計情報から抽出される。また、半導体製造プロセスを経て形成されるパターンは、設計データと大きく異なることも考えられるため、設計データに基づいて、シミュレータ908による露光シミュレーションを行い、当該シミュレーションを行うことによって得られるパターン形状に基づいて、パターン面積を求めるようにしても良い。
【0043】
次に、2つ目の試料条件である試料材料に応じた帯電パラメータを導出する(ステップ1206)。設計データには材料に関する情報も登録されているため、設計データを参照して各分割領域の材質を特定する。材料と帯電パラメータとの関係については予めデータベースを用意し、設計データと当該データベースを参照して、分割領域ごとの帯電パラメータを求めるようにする。なお、1つの分割領域内に複数の材料が混在していることもあるため、その場合は、各材料の比率と材料ごとの帯電パラメータに基づいて、1分割領域の帯電パラメータを求めるようにしても良い。また、複数の試料が複合していたとしても、1の材質に付着する帯電の影響が支配的であり、他の材質の帯電の影響が無視できるものであれば、1の材質に関する帯電パラメータを分割領域の帯電パラメータとするようにしても良い。本例では、測定点1102を包含する領域1108(領域(B,b))を基準(例えば1.0)としたときの帯電のし易さの比率を帯電パラメータとしている。
【0044】
以上のような帯電パラメータはGDSファイル等の設計データに記憶しておいても良いし、設計データには、パターン密度や材質に関する情報のみを登録しておき、他のパターンの密度や材質と、帯電パラメータとの関係を記憶するデータベースを別に用意して、当該データベースを参照して、帯電パラメータを導出するようにしても良い。
【0045】
次に、ステップ1206にて求められた帯電パラメータを、所定の閾値と比較することにより、帯電領域を決定する(ステップ1207)。所定の閾値を越える、或いは所定の閾値以上の帯電パラメータを持つ分割領域は、帯電量が大きくなると考えられる領域である。即ち、他の分割領域に比べて、電子ビームや測定点から放出される電子の軌道を偏向する可能性のある電界を形成する帯電が付着すると考えられる領域である。図11では、プリドーズ領域1101の(A,a)及び(B,c)が、そのような領域であるとして、第2の帯電マップ1106を形成した例を例示している。“β”で表される部分が帯電領域(例えば分割領域1107)として判断された領域である。
【0046】
以上のようにして2つの試料条件に基づいて形成された帯電マップを複合すると、第3の帯電マップ1109のようになる。即ち領域(A,a)は、2つの試料条件に基づいて大きな帯電が付着すると判断された領域であり、領域(C,b),領域(B,c)は、1つの試料条件に基づいて大きな帯電が付着すると判断された領域である。理解が容易なように、仮に帯電αと帯電βが全く同じ帯電であると仮定すると、帯電の分布は、第4の帯電マップ1110のようになる。電場はベクトル場で表現できるため、測定点1102を基準とするベクトル場は図13のようになる。図13の例では、領域(A,a)に付着した帯電(2α)に基づくベクトル1301と、領域(C,b)と領域(B,c)に付着した帯電のベクトルの和1302は、互いに相殺するため、測定点1102に対する偏向電場は存在しないことが判る。測定点を基準としたベクトル演算に基づいて、当該ベクトルがゼロ、或いはゼロに近づくように、各分割領域の帯電量を制御することによって、電子ビームや試料から放出される電子を、電子ビーム光軸(対物レンズ中心を通過する理想光軸)に直交する方向に偏向することなく、試料表面に帯電を形成することが可能となる。図13のような場合には、各分割領域について、異なるビーム条件を設定せずとも、偏向電場を生じさせることがないので、プリドーズ領域1101全面を1の走査領域とするプリドーズを行うようにする。
【0047】
一方、図14の例の場合には、プリドーズ領域1101全体を同じ条件で走査すると、帯電に偏りが生じ、偏向電場を形成することになるので、その偏向電場を相殺するような帯電を形成する。この帯電の影響を抑制する手法として大きく分けて2つの手法が考えられる。1つは、ベクトル1401そのものを消失させる方法、もう1つは、ベクトル1401を相殺するベクトル1402を形成する方法である。
【0048】
