説明

電子楽器の鍵盤装置

【課題】鍵タッチ感を、鍵又は鍵域に応じて変化させるようにした電子楽器の鍵盤装置を提供する。
【解決手段】複数の白鍵本体部1、黒鍵本体部2と、各鍵の押鍵操作に連動して回動する複数の各質量体8と、複数の鍵と複数の質量体8とが並設された鍵フレーム3と、鍵フレーム3の側に配置され各質量体8が衝突することにより各質量体8の回動範囲を規制する下限ストッパ9、上限ストッパ10を有する。図1(b)に示すように音高が最も低い鍵域Aにおいては、空洞部8eaに収容されている複数の粒子12の質量を最も多くし、図1(e)に示すように音高が高い鍵域Dになるほど、複数の粒子12の質量を少なくしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子楽器の鍵盤装置に関するものであり、特に押鍵操作に連動して質量体を回動させる機構を用いたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子楽器の鍵盤装置において、押鍵操作(ストローク)に連動して質量体を回動させ、アコースティック・ピアノの鍵盤機構に似た、鍵タッチ感、すなわち、質量感及びストップ感を得るものがある。
図6は、従来の電子楽器の鍵盤装置を模式的に示す右側面図である。
図中、1は白鍵本体部、2は黒鍵本体部、61は鍵フレームである。鍵フレーム61は、鍵の長手方向の前部及び後部に段差部があり、これらの間が水平部61aとなっている。水平部61aの後方に鍵支持部61bがある。一方、水平部61aの裏面前方に質量体支持部61cがある。
白鍵本体部1,黒鍵本体部2の後端部にある鍵支点部1b,2bは、鍵支持部61bに取り付けられ、白鍵本体部1,黒鍵本体部2を揺動自在にしている。
【0003】
鍵フレーム61の段差部の前後は、鍵フレーム底板4への取付部61d,取付部61eとなる。鍵フレーム底板4は、例えば、電子楽器の下ケース(棚板)である。
取付部61dのさらに前方に垂直壁61fがあり、この垂直壁61fには、白鍵本体部1に対する鍵ガイド5が設けられている。鍵ガイド5は白鍵本体部の先端部1a近傍の下部に挿入され、その左右方向の位置規制及びローリング規制をする。一方、水平部61aに立設された鍵ガイド6は、黒鍵本体部2に対するものである。
鍵フレームの水平部61a上には、複数の鍵スイッチ4が設置され、これらに対向して、白鍵本体部1、黒鍵本体部2の上面裏側に、図示しない突部(アクチュエータ)がある。
【0004】
力伝達部1cは、白鍵本体部1の下部から水平部61aの孔61gを貫通して下方に出ている。この力伝達部1cの先端は底板を有し、この底板の上部は、鍵の長手方向に抜ける。この底板の上下面に弾性部材7(上面は見えない)が固着されている。
質量体62は、複数の白鍵本体部1,黒鍵本体部2のそれぞれに対応して設けられ、各鍵の下方において鍵の配列方向に並設されている。図示の質量体62は、白鍵本体部1に対するものであって、質量体支持部61cにより回動自在に支持され、対応する鍵の力伝達部1cを介して回動される。
【0005】
質量体62は、質量体支持部61cに支持される回動支点部62cと、この回動支点部62cの前方にあって鍵の力伝達部1cに係合する、二股の主被駆動部62a及び副被駆動部62bと、この回動支点部62cの後方に長尺の連結部62dを介して質量集中部62eを有している。連結部62dの後端は質量集中部62eの前端部上方に結合されており、連結部62d及び質量集中部62e、特に質量集中部62eは、回動時に大きな慣性モーメントを発生する。
質量集中部62eは、水平の下面部を有し、この下面部は後述する下限ストッパ9に対して均等に衝突する。質量集中部62eは、また、後端部側に傾斜した上面部を有し、この上面部は後述する上限ストッパ10に対して均等に衝突する。
【0006】
上述した主被駆動部62aと副被駆動部62bとは、力伝達部1cの底板を弾性部材7を介して挟むようにして力伝達部1cと係合している。
演奏者の押鍵操作に連動して質量体62が回動すると、質量体62の慣性モーメントに応じた反作用が白鍵本体部1を伝わることにより、演奏者の指に質量感が与えられ、演奏者が離鍵操作をすると、質量体62は自重により、ゆっくりと逆回動して図示の位置に戻る。
一方、黒鍵本体部2の力伝達部は、図示を省略しているが、力伝達部1cと紙面奥行き方向に重なる位置にある。黒鍵本体部2に対しても、同様に、質量体支持部により回動自在に支持された同様の質量体が設けられ、対応する黒鍵の力伝達部により回動される。
なお、図示を省略したが、白鍵本体部1,黒鍵本体部2と鍵フレーム61との間には復帰バネが設けられている。
【0007】
上限ストッパ(動作規制部材)10は、鍵フレームの水平部61aの裏面に配置され、質量体62が回動するときに、質量集中部62eの上面が衝突することにより、質量体62の上限位置を規制する。その際、質量集中部62eが急制動されるために、鍵を介して演奏者の指にストップ感が得られる。
下限ストッパ(動作規制部材)9は、鍵フレーム底板4に配置され、質量体62が初期状態に復帰するときに、質量集中部62eの下面が衝突することにより、質量体62の初期位置を規制する。この際も、指が鍵に触れていれば、ストップ感が得られる。
一方、下限ストッパ11は、鍵フレームの水平部61aの前方上面に配置され、押鍵操作時において、鍵スイッチ4がオンとなった後、白鍵本体部1が押し切られたときに、白鍵本体部1の左右両側面が、この下限ストッパ11に衝突することにより下限位置を規制する。
これら下限ストッパ9,上限ストッパ10,下限ストッパ11は、通常、全ての白鍵、黒鍵に共通であり、鍵の配列方向に沿って帯状に配置されている。
【0008】
これらのストッパ部材は、衝撃吸収性、消音性、及び、鍵(白鍵本体部1、黒鍵本体部2)の停止位置、及び、質量体62の停止位置の再現性の観点から、弾性復元力を備えたものが必要であり、従来、フェルト又はポリウレタン・エラストマ等の動作規制部材が使用されている。
しかし、押鍵時に動作規制部材が鍵や質量体62から衝撃を受け圧縮される際に、弾性変形が蓄積され、この弾性変形が元に戻る時に、鍵や質量体62に対して反力(リバウンドと呼ばれる)を発生させ、鍵が震えることが知られており、心地のよいストップ感が得られない。
特に、大きな押鍵圧力を受けて回動していた質量集中部62eの衝突を受ける上限ストッパ10の反力が大きい。
【0009】
これに対し、質量体の内部に閉空間を有し、この閉空間に多数の細粒錘を自由に移動可能に収納したものが知られている(特許文献2参照)。
