説明

電子写真用トナー

【課題】定着性、及び耐オフセット性に優れた電子写真用トナーを提供すること。
【解決手段】結着樹脂として、樹脂(A)と樹脂(A)より軟化点が5℃以上高い樹脂(B)とを含有してなる電子写真用トナーであって、前記樹脂(A)及び樹脂(B)が少なくとも縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる複合樹脂であり、樹脂(A)の付加重合系樹脂ユニットに由来するガラス転移点が80〜100℃、樹脂(B)の付加重合系樹脂ユニットに由来するガラス転移点が-50〜40℃である、電子写真用トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられる電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術の発展に伴い、定着性に優れた小粒径トナーの開発が望まれている。これに対して、トナー用結着樹脂としては、スチレンアクリル樹脂やポリエステル等が知られている。ポリエステルは、耐久性及び定着性に優れる一方、オフセットが発生しやすいという欠点を有している。そこで、耐オフセット性を改善する目的で、ポリエステル等の縮重合系樹脂の原料モノマー、並びにスチレン及びアクリルモノマー等の付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られた樹脂を含有するトナーが開示されている(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平7−98517号公報
【特許文献2】特開2004−85605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、近年のマシンの更なる高速化・省エネ化により、従来のトナー用結着樹脂では市場の要求に対して不十分であることが判明した。即ち、定着工程での定着時間の短縮化及び定着機から供給される加熱温度の低温化により、十分な定着強度を維持することが非常に困難になっている。特に高速連続印刷においては低温定着性と耐オフセット性が不足しやすい。
【0004】
本発明の課題は、定着性、及び耐オフセット性に優れた電子写真用トナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来、トナーの低温定着性と耐久性の両立は試みられているが、満足のいく性能を得ることはできなかった。しかし、軟化点の異なる2種の複合樹脂の併用において、本発明では、軟化点が低い方の複合樹脂の付加重合系樹脂ユニットに由来するガラス転移点を高くすることで、同一軟化点のポリエステル等と比較して分子量を低くできるため低温定着性を確保でき、一方、軟化点が高い方の複合樹脂の付加重合系樹脂ユニットに由来するガラス転移点を低くすることで、同一軟化点のポリエステル等と比較して分子量を高くできるため耐オフセット性を確保でき、低温定着性と耐オフセット性の相反する特性を両立できるという驚くべき効果を奏することを見出した。
【0006】
即ち、本発明は、結着樹脂として、樹脂(A)と樹脂(A)より軟化点が5℃以上高い樹脂(B)とを含有してなる電子写真用トナーであって、前記樹脂(A)及び樹脂(B)が少なくとも縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる複合樹脂であり、樹脂(A)の付加重合系樹脂ユニットに由来するガラス転移点が80〜100℃、樹脂(B)の付加重合系樹脂ユニットに由来するガラス転移点が-50〜40℃である、電子写真用トナーに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電子写真用トナーは、定着性に優れ、オフセットの発生が抑制されるという優れた効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は樹脂(A)と樹脂(A)より軟化点が5℃以上高い樹脂(B)とを含有する電子写真用トナーであって、樹脂(A)及び樹脂(B)が少なくとも縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる複合樹脂であり、各複合樹脂の付加重合系樹脂ユニットに由来するガラス転移点が特定の値を有することに特徴を有する。
【0009】
樹脂(A)及び樹脂(B)は、少なくとも縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる複合樹脂である。
【0010】
縮重合系樹脂成分としては、トナーの低温定着性の観点から、アルコール成分及びカルボン酸成分を縮重合させて得られるポリエステル、アルコール成分、カルボン酸成分及びアミド成分を形成するための原料モノマーを縮重合させて得られるポリエステル・ポリアミド、並びにカルボン酸成分及びアミド成分を形成するための原料モノマーを縮重合させて得られるポリアミドからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましく、これらの中ではポリエステルがより好ましい。
【0011】
ポリエステルは、特に限定されないが、2価以上のアルコールからなるアルコール成分と、2価以上のカルボン酸化合物からなるカルボン酸成分を含む原料モノマーを縮重合させて得られる。
【0012】
2価以上のアルコールとしては、トナーの保存安定性の観点から、式(I):
