説明

電子回路モジュール

【課題】低背化を図りつつ、高速デジタル信号ラインからノイズを抑制することができ、通常の製造工程で容易に実現することが可能な配線基板を提供する。
【解決手段】電子回路モジュール100は、基板11と、基板11上に実装された半導体ICチップ12、チップキャパシタ、チップインダクタ、チップ抵抗等のチップ部品13を備えている。基板11は、高速デジタル信号ライン14等の配線パターン、ランドパターン、ビアホール導体等を含んでおり、半導体ICチップ12は高速デジタル信号ライン14に接続されている。シールド層15はフェライト等の磁性体からなり、高速デジタル信号ライン14に接して設けられている。シールド層15は高速デジタル信号ライン14の一方の主面のみを部分的に覆っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路モジュールに関し、特に、高速デジタル信号ラインのシールド構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン等のデジタル家電の急激な小型化、高機能化が進んでおり、これら小型化、高機能化の技術上の裏付けの一つとしてRF回路部のモジュール化がある。RF回路モジュールは小型化、高周波化が著しく、ICから配線されたデジタル信号ラインは細線化され、基板上にはICから延びる多数の配線が引き回されている。デジタル信号ラインにはクロックライン、データバスライン等があり、これらは電源ラインに比べて出力は低いものの、周波数が高いため、信号ライン同士の電磁干渉が問題となる。特に、無線通信機器においては、高速動作する信号ラインから輻射されたノイズにより、EMI(Electro-Magnetic Interference)の増加や受信回路の大幅な感度劣化が発生するため、信号ラインから輻射される電磁ノイズを抑制することは極めて重要である。
【0003】
従来、このようなノイズを抑制するため、金属板や成型メッキ品によるシールドカバー62を用いてノイズ源となる信号ライン61を覆う方法(図6(a))、ノイズ源となる信号ライン61の上下をシールド層(グランド層)63,64で覆う方法(図6(b))、信号ライン61上に電波吸収体65を貼り付ける方法(図6(c))等が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−74686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、金属キャップ等のシールドカバー62を用いる場合には、シールドカバー62を取り付けることによる厚みの増加が問題となる。また、シールド層63,64を設ける場合には、シールドカバー62のように厚みが極端に増加することはないが、多層基板の層数が増加することによる厚みの増加が問題となる。また電波吸収体65を用いる場合には、電波吸収体の貼り付け精度や部品実装状態等に起因する構造的な制約が問題となる。
【0006】
したがって、本発明の目的は、低背化を図りつつ高速デジタル信号ラインからのノイズを抑制することができる薄型で高性能な電子回路モジュールを提供することにある。また、本発明の目的は、通常の製造工程で容易に製造することが可能な電子回路モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明による電子回路モジュールは、基板と、基板の上面又は内部に形成された半導体素子と、半導体素子から配線された信号ラインと、信号ラインの一方の主面のみを直接覆うシールド層とを備え、シールド層は、電波吸収性を有する絶縁性材料からなることを特徴としている。
【0008】
本発明によれば、信号ラインの一方の主面に電波吸収材からなるシールド層を設けているので、信号ラインからの不要輻射ノイズを抑制することができる。特に、信号ラインは電源ラインと比べて伝送信号のエネルギーが非常に低いため、信号ライン状を電波吸収材で覆うだけで信号ラインからのノイズを十分に吸収することができる。このため、信号ラインでは、従来のノイズ除去方法である、シールド電極層を多層基板の内部に形成したり、ノイズ吸収シートを貼り付けたりすることが不要となり、モジュールを小型化することができる。
【0009】
本発明において、前記絶縁性材料はフェライトを含むことが好ましく、置換M型六方昌フェライト、Mn−Zn、Ni−Mn−Cu、Ni−Mn、Mg−Cu−Znフェライトから選択された少なくとも一種のフェライトを含むことが特に好ましい。フェライトを含む電波吸収材を用いた場合には、十分な絶縁性と高い電波吸収率の両方を実現することができる。
