説明

電子写真現像剤用キャリア芯材およびその製造方法、電子写真現像剤用キャリア、並びに電子写真現像剤

【課題】磁気特性低下や粉体特性低下を引き起こすことなく、体積抵抗値を改善出来る電子写真現像剤用キャリア芯材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】マグネタイトまたはソフトフェライトを含み、表面に、回転数2000rpm以上、4000rpm以下の範囲で、30分間以上、180分間以下の機械的攪拌した後、300℃以上、400℃以下の不活性雰囲気下で熱処理を行うことにより形成される、比表面積が0.1m/g以上、0.2m/g以下の酸化被膜を有し、100Vの電圧を印加したときの体積抵抗値が1.0E+07Ω・cm以上である電子写真現像剤用キャリア芯材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真の乾式現像法において用いられる電子写真現像剤用キャリア芯材およびその製造方法、電子写真現像剤用キャリア、並びに電子写真現像剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真の乾式現像法は、現像剤である粉体のトナーを感光体上の静電潜像に付着させ、当該付着したトナーを所定の紙等へ転写して現像する方法である。ここで、現像剤としては、トナーと電子写真現像剤用キャリア粉(以下、キャリア粉と記載する場合がある)とを含む2成分系現像剤を用いる2成分系現像法およびトナーのみを含む1成分系現像剤を用いる一成分系現像法とがある。最近は、トナーの荷電制御が容易で、安定した高画質が得られ、また高速現像が可能であるなどの理由から、殆どの場合2成分系現像法が用いられている。
【0003】
2成分系現像法は、キャリア粉を用いてトナーを帯電させ、キャリア粉と伴にトナーを搬送する。そのため2成分系の電子複写機用現像剤に用いられるキャリア粉には、磁気特性、静電特性(体積抵抗値等)、粉体特性(流動性等)、耐久性など、様々な特性が要求される。電子写真の画質を左右する重要な要因として、キャリア粉とトナーとの摩擦帯電量が挙げられる。この摩擦帯電量が、所定値より低くなると画像の白紙部分にトナーが飛散する所謂カブリを生じコピー画質を低下させ、逆に所定値よりも高いと濃度の低い画質となってしまう。このため摩擦帯電量は、適正値に調整されていることが必要である。
【0004】
2成分系で用いるキャリア粉は、マグネタイトまたはソフトフェライト(以下、単にフェライトと記載する場合がある。)を含むキャリア芯材(以下、キャリア芯材と記載する場合がある。)の表面に樹脂を被覆したものである。当該構成をとることで、キャリア粉自体の帯電量と、機械的耐久性とを確保できる。一方、キャリア粉の静電特性は、被覆する樹脂と同様にキャリア芯材を構成するフェライトの特性にも支配される。従来のキャリア粉においては、キャリア芯材の静電特性である体積抵抗値が低いことに起因して、静電荷像の電荷がキャリア芯材を通じてリークしてしまい、静電荷像を乱し画像欠陥を引き起こすといった問題が見られた。
【0005】
キャリア芯材の体積抵抗値が低いことに起因する画像欠陥に対する対策として、特許文献1には、RH(管状炉)炉やベルト炉等の雰囲気炉で300℃〜600℃での静的酸化処理を行う方法が記載されている。この酸化処理法で得られる酸化被膜の比表面積はBET値で0.1000〜0.3000であり、図2に示す、後述する従来の技術に係るキャリア芯材のSEM写真のように、キャリア芯材の表面に不均一に存在する粗い被膜である。
【0006】
また、特許文献2には、トナーの粒径を小さくして高画質化を達成しようとする試みがなされ、それに伴いキャリアの粒径を小さくする技術が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−34533号公報
【特許文献2】特開2005−300734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、従来の技術に係る高温での静的酸化処理は、キャリア粉の磁気特性の低下や流動性の悪化を引き起こす。さらに、キャリア芯材粒子
