説明

電子写真機器用無端ベルトおよびその製造方法

【課題】基層を形成する材料の剥離や屈曲割れを防止することで耐久性を向上させた電子写真機器用無端ベルトを提供すること。
【解決手段】有機重合体を含む組成物により形成される基層12を備えた円筒状の無端ベルト10であって、基層12の内部には、繊維からなる補強用芯材14が、円筒の一端12aから他端12bに向かって螺旋を巻くように周方向に沿って配され、かつ、基層12は、厚み方向に継ぎ目がないように有機重合体を含む組成物の一体物として構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真機器における中間転写ベルトや紙転写搬送ベルトなどの電子写真機器用無端ベルトおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術を採用した複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器においては、トナー像の転写用、紙転写搬送用、感光体基体用等の用途に、中間転写ベルト等の無端ベルト(シームレスベルト)が用いられている。
【0003】
この種の電子写真機器には、近年、印刷速度の高速化や機器の高寿命化が求められている。このため、電子写真機器の一部材である無端ベルトについても、機器の高速運転に耐え、高寿命となりうるような耐久性が求められている。従来、無端ベルトの耐久性を高めるためには、材料面での改良が行われている。例えば無端ベルトの基層の材料に、剛性に優れる材料を用いる試みがなされている。
【0004】
また、この問題に対し、特許文献1には、絶縁性繊維からなる芯体で無端ベルトを補強する方法が記載されている。この特許文献1の無端ベルトは、弾性体材料を金型に巻き、弾性体材料よりなる層の上に絶縁性繊維からなる芯体を巻き、さらに、筒状に形成した弾性体材料を被せ、これらを加硫することにより形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3445082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の無端ベルトは、金型に巻いた弾性体材料よりなる層と筒状に形成した弾性体材料よりなる層の2層で弾性層が構成されており、これら2層の間に絶縁性繊維からなる芯体が介在しているため、これら2層の界面で剥離が生じやすく、耐久後には2層の界面で剥離が生じるという問題があった。また、特許文献1の無端ベルトでは、弾性体材料を2層に積層することから、無端ベルトの厚みを薄くすることができないという問題があった。無端ベルトが厚くなると、ベルトの外周長と内周長の差が大きくなり、屈曲割れが生じやすくなって耐久性が低下する。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、基層を形成する材料の剥離や屈曲割れを防止することで耐久性を向上させた電子写真機器用無端ベルトおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る電子写真機器用無端ベルトは、有機重合体を含む組成物により形成される基層を備えた円筒状の電子写真機器用無端ベルトであって、前記基層の内部には、繊維からなる補強用芯材が、円筒の一端から他端に向かって螺旋を巻くように周方向に沿って配され、かつ、前記基層は、厚み方向に継ぎ目がないように前記有機重合体を含む組成物の一体物として構成されていることを要旨とするものである。
【0009】
本発明に係る電子写真機器用無端ベルトにおいては、基層の厚みが200μm以下であること、基層の内部において補強用芯材は隣り合う補強用芯材どうしが互いに接触しないように間隔をあけて配されていること、補強用芯材の繊維がナイロン繊維およびアラミド繊維から選択される1種または2種以上の繊維であること、有機重合体がポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、および、ポリエーテルスルホン樹脂から選択される1種または2種以上の樹脂であること、補強用芯材の表面には有機重合体との接着性を高めるための接着層が設けられていることが好ましい。
【0010】
そして、本発明に係る電子写真機器用無端ベルトの製造方法は、有機重合体を含む組成物により形成される基層を備えた円筒状の電子写真機器用無端ベルトの製造方法であって、繊維からなる補強用芯材を中心にして前記補強用芯材と前記有機重合体を含む組成物とを2層押出しながら筒状金型あるいは柱状金型の外周面に螺旋状に巻き付けて、前記補強用芯材を内包する螺旋状塗膜の連続による全体塗膜を形成することにより基層を得ることを要旨とするものである。
【0011】
本発明に係る電子写真機器用無端ベルトの製造方法においては、有機重合体を含む組成物は沸点が150℃以上の高沸点溶剤により塗料とされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る電子写真機器用無端ベルトによれば、厚み方向に継ぎ目がないように有機重合体を含む組成物の一体物として基層が構成されており、このような構成において、繊維からなる補強用芯材が円筒の一端から他端に向かって螺旋を巻くように周方向に沿って基層の内部に配されていることから、基層の厚み方向において基層を形成する材料の剥離が生じる起点となるところがなく、基層内での剥離による耐久性の低下を防止することができる。また、基層は有機重合体を含む組成物の一体物として構成されており、従来の無端ベルトのように基層を2層の弾性体材料で構成するものではないため、基層の厚みが厚くなるのを抑えて外内周長差による屈曲割れが基層に生じるのを防止することができる。
【0013】
この際、基層の厚みを200μm以下にすると、確実に外内周長差による屈曲割れが基層に生じるのを防止することができる。
【0014】
