説明

電子検出装置および電子検出方法

【目的】本発明は、電子検出装置および電子検出方法に関し、サンプルからの電子をほぼ完全に検出すると共に、チャネルによる増倍飽和による影響を低減して大きな入力電流まで比例した出力電流の検出することを目的とする。
【構成】電子を衝突させて2次電子を放出して増倍する第1の電子増倍手段と、第1の電子増倍手段に電子を加速して集束し衝突させる電圧を印加する第1の電圧印加手段と、第1の電子増倍手段より増倍されて放出された2次電子を衝突させて2次電子を放出して増倍する第2の電子増倍手段と、第2の電子増倍手段に第1の電子増倍手段から放出された電子を加速して集束し衝突させる電圧を印加する第2の電圧印加手段と、第2の電子増倍手段により増倍されて放出された2次電子を衝突させて電流を検出するアノードと、アノードに第2の電子増倍手段から放出された電子を加速して衝突させる電圧を印加する第3の電圧印加手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプルからの電子を増倍して検出する電子検出装置および電子検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、走査型顕微鏡では2次電子等を検出するために種々の電子検出器が利用されている。その中で、画像に影が出来ないなどの利点のために、円環状マルチチャンネルプレート(MCP)が利用されている。
【0003】
MCPは拡大観察するとハチの巣のような構造を持ち、4から10ミクロン程度の円形開口が多数設けられており、その中に電子を増倍するためのチャンネルが形成されている。チャンネルの表面には高効率電子放出材料がコーティングされている。開口部からチャンネルに入射された電子は、チャンネル内部にて加速電界(加速電圧)で加速され、それぞれのチャンネル表面に衝突しながら大量の2次電子を発生し、それを繰り返すことでネズミ算式に電子数が増倍する。
【0004】
1枚のMCPには最大1kV程度の電圧を印加する。この電圧はMCPを構成するガラスが溶けてしまわない程度の電圧に設定されている。この印加電圧により繰り返し2次電子放出を行い、1枚のMCPを用いることで、最大1000倍程度の電子数増倍を行うことが出来る。増倍された電子をさらに別のMCPに通すことでさらに増倍することも出来る。例えば、2枚利用すれば原理的には1000000程度の増倍を行うことが出来る。つまり、サンプルの表面の1個の電子は百万個に増倍することが可能である。MCPによる電子数増倍は2次電子の発生によって行われ、本質的にノイズを発生しないため、極めて電気的SN比の高い信号を得ることが出来る。
【0005】
また、MCPは1mm以下と非常に薄いため、電子が増倍される過程で移動する距離が短く、GHzを超える周波数応答を持つ。増倍された電子はアノード電極に衝突し、電子数に比例した電流に変換されて出力される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の種々の利点を有するMCPであるが、チャンネル間にはチャンネルを分離するための側壁があるため、開口部に向かってきた電子の一部分は壁に当たり、チャンネル(開口部)には入らない。チャンネルの壁は通常Ni等の低抵抗金属で出来ていて、MCPに電圧を加えるための電極と成っている。そのため、そこに当たった電子は吸収されアースされてしまい、信号が失われる。従って、従来のMCPは原理的に100%の効率で電子を検出することが困難という問題があった。
【0007】
また、電子顕微鏡が形成する画像(2次電子画像)は、細く絞った1次電子をサンプル表面に照射しつつ平面走査して放出された2次電子の強度を検出することによって得られる。1次電子ビームを照射することによってサンプル表面で発生した2次電子は、それぞれ試料上の固有の位置における2次電子発生確率情報を有する。これらを100%利用することで、サンプル表面状態を再現することが出来る。発生した2次電子の情報を全部利用するためにはサンプル表面で発生した電子を100%検出する必要がある。しかしながら、実在のMCPの開口率は精々60%程度であるため、おおよそ半分の電子の持つ固有の情報は利用できない状態にある。サンプル表面情報を完全に再現するためには、100%効率で電子が検出出来る場合の2倍以上の1次電子ビームをサンプルに照射して余分に表面から2次電子を発生させる必要である。このことは、1次電子ビーム装置は2倍以上に余分の1次電子ビームを照射する必要が生じ、かつ、サンプル表面状態には2倍以上の電子(1次電子、2次電子など)が蓄積することに成り、チャージアップなどの種々の不具合が生じるという問題があった。
【0008】