この鍵盤装置は、上述した従来装置とは逆に、押鍵時に閉空間が鉛直下方向へと回動するものである。従って、強打鍵した押鍵開始時には、細粒錘が自由落下して慣性質量が小さくなる。質量体の移動中においては質量体に細粒錘の質量が加わり、ひきごたえ感が得られる。質量体が下限ストッパに衝突したときは、細粒錘がその衝突エネルギを減衰させるように作用することと、鍵が軽量化されたことから、指への反力が非常に小さくなる。
質量体が復帰して上限ストッパに衝突したときは、同様の原理で反力が小さくなり、バウンドすることなく静止する。
【0010】
ところで、従来、電子楽器の鍵盤装置においては、アコースティック・ピアノに近い鍵タッチ感が得られるように、鍵に割り当てられた音高又は鍵域に応じて、鍵タッチ感を異ならせるという鍵タッチのスケーリングが行われている。しかし、上述した多数の細粒錘を質量体の閉空間に収納した鍵盤装置では、このような、鍵タッチのスケーリングを実現することまでは検討されていなかった。
【特許文献1】特開平9−198037号公報
【特許文献2】特開平8−16153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、鍵の押鍵操作に連動して回動する質量体を有し、鍵タッチ感を、鍵又は鍵域に応じて変化させるようにした電子楽器の鍵盤装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、請求項1に記載の発明においては、複数の鍵と、該各鍵の押鍵操作に連動して回動する複数の各質量体と、前記複数の鍵と前記複数の質量体とが並設されたフレームと、該フレームの側に配置され前記各質量体が衝突することにより前記各質量体の回動範囲を規制する動作規制部材を有する電子楽器の鍵盤装置において、前記各質量体には、当該質量体に対応する鍵が押されることにより回動する部分に空洞部が設けられ、前記空洞部に複数の粒子が空き空間を残した状態で収容されており、前記各質量体の空洞部に収容された複数の粒子が当該質量体に与える慣性モーメントを、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとすることにより、前記各質量体の慣性モーメントが当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じて変化するようにしたものである。
各質量体の慣性モーメントがこの質量体に対応する鍵又は鍵域に応じて変化するようにしたことから、鍵タッチ感が鍵又は鍵域に応じて変化するものとなる。
なお、上述した空洞部が設けられる位置は、質量体に対応する鍵が押されたときに重力に抗して、すなわち、鉛直上方向成分を有して回動する部分であるほか、特許文献2に記載の技術のように、質量体に対応する鍵が押されたときに重力に従って、すなわち、鉛直下方向成分を有する方向に回動する部分であってもよい。
【0013】
請求項2に記載の発明においては、請求項1に記載の電子楽器の鍵盤装置において、前記各質量体の空洞部に収容された複数の粒子の質量を、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとすることにより、当該質量体の空洞部に収容された複数の粒子が当該質量体に与える慣性モーメントを、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとした。
従って、空洞部に収容する複数の粒子の質量を決めることにより、鍵タッチ感を鍵又は鍵域に応じて簡単に変化させることができる。
上述した複数の質量体の慣性モーメントが等しい場合は、当該質量体の1又は複数の部分空洞部に収容する複数の粒子の質量を決定することが容易となる。上述した複数の質量体の構造が共通である場合は、質量体構成部品を共通化することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明においては、請求項1に記載の電子楽器の鍵盤装置において、前記各質量体において、当該質量体の回動支点から当該質量体の空洞部までの距離と当該空洞部に収容された複数の粒子の質量とを、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとすることにより、当該空洞部に収容された複数の粒子が当該質量体に与える慣性モーメントを、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとした。
空洞部の位置により複数の粒子の位置が限定されるため、鍵タッチ感の再現性を確保しやすい。
上述した各質量体の空洞部に収容される複数の粒子の質量を等しくした場合は、空洞部へ複数の粒子を収容する作業が簡単になる。
【0015】
請求項4に記載の発明においては、請求項1に記載の電子楽器の鍵盤装置において、前記質量体の空洞部の底面には、当該質量体が初期位置にあるときに前記複数の粒子が溜る粒子溜りが形成されており、前記各質量体において、当該質量体の回動支点から当該質量体の粒子溜りまでの距離と当該質量体の空洞部に収容された複数の粒子の質量とを、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとすることにより、当該質量体の空洞部に収容された複数の粒子が当該質量体に与える慣性モーメントを、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとした。
質量体が初期位置にあるときに、粒子溜りの位置により、複数の粒子の位置が限定されることから、鍵タッチ感の再現性を確保できる。
上述した空洞部に収容する複数の粒子の質量を等しくした場合は、空洞部へ複数の粒子を収容する作業が簡単になる。
【0016】
請求項5に記載の発明においては、請求項1に記載の電子楽器の鍵盤装置において、前記質量体に設けられた空洞部は、複数の部分空洞部に分割されて設けられ、前記各質量体において、前記複数の粒子は、1又は複数の前記部分空洞部に収容され、前記各質量体において、当該質量体の回動支点から当該質量体の前記1又は複数の部分空洞部までの距離と当該質量体の前記1又は複数の部分空洞部のそれぞれに収容される複数の粒子の各質量とを、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとすることにより、当該質量体の部分空洞部に収容された複数の粒子が当該質量体に与える慣性モーメントを、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとした。