また、基層の内部において補強用芯材は隣り合う補強用芯材どうしが互いに接触しないように間隔をあけて配されていると、有機重合体を含む組成物は補強用芯材を取り囲むようになり、有機重合体を含む組成物の一体性が高まるため、基層を形成する材料の剥離がより一層、生じにくくなる。
【0015】
そして、補強用芯材の繊維が特定の樹脂材料からなる場合には、基層の材料として用いる有機重合体との関係で、補強用芯材を含む無端ベルトの抵抗値を電子写真機器用途に適する高抵抗領域に設定しやすくできる。
【0016】
そして、有機重合体が特定の樹脂材料からなる場合には、樹脂材料自体が高剛性で高靭性であることから、材料面からも基層を形成する材料の剥離や屈曲割れを防止して耐久性を向上させることができる。
【0017】
さらに、補強用芯材の表面に有機重合体との接着性を高めるための接着層が設けられている場合には、補強用芯材と有機重合体との接着性が高まるため、補強用芯材による補強効果が高くなる。
【0018】
そして、本発明に係る電子写真機器用無端ベルトの製造方法によれば、全体塗膜を形成するにあたり、補強用芯材を内包する螺旋状塗膜が徐々に形成されることから、有機重合体を含む組成物の垂れ幅を小さくして、塗膜の表面を平滑にすることができる。また、このとき、補強用芯材は、有機重合体を含む組成物によって取り囲まれて位置決めされながら配されるため、補強用芯材の位置ずれが生じにくく、全体塗膜の中で補強用芯材が均一に分布したものとなる。また、補強用芯材を配する工程と有機重合体を含む組成物を塗工する工程を同時に1つの装置で1度に行うことができるため、工程の短縮化を図ることができるとともに、薄膜にすることができる。
【0019】
このようにして得られた無端ベルトは、基層の内部に補強用芯材を含むものであるが、その基層は厚み方向に継ぎ目がないように有機重合体を含む組成物の一体物として構成されるため、基層を形成する材料の剥離や屈曲割れが抑えられて、耐久性に優れるものとなる。
【0020】
このとき、有機重合体を含む組成物は沸点が150℃以上の高沸点溶剤により塗料とされていると、螺旋状塗膜および全体塗膜のレベリング性が向上し、塗膜の表面をより平滑にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る電子写真機器用無端ベルトの模式図である。
【図2】図1に示す電子写真機器用無端ベルトを幅方向に切断してその内部構造を示したA−A断面図である。
【図3】図1に示す電子写真機器用無端ベルトの作製に用いるノズルの一例の内部構造を示した断面図(a)と、このノズルから無端ベルトの形成材料が2層押出される状態を示した模式図(b)である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る電子写真機器用無端ベルトを幅方向に切断してその内部構造を示した断面図である。
【図5】ベルト材料のカール癖の評価方法を説明する説明図である。
【図6】ベルト材料のカール癖の評価方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の電子写真機器用無端ベルトについて、図を参照しつつ、詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電子写真機器用無端ベルト(無端ベルト10)の模式図である。また、図2は、図1に示す無端ベルト10を幅方向に切断してその内部構造を示したA−A断面図である。
【0023】
図1に示すように、無端ベルト10は、円筒状の無端ベルトであり、有機重合体を含む組成物により形成される基層12を備える。この基層12の内部には、図2に示すように、繊維からなる補強用芯材14が配されており、無端ベルト10は補強用芯材14によって補強されている。この補強用芯材14は、無端ベルト10の円筒の一端12aから他端12bに向かって螺旋を巻くように周方向に沿って配されている。
【0024】
このような補強用芯材14を内包している基層12は、厚み方向に継ぎ目がないように有機重合体を含む組成物の一体物として構成されている。基層12の厚み方向においては、基層12を形成する材料の剥離が生じる起点となるところがないため、基層12内での剥離が生じにくく、これにより耐久性に優れるものとなる。
【0025】
また、補強用芯材14は、基層12の内部において、隣り合う補強用芯材14どうしが互いに接触しないように間隔をあけて配されている。隣り合う補強用芯材14と補強用芯材14の間には、有機重合体を含む組成物が存在しており、有機重合体を含む組成物は補強用芯材14を取り囲んでいる。このような構成により、有機重合体を含む組成物の一体性が高められているため、基層12を形成する材料の剥離がより一層、生じにくくなっている。
【0026】
無端ベルト10の基層12は、有機重合体を含む組成物の一体物として構成されている。例えば従来の無端ベルトのように、基層を2層の弾性体材料で構成する場合、厚みのあるものを重ねるので、厚みが厚くなるのを抑えるにも限界があり、厚くならざるを得ない。これに対し、本発明の無端ベルト10は、基層12を2層の弾性体材料で構成するものではないため、基層を2層の弾性体材料で構成するものと比べて、基層12の厚みを薄くすることができる。基層12の厚みが薄いと、外周長と内周長との差が小さくなるため、屈曲時に外周面で割れが生じるのを抑えることができ、耐久性に優れるものとなる。
【0027】
無端ベルト10の基層12の厚みは、屈曲割れを防止するなどの観点から、300μm以下であることが好ましい。また、無端ベルト10の基層12の厚みは、屈曲割れを防止する効果により優れるなどの観点から、200μm以下であることが好ましい。この場合には、確実に外内周長差による屈曲割れが基層12に生じるのを防止することができる。無端ベルト10の基層12の厚みとしては、さらに好ましくは100μm以下である。なお、従来の無端ベルトのように、基層を2層の弾性体材料で構成する場合には、厚みを200μm以下に設定するのは困難である。