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、ROはアルキレンオキサイドであり、Rは炭素数2又は3のアルキレン基、x及びyはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示す正の数であり、xとyの和は1〜16、好ましくは1〜10、より好ましくは1.5〜5である)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が好ましい。かかるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、アルコール成分中、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。
【0015】
式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物としては、ポリオキシエチレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等のRが炭素数2のエチレンオキサイド付加物、ポリオキシプロピレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等のRが炭素数3のプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0016】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物以外のアルコール成分としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセロール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0017】
また、2価以上のカルボン酸化合物としては、例えば、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸(例えば、n-ドデセニルコハク酸、イソドデセニルコハク酸、n-ドデシルコハク酸、イソオクテニルコハク酸、イソオクチルコハク酸等の炭素数1〜20のアルキル基または炭素数2〜20のアルケニル基で置換されたコハク酸)等の脂肪族カルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等の芳香族カルボン酸、並びにこれらの酸の無水物及び低級アルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。上記のような酸、これらの酸の無水物、及び酸のアルキルエステルを、本明細書では総称してカルボン酸化合物と呼ぶ。
【0018】
また、ポリエステルは、軟化点と粉砕性の観点から、アルコール成分及び/又はカルボン酸成分として3価以上のモノマーを用いて得られた架橋ポリエステルであることが好ましい。3価以上のモノマーの含有量は、アルコール成分及びカルボン酸成分の総量中、2〜20モル%が好ましく、4〜18モル%がより好ましい。3価以上のモノマーとしては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)及びその無水物が好ましい。
【0019】
なお、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、分子量調整や耐オフセット性向上の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0020】
アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合は、例えば、不活性ガス雰囲気中にて、要すればエステル化触媒を用いて、180〜250℃の温度で行うことができる。
【0021】
また、ポリエステル・ポリアミドは、前記のアルコール成分及びカルボン酸成分に加えてアミド成分を形成するための原料モノマーを用い、これらの原料モノマーを縮重合させて得られ、ポリアミドは、前記のカルボン酸成分に加えてアミド成分を形成するための原料モノマーを用い、これらの原料モノマーを縮重合させて得られる。
【0022】
アミド成分を形成するために用いる原料モノマーとしては、公知の各種ポリアミン、アミノカルボン酸類、アミノアルコール等が挙げられ、好ましくはヘキサメチレンジアミン及びε-カプロラクタムである。
【0023】
なお、以上の原料モノマーには、通常開環重合モノマーに分類されるものも含まれているが、これらは、他のモノマーの縮重合反応で生成する水等の存在により加水分解して縮重合に供されるため、広義には縮重合系樹脂の原料モノマーに含まれると考えられる。
【0024】
一方、付加重合反応に用いられる付加重合系樹脂の原料モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン化合物;エチレン、プロピレン等のエチレン性不飽和モノオレフィン類;ブタジエン等のジオレフィン類;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;(メタ)アクリル酸のアルキル(炭素数1〜18)エステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のエチレン性モノカルボン酸のエステル;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のビニリデンハロゲン化物;N-ビニルピロリドン等のN-ビニル化合物類等が挙げられるが、これらの中では、本発明では、付加重合系樹脂と縮重合系樹脂との併用系の分子量を低くし、定着性を向上させる観点から、スチレンを用いることが好ましく、特に、樹脂(A)のスチレンの含有量は、付加重合系樹脂の原料モノマー中、好ましくは90重量%以上であり、より好ましくは95重量%以上であり、さらに好ましくは98重量%以上であり、さらに好ましくは実質的に100重量%である。