に形成された酸化被膜は、例えば、図2のSEM写真により明らかなように、粒界に沿って不均一に形成され、緻密性にかけるものである。このようなキャリア芯材粒子を用いてキャリア粉を製造すると、表面の凹凸による粒子同士の絡み合いや、トナー運搬などに不都合が生じる可能性があり、結果としてキャリア粉の特性の低下や寿命が短くなるなどの問題が起こる。
【0009】
また、キャリア粉を構成するキャリア粒子の粒径を小さくすると、1粒子あたりの磁力が低下することとなり、キャリア粉の飛散量が増大する(所謂、カブリ現象)といった問題が生じる。
【0010】
本発明は上記問題点を解決し、電子写真画像の高画質化を実現するものである。
即ち、本発明は、磁気特性低下や粉体特性低下を引き起こすことなく、体積抵抗値を改善出来る電子写真現像剤用キャリア芯材およびその製造方法、当該キャリア芯材から製造される電子写真現像剤用キャリア、並びに、当該電子写真現像剤用キャリアと所定のトナーとを含む電子写真現像剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、高画質化のためにはキャリア芯材としてフェライトを使用するが、当該フェライトを機械的に高速撹拌することで、キャリア芯材表面に酸化被膜を形成することに想到した。そして、当該機械的高速撹拌により表面に酸化被膜が形成されたキャリア芯材が、十分な体積抵抗値を発揮するという優れた静電的特性を有することを知見した。ところが、当該機械的高速撹拌により、1KOe下における磁化や残留磁化、保磁力の上昇といった磁気的特性が低下することも知見した。そこで、本発明者らは、当該機械的高速撹拌の後、磁化回復を目的とする熱処理を施す構成に想到した。その結果、得られた電子写真用キャリア芯材が高い体積抵抗値と、高磁力特性とを有することを知見し、本発明を完成したものである。
【0012】
即ち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
マグネタイトまたはソフトフェライトを含み、
表面に、回転数2000rpm以上、4000rpm以下の範囲で攪拌した後、不活性雰囲気下で熱処理を行うことにより形成される、比表面積が0.1m/g以上、0.2m/g以下の酸化被膜を有し、
100Vの電圧を印加したときの体積抵抗値が1.0E+07Ω・cm以上であることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0013】
第2の発明は、
前記マグネタイトまたはソフトフェライトは、一般式(MFe3−x)O(但し、Mは、Mg、Mn、Ca、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属、0<x<3)で表わされるものであることを特徴とする第1の発明に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0014】
第3の発明は、
1KOeの磁場においての磁力が40〜75emu/g
残留磁化が、0.5〜1.1emu/gであることを特徴とする第1または第2の発明に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0015】
第4の発明は、
マグネタイト粒子を含む粉またはソフトフェライト粒子を含む粉を、回転数2000rpm以上、4000rpm以下の範囲で攪拌した後、
不活性雰囲気下で熱処理を行うことを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造
方法である。
【0016】
第5の発明は、
第1から第4の発明のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材が、樹脂被覆されたものであることを特徴とする電子写真現像剤用キャリアである。
【0017】
第6の発明は、
第1から第3の発明のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材、または、第5の発明に記載の電子写真現像剤用キャリアと、