前者の方法では、帯電を抑制するようなビーム条件にて、領域(C,b)を走査する。帯電の影響を抑制するためには、当該領域をその他の領域に対して、帯電しないビームで走査する必要がある。例えば、試料に印加する負電圧を制御することによって、電子ビームの到達エネルギーを調整することで、帯電を抑制することが考えられる。相対的に二次電子放出効率(試料から放出される電子量/試料に入射する電子量)の低い到達エネルギーの電子ビームを用いることによって、正帯電を抑制することが可能となる。電子ビームの到達エネルギーに対する二次電子放出効率は、試料の種類によって異なるため、予め試料の種類毎に、到達エネルギーの変化に対する二次電子放出効率の変化を示すカーブを取得しておき、データベース化しておくと良い。また、倍率やビーム電流を調整することによっても帯電を変化させることができるので、領域(C,b)の帯電が過度に高い場合には、帯電を抑制するような条件でビームを走査する、或いは領域(C,b)に対し予備照射を行わないようにする。
【0049】
これによって、測定点1102を含む分割領域と、その他の分割領域との間の帯電パラメータの差異が小さくなり、局所的な帯電に基づくビームの偏向を抑制することが可能となる。
【0050】
また、後者の方法では、領域(C,b)に付着した帯電による偏向作用を相殺するような電場(ベクトル1402)を形成するビーム走査を行う。具体的には、例えば測定点1102が属する領域(B,b)を中心として、領域(C,b)に対向する領域(A,b)に、領域(C,b)と同じ帯電を形成することによって偏向電場を相殺することが考えられる。しかしながら、領域(A,b)はもともと領域(C,b)に比べて付着する帯電が小さい領域として判断された部分であるため、ビーム条件の調整では必要な帯電が得られない可能性もある。このような場合には、更に領域(A,a)及び領域(A,c)に同じ帯電を形成するビーム走査を行うことにより、ベクトル1401を相殺する帯電を形成したり、プリドーズ領域1101外に帯電を形成すると良い。
【0051】
以上のように、帯電のベクトル量演算(ステップ1208)に基づいて、プリドーズ条件を決定(ステップ1209)することによって、偏向電界を発生させることなく、プリドーズを行うことが可能となる。また、パターンの密度や材質のような試料の種類毎に、ビーム条件と帯電パラメータ(例えば帯電量,測定部位が存在する領域との帯電の相対比、或いはベクトルの大きさ等)を予めテーブル化しておき、当該テーブルを参照することによって、各領域に対するビーム条件を導出するようにしても良い。領域(C,b)及び補正電界を形成する領域以外の分割領域については、初期の照射条件に従ってプリドーズが行われる。
【0052】
また、図6のように、測定点が含まれる領域(B,b)を基準として、帯電の変位が所定値を越える、或いは所定値以上の領域について、帯電量を制御、或いは偏向電界を相殺するようにしても良い。図6の場合、領域(B,c)に、領域(B,b)より大きな帯電が付着する例を説明している。図13のようにベクトル演算を行わずとも、分割領域全ての帯電量が所定の範囲に収まるように各領域に対するビーム条件を設定することによって、電子ビームや試料から放出される電子の偏向を抑制することができる。本例では、領域(B,b)の帯電量を抑制、或いは当該領域の帯電によって生ずる偏向作用を相殺するように、ビーム条件を設定すれば良い。
【0053】
本実施例では2つの試料条件に基づいて、各分割領域のプリドーズ条件を設定する例について説明したが、一方の試料条件が支配的であり、他方の試料条件の帯電への影響が無視できるものであるならば、1つの試料条件に基づいて、プリドーズ条件を設定するようにしても良い。
【0054】
また、帯電は同じ値で留まり続けるわけではなく、時間の経過に従って徐々に減衰していくため、その減衰分を考慮した帯電の評価を行うようにすることも考えられる。例えば図11に例示するように、プリドーズ領域を9つの領域に分割し、それぞれの領域に対して、順番にプリドーズを行うと、最初にプリドーズを実施した分割領域では、最後にプリドーズを実施した分割領域に比べて、帯電がより多く減衰する。よって、プリドーズから測定までの時間に応じた帯電パラメータの減衰量に関する値を加算した上で、各分割領域の帯電パラメータを導出すると良い。
【0055】