【0010】
本発明において、前記基板は、内層にシールドパターンを有する多層基板であり、信号ラインの他方の主面は絶縁層を介して形成されたシールドパターンで覆われていることが好ましい。信号ラインの一方の主面のみがシールド層で覆われている場合には、他方の主面側から電磁ノイズが輻射されるため、多層基板の内層にLC配線パターン等が設けられている場合には、それらに対して悪影響を与えるおそれがある。しかし、信号ラインとLC配線パターンとの間にシールドパターンが設けられている場合には、上記問題を解決することができる。
【発明の効果】
【0011】
このように、本発明によれば、低背化を図りつつ高速デジタル信号ラインからのノイズを抑制することができる薄型で高性能な電子回路モジュールを提供することができる。また、本発明によれば、通常の製造工程で容易に製造することが可能な電子回路モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の好ましい実施形態による電子回路モジュール100の構造を示す略斜視図である。
【図2】電子回路モジュール100の具体例であるLCD(Liquid Crystal Display)の構成を概略的に示す回路図である。
【図3】図1のX部分における高速デジタル信号ライン14の拡大図であって、(a)は略平面図、(b)は略断面図である。
【図4】電子回路モジュール100の製造方法を説明するための模式図である。
【図5】本発明の他の好ましい実施形態による電子回路モジュールの構造を示す略断面図である。
【図6】従来の電子回路モジュールの構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の好ましい実施形態による電子回路モジュールの構造を示す略斜視図である。
【0015】
図1に示すように、電子回路モジュール100は、基板11と、基板11上に実装された半導体ICチップ12と、半導体ICチップ12と共に基板11上に実装されたチップキャパシタ、チップインダクタ、チップ抵抗等のチップ部品13を備えている。基板11は、高速デジタル信号ライン14等の配線パターン、ランドパターン、ビアホール導体等を含んでおり、半導体ICチップ12は高速デジタル信号ライン14に接続されている。
【0016】
基板11には集積度の観点から多層基板を用いることが好ましいが、単層基板であってもよい。多層基板の場合には内層にも種々の配線パターンが形成され、さらに配線層間を接続するビアホールが形成される。基板11は主にガラス繊維で補強されたFR4(Flame Retardant 4)等の樹脂基板であってもよく、LTCC(Low temperature Co-fired Ceramics:低温焼成セラミックス)基板であってもよい。
【0017】
特に限定されるものではないが、半導体ICチップ12としては、CPU、DSP、LCDコントローラ等を挙げることができる。半導体ICチップ12の端子に接続された高速デジタル信号ライン14は、多数本の信号ラインが所定ピッチで並列に配線されたバスラインを構成している。高速デジタル信号ライン14における「高速」とは、信号伝送によってノイズが輻射される程度にデジタル信号が高周波である、という意味である。周波数が高くなるほどノイズの輻射量も大きくなるが、具体的な周波数範囲はノイズを発生させる限りにおいて特に限定されない。ICの高機能化により信号ラインは並列配線パターンであることが多いが、信号ラインの本数は特に限定されない。ただし、本発明によるノイズ抑制効果を得るためには2本以上であることが好ましい。このような高速デジタル信号ラインとしては、クロックライン、データバスライン等を挙げることができる。
【0018】
シールド層15は絶縁性を有する電波吸収材からなり、その厚みは数十μm程度である。シールド層15は、高速デジタル信号ライン14を部分的に覆っている。シールド層15は、高速デジタル信号ライン14のうちノイズが発生しやすい部分を覆っていればよく、そのような部分は、高速デジタル信号ライン14のうち信号ラインが密に集合している部分であり、特に半導体ICチップ12に近い部分である。よって、信号ラインの分岐部分はシールド層15で覆われていなくてもよい。また、基板11上に各種チップ部品が実装されることを考慮すると、高速デジタル信号ライン14の形成領域を含む基板11の全面或いは広範囲を覆うことは好ましくない。
【0019】