また、現実の電子顕微鏡にMCPを適用した場合、サンプル表面で生じた2次電子の軌道は1点に集まる性質があるため、MCPの一部分にしか2次電子が照射されない。非常に小さな電流が入力される場合は、開口の損失問題を除けば、入力され得た2次電子数は所望の電子数に増倍することが出来る。しかしながら、入射電流が多くなると、同時刻に複数のチャンネルに入射される2次電子の確率が増大し、あるチャンネルでは増倍が出来ても他のチャンネルでは増倍が不十分(飽和による増倍が不十分など)になるという増倍欠損あるいは数え落とし現象が起こるという問題があった。
【0009】
この現象により、MCPを構成するチャンネル全体で増倍できる最大の電流量が決まっているためにおこる飽和現象で、大電流を入力してもそれに比例した出力電流が出なくなるという問題があった。
【0010】
また、一点に電子が集中して入射されるため、MCPの一部分だけが酷使される状態となり、寿命が短くなることも起こるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記問題点を解決するため、サンプルからの電子(サンプルから放出、サンプルで反射、サンプルの表面で反転した電子)をほぼ完全に検出すると共に、あるチャネルによる増倍飽和による影響を低減して大きな入力電流まで比例した出力電流の検出を実現することを目的とする。
【0012】
本発明は、そのために、サンプルからの電子を増倍して検出する電子検出装置において、サンプルからの電子を衝突させて2次電子を放出して増倍する第1の電子増倍手段と、第1の電子増倍手段にサンプルからの電子を加速して集束し衝突させる電圧を印加する第1の電圧印加手段と、第1の電子増倍手段より増倍されて放出された2次電子を衝突させて2次電子を放出して増倍する第2の電子増倍手段と、第2の電子増倍手段に第1の電子増倍手段から放出された電子を加速して集束し衝突させる電圧を印加する第2の電圧印加手段と、第2の電子増倍手段により増倍されて放出された2次電子を衝突させて電流を検出するアノードと、アノードに第2の電子増倍手段から放出された電子を加速して衝突させる電圧を印加する第3の電圧印加手段とを備える。
【0013】
この際、サンプルからの電子を、サンプルに1次電子を細く絞って照射する磁界型の対物レンズの軸上磁界により、軸上を螺旋させて第1の電圧印加手段により正の電圧の印加された第1の電子増倍手段に向けて走行させ、第1の電子増倍手段に衝突させて2次電子を放出させて増倍するようにしている。
【0014】
また、第1の電子増倍手段は、電子が衝突したときに1以上の2次電子を放出する物質を形成あるいは塗布するようにしている。
【0015】
また、第1の電子増倍手段は、サンプルからの加速された電子の進行方向に向かって、凹型あるいは凸型に形成して凹型の内面あるいは凸型の外面に電子を衝突させて増倍するようにしている。
【0016】
また、第1の電子増倍手段、第2の電子増倍手段、およびアノードは、中心部分に、サンプルに細く絞って照射する1次電子が通過する孔を設けるようにしている。
【0017】
また、第2の電子増倍手段は、微小な多数の孔を設け、孔内に入射した電子が孔の内壁に衝突することを繰り返して増倍した後、アノードに向けて走行するようにしている。
【0018】
また、第1の電子増倍手段および第2の電子増倍手段は、電子の入射部分から出射部分にいたる間に電界を徐々に高くし、放出された2次電子が繰り返し衝突するように形成するようにしている。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、サンプルからの電子をほぼ完全に検出すると共に、あるチャネルによる増倍飽和による影響を低減して大きな入力電流まで比例した出力電流の検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、サンプルからの電子をほぼ完全に検出すると共に、あるチャネルによる増倍飽和による影響を低減して大きな入力電流まで比例した出力電流の検出することを実現した。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明の1実施例構造図を示す。
【0022】
図1の(a)は構造図を示し、図1の(b)は第1の電子増倍装置2、第2の電子増倍装置3を構成する開口部4の入射部分、出射部分、アノード5、およびリペラー電極7に印加する電圧V1、V2、V3、V4、V5をそれぞれ示す。
【0023】
