説明

電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置

【課題】長期にわたって安定した高品位な画質を形成し得る電子写真感光体を提供する。
【解決手段】導電性基体上に下引き層および少なくとも電荷発生層と電荷輸送層とが前記導電性基体側からこの順で積層された感光層がこの順で積層され、前記下引き層が、1000nm以下の平均外径を有するカーボンナノコイルをポリアミド樹脂等からなるバインダ樹脂100重量部に対し、10〜200重量部とを含有することを特徴とする電子写真感光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、長期にわたって安定した高品位な画質を形成し得る電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術を用いて画像を形成する電子写真方式の画像形成装置(「電子写真装置」ともいう)は、複写機、プリンタ、ファクシミリ装置などに多用されている。
電子写真プロセスに用いられる電子写真感光体(「感光体」ともいう)は、導電性基体(「導電性支持体」ともいう)上に光導電性材料を含有する感光層が積層されて構成されている。
従来から、無機系光導電性材料を主成分とする感光層を備えた感光体(「無機系感光体」ともいう)が広く用いられてきたが、耐熱性、保存安定性、人体および環境に対する毒性、感度、耐久性、画像欠陥の発生、生産性、製造原価などのいずれかの点で欠点を有し、すべての点において満足のできるものが得られていない。
【0003】
一方、有機系光導電性材料を主成分とする感光層を備えた感光体(「有機系感光体」または「OPC]ともいう)の研究開発が進み、現在では感光体の主流を占めてきている。
有機系感光体は、感度、耐久性および環境に対する安定性などに若干の問題を有するが、毒性、製造原価および材料設計の自由度などの点において、無機系感光体に比べて多くの利点を有している。例えば、有機系感光体は、感光層を浸漬塗布法に代表される容易かつ安価な方法で形成することができる。
【0004】
有機系感光体としては、電荷発生物質(「電荷発生材料」ともいう)および電荷輸送物質(「電荷輸送材料」ともいう)をバインダ樹脂(「結着樹脂」ともいう)に分散させた単層型感光層を導電性基体上に積層した構成、電荷発生物質をバインダ樹脂に分散させた電荷発生層と電荷輸送物質をバインダ樹脂に分散させた電荷輸送層とをこの順でまたは逆順で形成した積層型感光層または逆積層型感光層を導電性基体上に積層した構成などが提案されている。これらの中でも、積層型感光層を有する機能分離型の感光体は、電子写真特性および耐久性に優れ、材料選択の自由度が高く、感光体特性を様々に設計できることから広く実用化されている。
【0005】
また、導電性基体から単層型感光層または積層型感光層への局所的な電荷注入/電荷トラップにより発生する黒点/白点を抑制し、かつこれらの感光層を導電性基体上に均一かつ均質に形成するために、導電性基体と感光層との間に下引き層(「中間層」ともいう)を設ける技術も知られている。
下引き層は、通常、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂などの均一層を形成するためのバインダ樹脂と、下引き層の抵抗値を調整するために、バインダ樹脂に分散される金属酸化物などの微粒子から構成される。
【0006】
下引き層は、通常、溶剤中に上記のバインダ樹脂を溶解し、そこに金属酸化物微粒子を均一に分散させた塗布液を導電性基体上に塗膜化することにより形成される。その際、比重の大きい金属酸化物微粒子は沈殿する傾向が強く、均一な塗膜の形成を妨げ、また塗布液としての安定性の悪化を招くことがある。
例えば、特開昭56-52757号公報(特許文献1)には、酸化チタンを含有した下引き層を有する電子写真複写材料(感光体)が記載されている。また、特開平8−272124公報(特許文献2)には、導電性金属酸化物とカーボン粒子とを含有した下引き層を有する感光体が記載されている。
さらに、特開2006−84987号公報(特許文献3)には、印画画像の均質性を向上させる目的で、カーボンナノチューブを感光体の下引き層に添加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56-52757号公報
【特許文献2】特開平8−272124公報
【特許文献3】特開2006−84987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の先行技術のように、下引き層の改良技術が種々試みられてきたが、現状は十分なものではない。カーボン粒子の導入は、金属酸化物の凝集を抑制し、抵抗値の調整機能があるが、過度の添加は、抵抗値の低下により使用上困難となる問題があった。さらに、カーボンナノチューブの導入により、一時的には所望の特性が得られても、カーボンナノチューブ自身の強い凝集力による下引き層用塗布液(分散液)および得られた下引き層を有する感光体としての特性悪化が懸念される。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点を解消して、長期にわたって安定した高品位な画質を形成し得る感光体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、導電性基体上に下引き層および感光層がこの順で形成された感光体において、下引き層にカーボンナノコイルを含有させることにより、感光体特性として均一でありかつ安定な感光体が得られることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして、本発明によれば、導電性基体上に下引き層および感光層がこの順で積層され、前記下引き層が、カーボンナノコイルを含有することを特徴とする感光体が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、長期にわたって安定した高品位な画質を形成し得る感光体を提供することができる。
すなわち、本発明によれば、カーボンナノコイルを含有させた、分散安定性の良好な下引き層塗布液でムラがなく、均一な下引き層を形成することができ、感光体特性として均一でかつ長期にわたって安定した高品位な画質を形成し得る感光体を提供することができる。
【0013】
また、カーボンナノコイルが1000nm以下の平均外径を有することにより、下引き層がバインダ樹脂100重量部とカーボンナノコイル10〜200重量部とを含有することにより、上記の効果がさらに発揮される。
さらに、下引き層が金属酸化物微粒子をさらに含有することにより、上記の効果がさらに発揮される。
また、本発明の感光体は、単層型、積層型のいずれのタイプにも適用できるが、感光層が、少なくとも電荷発生層と電荷輸送層とが前記導電性基体側からこの順で積層された層であることにより、上記の効果がさらに発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
