説明

電子機器のキャビネットをインサート成形する方法及び皮革製カバーによって覆われたキャビネットを有する電子機器

【課題】電子機器のキャビネットに、皮革又は合成皮革を柔らかい触感を保ちながら確実に密着させる。
【解決手段】合成皮革本体30と、不織布の両面に接着剤が含浸された両面テープ43とを用意する。合成皮革本体30の裏面側に両面テープ43を貼り付けて合成皮革製カバー9を成形する。この合成皮革製カバー9を、その合成皮革本体30が成形面32aに当接するように成形型31に取り付け、両面テープ43側に溶融樹脂を流し込んでインサート成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯通信機器等の電子機器のキャビネットをインサート成形する方法及び皮革製カバーによって覆われたキャビネットを有する携帯通信機器等の電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、携帯通信機器、特に携帯電話機は、低年齢層のみならず、高年齢層へも幅広く普及が進んでいる。そして、各メーカは、色々な新しい機能を搭載することは勿論、製品の外観へも新しい工夫を凝らしている。外観の色調もグレイ、白、シルバーに始まり、鮮やかな赤、オレンジ、青、黄等と、各社独特の色調が誕生している。そして、今や皮革又は合成皮革を貼り付けた製品も誕生しつつある。皮革又は合成皮革を貼り付けた製品は、一般にキャビネットの成形時にインサート成形によって形作られる。これは、キャビネット成形時に皮革又は合成皮革を予め金型に取り付けて溶融樹脂を流し、同時に成形されている。
【0003】
特許文献1は、では、加飾シートと合成樹脂とのインサート成形方法において、金型の加飾シートのコーナー部分であって絞られる部分と対応する部分に凹部、凸部又は凸条を形成するものが開示されている。このことで、曲面を持つキャビネットに皮革又は合成皮革をインサート成形する場合におけるコーナー部の皺の発生を防止している。
【特許文献1】特開平9−131755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のインサート成形方法によっても、加飾シートとして皮革の触感を持たせるために凹凸のある革しぼ模様のあるものを用いると、合成樹脂との間に隙間が生じて合成樹脂との密着性が不十分となる場合がある。
【0005】
また、インサート成形の際に加飾シートの革しぼが成形圧力で潰れてしまい、触感が硬いものとなるという問題がある。
【0006】
上述した問題点に鑑み、本発明は、電子機器のキャビネットに、皮革又は合成皮革を柔らかい触感を保ちながら確実に密着させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、皮革又は合成皮革に両面テープを接着した皮革製カバーをインサート成形するようにした。
【0008】
具体的には、第1の発明では、電子機器のキャビネットをインサート成形する方法を前提とする。
【0009】
そして、皮革又は合成皮革と、不織布の両面に接着剤が含浸された両面テープとを用意し、
上記皮革又は合成皮革の裏面側に上記両面テープを貼り付けて皮革製カバーを成形し、
上記皮革製カバーを、その皮革又は合成皮革が成形面に当接するように成形型に取り付け、
上記両面テープ側に溶融樹脂を流し込んでインサート成形する構成とする。
【0010】
上記の構成によると、溶融樹脂と皮革又は合成皮革との間に両面テープを貼り付けているので、インサート成形時に溶融樹脂と皮革又は合成皮革とが堅固に接着される。また、両面テープに不織布層を設けているので、そのクッション性により、インサート成形時に皮革又は合成皮革の表面が成形圧力によって潰れにくく、皮革製カバーの柔らかい触感が維持される。
【0011】
第2の発明では、上記合成皮革は、表面側の革しぼが施されたウレタン層と、裏面側の不織布層とで構成されている。
【0012】
上記の構成によると、不織布層により、ソフトな触感が実現され、ウレタン層を加工することにより、皮革の表面に似せた革しぼが成形可能となる。また、ウレタンは、皮革に比べ、水、湿気や汚れに強いため手入れが容易で、かつ様々な色彩を実現できる。
【0013】
第3の発明では、上記合成皮革は、平面状ウレタンと平面状不織布とをローラーで押さえつけながら成形し、
上記ウレタン側のローラーに形成された革しぼ用の凹凸によって、皮革に似た触感を与える。
【0014】
上記の構成によると、合成皮革のウレタン層に容易に革しぼ模様が施され、皮革に似たソフトな触感が得られる。
【0015】
第4の発明では、上記電子機器は、携帯通信機器とする。