各質量体において、当該質量体の回動支点から各部分空洞部までの距離が異なるようにした場合は、部分空洞部の位置により複数の粒子の位置が限定されることから、鍵タッチ感の再現性を確保しやすくなる。
上述した複数の質量体の慣性モーメントが等しい場合には、当該質量体の1又は複数の部分空洞部に収容する複数の粒子の質量を決定することが容易となる。
上述した複数の質量体の構造が共通である場合には、質量体構成部品を共通化することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鍵の押鍵操作に連動して回動する質量体を有する電子楽器の鍵盤装置において、演奏者の指に感じられる鍵タッチ感、すなわち、質量感やストップ感を、鍵又は鍵域に応じて変化させることができるという効果がある。
その結果、アコースティック・ピアノに似た鍵タッチ感を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の実施形態を模式的に示す右側面図である。図中、従来構成を示す図6と同様な部分には同じ符号を付している。
図中、3は鍵フレームであり、図6に示した鍵フレーム61とほぼ同じ構成であり、3a〜3gは61a〜61gに対応する。水平部3aは図6の水平部61aよりも短く、後方段差部にはスリット3hを設けている。
図1(a)は、白鍵本体部1が押鍵されていない初期状態を示している。
図中、8は白鍵本体部1に対する質量体である。図6に示した質量体62と同様に、主被駆動部8a,副被駆動部8b、回動支点部8c、連結部8d、質量集中部8eを有している。
従って、この実施形態の電子楽器の鍵盤装置は、複数の鍵(白鍵本体部1、黒鍵本体部2)と、各鍵の押鍵操作に連動して回動する複数の各質量体8と、複数の鍵と複数の質量体8とが並設された鍵フレーム(フレーム)3と、鍵フレーム3の側に配置され各質量体8が衝突することにより各質量体8の回動範囲を規制する下限ストッパ9(動作規制部材)、上限ストッパ10(動作規制部材)を有する。
鍵フレーム3は、鍵支持部3bにおいて、白鍵本体部1,黒鍵本体部2を揺動自在に支持し、質量体支持部3cにおいて、質量体8を回動自在に支持している。
【0019】
質量集中部8eは、質量体8に対応する鍵(図示の例では、白鍵本体部1)が押されたときに、重力に抗して回動する。すなわち、鉛直上方成分を含む方向へと回動する。この質量集中部8eの部分に、空洞部8eaが設けられている。この空洞部8eaには、複数の粒子12が空き空間を残した状態で収容されている。
図中、2点鎖線x−xは、回動支点部8cと空洞部8eaの位置(略中心点)とを結ぶ、径方向(回動支点部8cからの距離が増える方向又は減る方向)であり、2点鎖線y−yは、空洞部8eaの位置(略中心点)における回動方向(上方向又は下方向)である。
【0020】
空洞部8ea内において複数の粒子12が回動方向y−yに移動可能となるように、空洞部8eaは回動方向y−yに延在する。また、複数の粒子12が回動の径方向x−xにも移動可能となるように、空洞部8eaは回動の径方向x−xに広がりを有した形状にしている。
質量集中部8eが、その外形に比例した大きな空洞部8eaを有することに関連して、その質量の減少を補うために、図6の質量集中部62eよりも外形を大きくしているが、質量体8の回動範囲(ストローク範囲)は質量体62と一致するように、連結部8dを図6の連結部62dよりも長くしている。
【0021】
連結部8dは、鍵フレーム3の後方段差部に設けられたスリット3hに挿通され、質量集中部8eは鍵フレーム3の後方に配置される。上限ストッパ10には、連結部8dの後端部近傍の上面が鉛直上方向に衝突し、下限ストッパ9には、質量集中部8eの下面が鉛直下方向に衝突する。
図示のように、連結部8dを質量体集中部8eの前端下方に結合させることにより、質量集中部8eの形状を鉛直上方向に高くしても、質量体8の上限位置における高さが抑制される。
図示の例では、質量集中部8e及び空洞部8eaの形状を、回動方向y−y、及び、回動の径方向x−xに略等しい長さにしているが、回動の径方向x−xに長くしたり、回動方向y−yに長くしたりしてもよい。
【0022】
図1(b)〜図1(e)は、上述した図1(a)から質量体8を取り出した説明図である。
図1(b)は鍵域Aにおける質量体8、図1(c)は鍵域Bにおける質量体8、図1(d)は鍵域Cにおける質量体、図1(e)は鍵域Dにおける質量体8である。鍵域Aは音高が最も低い鍵域であって、鍵域B,鍵域C,鍵域Dとなるに従って音高が高くなり、鍵域Dは音高が最も高い鍵域である。
【0023】
図1(b)を参照して、質量体集中部8eの内部構造について説明する。
空洞部8eaは外郭8ebに囲まれている。連結部8dが結合している前端上面部には導入路8ecが設けられ外郭8ebを貫通している。複数の粒子12は、この導入路8ecを内外の連絡通路として空洞部8ea内に収容され、この導入路8ecを封止部材13によって封止することにより、粒子12が外界に散逸しないようにしている。
空洞部8ea内に、粒子12が自由移動するに十分な空き空間が残るように、粒子12の収容量が調節されている。そのため、複数の粒子12は、重力により空洞部8eaの内底にほぼ一様に溜まっている。
【0024】
主被駆動部8a,副被駆動部8b,回動支点部8cは、合成樹脂等で一体化されて基部となる。この基部は、例えば、金属製の連結部8dを金型に差し込んだ状態でアウトサート成形される。
質量集中部8eは、例えば、連結部8dと一体のものである。
質量集中部8eを、特許文献1に記載の質量体のように、第1のケースと、蓋体となる第2のケースとで構成されるようにして、両者を嵌合することにより空洞部8eaを形成することができる。質量集中部8eは、また、図3を参照して説明する他の実施形態と同様に、連結部8dと一体で、かつ、空洞部となる閉領域を有した心材部に、側壁部を被着することにより形成することもできる。
粒子12は、固体物であり、球体として図示しているが、球体には限られない。外形寸法は、外形3mm以下が望ましい。特許文献2に記載されていたような、砂や鉄粒、鉛粒であってよいが、その他の金属、セラミック、プラスチックでもよい。
封止部材13としては、ネジ、栓、シーリング剤を用いることができる。
【0025】