電波吸収材は信号ライン上に直接塗布することにより形成することが好ましく、そのため電波吸収材には高い絶縁性が必要である。このため、電波吸収材の主な材料としては、フェライトの焼結体が好ましく、有機バインダに分散させて信号ラインに塗布したり、無機バインダに分散させ電源ライン上に焼付けたり、電極、基板シートと同時焼成することにより形成することができる。
【0020】
一般に、物体に電磁波が入射すると、その一部はその表面で反射され、一部は内部で吸収されて熱に変わり、残りが通過する。これらの割合は、その物体の材質や形状、電磁波の波長などに依存するが、吸収される電磁波の割合が高くなるように作られたものが「電波吸収材」と呼ばれる。
【0021】
電波吸収材の主な材料としては、フェライトの焼結体や、フェライトやカーボンを樹脂に分散させたものを用いることができる。広い周波数範囲で高い吸収率が必要である場合には、複数の材料を組み合わせてもよい。反射率を低く抑えることが必要な場合には、自由空間から吸収材に入射する点での反射を低減するために、楔型やピラミッド型のものや、徐々に吸収率を高くする多層構造のものを用いてもよい。
【0022】
電波吸収材としては、磁性材料(酸化鉄フェライトや炭素)と誘電材料の複合化によって、GHz帯で広帯域に有効な単層型電波吸収材料が好適である。つまり、スピネル系フェライトとSiCとの複合材料、六方晶系フェライトとSiCとの複合材料、炭素系複合材料等を用いることが好ましい。この場合において、結晶構造の異なる2種類の酸化鉄フェライト(スピネル系と六方晶系)を用いることが特に好ましい。一般に、スピネル系のフェライト材料は最高でも1GHz付近で自然共鳴を生じるために、GHz帯の高周波領域において単体の形では吸収体として利用することはできない(スネークスの限界)。また、六方晶フェライトには多彩な酸化物(M型、Y型、Z型など)があり、GHz帯域で各々異なる電磁波吸収特性を示す。したがって、これらの材料の特長を活かして所望の周波数において電波吸収率の高い電波吸収材を実現することができる。
【0023】
図2は、電子回路モジュール100の具体例であるLCD(Liquid Crystal Display)の構成を概略的に示す回路図である。
【0024】
図2に示すように、LCD20は、半導体ICチップ12に対応するLCDドライバ21と、LCDディスプレイ22とを備え、LCDドライバ21とLCDディスプレイ22とは高速デジタル信号ライン14に相当するLCDバスライン23を介して接続されている。図示のLCDバスライン23は8ビットであり、所定ピッチで配列された8本の信号ラインからなる。このような信号ラインからは電磁ノイズが発生し、LCD20を携帯電話機に組み込むような場合には受信感度に大きな影響を与えることから、ノイズ対策は極めて重要になる。
【0025】
図3は、図1のX部分における高速デジタル信号ライン14の拡大図であって、(a)は略平面図、(b)は略断面図である。
【0026】
図3(a)及び(b)に示すように、シールド層15は基板11の上面11aに形成され、高速デジタル信号ライン14の一方の主面を覆っている。ここで、高速デジタル信号ライン14の主面とは基板11と平行な面をいう。高速デジタル信号ライン14の上下両面をシールド層15で覆う場合、基板11に予め磁性層を形成し、その上に信号ラインとなる導体パターンを形成する必要がある。基板11として例えばLTCC基板を用いる場合には、平坦な基板面への磁性体の塗布によってその部分が突出するため、段差部において配線の印刷に不具合を生じさせる可能性が高い。また、基板11として樹脂基板を用いる場合には、通常は銅箔付き樹脂基板を用いて銅箔のフォトリソグラフィー等により導体パターンの形成を行うが、この形成方法を採用する場合には、既に銅箔と樹脂基板が接していることから、導体の上下を磁性層で覆うことは不可能である。
【0027】
しかし、本実施形態によれば、シールド層15が高速デジタル信号ライン14の一方の主面のみを覆う構成であるため、LTCC基板や樹脂基板を普通に使用することができ、加工面での問題が生じることはない。
【0028】
図4は、電子回路モジュール100の製造方法を説明するための模式図である。
【0029】
電子回路モジュール100の製造では、まず図4(a)に示すように、高速デジタル信号ライン14やその他の配線パターンが形成された基板11を用意する。このとき、基板11の上面に形成された高速デジタル信号ライン14は露出している。
【0030】