【0028】
一方、補強用芯材14を含む基層12として十分な厚みを確保して基層12の表面平滑性を維持するなどの観点から、無端ベルト10の基層12の厚みは、好ましくは40μm以上、より好ましくは60μm以上、さらに好ましくは80μm以上である。なお、無端ベルト10の厚さは、例えば、走査電子顕微鏡、マイクロメーター等を用いて測定することができる。
【0029】
基層12は、補強用芯材14によって補強されているため、基層12を形成する材料の強度によらず高い耐久性を維持することができる。このため、基層12を形成する有機重合体としては、材料強度に関して特に限定されるものではない。例えば比較的強度は低いが安価な材料の例としてNBR等の合成ゴムなどを用いることもできる。
【0030】
一方、材料面からも耐久性を高めることができるなどの観点から、基層12を形成する有機重合体としては、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂などのいわゆるエンジニアリングプラスチックを好適なものとして挙げることができる。これらは単独で用いることもできるし、2種以上を併用することもできる。また、上記の比較的強度は低いが安価な材料と組み合わせて用いることもできる。
【0031】
補強用芯材14は、単繊維で構成されていても良いし、複数本の繊維を撚り合わせたもので構成されていても良い。補強用芯材14の太さは、基層12の厚みや補強効果などを考慮して適宜定めることができる。基層12の厚みに対する補強用芯材14の太さとして好ましい範囲は、厚み:太さ=2:1〜5:1の範囲を挙げることができる。また、補強用芯材14の太さとして好ましい範囲は、繊維径20〜60μmの範囲内を挙げることができる。
【0032】
補強用芯材14は、繊維状のものであれば、樹脂材料により形成されていても良く、金属材料により形成されていても良く、これらを併用したものにより形成されていても良い。より好ましくは樹脂材料である。樹脂材料のうちでは、基層12の材料として用いる有機重合体との関係で、補強用芯材14を含む無端ベルト10の抵抗値を電子写真機器用途に適する高抵抗領域に設定しやすくできるなどの観点から、ナイロン、アラミドが好ましい。また、これらのうちでも、高強度であるなどの観点から、特にアラミドが好ましい。なお、これらの特定の樹脂材料については、1種類のみで補強用芯材14が形成されていても良いし、2種類以上の樹脂により補強用芯材14が形成されていても良い。
【0033】
補強用芯材14の表面には、有機重合体との接着性を高めるための接着層が設けられていても良い。接着層の材料としては、イソシアネート系接着剤などを挙げることができる。
【0034】
有機重合体を含む組成物には、有機重合体の他に、必要に応じて、電子写真機器用の無端ベルト10の基層12において添加される各種の添加剤が含まれていても良い。このような添加剤としては、導電剤、難燃剤、充填剤(炭酸カルシウム等)、レベリング剤、分散剤などを挙げることができる。導電剤としては、カーボンブラック、黒鉛、アルミニウム粉末、ステンレス粉末、導電性酸化亜鉛、導電性酸化チタン、導電性酸化鉄、導電性酸化錫、第四級アンモニウム塩、リン酸エステルなどを挙げることができる。これらのうちでは、カーボンブラックなどが好ましい。
【0035】
無端ベルト10の体積抵抗率としては、1×10〜1×1016Ω・cmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは1×10〜1×1013Ω・cmの範囲内である。
【0036】
無端ベルト10の内径としては、通常、30〜3000mmの範囲にあれば良い。無端ベルト10の幅(円筒の一端から他端までの長さ)としては、通常、100〜500mmの範囲にあれば良い。無端ベルト10の内周長としては、通常、90〜3000mmの範囲にあれば良い。
【0037】
このような構成の無端ベルト10の基層12は、例えば以下のような方法により得ることができる。以下に、本発明に係る電子写真機器用無端ベルトの製造方法(以下、本製造方法ということがある。)について図面を用いて説明する。図3(a)は、本製造方法において好適に用いられるノズルの先端形状を示した断面図であり、図3(b)は、このノズルを用いて2層押出した状態を示した模式図である。
【0038】
本製造方法は、繊維からなる補強用芯材14を中心にして補強用芯材14と有機重合体を含む組成物とを2層押出しながら筒状金型あるいは柱状金型の外周面に螺旋状に巻き付けて、補強用芯材14を内包する螺旋状塗膜の連続による全体塗膜を形成することにより基層12を得ることに特徴がある。
【0039】
補強用芯材14と有機重合体を含む組成物の2層押出は、図3(a)に示すように、内側管52と外側管54とからなる2重構造のノズル50を用いて行うことができる。この2重構造のノズル50において、補強用芯材14は、内側通路52aから連続的に繰り出される。また、有機重合体を含む組成物は、外側通路54aから連続的に供給される。
【0040】
有機重合体を含む組成物は、塗料として、例えばエアー加圧タンク内に収容される。このエアー加圧タンクには、上述のノズル50が導入管を介して接続され、エアー加圧タンクからノズル50の外側通路54aを介して有機重合体を含む組成物が吐出される。また、補強用芯材14となる繊維は、例えばボビンなどに巻回された状態にある。この繊維の束から繰り出された繊維は、ノズルの内側通路52aに引き込まれ、この内側通路52aを通じて繰り出される。
【0041】
図3(b)に示すように、内側通路52aから連続的に繰り出された補強用芯材14は、ノズル50の先端の外で、外側通路54aから連続的に供給されている有機重合体を含む組成物Pと合わさる。このとき、有機重合体を含む組成物Pは、補強用芯材14の外周を覆い、補強用芯材14は有機重合体を含む組成物Pにより内包される。
【0042】
