説明

電子機器及びその製造方法

【課題】基板に搭載された電子部品をケース内に配すると共に樹脂で封止した構成の電子機器において、小型化・薄型化を図ると同時に、製造効率の向上も図ることができるようにする。
【解決手段】厚さ方向に開口する開口部21を有するケース3と、その底壁部23に対向配置されて開口部21を覆う基板7と、ケース3及び基板7によって画成される内部空間V1に充填される封止樹脂と、を備え、基板7に、その厚さ方向に貫通して封止樹脂を内部空間V1に充填するための注入口47が形成され、底壁部23が、基板7に対向して基板7からの距離が相互に異なる2つの底面23a,23bと、これら2つの底面23a,23bを連結する段差面23cとを有し、該段差面23cが、内部空間V1側に突出するように凸曲面に形成され、注入口47が、ケース3の厚さ方向に沿って凸曲面に対向配置されている電子機器1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板に搭載された電子部品をケース内に配すると共に樹脂で封止した構成の電子機器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子機器には、例えば図7に示すように、基板51の面方向が当該基板51の挿入方向に一致するように、基板51がケース33の開口部55に挿入され、さらに、ケース33内に樹脂57を充填して基板51を樹脂封止したものがある(特許文献1参照)。
また、従来の電子機器には、例えば図8に示すように、開口部65を有するケース(筐体)63の底壁部に対して基板61の面が対向配置されるように、また、ケース63の開口部65を覆うように基板61を配置したものがある(特許文献2参照)。この種の電子機器では、ケース63と基板61とで画成される内部空間に樹脂を充填することで、特許文献1に記載の電子機器よりも薄く形成できる利点を有する。
【特許文献1】特開2001−237557号公報
【特許文献2】特開平11−103178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の電子機器では、高温状態になるとケース33内の樹脂57が膨張し、その応力はケース33の底面から開口部55に向けて、すなわち基板51の面方向に強く作用するため、樹脂封止された電子部品に大きな応力がかかる、という問題がある。
一方、特許文献2に記載されている電子機器では、ケース63の開口部65を覆うように基板61が配置されているため、ケース63内の樹脂が高温状態となって膨張しても、その応力は基板61の厚さ方向に作用することから、当該応力が電子部品にかかることを抑制できる。
【0004】
ところで、特許文献2のようにケース63と基板61とで内部空間を形成する構成の電子機器においては、電子部品の高さ寸法に応じて基板61に対向するケース33の底壁部に段差を形成することで、内部空間の容積を小さくして電子機器の小型化・薄型化を図ることが考えられている。
しかしながら、従来では、このような構造の電子機器における最適な樹脂の充填手法が提案されておらず、無策に樹脂を充填すると封止樹脂中にボイドが発生しやすい、という問題がある。このため、実際には時間をかけてゆっくりと樹脂を流し込まざるを得ず、電子機器の製造効率向上を図ることができない、という問題がある。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであって、電子機器の小型化・薄型化を図ると同時に、製造効率の向上も図ることができる電子機器及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために、本発明の電子機器は、厚さ方向に開口する開口部を有するケースと、前記ケースの底壁部に対向配置されて前記開口部を覆う基板と、前記ケース及び前記基板によって画成される内部空間に充填される封止樹脂と、を備え、前記基板に、その厚さ方向に貫通して前記封止樹脂を前記内部空間に充填するための注入口が形成され、前記底壁部が、前記基板に対向して当該基板からの距離が相互に異なる2つの底面と、これら2つの底面を連結する段差面とを有し、該段差面が、前記内部空間側に突出するように凸曲面に形成され、前記注入口が、前記厚さ方向に沿って前記凸曲面に対向配置されていることを特徴としている。
【0007】
この電子機器を製造する際には、例えば、基板によりケースの開口部を覆った状態において、封止樹脂となる液状の樹脂を基板の注入口から凸曲面に向けて注入すればよい。この際、注入された樹脂は、凸曲面によって基板までの距離が長い方の底面(第1底面)側の内部空間に導かれ、この第1底面側の内部空間に樹脂が充填される。そして、第1底面側の内部空間に注入された樹脂の液面が底壁部の第2底面(基板までの距離が短い方の底面)と同じ高さになると、凸曲面は樹脂によって覆い隠されるため、第1底面及び第2底面の両方に樹脂が注入されていくことになる。したがって、内部空間に対する樹脂の充填に偏りが生じることを防いで、封止樹脂中にボイドが発生することを防止できる。