演奏者が鍵(白鍵本体部1、黒鍵本体部2)を押し下げ始めると(押鍵開始時)、質量体8が反時計回りに回動するため、空洞部8eaが設けられた部分が重力に抗して上昇するように回動する。この空洞部8eaに収容されている複数の粒子12は重力に抗して駆動される。
その結果、粒子12に加わる重力及び空洞部8eaの内底面が粒子12に与える駆動力の反作用が、空洞部8eaの内底面に加わるから、複数の粒子12が質量体8に慣性モーメントを与える。この慣性モーメントに応じて、質量体8から鍵を介して演奏者の指に与えられる質量感が増す。鍵を押し下げる力を大きくするほど、この質量感が増す。
【0026】
アコースティック・ピアノの打弦機構においては、発音される楽音の音量バランスをとるために、低音側の鍵ほどハンマーを重くしていることから、低音側の鍵に対しては鍵タッチが重く、高音側の鍵になるに従って鍵タッチが軽くなっている。
複数の粒子12が質量体8に与える慣性モーメントを、その質量体8に対応する鍵又は鍵域に応じたものとすることにより、その質量体8の慣性モーメントが、その質量体8に対応する鍵又は鍵域に応じて所望の変化をするように設計する。その結果、鍵タッチ感が、この質量体8に対応する鍵又は鍵域に応じて所望の変化をする。
鍵タッチ感をアコースティック・ピアノに近づけるに代えて、鍵タッチ感が鍵又は鍵域に応じて独自の変化をするものとしてもよい。
【0027】
図示の例では、鍵盤装置に使用される全ての質量体8に対し、その構造を共通にしている。従って、全ての質量体8自体の慣性モーメントが等しくなっている。
各質量体8の空洞部8eaに収容された複数の粒子12の質量を、その質量体8に対応する鍵又は鍵域に応じたものとすることにより、その空洞部8eaに収容された複数の粒子12がその質量体8に与える慣性モーメントを、その質量体8に対応する鍵又は鍵域に応じたものとしている。
すなわち、図1(b)に示すように音高が最も低い鍵域Aにおいては、空洞部8eaに収容されている複数の粒子12の質量を最も多くし、図1(e)に示すように音高が高い鍵域Dになるほど、複数の粒子12の質量を少なくしている。複数の粒子12が質量体8に与える慣性モーメントは、複数の粒子12の質量に比例する。
【0028】
しかし、各質量体8において、その回動支点部8cからその空洞部8eまでの距離、形状等が、鍵又は鍵域によって異なる場合もあり得る。この場合、質量体8自体の慣性モーメントが鍵又は鍵域によって異なることになる。
このような場合は、質量体8自体の慣性モーメントに、複数の粒子12が質量体8に与える慣性モーメントを加えた質量体8の慣性モーメントが、この質量体8に対応する鍵又は鍵域に応じて所望の変化をするうように設計する。
上述した説明では、鍵盤の鍵域を鍵域A〜Dに分割していたが、オクターブ単位で分割するなど、任意の鍵域に分割してもよい。また、鍵域毎に、複数の粒子12の質量を決定することに代えて、1個の鍵毎に粒子12の質量を決定してもよい。
粒子12の質量を変えるには、例えば、収容する粒子12の総個数を変えたり、又は、粒子12の素材の比重を変えたりすればよく、これらの方法を組み合わせてもよい。
【0029】
図2は、図1(d)に示した空洞部8ea内部の粒子分布を模式的に示す縦断面図である。
図2(a)は、図1(d)に示した鍵域Cに属する質量体8において、その初期状態における粒子分布の説明図である。
図2(b)は、白鍵本体部1を押し下げて、質量体8が回動している途中の状態における粒子分布の説明図である。
質量体8が回動する過程において、連結部8d及び質量集中部8eの慣性モーメントに応じた質量感が白鍵本体部1から演奏者の指に与えられる。
複数の粒子12は、空洞部8eaの内底面から質量体8の回動方向y−yの上方に駆動力を受け、また、回動の径方向x−xの外方に遠心力を受けるから、複数の粒子12の重心は、回動支点部8cから遠ざかる後端部の方向に移動する。従って、複数の粒子12が質量体8に与える慣性モーメントが回動に従って増加するから、質量体8から鍵を介して演奏者の指に与えられる鍵の質量感に変化を付けることができる。
ここで、鍵を押し下げる力を強くするほど、粒子12の移動が促進されて慣性モーメントの増加が著しくなり、押し下げる力を弱くして、回動の速度を遅くすれば、複数の粒子12の重心は、逆に、回動支点部8c側に戻ることになるため、質量感が減少する。
【0030】
図2(c)は、質量体8が上限ストッパ10に衝突した直後における粒子分布の説明図である。
複数の粒子12は、回動方向y−yの反時計回りに駆動されていたので、質量集中部8eが上限ストッパ10に衝突すると、空洞部8ea内に空き空間があるため、複数の粒子12が空洞部8eaの天井面等の内面に衝突するとともに、複数の粒子12相互も衝突する。その際、複数の粒子12の運動エネルギの一部は熱に変わる。従って、その複数の粒子12の運動エネルギの一部しか上限ストッパ10の弾性エネルギに変わらないから、上限ストッパ10が弾性エネルギを放出するときの反力は、複数の粒子12がない場合に比べて、さほど増えない。
その結果、複数の粒子12により質量感が増しても、演奏者の指に伝わるストップ感は悪くならない。
これに対し、仮に、複数の粒子12が空洞部8eaと一体となって固定されていたとすれば、複数の粒子12の運動エネルギが空洞部8eaの内部で消費されないために、上限ストッパ10が弾性エネルギを放出するときの反力は、複数の粒子12の質量に見合って大きくなり、演奏者の指に伝わる不快感が増すことになる。
【0031】
演奏者が、白鍵本体部1から指を離す操作をする(離鍵操作)と、質量体8は重力の作用により時計回り方向に回動して、図2(a)の初期状態に戻る。
粒子12は、質量集中部8eとともに、自重によりゆっくりと回動方向y−yの時計回り方向に落下するので、質量体8が下限ストッパ9に衝突すると、複数の粒子12は、空洞部8eaの内底面等に衝突したり、複数の粒子12相互が衝突する。その際、運動エネルギの少なくとも一部が熱に変わるから、質量集中部8eが上限ストッパ10に衝突したときと同様に、下限ストッパ9の反力は、複数の粒子12がない場合に比べて、さほど増えない。
既に説明したように、空洞部8ea内に収容されている複数の粒子12の質量が、この質量体8に対応する鍵又は鍵域に応じて所望の変化をするように設計することにより、質量体8が上限ストッパ10又は下限ストッパ9に衝突したときのストップ感も、鍵又は鍵域に応じて所望に変化をするものとなる。
【0032】
図3は、図1に示した実施形態の変形例を模式的に示す説明図である。