【図2】本発明の感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
【図3】本発明の感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
【図4】本発明の画像形成装置の要部の構成を示す模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の感光体は、導電性基体上に下引き層および感光層がこの順で積層され、前記下引き層が、カーボンナノコイルを含有することを特徴とする。
【0016】
本発明の感光体について図面を用いて説明するが、以下に示す形態は一例に過ぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1〜3は、それぞれ本発明の感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
図1の感光体は、導電性材料からなる円筒状の導電性基体11の外周面上に、下引き層15と感光層14とがこの順で積層されてなる。感光層14は、導電性基体11側から順次積層される、電荷発生物質を含有する電荷発生層12と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層13とからなる。このような感光層を「積層型感光層」ともいう。
本発明の感光層は、図2に示されるように、単一の層で構成されてもよい。
図2の感光体は、導電性基体11の外周面上に、下引き層15と、電荷発生物質と電荷輸送物質とを含有する感光層14とがこの順で積層されてなる。このような感光層を「単層型感光層」ともいう。
図3の感光体は、図1の感光体の変形例であり、図1の電荷輸送層13が、導電性基体11側から順次積層される、電荷輸送層13Aと電荷輸送層13Bとからなる。
【0017】
(導電性基体11)
導電性基体11は、感光体1の電極としての役割を果たすとともに、上部に配置される層、すなわち下引き層15および感光層14の支持部材としても機能する。
導電性基体の構成材料は、当該分野で用いられる材料であれば特に限定されない。
具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、真鍮、亜鉛、ニッケル、ステンレス鋼、クロム、モリブデン、バナジウム、インジウム、チタン、金、白金などの金属および合金材料:ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエステル、ポリオキシメチレン、ポリスチレン、セルロース、ポリ乳酸などの高分子材料、硬質紙、ガラスなどからなる基体表面に金属箔をラミネートしたもの、金属材料または合金材料を蒸着したもの、導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウム、カーボンブラックなどの導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布したものなどが挙げられる。
【0018】
導電性基体の形状としては、シート状、円筒状、円柱状、無端ベルト(シームレスベルト)状などが挙げられる。
導電性基体の表面には、必要に応じて、画質に影響のない範囲内で、陽極酸化皮膜処理、薬品、熱水などによる表面処理、着色処理、表面を粗面化するなどの乱反射処理が施されていてもよい。
【0019】
乱反射処理は、レーザを露光光源として用いる電子写真プロセスにおいて本発明による感光体を用いる場合に特に有効である。すなわち、レーザを露光光源として用いる電子写真プロセスでは、レーザ光の波長が揃っているので、感光体の表面で反射されたレーザ光と感光体の内部で反射されたレーザ光とが干渉を起こし、この干渉による干渉縞が画像に現れて画像欠陥の発生することがある。そこで、導電性基体の表面に乱反射処理を施すことにより、波長の揃ったレーザ光の干渉による画像欠陥を防止することができる。
【0020】
(下引き層15)
下引き層15は、導電性基体11または感光層14の欠陥に起因して生じる微小な領域での帯電性の低下、黒ぽちなどの画像のかぶりや著しい画像欠陥を防止する。
すなわち、下引き層15は、導電性基体11表面の凸凹を被覆して表面を均一にして感光層14の成膜性を高め、導電性基体11からの感光層14の剥離を抑え、導電性基体11と感光層14との接着性を向上させる。
本発明の感光体は、下引き層がカーボンナノコイルを含有することを最大の特徴とする。
【0021】
下引き層は、バインダ樹脂を適当な溶剤に溶解させ、そこにカーボンナノコイルを分散させて下引き層用塗布液を調製し、これを導電製基体の表面に塗布し、乾燥により溶剤を除去することにより形成できる。
カーボンナノコイルは、一般に、コイル径が数nm〜数百nm程度でコイル状(螺旋状)に巻いた炭素繊維である。
【0022】
本発明において用いられるカーボンナノコイルは、平均外径1000nm以下を有するものが好ましい。より好ましい平均外径は50〜500nm、さらに好ましい平均外径は100〜300nmである。
ここで、本発明において「平均外径」とは、コイルの直径(外径)の平均値を意味し、例えば、電子顕微鏡でカーボンナノコイル粒子の中央付近におけるコイルの外径を測定することにより算出することができる。
カーボンナノコイルの平均外径が1000nmを超えると下引き層形成時にこれら粗大粒子の影響により、塗膜の均一性を保持できず画像欠陥を発生させることがある。一方、カーボンナノコイルの平均外径が50nm未満では下引き層塗液中でのカーボンナノコイル粒子の凝集が発生し、塗液としての安定性が損なわれることがある。
また、カーボンナノコイルの長さは、好ましくは0.5〜5μm(500〜5000nm)程度である。
【0023】
下引き層は、後述するバインダ樹脂100重量部とカーボンナノコイル10〜200重量部とを含有するのが好ましい。より好ましいカーボンナノコイルの含有量は50〜180重量部であり、さらに好ましいカーボンナノコイルの含有量は100〜160重量部である。
カーボンナノコイルの含有量が10重量部未満では、十分な下引き層の導電性が確保できないことがある。一方、カーボンナノコイルの含有量200重量部を超えると抵抗値の過度の低下により、感光体の帯電性が確保できないことがある。
【0024】
カーボンナノコイルは、例えば、後述するような気相合成法により製造することができる。すなわち、反応器内部を加熱し、この反応器内部に炭化水素ガスを流通させる。次いで、この炭化水素ガスの中にインジウム・スズ・鉄系触媒を粒子状に分散させ、炭化水素を触媒近傍で分解しながら触媒粒子の表面にカーボンナノコイルを成長させる。これにより、外径の平均値が1000nm以下のカーボンナノコイルを製造することができる。
