説明

電子写真トナー用結着樹脂

【課題】耐フィルミング性及び低温定着性に優れた電子写真トナー用結着樹脂及びその製造方法、並びに該結着樹脂を含有した電子写真用トナーを提供すること。
【解決手段】少なくとも縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる電子写真トナー用結着樹脂であって、前記付加重合系樹脂の原料モノマーが、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数12〜18)エステルを含有してなる、電子写真トナー用結着樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられる電子写真トナー用結着樹脂及びその製造方法、並びに該結着樹脂を含有した電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術の発展に伴い、定着性に優れた小粒径トナーの開発が望まれている。これに対して、トナー用結着樹脂としては、スチレンアクリル樹脂やポリエステル等が知られている。ポリエステルは定着性に優れるが、さらに、定着性と耐久性を改善する目的で、ポリエステル等の縮重合系樹脂の原料モノマー、及びスチレン、アクリルモノマー等の付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られた樹脂を含有するトナーが知られている(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平7−98517号公報
【特許文献2】特開2004−85605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1と2には、付加重合系樹脂の原料モノマーとして、(メタ)アクリル酸のアルキル(炭素数1〜18)エステルが開示されているが、長鎖のアルキルエステルを用いた具体的記載はない。
【0004】
また、近年のマシンの更なる高速化・省エネ化により、従来のトナー用結着樹脂では市場の要求に対して不十分であることが判明した。即ち、定着工程での定着時間の短縮化及び定着機から供給される加熱温度の低温化により、トナーの低温定着化が必須となるが、耐久性不足により、特に高速連続印刷においては、トナーの融着(フィルミング)が発生しやすい。
【0005】
本発明の課題は、耐フィルミング性及び低温定着性に優れた電子写真トナー用結着樹脂及びその製造方法、並びに該結着樹脂を含有した電子写真用トナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
〔1〕 少なくとも縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる電子写真トナー用結着樹脂であって、前記付加重合系樹脂の原料モノマーが、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数12〜18)エステルを含有してなる、電子写真トナー用結着樹脂、
〔2〕 前記〔1〕記載の結着樹脂の製造方法であって、有機溶媒存在下又は無溶媒下で付加重合系樹脂の原料モノマーを付加重合反応させる工程(A)、及び工程(A)の前、途中及び終了後の少なくともいずれかの時点で、縮重合系樹脂の原料モノマーを工程(A)の反応系に存在させて縮重合反応させる工程(C)を有するトナー用結着樹脂の製造方法であって、さらに前記工程(A)の途中及び/又は終了後に、前記工程(A)で生じる反応混合物と水とを100〜300℃で混合する工程(B)を有し、工程(B)における水の混合量が前記付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して0.1〜50重量部である電子写真トナー用結着樹脂の製造方法、並びに
〔3〕 前記〔1〕記載の電子写真トナー用結着樹脂を含有してなる電子写真用トナー
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電子写真トナー用結着樹脂は、フィルミングの発生が抑制されると共に、低温定着性が良好であるという優れた効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の結着樹脂は、少なくとも縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる電子写真トナー用結着樹脂であって、前記付加重合系樹脂の原料モノマーが、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数12〜18)エステルを含有している点に特徴を有し、低温定着性を損なわずに耐フィルミング性を改善することができるという優れた効果を奏することが判明した。その詳細な理由は不明なるも、付加重合系樹脂の原料モノマーとして特定の炭素数、すなわち、長鎖のモノマーである(メタ)アクリル酸アルキルエステルを使用しているために、フィルミングの原因となる、重合反応時のエステル交換反応によるアルコールの発生が抑制されるためと考えられる。
【0009】
本発明の結着樹脂は、少なくとも縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを用いて、縮重合反応と付加重合反応を同一反応容器中で並行して行うことにより得られる樹脂が好ましい。縮重合反応と付加重合反応の進行及び完結は、時間的に同時である必要はなく、それぞれの反応機構に応じて反応温度及び時間を適当に選択し、反応を進行、完結させればよい。縮重合反応及び付加重合反応について、以下に詳述する。