図1は、観察点の入力(ステップ101)と、試料に付着する帯電の電位の入力(ステップ102)に基づいて、プリドーズ条件を決定する工程を説明するフローチャートである。図1の例では、設計データから、プリドーズ領域内に含まれるパターン情報および材質情報を抽出し、各異なるパターン,材質の場所,領域比からプリドーズ条件を判定する。入力条件として、観察する試料の場所および、観察に必要な電位を入力する。プリドーズ倍率と電位の関係は図2に示すように負の相関があり、材料によって値は異なるが、プリドーズ倍率が低いほど高い電位が得られることが分かっている。表面材質によってプリドーズ倍率と形成される電位の傾きは異なるため、観察材料での傾きを事前に評価し、当該傾きに関する情報を所定の記憶媒体に記憶しておく。
【0056】
次に、プリドーズ領域内に含まれるパターン情報を設計データから抽出する(ステップ103)。ここでは、観察点を中心とすると共に、観察点を中心とした所定の大きさの範囲をプリドーズ領域として抽出する。抽出したプリドーズ領域に対して、観察領域と異なるパターン、あるいは材料があるかを判定する。ステップ104にて、異なるパターンが含まれると判断された場合には、判定フラグ1を0→1とし、ステップ105にて、異なる材料が含まれると判断される場合は、判定フラグ2を0→1とする。
【0057】
ステップ106にて、いずれも含まれないと判断される場合は、判定フラグ1,2とも0であり、プリドーズ範囲内の材料・形状は均一であることから、プリドーズ後の帯電変化も均一であると判断し、通常のプリドーズを行う(ステップ108)。一方、いずれか一つでも含まれると判断される場合には、帯電変化の異なる場所の判定に進み、重ね合わせるプリドーズ条件を求める(ステップ109)。
【0058】
ステップ107では、プリドーズ領域内における帯電の分布状況を判定する。即ち、プリドーズ領域内の帯電付着状況が一様ではなく、場所によって変化することに鑑み、各位置の帯電の状況を判定する。図3は、その判定工程を説明するフローチャートである。まず、プリドーズ領域をX,Y方向にユーザ指定のn×m領域に分割する(ステップ301)。判定フラグ1が1の場合には、各分割領域の平均パターン密度を求め、観察点が含まれる領域に対するパターン密度比を導出する(ステップ302)。
【0059】
ステップ303における平均パターン密度の導出は、まず分割領域内に含まれるパターンを抽出し、分割領域に含まれる全パターン表面積を求める。得られた表面積を分割領域の面積で割った値を平均パターン密度とする。パターン密度は形状によって異なる値であり、HARC観察の場合には、同一の材料であってもピッチサイズなどパターン密度によって帯電の変化が異なる。HARCでは、パターンのピッチが小さいほど帯電の変化が大きいことがわかっている。ここでは表面積が大きいほど、平均パターン密度は大きくなり、すなわち帯電変化が大きいとする。
【0060】
次に判定フラグ2が1である場合には、異種材料が含まれているため、各分割領域の平均誘電率を求め、観察領域に対する各分割領域の誘電率比を導出する(ステップ304)。ステップ305において、平均誘電率に関しては、領域に含まれる異種材料を抽出する。誘電率は材料固有の値であり、各材料の面積比に応じて、各誘電率を平均化する。以上より、各分割領域に対して導出した平均パターン密度比および平均誘電率比を用いて以下の判定を実施する。求めた平均パターン密度比,平均誘電率比がユーザ指定の閾値よりも大きい場合には、帯電変化が起こる可能性がある領域として、データ処理PCのメモリあるいはHDD等の所定の記憶媒体に記録する(ステップ307)。閾値は、ピッチサイズの異なる試料を測定し、事前評価で求めておく必要がある(本実施例では、アスペクト20のHARCサンプル(SiO2/Si)を評価することによって閾値を設定した。)。
【0061】
帯電変化が異なる分割領域がプリドーズ領域内に複数存在する例を図4に示す。図4の例示するプリドーズ領域は、9つ(3×3)の分割領域に分割されている。ハッチングが施された領域は帯電変化率が閾値以上の分割領域(以下、帯電変化領域とする。)を示しており、それぞれの帯電変化領域の帯電変化率は一定とする。領域(B,b)の丸で示した点を観察点とする。このとき、観察領域に対して、変化率が対角線上で対称であれば帯電変化による電子線の曲がりはキャンセルされ、問題とならないため、図4(a)や(b)は通常のプリドーズの実施を行う。一方、(c),(d),(e)の場合は、プリドーズ領域内での帯電変化の対称性が無く、通常の1領域のプリドーズを行った場合には、電子線曲がりが発生する。