【0025】
本発明では、下引き層がカーボンナノコイルと共に、さらに金属酸化物微粒子を含有するのが好ましい。金属酸化物微粒子は、電荷調整機能を発揮する。
金属酸化物粒子を構成する材料としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムおよび酸化錫などが挙げられ、その平均粒子径10〜100nm程度が好ましい。
本発明では、カーボンナノコイルと金属酸化物微粒子とを共に「フィラー」ともいう。
【0026】
下引き層は、後述するバインダ樹脂100重量部と金属酸化物微粒子10〜100重量部とを含有するのが好ましい。より好ましい金属酸化物微粒子の含有量は30〜90重量部であり、さらに好ましい金属酸化物微粒子の含有量は40〜80重量部である。
金属酸化物微粒子の含有量が10重量部未満では、十分な電荷調整機能を発揮できないことがある。一方、金属酸化物微粒子の含有量が100重量部を超えると感光体としての帯電能の保持ができないことがある。
【0027】
バインダ樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂およびポリアミド樹脂などの樹脂、ならびにこれらの樹脂を構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂などに加えて、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、セルロース、ニトロセルロースおよびエチルセルロースなどの天然高分子が挙げられ、これらの1種を単独でまたは2種以上を組合わせて用いることができる。
これらの樹脂の中でも、ポリアミド樹脂を用いることが好ましく、特にアルコール可溶性ナイロン樹脂を用いることが好ましい。
【0028】
好ましいアルコール可溶性ナイロン樹脂としては、例えば、6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、11−ナイロン、2−ナイロンおよび12−ナイロンなどを共重合させた、いわゆる共重合ナイロン、ならびにN−アルコキシメチル変性ナイロンおよびN−アルコキシエチル変性ナイロンのように、ナイロンを化学的に変性させた樹脂などが挙げられる。
【0029】
下引き層用塗布液の溶剤としては、水もしくは各種有機溶剤およびこれらの混合溶剤が挙げられる。例えば、水、メタノール、エタノールもしくはブタノールなどの単独溶剤、または水とアルコール類、2種類以上のアルコール混液、アセトンもしくはジオキソランなどとアルコール類、ジクロロエタン、クロロホルムもしくはトリクロロエタンなどのハロゲン系有機溶剤とアルコール類などの混合溶剤が挙げられる。これらの溶剤の中でも、地球環境に対する配慮から、非ハロゲン系有機溶剤が好適に用いられる。
【0030】
下引き層用塗布液の調製において、溶剤にバインダ樹脂を溶解させた樹脂溶液に、フィラーを分散させるために、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミル、超音波分散機またはペイントシェーカなどの公知の分散装置を用いてもよい。また、微小空隙中に分散液を超高圧で通過させることによって発生する非常に強いせん断力を利用したメディアレスタイプの分散装置を用いてもよく、これにより安定な分散塗布液を調製することができる。
【0031】
下引き層用塗布液の塗布方法は、塗布液の物性および生産性などを考慮に入れて最適な方法を適宜選択すればよく、例えば、ディップコート法、スプレー法、ノズル法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法および浸漬塗布法などが挙げられる。
これらの塗布方法の中でも、浸漬塗布法は、塗布液を満たした塗工槽に基体を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって基体の表面に層を形成する方法であり、比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、感光体の製造に好適に用いることができる。浸漬塗布法に用いる装置には、塗布液の分散性を安定させるために、超音波発生装置に代表される塗布液分散装置が設けられていてもよい。
【0032】
自然乾燥により塗膜中の溶剤を除去してもよいが、加熱により強制的に塗膜中の溶剤を除去してもよい。
このような乾燥工程における温度は、使用した溶剤を除去し得る温度であれば特に限定されないが、50〜140℃程度が適当であり、80〜130℃程度が特に好ましい。
乾燥温度が50℃未満では、乾燥時間が長くなることがあり、また溶剤が充分に蒸発せず電荷発生層中に残ることがある。また、乾燥温度が約140℃を超えると、感光体の繰り返し使用時の電気的特性が悪化して、得られる画像が劣化することがある。
このような温度条件は、下引き層のみならず後述する感光層などの層形成や他の処理においても共通する。
【0033】
下引き層の膜厚は特に限定されないが、好ましくは0.01μm以上20μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上10μm以下である。
下引き層の膜厚が0.01μm未満では、実質的に下引き層15として機能しなくなり、導電性基体11の凸凹を被覆して均一な表面性を得ることができず、導電性基体11からの感光層14への電荷の注入を防止することができなくなり、感光層14の帯電性の低下が生じることがある。
一方、下引き層の膜厚が20μmを超えると、下引き層15を浸漬塗布法によって形成することが困難になると共に、下引き層15上に感光層14を均一に形成することができず、感光体の感度が低下することがある。
【0034】
(電荷発生層12)
電荷発生層は、照射された光を吸収することにより電荷を発生する電荷発生能を有する電荷発生物質を主成分とし、任意に公知の添加剤およびバインダ樹脂を含有する。
【0035】
電荷発生物質としては、当該分野で用いられる有機系顔料を含む有機系光導電性材料および無機顔料を含む無機系光導電性材料が挙げられる。
有機系顔料を含む有機系光導電性材料としては、例えば、モノアゾ系顔料、ビスアゾ系顔料およびトリスアゾ系顔料などのアゾ系顔料、インジゴおよびチオインジゴなどのインジゴ系顔料、ペリレンイミドおよびペリレン酸無水物などのペリレン系顔料、アントラキノンおよびピレンキノンなどの多環キノン系顔料、金属フタロシアニンおよび無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩類およびチオピリリウム塩類、トリフェニルメタン系色素などの有機光導電性材料が挙げられる。
また、無機顔料を含む無機系光導電性材料としては、セレンおよびその合金、ヒ素-セレン、硫化カドミウム、酸化亜鉛、アモルファスシリコン、その他の無機光導電体が挙げられる。