【0010】
縮重合反応により得られる縮重合系樹脂成分としては、低温定着性の観点から、アルコール成分及びカルボン酸成分を縮重合させて得られるポリエステル、アルコール成分、カルボン酸成分及びアミド成分を形成するための原料モノマーを縮重合させて得られるポリエステル・ポリアミド、並びにカルボン酸成分及びアミド成分を形成するための原料モノマーを縮重合させて得られるポリアミドからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましく、これらの中ではポリエステルがより好ましい。
【0011】
ポリエステルは、特に限定されないが、2価以上のアルコールからなるアルコール成分と、2価以上のカルボン酸化合物からなるカルボン酸成分を含む原料モノマーを縮重合させて得られる。
【0012】
2価以上のアルコールとしては、トナーの保存安定性の観点から、式(I):
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、ROはアルキレンオキサイドであり、Rは炭素数2又は3のアルキレン基、x及びyはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示す正の数であり、xとyの和は1〜16、好ましくは1.5〜5である)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が好ましい。かかるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、アルコール成分中、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。
【0015】
式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物としては、ポリオキシエチレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等のRが炭素数2のエチレンオキサイド付加物、ポリオキシプロピレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等のRが炭素数3のプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0016】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物以外のアルコール成分としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセロール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0017】
また、2価以上のカルボン酸化合物としては、例えば、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸(例えば、n-ドデセニルコハク酸、イソドデセニルコハク酸、n-ドデシルコハク酸、イソオクテニルコハク酸、イソオクチルコハク酸等の炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数2〜20のアルケニル基で置換されたコハク酸)等の脂肪族カルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等の芳香族カルボン酸、並びにこれらの酸の無水物及び低級アルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。これらの中では、トナーの保存性の観点から、テレフタル酸が好ましく、カルボン酸成分の30モル%以上がテレフタル酸であることが好ましい。なお、上記のような酸、これらの酸の無水物、及び酸のアルキルエステルを、本明細書では総称してカルボン酸化合物と呼ぶ。
【0018】
また、ポリエステルは、軟化点と粉砕性の観点から、アルコール成分及び/又はカルボン酸成分として3価以上のモノマーを用いて得られた架橋ポリエステルであることが好ましい。3価以上のモノマーの含有量は、アルコール成分及びカルボン酸成分の総量中、2〜50モル%が好ましく、10〜30モル%がより好ましい。3価以上のモノマーとしては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)及びその無水物が好ましい。
【0019】
なお、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、分子量調整や耐オフセット性向上の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0020】
アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合は、例えば、不活性ガス雰囲気中にて、要すればエステル化触媒を用いて、180〜250℃の温度で行うことができる。
【0021】
また、ポリエステル・ポリアミドは、前記のアルコール成分及びカルボン酸成分に加えてアミド成分を形成するための原料モノマーを用い、これらの原料モノマーを縮重合させて得られ、ポリアミドは、前記のカルボン酸成分に加えてアミド成分を形成するための原料モノマーを用い、これらの原料モノマーを縮重合させて得られる。
【0022】
アミド成分を形成するために用いる原料モノマーとしては、公知の各種ポリアミン、アミノカルボン酸類、アミノアルコール等が挙げられ、好ましくはヘキサメチレンジアミン及びε-カプロラクタムである。
【0023】