【0062】
以上のように、プリドーズ領域に含まれる帯電変化領域の観察点に対する対称性を判定するため、本実施例では、観察点から帯電変化領域へのベクトルを導出する(ステップ308)。ベクトルの向きは観察点から各分割領域中心への方向,大きさは平均パターン密度比または誘電率比とする。次に、プリドーズ領域内の各分割領域に対するベクトル和を求める(ステップ309)。値が0または、ユーザが指定する閾値以下であれば、図4(a),(b)のように帯電変化は起こるものの、観察点に対して、対称に変化するため、ドリフトなど電子線への影響はキャンセルされると考えられるため、通常のプリドーズを実施する(ステップ310)。一方、ステップ309にて規定する条件を満たさない場合には、複数のビーム照射条件を組み合わせたプリドーズを実施する(ステップ311)。
【0063】
以上のように、分割領域の帯電変化率が閾値よりも大きく、プリドーズ領域内の対称性が無い場合には、帯電変化領域を除外したプリドーズ条件を設定する。
【0064】
以上、試料上に1点の観察点が存在する例を説明したが、イメージシフトを用いて複数の領域に分散した観察点を観察する場合にも適用可能である。イメージシフトを用いた観察では、観察場所によってドリフト量が異なる場合がある。
【0065】
これは、プリドーズ領域内の電位分布にばらつきがあるためである。このため、イメージシフトを用いた観察では、場所によってドリフト量が異なり、観察したい点を観察できない場合がある。
【0066】
イメージシフトを用いて観察する点のそれぞれの周囲の帯電変化領域の対称性を判定する。観察点に対して、周囲の領域の変化率が対称でない場合には、変化率の異なる領域を外してプリドーズを実施する。
【0067】
帯電変化領域を除外してプリドーズを行う手法を、図5に例示する。図5(a)に例示するように、分割領域ごとに走査を行うようにしても良いし、図5(b)に例示するように、同じビーム条件にてプリドーズを行う領域について、纏めて走査を行うようにしても良い。図5の点線で囲まれた領域は、選択的にプリドーズを行う領域を示している。一方、それ以外の部分は、帯電の不均一性を抑制すべく、プリドーズを実施しない領域である。図5(b)は、6つの分割領域を3つの合成分割領域に纏め、当該合成分割領域について、それぞれ一括して走査を実施する例を示している。図5(c)は、プリドーズ領域を一括して走査すると共に、除外領域については、電子ビームのブランキングを行うことによって、選択的に電子ビームを走査しないようにする。
【0068】
図5の例では、点線に囲われた領域以外の領域が帯電変化領域である。図5(a)に例示するように、1の分割領域サイズの走査条件を組み合わせる方法では、各分割領域を別々に走査することで、プリドーズを行う。図5(b)に例示するように2の分割領域を組み合わせて走査領域を設定する手法では、帯電変化領域が密集している場合には、重ね合わせるプリドーズの回数を減らすことができ、スループット向上が可能である。また、図5(c)に例示するような指定領域だけ電子線を当てないプリドーズ方法では、事前に条件(領域)の指定を行うことにより、一度の走査でプリドーズが可能である。
【0069】
以上のいずれかの方法で帯電変化領域を除外してプリドーズが実施でき、プリドーズで形成された帯電の変化の影響を抑制することが可能である。また、イメージシフトを使った観察では、1回のプリドーズでイメージシフトを用いた複数点の観察が実施でき、スループットの向上が見込める。
【0070】
試料上の平均パターン密度や平均誘電率がほぼ同じでも、材料が異なることにより、二次電子イールドが異なる場合がある。二次電子イールドが異なることで、プリドーズによる到達電位の違いや、到達時間の変化が生じる。例えば、イールドが高いほど、短時間のプリドーズで最大(飽和)電位に到達することが分かっている。
【0071】