【0036】
電荷発生層は、本発明の好ましい特性が損なわれない範囲内で、化学増感剤、光学増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、分散安定剤、増感剤、レベリング剤、可塑剤、無機化合物もしくは有機化合物の微粒子などから選ばれる1種または2種以上の公知の添加剤を適量含有していてもよい。これらの添加剤は、後述する電荷輸送層に含有されてもよく、電荷発生層および電荷輸送層の両方に含有されてもよい
【0037】
化学増感剤および光学増感剤は、感光体の感度を向上させ、繰返し使用による残留電位の上昇および疲労などを抑え、電気的耐久性を向上させる。
【0038】
化学増感剤としては、例えば無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、4−クロルナフタル酸無水物などの酸無水物;テトラシアノエチレン、テレフタルマロンジニトリルなどのシアノ化合物、4−ニトロベンズアルデヒドなどのアルデヒド類;アントラキノン、1−ニトロアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどの多環もしくは複素環ニトロ化合物;ジフェノキノン化合物などの電子吸引性材料およびこれらの電子吸引性材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0039】
光学増感剤としては、例えばキサンテン系色素、キノリン系顔料、銅フタロシアニンなどの有機光導電性化合物、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、ナイトブルーおよびビクトリアブルーなどに代表されるトリフェニルメタン系染料;エリスロシン、ローダミンB、ローダミン3R、アクリジンオレンジおよびフラペオシンなどに代表されるアクリジン染料;メチレンブルーおよびメチレングリーンなどに代表されるチアジン染料;カプリブルーおよびメルドラブルーなどに代表されるオキサジン染料;シアニン染料;スチリル染料;ピリリウム塩染料およびチオピリリウム塩染料などが挙げられる。
【0040】
酸化防止剤は、長期にわたって感度安定性を維持させることができる。
酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール:BHT)のようなヒンダードフェノールなどのフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミンなどのアミン系酸化防止剤、ビタミンE、ハイドロキノン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカンおよびそれらの誘導体、有機硫黄系化合物、有機燐系化合物などが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
酸化防止剤の添加量は、電荷発生物質100重量部に対して0.1〜40重量部が好ましく、0.5〜15重量部が特に好ましい。
酸化防止剤の添加量が0.1重量部未満であると、塗布液の安定性の向上および感光体の耐久性の向上に充分な効果が得られないおそれがある。また、酸化防止剤の添加量が40重量部を超えると、感光体特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0042】
レベリング剤および可塑剤は、成膜性、可撓性および表面平滑性を向上させることができる。
レベリング剤としては、例えばシリコーン系レベリング剤などが挙げられる。
可塑剤としては、例えばフタル酸エステルなどの二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、塩素化パラフィンおよびエポキシ型可塑剤などが挙げられる。
【0043】
無機化合物または有機化合物の微粒子は、機械的強度を増強し、電気特性を向上させることができる。このような微粒子としては、例えば、前述した下引層において例示する金属化合物微粒子やポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素系樹脂などの微粒子が挙げられる。
【0044】
電荷発生層は、公知の乾式法および湿式法により形成することができる。
乾式法としては、例えば、電荷発生物質を導電性基体の表面に真空蒸着する方法が挙げられる。
湿式法としては、例えば、電荷発生物質、必要に応じて添加剤およびバインダ樹脂を適当な溶剤に溶解または分散して電荷発生層形成用塗布液を調製し、得られた塗布液を導電性基体上に形成された下引き層表面に塗布し、次いで乾燥して溶剤を除去する方法が挙げられる。
その他の工程およびその条件は、下引き層の形成に準ずる。
【0045】
バインダ樹脂は、電荷発生層の機械的強度や耐久性、層間の結着性などを向上させることができ、当該分野で用いられる結着性を有する樹脂を使用できる。
具体的には、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどのビニル系樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリアミド、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル、ポリアクリルアミド、ポリフェニレンオキサイドなどの熱可塑性樹脂;フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマールなどの熱硬化性樹脂、これらの樹脂の部分架橋物、これらの樹脂に含まれる構成単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂などの絶縁性樹脂)などが挙げられる。これらのバインダ樹脂は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0046】
電荷発生層は、バインダ樹脂100重量部と電荷発生物質10〜400重量部とを含有するのが好ましい。より好ましい電荷発生物質の含有量は100〜300重量部であり、さらに好ましい電荷発生物質の含有量は150〜250重量部である。
電荷発生物質の含有量が10重量部未満では、感光体の感度が低下することがある。一方、電荷発生物質の含有量が400重量部を超えると電荷発生層の膜強度が低下するだけでなく、電荷発生物質の分散性が低下して粗大粒子が増大するので、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷が減少し、画像欠陥、特に白地にトナーが付着し微小な黒点が形成される黒ぽちと呼ばれる画像のかぶりが多くなることがある。
【0047】