【0025】
なお、付加重合系樹脂の原料モノマーの付加重合には、重合開始剤、架橋剤等を必要に応じて使用してもよい。
【0026】
付加重合反応は、例えば、重合開始剤、架橋剤等の存在下、有機溶媒存在下又は無溶媒下で、常法により行うことができるが、例えば、温度条件は、好ましくは110〜200℃、より好ましくは140〜170℃である。
【0027】
付加重合反応の際に用いられる有機溶媒としては、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン等が挙げられる。有機溶媒の使用量は、付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、10〜50重量部程度が好ましい。
【0028】
樹脂(A)及び/又は樹脂(B)は、トナー中の離型剤等の添加剤の分散性を向上させる観点から、縮重合系樹脂の原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーに加えて、さらに縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物(両反応性モノマー)を用いて得られる樹脂(ハイブリッド樹脂)であることが好ましい。従って、本発明において、縮重合反応と付加重合反応は、両反応性モノマーの存在下で行うことが好ましく、これにより、ハイブリッド樹脂は、縮重合系樹脂成分と付加重合系樹脂成分とが部分的に両反応性モノマーを介して結合し、縮重合系樹脂成分中に付加重合系樹脂成分がより微細に、かつ均一に分散している。
【0029】
両反応性モノマーとしては、分子内に、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基、好ましくは水酸基及び/又はカルボキシル基、より好ましくはカルボキシル基と、エチレン性不飽和結合とを有する化合物が好ましく、このような両反応性モノマーを用いることにより、分散相となる樹脂の分散性をより一層向上させることができる。両反応性モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましいが、反応性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸及びフマル酸がより好ましい。
【0030】
本発明において、両反応性モノマーは、縮重合系樹脂の原料モノマーとして扱う。両反応性モノマーの使用量は、縮重合系樹脂の原料モノマーであるカルボン酸成分中、1〜20モル%が好ましく、5〜15モル%がより好ましい。
【0031】
本発明において、複合樹脂は、縮重合反応と付加重合反応を同一反応容器中で並行して行うことにより得られるが、縮重合反応と付加重合反応の進行及び完結は、時間的に同時である必要はなく、それぞれの反応機構に応じて反応温度及び時間を適当に選択し、反応を進行、完結させればよい。縮重合反応及び付加重合反応は、前述の方法により行うことができる。
【0032】
本発明においては、縮重合系樹脂の付加重合系樹脂に対する重量比、即ち縮重合系樹脂の原料モノマーの付加重合系樹脂の原料モノマーに対する重量比(縮重合系樹脂の原料モノマー/付加重合系樹脂の原料モノマー)は、連続相が縮重合系樹脂であり、分散相が付加重合系樹脂であることが好ましいことから、55/45〜95/5が好ましく、60/40〜95/5がより好ましく、70/30〜90/10がさらに好ましい。
【0033】
定着性を向上させる観点からは、本発明のトナーには離型剤を含有させることが好ましく、ワックスの分散性を向上させる観点からは、樹脂(A)及び/又は樹脂(B)は、ワックスの存在下で縮重合系樹脂の原料モノマー及びスチレンを含む付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる樹脂が好ましい。
【0034】
ワックスとしては、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレンポリエチレン共重合体、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物、カルナウバワックス、モンタンワックス、サゾールワックス及びそれらの脱酸ワックス等のエステル系ワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらのなかでは、離型性及び安定性の観点から、脂肪族炭化水素系ワックスが好ましい。
【0035】
ワックスの添加量は、樹脂(A)又は樹脂(B)の製造に用いられる原料モノマーの総量100重量部に対して、20重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましい。
【0036】
ワックスの添加時期は特に限定されず、重合開始当初であっても、重合反応途中であってもよい。
【0037】
樹脂(A)と樹脂(B)の軟化点は樹脂(B)の方が高く、その差は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、5℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは20〜60℃である。
【0038】
