説明

電子写真用ベルトの製造方法

【課題】耐久性が高く形状精度に優れた電子写真用ベルトを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を含む樹脂混合物からなる樹脂チューブからシームレス形状の電子写真用ベルトを製造する方法であって、樹脂チューブの外径よりも大きな内径を有する筒状金型の内部空間に、樹脂チューブを筒状金型と同軸に配置し、樹脂チューブの内部を密閉空間とする工程と、内部空間の圧力と樹脂チューブの密閉空間の圧力との間に差圧が生じるように筒状金型の内部空間および樹脂チューブの密閉空間の少なくとも一方の圧力を制御し、樹脂チューブの形状を維持しつつ樹脂チューブを樹脂チューブのガラス転移温度以上融点未満の温度範囲で加熱する工程と、差圧を調整して樹脂チューブを膨張させて樹脂チューブの外周面を筒状金型の内壁に接触させる工程と、樹脂チューブを樹脂チューブのガラス転移温度未満に冷却する工程と、を有する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真画像形成装置の中間転写ベルト、転写搬送ベルト、感光ベルト、定着ベルト等に用いられるシームレス形状の電子写真用ベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザービームプリンターや複写機等の電子写真画像形成装置において中間転写ベルトや転写搬送ベルト等に用いられるシームレスベルトの製造方法が、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された製造方法では、筒状金型に内接している押出筒金型から熱硬化性樹脂の樹脂溶液を筒状金型内壁の下部から順に上部まで押し出して筒状の樹脂溶液の層を形成する。このとき樹脂溶液の層の内部に気体を注入して膨張させ、その後、樹脂溶液の層を硬化させることによってシームレスベルトが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−237695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子写真画像装置は高画質かつ低価格化が進んでおり、シームレス形状の電子写真用ベルトの品質および価格に対する要求が益々高まっている。
【0005】
そこで、本発明は、熱可塑性樹脂を主成分とする、高品位なシームレス形状の電子写真用ベルト(以下、単に、「電子写真用ベルト」ともいう)を低コストで製造する方法に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、熱可塑性樹脂を含む樹脂混合物からなる樹脂チューブからシームレス形状の電子写真用ベルトを製造する方法であって、
下記(1)〜(4)の工程を有することを特徴とする。
(1)該樹脂チューブの外径よりも大きな内径を有する筒状金型の内部空間に、該樹脂チューブを該筒状金型と同軸に配置し、次いで、該樹脂チューブの内部を密閉空間とする工程と、
(2)該内部空間の圧力と、該樹脂チューブの密閉空間の圧力との間に差圧が生じるように該筒状金型の内部空間および該樹脂チューブの密閉空間の少なくとも一方の圧力を制御し、該樹脂チューブの形状を維持しつつ、該樹脂チューブを該樹脂チューブのガラス転移温度以上、融点未満の温度範囲で加熱する工程と、
(3)該差圧を調整して、該樹脂チューブを膨張させて、該樹脂チューブの外周面を該筒状金型の内壁に接触させる工程と、
(4)該樹脂チューブを該樹脂チューブのガラス転移温度未満に冷却する工程。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、表面形状の精度に優れた、熱可塑性樹脂を含むシームレス形状の電子写真用ベルトを低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る電子写真用ベルトの製造装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係る電子写真用ベルトの製造方法の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[電子写真用ベルトの製造装置]
図1に、本発明に係るシームレス形状の電子写真用ベルトの製造装置の一実施形態の断面図を示す。本実施形態の製造装置100は、2つのOリング2と、規制部材3および規制部材4と、拡径部材5および拡径部材6と、円筒部材7と、加熱手段であるヒータ8と、筒状金型9とを備える。
【0010】
Oリング2は、拡径部材5または拡径部材6の円錐面と円筒部材7の端面との間隙にそれぞれ配置されている。円錐面を有する拡径部材5および拡径部材6はOリング2を同心円状に拡径させる手段であって、不図示のアクチュエータにより軸方向に駆動することで、該円錐面と円筒部材7の端面との間でOリング2を押し挟み、Oリング2を同心円状に拡径させる。