電荷発生層用塗布液の溶剤としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、1,2−ジメトキシエタンなどのエチレングリコールのアルキルエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、およびN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。これらの溶剤の1種を単独でまたは2種以上の混合溶剤として用いることができる。これらの溶剤の中でも、地球環境に対する配慮から、非ハロゲン系有機溶剤が好適に用いられる。
【0048】
構成物質を樹脂溶液に溶解または分散させるのに先立ち、電荷発生物質を予備粉砕してもよい。
予備粉砕は、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミル、超音波分散機などの一般的な粉砕機を用いて行うことができる。
構成物質の樹脂溶液への溶解または分散は、例えば、ペイントシェーカ、ボールミル、サンドミルなどの一般的な分散機を用いて行うことができる。このとき、容器および分散機を構成する部材から摩耗などによって不純物が発生し、塗布液中に混入しないように、分散条件を適宜設定するのが好ましい。
【0049】
電荷発生層の膜厚は特に限定されないが、好ましくは0.05μm以上5μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上1μm以下である。
電荷発生層の膜厚が0.05μm未満では、光吸収の効率が低下し、感光体の感度が低下することがある。
一方、電荷発生層の膜厚が5μmを超えると、電荷発生層12内部での電荷移動が感光層14の表面電荷を消去する過程の律速段階となり、感光体1の感度が低下することがある。
【0050】
(電荷輸送層13)
電荷輸送層は、電荷発生層に含まれる電荷発生物質で発生した電荷を受入れ、これを輸送する能力を有する電荷輸送物質と、電荷輸送物質を結着させるバインダ樹脂とを主成分とし、任意に公知の添加剤を含有する。
【0051】
電荷輸送物質としては、当該分野で用いられる化合物、例えば、エナミン誘導体、カルバゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、多環芳香族化合物、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリールアミン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体およびベンジジン誘導体などが挙げられる。
【0052】
バインダ樹脂は、電荷発生層に含まれるものと同様のバインダ樹脂の1種または2種以上を使用できる。
これらの樹脂の中でも、ポリカーボネートを主成分とする樹脂、ポリアリレート樹脂およびポリスチレン樹脂は、光化学的に安定で、電荷輸送物質との相溶性に優れ、さらに体積抵抗値が1013Ωcm以上であって電気絶縁性に優れ、かつ成膜性、電位特性、透明性、耐刷性などにも優れるので好ましい。
【0053】
ポリカーボネートを主成分とする樹脂は、ポリカーボネート樹脂の重量%が、電荷輸送層を構成する総バインダ樹脂中で最も高い割合を占めることを意味し、より好ましくは50〜90重量%の範囲を占めることを意味する。
また、第2成分のバインダ樹脂は、上記総バインダ樹脂中10〜50重量%の範囲で用いられ得る。
第2成分のバインダ樹脂は、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などのビニル重合体樹脂およびこれらを構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂、ならびにポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂およびフェノール樹脂ならびにこれらの樹脂を部分的に架橋した熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独また2種以上の混合物を使用してもよい。
【0054】
電荷輸送層は、バインダ樹脂100重量部と電荷輸送物質30〜100重量部とを含有するのが好ましい。より好ましい電荷輸送物質の含有量は40〜90重量部であり、さらに好ましい電荷輸送物質の含有量は50〜80重量部である。
電荷輸送物質の含有量が30重量部未満では、十分な電荷輸送能がなく、十分な露光後の電位低下が確保できないことがある。一方、電荷輸送物質の含有量が100重量部を超えると、過度で電荷輸送物質の添加による帯電性の保持ができない、あるいは塗膜中での電荷輸送物質の凝集発生による画像欠陥の発生が起こることがある。
【0055】
電荷輸送層は、本発明の効果を阻害しない範囲内で必要に応じて、電荷発生層に含まれるものと同様の添加剤を適量含有していてもよい。
例えば、フィラー粒子は、有機系フィラー粒子と金属酸化物微粒子のような無機系フィラー粒子とに大別されるが、後者が好ましく、電荷輸送層内での光散乱を考慮すると、媒質の屈折率との差が小さい酸化珪素(シリカ)微粒子が特に好ましい。
すなわち、酸化チタンや酸化アルミニウムを用いた場合、その比誘電率は有機感光体の平均的な比誘電率(εr)≒3と比較して著しく大きくなり(εr>10)、電荷輸送層が不均一となり、電気特性に弊害が生じるおそれがあるが、酸化珪素を用いた場合、製法によって誤差があるものの、その比誘電率は概ねεr≒4であり、電気特性に大きな弊害が生じないと考えられる。
【0056】
フィラー粒子は、光散乱および電荷輸送層内での電気的キャリアーへの弊害を低減するために、小さい粒子径のものが好ましい。具体的なフィラー粒子の粒子径は、1000nm以下、好ましくは50〜500nm、さらに好ましくは100〜300nmである。
フィラー粒子の添加量は、電荷輸送物質と結着樹脂との合計重量(電荷輸送層の固形分)に対して、0.1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%、より好ましくは5〜15重量%である。
【0057】
電荷輸送層は、電荷発生層と同様に、電荷輸送物質、結着樹脂および必要に応じてフィラー粒子などの添加剤を適当な溶媒に溶解または分散させて電荷輸送層用塗布液を調製し、得られた塗布液を電荷発生層表面に塗布し、次いで乾燥して溶剤を除去することにより形成することができる。
電荷輸送層用塗布液の溶剤としては、電荷発生層用塗布液の溶剤と同様のものが挙げられる。
電荷輸送層用塗布液の調製において、フィラー粒子を分散させるために、下引き層用塗布液の調製と同様に公知の分散装置を用いてもよい。
その他の工程およびその条件は、下引き層および電荷発生層の形成に準ずる。
【0058】
電荷輸送層の膜厚は特に限定されないが、好ましくは5μm以上40μm以下であり、より好ましくは10μm以上30μm以下である。
電荷輸送層の膜厚が5μm未満では、帯電保持能が低下することがある。