図3(a)は質量体21の全体構造を示す右側面図、図3(b)は図3(a)のA−A切断線におけるA方向から見た横断面図、図3(c)は連結部21dと心材部21ebとの一体構造を示す右側面図、図3(d)は右側壁部21edを示す右側面図、図3(e)は左側壁部21eeを示す左側面図である。
質量体21は、連結部21d及び質量集中部21eの構造を除けば、図1,図2に示した質量体8と同様な構造である。従って、21a〜21cは、8a〜8cと同様である。
【0033】
質量集中部21eを3部品で構成することにより、空洞部21eaを形成する。
心材部21ebは、図3(c)に示すように、回動の径方向x−x及び回動方向y−yを含む平面において、最終的に空洞部21eaとなる閉領域を囲み、図3(b)に示す横断面において、幅がwである。心材部21eaの前端上部には導入路21ecが設けられている。
図3(b)に示すように、心材部21ebが鍵の配列方向に沿って右側壁部21ed、左側壁部21eeに挟まれることにより、空洞部21eaが形成される。
心材部21ebと連結部21dとは、両者を一体にした形状のものを板金打抜きで作成することができる。心材部21eb、右側壁部21ed、及び、左側壁部21eeは、一体成形されたり、張り合わせ、締結、あるいは、嵌合されたりする。
主被駆動部21a、副被駆動部21b、回動支点部21cを備える質量体21の基部と連結部21dとは、図1に示した質量体8と同様に、例えば、アウトサート成形により一体化される。
【0034】
右側壁部21ed、左側壁部21eeの少なくとも一方は、光透過性を有していてもよい。光透過性を有する方には、例えば、透明ABS樹脂を用いればよい。光透過性を有するといっても、側壁部の全面ではなく、その一部分が光透過性を有していればよい。
光透過性を有する部分を通して、空洞部21eaに収容された粒子12を見ることができるから、粒子12の収容量、粒子12の状態(例えば、摩耗状態)等を視認でき、また、どの鍵域A〜Dに使用する質量体8であるかを、その粒子12の収容量によって容易に識別できる。
光透過性を有する部分が完全に透明である必要はなく、乳白色等の半透明でもよい。
【0035】
図4は、本発明の他の実施形態を模式的に示す説明図である。図中、図6,図1と同様な部分には同じ符号を付している。
図4(a)は本発明の他の実施形態を模式的に示す右側面図である。図4(b)〜図4(e)は、音高が最も低い鍵域Aから、音高が最も高い鍵域Dまでに使用する質量体31〜34の質量集中部31e〜34eを示す説明図である。
質量体31〜34の31a〜31d,・・・,34a〜34dの部分構造については、図1の質量体3、図3の質量体21と同様な構造であるため、説明を省略し、図示も一部を省略している。
【0036】
鍵盤装置に使用する質量体31〜34は、外形状が同じであるが、回動支点部31c〜34c(図示の側面図においては同じ位置にある)から、回動の径方向x−xに沿った、空洞部31ea〜34eaの位置(略中心点)までの距離と、空洞部31ea〜34eaに収容された複数の粒子12の質量とを、質量体31〜34に対応する鍵又は鍵域に応じたものとしている。複数の粒子12が質量体31〜34に与える慣性モーメントは、複数の粒子12の質量に比例し、上述した距離の2乗に比例する。
このようにして、空洞部31ea〜34eaに収容された複数の粒子12が質量体31〜34に与える慣性モーメントを、質量体31〜34に対応する鍵又は鍵域に応じたものとしている。その結果、質量体31〜34の慣性モーメントが、質量体31〜34に対応する鍵又は鍵域に応じた所望の変化をするようにして、鍵タッチ感が鍵又は鍵域に応じて所望の変化をするようにしている。
【0037】
図示の例では、各空洞部31ea〜34eaのそれぞれに収容される複数の粒子12の質量を等しくしている。従って、質量体34、33、32、31の順に、複数の粒子12が質量体34〜31に与える慣性モーメントが大きくなり、鍵タッチ感を、低音音域側ほど大きくすることができる。その結果、鍵タッチ感をアコースティック・ピアノに近づけることができる。
ただし、図示の例では、各空洞部31ea〜34eaの回動支点部31cからの距離及び各空洞部31ea〜34eaの形状が異なるため、質量体31〜34自体の慣性モーメントは必ずしも一致しない。
質量体31〜34自体の慣性モーメントが一致しない場合は、質量体31〜34自体の慣性モーメントに、複数の粒子12が質量体31〜34に与える慣性モーメントを加えた質量体31〜34の慣性モーメントが、この質量体31〜34に対応する鍵又は鍵域に応じて所望の変化をするように設計する。
鍵域は、オクターブ単位など、任意の鍵域に分割してもよいし、1個の鍵毎に空洞部の位置を異ならせてもよい。
鍵タッチ感をアコースティック・ピアノに近づけるに代えて、鍵タッチ感が鍵又は鍵域に応じて独自の変化をするものとしてもよい。
【0038】
図4(f)〜図4(i)は、上述した他の実施形態の変形例において、音高が最も低い鍵域Aから、音高が最も高い鍵域Dまでに使用する質量体35〜38の質量集中部を35e〜38eを示す説明図である。
鍵盤装置の全体構造は、図4(a)と同様であるので、図示を省略している。
35〜38は質量体である。35a〜38d,・・・,38a〜38dについては、図1の質量体3、図3の質量体21、図4(a)の質量体31と同様な構造であるため、説明を省略する。
質量体35〜38の外形状は同じであるが、各質量集中部35e〜38eに形成されている空洞部35ea〜38eaの形状が異なる。すなわち、各空洞部35ea〜38eaにおいて、各質量体35〜38が初期位置にあるときに最下部となる位置に、粒子溜り35eax〜38eaxが形成されており、ここに複数の粒子12が溜るようになっている。
【0039】
複数の粒子12が回動方向y−yに移動可能となるように、空洞部8eaは、粒子溜り35eax〜38eaxから回動方向y−yに延在する。複数の粒子12が回動の径方向x−xにも移動可能となるように、空洞部35ea〜38eaは回動の径方向x−xに広がりを有している。図示の例では、空洞部35ea〜38eaを、質量集中部35e〜38eの前端近傍から後端近傍まで広げることにより、略同じにしている。
さらに、また、離鍵操作後に初期状態に復帰したとき、径方向に移動していた複数の粒子12が、自重により粒子溜り35eax〜38eaxに戻りやすくするために、空洞部35ea〜38eaの内底面が粒子溜り35eax〜38eaxを最下部とするように傾斜している。