【0011】
規制部材3および規制部材4は、拡径部材5および拡径部材6、円筒部材7および筒状金型9と同軸に配置され、Oリング2が拡径された際にOリング2が密着する内面を有している。規制部材3および規制部材4は、熱可塑性樹脂を含む樹脂混合物からなる樹脂チューブ(以下、樹脂チューブ1と示す)の同心円状の拡径を規制する。また、規制部材3および規制部材4は、筒状金型9の内径より内側に排気口11を備える。
【0012】
円筒部材7は、樹脂チューブ1の内径よりも小さい外径を有し、かつ、両端面にOリング2を備えると共に、Oリング2を同心円状に拡径させる手段である拡径部材5および拡径部材6を具備している。また、円筒部材7には圧縮気体の注入口10が設けられている。ヒータ8は、筒状金型9と略平行に円筒部材7に支持され、樹脂チューブ1の内面を非接触で均一に加熱することができる。
【0013】
筒状金型9は、両端部が規制部材3および規制部材4と嵌合されて規制部材3および規制部材4と同軸に配置されている。筒状金型9は規制部材3と共に不図示のガイドおよびアクチュエータにより軸方向に可動し、樹脂チューブ1の挿入および取り出しを可能にしている。また、筒状金型9は不図示のヒータにより所望の温度に調整可能である。
【0014】
[電子写真用ベルトの製造方法]
図2を用いて、本発明に係るシームレス形状の電子写真用ベルトの製造方法の一実施形態について説明する。図2(a)〜(c)は後述する工程(1)〜(4)における製造装置100の状態を示す断面図である。図2(d)は最終的に得られた樹脂チューブ1から電子写真用ベルトを切り出した状態を示す断面図である。本発明に係る電子写真用ベルトの製造方法は、下記工程(1)〜(4)を含む。
(1)樹脂チューブ1の外径よりも大きな内径を有する筒状金型9の内部空間に、樹脂チューブ1を筒状金型9と同軸に配置し、次いで、樹脂チューブ1の内部を密閉空間とする工程。
(2)該内部空間の圧力と、樹脂チューブ1の密閉空間の圧力との間に差圧が生じるように筒状金型9の内部空間および樹脂チューブ1の密閉空間の少なくとも一方の圧力を制御し、樹脂チューブ1の形状を維持しつつ、樹脂チューブ1を樹脂チューブ1のガラス転移温度以上、融点未満の温度範囲で加熱する工程。
(3)該差圧を調整して、樹脂チューブ1を膨張させて、樹脂チューブ1の外周面を筒状金型9の内壁に接触させる工程。
(4)樹脂チューブ1を樹脂チューブ1のガラス転移温度未満に冷却する工程。
【0015】
(工程(1))
樹脂チューブ1は熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなる。樹脂チューブ1の熱可塑性樹脂は特に限定されない。しかしながら、熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度、中密度、低密度、直鎖状低密度)、プロピレンエチレンブロックまたはランダム共重合体、ゴムまたはラテックス成分が好ましい。また、熱可塑性樹脂としては、エチレン・プロピレン共重合体ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体またはその水素添加誘導体、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ポリアミド、ポリアミドイミドが好ましい。また、熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、液晶性ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォンが好ましい。また、熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド、ポリビスアミドトリアゾール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニルが好ましい。また、熱可塑性樹脂としては、エチレンテトラフロロエチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体が好ましい。また、熱可塑性樹脂としては、アクリル、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ポリエステルエステル共重合体、ポリエーテルエステル共重合体、ポリエーテルアミド共重合体、ポリウレタン共重合体が好ましい。また、耐久性を考慮すると、熱可塑性樹脂としてはエンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックに分類されるものが好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートがより好ましい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0016】