一方、電荷輸送層の膜厚が40μmを超えると、感光体1の解像度が低下することがある。
【0059】
以上、積層型感光層を有する図1の感光体の構成について説明したが、本発明の感光体は、図2に示すような単層型感光層を有する感光体であってもよい。
単層型感光層は、電荷発生物質と、電荷輸送物質と、バインダ樹脂とを主成分として含有する。
単層型感光層は、本発明の効果を阻害しない範囲内で必要に応じて、電荷発生層に含まれるものと同様の添加剤を適量含有していてもよい。
【0060】
単層型感光層は、電荷発生物質、電荷輸送物質および必要に応じて他の添加剤を適当な有機溶剤に溶解および/または分散して単層型感光層形成用塗布液を調製し、この塗布液を導電性基体上に形成された下引層の表面に塗布し、次いで乾燥して有機溶剤を除去することによって形成できる。
その他の工程およびその条件は、電荷発生層および電荷輸送層の形成に準ずる。
【0061】
単層型感光層の膜厚は特に限定されないが、5〜50μmが好ましく、10〜40μmが特に好ましい。単層型感光層の膜厚が5μm未満であると、感光体表面の帯電保持能が低下するおそれがあり、単層型感光層の膜厚が50μmを超えると、生産性が低下するおそれがある。
【0062】
また、本発明の感光体は、図3に示すような複数層(図3では2層)の電荷輸送層からなる積層型感光層を有する感光体であってもよい。
構成材料や形成方法は、電荷発生層および電荷輸送層に準ずる。
複数層の電荷輸送層の最上面(導電性基体から最も離れた層)は、カーボンナノコイルおよび金属酸化物微粒子などのフィラー粒子を含有するのが好ましい。
電荷輸送層の膜厚は、複数層の合計膜厚が単層の電荷輸送層の膜厚程度であればよい。
【0063】
(画像形成装置)
本発明の画像形成装置は、感光体と、感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と、露光によって形成された静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像手段と、現像によって形成されたトナー像を記録媒体上に転写する転写手段と、転写されたトナー像を記録媒体上に定着して画像を形成する定着手段と、感光体に残留するトナーを除去し回収するクリーニング手段と、感光体に残留する表面電荷を除電する除電手段を少なくとも備えたことを特徴とする。
【0064】
図面を用いて本発明の画像形成装置(レーザプリンタ)の構成およびその画像形成動作について説明するが、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の感光体を使用することができるものであれば、モノクロ、カラーを問わず、電子写真プロセスを利用する種々のプリンタ、複写機、ファクシミリ、複合機などであり得る。すなわち、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形、変更が可能であって、その他の形態は本明細書および図面の記載から容易に理解される。
図4は、本発明の画像形成装置の構成を示す模式側面図である。
【0065】
画像形成装置であるレーザプリンタ30は、本発明の図1の感光体1(または図2の感光体2もしくは図3の感光体3)、半導体レーザ(または発光ダイオード)31、回転多面鏡32、結像レンズ34、ミラー35、帯電手段であるコロナ帯電器36、現像手段である現像器37、転写紙カセット38、給紙ローラ39、レジストローラ40、転写手段である転写帯電器41、分離帯電器42、搬送ベルト43、定着器44、排紙トレイ45、クリーニング手段であるクリーナ46および除電器(除電ランプ)50を含んで構成される。
なお、半導体レーザ31、回転多面鏡32、結像レンズ34およびミラー35は、露光手段49を構成する。
【0066】
感光体1は、図示しない駆動手段によって矢符47の方向に回転可能なようにレーザプリンタ30に搭載される。半導体レーザ31から出射されるレーザビーム33は、回転多面鏡32によって感光体1の表面に対してその長手方向(主走査方向)に繰り返し走査される。結像レンズ34は、fθ特性を有し、レーザビーム33をミラー35で反射させて感光体1の表面に結像させて露光させる。感光体1を回転させながらレーザビーム33を前記のように走査して結像させることによって、感光体1の表面に画像情報に対応する静電潜像が形成される。
【0067】
上記のコロナ帯電器36、現像器37、転写帯電器41、分離帯電器42よびクリーナ46は、矢符(電子写真感光体の回転方向)47で示す感光体1の回転方向上流側から下流側に向ってこの順序で設けられる。
また、コロナ帯電器36は、レーザビーム33の結像点よりも感光体1の回転方向上流側に設けられ、感光体1の表面を均一に帯電させる。したがって、レーザビーム33が、均一に帯電された感光体1表面を露光することになり、レーザビーム33によって露光された部位の帯電量と露光されなかった部位の帯電量とに差異が生じて前記の静電潜像が形成される。
帯電器としては、コロナ帯電器に限定されず、コロトロン帯電器、スコロトロン帯電器、鋸歯帯電器、ローラ帯電器などであってもよい。
【0068】
現像器37は、レーザビーム33の結像点よりも感光体1の回転方向下流側に設けられ、感光体1表面に形成された静電潜像にトナーを供給し、静電潜像をトナー像として現像する。転写紙カセット38に収容される転写紙48は、給紙ローラ39によって1枚ずつ取出され、レジストローラ40によって感光体1への露光と同期して転写帯電器41に与えられる。転写帯電器41によって、トナー像が転写紙48に転写される。転写帯電器41に近接して設けられる分離帯電器42は、トナー像が転写された転写紙を除電して感光体1から分離される。
【0069】
感光体1から分離された転写紙48は、搬送ベルト43によって定着器44に搬送され、定着器44によってトナー像が定着される。このようにして画像が形成された転写紙48は、排紙トレイ45に向けて排紙される。なお分離帯電器42によって転写紙48が分離された後、さらに回転を続ける感光体1は、その表面に残留するトナーおよび紙粉などの異物がクリーナ46のクリーニングブレードまたはブラシクリーナによって清掃される。クリーナ46によってその表面が清掃された感光体1は、クリーナ46と共に設けられる除電ランプ50によってその表面が除電された後、さらに回転され、前記の感光体1の帯電から始まる一連の画像形成動作が繰り返される。
また、感光体を複数設けることで複数の異なるトナーを用いて重ね併せ画像を形成可能な構成も採用できる。この構成はタンデム方式と称される。
【実施例】
【0070】
以下に製造例、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、これらの製造例および実施例により本発明が限定されるものではない。
【0071】
[製造例1]
次の方法により、下引き層に添加するカーボンナノコイル(CNC)を製造した。