ここで、図1の(a)は、センター部分(光軸上)に孔を設けて当該孔に円筒状のリペラー電極7を配置し、図示外の磁界型の対物レンズで、1次電子ビームを左から右方向に通過させて細く絞って左側の図示外のサンプル1(図2を参照)に照射しつつ平面走査し、そのときに放出された2次電子を左から右方向に加速しつつ走行させ(磁界型対物レンズの磁界により軸上を螺旋させながら加速しつつ走行させ)、当該リペラー電極7に適切な電圧を印加して周辺に設けた第1の電子増倍装置2に照射(衝突)させて2次電子を増倍するように構成した構造例を示す。
【0024】
更に、詳細に説明すれば、走査型顕微鏡では、1次電子ビームをサンプル1に対して垂直に照射し、かつ、サンプル1で生じた電子(2次電子、反射電子、反転電子)を高効率回収するために、中心部(軸上)に穴の開いた検出器を利用することが行われる。1次電子ビームは図1の中心の穴を通過して左から右方向に走行して図示外のサンプル1(図2参照)に照射する。サンプル1の表面にて発生した電子(2次電子、反射電子、反転電子)は何もしないとこの穴の部分に集まり、当該穴を通過してしまい、電子検出装置(図1の第1の電子増倍装置2)に導かれないので、中心部にはリペラー電極7を設けて適切な正あるいは負の電圧を加え、サンプル1の表面で生じた電子が穴を抜けて行ってしまわないように追い返えしたり引きつけたりし、当該穴の周辺にリング状に配置した第1の電子増倍装置2に衝突させて2次電子を増倍するように構成する。
【0025】
図1の(a)において、サンプル1からの2次電子は、図示外のサンプル1(図2参照)からの電子(放出、反射、反転した電子)の例であって、第1の電子増倍装置2に印加された電圧(正の電圧V1、図1の(b)参照)により加速されたものである。
【0026】
第1の電子増倍装置2は、サンプル1からの電子を加速して衝突させる正の電圧V1を印加するものであって、電子が衝突されると1以上の2次電子を放出して増倍するためのものである。
【0027】
ここで、第1の電子増倍装置2は、リペラー電極7と接触すると同じ電位となり、第1の電子増倍装置2に電子が届かなくなり、効果を発揮しなくなるので、それを防止するために、リペラー電極7に電気的に接触しないように、電気絶縁して周辺に配置する。当該第1の電子増倍装置2の電極は電子の軌道を解析してもっとも電子が集まる場所に配置することが望ましい。例えばリング状に配置することが望ましい。
【0028】
第2の電子増倍装置3は、第1の電子増倍装置2により増倍された2次電子を、更に増倍するものであって、入力部と出力部との間に図1の(b)に記載した電圧V2と電圧V3を印加して2次電子を繰り返し衝突、放出させて増倍した後、右側からアノード5に向けて放出されるものである。第2の電子増倍装置3は、いわゆるマルチチャネルプレート(MCP)といわれる,多数の微細な穴(チャネル)から構成される2次電子増倍装置である。
【0029】
開口部4は、第2の電子増倍装置3に設けた開口部(チャネル)であって、当該開口部4の内部に入射した2次電子が増倍され、当該開口部4と隣接する開口部4との間の部分に衝突した2次電子は吸収されてしまい、増倍対象とはならないものである。通常、開口部4の全体の対する割合は、60%位である。
【0030】
アノード5は、第2の電子増倍装置3によって増倍された2次電子を衝突させ、電流として検出するものであって、図1の(b)の電圧V4を印加するものであり、当該アノード5で検出された電流に相当する電圧を外部に出力(出力信号)として送出するものである。
【0031】
センターホール6は、軸上の穴であって、ここでは、リペラー電極7を配置する部分である。
【0032】
リペラー電極7は、サンプル1からの電子(2次電子、反射電子、反転電子)が右側にそのまま通過することなく、第1の電子増倍装置2に衝突するように適正な電圧V5(正あるいは負の電圧)を印加するものである。
【0033】
尚、アノードは必要に応じて電気的あるいは機械的に分割しても良い。また、第1の電子増倍装置2、第2の電子増倍装置3も、電気的あるいは機械的に分割しても構わないし、互いに独立動作する複数の電子増倍装置の集合体であっても構わない。
【0034】
図1について、更に詳細に説明すると、
(1)サンプル1の表面に1次電子ビームが照射されるとサンプル1の表面に2次電子等が生成する。この2次電子等が走査型顕微鏡における画像形成情報の全てを含んでいる。サンプル1の表面で生成した2次電子は電界によって第1の電子増倍装置2に引きつけられる。第1の電子増倍装置2が有効に働くためには、数10eV以上のエネルギーを電子が有していることが必要である。そのため、入射する電子のエネルギーを適切な値にするために数10V以上の電圧V1を当該第1の電子増倍装置2に印加し、当該電圧V1により引きつけられた電子は当該第1の電子増倍装置2に衝突して約2倍以上に増倍する。
【0035】