なお、以上の原料モノマーには、通常開環重合モノマーに分類されるものも含まれているが、これらは、他のモノマーの縮重合反応で生成する水等の存在により加水分解して縮重合に供されるため、広義には縮重合系樹脂の原料モノマーに含まれると考えられる。
【0024】
一方、付加重合反応に用いられる付加重合系樹脂の原料モノマーとしては、耐フィルミング性と低温定着性の観点から、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数12〜18)エステルを用いる。さらに、本発明で使用することができる付加重合系樹脂の原料モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン化合物;エチレン、プロピレン等のエチレン性不飽和モノオレフィン類;ブタジエン等のジオレフィン類;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のエチレン性モノカルボン酸のエステル;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のビニリデンハロゲン化物;N-ビニルピロリドン等のN-ビニル化合物類等が挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及び/またはメタクリル酸を意味する。
【0025】
付加重合系樹脂の原料モノマーとして、耐刷時の耐フィルミング性を向上させる観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基の炭素数は、前記の如く12〜18であり、16〜18が好ましく、18がより好ましい。なお、該アルキルエステルの炭素数は、エステルを構成するアルコール成分由来の炭素数を言う。
【0026】
上記のなかでは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、耐フィルミング性と低温定着性の観点から、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル及びメタクリル酸セチルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アクリル酸ステアリル及びメタクリル酸ステアリルがより好ましい。
【0027】
また、上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは単独で用いられても複数で用いられてもよいが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル貯蔵時の凝固抑制及び生産性の観点から、2種以上用いてもよい。
【0028】
(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数12〜18)エステルの総含有量は、結着樹脂およびトナーの保存性の観点から、付加重合系樹脂の原料モノマー中、好ましくは5〜50重量%であり、より好ましくは7〜40重量%であり、さらに好ましくは8〜30重量%である。
【0029】
なお、付加重合系樹脂の原料モノマーの付加重合には、重合開始剤、架橋剤等を必要に応じて使用してもよい。
【0030】
付加重合反応は、例えば、重合開始剤、架橋剤等の存在下、有機溶媒存在下又は無溶媒下で、常法により行うことができるが、例えば、温度条件は、好ましくは110〜200℃、より好ましくは140〜170℃である。
【0031】
付加重合反応の際に用いられる有機溶媒としては、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン等が挙げられる。有機溶媒の使用量は、付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、10〜50重量部程度が好ましい。
【0032】
本発明の結着樹脂は、トナー中の離型剤等の添加剤の分散性を向上させる観点から、縮重合系樹脂の原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーに加えて、さらに縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物(両反応性モノマー)を用いて得られる樹脂(ハイブリッド樹脂)であることが好ましい。従って、本発明において、縮重合反応と付加重合反応は、両反応性モノマーの存在下で行うことが好ましく、これにより、ハイブリッド樹脂は、縮重合系樹脂成分と付加重合系樹脂成分とが部分的に両反応性モノマーを介して結合し、縮重合系樹脂成分中に付加重合系樹脂成分がより微細に、かつ均一に分散している。
【0033】
両反応性モノマーとしては、分子内に、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基、好ましくは水酸基及び/又はカルボキシル基、より好ましくはカルボキシル基と、エチレン性不飽和結合とを有する化合物が好ましく、このような両反応性モノマーを用いることにより、分散相となる樹脂の分散性をより一層向上させることができる。両反応性モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましいが、反応性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸及びフマル酸がより好ましい。
【0034】
本発明において、両反応性モノマーは、縮重合系樹脂の原料モノマーとして扱う。両反応性モノマーの使用量は、縮重合系樹脂の原料モノマーであるカルボン酸成分中、1〜20モル%が好ましく、5〜15モル%がより好ましい。
