説明

電子回路装置とその製造方法

【課題】低いエネルギーのレーザ光の照射であってもアブレーション現象が起こり、問題なくパターニングできる酸化錫薄膜が付いた透明基板の製造方法の提供。
【解決手段】透明基板上にキャリア濃度が5×1019/cm以上である透明導電膜を有する薄膜付き透明基板に、波長が1064nmのレーザ光を照射して前記透明基板上に回路パターンを形成する、回路パターン付き透明基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化錫を主成分とする薄膜付き透明基板、及びそれを用いて回路パターン付き透明基板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンピュータ、通信、情報家電、各種表示デバイス等には、基板上に薄膜状の金属や絶縁物からなる回路パターンを有する電子回路基板が使用されている。
また、近年需要が高まっているプラズマディスプレイや液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)においては、透明薄膜電極の回路パターンの形成が必須である。
【0003】
このような回路パターンの形成には、概ね、フォトリソグラフィ・エッチングプロセスを用いた方法が採用されてきた。この方法は、基板の全面に又は部分的に回路パターンを形成するための薄膜を成膜した後に、レジストを塗布・乾燥してレジスト層を形成する。そして、マスクを介してレジスト層を露光・現像することによって、回路パターンとは逆のパターン(逆回路パターン)を形成する。その後、エッチング、レジスト層除去を経て所望の回路パターンを形成する方法である。この方法は、パターンの形成精度が良く、同じパターンを何回でも再現できるとともに、同一基板上に複数個の回路パターンを形成できるため、量産性を有している点で優れている。
【0004】
しかしながら、このフォトリソグラフィ・エッチングプロセスを用いた方法は、一般的には、多数の工程を繰り返して回路パターンを完成させていくものである。具体的には、基板上に金属薄膜を形成した後に、レジスト層を形成し、露光・現像処理・エッチング・レジスト層剥離を行い、さらに、絶縁層を形成した後に、レジスト層の形成・露光・現像・エッチング・レジスト層剥離を行う。
【0005】
このように、この方法では金属薄膜と絶縁層とからなる回路パターンを形成する度に、成膜・レジスト塗布・乾燥・露光・現像・エッチング・レジスト層剥離等からなる非常に多数の工程を必要とする。このため、製造コストが非常に高くなるという問題があった。
また、この方法では、上記多数の工程の度に大量の現像液や、エッチング剤等の薬液及び洗浄液を使用することとなる。これは、単に歩留まりが悪く製造コストが非常に高くなるということのみならず、昨今、重大な関心事となってきた廃液の処理などの環境負荷が大きいという問題があった。
さらに、金属薄膜等に用いる材料の種類によってはエッチング剤等によるエッチングが困難であった。従って、フォトリソグラフィ・エッチングプロセスには、エッチング性に優れる特定の材料しか適用することはできなかった。
【0006】
このような種々の問題に関連した従来法として、例えば、次に示す特許文献1、2に記載されたレーザ光を用いたパターニング方法がある。
特許文献1には、ウェットプロセスを用いることなく確実にパターニングを行い、薄膜回路パターンの微細化及びプロセスの短縮化、簡略化をはかることを目的として、基体の表面上にステンシルをパターン形成した後、上記ステンシル上に成膜すべき薄膜を被着して、上記基体の裏面側からエネルギービームを照射して、上記ステンシルを剥離させて上記薄膜をパターニングすることを特徴とする薄膜パターン形成方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、レジスト膜の現像と残留レジストの剥離、及び金属薄膜や半導体薄膜あるいは絶縁耐薄膜の加工を完全ドライプロセスで行うことを目的として、液晶表示素子を構成するための金属膜、誘電体絶縁膜、半導体膜の薄膜、ないしは前記薄膜の一部がパターン状に形成された多層膜を成膜したガラス基板上にウレタン結合及び/又はウレア結合をもつ高分子材料から構成したレジスト膜を塗布し、所定の開口パターンを有するマスクを介してエキシマレーザを照射して、照射部分のレジスト膜をアブレーション現象により除去することで前記マスクの開口パターンに対応して前記薄膜を露出したレジスト膜パターンを形成し、前記レジスト膜パターンで露出された前記薄膜にエッチング処理を施して除去した後、エキシマレーザを照射して残留レジスト膜をアブレーション現象により除去することを特徴とする液晶表示素子の製造方法が記載されている。