図7は、二次電子のイールドを考慮したプリドーズ条件を求める工程を説明するフローチャートである。ステップ701〜705は、図3のステップ301〜305に相当するものである。また、ステップ707及びステップ711〜714は、ステップ305及びステップ308〜311に相当するものである。図7のフローチャートでは、ステップ706,709、及び710が新たに追加されている。
【0072】
設計データに基づいてプリドーズ領域内に、異種材料が含まれると判断される場合には、ステップ706において各分割領域の平均二次電子イールドを求め、観察点との平均二次電子イールド比を導出しておく。二次電子イールドが異なる領域がプリドーズ領域に含まれ、分割領域ごとにプリドーズを実施する場合には、分割領域ごとに走査条件を変更する。ここでは、一次電子の加速および照射時間を変更する。
【0073】
ステップ709において、イールド比が閾値よりも大きいと判断される場合には、より早く飽和電位に到達することから、スループット向上のため照射時間を縮める。一方、イールド比が閾値よりも小さい場合には、照射時間を長く設定する、あるいは一次電子の加速変更により、イールドが増加する場合には、加速を変更する(ステップ710)。
【0074】
以上のように、各分割領域で、照射時間,一次電子加速のいずれか、または両方を変更し、均一な電位を形成する。この際、各材料の飽和電位および飽和電位に達するまでの時間は事前に計測しておき、記憶媒体に記憶させておくことによって、プリドーズ条件設定を可能とする。
【0075】
図8は、帯電形成のためのビーム照射と、観察のためのビーム照射を併せて行うための条件設定から観察に至るまでの工程を説明するフローチャートである。プリドーズは文字通り、観察の前の予備照射によって、試料に対する帯電の付着を実施する手法であるが、予備帯電形成と観察を異なるタイミングで行っているため、帯電形成と観察との間の時間差によって、帯電状況が変化し、所望のプリドーズ条件が得られない可能性がある。また、帯電状況の変化によって、画像ドリフトを生じる可能性もある。そこで本例では、プリドーズと観察を併せて行う手法について説明する。本実施例では、正帯電を形成後、プリドーズのフレームの途中で走査条件を切り替え、観察を実施する。図8に例示するフローチャートでは、まず、走査電子顕微鏡を用いた測定条件として、観察点の中心座標および観察倍率を入力する(ステップ801)。また、観察時に必要な正帯電電位を設定する(ステップ802)。図1に例示したフローチャートと同様に、図2に例示するような予備帯電倍率と、帯電電位との関係に基づいて、正帯電に必要なプリドーズ条件を求め(ステップ803)、プリドーズを実施する(ステップ804)。プリドーズにより、表面の電位が飽和した後、次のステップに移動する(ステップ805)。プリドーズの走査中(ステップ805)に、ビームの走査位置と観察位置の距離をモニタ(ステップ807)し、各時点で走査している点と観察点との距離が閾値以下になった際には、走査条件の切り替え(ステップ808)を行い、観察を実施する(ステップ809)。ここでの閾値距離はプリドーズ走査での1ピクセルとする。観察が終了した後は、プリドーズ走査条件へ再び切り替え、プリドーズを継続する(ステップ810)。
【符号の説明】
【0076】
901 データ管理装置
902,903 SEM
904,905 制御装置
906,907 通信回線
908 シミュレータ
1001 電子源
1002 引出電極
1003 電子ビーム
1004 コンデンサレンズ
1005 走査偏向器
1006 対物レンズ
1007 試料室
1008 試料台
1009 試料
1010 電子
1011 二次電子
1012 変換電極
1013 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に第1の電子ビームを走査して、試料を帯電させ、当該帯電した試料への第2の電子ビームの走査によって得られる電子に基づいて、前記試料の測定、或いは検査を行う電子ビーム照射方法において、
前記第1の電子ビームの走査領域を複数に分割し、当該複数の分割領域について、帯電の程度を示す帯電パラメータを導出し、当該帯電パラメータが所定の閾値を超える、或いは所定の閾値以上の分割領域を特定し、
