説明

電子ビーム照射方法

【課題】電子ビームの照射をリアルタイムで確実に検出することが可能な手法について提案する。
【解決手段】走行する金属ストリップに向けて電子ビームの照射を行うに当たり、該電子ビームの照射に伴って前記金属ストリップの表面に発生する、X線を検出することによって電子ビームの照射状態を把握する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板等の金属ストリップに電子ビームを連続的に照射し、金属ストリップの特性を改善する電子ビーム照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、主にトランスの鉄心として利用され、その磁化特性が優れていること、特に鉄損が低いことが求められている。そのためには、鋼板中の二次再結晶粒を、(110)[001]方位(いわゆる、ゴス方位)に高度に揃えることや、製品鋼板中の不純物を低減することが重要である。しかしながら、結晶方位を制御することや、不純物を低減することは、製造コストとの兼ね合い等で限界がある。そこで、鋼板の表面に対して物理的な手法で不均一性(歪)を導入し、磁区の幅を細分化して鉄損を低減する技術、すなわち磁区細分化技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、最終製品板にレーザーを照射し、鋼板表層に高転位密度領域を導入することにより、磁区幅を狭くし鉄損を低減する技術が提案されている。また、特許文献2には、電子ビームの照射により磁区幅を制御する技術が提案されている。この電子ビーム照射による鉄損低減方法では、電磁鋼板表面での絶縁被膜の損傷が極めて小さいため、照射後に絶縁被膜を再度形成する必要がなく、工業生産に有利である。
【0004】
ところで、電子ビームは真空下で照射されるため真空槽内で金属ストリップへの照射が正常に行われているかを検査するのが難しいという問題がある。ここで、鋼板表面が局所的に加熱されたのをテレビカメラや光学センサーで検出する方法もあるが、鋼板表面で生じる発光は鋼板表面の被膜の厚みや性状に左右されるため正確な検査は困難である。この点、特許文献3に開示の、鋼板表面にフィルムを被覆して照射痕を確認する方法は有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭57−2252号公報
【特許文献2】特公平6−72266号公報
【特許文献3】特開平5−84583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3に開示の手法では、電子ビームの照射をリアルタイムで検出することが難しいため、長時間の連続運転の間に照射位置や強度が変動した場合への対応も希求されていた。
【0007】
そこで、本発明は、電子ビームの照射をリアルタイムで確実に検出することが可能な手法について提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、電子ビームが照射された痕跡や光を検出するのではなく、金属ストリップに電子ビームが当たることによって発生するX線を検出することによって、照射状態をリアルタイムにて検査可能であるとの新規知見を得た。
すなわち、本発明の要旨構成は、次のとおりである。
【0009】
(1)走行する金属ストリップに向けて電子ビームの照射を行うに当たり、該電子ビームの照射に伴って前記金属ストリップの表面に発生する、X線を検出することによって電子ビームの照射状態を把握することを特徴とする電子ビームの照射方法。
【0010】
(2)前記金属ストリップの表面に発生するX線の発生位置および強度のいずれか少なくとも一方を検出して、該電子ビームの照射が正常であるかを判断することを特徴とする前記(1)記載の電子ビームの照射方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、真空槽内で電子ビームの照射が行なわれる場合であっても、電子ビームの照射状態をリアルタイムで把握することができる。従って、電子ビームが正常に照射されているかの判断を容易に行うことが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】電子ビーム照射装置を示す図である。
【図2】本発明に従う電子ビーム照射の検出要領を示す図である。
【図3】電子ビームの検出例を示す図である。
【図4】本発明に従う別の電子ビーム照射の検出要領を示す図である。
【図5】本発明に従うX線検出装置の走査軌跡を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法は、金属ストリップに対して連続的に電子ビームを照射する装置において有利に適合するものである。例えば、図1に示す装置を用いる際に好適である。すなわち、図1に示す装置は、
大気圧中の金属ストリップSを導入する真空槽1を備え、この真空槽1の金属ストリップSの入側および出側にはそれぞれ差圧室2aおよび2bを有し、これらを差圧室2aおよび2bを介在させて真空槽1内を低圧に保持している。真空槽1には、複数、図示例で4台の電子銃3a〜3d、金属ストリップSの搬送経路に向けて設置し、各電子銃3a〜3dから金属ストリップSに向けて電子ビームを照射可能にしている。
【0014】
ここで、電子ビームを照射する真空槽1内の圧力は10Pa以下とすることが、電子ビームの散乱防止に有効である。一方、圧力の下限は特に必要はないが、真空ポンプや差圧室の能力から、一般的には0.01Pa以上とされる。差圧室を用いず、コイルを含む全設備を真空状態にする方法も取り得るが、図1に示す差圧方式の方が真空設備の規模を小さくすることができて有利である。
【0015】
この電子ビーム照射装置を用いて、例えば方向性電磁鋼板に対して磁区細分化処理を施すには、方向性電磁鋼板(金属ストリップ)に対して、図1に示すように、複数の電子銃で電子ビームを照射する。すなわち、方向性電磁鋼板の鉄損低減のためには、照射位置でのビーム径を0.05〜1mmに収束させた電子ビームを、鋼板の幅方向(圧延方向と交差する方向)に走査して、線状に熱歪みを導入する。電子ビームの出力は10〜2000W、走査速度は1〜100m/sとして、さらに単位長さ当たりの出力が1〜50J/mになるように調整し、線状に1〜20mm間隔で照射するのが好適である。
【0016】
なお、電子ビーム照射時に真空槽1外部へのX線漏洩を抑制することが安全上重要であり、そのために、真空槽1の内側(または外側)にX線吸収能をもつ鉛板をシールド層4として設けることが通例である。