【特許文献1】特開平6−13356号公報
【特許文献2】特開平10−20509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このようなレーザ光を用いたパターニング方法によりFPD等の透明薄膜電極の回路パターンを形成する場合、透明薄膜電極材料として酸化錫を用いることが考えられる。
しかし、この酸化錫を主成分とする薄膜を透明基板上に形成し、通常用いられる波長が1064nmであるYAGレーザ光(以下、「YAGレーザ光」は全て波長が1064nmのものをいう)を照射してパターニングした場合、通常、レーザ光の大半が透過し、効率よく、かつ再現性良くパターニング加工ができないという問題があった。また、加工を行なうためにレーザのエネルギーを上げると、ガラス等の透明基板に損傷が生じる可能性があるという問題があった。
これは、1064nmの波長のレーザ光に対する酸化錫膜の吸収率が低いために、蒸発エネルギーが高くアブレーション現象が起こり難いだけでなく、その微小な吸収率が変動しやすいため再現性が低く、通常、高エネルギーのレーザ光を長時間照射しなければ、酸化錫を主成分とする薄膜を透明基板上から、再現性良く除去してパターニングすることができないからである。
【0009】
従って、本発明はガラス等の透明基板の損傷が極めて少ない、透明導電膜、特に酸化錫を主成分とする薄膜の回路パターン付き透明基板、及びそれを製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、キャリア濃度が特定値以上である透明導電膜、特に酸化錫を主成分とする薄膜を表面に形成した薄膜付き透明基板を用いれば、YAGレーザ光の照射により透明基板が損傷することなく、しかも再現性良くパターニングが可能であることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は次の(1)〜(11)を提供するものである。
(1)透明基板上にキャリア濃度が5×1019/cm以上である透明導電膜を有する薄膜付き透明基板。
(2)前記透明導電膜が酸化錫を主成分とする薄膜である上記(1)に記載の薄膜付き透明基板。
(3)前記透明導電膜の厚さが50〜500nmである上記(1)又は(2)に記載の薄膜付き透明基板。
(4)前記透明導電膜は、波長が1064nmのレーザ光でパターニング可能である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の薄膜付き透明基板。
【0012】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の薄膜付き透明基板に、波長が1064nmのレーザ光を照射して前記透明基板上に回路パターンを形成する、回路パターン付き透明基板の製造方法。
(6)前記透明基板上に透明導電膜を成膜の後、アニーリング処理した上記(1)〜(4)のいずれかに記載の薄膜付き透明基板である、上記(5)に記載の回路パターン付き透明基板の製造方法。
(7)上記(5)又は(6)に記載の回路パターン付き透明基板の製造方法により製造される回路パターン付き透明基板。
(8)上記(1)〜(4)、及び(7)のいずれかに記載の薄膜付き透明基板を用いた電子回路装置。
(9)上記(1)〜(4)、及び(7)のいずれかに記載の薄膜付き透明基板を用いたプラズマディスプレイパネル。
(10)上記(5)又は(6)に記載の回路パターン付き透明基板の製造方法により製造される電子回路装置の製造方法。
(11)上記(5)又は(6)に記載の回路パターン付き透明基板の製造方法により製造されるプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フォトリソグラフィ・エッチングプロセス等と比較して、工程数を少なくして製造コストを抑制することができ、大量の現像液やエッチング剤等の薬液及び洗浄液を使用せず製造コスト及び環境負荷を抑制することができ、従来、エッチング剤等によるエッチングが困難であった材料を用いてパターニングすることも可能となる。
また、パターニング時の高いレーザ出力が不要であるため、YAGレーザ光の照射による透明基板の損傷を少なくして、パターニングすることができる。
【0014】