所定のトナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電気的特性と磁化特性とにおいて優れたキャリア芯材が提供される。さらに、当該キャリア芯材を用いて製造されたキャリア粉および電子写真現像剤を用いれば、キャリア付着飛散が抑えられ、またリーク現象も見られない高画質な電子写真像が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係るキャリア芯材およびその製造方法、当該キャリア芯材から製造される電子写真現像剤用キャリア、並びに、当該電子写真現像剤用キャリアと所定のトナーとを含む電子写真現像剤について詳細に説明する。
【0020】
本発明に係るキャリア芯材は、上述のように、マグネタイトまたはソフトフェライトを含み、表面に、回転数2000rpm以上、4000rpm以下の範囲で、30分間以上、180分間以下の機械的攪拌した後、300℃以上、400℃以下の不活性雰囲気下で熱処理を行うことにより形成される、比表面積が0.1〜0.2m/gの酸化被膜を有し、100Vの電圧を印加したときの体積抵抗値が1.0E+07Ω・cm以上であるという優れた電気的特性を発揮するキャリア芯材である。
【0021】
まず、本発明のキャリア芯材として用いられるフェライトは、Feで表わされるマグネタイト、または、一般式(MFe3−x)Oで表されるソフトフェライトである。当該一般式において、組成Mは、Mn、Co、Ni、Cu、Zn等の1種、あるいはこれらの金属元素の複数種の混合物であるスピネル型酸化物の固溶体である。たとえば、XがZnのZnフェライトは反強磁性体であり強磁性を示さないが、他のスピネルフェライトに亜鉛を添加すると磁性を強める働きがある。MnとZnで構成されたフェライトは、きわめて高い透磁率を示す。従って、目的とする特性に応じてフェライトを選択すればよい。本発明のキャリア芯材としては、高画質化を目的とするため、高磁化特性を有し、低残留磁化かつ低保磁力であることが好ましい。
【0022】
本発明に係るキャリア芯材の体積抵抗値は、100Vの電圧を印加したときの体積抵抗値が1.0E+07Ω・cm以上である。この水準の体積抵抗値があれば、キャリア芯材さらにはキャリアとしても、トナーとの間で充分な摩擦帯電性を保持することが可能であり、静電荷像の電荷のリークが発生せず、画質の低下をが起こらない。
【0023】
さらに、本発明に係るキャリア芯材は、高い磁場において所望の磁力を保持できるものであり、1KOeの磁場においての磁力が40〜75emu/g、残留磁化が、0.5〜1.1emu/gであり、キャリアとしての特性が充分に得られる。そして、保磁力が10Oe以下であれば、キャリア粒子の飛散やキャリア付着といった問題が起こらない。
【0024】
さらに、本発明に係るキャリア芯材は、見掛け密度が高いので充填性がよく、また流動
性も良いという粉体特性を有し、トナーとの接触帯電性が良好である。
【0025】
本発明に係るキャリア芯材およびキャリアは以下のような工程で製造することが出来る。
[秤量・混合]
Feで表記されるマグネタイトを使用する場合、鉱石系Fe23または塩化鉄系Fe2Oを準備する。
一般式(MFe3−x)Oで表記される組成のソフトフェライトを使用する場合、Fe原料としては、Fe23が好適に使用できる。Fe以外のM成分原料としては、Mnの場合MnCO3やMn34等が、Mgの場合MgCO3やMg(OH)2等が好適に使用で
きる。M 成分のFe、M、Mgはそれぞれ単独で含有させることもできるが、複合して
含有させると磁気特性の制御範囲を拡大できる利点がある。これらの原料を、各金属元素の配合比が目標値になるように秤量し、これらを混合して、金属原料混合物を得る。
【0026】
[粉砕・造粒]