【0008】
そして、前記電子機器において、前記注入口を前記基板の面方向の周縁から最も離れた位置に形成した場合には、樹脂の充填に偏りが生じることを抑制し、内部空間が樹脂で満たされる前に基板の面方向の周縁とケースとの隙間から外部に漏れ出ることを防止することができる。
【0009】
また、前記電子機器において、前記凸曲面を円弧状に形成した場合には、第2底面側と第1底面との間で凸曲面の傾斜角度の変化が一定となるため、樹脂を第1底面側の内部空間に滑らかに導くことができる。
【0010】
さらに、前記電子機器において、前記凸曲面の曲率半径の最小値が、前記基板の注入口から注入されて前記封止樹脂となる液状の樹脂の粘度が高くなる程、大きくなるように設定されることで、樹脂の粘度が高くなる程2つの底面の配列方向に沿う凸曲面の長さ寸法が延びるため、粘度の高い樹脂でも確実に第1底面側の内部空間に導くことができる。また、粘度の低い樹脂を注入する場合には、曲率半径が小さくても樹脂を十分に第1底面側の内部空間に導くことができる。そして、曲率半径を小さくすると、前記配列方向に沿う凸曲面の長さ寸法を短く設定することができるため、電子機器の小型化を図ることもできる。
【0011】
そして、前記電子機器を製造する本発明の製造方法は、前記基板により前記ケースの開口部を覆った状態において、前記封止樹脂となる液状の樹脂を、前記基板の注入口から前記凸曲面に向けて注入することを特徴とする。
この発明に係る電子機器の製造方法によれば、前述したように、樹脂が凸曲面によって底壁部の第1底面側に導かれるため、第1底面側の内部空間に樹脂を充填することができる。なお、第1底面側の内部空間に注入された樹脂の液面が底壁部の第2底面と同じ高さになると、凸曲面は樹脂によって覆い隠されるため、第1底面及び第2底面の両方に樹脂が注入されていくことになる。したがって、内部空間に対する樹脂の充填に偏りが生じることを防いで、封止樹脂中にボイドが発生することを防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基板に対向するケースの底壁部に段差を形成することで、基板に搭載される電子部品の高さ寸法に合わせた内部空間を設計することが可能となるため、電子機器の小型化・薄型化を図ることができる。
そして、電子機器の製造に際して内部空間に注入される樹脂は、第1底面側の内部空間に注入された樹脂の液面が第2底面と同じ高さになるまで、凸曲面によって第1底面側の内部空間に導かれるため、樹脂の注入速度を低く設定しなくても、封止樹脂中にボイドが発生することを防止できる。すなわち、ボイドの発生を防止しながら、電子機器の製造効率向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1〜3に示すように、この実施形態に係る電子機器1は、ケース3と、ケース3内に収容される複数の電子部品5A,5Bを搭載した基板7と、を備えている。
ケース3は、電子部品5A,5Bと電気的に接続される複数の端子11を備えた1次部材としてのコネクタ部13と、電子部品5A,5Bを収容する2次部材としての収容部15とから構成されており、これらは樹脂を用いた多重成形によって一体に成形されている。
【0014】
収容部15は、その厚さ方向に開口する開口部21を有する平面視略矩形の箱状に形成されている。基板7は、この収容部15の底壁部23に対向配置されるように開口部21を覆っている。具体的に説明すると、収容部15の側壁25の内面には複数の台座27が形成されており、これら台座27上に基板7を配置することで、基板7が底壁部23との間に隙間を有した状態で配置されることになる。すなわち、収容部15及び基板7によって内部空間V1が画成されることになる。
なお、基板7は開口部21の大半を覆うように配置されているが、基板7の搭載面7aの周縁と収容部15の側壁25との間には微小な隙間が形成されているため、開口部21は完全には塞がれていない。
【0015】
複数の電子部品5A,5Bは、収容部15の底壁部23に対向する基板7の搭載面7aに搭載されており、上述のように基板7を配置することで内部空間V1に配される。そして、これら複数の電子部品5A,5Bは互いに異なる高さ寸法を有しており、収容部15の底壁部23は相互に異なる電子部品5A,5Bの高さ寸法に対応するように形成されている。
すなわち、収容部15の底壁部23は、基板7に対向して基板7からの距離が相互に異なる2つの底面23a,23bと、これら2つの底面23a,23bを連結する段差面23cとを有している。これら2つの底面23a,23b及び段差面23cは、収容部15及びコネクタ部13の配列方向に沿って並べて配置されており、それぞれ配列方向の直交方向に延びるように形成されている。