なお、本発明において「パターニングが可能」、「パターニングすることができる」及びそれと同義の文言は、YAGレーザ光を照射して透明基板上の酸化錫を主成分とする薄膜の一部を前記透明基板上から除去してパターンを形成した場合において、酸化錫を主成分とする薄膜のYAGレーザ光を照射した部分と、照射していない部分とを、顕微鏡下(150倍)で区別できること、特に、プラズマディスプレイ用に電極パターンを形成する場合には、その電極間の絶縁性が5MΩ以上であることを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、透明基板上にキャリア濃度が5×1019/cm以上である透明導電膜、特に酸化錫を主成分とする薄膜を有する薄膜付き透明基板に、波長が1064nmのレーザ光を照射して前記透明基板上に回路パターンを形成する、回路パターン付き透明基板の製造方法である。
このような製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0016】
また、このような、透明基板上にキャリア濃度が5×1019/cm以上である酸化錫を主成分とする薄膜を有する薄膜付き透明基板を、以下では「本発明の薄膜付き透明基板」ともいう。
さらに、酸化錫を主成分とする薄膜を、以下では「酸化錫薄膜」ともいう。
【0017】
始めに本発明の薄膜付き透明基板について説明する。
本発明の薄膜付き透明基板において、キャリア濃度とは透明導電膜、特に酸化錫薄膜中の自由電子の濃度であり、次の式(i)により算出される値(n)である。前記透明導電膜としては、酸化錫薄膜やITO薄膜が例示される。
【0018】
式(i) : n=1/(ρ・μ・e)
n:キャリア濃度(1/cm
ρ:比抵抗(Ω・cm)
μ:移動度(cm/V・s)
e:電荷(電気素量)
【0019】
ここで、比抵抗の値は、Van der Pauw の4端子法(L. J. Van der Pauw ; Philips Tech., 20, 220 (1958/1959)参照)により測定した値である。
また、移動度の値は、ホール効果測定法により測定した値である。
【0020】
本発明の薄膜付き透明基板において、透明基板上の酸化錫薄膜は、このような方法により求めたキャリア濃度が5×1019/cm以上である。このキャリア濃度は1×1020/cm以上であることが好ましい。
【0021】
前記酸化錫薄膜中のキャリア濃度がこのような範囲の場合に、YAGレーザ光の発振波長である1064nmにおける前記酸化錫薄膜のレーザ光の吸収率が高まる。従って、エネルギー密度が低い(例えば30J/cm以下)パルスYAGレーザ光を短時間(例えば、パルス幅10nsec以上で、1ショット以上、好ましくはパルス幅40nsecで1ショット)照射した場合であっても、前記酸化錫薄膜はアブレーション現象が生じるのでパターニングが可能になる。さらに、このようなレーザ光であれば透明基板の損傷は非常に少ない。なお、レーザ光の波長は、1064nmのみならず、赤外光であれば特に限定されない。
【0022】
透明導電膜(酸化錫薄膜)の赤外光域での振舞いは、膜中のキャリア(伝導)電子が重要な役割を果たす。すなわち、赤外光と伝導電子の相互作用の結果、キャリア(伝導)電子密度に対応した波長において共鳴による吸収を生じる。その吸収ピークは、キャリア電子密度が増えると、短波長側にシフトする。以下、この現象を詳細に説明する。
【0023】
導電体をイオンと自由電子からなる一種のプラズマ状態と考え、電場中でのイオンの分極と自由電子の運動を古典的に扱ったDrudeの考察(日本学術振興会 透明酸化物光・電子材料第166委員会編:透明導電膜の技術、オーム社(1999)参照)によれば、導電体の複素誘電率εは、ε=ε−iεとなる。ここで、
ε = ε − (ne/ε)(τ/ωτ+1) … (i)
ε = (ne/ε)(τ/ω(ωτ+1)) … (ii)
であり、εはイオン場の誘電率、εは真空の誘電率、mは、自由電子の有効質量、ωは入射電磁波の周波数、τは緩和時間であり、mμ/eで表される。
【0024】
ここで、入射電磁波の周波数ω=ωである時、ε=0であるとすると、この周波数ω(=2πc/λ)で電磁波の共鳴吸収が起きる。すなわち、導電体は
λ = 2πc(ne/(εε−(1/τ)))−1/2 … (iii)
の入射光波長で吸収ピークを持つ。cは、光の速度である。
(iii)式より吸収ピークλは、キャリア濃度nの−1/2乗に比例して変化することが理解できる。
【0025】
酸化錫薄膜においては、そのピークはおおよそ波長2μm以上にあり、YAGレーザ波長は吸収ピークの裾野に当たる。従って、YAGレーザを用いたレーザパターニングにおいて、酸化錫薄膜を確実に除去し、かつ透明基板にはダメージを与えないように、酸化錫薄膜の吸収特性を再現性良く、最適化する必要がある。そのためには、(iii)式により膜中のキャリア濃度を最適化すれば良いことを見出したものである。