粒子溜り35eax〜38eax内の傾斜は、空洞部35ea〜38eaの内底面の傾斜との差を小さくし、複数の粒子12が駆動されたときに、粒子溜り35eax〜38eaxから出やすいようにする。
【0040】
この実施形態においては、各質量体35〜38において、回動支点部35c〜38c(図4(a)の側面図においては31cと同じ位置)から、回動の径方向x−xに沿った、粒子溜り35eax〜38eaxまでの距離と、空洞部35ea〜38eaに収容された複数の粒子12の質量とを、質量体35〜38に対応する鍵又は鍵域に応じたものとしている。複数の粒子12が質量体35〜38に与える慣性モーメントは、複数の粒子12の質量に比例し、上述した距離の2乗に比例する。
このようにして、空洞部35ea〜38eaに収容された複数の粒子12が質量体35〜38に与える慣性モーメントを、質量体35〜38に対応する鍵又は鍵域に応じたものとしている。その結果、質量体35〜38の慣性モーメントが、質量体35〜38に対応する鍵又は鍵域に応じて所望の変化をするようにして、鍵タッチ感が鍵又は鍵域に応じて所望の変化をするようにしている。
【0041】
図示の例では、各空洞部35ea〜38eaのそれぞれに収容される複数の粒子12の質量を等しくしている。従って、質量体38、37、36、35の順に、複数の粒子12が質量体38〜35に与える慣性モーメントが大きくなり、鍵タッチ感を、低音音域側ほど大きくして、鍵タッチ感をアコースティック・ピアノに近づけることができる。
ただし、図示の例では、各空洞部35ea〜38eaの形状が異なるため、質量体35〜38自体の慣性モーメントは必ずしも一致しない。
そのため、質量体35〜38自体の慣性モーメントが一致しない場合は、質量体35〜38自体の慣性モーメントに、複数の粒子12が質量体35〜38に与える慣性モーメントを加えた質量体35〜38の慣性モーメントが、この質量体35〜38に対応する鍵又は鍵域に応じて所望の変化をするように設計する。
【0042】
鍵域は、オクターブ単位など、任意の鍵域に分割してもよいし、1個の鍵毎に空洞部の位置を異ならせてもよい。
鍵タッチ感をアコースティック・ピアノに近づけるに代えて、鍵タッチ感が鍵又は鍵域に応じて独自の変化をするものとしてもよい。
質量体35〜38が初期位置にあるときに、複数の粒子12が粒子溜り35eax〜38eaxに溜ることにより、複数の粒子12の位置が自動的に決まることから、鍵タッチ感の再現性を確保できる。図示の例のように、空洞部35ea〜38eaに収容される複数の粒子12の個数が少ないときは、複数の粒子12の初期位置がばらつきやすいから、粒子溜り35eax〜38eaxを設けることの効果が特に大きい。
【0043】
図4(a)〜図4(e)、図4(f)〜図4(i)に示した実施形態では、図3に示した質量集中部21eと同様に、心材部(図示せず)、右側壁部31ed〜38ed、左側壁部(図示せず)という部品を一体化することにより空洞部31ea〜38eaを形成している。連結部31d〜38dは、心材部と一体化することができる。右側壁部31ed〜31ed、左側壁部の少なくとも一方は、光透過性を有していてもよい。
図1,図3と同様に、質量集中部31e〜38eに、導入路を設けて、ここから複数の粒子12を空洞部31ea〜38ea内に収容し、封止部材13で封止することができるが、図示を省略している。
これに代えて、空洞部31ea〜38eaを形成する過程において、まだ空洞部31ea〜38eaが開口している工程において、複数の粒子12を収容してもよい。
【0044】
図5は、本発明のさらに他の実施形態を模式的に示す説明図である。
図1,図4に示した他の実施形態と比べて、質量集中部の構造が異なるだけであるので、連結部と質量集中部のみを図示している。
図5(a)は質量体41の連結部41dと質量集中部41eとを模式的に示す右側面図であり、図5(b)はその変形例における、質量体42の連結部42dと質量集中部42eとを模式的に示す右側面図である。
いずれの例においても、質量体41,42の構造自体は鍵盤装置の全ての鍵に共通である。
【0045】
図5(a)において、質量集中部41eには部分空洞部41ea〜41edが形成されている。回動中心部から部分空洞部41ea〜41edの位置(略中心部)までの径方向を示す補助線x−x、回動方向を示す補助線y−yは、図面が煩雑になるために記載を省略した。
部分空洞部41ea〜41ed内において複数の粒子12が回動方向に移動可能となるように、部分空洞部41ea〜41edは、回動方向に延在する。また、複数の粒子12が回動の径方向x−xにも移動可能なように、部分空洞部41ea〜41edは回動の径方向x−xに広がりを有している。
これらの部分空洞部41ea〜41edは、1つの大きな空洞部が、回動方向に略平行に設けられた隔壁41ee〜41egにより分割された形状になっている。質量体41の回動支点部41cから部分空洞部41ea〜41edまでの距離が、この順で遠くなっている。部分空洞部41ea〜41edの個数については特に制約はないが、分割された鍵域の総数と等しくしてもよい。鍵域は、オクターブ単位など、任意の鍵域に分割してもよい。
【0046】
この実施形態において、鍵盤装置に使用される全ての質量体41に対し、その構造を共通にしている。その結果、全ての質量体41自体の慣性モーメントが等しくなっている。
各鍵又は各鍵域に対応した質量体41において、複数の粒子12は、1又は複数の部分空洞部41ea〜41edに収容されている。その質量体41の回動支点41c(図示せず)からその質量体41の上述した1又は複数の部分空洞部41ea〜41edの位置(略中心位置)までの距離と、その質量体41の上述した1又は複数の部分空洞部41ea〜41edのそれぞれに収容される複数の粒子12の各質量とを、その質量体41に対応する鍵又は鍵域に応じたものとしている。
このようにして、その質量体41の部分空洞部41ea〜41edに収容された複数の粒子12がその質量体41に与える慣性モーメントを、その質量体41に対応する鍵又は鍵域に応じたものとしている。その結果、各質量体41の慣性モーメントが、その質量体41に対応する鍵又は鍵域に応じて所望の変化をするようにして、鍵タッチ感が鍵又は鍵域に応じて所望の変化をするようにしている。
【0047】