(2)第1の電子増倍装置2としては、良く知られているようにBaO、MgF等の高2次電子放出材料の薄膜を利用する。2次電子が出てきやすいように、数から数10nm程度の薄膜が望ましく、その後ろには導電体の薄膜があり、電子を供給できることが望ましい。これらの材料にある閾値以上のエネルギーを有した電子を照射すると、入射電子数の2倍から5倍量の2次電子が生じ、もとの電子数は2倍から5倍に増倍される。例えば100eV程度のエネルギーを有するように電位勾配を作り、薄膜に電子を衝突させることが望ましい。
【0036】
(3)電子が生成する速度はピコ秒よりも小さく、時間軸に対して正確に電子数だけが増倍された状態が実現される。それぞれの電子は元の電子のコピーなので、同じ位置の情報を持っている。
【0037】
(4)電子の個数が2倍以上に増倍された後に、第2の電子増倍装置3を構成する開口部4を通過する。開口率は100%以下なので、増倍された電子の一部分が通過する。確率的にはサンプル1の表面で生じた2次電子の数は第1の電子増倍装置2により2倍以上になっているため、開口部4を通過後も、100%サンプル表面で生じた電子の情報を保持していると考えられる。開口部4を通過した電子は第2の電子数増倍装置3によって1000倍から1000000倍に増倍される。増倍された電子は最終的にアノード5に衝突し、運動エネルギーを失って電流を生じる。生じた電流を図示外の電流電圧変換回路等の電気回路、あるいはパルス検出回路にて検出することでサンプル1の表面で生じた2次電子の量あるいは電子数を検出することができる。
【0038】
(5)尚、第1の電子増倍装置2は、上述したBaO,MgFに加えて更に、5Cu−BeO,Cu−BeO6,2Ag−MgO−CS9,2Cs−Sb,10GaP−Cs20〜40等の 高2次電子放出材料を表面にコーティングした部材(金属、セラミック、プラスチック等)によって出来ており、必要によって電圧を加えられるように電圧印加手段に接続されている。増倍された電子は第2の電子増倍装置3を構成する開口部4を通過する。開口部4の縁部分に当たって一部分の電子は通過することが出来ないが、第1の電子増倍装置2によって、開口の縁に当たって損失する以上に電子数が増加されているので、当該開口部4の通過後も、サンプル1の表面で生じた電子の情報を受け継ぐ電子を100%第2の電子増倍装置3に入力することが可能となり、サンプル1の表面で発生した電子の持つ情報を欠損すること無く、検出することが出来るようになる。アノード5で電流検出に必要なコンデンサーや抵抗あるいはアンプ類は真空中に置くことによって、外部からのノイズの影響を受けることなく電流を検出できるように成る
【0039】
図1の(b)は、図1の(a)の第1の電子増倍装置2、第2の電子増倍装置3を構成する開口部4の入射部分、出射部分、アノード5、およびリペラー電極7に印加する電圧V1、V2、V3、V4、V5の例をそれぞれ模式的に示す。
【0040】
図2は、本発明の他の実施例構造図を示す。図1の(a)の第1の電子増倍装置2が2次電子の進行方向に対して凸型(先狭まり)のリング状の内面に当該2次電子を衝突させて増倍する構造に対して、当該図2は凹型(先広がり)のリング状の外面に当該2次電子を衝突させて増倍する他の実施例構造例を示す。ここで、サンプル1、第2の電子増倍装置3、開口部4、アノード5、リペラー電極7は、図1の対応するものと同じであるので、説明を省略する。
【0041】
図2において、第1の電子増倍装置2は、凹型(先広がり)のリング状の構造を有し、リング状の外面に、サンプル1からの電子を照射して増倍するものであって、センターホール6の外周に生じるいわゆる不感領域に配置したものである。
【0042】
この配置理由は、図2に示すように、第2の電子増倍装置3(例えばマルチチャンネルプレート)の穴と筒状のリペラー電極7との間には溝が存在し、不感領域がある。また、サンプル1の表面で生じた電子は磁界型の対物レンズの磁界により螺旋しながら円環状に集められてくるので、仮にその円環状の電子が不感領域に入射されてしまうと全く電子は増倍されず検出もされなくなる。それを防ぐために、図2に示したようにセンターホールの周辺部の当該溝を覆うように、第1の電子増倍装置2を設ける。センターホール型の場合は、円環状であることが望ましい。センターホールが無い場合は、点対象図形あるいは円形であることが望ましい。また、第1の電子増倍装置2によって増倍された電子がまんべんなく第2の電子増倍装置3の開口部4に分散して入射するように、開口部4の周辺に図3に示すバイアス電極41を設ける。通常、第2の電子増倍装置3であるMCPの表面には、ガラスチャンネルへ電圧を加えるための電極が蒸着等によって設けられている。本他の実施例では、さらにその上に絶縁膜を設けて、チャンネルに電圧を加えるための電極からは絶縁し、その上に電極(図3のバイアス電極41)を設ける。センターホールに設けたリペラー電極7に加える電圧V5とは異なった電圧V6(図3参照)が加えられるように、独立した電圧供給手段を有することが望ましい。同じ電圧を加えると、両側から絞られる形の電界と成るため、入射される2次電子の分布が狭い領域に押し込められる。逆にこのような電界を利用した場合には、電界を強弱に可変することで、電子が集中する位置を移動させ、第2の電子増倍装置3(例えばMCP)の寿命を延ばすことも出来る。