また、製造される電子写真用ベルトの用途に応じて様々な添加剤を熱可塑性樹脂に添加して機能を付与することができる。例えば、電子写真用ベルトを転写搬送ベルトや中間転写ベルト等に使用する場合には、特に抵抗率制御を目的として無機添加剤を添加することが好ましい。無機添加剤としては、カーボンブラック、黒鉛、金属、金属酸化物の微粉末等が挙げられる。金属としては、銅、スズ、アルミニウム、インジウム等が挙げられる。また、金属酸化物の微粉末としては、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化ビスマス、アンチモンをドープした酸化スズ、スズをドープした酸化インジウム等が挙げられる。無機添加剤としては、カーボンブラックが特に好ましい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。また、滑り性の付与を目的として二硫化モリブデン等の潤滑性粒子を添加することもできる。さらに、硬度向上等を目的として二酸化ケイ素、酸化チタン等を添加することもできる。これらの添加剤は一種のみを用いてもよく、二種以上を併用することもできる。
【0017】
樹脂チューブ1の成形方法としては、押出し成形、インフレーション成形等のいずれの成形方法でもよい。樹脂チューブ1は穴や切れ目のない熱可塑性樹脂のベルト体であることが好ましい。
【0018】
工程(1)は、下記工程(i)〜(iii)を含むことが好ましい。
(i)樹脂チューブ1の内径よりも小さい外径を有し、かつ、両端面にOリング2を備えると共に、Oリング2を同心円状に拡径させる手段(拡径部材5および拡径部材6)を具備している円筒部材7を筒状金型9と同軸に配置する工程。
(ii)円筒部材7に樹脂チューブ1を被せる工程。
(iii)樹脂チューブ1の両端に、樹脂チューブ1の同心円状の拡径を規制する規制部材3および規制部材4を配置し、次いで、Oリング2を同心円状に拡径させて樹脂チューブ1の両端を規制部材3および規制部材4に圧着せしめ、樹脂チューブ1と円筒部材7とで囲まれた空間を密閉することにより樹脂チューブ1の内部を密閉空間となす工程。
【0019】
樹脂チューブ1を製造装置100に着脱する際は、規制部材3および筒状金型9が不図示のアクチュエータで樹脂チューブ1の着脱に干渉しないように分離されており、Oリング2が樹脂チューブ1の内径よりも収縮している必要がある。図2(a)に示すように、矢印21の方向に樹脂チューブ1を挿入し、円筒部材7に樹脂チューブ1を被せる。その後、矢印22の方向に規制部材3および筒状金型9を挿入する。このとき、樹脂チューブ1の両端には規制部材3および規制部材4が配置されている。また、樹脂チューブ1の両端の内面はOリング2と近接し、外面は規制部材3および規制部材4と嵌合している。
【0020】
工程(1)では、図2(b)に示すように、不図示のアクチュエータにより拡径部材5を矢印23の方向へ移動させ、かつ、拡径部材6を矢印24の方向へ移動させることで、Oリング2を同心円状に拡径する。このとき、拡径部材5または拡径部材6とOリング2との接触面は円錐面であり、円筒部材7とOリング2との接触面が水平面であることにより、Oリング2の中心位置を変化させることなくOリング2を拡径させることができる。すなわち、樹脂チューブ1に軸方向の圧縮力が加えられることがないため座屈することがない。また、Oリング2が同心円状に拡径されることで、Oリング2を樹脂チューブ1の両端内面に均一に密着させることができる。さらに、樹脂チューブ1の両端を規制部材3および規制部材4の嵌合面に全周にわたって均一に圧着せしめることができる。これにより、樹脂チューブ1の両端部における気体の連通が遮断され、樹脂チューブ1と円筒部材7とで囲まれた空間を密閉することができ、樹脂チューブ1の内部は密閉空間となる。以下、該密閉空間を樹脂チューブ1の密閉空間とする。
【0021】
(工程(2))
工程(2)では、筒状金型9と樹脂チューブ1と規制部材3および規制部材4とで形成される筒状金型9の内部空間の圧力と、前記樹脂チューブ1の密閉空間の圧力との間に差圧が生じるように、筒状金型9の内部空間および樹脂チューブ1の密閉空間の少なくとも一方の圧力を制御し、樹脂チューブ1の形状を維持する。例えば、樹脂チューブ1の密閉空間の圧力を、筒状金型9の内部空間の圧力よりも高く、かつ、樹脂チューブ1が塑性変形して膨張する圧力よりも低く制御することができる。このように差圧を制御した状態で、ヒータ8により樹脂チューブ1の中央部を、樹脂チューブ1のガラス転移温度以上、融点未満に均一に加熱する。加熱された樹脂チューブ1は温度上昇に応じて膨張しシワや歪みを形成しようとするが、筒状金型9の内部空間の圧力と、樹脂チューブ1の密閉空間の圧力との差圧が制御されているため、樹脂チューブ1の形状は維持される。これにより、樹脂チューブ1とヒータ8との距離は一定に保たれ、樹脂チューブ1は均一に加熱される。