トルエン100ml中にオクチル酸インジウム8.1gとオクチル酸スズ0.7gとオクチル酸鉄0.7gを混入し、超音波攪拌によりこれらを均一に溶解させた。
次いで、得られた有機溶液を、ファインスプレーガン(ノードソン株式会社製)を用いてガラス板(200mm×200mm×t5mm)に噴霧(スプレー)し、形成された塗膜をファンの自然風で乾燥して有機膜を得た。さらに、このガラス板を450℃の加熱炉に30分間投入して有機膜を焼成し、有機成分を熱分解させてインジウム・スズ鉄系触媒の膜を得た。
【0072】
次いで、得られた触媒膜をスクレイパーで掻き落とし、乳鉢で微粉化した。光学顕微鏡により測定した微粉末の粒径は約7μmであった。得られた触媒の微粉末2.7gをトルエン100mlに分散させて触媒溶液を得た。
次いで、得られた触媒溶液を、アセチレン/ヘリウム混合ガス(混合比 1/2)を流量 250(sccm)で導入したCVD反応炉(クオーツのチューブを鉛直に設置して作製)に霧状に噴霧し、ガスと攪拌反応させることにより、触媒微粒子上にCNC粒子を生成させて2gを回収し、この工程を繰り返し実施した。
走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S−4000)により測定したCNC粒子の平均外径(らせんの外径)は300nmであった。
【0073】
[製造例2]
CVD装置に導入するアセチレン/ヘリウム混合ガスの混合比および流量を、1/3および 200(sccm)としたこと以外は製造例1と同様にして、平均外径800nmのCNC粒子を得た。
【0074】
[製造例3]
CVD装置に導入するアセチレン/ヘリウム混合ガスの混合比および流量を、1/4および200(sccm)としたこと以外は製造例1と同様にして、平均外径1200nmのCNC粒子を得た。
【0075】
[実施例1]
図1に示す感光体を作製した。
製造例1で得られたカーボンコイル(平均外径:300nm)3重量部およびバインダ樹脂として市販の共重合ポリアミド樹脂(東レ株式会社製、商品名:アミランCM8000)2重量部を、メチルアルコール25重量部に加え、湿式乳化分散装置(株式会社パウレック、型式:マイクロフルイダイザーM−110P)を用いて設定圧力100MPaの条件で10パス操作を実施し、下引き層用塗布液3kgを調製した。
得られた下引き層用塗布液を容量3.5リットルの塗布槽に満たし、導電性基体として直径30mm、長さ357mmのアルミニウム製のドラム状支持体を浸漬した後引き上げ、得られた塗膜を自然乾燥させて、導電性基体上に膜厚1μmの中間層を形成した。膜厚1μmの中間層を形成した。
【0076】
次いで、電荷発生物質としてCuKα1.541ÅのX線に対するブラッグ角(2θ±0.2°)が27.3°に主要なピークを示すX線回折スペクトルを有するチタニルフタロシアニン1重量部およびバインダ樹脂としてブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製商品名:エスレックBM−2)1重量部をメチルエチルケトン98重量部に混合し、ペイントシェーカーにて8時間分散処理して電荷発生層用塗布液3リットルを調製した。
得られた電荷発生層形成用塗布液を、下引き層形成の場合と同様の浸漬法で先に設けた下引き層表面に塗布し自然乾燥して、膜厚0.3μmの電荷発生層を形成した。
【0077】
次いで、電荷輸送物質として下記構造式で示されるトリフェニルアミン系化合物(東京化成工業株式会社製、商品名:T2269)100重量部、バインダ樹脂としてポリカーボネート樹脂(帝人化成株式会社製、商品名:TS2050)160重量部およびシリコンオイル(東レ・ダウコーニング社製、商品名:SH200)0.02重量部を混合し、テトラヒドロフランを溶剤として固形分21重量%の電荷輸送層用塗布液3Kgを調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、下引き層形成の場合と同様の浸漬法で先に設けた電荷発生層表面に塗布し120℃で1時間乾燥して、膜厚28μmの電荷輸送層を形成し、図1に示す積層型感光体を得た。
【0078】
【化1】

【0079】
[実施例2]
CNC粒子(平均外径:300nm)3重量部の代わりに、製造例2で得られたCNC粒子(平均外径:800nm)3重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の感光体を作製した。
【0080】
[実施例3]
CNC粒子(平均外径:300nm)3重量部の代わりに、製造例3で得られたCNC粒子(平均外径:1200nm)3重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例3の感光体を作製した。
【0081】
[実施例4]
CNC粒子(平均外径:300nm)3重量部の代わりに、同様のCNC2重量部および酸化チタン微粒子(平均粒径:100nm、石原産業株式会社製、商品名:タイベークTTO−D−1:TiO2)1重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例4の感光体を作製した。
【0082】
[比較例1]
CNC粒子(平均外径:300nm)3重量部の代わりに、酸化チタン微粒子(平均粒径:100nm、石原産業株式会社製、商品名:タイベークTTO−D−1:TiO2)3重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の感光体を作製した。
【0083】
[比較例2]
CNC粒子(平均外径:300nm)3重量部の代わりに、酸化亜鉛微粒子(平均粒径:35nm、テイカ株式会社製、商品名:MZ-300:ZnO2)3重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例2の感光体を作製した。
【0084】
[比較例3]
CNC粒子(平均外径:300nm)3重量部の代わりに、カーボンナノチューブ(シングルウォール、平均外径:0.7〜13nm、アルドリッチ社製、製品番号:704113、CNT)3重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例3の感光体を作製した。
【0085】
[評価]
実施例1〜4および比較例1〜3において得られた感光体について、電気特性および画像特性を評価した。
また、実施例1〜4および比較例1〜3において用いた下引き層用塗布液について、保存安定性を評価した。
得られた結果を、下引き層用塗布液に添加したカーボンナノコイル、カーボンナノチューブおよび金属酸化物(表1では「フィラー」と総称)の材料および粒径(外径)と共に表1に示す。
【0086】
[電気特性評価]