筒状あるいは柱状の金型は、例えば軸が垂直方向に向くように配置される。筒状あるいは柱状の金型は、例えば周方向に回転可能に構成される。このようなものとしては、金属製、樹脂製などからなる回転ドラムを好適なものとして挙げることができる。ノズル50は、周方向に回転可能な金型に対応して、例えば金型の軸方向に沿って移動可能に構成される。このような構成は、例えば特許第3855896号(図2など)に示されている。
【0043】
軸を垂直方向に向けた状態で、筒状あるいは柱状の金型を周方向に回転させる。この際、エアー加圧タンクに所定の圧力をかけて塗料をノズル50に圧送し、ノズル50から金型の外周面に向かって塗料を吐出させる。同時に、ノズル50を金型の軸方向に沿って一定速度で移動させる。これにより、金型の外周面に塗料を一定幅の帯でらせん状に塗布して(通常は、上側の帯と下側の帯との間に間隔を設けて塗る。場合によっては、間隔をあけなくてもよい。)、金型の外周面に螺旋状塗膜の連続による全体塗膜を形成する。全体塗膜には、必要に応じて加熱処理などの後処理を行う。最終的には、金型から脱型することにより、無端ベルト10の基層12が得られる。
【0044】
全体塗膜は、補強用芯材14を内包する螺旋状塗膜が隙間なく合わさることにより形成される。全体塗膜を形成するにあたり、補強用芯材14を内包する螺旋状塗膜が徐々に形成されることから、有機重合体を含む組成物の垂れ幅を小さくして、塗膜の表面を平滑にすることができる。また、このとき、補強用芯材14は、有機重合体を含む組成物によって取り囲まれて位置決めされながら配されるため、補強用芯材14の位置ずれが生じにくく、全体塗膜の中で補強用芯材14が均一に分布したものとなる。また、補強用芯材14を配する工程と有機重合体を含む組成物を塗工する工程を同時に1つの装置で1度に行うことができるため、工程の短縮化を図ることができるとともに、薄膜にすることができる。
【0045】
本製造方法に従わず、例えば繊維に塗料を含浸させただけで金型に巻き付けると、表面に繊維の外形による凹凸形状が現れ、表面平滑性が悪くなる。また、塗料で繊維がやわらかい状態にされているため、巻き付ける際のピッチの精度が悪くなる。
【0046】
このようにして得られた無端ベルト10は、基層12の内部に補強用芯材14を含むものであるが、その基層12は厚み方向に継ぎ目がないように有機重合体を含む組成物の一体物として構成されるため、基層12を形成する材料の剥離や屈曲割れが抑えられて、耐久性に優れるものとなる。
【0047】
有機重合体を含む組成物は、ノズル50から吐出しやすいように、加熱により溶融状態にあるか、溶剤を用いて溶解状態にあることが好ましい。溶剤は、有機重合体の種類に応じて適宜選択すれば良い。好適な溶剤としては、上記の有機重合体を溶解させるものとして、アセトン、酢酸エチル、トルエン、メタノールなどの低沸点溶剤や、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)などの高沸点溶剤を挙げることができる。これらのうちでは、高沸点溶剤が好ましい。特に、沸点が150℃以上の高沸点溶剤により塗料とされていると、螺旋状塗膜および全体塗膜のレベリング性が向上し、塗膜の表面をより平滑にすることができる。
【0048】
有機重合体を含む組成物は、粘度が100〜100000mPa・sの範囲内に設定されることが好ましい。より好ましくは1000〜30000mPa・sの範囲内である。これにより、塗膜の表面平滑性と耐久性を高度に両立させることができる。粘度は、加熱により溶融状態にして塗工を行う場合には、その加熱温度における粘度であり、溶剤を用いて溶解状態(液状)にして塗工を行う場合には、常温における粘度である。
【0049】
補強用芯材14に用いる繊維の曲げ弾性率は、巻き付け時に繊維が飛び出しにくい、補強効果に優れるなどの観点から、500〜20000MPaの範囲内であることが好ましい。より好ましくは2000〜7000MPaの範囲内である。
【0050】
ノズル50は、有機重合体を含む組成物の垂れを抑えやすいなどの観点から、ニードルノズルであることが好ましい。ノズル50の内側管52および外側管54の断面形状は特に限定されるものではなく、円筒状であっても良いし、角筒状であっても良い。角筒状の形状には、三角筒状、四角筒状、五角筒状など、種々の角筒状の形状を挙げることができる。ノズル50からの吐出量は、有機重合体を含む組成物の粘度などに応じて適宜定めることができる。例えば生産性などを考慮して、0.15〜0.25g/secの範囲内であれば十分である。ノズル50の移動速度は、有機重合体を含む組成物の粘度、吐出量などに応じて適宜定めれば良い。
【0051】
筒状あるいは柱状の金型は、円筒状、円柱状であっても良いし、角筒状、角柱状であっても良い。角筒状の形状には、三角筒状、四角筒状、五角筒状など、種々の角筒状の形状を挙げることができる。角柱状の形状には、三角柱状、四角柱状、五角柱状など、種々の角柱状の形状を挙げることができる。これらのうちでは、巻き付けやすさや、表面平滑性などの観点から、円筒状あるいは円柱状が好ましい。金型の大きさ(径、軸方向の長さ、周長など)は、作製する無端ベルト10の基層12の大きさに合わせて適宜定めることができる。
【0052】
金型の回転数は、50〜500rpmの範囲内であることが好ましい。回転数が50rpm以上であると、その粘度にもよるが、遠心力を利用して、有機重合体を含む組成物の重力による垂れを少なく抑えることができ、個々の螺旋状塗膜の表面を平滑にしやすい。また、回転数が500rpm以下であると、その粘度にもよるが、有機重合体を含む組成物の飛び散りを抑えて、個々の螺旋状塗膜の表面を平滑にしやすい。
【0053】
本発明に係る無端ベルト10は、上述する基層12のみを備えたものであっても良いし、柔軟性を改善するなどの目的で、基層12の上に弾性層を備えたものであっても良い。また、表面特性を改良するなどの目的で、基層12あるいは弾性層に表面改質が施されたものであっても良いし、基層12あるいは弾性層の上に表層を備えたものであっても良い。以下に、他の実施形態に係る無端ベルトについて図4を用いて説明する。図4は、本発明の他の実施形態に係る電子写真機器用無端ベルトを幅方向に切断して示した断面図である。