【0043】
円環状に収束されてきた電子はこの第1の電子増倍装置2によって2倍以上に増倍される。その後に、第2の電子増倍装置3を構成する開口部4に目がけて、電子は分散照射される。2倍以上の個数にサンプル1の表面で生じた電子は増倍されているため、開口部4の開口率が60%の場合、確率的にサンプル1の表面で生じた電子の情報を欠損すること無く、第2の電子増倍装置3に伝えられる。
【0044】
図3は、本発明の要部構造図(図2)を示す。
【0045】
図3の(a)は側面図を示し、図3の(b)は上面図を示す。ここで、第1の電子増倍装置2、第2の電子増倍装置3、リペラー電極7は、図2の対応するものと同一である。
【0046】
図3の(a)および(b)において、バイアス電極41は、上述したように、第1の電子増倍装置2によって増倍された電子がまんべんなく第2の電子増倍装置3の開口部4に分散して入射するように、開口部4の周辺に設けたバイアス電圧V6を印加するバイアス電極であって、通常、第2の電子増倍装置3であるマルチチャンネルプレートの表面にはガラスチャンネルへ電圧を加えるための電極が蒸着等によって設けられているので、さらにその上に絶縁膜を設けて、チャンネルに電圧を加えるための電極からは絶縁し、その上に電極(バイアス電極41)を設けたものである。当該バイアス電極41には、センターホールに設けたリペラー電極7に加える電圧V5とは異なった電圧V6(図3参照)が加えられるように、独立した電圧供給手段を有している。ここで、同じ電圧を加えると、両側から絞られる形の電界と成るため、入射される2次電子の分布が狭い領域に押し込められる。逆にこのような電界を利用した場合には、電界を強弱に可変することで、電子が集中する位置を移動させ、第2の電子増倍装置3(例えばMCP)の寿命を延ばすことも出来る。
【0047】
図4は、本発明の他の実施例構造図を示す。図4は、第1の電子増倍装置2としてメッシュ状の電極を利用した他の実施例を示す。開口率は90%以上と出来るだけ大きくする。表面に高2次電子放出材料をコーティングした、メッシュ電極を第2の電子増倍装置3の開口部4の手前に配置する。メッシュ状の電極の開口の側面あるいは表面に衝突して増倍した電子が第2の電子増倍装置3を構成する開口部4に上手く導かれることが重要である。メッシュ状の電極(第1の電子増倍装置2)に当たって生じた電子が全て第2の電子増倍装置を構成する開口部4に導かれるように、メッシュ状の電極にバイアス電圧を掛けて必要な電位勾配を得ることが望ましい。また、メッシュ状の電極から飛び出た電子が最も集まる場所に第2の電子増倍装置3の開口部4を配置することが望ましい。
【0048】
ここで、図4のようにセンターホールを有する場合には、軸上に配置したリペラー電極7には適切な電圧を印加し、発生した2次電子が通過しないようにしてある。電位勾配あるいは磁界型の対物レンズの磁界によって、サンプル1からの2次電子はメッシュ状の電極の表面あるいは側面に衝突し、衝突した場合には電子数が増倍される。通過した場合は増倍されない。
【0049】
図5は、本発明の他の実施例構造図を示す。図5は第2の電子増倍装置3の未開口部に高効率電子放出材料をコーティングして第1の電子増倍装置2を構成した例を示す。この例では、サンプル1の表面で発生した電子は電界により第2の電子増倍装置3へ集まってくる。集まってきた電子の一部分は第2の電子増倍装置3の開口部4に入射して、増倍される。
【0050】
一方、第2の電子増倍装置3の未開口部には高効率電子放出材料をコーティングしてあるため、そこに衝突した電子は、2個以上の電子に増倍される。増倍された電子は散らばるため、開口部4に入射するものも現れる。それにより、サンプル1の表面で発生した電子の情報は第2の電子増倍装置3に伝えられて、増倍される。このように増倍された電子は最終的にアノード5に衝突し電流に変換されたのち電気回路にて検出する。
【0051】
ここで、第1の電子増倍装置2、第2の電子増倍装置3はそれぞれ独立して電圧を印加できるようにしてあることが望ましい。
【0052】