前記第2の電子ビームの走査領域が属する分割領域の前記帯電パラメータと、その他の分割領域の帯電パラメータとの差異を抑制するように、前記分割領域に対する走査条件を決定することを特徴とする電子ビーム照射方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記帯電パラメータは、前記分割領域内のパターンの密度、及び/又は前記分割領域内のパターンの材質に応じて割り当てられたパラメータに基づいて、導出されることを特徴とする電子ビーム照射方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記複数の分割領域に対し、異なるビーム条件の電子ビームを走査することによって、前記第2のビームの走査領域が属する分割領域の前記帯電パラメータと、その他の分割領域の帯電パラメータとの差異を抑制することを特徴とする電子ビーム照射方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記帯電パラメータが所定値を超える、或いは所定の閾値以上の分割領域に対し、前記第1の電子ビームの走査を実施しない、或いは帯電を抑制する第1の電子ビームによる走査を行うことを特徴とする電子ビーム照射方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記第2の電子ビームの走査領域に対する帯電分布の偏りを抑制、或いは相殺するように、前記複数の分割領域に対する走査条件を決定することを特徴とする電子ビーム照射方法。
【請求項6】
請求項1において、
前記帯電パラメータは、前記試料の設計データに基づいて導出されるものであることを特徴とする電子ビーム照射方法。
【請求項7】
電子源と、
当該電子源から放出された電子ビームを集束するレンズと、
電子ビームを試料上で走査するための走査偏向器と、
前記試料から放出される電子を検出する検出器を備えた走査電子顕微鏡において、
試料を帯電させる第1の電子ビームのビーム条件と、試料の測定、或いは検査のための第2の電子ビームのビーム条件を記憶する記憶媒体を内蔵、或いは当該記憶媒体にアクセス可能な制御装置を備え、
当該制御装置は、
前記第1の電子ビームの走査領域を複数に分割し、当該複数の分割領域について、帯電の程度を示す帯電パラメータを導出し、当該帯電パラメータが所定の閾値を超える、或いは所定の閾値以上の分割領域を特定し、
前記第2の電子ビームの走査領域が属する分割領域の前記帯電パラメータと、その他の分割領域の帯電パラメータとの差異を抑制するように、前記分割領域に対する走査条件を決定することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項7において、
前記制御装置は、前記分割領域内のパターンの密度、及び/又は前記分割領域内のパターンの材質に応じて割り当てられたパラメータに基づいて、前記帯電パラメータを導出することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項7において、
前記制御装置は、前記複数の分割領域に対し、異なるビーム条件の電子ビームを走査することによって、前記第2のビームの走査領域が属する分割領域の前記帯電パラメータと、その他の分割領域の帯電パラメータとの差異を抑制する条件を導出することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項10】
請求項7において、
前記制御装置は、前記帯電パラメータが所定値を超える、或いは所定の閾値以上の分割領域に対し、前記第1の電子ビームの走査を実施しない、或いは帯電を抑制する第1の電子ビームによる走査を行うよう前記走査電子顕微鏡を制御することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項11】
請求項7において、
前記制御装置は、前記第2の電子ビームの走査領域に対する帯電分布の偏りを抑制、或いは相殺するように、前記複数の分割領域に対する走査条件を設定することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項12】
請求項7において、
前記制御装置は、前記帯電パラメータを、前記試料の設計データに基づいて導出することを特徴とする走査電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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