【0054】
図4(a)に示す無端ベルト20は、補強用芯材14を内包する基層12と、基層12の上に積層された弾性層16と、弾性層16の上に積層された表層18とを備えている。図4(b)に示す無端ベルト30は、補強用芯材14を内包する基層12と、基層12の上に積層された表層18とを備えている。図4(c)に示す無端ベルト40は、補強用芯材14を内包する基層12と、基層12の上に積層された弾性層16とを備えている。
【0055】
弾性層16は、ゴム材料をベースとするゴム組成物により形成される。ゴム組成物には、ゴム材料を架橋する架橋剤が含まれる。このような架橋剤としては、樹脂架橋剤やイソシアネート架橋剤などを挙げることができる。
【0056】
樹脂架橋剤としては、従来より公知の樹脂架橋剤の中から、使用するゴム材料に応じたものが適宜に選択され、使用される。樹脂架橋剤としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、光重合性樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノキシ樹脂、ウレタン樹脂などを挙げることができる。これらの中でも、特に、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、光重合性樹脂が好ましい。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0057】
フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂やレゾール型キシレン樹脂などを挙げることができる。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型グリシジルエーテル系、ビスフェノール型グリシジルエーテル系、ノボラック型グリシジルエーテル系、ポリエチレングリコール型グリシジルエーテル系、ポリプロピレングリコール型グリシジルエーテル系、グリセリン型グリシジルエーテル系、芳香族型グリシジルエーテル系、芳香族型グリシジルアミン系、フェノール型グリシジルアミン系、ハイドロフタル酸型グリシジルエステル系、ダイマー酸型グリシジルエステル系など挙げることができる。
【0058】
アミン樹脂は、尿素(ユリア)、メラミン、ベンゾグアナミン、アニリンなどのアミノ基を有する化合物にホルムアルデヒドを付加縮合させることにより得られる熱硬化性樹脂の総称である。アミン樹脂としては、ユリア樹脂、メラミン樹脂、メチロールメラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アニリン樹脂、アセトグアナミン樹脂、ホルムグアナミン樹脂やメチロールグアナミン樹脂などを挙げることができる。
【0059】
光重合性樹脂としては、光重合性モノマーや光重合性オリゴマーなどを挙げることができる。光重合性モノマーとしては、(メタ)アクリレートモノマーを挙げることができる。光重合性オリゴマーとしては、(メタ)アクリレートオリゴマーを挙げることができる。
【0060】
(メタ)アクリレートモノマーとしては、トリメチロールプロパンオキシド変性トリアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、2−エチルヘキシルカルビトールアクリレート、ポリエチレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタクリレート、エトキシ化2−メチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジメタクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどのエチレンオキシド単位を含有するものや、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、パラクミルフェノキシエチレングリコールアクリレート、パラクミルフェノールエチレンオキシド変性アクリレート、ビスフェノールA−エチレンオキシド変性ジアクリレート、プロポキシエトキシビスフェノールAジアクリレート、9,9−ビス(3−フェニル−4−アクリロイルポリオキシエトキシ)フルオレン、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレートなどのエチレンオキシド単位と環状不飽和構造単位とを含有するものなどを挙げることができる。
【0061】
(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリエチレンポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレートなどのエチレンオキシド単位を含有するものや、カーボネートアクリルオリゴマー、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ポリカプロラクトンジアクリレート、ポリエステルアクリレートなどのエチレンオキシド単位を含有しないものなどを挙げることができる。
【0062】
光重合性樹脂を用いる場合には、光重合性樹脂とともに光重合開始剤が含まれていても良い。光重合開始剤は、例えば、市販の各種光重合開始剤の中から適宜、選択して、使用することができる。
【0063】
イソシアネート系硬化剤としては、従来より公知の各種のイソシアネート類を挙げることができる。、具体的には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、p−フェニレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、リジンジイソシアネート(LDI)、水添XDI(HXDI )、水添MDI(H12MDI)、ポリメリックMDI、これらイソシアネートのビュレットタイプ、イソシアヌレートタイプ、トリメチロールプロパン変性タイプ、さらには、これらのブロックタイプなどを挙げることができる。