図示の例では、各鍵域に対応した質量体41において、各部分空洞部41ea〜41edのうちのいずれか1つに複数の粒子12を収容し、かつ、それぞれに収容される複数の粒子12の各質量を等しくし、最も低域の鍵域Aにおいては、回動支点部42cから径方向に最も遠い距離にある部分空洞部41edに複数の粒子12を収容し、鍵域B,鍵域C,鍵域Dにおいては、順次、部分空洞部41ec,41eb,41eaに複数の粒子12を収容することにより、鍵タッチ感をアコースティック・ピアノに近づけている。
鍵タッチ感をアコースティック・ピアノに近づけるに代えて、鍵タッチ感が鍵又は鍵域に応じて独自の変化をするものとしてもよい。
【0048】
次に、図5(b)に示す他の実施形態の変形例においては、質量集中部42eに部分空洞部42ea〜42edが形成されている。回動中心部42cから部分空洞部42ea〜42edの略中心までの径方向を示す補助線x−x、回動方向を示す補助線y−yは記載を省略した。
部分空洞部42ea〜42edは、1つの大きな空洞部が、回動方向に略平行に形成された隔壁42ee〜42efと、略水平方向に形成された隔壁41egとにより形成されている。
部分空洞部42ea〜42ec内において複数の粒子12が回動方向に移動可能となるように、部分空洞部42ea〜42ecは、回動方向に延在する。また、複数の粒子12が回動の径方向x−xにも移動可能なように、部分空洞部42ea〜42ecは回動の径方向x−xに広がりを有している。
質量体42の回動支点部42cから部分空洞部42ea〜42ecの位置(略中心点)までの距離は、この順で遠くなっている。
【0049】
一方、部分空洞部42edについては、回動方向には僅かにしか延在していない。その代わり、回動の径方向には大きな広がりを有している。そのため、部分空洞部42edの位置(略中心点)に関しては、他の部分空洞部42ea〜42ecに比べて質量体42の回動支点部42cからの距離が限定されにくい。
しかし、部分空洞部42edに収容された複数の粒子12は、質量体42の回動に応じて移動可能な距離が長いから、押鍵途中において、質量感に変化を付ける作用が大きい。そのため、全鍵に対応する全ての質量体42において、部分空洞部42edには複数の粒子12を収容するようにしてもよい。
また、図示の例では、部分空洞部42ea〜42edの内底面は、水平面に対し、回動支点部42cの側を最下部として傾斜していることから、部分空洞部42ea〜42edの回動支点部42cの側が実質的に粒子溜りとなって、鍵タッチ感の再現性を確保しやすくしている。
【0050】
この実施形態において、鍵盤装置に使用される全ての質量体42に対し、その構造を共通にしている。その結果、全ての質量体42自体の慣性モーメントが等しくなっている。
各鍵又は各鍵域に対応した質量体42において、複数の粒子12は、1又は複数の部分空洞部42ea〜42edに収容されている。その質量体42の回動支点42c(図示せず)からその質量体42の上述した1又は複数の部分空洞部42ea〜42edの位置(略中心位置)までの距離と、その質量体42の上述した1又は複数の部分空洞部42ea〜42edのそれぞれに収容される複数の粒子12の各質量とを、その質量体42に対応する鍵又は鍵域に応じたものとしている。
このようにして、その質量体42の部分空洞部42ea〜42edに収容された複数の粒子12がその質量体42に与える慣性モーメントを、その質量体42に対応する鍵又は鍵域に応じたものとしている。
その結果、各質量体42の慣性モーメントが、その質量体42に対応する鍵又は鍵域に応じて所望の変化をするようにして、鍵タッチ感が鍵又は鍵域に応じて所望の変化をするようにしている。
【0051】
図示の例では、各鍵域に対応した質量体41において、各部分空洞部42ea〜42ecのうちの1つに複数の粒子12を収容し、かつ、それぞれに収容される複数の粒子12の各質量を等しくし、最も低域の鍵域Aにおいては、回動支点部42cから径方向に最も遠い距離にある部分空洞部41ecに複数の粒子12を収容し、鍵域B,鍵域Cにおいては、順次、部分空洞部41ef,41eaに複数の粒子12を収容している。かつ、全ての鍵域A〜Dに共通して、部分空洞部41edに複数の粒子を、収容される質量を各鍵域A〜Dとも等しくしている。このようにして、鍵タッチ感をアコースティック・ピアノに近づけている。
鍵タッチ感をアコースティック・ピアノに近づけるに代えて、鍵タッチ感が鍵又は鍵域に応じて独自の変化をするものとしてもよい。
【0052】
しかし、上述した各質量体41,42において、その回動支点部41c,42cから、その部分空洞部41ea〜41edまでの距離、形状等が、鍵又は鍵域によって異なる場合もあり得る。この場合、質量体41,42自体の慣性モーメントが鍵又は鍵域によって異なることになる。
このような場合は、質量体41、42自体の慣性モーメントに、複数の粒子12が質量体41、42に与える慣性モーメントを加えた質量体41、42の慣性モーメントが、この質量体41,42に対応する鍵又は鍵域に応じて所望の変化をするように設計する。
【0053】
図5(a),図5(b)に示した具体例では、図3に示した質量集中部21eと同様に、心材部(図示せず)、右側壁部41eh,42eh、左側壁部(図示せず)を一体化することにより空洞部41ea〜41ed,42ea〜42edを形成している。心材部及び左側壁部については図示を省略している。連結部41d,41dは、心材部と一体化することができる。右側壁部(41eh,42eh)、左側壁部の少なくとも一方は、光透過性を有していてもよい。
質量集中部41e(42e)に複数の導入路及び封止部材を設けて、ここから複数の粒子12を複数の空洞部41ea〜41ed(42ea〜42ed)内に収容することができるが、図示を省略している。
これに代えて、空洞部41ea〜41ed(42ea〜42ed)を形成する過程において、まだ空洞部が開口している工程において、複数の粒子12を収容してもよい。
【0054】
上述した説明では、質量体の質量集中部に空洞部を設けたが、連結部に空洞部を設けて粒子12を収容してもよい。また、質量集中部と連結部とに形状が明確に分かれていない質量体を用い、この質量体に空洞部を設け、粒子12を収容してもよい。
上述した説明では、質量体に導入路を設けて、ここから複数の粒子12を空洞部内に入れた。これに代えて、まだ空洞部が開口している製造段階において、複数の粒子12を収容してもよい。
【0055】
上述した説明では、空洞部内の複数の粒子12が与える質量感を説明したが、質量体の連結部及び質量集中部(外郭や心材部、側壁部)の質量も、質量体の慣性モーメントに寄与するから、これらの部材としても、比重が大きい部材で形成することが望ましい。また、質量体の連結部及び質量集中部が撓むと鍵タッチ感が悪くなるので、これらの部材には、剛性の高い部材(例えば、金属)で形成することが望ましい。