秤量・混合した金属原料混合物を振動ミルなどの粉砕機にて粉砕する。当該粉砕において、平均粒径5μm以下に粉砕することが望ましく、より好ましくは1μm以下とする。これら粉砕物を、媒体液中で混合撹拌することによってスラリー化する。なお、スラリー化前に、必要に応じて、混合粉砕物へさらに乾式で粉砕処理を加えてもよい。原料粉と媒体液の混合比は、スラリーの固形分濃度が50〜90質量%になるようにすることが望ましい。媒体液は、水に、バインダー、分散剤等を添加したものを用意する。バインダーとしては、例えばポリビニルアルコールが好適に使用でき、その媒体液中濃度は0.5〜2質量%程度とすればよい。分散剤としては、例えばポリカルボン酸アンモニウム系のものが好適に使用でき、その媒体液中濃度も0.5〜2質量%程度とすればよい。その他、潤滑剤や、焼結促進剤として、リンやホウ酸等を添加することができる。混合攪拌して得られたスラリーに対し、さらに湿式粉砕を施すことが好ましい。この工程の後、造粒工程により、粒子の粒径が1〜150μmの造粒粉が得られる。得られた造粒粉は、製品最終粒径を考慮して、粗粒および微粒を振動ふるいで除外して粒度調製すると良い。製品最終粒径(体積平均粒径)を20 〜120μm とするためには、当該造粒粉の個々の粒子の粒径が30〜130μmの範囲に収まるように調製しておくことが好ましい。
【0027】
〔焼成〕
次に、造粒物を1000℃〜1300℃の温度で1〜24時間保持して本焼成を行う。この時の焼成雰囲気としては、酸素濃度が0.1容量%未満、好ましくは0.01%以下の不活性ガス中の雰囲気下で行う事が良い。この焼成雰囲気の酸素濃度が0.1%容量以下であれば、ヘマタイト相の生成が阻止出来、目的とする磁化が得られる。またフェライトの組成によっては、適宜、仮焼成工程を加えても良い。当該仮焼工程の雰囲気としては、上記本焼成と同様の条件でも良いし、500℃以下であれば空気中でも良い。
【0028】
〔機械的撹拌〕
得られた焼成物を、解粒、分級して目的の粒径に調製する。次に室温で焼成物の粒子に対し、大気中もしくは酸素濃度が20〜100容量%に制御された雰囲気下で機械的高速撹拌処理を行う。攪拌回転数は2000rpm〜4000rpmが良く、より好ましくは2500rpm〜3500rpmが良い。撹拌時間は、30分〜180分間、処理中の温度は50〜150℃となる。
【0029】
攪拌に用いる機械は、例えば、スーパーミキサー等、一般的な高速攪拌機を使用できる。当該攪拌により、粒子同士、あるいは攪拌機の羽と粒子、あるいは攪拌機の側面と粒子との衝突、さらにはせん断力により、摩擦熱やメカノケミカル反応が起こる。この結果、当該摩擦熱やメカノケミカル反応により、焼成物の表面全体に体積抵抗値の高い緻密で強
固な酸化膜が形成される。回転数が2000rpm以上あれば、摩擦熱やメカノケミカル反応を起こすために、十分な機械的エネルギーが供給される。また、回転数4000rpm以下であれば、機械的エネルギーの過剰による粒子の割れを回避出来る。また攪拌における攪拌時間30分間〜180分間が良く、より好ましくは60分間〜120分間である。攪拌時間が30分間以上あれば、十分な酸化膜が形成される。一方、攪拌時間が180分間以下であれば、粒子の破壊による磁気特性の低下を回避することが出来る。
【0030】
本発明に係るキャリア芯材は、その粒子表面に上記機械的高速攪拌により形成される滑らかで、均一な上、緻密な酸化被膜を有してなるものである。そして、攪拌回転数および攪拌時間が上記範囲であることで、良好な酸化被膜が形成され、剥離などの問題も起きず、満足な静電特性が得られる。具体的には、100V電圧の印加で1.0E+07Ω・cm以上の体積抵抗値を有するものとなる。
【0031】
〔熱処理〕
次に、焼成物の熱処理を雰囲気炉にて行う。この処理の目的は、当該焼成物が前工程での機械的処理により受けた負荷に起因する磁化低下を回復させるためである。
当該雰囲気炉としては、外部の酸素などの影響の低い、密閉型のバッチ式炉が良い。雰囲気としては、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気が好ましい。温度としては、250℃〜500℃が好ましい。より好ましくは300〜400℃が好ましく、処理時間としては、3分間〜60分間が好ましい。温度は、300℃以以上あれば、磁化低下を回復させるのに十分な熱エネルギーであり、400℃以下であれば、熱処理中の粒子の焼結を回避出来、不活性雰囲気中の不純物などの影響を受け難くなる。
【0032】
〔解砕、分級〕