【0035】
また、本発明の結着樹脂は、結着樹脂の臭気を低減させる観点から、少なくとも後述の工程(A)及び(B)を経て製造することができる。従って、本発明では、かかる結着樹脂の製造方法も提供する。
【0036】
本発明の製造方法は、有機溶媒存在下又は無溶媒下で付加重合系樹脂の原料モノマーを付加重合反応させる工程(A)、並びに工程(A)の前、中及び後の少なくともいずれかの時点で、縮重合系樹脂の原料モノマーを工程(A)の反応系に存在させて縮重合反応させる工程(C)を有するものであって、さらに、前記工程(A)の途中及び/又は終了後に、前記工程(A)で生じる反応混合物と水とを混合する工程(B)を有することに特徴を有する。
【0037】
工程(B)において、工程(A)で生じる反応混合物と水とを混合する際の系内の温度は、水の蒸発効率及び反応混合物の粘度の観点から、100〜300℃が好ましく、130〜250℃がより好ましく、150〜240℃がさらに好ましい。
【0038】
また、工程(B)における水の混合量は、結着樹脂の臭気の低減効率と生産性の観点から、付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、0.1〜50重量部が好ましく、0.5〜40重量部がより好ましく、1〜35重量部がさらに好ましい。
【0039】
工程(A)で生ずる反応混合物と水とを接触及び/又は混合する方法は特に限定されないが、例えば、反応混合物に水を滴下したり、蒸気を添加したりする方法が好ましい。水は、混合後蒸発するが、樹脂中の含水量は、トナーの帯電特性の観点から、0.2重量%以下が好ましく、含水量を低減する方法としては、水の混合終了後、100℃以上で保持する、又は減圧により除去する等の方法が好ましい。
【0040】
工程(A)と工程(B)は、それぞれ別々に行う必要はなく、両工程を一部並行して行ってもよい。従って、反応混合物と水とを混合する時期は、工程(A)における付加重合反応の終了後であっても、付加重合反応の途中であってもよいが、本発明では、水と樹脂との混合性の観点から、工程(A)における付加重合反応が終了した後に水を添加することが好ましい。付加重合反応の進行度は、使用した開始剤の半減期、反応熱量等から予測、確認することができる。
【0041】
本発明の結着樹脂の製造方法における、工程の手順としては、
i)縮重合反応を行う工程(C)の後に、工程(A)を行う方法、
ii)縮重合反応を行う工程(C)を、工程(A)に先立って開始し、工程(A)の後に、再度反応温度を上昇させ、必要に応じて架橋剤となる3価以上の縮重合系樹脂の原料モノマーを重合系に添加し、工程(C)の縮重合反応をさらに進める方法、
iii)付加重合反応に適した温度条件下で付加重合反応を行う工程(A)と縮重合反応を行う工程(C)を並行して行い、反応温度を前記条件下で保持して工程(A)を完結させた後、反応温度を上昇させ、必要に応じて架橋剤となる3価以上の縮重合系樹脂の原料モノマーを重合系に添加し、工程(C)の縮重合反応をさらに進める方法、
等が挙げられる。これらの方法において、工程(B)の実施は前記のように工程(A)の開始後であればよいが、工程(A)の終了後であることが好ましく、工程(A)及び工程(C)の終了後であることがより好ましい。また、iii)の方法において、工程(A)と工程(C)を並行して行う際には、縮重合系樹脂の原料モノマーを含有した混合物中に、付加重合系樹脂の原料モノマーを含有した混合物を滴下して反応させることが好ましい。このように反応容器中で独立した2つの重合反応を並行して進行させる方法により2種類の樹脂成分が効果的に混合分散した樹脂を得ることができる。
【0042】
また、本発明の結着樹脂が両反応性モノマーを用いて得られるハイブリッド樹脂である場合にも、両反応性モノマーを縮重合系樹脂の原料モノマー及び/又は付加重合系樹脂の原料モノマーと共に用い、好ましくは付加重合系樹脂の原料モノマーと共に用いて、上記工程(A)〜(C)を経て得ることができる。
【0043】
定着性を向上させる観点からは、トナーには離型剤を含有させることが好ましく、ワックスの分散性を向上させる観点からは、本発明の結着樹脂は、ワックスの存在下で縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる樹脂が好ましい。
【0044】
ワックスとしては、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレンポリエチレン共重合体、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物、カルナウバワックス、モンタンワックス、サゾールワックス及びそれらの脱酸ワックス等のエステル系ワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらのなかでは、離型性及び安定性の観点から、脂肪族炭化水素系ワックスが好ましい。
【0045】
ワックスの添加量は、結着樹脂の製造に用いられる原料モノマーの総量100重量部に対して、20重量部以下が好ましく、1〜10重量部がより好ましい。
【0046】
ワックスの添加時期は特に限定されず、重合開始当初であっても、重合反応途中であってもよい。
【0047】
本発明においては、縮重合系樹脂の付加重合系樹脂に対する重量比、即ち縮重合系樹脂の原料モノマーの付加重合系樹脂の原料モノマーに対する重量比(縮重合系樹脂の原料モノマー/付加重合系樹脂の原料モノマー)は、連続相が縮重合系樹脂であり、分散相が付加重合系樹脂であることが好ましいことから、55/45〜95/5が好ましく、60/40〜95/5がより好ましく、70/30〜90/10がさらに好ましい。