尚、第2の電子増倍装置3の中央にセンターホールがある場合には、当該センターホールはサンプル1を照射するための1次電子ビームが通過する場所であり、センターホールの周辺部にはリペラー電極7があり、サンプル1の表面で生成した電子が穴を抜けて行かないように電界(電圧)を加える。サンプル1の表面で生じた電子は、第2の電子増倍装置3の表面に引き寄せられる。ある電子は開口部4に入射され、第2の電子増倍装置3で増倍される。一方、第1の電子増倍装置2が構成されている表面に衝突した電子は表面に設けられた高効率電子放出材料によって複数の電子に増倍される。増倍された電子は、開口部4に突入し第2の電子増倍装置3にて増倍される。増倍された電子はアノード5に衝突し、電流に変換され電気回路により検出される。
【0053】
図6は、本発明の他の実施例構造図を示す。図6の例では、2次電子増倍作用のある膜を両面に設け傾斜した薄板状の部材を多数並べていることに特徴がある。衝突した電子は部材の表あるいは裏に衝突して多くの電子を発生する。この部材は電子が発生しやすい適切な角度に傾斜しており、衝突によって発生した電子が効率よく第2の電子増倍装置3の開口部4に入射して増倍され、検出されるようにしてある。
【0054】
この部材は、厚みが薄いので、複数枚重ねることも可能であり。それぞれの部材を電気的に独立させることによって、それぞれに適切な電圧(バイアス電圧)を加えることが可能となっている。それぞれに適切な電圧を加えることで最終的に効率よく第2の電子増倍装置3の開口部4に導くことが出来る。
【0055】
図7は、本発明の要部構造図を示す。図7は複数の第2の電子増倍装置2である例えばマルチチャンネルプレート(MCP)をアライメントする方法を示す。
【0056】
図7において、MCPには数ミクロンから数十ミクロンの大きさのチャンネルと呼ばれる穴が、開いている。これらの穴は、非常に規則正しく並んでいる。光ファイバーを用いて製造されるので、ロットが同じ場合、複数のMCPには相対的には全く同じ位置に穴があいている。MCPを重ねて使用することで、より高い増倍率を得ることが出来るが、それぞれのMCPのチャンネル穴の位置がずれていると図7の(c)に示すように、第1のMCPで増倍された信号の一部分しか利用できなくなり、信号の欠損が生じる。本実施例では、図7の(b)に示すように、重ねる複数のMCPの穴を正しくアライメントすることで、信号欠損を防止できる。
【0057】
それぞれのMCPには、精密なアライメントが出来るように、アライメント用のマークを設ける。例えば、MCPの側面に複数の切り欠きを精密に設けてアライメントマークとする、あるいは、MCPのチャンネル部分には光が通るので、その一部分にアライメントマークを設けて、複数のMCPの相対位置を正確に合わせることが可能である。顕微鏡等で合わせこんだ後に仮止めすれば、位置合わせを維持出来る。
【0058】
尚、複数のMCPのアライメントを正確に合わせると、第1のMCPにて増倍された電子は、ほぼ100%第2のMCPの開口部4に入射されるため、信号欠損が起こらない。
【0059】
また、第1のMCPのチャンネル穴の大きさを、第2のMCPの穴の大きさと変えることも出来る。例えば、第2のMCPの穴を大きくすれば、第1のMCPで増倍された電子群が上手く全て第2のMCPのチャンネル(開口部4)に入力できる。逆に、非常に小さなチャンネルとして、確率的に全ての電子が第2のMCPに入力出来るようにすることも出来る。
【0060】
また、MCPには最大出力電流がある。その電流はMCPの電気抵抗値で決定される。小さな抵抗値を持つMCPの方がより大きな出力電流を取り出すことが出来る。しかしながら、MCP全体の電気抵抗値を下げると、発熱が大きく成り、MCPが溶けてしまうという不具合があり、やみくもに抵抗値を下げることは出来ない。第1のMCPの電気抵抗と第2のMCPの電気抵抗は独立に変えられるので、例えば、電子が最初に入射されるMCPの抵抗値は高くし、そこには高い電圧を印加する。これにより、初段にて1000倍以上の高い増倍率が得られる。一方、第2のMCPの電気抵抗値は低くする。印加する電圧も下げる。これにより、数10から数百倍程度の増倍を行う。このようにすると、MCPのガラスを溶かすことなく、出力可能な最大電流量を増加することが出来るようになる。
【0061】
図8は、本発明の他の実施例構造図(傘の内側で増倍する例)を示す。図8は、図1に対応するものであって、第1の電子増倍装置2の傘の内側の部分に沿って図示の点線で示すように電界を発生させ(入口の部分と、出口の部分とで図示の点線で示すように電界を発生させ)、電子が衝突して放出することを繰り返させて増倍する構造としたものである。電界の発生は、サンプル1と第1の電子増倍装置2の入口との間に電圧V11、当該入口と出口との間に電圧V12、出口と第2の電子増倍装置3との間に電圧V13を印加し、図示の点線で示す電界を発生させる。