得られた焼成物を例えばハンマーミル解粒等で粗粉砕し、次に、例えば気流分級機で1次分級して、非形状粒子および微粒子を除去し、さらに振動ふるいまたは超音波ふるいにて粒度をそろえることが望ましい。その後、磁場選鉱機にかけて非磁性成分を除去し、体積平均粒径 が20〜120μmのキャリア芯材を得ることができる。
【0033】
こうして得られたキャリア芯材は、それ自体でキャリアとして使用する事も出来る。さらに、当該キャリア芯材に樹脂被覆を行ってキャリアとすることも好ましい。
【0034】
〔樹脂被覆〕
得られたキャリア芯材に対して樹脂被覆を施しキャリア粉を製造する。被覆樹脂としてはシリコーン系樹脂が好ましい。樹脂被覆を行うには、前記樹脂を溶剤に希釈してキャリア芯材の表面に被覆するのが一般的である。溶剤としては、前記樹脂が可溶なものであればよい。前記樹脂として有機溶媒に可溶なものを用いるのであればトルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール等を溶剤に使用することができる。所定樹脂が水溶性樹脂またはエマルジョンタイプの樹脂であれば、水を用いることができる。
【0035】
溶剤で希釈した所定樹脂をキャリア芯材の表面へ被覆するには、浸漬法、スプレー法、刷毛塗り法等が適用できる。所定樹脂が被覆されたキャリア芯材を乾燥させるとキャリア粉を得ることができる。このような湿式法による樹脂被覆の他、キャリア芯材表面に所定樹脂粉体を付着させる乾式法によってもキャリア粉を得ることができる。
【0036】
上記、湿式法、乾式法のいずれにしても、キャリア芯材の表面に被覆した所定樹脂を焼きつけるのが好ましい。例えば固定式または流動式の電気炉、ロータリー式電気炉、バーナー炉などを使用して、外部加熱方式または内部加熱方式で、キャリア芯材の表面に被覆された所定樹脂を焼きつけることが好ましい。マイクロウェーブによる焼きつけも可能で
ある。焼きつけ温度は所定樹脂によって異なるが、融点以上またはガラス転移点以上の温度が必要である。所定樹脂が、熱硬化性樹脂または縮合型樹脂である場合は、硬化が十分に進む温度にまで上げる必要がある。
【0037】
[電子写真現像剤]
得られたキャリア粉と、所定のトナーとを混合することで、2成分系の電子写真現像剤を得ることが出来る。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基き本発明を詳細に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、測定は以下のようにして行った。
【0039】
[体積抵抗値測定]
印加電圧10V、100Vにおける体積抵抗値(電気抵抗)の測定方法について説明する。
水平に置かれた絶縁板(例えばテフロン(登録商標)でコートされたアクリル板)の上に、電極板として表面を電解研磨した板厚2mmの真鍮板2枚を、電極間距離が2mmとなるように配置する。当該2枚の電極板は、その法線方向が水平方向となるように設置する。この2枚の電極板間の空隙に被測定粉体200±1mgを装入したのち、それぞれの電極板の背後に断面積240mmの磁石を配置して、電極板間に被測定粉体のブリッジを形成させる。この状態で電極板間に1000Vの直流電圧を印加し、被測定粉体を流れる電流値を4端子法により測定する。その電流値と、電極板間距離2mmおよび断面積240mmから、被測定粉体の電気抵抗(体積抵抗に相当する次元のもの)を算出する。なお、使用する磁石は粉体がブリッジを形成できる限り、種々のものが使用できるが、後述実施例では表面磁束密度が1000ガウス以上の永久磁石(フェライト磁石)を使用している。
【0040】
[飽和磁化測定]
飽和磁化(σs)測定は、VSM(東英工業株式会社製、VSM−P7)により行った。
【0041】
[1KOe下における磁化測定]
1KOe下における磁化(σ1000)測定は、VSM(東英工業株式会社製、VSM−P7)により行った。
【0042】
[残留磁化測定]
残留磁化(σr)測定は、VSM(東英工業株式会社製、VSM−P7)により行った。
【0043】
[保磁力測定]