【0056】
上述した説明では、白鍵本体部1及び黒鍵本体部2は、押鍵されたときに、それらの鍵支点部1b,2bを固定的な回動支点として揺動していた。
しかし、従来の電子楽器の鍵盤装置の中には、仮想的な回動支点を持って揺動したり、仮想的な回動支点が無限遠方にあって、押鍵されたときに鍵が鉛直下方向に平行移動する態様で揺動するものがある(例えば、特開平4−66995号公報参照)。
このような鍵盤装置においても、鍵側に力伝達部を設けて、この力伝達部で、質量体の被駆動部を押下し、質量体を回動させることにより、鍵の質量感、ストップ感を得ることができる。従って、このような鍵盤装置においても、本願の発明を適用して、同様の作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態を模式的に示す右側面図である。
【図2】図1(d)に示した空洞部内部の粒子分布を模式的に示す縦断面図である。
【図3】図1に示した実施形態の変形例を模式的に示す説明図である。
【図4】本発明の他の実施形態を模式的に示す説明図である。
【図5】本発明のさらに他の実施形態を模式的に示す説明図である。
【図6】従来の電子楽器の鍵盤装置を模式的に示す右側面図である。
【符号の説明】
【0058】
1…白鍵本体部(鍵)、2…黒鍵本体部(鍵)、3,61…鍵フレーム(フレーム)、
8,21,31〜38,41,42,62…質量体、
8a,21a,31a,62a…主被駆動部,8b,21b,31b、62b…副被駆動部、8c,21c,31c,62c…回動支点部、
8d,21d,31d〜38d,41d,42d,62d…連結部、
8e,21e,31e〜38e,41e,42e,62e…質量集中部、
8ea,21ea,31ea〜38ea…空洞部、
8eb…外郭、21eb,31eb…心材部、8ec,21ec…導入路、
21ed,31ed,41eh,42eh…右側壁部、21ee,31ee…左側壁部、
35eax〜38eax…粒子溜り、41ea〜41ed,42ea〜42ed…部分空洞部、41ee,41ef,41eg,42ee,42ef,42eg…隔壁、
9…下限ストッパ(質量体に対する動作規制部材)、10…上限ストッパ(質量体に対する動作規制部材)、11…下限ストッパ(鍵に対する動作規制部材)、12…粒子、13…封止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鍵と、該各鍵の押鍵操作に連動して回動する複数の各質量体と、前記複数の鍵と前記複数の質量体とが並設されたフレームと、該フレームの側に配置され前記各質量体が衝突することにより前記各質量体の回動範囲を規制する動作規制部材を有する電子楽器の鍵盤装置において、
前記各質量体には、当該質量体に対応する鍵が押されることにより回動する部分に空洞部が設けられ、
前記空洞部に複数の粒子が空き空間を残した状態で収容されており、
前記各質量体の空洞部に収容された複数の粒子が当該質量体に与える慣性モーメントを、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとすることにより、前記各質量体の慣性モーメントが当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じて変化するようにした、
ことを特徴とする電子楽器の鍵盤装置。
【請求項2】
前記各質量体の空洞部に収容された複数の粒子の質量を、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとすることにより、当該質量体の空洞部に収容された複数の粒子が当該質量体に与える慣性モーメントを、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとした、
ことを特徴とする請求項1に記載の電子楽器の鍵盤装置。
【請求項3】
前記各質量体において、当該質量体の回動支点から当該質量体の空洞部までの距離と当該空洞部に収容された複数の粒子の質量とを、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとすることにより、当該空洞部に収容された複数の粒子が当該質量体に与える慣性モーメントを、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとした、
ことを特徴とする請求項1に記載の電子楽器の鍵盤装置。
【請求項4】
前記質量体の空洞部の底面には、当該質量体が初期位置にあるときに前記複数の粒子が溜る粒子溜りが形成されており、
前記各質量体において、当該質量体の回動支点から当該質量体の粒子溜りまでの距離と当該質量体の空洞部に収容された複数の粒子の質量とを、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとすることにより、当該質量体の空洞部に収容された複数の粒子が当該質量体に与える慣性モーメントを、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとした、
ことを特徴とする請求項1に記載の電子楽器の鍵盤装置。
【請求項5】
前記質量体に設けられた空洞部は、複数の部分空洞部に分割されて設けられ、
前記各質量体において、前記複数の粒子は、1又は複数の前記部分空洞部に収容され、
前記各質量体において、当該質量体の回動支点から当該質量体の前記1又は複数の部分空洞部までの距離と当該質量体の前記1又は複数の部分空洞部のそれぞれに収容される複数の粒子の各質量とを、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとすることにより、当該質量体の部分空洞部に収容された複数の粒子が当該質量体に与える慣性モーメントを、当該質量体に対応する鍵又は鍵域に応じたものとした、
ことを特徴とする請求項1に記載の電子楽器の鍵盤装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−14974(P2009−14974A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176174(P2007−176174)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】