【0062】
以上によって、第1の電子増倍装置2で数倍から数百倍程度の電子の増倍を行うことが可能となる。
【0063】
図9は、本発明の他の実施例構造図(傘の外側で増倍する例)を示す。図9は、図2に対応するものであって、第1の電子増倍装置2の傘の外側の部分に沿って図示の点線で示すように電界を発生させ(入口の部分と、出口の部分とで図示の点線で示すように電界を発生させ)、電子が衝突して放出することを繰り返させて増倍する構造としたものである。電界の発生は、サンプル1と第1の電子増倍装置2の入口との間に電圧V11、当該入口と出口との間に電圧V12、出口と第2の電子増倍装置3との間に電圧V13を印加し、図示の点線で示す電界を発生させる。
【0064】
以上によって、第1の電子増倍装置2で数倍から数百倍程度の電子の増倍を行うことが可能となる。
【0065】
図10は、本発明の他の実施例構造図(2つの傘で増倍する例)を示す。図10は、図8と図9との2つを組み合わせたものであって、内側に配置した第1の電子増倍装置2の傘の外側の部分、更に、外側に配置した第1の電子増倍装置2の傘の内側の部分、に沿って図示の点線で示すように電界を発生させ(入口の部分と、出口の部分とで図示の点線で示すように電界を発生させ)、電子が衝突して放出することを繰り返させて増倍する構造としたものである。電界の発生は、サンプル1と第1の電子増倍装置2の入口との間に電圧V11、当該入口と出口との間に電圧V12、出口と第2の電子増倍装置3との間に電圧V13を印加し、図示の点線で示す電界を発生させる。
【0066】
以上によって、内側と外側とに設けたそれぞれの第1の電子増倍装置2で数倍から数百倍程度の電子の放出角度の広がりのある場合の増倍を行うことが可能となる。
【0067】
図11は、本発明の応用例を示す。図11は、図1から図10の第1の電子増倍装置2および第2の電子増倍装置3を有する電子検出装置を利用した応用例を示し、ここでは、走査型電子顕微鏡を測長装置として用いた場合の応用例を示す。
【0068】
図11の(a)は全体構造図を示し、図11の(b)はマスク26の上を1次電子ビームで走査する様子を示し、図11の(c)は図11の(b)の更に詳細な様子を示す。
【0069】
図11の(a)において、電子銃21は、1次電子ビームを発生するものである。
【0070】
対物レンズ22は、磁界型の対物レンズであって、1次電子ビームを細く絞ってサンプル1であるマスク26に照射するものである。
【0071】
試料室23は、XYステージ25、マスク26などを収納する真空の容器である。
【0072】
精密位置測定装置24は、XYステージ25の位置を精密に測定するものであって、例えばレーザ干渉計である。
【0073】
XYステージ25は、マスク26を搭載して、X方向およびY方向に移動させるものである。
【0074】
マスク26は、サンプルの例であって、2次電子画像を取得して測長などする対象のサンプルである。
【0075】
2次電子検出装置27は、1次電子ビームをマスク26の照射しつつ平面走査し、そのときに放出された2次電子、反射された反射電子などを検出する検出器であって、図1から図10で既述した第1の電子増倍装置2および第2の電子増倍装置3などから構成されるものである。
【0076】
図11の(b)は、図11の(a)のマスク26上を1次電子ビームが平面走査する様子を模式的に示す。ここでは、XYステージ25で横方向に走査し、図示外のビーム走査装置で縦方向に走査する様子を模式的に示す。横方向のXYステージによる走査は、端に辿りつくとステップ状にXYステージ25で縦方向に移動させた後、横方向(逆方向)にXYステージ25で走査することを繰り返す。
【0077】
図11の(c)は、図11の(b)で横方向にXYステージ25で走査するときに前回の走査と若干オーバラップするように走査する。
【0078】
以上のXYステージ25に搭載したマスク26を細く絞った1次電子ビームで照射しつつ走査するときに当該マスク26から放出された2次電子を、図1から図10で既述した第1の電子増倍装置2および第2の電子増倍装置3などによる電子検出装置で高感度(従来の2次電子増倍装置3であるMCPに比して2倍程度以上の高感度)に検出して拡大画像(2次電子画像)を高速に取得し、その画像中のパターンの測長などを行うことにより、従来に比して短時間に測長することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の1実施例構造図である。
【図2】本発明の他の実施例構造図(その1)である。