【0026】
また、前記酸化錫薄膜の厚さは50〜500nmであることが好ましく、反射性能を良好とできる点で230〜300nmであることがより好ましい。
前記酸化錫薄膜の厚さがこのような範囲の場合に、YAGレーザ光の発振波長である1064nmにおける前記酸化錫薄膜の反射を抑制することができ、さらに、レーザ光を効率よく吸収させることができる。従って、エネルギー密度が、より低いYAGレーザ光を照射した場合であってもパターニングすることができる。
以上のように、酸化錫薄膜のキャリア濃度の最適化と膜厚の最適化によって、本発明の目的である確実で効率の良いレーザパターニング可能な酸化錫薄膜付き透明基板を提供できる。
【0027】
また、前記酸化錫薄膜は酸化錫を主成分とする薄膜である。主成分とは前記酸化錫薄膜中に、SnをSnO換算で膜中に85質量%以上含有することを意味する。
この含有率は、例えば、蛍光X線分析法や酸化錫薄膜を溶液に溶かし、プラズマ発光などを用いて決定することができる。
【0028】
また、前記酸化錫薄膜はTaをTa換算で膜中に3〜15質量%含有することが好ましい。この含有率は5〜10質量%であることがさらに好ましい。
このような範囲のTaを含有すれば、前記酸化錫薄膜中のキャリア濃度が好ましい範囲となりやすい。
【0029】
また、前記酸化錫薄膜はSbをSb換算で膜中に3〜15質量%含有することが好ましい。この含有率は4〜10質量%であることがさらに好ましい。
このような範囲のSbを含有すれば、前記酸化錫薄膜中のキャリア濃度が好ましい範囲となりやすい。
【0030】
さらに、前記酸化錫薄膜はFを0.01〜4mol%膜中に含有することが好ましい。
このような範囲のFを含有すれば、前記酸化錫薄膜中のキャリア濃度が好ましい範囲となりやすい。
【0031】
このように前記酸化錫薄膜は酸化錫を主成分とし、Ta、Sb、F及びその化合物(酸化物等)を好ましく含有するが、本発明の効果を奏する範囲においてその他の成分を含有してもよい。例えば、Nbなどの5価の酸化物を形成する元素を、M換算(Mは5価の酸化物を形成する元素)で膜中に5質量%以下程度含有してもよい。
【0032】
本発明の薄膜付き透明基板は、このような酸化錫薄膜を透明基板上に有する薄膜付き透明基板である。
ここで、透明基板とは、YAGレーザ光を透過する材料(透過率が80%以上の材料)で構成されていれば特に限定されない。例えば、ガラス基板を挙げることができる。
また、その厚さや大きさも特に限定されない。例えば、1〜3mm程度のガラス基板であれば、プラズマディスプレイパネル(PDP)用として好ましく用いることができる。
【0033】
次に、本発明の製造方法において、上記のような本発明の薄膜付き透明基板を製造する方法について説明する。
本発明の製造方法において、本発明の薄膜付き透明基板を製造する方法は特に限定されず通常の方法で行うことができ、気相蒸着法を好ましく例示することができる。気相蒸着法としては、物理蒸着法(PVD)として真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、レーザアブレーション法等が挙げられる。また、化学蒸着法(CVD)として熱CVD、プラズマCVD等が挙げられる。このような中でも、スパッタリング法及びイオンプレーティング法は精度良く膜厚を制御できる点で好ましい。
【0034】
例えば、スパッタリング法により透明基板上に酸化錫薄膜を形成するには、カソード側に錫又は酸化錫のターゲットを設置し、1〜10−2Pa程度の反応雰囲気ガス中で電極間にグロー放電を起こし、この反応雰囲気ガスをイオン化させ、ターゲットから錫等を叩き出してアノード側に設置した透明基板上に酸化錫を被覆する方法が挙げられる。ここで、酸化錫薄膜にTaやSbを含有させる場合は、ターゲットにこれら又はこれらの酸化物を混合すればよい。また、反応雰囲気ガスは、アルゴン等の不活性ガスや、酸素を混合したガスであってもよい。
ターゲットの酸化度、スパッタリングを行う反応雰囲気ガス中の酸素濃度(酸素分圧)、薄膜形成速度(蒸着速度)、および基板温度を主に調整することにより、透明基板上に形成される酸化錫薄膜の酸化度が変化し、キャリア濃度も変化する。
【0035】
また、本発明の薄膜付き透明基板はアニーリング処理して製造することが好ましく、気相蒸着を行った後に、さらにアニーリング処理して製造することがさらに好ましい。