画像形成工程における感光体の表面電位を測定できるように表面電位計(TREC JAPAN社製、型式:model 344)を取り付けて改造した、デジタル複写機(シャープ株式会社製、型式:MX−2600)に感光体を搭載した。光源として、波長780nmのレーザ光を使用した。
まず、上記の複写機を用いて、現像部での感光体の表面電位、具体的には帯電性をみるために露光プロセスを除いた暗中における感光体の表面電位V0および感度をみるために露光時における黒地部分の感光体の表面電位VLを測定した。これらの表面電位V0およびVLを、5℃/10%RH(相対湿度)の低温/低湿(「L/L」と略す)環境下で、初期および1000回連続繰り返しコピー直後について測定した。
得られた結果を表1に示す。
【0087】
[画像特性評価]
電気特性評価と併せて、L/L環境下におけるカブリおよび画像濃度を評価し、35℃/85%RH(相対湿度)の高温/高湿(「H/H」と略す)環境下における黒ポチを評価した。
得られた結果を表1に示す。
【0088】
(1)かぶり
初期および1000回連続繰り返しコピー後に、COLOR MEASURING SYSTEM(日本電色工業株式会社製、型式:Z−Σ90)を用いて、無地画像のかぶり量Wkを求め評価した。
上記の装置で三刺激値X、YおよびZを求め、Zの値をかぶり量とし、その結果を次の基準で評価した。
◎:Zが0.5未満(良好)
○:Zが0.5以上0.8未満(実使用上問題なし)
×:Zが0.8以上(実使用不可)
【0089】
(2)画像濃度
初期および1000回連続繰り返しコピー後に、マクベス反射濃度計(サカタインクス株式会社製、型式:Machbes RD918)を用いて、黒ベタ画像の反射濃度を測定し、その結果を次の基準で評価した。
◎:画像濃度が1.4以上(良好)
○:画像濃度が1.25以上1.4未満(実用上問題なし)
×:画像濃度が1.25未満(実使用不可)
【0090】
(3)黒ポチ
初期および1000回連続繰り返しコピー後に、無地画像を10枚プリントし、そのハードコピー(A3版)1枚当たりの、黒ポチ発生の周期性が感光体の周期と一致し、かつ目視可能な黒ポチ(直径0.4mm以上)の個数を計測し、その結果を次の基準で評価した。
◎:全てのハードコピーで黒ポチの発生頻度が3個/枚以下(良好)
○:全てのハードコピーで黒ポチの発生頻度が4〜10個/枚(実用上問題なし)
×:全てのハードコピーで黒ポチの発生頻度が11個/枚以上(実用上問題あり)
【0091】
[下引き層用塗布液の保存安定性]
下引き層用塗布液を室温(約25℃)で1ヶ月間放置し、放置後の塗布液の状態(沈殿)を確認した。
得られた結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表1の結果から、次のことがわかる。
(1)カーボンナノコイル(CNC)粒子を含有する下引き層を有する感光体(実施例1〜4)は、L/LおよびH/Hの極端な環境下においても安定な感光体特性を示し、それらの下引き層用塗布液は1ヶ月保管後も安定であること。
(2)平均外径1000nm以下のCNC粒子を含有する下引き層を有する感光体(実施例1および2)は、特に良好な特性を示すこと(実施例3参照)。
(3)CNC粒子と共に金属酸化物微粒子を含有する下引き層を有する感光体(実施例4)は、上記(2)と同等の特性を示すこと。すなわち材料コストの高いCNC粒子を減らしても金属酸化物との混合により十分な性能の確保が可能である。
【0094】
(4)CNC粒子を含有せず、金属酸化物微粒子のみを含有する下引き層を有する感光体(比較例1および2)は、連続使用後に露光電位(VL)の上昇とそれに伴う画像濃度の低下、帯電電位(V0)の低下とそれに伴うカブリの発生が起こること。
(5)CNC粒子の代わりにカーボンナノチューブを含有する下引き層を有する感光体(比較例3)は、カーボンナノチューブの凝集に起因すると思われる黒ポチが発生し、その下引き層用塗布液は1ヶ月保管後に顕著な沈殿が発生して安定性が損なわれること。
【符号の説明】
【0095】
1、2、3 電子写真感光体
11 導電性基体(導電性支持体)
12 電荷発生層
13、13A、13B 電荷輸送層
14 感光層
15 下引き層(中間層)
【0096】
30 レーザプリンタ(画像形成装置)
31 半導体レーザ
32 回転多面鏡
33 レーザビーム
34 結像レンズ
35 ミラー
36 コロナ帯電器
37 現像器
38 転写紙カセット
39 給紙ローラ
40 レジストローラ
41 転写帯電器
42 分離帯電器
43 搬送ベルト
44 定着器
45 排紙トレイ
46 クリーナ
47 矢符(電子写真感光体の回転方向)
48 転写紙(記録媒体)
49 露光手段
50 除電器(除電ランプ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体上に下引き層および感光層がこの順で積層され、前記下引き層が、カーボンナノコイルを含有することを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記カーボンナノコイルが、1000nm以下の平均外径を有する請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記下引き層が、バインダ樹脂100重量部と、カーボンナノコイル10〜200重量部とを含有する請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記下引き層が、金属酸化物微粒子をさらに含有する請求項1〜3のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記感光層が、少なくとも電荷発生層と電荷輸送層とが前記導電性基体側からこの順で積層された層である請求項1〜4にいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記電子写真感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と、露光によって形成された前記静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像手段と、現像によって形成された前記トナー像を記録媒体上に転写する転写手段と、転写された前記トナー像を前記記録媒体上に定着して画像を形成する定着手段と、前記電子写真感光体に残留するトナーを除去し回収するクリーニング手段と、前記電子写真感光体に残留する表面電荷を除電する除電手段を少なくとも備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−132998(P2012−132998A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283178(P2010−283178)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】