樹脂(A)の軟化点は、低温定着性の観点から、好ましくは80℃以上110℃未満、より好ましくは85〜105℃、さらに好ましくは90〜100℃である。一方、樹脂(B)の軟化点は、耐ホットオフセット性の観点から、好ましくは110〜150℃、より好ましくは115〜145℃、さらに好ましくは120〜140℃である。本明細書において、軟化点は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0039】
樹脂(A)の付加重合系樹脂ユニットに由来するガラス転移点は80〜100℃であり、好ましくは85〜100℃、より好ましくは90〜100℃である。一方、樹脂(B)の付加重合系樹脂ユニットに由来するガラス転移点は-50〜40℃であり、好ましくは-50〜35℃、より好ましくは-50〜30℃である。また、樹脂(A)と樹脂(B)の付加重合系樹脂ユニットに由来するガラス転移点は、Fox法により導かれる関係を満たすことから、原料モノマー種とその比率等を考慮し、公知の方法により調整することができる。例えば、「Polymer Handbook」(INTERSCIENCE社出版)を参考に、樹脂のガラス転移点を高くする原料モノマーとして、スチレン、メタクリル酸メチル等を、樹脂のガラス転移点を低くする原料モノマーとしてアクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチル等を適宜用いることができる。なお、本明細書において、ガラス転移点は、後述の実施例に記載の方法により計算される。
【0040】
樹脂(A)と樹脂(B)の重量比(樹脂(A)/樹脂(B))は、低温定着性と耐オフセット性の観点から、好ましくは20/80〜80/20、より好ましくは30/70〜70/30、さらに好ましくは40/60〜60/40である。
【0041】
樹脂(A)と樹脂(B)の総含有量は、結着樹脂中、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは80〜100重量%、さらに好ましくは90〜100重量%含有されることが望ましい。樹脂(A)と樹脂(B)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で他の結着樹脂を含有していても良く、結着樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、スチレン−アクリル樹脂等が挙げられる。
【0042】
本発明のトナーは、結着樹脂以外に、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、流動性向上剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が、適宜含有されていてもよい。
【0043】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等を使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン-Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナー、フルカラートナーのいずれであってもよい。着色剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。
【0044】
離型剤としては、前述したワックスが同様に挙げられる。これらのなかでは、離型性及び安定性の観点から、脂肪族炭化水素系ワックス及びエステル系ワックスが好ましく、これらは単独で又は2種以上を混合して含有されていても良い。離型剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、0.1〜20重量部が好ましく、0.5〜10重量部がより好ましい。離型剤は分散性向上の観点から、結着樹脂製造時に樹脂の原料モノマーと共に用いられ、結着樹脂に内添されていてもよい。
【0045】
荷電制御剤としては、ニグロシン染料、3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、ポリアミン樹脂、イミダゾール誘導体等の正帯電性荷電制御剤及び含金属アゾ染料、銅フタロシアニン染料、サリチル酸のアルキル誘導体の金属錯体、ベンジル酸のホウ素錯体等の負帯電性荷電制御剤が挙げられる。
【0046】
荷電制御剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、0.1〜5重量部が好ましく、0.5〜2重量部がより好ましい。
【0047】
磁性粉としては、コバルト、鉄、ニッケル等の強磁性体、コバルト、鉄、ニッケル、アルミニウム、鉛、マグネシウム、亜鉛、マンガン等の金属の合金、Fe、γ-Fe、コバルト添加酸化鉄等の金属酸化物、Mn-Znフェライト、Ni-Znフェライト等の各種フェライト、マグネタイト、ヘマタイト等を1種又は2種以上を併せて使用することができる。さらに、これら磁性分の表面がシランカップリング剤、チタネートシランカップリング剤等の表面処理剤で処理されたもの、又はポリマーコーティングされたものであってもよい。
【0048】
本発明のトナーが磁性トナーである場合には、磁性粉の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、磁性粉の分散性及び帯電の環境性の観点から10〜90重量部が好ましく、20〜80重量部がより好ましく、30〜70重量部がさらに好ましい。また、色目や帯電量の調整のために、カーボンブラックやフタロシアニンブルー等公知の着色剤を併用してもよい。