保磁力(Hc)測定は、VSM(東英工業株式会社製、VSM−P7)により行った。
【0044】
[比表面積]
比表面積は、BET法により測定した。
【0045】
[平均粒径測定]
平均粒径測定は、マイクロトラック粒度分析計(日機装株式会社製、マイクロトラックModel9320−X100)により行った。
【0046】
[粉体の見掛け密度]
粉体の見掛け密度は、JISZ−2504により測定した。
【0047】
[流動度]
流動度は、JISZ−2052により測定した。
【0048】
〈焼成物(フェライト)の調製〉
Fe原料粉として、平均粒子径D50が約1μmに微粉砕されたFe粉を準備した。
一方、水に、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を1.0質量%、湿潤剤としてサンノプコ(株)製「SNウェット980」を0.05質量%、バインダーとしてポリビニルアルコールを0.02質量%添加した液(媒体液)を準備した。
前記秤量されたFe原料粉を媒体液に投入して、攪拌することにより、これら投入した物質の濃度が76質量%のスラリーを得た。このスラリーを湿式ボールミルにて湿式粉砕し、しばらく攪拌した。その後、スプレードライヤーにて当該スラリーを約180℃の熱風中に噴霧し、粒径10〜200μmの乾燥造粒物を得た。
【0049】
この造粒物から、網目61μmの篩網を用いて粗粒を分離し、網目25μmの篩網を用いて微粒を分離した後、窒素雰囲気下1000℃で5hr焼成し、フェライト化させた。このフェライト化した焼成物をハンマーミルで解粒し、風力分級機を用いて微粉を除去し、さらに網目54μmの振動ふるいで粒度調整して焼成物とした。
【0050】
〔実施例1〕
得られた焼成物5kgを、スーパーミキサー(深江パウテック株式会社製、FS−GS−10JD型)を用いて、攪拌回転数3000rpm、攪拌処理時間120分間の機械的処理を施した。尚、攪拌時の温度は80℃であった。そして、当該機械的処理を施した焼成物へ、処理温度300℃、窒素中で5分間の熱処理を施すことにより実施例1に係るキャリア芯材を得た。このキャリア芯材の磁気特性、静電特性、粉体特性を表1に示す。さらに、このキャリア芯材の3000倍のSEM写真像を図1に示す。
【0051】
〔実施例2〕
実施例1と同様にして粒度調製された焼成物5kgを、スーパーミキサー(深江パウテック株式会社製、FS−GS−10JD型)を用いて、攪拌回転数3500rpm、攪拌処理時間60分間の機械的処理を施した。尚、攪拌時の温度は90℃であった。そして、当該機械的処理を施した焼成物へ、RH炉にて処理温度300℃窒素中で5分間の熱処理を施すことにより、実施例2に係るキャリア芯材を得た。このキャリア芯材の磁気特性、静電特性、粉体特性を表1に示す。
【0052】
〔実施例3〕
実施例1と同様にして粒度調製された焼成物5kgを、スーパーミキサー(深江パウテック株式会社製、FS−GS−10JD型)を用いて、攪拌回転数2500rpm、攪拌処理時間180分間の機械的処理を施した。尚、攪拌時の温度は90℃であった。そして、当該機械的処理を施した焼成物へ、RH炉にて処理温度300℃窒素中で5分間の熱処理を施すことにより、実施例3に係るキャリア芯材を得た。このキャリア芯材の磁気特性、静電特性、粉体特性を表1に示す。
【0053】
〔実施例4〕
実施例1と同様にして粒度調整された焼成物5kgを、スーパーミキサー(深江パウテック株式会社製、FS−GS−10JD型)を用いて、攪拌回転数3000rpm、攪拌処理時間120分間の機械的処理を施した。尚、攪拌時の温度は80℃であった。そして、当該機械的処理を施した焼成物へ、RH炉にて処理温度400℃窒素中で5分間の熱処
理を施すことにより、実施例4に係るキャリア芯材を得た。このキャリア芯材の磁気特性、静電特性、粉体特性を表1に示す。
【0054】
〔実施例5〕
実施例1と同様にして粒度調整された焼成物5kgを、スーパーミキサー(深江パウテック株式会社製、FS−GS−10JD型)を用いて、攪拌回転数3000rpm、攪拌処理時間120分間の機械的処理を施した。尚、攪拌時の温度は80℃であった。そして、当該機械的処理を施した焼成物へ、RH炉にて処理温度300℃窒素中で3分間の熱処理を施すことにより、実施例5に係るキャリア芯材を得た。このキャリア芯材の磁気特性、静電特性、粉体特性を表1に示す。