【0064】
ゴム材料は、硫黄、樹脂架橋剤あるいはイソシアネート架橋剤などの架橋剤によって架橋可能なものであれば、従来より公知の各種ゴム材料の何れをも用いることが可能である。
【0065】
樹脂架橋剤により架橋可能なゴム材料としては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、クロロプレンゴム(CR)などを挙げることができる。
【0066】
イソシアネート架橋剤によって架橋可能なゴム材料としては、イソシアネート架橋剤と反応可能な官能基や重合可能な不飽和結合を分子内に有するゴム材料を挙げることができる。イソシアネート系硬化剤と反応可能な官能基としては、カルボキシル基、アミノ基などを挙げることができる。イソシアネート系硬化剤と重合可能な不飽和結合としては、炭素−炭素二重結合などを挙げることができる。具体的には、カルボキシル変性アクリロニトリル−ブタジエンゴム(COOH変性NBR)、アミン変性アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NH変性NBR)などを挙げることができる。
【0067】
弾性層16には、上記の成分の他に、必要に応じて、各種の添加剤が含まれていても良い。このような添加剤としては、導電剤、難燃剤、充填剤(炭酸カルシウム等)、レベリング剤、分散剤などを挙げることができる。難燃剤には、有機系難燃剤と無機系難燃剤とがある。
【0068】
導電剤としては、カーボンブラック、黒鉛、アルミニウム粉末、ステンレス粉末、導電性酸化亜鉛、導電性酸化チタン、導電性酸化鉄、導電性酸化錫、第四級アンモニウム塩、リン酸エステルなどを挙げることができる。これらのうちでは、カーボンブラックなどが好ましい。
【0069】
有機系難燃剤としては、例えば、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール−A及びその誘導体、ビス(ペンタブロモフェニル)エタンなどの多ベンゼン環化合物、臭素化ポリスチレン及びポリ臭素化スチレンなどの臭素系難燃剤や、芳香族リン酸エステル類、芳香族縮合リン酸エステル類、含ハロゲンリン酸エステル類、含ハロゲン縮合リン酸エステル類、フォスファゼン誘導体等のリン系難燃剤などを挙げることができる。無機系難燃剤としては、三酸化アンチモンや五酸化アンチモンなどのアンチモン系難燃剤や、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物系難燃剤などを挙げることができる。
【0070】
表層18は、アクリル樹脂をベースとする樹脂組成物により形成される。樹脂組成物には、ベース樹脂の他に、必要に応じて、他の樹脂成分や各種の添加剤が含まれていても良い。他の樹脂成分としては、フッ素樹脂、変性アクリル樹脂、シリコーン樹脂などを挙げることができる。添加剤としては、導電剤、難燃剤、充填剤(炭酸カルシウム等)、レベリング剤、分散剤などを挙げることができる。
【0071】
弾性層16の形成は、基層12と同様、例えば、周方向に回転可能な筒状あるいは柱状の金型と、弾性層16を形成する材料を吐出可能なノズルおよびエアー加圧タンクなどを用いてノズルコーティングにより形成することができる。この際、ノズルは、基層12の形成に好適な2層構造のものではなく、弾性層16を形成する材料を吐出可能な1層構造のものであれば十分である。弾性層16を形成する材料を塗料とするためには、適宜溶剤を用いることができる。表層18は、表層18を形成する材料を適宜溶剤を用いて塗料とした後、ディップコーティングなどの各種コーティング方法によって形成することができる。
【0072】
表面改質は、例えば以下の(A)〜(D)のいずれかの表面処理により行われる。
(A)塩素処理又はCl処理
(B)フッ素・塩素処理又はF・Cl処理
(C)イソシアネート処理
(D)紫外線による表面処理
【0073】
表面処理は、(A)では塩素化合物、(B)ではフッ素化合物と塩素化合物、(C)ではイソシアネート化合物、を含む処理液を用いて実施することができる。処理液中の上記化合物の含有量は、被処理材の表面が全面にわたって充分に処理され得る量であれば、特に限定されるものではないが、一般に、各化合物の濃度が、0.01〜40重量%程度となるように、処理液が調製される。このような濃度に調製された処理液を用いることによって、表面処理後の被処理材の表面が、適度な硬度を維持しつつ、耐トナー付着性の向上がより図られたものとなるのである。
【0074】
上記の処理液を用いて表面処理を実施する際は、通常、室温付近で実施されることとなるが、必要に応じて、高温下において、処理液を被処理材の表面に接触させることも可能である。
【0075】
処理液を被処理材の表面に接触させる方法は、特に限定されるものではなく、従来より公知の種々の方法を採用することが可能である。具体的には、被処理材の表面に処理液を塗工する方法や、被処理材の表面に処理液を吹き付ける方法等が挙げられる。例えば、上述した手法に従って、筒状あるいは柱状の金型の表面に無端ベルト10の基層12を形成した場合には、基層12が形成された金型を、基層12の表面が所定の槽内の処理液と接するように配置し、このような状態において、金型を軸中心に回転させる方法を採用すると、容易に表面処理を行うことができる。
【0076】
以上、本発明に係る無端ベルトは、電子写真技術を採用した複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器において、トナー像の転写用、紙転写搬送用、感光体基体用等の用途に好適に用いられる。また、フルカラーLBPやフルカラーPPC等のフルカラーの複写機等だけでなく、フルカラーではない、単色の複写機等であっても良い。