次に図4(b)に示すように、基板11の略全面にフォトレジスト17を形成し、これを露光・現像することにより、高速デジタル信号ライン14の上方にあるフォトレジスト17を除去して開口部18を形成する。その後、開口部18に電波吸収材のペースト材をスクリーン印刷により塗布した後、これを硬化させる。こうして図4(c)に示すように、バスライン上にシールド層15を形成する。なお、シールド層15はペースト材のスクリーン印刷のほか、ペースト材による全面コーティング後に不要領域をエッチングすることで形成することも可能であり、さらにはスパッタリングにより形成することも可能である。
【0031】
次に、図4(d)に示すように、フォトレジスト17を除去し、基板11上の必要な領域にソルダレジスト(不図示)を形成した後、基板11の上面に半導体ICチップ12を実装すると共に、チップキャパシタ、チップインダクタ等の受動素子のチップ部品13を実装する。以上により、本実施形態による電子回路モジュール100が完成する。
【0032】
以上説明したように、本実施形態によれば、電波吸収材からなるシールド層15を高速デジタル信号ライン14上に形成するので、電磁ノイズが十分に抑制された電子回路モジュールを実現することができる。また、本実施形態によれば、シールド層15を高速デジタル信号ライン14上に直接形成するので、基板11の全体に金属キャップを被せたり、シールド層を形成したりする場合に比べて、配線基板を含むモジュール全体を薄型化・低背化することができる。また、基板11上の配線パターンと同様、通常の加工工程によって部分的なシールド層15が形成されるので、電波吸収シールを貼り付けるような人手による作業を不要にでき、製造工程の簡素化、加工精度の向上を図ることもできる。
【0033】
図5は、本発明の他の好ましい実施形態による電子回路モジュールの構造を示す略断面図である。
【0034】
図5に示すように、この電子回路モジュールは、基板11が多層基板であり、多層基板の内層にはキャパシタンスパターン(Cパターン)51やインダクタンスパターン(Lパターン)52が設けられている。そして、本実施形態においては、信号ライン14の一方の主面にはシールド層15が形成されると共に、他方の主面側には絶縁層を介してシールド電極パターン53が形成されており、信号ライン14の他方の主面はシールド電極パターン53によって覆われている。そのため、信号ラインからの輻射ノイズがLCパターンに与える影響を防止することができ、多層基板を用いた薄型で高性能な電子回路モジュールを実現できる。
【0035】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加えることが可能であり、それらも本発明の範囲に包含されるものであることは言うまでもない。
【0036】
例えば、上記実施形態においては、高速デジタル信号ライン14が基板11の上面(表層)に形成されているが、基板11が多層基板である場合には、その内層に形成することも可能である。
【符号の説明】
【0037】
10 配線基板
11 基板
11a 基板の上面
12 半導体ICチップ
13 受動素子のチップ部品
14 高速デジタル信号ライン
15 シールド層
17 フォトレジスト
18 フォトレジストの開口部
21 LCDドライバ
22 LCDディスプレイ
23 LCDバスライン
51 キャパシタンスパターン(Cパターン)
52 インダクタンスパターン(Lパターン)
53 シールド電極パターン
61 信号ライン
62 シールドカバー
63,64 シールド層
65 電波吸収体
100 電子回路モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の上面又は内部に形成された半導体素子と、前記半導体素子から配線された信号ラインと、前記信号ラインの一方の主面のみを直接覆うシールド層とを備え、
前記シールド層は、電波吸収性を有する絶縁性材料からなることを特徴とする電子回路モジュール。
【請求項2】
前記絶縁性材料はフェライトを含むことを特徴とする請求項1に記載の電子回路モジュール。
【請求項3】
前記信号ラインの他方の主面は絶縁層を介して形成されたシールドパターンで覆われていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子回路モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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