本発明の薄膜付き透明基板は、アニーリング処理することにより、透明基板上に形成された酸化錫薄膜の酸化度が変化し、キャリア濃度も変化する。その結果、YAGレーザ光の発振波長である1064nmにおけるレーザ光の吸収率を最適化でき、再現性と効率の高いパターニングが可能となる。
アニーリング処理の具体的な方法としては、上記薄膜付き基板を300℃から550℃に加熱しながら、大気中、酸素中、あるいは窒素雰囲気中でアニールするという方法を挙げることができる。
【0036】
本発明の製造方法では、上記のような方法で製造した本発明の薄膜付き透明基板に、波長が1064nmのYAGレーザ光を照射してパターニングを行う。
本発明の製造方法において、本発明の薄膜付き透明基板にYAGレーザ光を照射して、パターンを形成する方法は特に限定されない。任意の開口部を有するマスクを介して、任意のエネルギーを有し波長が1064nmであるYAGレーザ光を、本発明の薄膜付き透明基板の主面へ照射すればよい。YAGレーザ光の照射面は透明基板の薄膜が付いた面であっても、反対側の面であってよい。そして、YAGレーザ光の照射により酸化錫薄膜の一部を前記透明基板上から除去し、マスクの開口部と同形状のパターンを前記透明基板上に形成することができる。
【0037】
従来の製造方法により製造した回路パターン付き透明基板では、酸化錫薄膜の特性制御を主に可視光透過率と抵抗値の管理で行なっていたため、YAGレーザ光を照射してパターニングを行なった場合、再現性良くパターニングをすることができず、さらに高いレーザーパワーが必要であり、ガラス等の透明基板に損傷が生じる場合があった。他方、本発明の製造方法により製造した回路パターン付き透明基板は、透明導電膜のキャリア濃度というレーザ光の吸収特性を直接決定するパラメータを最適化、管理できるために、再現性よく、しかもより低いレーザパワー効率よくパターニングができる。また、その結果、過剰なレーザパワー照射による透明基板の損傷が激減できる等の利点がある。
【0038】
本発明の製造方法において、本発明の薄膜付き透明基板の好ましい態様としては、例えば、TaをTa換算で3〜15質量%含有し、キャリア濃度が5×1019/cm以上であり、厚さが50〜500nmである酸化錫薄膜を透明基板上に有するものが挙げられる。
また、例えば、SbをSb換算で3〜15質量%含有し、キャリア濃度が5×1019/cm以上であり、厚さが50〜500nmである酸化錫薄膜を透明基板上に有するものが挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
<サンプル>
(実施例1〜4および比較例1〜4)
40mm角で厚さ2.8mmのガラス基板(PD200、旭硝子社製)を用意し、次に示す方法により酸化錫薄膜をその表面に形成した。
Ta、Sb又はFを添加していないSnO焼結体、又はTaを全体として5質量%添加したSnO焼結体を蒸着原料とし、イオンプレーティング法によって、成膜時の酸素分圧と成膜速度を変化させ酸化錫薄膜を成膜した。形成された膜の組成は、焼結体の組成と同等であった。
【0041】
(実施例5)
40mm角で厚さ2.8mmのガラス基板(PD200、旭硝子社製)を用意し、次に示す方法によりITO薄膜をその表面に形成した。
酸化インジウムにSnOを全体として10質量%添加したITO焼成ターゲットを用い、スパッタリング法により成膜した。形成された膜の組成は、焼結体の組成と同等であった。
【0042】
実施例1〜5、及び比較例1〜4の各々のサンプルの膜厚(D[nm])、成膜時酸素分圧成膜レート(PO2/D[Pa/(Å・sec)])、キャリア濃度(n[1/cm])、レーザエネルギー(E[J/cm])を第1表に示す。なお、成膜時酸素分圧成膜レート(PO2/D)とは、成膜時の酸素分圧と成膜速度との比をいう。
キャリア濃度は、移動度の値をホール効果測定法により測定し、式(i)により求めた。
【0043】
また、これら実施例及び比較例の成膜時酸素分圧成膜レートとキャリア濃度との関係を図1に示す。なお、図1における丸で囲った点は、パターン形成が可能であった膜のデータを意味する。
【0044】
<パターン形成>
上記方法で成膜したサンプルをPower lase社製Nd:YAG laser、AO2 laser(発振波長:1064nm)とSpectron社製Nd:YAG laser、SL401 laser(発振波長:1064nm)を用いてパターン形成を行った。パルス幅は、実施例1〜4及び比較例1〜4については84nsec、実施例5については40nsecとした。
【0045】