【0055】
〔実施例6〕
実施例1と同様にして粒度調整された焼成物5kgを、スーパーミキサー(深江パウテック株式会社製、FS−GS−10JD型)を用いて、攪拌回転数3000rpm、攪拌処理時間120分間の機械的処理を施した。尚、攪拌時の温度は80℃であった。そして、当該機械的処理を施した焼成物へ、RH炉にて処理温度300℃窒素中で30分間の熱処理を施すことにより、実施例6に係るキャリア芯材を得た。このキャリア芯材の磁気特性、静電特性、粉体特性を表1に示す。
【0056】
〔実施例7〕
実施例1と同様にして粒度調整された焼成物5kgを、スーパーミキサー(深江パウテック株式会社製、FS−GS−10JD型)を用いて、攪拌回転数3000rpm、攪拌処理時間120分間の機械的処理を施した。尚、攪拌時の温度は80℃であった。そして、当該機械的処理を施した焼成物へ、RH炉にて処理温度300℃窒素中で60分間の熱処理を施すことにより、実施例7に係るキャリア芯材を得た。このキャリア芯材の磁気特性、静電特性、粉体特性を表1に示す。
【0057】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして粒度調製された焼成物5kgを、スーパーミキサー(深江パウテック株式会社製、FS−GS−10JD型)を用いて、攪拌回転数3000rpm、攪拌処理時間120分間の機械的処理を施した。尚、攪拌時の温度は80℃であった。そして、当該機械的処理を施した焼成物へ、RH炉にて処理温度200℃窒素中で5分間の熱処理を施すことにより、比較例1に係るキャリア芯材を得た。このキャリア芯材の磁気特性、静電特性、粉体特性を表1に示す。
【0058】
〔比較例2〕
実施例1と同様にして粒度調製された焼成物5kgを、スーパーミキサー(深江パウテック株式会社製、FS−GS−10JD型)で攪拌回転数3000rpm、攪拌処理時間120分間の機械的処理を施した。尚、攪拌時の温度は80℃であった。そして、当該機械的処理を施した焼成物へ、RH炉にて処理温度600℃窒素中で5分間の熱処理を施すことにより比較例2に係るキャリア芯材を得た。このキャリア芯材の磁気特性、静電特性、粉体特性を表1に示す。
【0059】
〔比較例3〕
実施例1と同様にして粒度調製された焼成物5kgを、スーパーミキサー(深江パウテック株式会社製、FS−GS−10JD型)で攪拌回転数3000rpm、攪拌処理時間120分間の機械的処理を施した。尚、攪拌時の温度は80℃であった。そして、当該機械的処理を施した焼成物へ、RH炉にて処理温度300℃窒素中で5分間施すことにより比較例3に係るキャリア芯材を得た。このキャリア芯材の磁気特性、静電特性、粉体特性を表1に示す。
【0060】
〔比較例4〕
実施例1と同様にして粒度調製された焼成物5kgを、スーパーミキサー(深江パウテック株式会社製、FS−GS−10JD型)で攪拌回転数3000rpm、攪拌処理時間240分間の機械的処理を施した。尚、攪拌時の温度は100℃であった。そして、当該機械的処理を施した焼成物へ、RH炉にて処理温度300℃窒素中で5分間施すことにより比較例4に係るキャリア芯材を得た。このキャリア芯材の磁気特性、静電特性、粉体特性を表1に示す。
【0061】
〔比較例5〕
実施例1と同様にして粒度調整された焼成物を、RH炉にて処理温度500℃大気中で100分間の熱処理を施して比較例5に係るキャリア芯材を得た。このキャリア芯材の磁気特性、静電特性、粉体特性を表1に示す。さらに、このキャリア芯材の3000倍のSEM写真像を図2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
〔実施例1〜7および比較例1〜5のまとめ〕
スーパーミキサーを用い回転数2000rpm以上、4000rpm以下の範囲で、30分間以上、180分間以下の機械的攪拌した後、300℃以上、400℃以下の不活性雰囲気下で熱処理を行った実施例1〜7に係るキャリア芯材は、比表面積が0.1〜0.