【0048】
本発明の結着樹脂の軟化点は、低温定着性、定着可能領域及び保存性の観点から、好ましくは70〜170℃、より好ましくは80〜150℃、さらに好ましくは80〜140℃、さらに好ましくは90〜130℃である。また、ガラス転移点は40〜80℃が好ましく、45〜70℃がより好ましく、50〜65℃がさらに好ましい。本明細書において、軟化点及びガラス転移点は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0049】
本発明の結着樹脂を用いて、耐フィルミング性及び低温定着性に優れた電子写真用トナーが得られる。従って、本発明では、さらに、本発明の結着樹脂を含有したトナーを提供する。
【0050】
本発明の結着樹脂の含有量は、結着樹脂中、好ましくは70〜100重量%、より好ましくは90〜100重量%、さらに好ましくは実質的に100%含有されることが望ましい。他の結着樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等が挙げられ、本発明の効果を損なわない範囲で含有されていてもよい。
【0051】
本発明のトナーは、結着樹脂以外に、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、流動性向上剤、クリーニング性向上剤等の添加剤を含有してもよい。
【0052】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等を使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン-Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナー、フルカラートナーのいずれであってもよい。着色剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。
【0053】
離型剤としては、前述したワックスが同様に挙げられる。これらのなかでは、離型性及び安定性の観点から、脂肪族炭化水素系ワックス及びエステル系ワックスが好ましく、これらは単独で又は2種以上を混合して含有されていても良い。離型剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、0.1〜20重量部が好ましく、0.5〜10重量部がより好ましい。離型剤は分散性向上の観点から、結着樹脂製造時に樹脂の原料モノマーと共に用いられ、結着樹脂に内添されていてもよい。
【0054】
荷電制御剤としては、ニグロシン染料、3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、ポリアミン樹脂、イミダゾール誘導体等の正帯電性荷電制御剤及び含金属アゾ染料、銅フタロシアニン染料、サリチル酸のアルキル誘導体の金属錯体、ベンジル酸のホウ素錯体等の負帯電性荷電制御剤が挙げられる。
【0055】
荷電制御剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、0.1〜5重量部が好ましく、0.5〜2重量部がより好ましい。
【0056】
本発明のトナーは、混練粉砕法、スプレイドライ法、重合法等の公知の方法により製造することができるが、生産性や着色剤の分散性の観点から、混練粉砕法により得られる粉砕トナーが好ましい。混練粉砕法の一般的な方法としては、例えば、結着樹脂、並びに、離型剤、荷電制御剤、磁性粉等の添加剤等をヘンシェルミキサー、ボールミル等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー又は1軸もしくは2軸の押出機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級する方法が挙げられる。さらに、製造過程における粗粉砕物や、得られたトナーの表面に、必要に応じて疎水性シリカ等の流動性向上剤等を添加してもよい。本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、3〜15μmが好ましく、4〜8μmがより好ましい。本発明書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
【0057】
本発明のトナーは、単独で現像剤として用いられる一成分系現像用トナーとして、またはキャリアと混合して現像剤として用いられる二成分系現像用トナーとして用いることができる。
【実施例】
【0058】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0059】
〔樹脂のガラス転移点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度とする。
【0060】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0061】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:100μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)を5重量%の濃度となるよう前記電解液に溶解させて分散液を得る。