レーザの基本構成を図2に示す。発振器1から照射されたレーザはビームシェイパー2、ホモジナイザー3、プロジェクションマスク4、ミラー5、プロジェクションレンズ6を経て、サンプル7に直接照射される。ここでプロジェクションマスク4は、一部を除き、加工形状を評価できプラズマディスプレイ用いられているT-bar形状とした。
【0046】
【表1】

【0047】
<実施例1〜5>
第1表に示したように、実施例1〜4は、透明基板上にキャリア濃度が5×1019/cm以上である酸化錫薄膜を有する薄膜付き透明基板であり、10J/cm程度の比較的低いエネルギーのレーザ光で加工することができた(第1表においては、「加工結果」の欄にレーザ光のエネルギー(J/cm)を示した)。
これらのパターンの上面写真(顕微鏡写真)を図3に示す。
実施例1の上面写真が図3の(a)であり、実施例2の上面写真が図3の(b)であり、実施例3の上面写真が図3の(c)であり、実施例4の上面写真が図3の(d)であり、実施例5の上面写真が図3の(e)である。
また、実施例1〜5の薄膜付き基板を電極として用いても、PDPとして問題は生じない。
【0048】
<比較例1〜4>
第1表に示したように、比較例1〜4は、透明基板上にキャリア濃度が5×1019/cm未満である酸化錫薄膜を有する薄膜付き透明基板であり、10J/cm以下、特に30J/cm以下のエネルギーのレーザ光でも加工することができなかった(第1表においては、「×」で示した)。
これらのパターンの上面写真(顕微鏡写真)を図4に示す。
比較例3の上面写真が図4の(a)である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
上記実施例のとおり、キャリア濃度を高く形成した透明導電膜は、低いエネルギのレーザ光でパターニングを行うことができ有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本発明の実施例及び比較例のキャリア濃度を示す図である。
【図2】図2は、実施例で用いたレーザの基本構成の概略図である。
【図3】図3(a)〜(e)は、本発明の薄膜付き透明基板の実施例の上面写真(顕微鏡写真)である。
【図4】図4(a)は、本発明の薄膜付き透明基板の比較例の上面写真(顕微鏡写真)である。
【符号の説明】
【0051】
1 発振器
2 ビームシェイパー
3 ホモジナイザー
4 プロジェクションマスク
5 ミラー
6 プロジェクションレンズ
7 サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上にキャリア濃度が5×1019/cm以上である透明導電膜を有する薄膜付き透明基板。
【請求項2】
前記透明導電膜が酸化錫を主成分とする薄膜である請求項1に記載の薄膜付き透明基板。
【請求項3】
前記透明導電膜の厚さが50〜500nmである請求項1又は2に記載の薄膜付き透明基板。
【請求項4】
前記透明導電膜は、波長が1064nmのレーザ光でパターニング可能である請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜付き透明基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の薄膜付き透明基板に、波長が1064nmのレーザ光を照射して前記透明基板上に回路パターンを形成する、回路パターン付き透明基板の製造方法。
【請求項6】
前記透明基板上に透明導電膜を成膜の後、アニーリング処理した請求項1〜4のいずれかに記載の薄膜付き透明基板である、請求項5に記載の回路パターン付き透明基板の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の回路パターン付き透明基板の製造方法により製造される回路パターン付き透明基板。
【請求項8】
請求項1〜4、及び7のいずれかに記載の薄膜付き透明基板を用いた電子回路装置。
【請求項9】
請求項1〜4、及び7のいずれかに記載の薄膜付き透明基板を用いたプラズマディスプレイパネル。
【請求項10】
請求項5又は6に記載の回路パターン付き透明基板の製造方法により製造される電子回路装置の製造方法。
【請求項11】
請求項5又は6に記載の回路パターン付き透明基板の製造方法により製造されるプラズマディスプレイパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−123076(P2007−123076A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314139(P2005−314139)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】