【実施例】
【0077】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)
<ポリアミドイミド樹脂溶液の調製>
攪拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を備えた反応容器に、トリメリット酸無水物(TMA、Mn:192.12)88質量部と、MDI(日本ポリウレタン社製「ミリオネートMT」(Mn:250.26)50質量部と、NMP溶剤200質量部とを仕込み、窒素気流下、攪拌しながら1時間かけて130℃まで昇温し、そのまま130℃で約5時間反応させた後反応を停止し、PAI−NMP溶液(固形分濃度26質量%)を調製した。次いで、このPAI−NMP溶液に、ジメチルシリコーンオイル5質量部を添加し、常温(25℃)下で、羽根攪拌で混合した。
【0079】
<ベルト材料(塗料)の調製>
上記のポリアミドイミド樹脂溶液を、樹脂分濃度が16質量%となるようにNMPにて濃度調整し、その後、真空脱泡を30分間行うことにより塗料を調製した。
【0080】
<無端ベルトの作製>
金型としてアルミニウム製の円筒形金型を準備し、ノズルとして内側管と外側管とからなる2重構造のノズルを用意した。ノズルの内側管の内側通路には、補強用芯材となるナイロン繊維(太さ:φ30μm)を引き込んだ。また、調製したベルト材料(塗料)は、エアー加圧タンクに収容し、導入管を介してノズルの外側通路から吐出できるようにセットした。円筒形金型の外周面とノズルとのクリアランスを1mmに設定した。次いで、円筒形金型を垂直にした状態で回転数200rpmで周方向に回転させながらノズルを1mm/secの移動速度で軸方向に下降させ、同時に、エアー加圧タンクに0.4MPaの圧力をかけてベルト材料(塗料)をノズルに圧送つつ、繊維をノズルの先端から引き出して、繊維が内包されたベルト材料(塗料)を円筒形金型の外周面上にらせん状に巻き付け、円筒形金型の外周面上にらせん状塗膜の連続による全体塗膜を形成した。このとき、ベルト材料(塗料)の吐出は、吐出量0.2g/sec、変動2%以内になるようにして行った。
【0081】
次いで、回転を続けた状態で円筒形金型を常温から250℃まで2.1℃/min.の速度で昇温し、250℃で1時間保持することにより、全体塗膜を加熱処理した。次いで、塗膜の一端縁と円筒形金型の外周面との間から高圧エアーを吹き込むことにより、円筒形金型を抜き取った。これにより、実施例1に係る無端ベルトを作製した。作製した無端ベルトの膜厚を、マイクロメータを用いて測定したところ、60μmであった。
【0082】
(実施例2〜4)
無端ベルトの膜厚を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜4に係る無端ベルトを作製した。
【0083】
(実施例5)
補強用芯材となる繊維として、ナイロン繊維に代えてアラミド繊維(太さ:φ30μm)を用い、ベルト材料のPAI樹脂<1>に代えて市販のPAI樹脂<2>(日立化成社製「HPC5020」)を用い、無端ベルトの膜厚を80μmとした以外は実施例1と同様にして、実施例5に係る無端ベルトを作製した。
【0084】
(実施例6〜10)
ベルト材料のPAI樹脂に代えて表1に記載の各種樹脂を用い、無端ベルトの膜厚を80μmとした以外は実施例1と同様にして、実施例6〜10に係る無端ベルトを作製した。下記に用いた樹脂の詳細を示す。
・ポリイミド樹脂(PI):(日立化成社製「HCI1000」)
・ポリカーボネート樹脂(PC):(出光興産社製「タフロンRY2200」)
・ポリエーテルスルホン樹脂(PES):(住友化学社製「スミカエクセル4800G」)
・ニトリル樹脂(NBR):(日本ゼオン社製「ニポールDN101」)
【0085】
(比較例1)
円筒状の金型の外周表面に、実施例1のベルト材料のうち溶剤を除いた成分よりなるコンパウンドを用いて厚さ0.15mmの樹脂層を形成した。次に、実施例1のナイロン繊維と同じ繊維を用い、その表面に接着剤を塗布した後、隣り合う繊維の間隔が0.05mmになるように、形成した樹脂層の上に螺旋状に巻き付けた。その上に、上記樹脂層と同じ組成のコンパウンドをあらかじめチューブ状に成形したチューブ体(厚み0.15mm)を被せ、加硫および研磨を行うことにより、比較例1に係る無端ベルトを作製した。
【0086】
(比較例2〜6)
無端ベルトの作製において、2重構造のノズルに代えて1重構造のノズルを用い、補強用芯材となる繊維を用いないでベルト材料のみをスプールコートした以外は実施例2、6〜9と同様にして、比較例2〜6に係る無端ベルトを作製した。
【0087】
作製した各無端ベルトについて、表面平滑性、耐屈曲割れ性、耐剥離性を調べた。また、湿熱環境下でのカール癖の有無についても調べた。その結果を表1〜2に示す。測定方法、評価方法は以下の通りである。
【0088】
(表面平滑性)
東京精密社製「サーフコム1400D」を用いて、補強用芯材となる繊維の配向方向と直交する方向に沿ってベルト表面の表面うねり平均高さ(WC)を測定した。この際、うねり平均高さが0.7μm以下の場合を「○」、うねり平均高さが0.7μmより大きい場合を「×」とした。
【0089】
(耐屈曲割れ性)
各無端ベルトを15mm×150mmの短冊状に切り出し、ラボ環境下(25℃×45%RH)において、MIT耐揉疲労試験機(東洋精機製作所社製「Foloing Endurancetester MIT−D」)を用いてMIT試験を行い、MIT回数を測定した。試験条件は、スプリング介在状態で荷重1.0kg、反復速度175サイクル/分、振り角135°(左右とも)とした。なお、MIT回数は、耐屈曲性の評価の指標となるものであり、このMIT回数が多い程、耐屈曲性に優れていることを示す。この際、MIT回数が200000回以上の場合を「○」、100000回以上200000回未満の場合を「△」、100000回未満の場合を「×」とした。