分散条件:前記分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mLを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:前記試料分散液を前記電解液100mLに加えることにより、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度に調整した後、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0062】
実施例1(樹脂1)
表1に示す無水トリメリット酸、フマル酸及びアクリル酸以外のポリエステルの原料モノマー及びエステル化触媒としてオクチル酸スズ10gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、230℃で8時間縮重合反応させた。さらに、8kPaで1時間反応させ、表1に示す「サゾールH−105」(サゾール社製)を添加し、160℃まで冷却した後、表1に示すアクリル酸、ビニル系樹脂の原料モノマー及び重合開始剤の混合物を滴下ロートにより1時間かけて滴下した。滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を熟成させた後、200℃に昇温し、10kPaで1時間保持して、ビニル系樹脂の原料モノマーの除去をおこなった。その後、表1に示す無水トリメリット酸及びフマル酸を加えて1時間反応させた後、40kPaで架橋反応を所定の軟化点に達するまで行い樹脂1を得た。
【0063】
実施例2〜4(樹脂2〜4)
表1に示す無水トリメリット酸、フマル酸及びアクリル酸以外のポリエステルの原料モノマー及びエステル化触媒としてオクチル酸スズ10gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、230℃で8時間縮重合反応させた。さらに、8kPaで1時間反応させ、160℃まで冷却した後、表1に示すアクリル酸、ビニル系樹脂の原料モノマー及び重合開始剤の混合物を滴下ロートにより1時間かけて滴下した。滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を熟成させた後、200℃に昇温し、10kPaで1時間保持して、ビニル系樹脂の原料モノマーの除去をおこなった。その後、表1に示す無水トリメリット酸及びフマル酸を加えて1時間反応させた後、40kPaで架橋反応を各々所定の軟化点に達するまで行い樹脂2〜4を得た。
【0064】
実施例5〜7(樹脂5〜7)
表1又は表2に示す無水トリメリット酸、フマル酸及びアクリル酸以外のポリエステルの原料モノマー及びエステル化触媒としてオクチル酸スズ10gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、230℃で8時間縮重合反応させた。さらに、8kPaで1時間反応させ、160℃まで冷却した後、表1又は表2に示すアクリル酸、ビニル系樹脂の原料モノマー及び重合開始剤の混合物を滴下ロートにより1時間かけて滴下した。滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を熟成させた後、200℃に昇温し、8kPaにて0.5時間保持した。その後、同温度で攪拌しながら1時間かけて水250mL(ビニル系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、29重量部)を滴下して、最後に、表1又は表2に示す無水トリメリット酸及びフマル酸を加えて1時間反応させた後、40kPaで架橋反応を各々所定の軟化点に達するまで行い樹脂5〜7を得た。
【0065】
比較例1(樹脂8)
表2に示す原料を用いて、樹脂1と同様にして反応を行ない、樹脂8を得た。
【0066】
比較例2(樹脂9)
表2に示す無水トリメリット酸、フマル酸及びアクリル酸以外のポリエステルの原料モノマー及びエステル化触媒としてオクチル酸スズ10gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、230℃で8時間縮重合反応させた。さらに、8kPaで1時間反応させ、表2に示す「サゾールH−105」(サゾール社製)を添加し、160℃まで冷却した後、表2に示すアクリル酸、ビニル系樹脂の原料モノマー及び重合開始剤の混合物を滴下ロートにより1時間かけて滴下した。滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を熟成させた後、200℃に昇温し、8kPaにて0.5時間保持した。その後、同温度で攪拌しながら1時間かけて水250mL(ビニル系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、29重量部)を滴下して、最後に、表2に示す無水トリメリット酸及びフマル酸を加えて1時間反応させた後、40kPaで架橋反応を所定の軟化点に達するまで行い樹脂9を得た。
【0067】
比較例3(樹脂10)
表2に示す原料を用いて、樹脂1と同様にして反応を行ない、樹脂10を得た。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
トナー製造例1〜9(実施例8〜13及び比較例4〜6)
表3に示すトナー原料をヘンシェルミキサーにて攪拌混合後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。ロールの回転速度は200r/min、ロール内の加熱温度は120℃であり、混合物の供給速度は10kg/時間、平均滞留時間は約18秒であった。得られた混練物を冷却ローラーで圧延冷却した後、ジェットミルで粉砕し、分級して、体積中位粒径(D50)6μmのトナーを得た。
【0071】
試験例1〔耐フィルミング性〕