【0022】
(工程(3))
工程(3)では、図2(c)に示すように、樹脂チューブ1の密閉空間に連結された注入口10より圧縮気体を注入することで、樹脂チューブ1の外周面が筒状金型9の内壁に接触するまで矢印25の方向に樹脂チューブ1を膨張させる。樹脂チューブ1は工程(2)にて樹脂チューブ1のガラス転移温度以上、融点未満に加熱されているため、圧縮気体の注入により樹脂チューブ1は塑性変形を伴って膨張する。また、工程(1)にて樹脂チューブ1の両端部はOリング2で固定されているため、樹脂チューブ1は径方向に選択的に膨張する。樹脂チューブ1は径方向に膨張することで膜厚を減じながら周方向に延伸される。これにより、樹脂チューブ1の分子配向は周方向に揃いやすくなる。樹脂チューブ1の膨張後の直径を膨張前の直径で除した値を延伸倍率とすると、延伸倍率は1.1から5.0であることが好ましい。
【0023】
また、筒状金型9の内部空間の圧力が制御可能に構成されており、前記工程(2)および前記工程(3)の少なくとも一方が、筒状金型9の内部空間の減圧工程を含むことが好ましい。これにより、工程(3)で樹脂チューブ1が筒状金型9の内壁に接触する際に、樹脂チューブ1と筒状金型9との間における気体の介在を減らし、密着を促進させることができる。筒状金型9の内部空間を減圧する方法としては、図1に示す排気口11に不図示の真空ポンプを接続し、排気口11から筒状金型9の内部空間内の気体を吸引することで減圧することができる。
【0024】
(工程(4))
工程(4)では、樹脂チューブ1を樹脂チューブ1のガラス転移温度未満に冷却する。冷却方法としては、筒状金型9をガラス転移温度未満に温調した状態で工程(3)により樹脂チューブ1を接触させ、接触と同時に冷却してもよい。また、筒状金型9をガラス転移温度以上に温調した状態で工程(3)により樹脂チューブ1を接触させ、接触状態を保ったまま所望の時間を掛けてガラス転移温度未満に冷却してもよい。
【0025】
次に、図2(d)に示すように樹脂チューブ1を製造装置100より取り出して樹脂チューブ1の両端部を切断することで、電子写真用ベルト12を得る。電子写真用ベルト12は軸方向にわたって均一な直径を有し、かつ、均一な物性であることが好ましいため、筒状金型9に接触した領域を切り出す。
【0026】
上述した方法により製造される電子写真用ベルトは、筒状金型9の内面に倣うことで軸方向に安定した外径精度を有し、周方向に延伸されることで周方向の強度が高められており、耐久性が高い。また、工程(1)〜(4)に加えて筒状金型9の内部空間の減圧工程が行われて得られた電子写真用ベルトは、前記特性に加え、筒状金型9内面の形状が電子写真用ベルトの外面により精度よく転写されているため、表面欠陥が少ない。
【0027】
本発明に係る電子写真用ベルトは、例えば、電子写真画像形成装置(レーザービームプリンタ、複写機等)の中間転写ベルト、転写搬送ベルト、感光ベルト、定着ベルト等に用いることができる。
【実施例】
【0028】
[実施例1]
図1に示す構成を有する電子写真用ベルトの製造装置を用い、図2(a)から(c)に示す工程により電子写真用ベルトを製造した。
【0029】
ポリエーテルエーテルケトン(ビクトレックス(Victrex)社製)にアセチレンブラック(電気化学工業社製)を混練し、押出し成形機を用いて樹脂チューブ1を得た。この樹脂チューブ1は、ガラス転移温度が約150℃、融点が約340℃であり、外径200mm、膜厚150μm、長さ450mmであった。なお、ガラス転移温度および融点は、示差式熱量計DSC2910(商品名、ティーエイ・インスツルメント社製)により測定した。
【0030】
筒状金型9の内径は250mmであった。不図示の温調手段により筒状金型9を120℃に制御した。規制部材3および規制部材4の嵌合面の内径は203mmであった。ヒータ8は外径が195mm、長さ380mmの赤外線ヒータであった。Oリング2は耐熱性ゴムからなり、断面径5.7mm、内径179mmであった。Oリング2の間隔は440mmとした。
【0031】
まず、図2(a)に示すように、規制部材3および筒状金型9と規制部材4とを不図示のアクチュエータにより十分分離した。Oリング2を外径195mmの状態にして樹脂チューブ1を装置100に装着し、規制部材3および筒状金型9を嵌め合わせた。
【0032】
次いで、図2(b)に示すように、拡径部材5を矢印23の方向へ、拡径部材6を矢印24の方向へ不図示のアクチュエータにより動かし、Oリング2を同心円状に拡径させた。このとき、Oリング2は樹脂チューブ1の両端部の内面に均一に密着され、かつ、樹脂チューブ1の両端部の外面は規制部材3および規制部材4の嵌合面に全周にわたって均一に押し当てられた状態となった。即ち、樹脂チューブ1の両端部において気体の連通が遮断され、樹脂チューブ1と、Oリング2と、円筒部材7とで囲まれた樹脂チューブ1の内部は密閉空間となった(工程(1))。