【0090】
(耐剥離性)
各無端ベルトを15mm×150mmの短冊状に切り出し、ラボ環境下(25℃×45%RH)において、MIT耐揉疲労試験機(東洋精機製作所社製「Foloing Endurancetester MIT−D」)を用いてMIT試験を行い、5000回毎にベルトの基材と繊維との間の密着具合を目視にて確認した。試験条件は、スプリング介在状態で荷重1.0kg、反復速度175サイクル/分、振り角135°(左右とも)とした。目視にてベルトの基材と繊維との間の剥離が確認された時点のMIT回数を剥離強度とした。このMIT回数が多いほど耐剥離性に優れていることを示す。この際、MIT回数が200000回以上の場合を「◎」、150000回以上200000回未満の場合を「○」、100000回以上150000回未満の場合を「△」、100000回未満の場合を「×」とした。
【0091】
(湿熱環境下でのカール癖)
図5に示すように、無端ベルトを15mm×150mmの大きさに切断して、短冊状のテストピース1を作製した。このテストピース1を、直径13mmの金属製パイプ2に巻き付けた後、テストピース1の端部どうしを重ね合わせ、ここに0.5kgのオモリ(図示せず)をかけて吊るし、50℃×95%RHの環境下、24時間放置した。ついで、オモリを外し、図6に示すように、重ね合わせたテストピース1の両端を開放した後、テストピース1の円弧状部分を中心に、これを挟む左右のテストピース1の表面を上方に延長させたと仮想し、その左右仮想延長部3で作った角度θを、開き角度θとして測定した。この開き角度θが180°に近い方が、曲がり癖(カール癖)が少ないことを示しており、開き角度θが80°以上であれば画像への影響が小さくなる。この際、開き角度θが100°以上の場合を「◎」、80°以上100°未満の場合を「○」、80°未満の場合を「×」とした。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
比較例1の無端ベルトは、金型に巻いた樹脂層とこの樹脂層および繊維の上に被せたチューブ体よりなる層の2層で基層が構成されており、これら2層の間に繊維が介在しているため、これら2層の界面で剥離が生じた。また、その製造方法に起因し、厚みを薄くできないため、外内周長差が大きく、屈曲割れが発生した。比較例2〜6の無端ベルトは、補強用の繊維が内包されていないため、耐久性(耐屈曲割れ性)に劣っている。
【0095】
これに対し、実施例の無端ベルトによれば、表面平滑性に優れ、耐屈曲割れ性および耐剥離性に優れることが確認できた。
【0096】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0097】
例えば上記実施形態では、補強用芯材は、基層12の内部において、隣り合う補強用芯材どうしが互いに接触しないように間隔をあけて配されているが、隣り合う補強用芯材どうしが互いに接触するように密に配されていてもよい。
【符号の説明】
【0098】
10 無端ベルト
12 基層
14 補強用芯材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機重合体を含む組成物により形成される基層を備えた円筒状の電子写真機器用無端ベルトであって、
前記基層の内部には、繊維からなる補強用芯材が、円筒の一端から他端に向かって螺旋を巻くように周方向に沿って配され、かつ、前記基層は、厚み方向に継ぎ目がないように前記有機重合体を含む組成物の一体物として構成されていることを特徴とする電子写真機器用無端ベルト。
【請求項2】
前記基層の厚みが200μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項3】
前記基層の内部において、前記補強用芯材は、隣り合う補強用芯材どうしが互いに接触しないように間隔をあけて配されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項4】
前記補強用芯材の繊維が、ナイロン繊維およびアラミド繊維から選択される1種または2種以上の繊維であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項5】
前記有機重合体が、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、および、ポリエーテルスルホン樹脂から選択される1種または2種以上の樹脂であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項6】
前記補強用芯材の表面には、前記有機重合体との接着性を高めるための接着層が設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項7】
有機重合体を含む組成物により形成される基層を備えた円筒状の電子写真機器用無端ベルトの製造方法であって、
繊維からなる補強用芯材を中心にして前記補強用芯材と前記有機重合体を含む組成物とを2層押出しながら筒状金型あるいは柱状金型の外周面に螺旋状に巻き付けて、前記補強用芯材を内包する螺旋状塗膜の連続による全体塗膜を形成することにより基層を得ることを特徴とする電子写真機器用無端ベルトの製造方法。
【請求項8】
前記有機重合体を含む組成物は、沸点が150℃以上の高沸点溶剤により塗料とされていることを特徴とする請求項7に記載の電子写真機器用無端ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−37205(P2013−37205A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173553(P2011−173553)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】