【0049】
本発明のトナーは、混練粉砕法、スプレイドライ法、重合法等の公知の方法により製造することができるが、生産性や着色剤の分散性の観点から、混練粉砕法により製造することが好ましい。混練粉砕法の一般的な方法としては、例えば、結着樹脂、並びに、離型剤、荷電制御剤、磁性粉等の添加剤等をヘンシェルミキサー、ボールミル等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー又は1軸もしくは2軸の押出機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級する方法が挙げられる。さらに、製造過程における粗粉砕物や、得られたトナーの表面に、必要に応じて疎水性シリカ等の流動性向上剤等を添加してもよい。本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、3〜15μmが好ましく、4〜8μmがより好ましい。本発明において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
【0050】
本発明のトナーは、単独で現像剤として、またはキャリアと混合して二成分系の現像剤として用いることができるが、トナーの添加剤の分散性が良好である観点から、磁性粉を含有する磁性一成分現像用トナーとして好適に用いることができる。また、本発明のトナーは、好ましくは線速200mm/sec(A4用紙40枚/分)以上の、より好ましくは250〜300mm/secの高速機に好適に使用することができる。
【実施例】
【0051】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0052】
〔付加重合系樹脂ユニットのガラス転移点〕
付加重合系樹脂ユニットのガラス転移点は、その原料モノマーの組成から下記に示すFoxの式により算出する。Foxの式は、例えば、共立出版株式会社の高分子物性の基礎、311〜312頁(1993年2月1日発行)に示されている。
算出する付加重合系樹脂ユニットがモノマー1、モノマー2からなる場合、
【0053】
【数1】

【0054】
(式中、Tgは付加重合系樹脂ユニットのガラス転移点(K)、Tg1、Tg2はモノマー1、2のホモポリマーのガラス転移点(K)、W1、W2はモノマー総量を1とするときのモノマー1、2の重量比を示す)
により算出する。
なお、付加重合系モノマーのホモポリマーのTgは、Polymer Handbook、III-64〜III-85頁(INTERSCIENCE社、1965年出版)に記載のホモポリマーのTgを用いることができる。また、付加重合系樹脂ユニットのモノマーが1種である場合は、上記式の右辺の第二項(W2/Tg2)を省略して算出することができ、付加重合系樹脂ユニットが3種以上のモノマーからなる場合も、Foxの式に基づきガラス転移点を同様に算出することができる。例えば、算出する付加重合系樹脂ユニットがモノマー1、モノマー2、モノマー3からなる場合、
【0055】
【数2】

【0056】
(式中、Tgは付加重合系樹脂ユニットのガラス転移点(K)、Tg1、Tg2、Tg3はモノマー1、2、3のホモポリマーのガラス転移点(K)、W1、W2、W3はモノマー総量を1とするときのモノマー1、2、3の重量比を示す)
により算出することができる。
【0057】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0058】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:100μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)を5重量%の濃度となるよう前記電解液に溶解させて分散液を得る。
分散条件:前記分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mLを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:前記試料分散液を前記電解液100mLに加えることにより、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度に調整した後、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0059】
樹脂製造例1〜7
表1に示す無水トリメリット酸及びアクリル酸以外のポリエステルの原料モノマー及びエステル化触媒としてオクタン酸錫15gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、230℃で8時間縮重合反応させた。さらに、8kPaで1時間反応させ、表1に示すフィッシャートロプッシュワックス「サゾールH105」(サゾール社製)を添加し、160℃まで冷却した後、表1に示すアクリル酸、ビニル系樹脂の原料モノマー及び重合開始剤の混合物を滴下ロートにより1時間かけて滴下した。滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を熟成させた後、200℃に昇温し、10kPaで1時間保持して、ビニル系樹脂モノマーの除去をおこなった。その後、表1に示す無水トリメリット酸を加えて1時間反応させた後、40kPaで架橋反応を所定の軟化点に達するまで行い樹脂を得た。
【0060】
【表1】

【0061】
トナー製造例1〜7(実施例1〜5及び比較例1〜2)