「MicroLine 9500PS」(沖データ(株)製、印字速度:30枚/分(A4用紙横送り)に表3のトナーを実装し、印字率5%の画像を6000枚連続して印刷した。印刷後、感光体ドラム表面への残留トナーの融着の発生状況とプリントアウトした画像への影響を目視で観察し、以下の評価基準に従って、耐フィルミング性を評価した。結果を表3に示す。
【0072】
〔耐フィルミング性の評価基準〕
◎:トナー融着は未発生
○:トナー融着が感光体上に1〜2箇所確認されるが、画像への影響は無い
△:トナー融着が感光体上に3〜5箇所確認されるが、画像への影響は無い
×:トナー融着が感光体上に6〜10箇所確認され、画像にわずかな欠陥が生じている
××:トナー融着が感光体上に10箇所を超えて確認され、画像に著しい欠陥が生じている
【0073】
試験例2〔低温定着性〕
試験例1と同じ装置にトナーを実装し、未定着で2cm×12cm、0.6mg/cm2の画像出しを行った。未定着画像について、所定温度に調整された恒温槽の中に20秒間保管する試験を行った。なお、恒温槽は80℃から10℃ずつ順次上昇させて温度を調整した。得られた定着画像に「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆(株)製、幅:1.8mm、JISZ-1522)を貼り付け、30℃に設定した定着ロールを通過させた後、テープを剥がした。テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(テープ剥離後/テープ貼付前)が最初に90%を越える恒温槽の温度を最低定着温度とした。
【0074】
〔低温定着性の評価基準〕
◎:110℃未満
○:110℃以上、130℃未満
×:130℃以上
【0075】
【表3】

【0076】
以上の結果より、実施例の結着樹脂を含有したトナーは、低温定着性に優れかつフィルミングの発生が抑制され、良好なものであることが分かる。
【0077】
実施例14
実施例8のトナー原料においてモーガルLの代わりに着色剤「ECB301」(大日精化(株)製)を結着樹脂100重量部に対して5重量部加えた以外は、トナー製造例1と同様にして、トナーを得た。得られたトナーについて、耐フィルミング性と低温定着性を上記方法と同様にして試験した結果、良好な結果が得られた。本発明の結着樹脂は、カラートナーにおいても好適に使用することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のトナー用結着樹脂は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に用いられるトナーの結着樹脂として好適に用いられるものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる電子写真トナー用結着樹脂であって、前記付加重合系樹脂の原料モノマーが、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数12〜18)エステルを含有してなる、電子写真トナー用結着樹脂。
【請求項2】
(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数12〜18)エステルが、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル及びメタクリル酸セチルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の電子写真トナー用結着樹脂。
【請求項3】
縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる樹脂が、さらに縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物の存在下で重合させることにより得られる樹脂である、請求項1又は2記載の電子写真トナー用結着樹脂。
【請求項4】
縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーをワックスの存在下で重合させることにより得られる、請求項1〜3いずれか記載の電子写真トナー用結着樹脂。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の結着樹脂の製造方法であって、有機溶媒存在下又は無溶媒下で付加重合系樹脂の原料モノマーを付加重合反応させる工程(A)、及び工程(A)の前、途中及び終了後の少なくともいずれかの時点で、縮重合系樹脂の原料モノマーを工程(A)の反応系に存在させて縮重合反応させる工程(C)を有するトナー用結着樹脂の製造方法であって、さらに前記工程(A)の途中及び/又は終了後に、前記工程(A)で生じる反応混合物と水とを100〜300℃で混合する工程(B)を有し、工程(B)における水の混合量が前記付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して0.1〜50重量部である電子写真トナー用結着樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4いずれか記載の電子写真トナー用結着樹脂を含有してなる電子写真用トナー。


【公開番号】特開2008−20848(P2008−20848A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−194715(P2006−194715)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】