【0017】
かような電子ビーム照射装置において、図2に示すように、電子ビーム5の通過位置を遮らない位置に、X線検出装置、図示例で3台のX線検出装置6A〜6Cを配置してX線の測定を行うことにより、金属ストリップSに電子ビームが正常に照射されているかをモニターリングできるようになる。このX線検出では、例えば磁区細分化処理後の方向性電磁鋼板の照射痕を確認するよりも早期にかつ簡便に検査できる。
【0018】
具体的には、X線の強度を測定することにより、金属ストリップの特性改善に適した出力での電子ビーム照射が行われているか否かを確認することができる。例えば、図2に示すように、ストリップSの圧延方向(送り方向)と直交する方向に同図の手前から奥に向かって電子ビーム5を照射する場合、ストリップSの送り速度に同期させて電子ビームを走査する必要があるため、電子ビームの軌跡は、ストリップの通板方向と直交する方向に対して角度を持った直線となる(図2の太破線で示す矢印:以下、照射線という)。従って、この照射線の始点、中間点および終点にてそれぞれX線を検出できるように、3個のX線検出装置6A〜6Cを配置しておき、それぞれの検出装置から、例えば図3に示すような、順次の出力が得られれば、照射が正常に行われていることになる。
【0019】
また、図4に示すように、二点鎖線で示すように、X線検出装置6の走査を、ストリップSの電子ビーム5照射領域に対して二次元的(同図における二点鎖線で走査軌跡である走査線60を示す)に行うために、該X線検出装置6の角度を調整する機構を追加し、高速で走査される電子ビームの走査速度に対して、十分に遅い速度でX線検出装置の検出位置を移動させれば、図5に示すように、電子ビーム5が照射された位置(電子ビームの軌跡50)がX線検出装置6の走査線60を介して検出できる。
【0020】
ここで、X線検出装置にはシンチレーション検出器、ガス検出器および半導体検出器等が用いられるが、特に半導体検出器が整備面で好適である。X線検出装置の先端にピンホールやスリットを設けて照射点から直線的に検出装置に到達するX線のみを検出できるようにすることにより、外乱を防ぎ、検出位置を正確に求めることができる。
【0021】
そして、上述したように、この検出装置を、図2に示した異なる照射点を監視するために複数配置したり、監視点を一次元的、または図4に示した二次元的に変えられるように走査することによって、電子ビームが所望のパターンで照射されているかを確認できる。
【0022】
また、電子ビームが照射された位置は電子ビームの照射で生じるストリップ上の発光をTVカメラやCCDカメラで二次元的に検出し、電子ビームの照射強度のみをX線検出装置で測定し、両者の組み合わせで照射パターンとビーム強度を確認することも可能である。
【0023】
さらに、X線検出装置としてX線用CCDを用いて、機械的走査をせずに照射パターンとビーム強度とを同時に確認する方法も可能である。
以上の各態様については、その目的や要求される検出精度に応じて、適宜選択すればよい。
【実施例】
【0024】
図1に示した装置を用いて、電磁鋼板(ストリップS)に連続的に電子ビームの照射を行った。電磁鋼板の幅は1mであり、電子銃はストリップの搬送方向に4台設置し、1台の電子銃で鋼板の幅方向1/4幅の範囲に照射を行い、電子銃を4台通過後に電磁鋼板全幅に電子ビームが照射されるように走査を行った。
【0025】
また、電磁鋼板は、3.4質量%Siを含有する、厚さ0.23mmの方向性電磁鋼板である。
電子銃は、加速電圧150kVで、照射点におけるビーム径を直径0.2mmに絞り、ビーム電流:5mAおよび走査速度:20m/sにて、鋼板の幅方向に線状に走査し、これを圧延方向に6mm間隔で繰り返して照射した。
【0026】
さらに、図2に示すように、電子銃1台につき3個のX線検出装置を電子ビーム走査の始点、中間点および終点に相当する位置を検出できるように、ピンホールを介して入ったX線をシンチレーション検出器で強度測定できる検出装置を設けた。ピンホールは直径1mmで検出器と同軸のX線発生源からのX線のみを検出できるようにした。
【0027】
ここで、従来は電子ビームが正常に照射されているかについて、照射後の鋼板を調査することにより検査していたが、被膜に電子ビームによる照射痕が生じていない場合、鋼板の磁区パターンを観察することにより調査する必要があったため、多大な時間を要し、多くは部分的な検査にとどまっていた。
【0028】
これに対して、本発明の方法によれば、図3に示したように、鋼板上の電子線の照射位置と強度が設定通りになされているかをリアルタイムに監視できるようになった。また、予め測定しておいたビーム電流や加速電圧等の照射条件と、それにより発生するX線との関係を求めておき、その関係と比較することによって、電子ビームの出力が正常範囲にあるかを精度よく管理することも可能になった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の電子ビーム照射方法は、上記した方向性電磁鋼板に対する磁区細分化処理のほか、凹凸の除去、梨地加工、筋加工等の表面加工や、溶接、表面焼き入れ、合金化、アモルファス化、マーキングなどの処理に有利に適合する。
【符号の説明】
【0030】
1 真空槽
2a、2b 差圧室
3a〜3d 電子銃
4 シ−ルド層
5 電子ビーム
6、6A〜6C X線検出装置
S 金属ストリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する金属ストリップに向けて電子ビームの照射を行うに当たり、該電子ビームの照射に伴って前記金属ストリップの表面に発生する、X線を検出することによって電子ビームの照射状態を把握することを特徴とする電子ビームの照射方法。
【請求項2】
前記金属ストリップの表面に発生するX線の発生位置および強度のいずれか少なくとも一方を検出して、該電子ビームの照射が正常であるかを判断することを特徴とする請求項1記載の電子ビームの照射方法。










【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−35288(P2012−35288A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176176(P2010−176176)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】