表2に示すトナー原料をヘンシェルミキサーにて攪拌混合後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。ロールの回転速度は200r/min、ロール内の加熱温度は120℃であり、混合物の供給速度は10kg/時間、平均滞留時間は約18秒であった。得られた混練物を冷却ローラーで圧延冷却した後、ジェットミルで粉砕し、分級して、体積中位粒径(D50)5μmのトナーを得た。
【0062】
試験例1〔定着性〕
「Laser Jet4200」(HP社製)に表2のトナー250gを実装し、未定着でベタ画像の画像出しを行い、未定着画像について、定着ロールの温度を80℃から10℃ずつ順次上昇させながら、100℃の恒温槽の中に15秒間保管する試験を行った。得られた定着画像に「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆社製、幅:1.8mm、JISZ-1522)を貼り付け、30℃に設定した定着ロールを通過させた後、テープを剥がした。テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(テープ剥離後/テープ貼付前)が最初に90%を超える定着ロールの温度を最低定着温度とする。
【0063】
〔定着性の評価基準〕
◎:110℃未満
○:110℃以上、130℃未満
×:130℃以上
【0064】
試験例2〔耐オフセット性〕
試験例1と同様にしてトナーを実装し、未定着で2cm×12cm、0.6mg/cm2の画像出しを行った。得られた画像について、複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機をオフライン定着機の総定着圧が392Paになるように改良した定着機(定着速度250mm/sec:A4用紙50枚/分)を用いて、「CopyBond SF-70NA」(75g/m2、シャープ(株)製)に100℃から240℃へ10℃ずつ順次定着温度を上昇させながら定着試験を行った。オフセットを目視で観察し、オフセットが発生する温度を下記の評価基準に従って評価した。結果を表2に示す。
【0065】
〔オフセットの評価基準〕
◎:90℃以上
○:70℃以上、90℃未満
△:50℃以上、70℃未満
×:50℃未満
【0066】
【表2】

【0067】
以上の結果より、実施例のトナーは、定着性及び耐オフセット性が良好なものであることが分かる。
【0068】
トナー製造例8(実施例6)
トナー製造例1において、磁性粉の代わりに着色剤「ECB301」(大日精化社製)を結着樹脂100重量部に対して5重量部加えた以外は、トナー製造例1と同様にして、非磁性トナーを得た。得られたトナーについて、定着性と耐オフセット性を上記方法と同様にして試験した結果、良好な結果が得られた。なお、トナー評価の画像出しについては、「Laser Jet4200」の代わりに「マイクロライン 5400」(沖データ社製)を用いた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の電子写真用トナーは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に好適に用いられるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂として、樹脂(A)と樹脂(A)より軟化点が5℃以上高い樹脂(B)とを含有してなる電子写真用トナーであって、前記樹脂(A)及び樹脂(B)が少なくとも縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる複合樹脂であり、樹脂(A)の付加重合系樹脂ユニットに由来するガラス転移点が80〜100℃、樹脂(B)の付加重合系樹脂ユニットに由来するガラス転移点が-50〜40℃である、電子写真用トナー。
【請求項2】
樹脂(A)の付加重合系樹脂の原料モノマーが、スチレンを90重量%以上含有してなる、請求項1記載の電子写真用トナー。
【請求項3】
縮重合系樹脂が、アルコール成分及びカルボン酸成分を縮重合させて得られるポリエステル、アルコール成分、カルボン酸成分及びアミド成分を形成するための原料モノマーを縮重合させて得られるポリエステル・ポリアミド、並びにカルボン酸成分及びアミド成分を形成するための原料モノマーを縮重合させて得られるポリアミドからなる群より選ばれた少なくとも1種である、請求項1又は2記載の電子写真用トナー。
【請求項4】
樹脂(A)及び/又は樹脂(B)が、さらに縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物の存在下で重合させることにより得られる、請求項1〜3いずれか記載の電子写真用トナー。
【請求項5】
樹脂(A)及び/又は樹脂(B)が、ワックスの存在下で縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる、請求項1〜4いずれか記載の電子写真用トナー。
【請求項6】
樹脂(A)と樹脂(B)の重量比(樹脂(A)/樹脂(B))が、20/80〜80/20である、請求項1〜5いずれか記載の電子写真用トナー。


【公開番号】特開2008−9172(P2008−9172A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180166(P2006−180166)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】