【0033】
さらに、樹脂チューブ1の密閉空間の圧力と、筒状金型9の内部空間の圧力(大気圧)との差圧を1kPaに制御し、樹脂チューブ1の形状を維持しつつヒータ8を点灯して樹脂チューブ1を200℃まで均一に加熱した(工程(2))。
【0034】
次いで、図2(c)に示すように、注入口10より元圧50kPaの圧縮空気を注入し、樹脂チューブ1の外周面を筒状金型9の内壁に接触させた(工程(3))。圧力を保った状態で十分に時間を置いて樹脂チューブ1を150℃未満に冷却し、固化させた(工程(4))。
【0035】
次いで、圧縮空気の注入を止め、拡径部材5および拡径部材6を動かしてOリング2を収縮させた。規制部材3および筒状金型9と規制部材4とを分離して樹脂チューブ1を取り出した。図2(d)に示すように、樹脂チューブ1の両端部を切断することで、筒状金型9に接していた部位を電子写真用ベルトとした。
【0036】
上述した手順にて得られた電子写真用ベルトは、2本の平行ローラで張架しても歪みが見られず、軸方向に安定した外径精度を有していた。また、屈曲耐久性を評価したところ、押出し成形機から取り出された延伸前の樹脂チューブ1よりも耐久性が高まっていることが確認された。
【0037】
[実施例2]
内径が350mmの筒状金型9を用いた。工程(2)においてヒータ8により樹脂チューブ1を280℃まで均一に加熱した。また、工程(3)において、排気口11に連結した真空ポンプで筒状金型9の内部空間内の気体を吸引して減圧しつつ、注入口10より元圧50kPaの圧縮空気を注入し、樹脂チューブ1の外周面を筒状金型9の内壁に接触させた。これら以外は実施例1と同様に電子写真用ベルトを作製した。
【0038】
上述した手順にて得られた電子写真用ベルトは、2本の平行ローラで張架しても歪みが見られず、実施例1の電子写真用ベルトよりも軸方向に更に安定した外径精度を有していた。また、屈曲耐久性を評価したところ、実施例1の電子写真用ベルトよりも更に耐久性が高まっていることが確認された。
【符号の説明】
【0039】
1 樹脂チューブ
2 Oリング
3、4 規制部材
5、6 拡径部材
7 円筒部材
8 ヒータ
9 筒状金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む樹脂混合物からなる樹脂チューブからシームレス形状の電子写真用ベルトを製造する方法であって、
下記(1)〜(4)の工程を有することを特徴とするシームレス形状の電子写真用ベルトの製造方法:
(1)該樹脂チューブの外径よりも大きな内径を有する筒状金型の内部空間に、該樹脂チューブを該筒状金型と同軸に配置し、次いで、該樹脂チューブの内部を密閉空間とする工程と、
(2)該内部空間の圧力と、該樹脂チューブの密閉空間の圧力との間に差圧が生じるように該筒状金型の内部空間および該樹脂チューブの密閉空間の少なくとも一方の圧力を制御し、該樹脂チューブの形状を維持しつつ、該樹脂チューブを該樹脂チューブのガラス転移温度以上、融点未満の温度範囲で加熱する工程と、
(3)該差圧を調整して、該樹脂チューブを膨張させて、該樹脂チューブの外周面を該筒状金型の内壁に接触させる工程と、
(4)該樹脂チューブを該樹脂チューブのガラス転移温度未満に冷却する工程と、を有することを特徴とする電子写真用ベルトの製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)は、
(i)該樹脂チューブの内径よりも小さい外径を有し、かつ、両端面にOリングを備えると共に、該Oリングを同心円状に拡径させる手段を具備している円筒部材を該筒状金型と同軸に配置する工程と、
(ii)該円筒部材に該樹脂チューブを被せる工程と、
(iii)該樹脂チューブの両端に、該樹脂チューブの同心円状の拡径を規制する規制部材を配置し、次いで、該Oリングを同心円状に拡径させて該樹脂チューブの両端を該規制部材に圧着せしめ、該樹脂チューブと該円筒部材とで囲まれた空間を密閉することにより該樹脂チューブの内部を密閉空間となす工程と、を含む請求項1に記載の電子写真用ベルトの製造方法。
【請求項3】
前記筒状金型の内部空間の圧力が制御可能に構成されており、
前記工程(2)および前記工程(3)の少なくとも一方が、該筒状金型の内部空間の減圧工程を含む請求項1または2に記載の電子写真用ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−150207(P2012−150207A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7735(P2011−7735)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】