【0016】
上記の構成によると、皮革製カバーにより、携帯通信機器は、見映えよく触感もよくなるので、携帯性、商品性等が優れている。
【0017】
第5の発明では、上記携帯通信機器は、携帯電話機とする。
【0018】
上記の構成によると、携帯電話機の外観及び触感が向上する。
【0019】
第6の発明では、上記キャビネットは、皮革又は合成皮革と樹脂基材とが両面テープで接着されたインサート成形品であり、
上記両面テープは、不織布の両面に接着剤が含浸されたものとする。
【0020】
上記の構成によると、樹脂基材と皮革又は合成皮革との間に両面テープが貼り付けられているので、インサート成形時に樹脂基材と皮革又は合成皮革とが堅固に接着される。また、両面テープに不織布層を設けているので、そのクッション性により、インサート成形時に皮革又は合成皮革の表面が成形圧力によって潰れにくく、皮革製カバーの柔らかい触感が維持される。
【0021】
第7の発明では、上記合成皮革は、表面側の革しぼが施されたウレタン層と、裏面側の不織布層とで構成されている。
【0022】
上記の構成によると、不織布層により、ソフトな触感が実現され、ウレタン層を加工することにより、革の表面に似せた革しぼが成形可能となる。また、ウレタンは、皮革に比べ、水、湿気や汚れに強いため手入れが容易で、かつ様々な色彩を実現できる。
【0023】
第8の発明では、電子機器は、携帯通信機器とする。
【0024】
上記の構成によると、皮革製カバーにより、携帯通信機器は、見映えよく触感もよくなるので、携帯性、商品性等が優れている。
【0025】
第9の発明では、上記携帯通信機器は、携帯電話機とする。
【0026】
上記の構成によると、携帯電話機の外観及び触感が向上する。
【0027】
第10の発明では、上記キャビネットは、操作部が設けられた面と反対側の面を覆っている。
【0028】
上記の構成によると、携帯電話機の触れる部分でかつ外観上目立つ部分を皮革製カバーで覆っているので、商品性が優れている。
【発明の効果】
【0029】
上記説明したように、本発明によれば、皮革又は合成皮革に不織布の両面に接着剤が含浸された両面テープを貼り付け、その両面テープ側に溶融樹脂をインサート成形している。このため、電子機器のキャビネットに皮革又は合成皮革を柔らかい触感を保ちながら確実に密着させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係る携帯電話機の閉じた状態を示す斜視図である。図2は、本発明の実施形態に係る携帯電話機の開いた状態を示す斜視図である。
【0032】
図1及び図2に示すように、本実施形態の携帯電話機1は、第1の筐体2と第2の筐体3とを有し、これら第1の筐体2と第2の筐体3とが、ヒンジ部4によって回転可能に結合されている。第1の筐体2の内側(表面側)には、受話部5及び表示部6が設けられている。第1の筐体2の外側(裏側)には、時計表示や通信時の相手の名前を表示するためのサブ表示部7やスピーカ放音部8等が設けられている。第1の筐体2を覆うキャビネットは、表裏分割式となっていて、裏側を覆う裏側キャビネット2aは、図7に示すように、樹脂製の基材20と、この基材20の外表面に貼り付けられた皮革製カバーとしての合成皮革製カバー9とを備えている。
【0033】
上記第2の筐体3の内側には、各種機能の切替や決定をするための機能ボタン11、情報を入力する入力ボタン12、送話部13等が設けられている。機能ボタン11及び入力ボタン12が操作部50を構成している。第2の筐体3の外側には、カメラ部(図示しない)が設けられ、側面側には、充電端子部(図示せず)、音量ボタン15、イヤホンマイク端子カバー16、カード挿入部(図示しない)等が設置されている。
【0034】
上記基材20は、例えば、ABS、AS、PC(ポリカーボネート)等で構成されている。
【0035】
図3に示すように、上記合成皮革製カバー9を構成する合成皮革本体30は、例えば、表面側の平面状ウレタン層41と、裏面側の平面状不織布層42とをローラーで押さえつけながら成形し、ウレタン層41側のローラーに形成された革しぼ用の凹凸によって皮革に似た触感を与えるものとなっている。この合成皮革製カバー9は、天然の動物の皮革で構成してもよいが、品質のばらつきを考えると、合成皮革で構成するのが望ましい。
【0036】
上記合成皮革本体30の不織布層42側には、両面テープ43が接着されている。この両面テープ43は、柔軟な不織布43aの両面に接着剤43b(例えば、アクリル系粘着材)が含浸されたものとなっている。両面テープ43の接着剤43bは、凸凹面に対して接着性が高いもので構成されている。すなわち、粗面接着性を高めるために不織布43aの厚さは、例えば、0.30mmとなっている。