【図3】本発明の要部構造図(図2)である。
【図4】本発明の他の実施例構造図(その2)である。
【図5】本発明の他の実施例構造図(その3)である。
【図6】本発明の他の実施例構造図(その4)である。
【図7】本発明の要部構造図である。
【図8】本発明の他の実施例構造図(傘の内側で増倍する例)である。
【図9】本発明の他の実施例構造図(傘の外側で増倍する例)である。
【図10】本発明の他の実施例構造図(2つの傘で増倍する例)である。
【図11】本発明の応用例である。
【符号の説明】
【0080】
1:サンプル
2:第1の電子増倍装置
3:第2の電子増倍装置
4:開口部
41:バイアス電極
5:アノード
6:センターホール
7:リペラー電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルからの電子を増倍して検出する電子検出装置において、
前記サンプルからの電子を衝突させて2次電子を放出して増倍する第1の電子増倍手段と、
前記第1の電子増倍手段に、前記サンプルからの電子を加速して集束し衝突させる電圧を印加する第1の電圧印加手段と、
前記第1の電子増倍手段より増倍されて放出された2次電子を衝突させて2次電子を放出して増倍する第2の電子増倍手段と、
前記第2の電子増倍手段に、前記第1の電子増倍手段から放出された電子を加速して集束し衝突させる電圧を印加する第2の電圧印加手段と、
前記第2の電子増倍手段により増倍されて放出された2次電子を衝突させて電流を検出するアノードと、
前記アノードに、前記第2の電子増倍手段から放出された電子を加速して衝突させる電圧を印加する第3の電圧印加手段と
を備えたことを特徴とする電子検出装置。
【請求項2】
前記サンプルからの電子を、当該サンプルに1次電子を細く絞って照射する磁界型の対物レンズの軸上磁界により、軸上を螺旋させて前記第1の電圧印加手段により正の電圧の印加された前記第1の電子増倍手段に向けて走行させ、当該第1の電子増倍手段に衝突させて2次電子を放出させて増倍することを特徴とする請求項1記載の電子検出装置。
【請求項3】
前記第1の電子増倍手段は、電子が衝突したときに1以上の2次電子を放出する物質を形成あるいは塗布したことを特徴とする請求項1から請求項2のいずれかに記載の電子検出装置。
【請求項4】
前記第1の電子増倍手段は、前記サンプルからの加速された電子の進行方向に向かって、凹型あるいは凸型に形成して当該凹型の内面あるいは当該凸型の外面に当該電子を衝突させて増倍することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電子検出装置。
【請求項5】
前記第1の電子増倍手段、前記第2の電子増倍手段、および前記アノードは、中心部分に、前記サンプルに細く絞って照射する1次電子が通過する孔を設けたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電子検出装置。
【請求項6】
前記第2の電子増倍手段は、微小な多数の孔を設け、当該孔内に入射した電子が当該孔の内壁に衝突することを繰り返して増倍した後、前記アノードに向けて走行することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の電子検出装置。
【請求項7】
前記第1の電子増倍手段および前記第2の電子増倍手段は、電子の入射部分から出射部分にいたる間に電界を徐々に高くし、放出された2次電子が繰り返し衝突するように形成したことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の電子検出装置。
【請求項8】
前記第2の電子倍増手段は、MCPであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の電子検出装置。
【請求項9】
サンプルからの電子を増倍して検出する電子検出方法において、
前記サンプルからの電子を加速して集束し、第1の電圧印加手段により所定電圧の印加された第1の電子増倍手段に衝突させて2次電子を放出させて増倍するステップと、
前記第1の電子増倍手段より増倍されて放出された2次電子を加速して集束し、第2の電圧印加手段により所定電圧の印加された第2の電子増倍手段に衝突させて2次電子を放出させて増倍するステップと、
前記第2の電子増倍手段により増倍されて放出された2次電子をアノードに衝突させて電流を検出するステップと
を有する電子検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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