2m/gの酸化被膜を有し、100Vの電圧を印加したときの体積抵抗値が1.0E+07Ω・cm以上を示した。さらに、実施例1〜7に係るキャリア芯材の磁気特性は、1KOeの磁場においての磁化の値が高く、かつ残留磁化、保磁力の値は低く、優れていた。また、実施例1〜7に係るキャリア芯材の粉体特性は、見掛け密度が高く、また流動性も良く、優れていた。
【0064】
これに対し、熱処理温度が200℃と低温であった比較例1に係るキャリア芯材は、熱処理温度が低いため磁化回復が満足出来ておらず、磁気特性はσ1000が63.4emu/gと低かった。
【0065】
また、熱処理温度が600℃と高温であった比較例2に係るキャリア芯材は、熱処理温度が高いため粒子同士が焼結し、粉体特性は、見掛け密度が2.18g/cmと低く、また流動度が24.5s/50gと高く、流動性が悪かった。
【0066】
また、攪拌回転数が500rpmであった比較例3に係るキャリア芯材は、機械的酸化処理が弱いため酸化膜が形成されず、体積抵抗値は、5.1E+05Ω・cmと低かった。
【0067】
また、攪拌回転数が3000rpmであったが、攪拌時間が240分間と長かった比較例4に係るキャリア芯材は、機械的酸化処理が強く、形成された酸化膜が剥離したため、体積抵抗値は、5.6E+06Ω・cmと低かった。
【0068】
従来の技術に係る比較例5は、酸化膜が不均一であり、体積抵抗値が5.6E+05Ω・cmと低かった。見掛け密度は2.16g/cmと低く、流動度も24.4s/50gと高く、流動性が悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係るキャリア芯材のSEM写真である。
【図2】従来の技術に係るキャリア芯材のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネタイトまたはソフトフェライトを含み、
表面に、回転数2000rpm以上、4000rpm以下の範囲で攪拌した後、不活性雰囲気下で熱処理を行うことにより形成される、比表面積が0.1m/g以上、0.2m/g以下の酸化被膜を有し、
100Vの電圧を印加したときの体積抵抗値が1.0E+07Ω・cm以上であることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項2】
前記マグネタイトまたはソフトフェライトは、一般式(MFe3−x)O(但し、Mは、Mg、Mn、Ca、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属、0<x<3)で表わされるものであることを特徴とする請求項1に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項3】
1KOeの磁場においての磁力が40〜75emu/g
残留磁化が、0.5〜1.1emu/gであることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項4】
マグネタイト粒子を含む粉またはソフトフェライト粒子を含む粉を、回転数2000rpm以上、4000rpm以下の範囲で攪拌した後、
不活性雰囲気下で熱処理を行うことを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材が、樹脂被覆されたものであることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材、または、請求項5に記載の電子写真現像剤用キャリアと、
所定のトナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−244788(P2009−244788A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94063(P2008−94063)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【Fターム(参考)】