【0037】
なお、上記スピーカ放音部8は、成形時に裏側キャビネット2aと一体に形成してもよいが、確実に放音孔を設けるには、樹脂製又は金属製の別部材で構成し、裏側キャビネット2aの裏面側から嵌め込むのが望ましい。
【0038】
図1に示すように、上記合成皮革製カバー9の外形の境界は、装飾用リング10によって覆われ、この装飾用リング10によって合成皮革製カバー9と基材20との境界線が隠されている。
【0039】
図7に示すように、サブ表示部7の表面は、透明カバー26で覆われている。
【0040】
−キャビネットのインサート成形方法−
次に、携帯電話機1の裏側キャビネット2aのインサート成形方法について説明する。
【0041】
図3乃至図6は、第1の筐体2の外観を覆う合成皮革製カバー9の製作の順序を示す図である。
【0042】
まず、図3に示すように、平面状の合成皮革本体30の不織布層42側に両面テープ43を貼り付ける。この両面テープ43は、インサート成形時に基材20との接着に利用される。両面テープ43の表面は、セパレーター(図示せず)で覆っておく。このようにして平面状の合成皮革製カバー9を予め成形しておく。
【0043】
次いで、図4及び図5に示すように、図3の平面状の合成皮革製カバー9をプレス成形機(図示せず)で温度をかけながら、第1の筐体2の曲面形状となるように凹凸を設ける。なお、両面テープ43の表面をセパレーターで覆っているので、プレス成形型に合成皮革製カバー9が貼り付くことはない。このとき、サブ表示部7に対応する位置にサブ表示部用凹部18を凹陥し、スピーカ放音部8に対応する位置にスピーカ部用凹部19を凹陥する(X−X線断面図参照)。また、コーナー部23も同時に成形する。
【0044】
次に、図6に示すように、図5の曲面状の合成皮革製カバー9を、第1の筐体2の形状の外形にカットし、かつ必要な孔抜きをする。ここで、スピーカ放音部8及びサブ表示部7の孔抜きにおいては、サブ表示部用凹部18及びスピーカ部用凹部19の凹部側面よりも内側で凹部に沿って孔抜きをする。このため、その切断面が下側に曲がるように孔抜きされるようにして、サブ表示部孔24及びスピーカ部孔25が形成される(Y−Y線断面図参照)。このことで、孔周辺の切断面は、合成皮革本体30で覆われているため、見映えがよい。
【0045】
次いで、図8に示すように、図5の合成皮革製カバー9を射出成形型31の下型32の成形面32aに合成皮革本体30側が当接するように取り付け、両面テープ43のセパレーターを剥がす。この下型32への合成皮革製カバー9の取付は、スピーカ放音部8及びサブ表示部7のサブ表示部孔24及びスピーカ部孔25で位置決めされる。そして、上型33を型閉じし、キャビティ34を形成する。このキャビティ34に溶融樹脂を流し込んで射出成形により、インサート成形する。このとき、両面テープ43が基材20と密着する。また、両面テープ43の不織布43aのクッション性により、成形時の圧力によって、ウレタン層41の革しぼ模様は潰れにくい。これにより、図7に示す第1の筐体2の裏側キャビネット2aが完成する(Z−Z線断面図参照)。
【0046】
−実施形態の効果−
したがって、本実施形態に係る電子機器のキャビネットをインサート成形する方法によると、合成皮革本体30に不織布43aの両面に接着剤43bが含浸された両面テープ43を貼り付け、その両面テープ43側に樹脂基材20をインサート成形している。このため、裏側キャビネット2aに合成皮革本体30を柔らかい触感を保ちながら確実に密着させることができる。
【0047】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0048】
すなわち、上記実施形態では、折畳み式携帯電話について、PHS、PDAなどの携帯通信機器でもよい。また、折畳み式に限らず、ストレートタイプの携帯通信機器であってもよい。
【0049】
上記実施形態では、射出成形により裏側キャビネット2aを成形したが、コンプレッション成形によって裏側キャビネット2aを成形してもよい。その場合には、基材としてシリコンを使用することも可能となる。
【0050】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上説明したように、本発明は、皮革製カバーによって覆われたキャビネットを有する携帯電話機などの電子機器及びそのキャビネットの成形方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態に係る携帯電話機の閉じた状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る携帯電話機の開いた状態を示す斜視図である。
【図3】(b)が合成皮革製カバーの製作順序における合成皮革本体に両面テープを接着した状態を示す平面図で、(a)がそのX−X線断面図である。
【図4】(b)が合成皮革製カバーの製作順序におけるプレス成形機にて成形した状態を示す平面図で、(a)がその断面図を示す図である。
【図5】プレス成形機にて成形した合成皮革製カバーを示す斜視図である。
【図6】(b)が合成皮革製カバーの製作順序における外形カット及び孔抜きをした状態を示す平面図で、(a)がそのY−Y線断面図である。
【図7】(b)が合成皮革製カバーの製作順序における合成皮革製カバーをインサート成形した状態を示す平面図で、(a)がそのZ−Z線断面図である。
【図8】射出成形型で溶融樹脂を流し込んで裏側キャビネットを成形する様子を示す断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 携帯電話機(電子機器、携帯通信機器)
2a 裏側キャビネット(キャビネット)
7 サブ表示部
8 スピーカ放音部
9 合成皮革製カバー(皮革製カバー)
30 合成皮革本体(革又は合成皮革)
31 成形型
32a 成形面
41 ウレタン層
42 不織布層
43 両面テープ
43a 不織布
43b 接着剤
50 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器のキャビネットをインサート成形する方法において、
皮革又は合成皮革と、不織布の両面に接着剤が含浸された両面テープとを用意し、
上記皮革又は合成皮革の裏面側に上記両面テープを貼り付けて皮革製カバーを成形し、
上記皮革製カバーを、その皮革又は合成皮革が成形面に当接するように成形型に取り付け、
上記両面テープ側に溶融樹脂を流し込んでインサート成形することを特徴とする電子機器のキャビネットのインサート成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電子機器のキャビネットのインサート成形方法において、
上記合成皮革は、表面側の革しぼが施されたウレタン層と、裏面側の不織布層とで構成されていることを特徴とする電子機器のキャビネットのインサート成形方法。
【請求項3】
請求項2に記載の電子機器のキャビネットのインサート成形方法において、
上記合成皮革は、平面状ウレタンと平面状不織布とをローラーで押さえつけながら成形し、
上記ウレタン側のローラーに形成された革しぼ用の凹凸によって、皮革に似た触感を与えることを特徴とする電子機器のキャビネットのインサート成形方法。
【請求項4】
上記電子機器は、携帯通信機器であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の電子機器のキャビネットのインサート成形方法。
【請求項5】
上記携帯通信機器は、携帯電話機であることを特徴とする請求項4に記載の電子機器のキャビネットのインサート成形方法。
【請求項6】
皮革又は合成皮革によって覆われたキャビネットを有する電子機器であって、
上記キャビネットは、皮革又は合成皮革と樹脂基材とが両面テープで接着されたインサート成形品であり、
上記両面テープは、不織布の両面に接着剤が含浸されたものであることを特徴とする電子機器。
【請求項7】
請求項6に記載の電子機器において、
上記合成皮革は、表面側の革しぼが施されたウレタン層と、裏面側の不織布層とで構成されていることを特徴とする電子機器。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の電子機器において、
携帯通信機器であることを特徴とする電子機器。
【請求項9】
請求項8に記載の電子機器において、
携帯電話機であることを特徴とする電子機器。
【請求項10】
請求項9に記載の電子機器において、
上記キャビネットは、操作部が設けられた面と反対側の面を覆っていることを特徴とする電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−176102(P2007−176102A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379928(P2005−379928)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(591257513)株式会社フクダコーポレーション (17)
【Fターム(参考)】