そして、搭載面7aからの高さ寸法が大きい第1電子部品5Aは、基板7までの距離が長い方の底面23a(以下、第1底面23aと呼ぶ)に対向するように配され、搭載面7aからの高さ寸法が小さい第2電子部品5Bは、基板7までの距離が短い方の底面23b(以下、第2底面23bと呼ぶ)に対向するように配されている。
【0016】
また、段差面23cは、内部空間V1側に突出する凸曲面(以下、段差面及び凸曲面は共に符号23cで示す)に形成されており、具体的には曲率半径Rが一定の円弧状に形成されている(図4参照)。この凸曲面23cは、第2底面23bよりも上方には突出しないように、また、第1底面23aの上方に張り出さないように形成されている。すなわち、第2底面23bに対する凸曲面23cの開き角度は180°以上に設定されていればよく、また、第1底面23aに対する凸曲面23cの開き角度は90°以上に設定されていればよい。なお、図示例においては、第2底面23bに対する凸曲面23cの開き角度が180°に設定されている。
【0017】
さらに、底壁部23をなす第1底面23aは、コネクタ部13側に位置して収容部15の厚さ方向に直交する平坦面23d、及び、平坦面23dと凸曲面23cとの間に位置して凸曲面23c側から平坦面23dに向けて下方に傾斜する傾斜面23eを有している。なお、この傾斜面23eは、凸曲面23cの最大傾斜角度よりも十分に小さい緩やかな傾斜角度に設定されている。
なお、底壁部23は、これら2つの底面23a,23b及び段差面23cに倣った形状に形成されている、すなわち、底壁部23の厚さ寸法は2つの底面23a,23b及び段差面23cにわたってほぼ同一に形成されており、第2底面23bにおける収容部15の厚さ寸法が、第1底面23aにおける厚さ寸法よりも薄く形成されている。また、凸曲面23cにおける底壁部23の外面は収容部15の外側から窪むように形成されている。このように底壁部23を構成することで収容部15の薄型化が図られている。
【0018】
また、収容部15の第1底面23aに隣接する側壁25Aには、後述するコネクタ部13のインナーハウジング35を設けるための開口孔29が形成されており、この側壁25Aの外面には、収容部15の外側に突出する端子11を囲む筒状のアウターハウジング31が一体に成形されている。
このように構成することで、アウターハウジング31に外力が加わった際に、その応力を収容部15へ分散することができるため、アウターハウジング31と収容部15とを個別に製造して組み合わせる構造と比較して、前述した外力による影響を低減することができる。
【0019】
コネクタ部13は、複数の端子11と、断面L字状に形成されて多重成形によって収容部15と一体に成形されるインナーハウジング35を備えており、複数の端子11は、このインナーハウジング35によって保持されている。
インナーハウジング35の一方の壁部37は、収容部15の開口孔29を塞ぐように配置されており、他方の壁部38は収容部15の第1底面23aに密着するように配置されている。このようにインナーハウジング35を形成・配置することで、収容部15の開口孔29が軸となるようにコネクタ部13に斜め上方から外力が加わっても、その外力を他方の壁部38との密着によって収容部15の第1底面23aに分散させることができる。
【0020】
また、インナーハウジング35は、L字状の内角がトラス状に補強されており、これによってL字形状の安定化が図られている。さらに、インナーハウジング35の一方の壁部37の先端部には、収容部15の側壁25Aに係合する突起39が形成されている。なお、図示はしていないが、他方の壁部38には、収容部15の底壁部23に係合する突出部が形成されている。これら突起39及び突出部により、インナーハウジング35を収容部15に対して強固に固定することが可能となる。
【0021】
そして、インナーハウジング35の一方の壁部37には、その外面からアウターハウジング31側に突出する柱状のシール部41が複数形成されており、各シール部41及び一方の壁部37にわたって貫通して端子11を圧入によって挿通させる圧入孔43が形成されている。これら複数の圧入孔43は所定の間隔で整列されている。各端子11は柱状のシール部41に形成された圧入孔43に圧入されているため、圧入孔43は端子11によって塞がれることになる。これにより、端子11を伝う液体の侵入をシール部41において防止することができ、防水機能を確保することができる。
【0022】
各端子11は、従前から使用されている導電性材料によって形成されており、インナーハウジング35に対する挿抜に耐え得る強度を有している。また、各端子11は、一方の壁部37を貫くようにアウターハウジング31の内側から収容部15内に延びると共に収容部15内において屈曲されてL字状に形成されている。そして、各端子11の一端はアウターハウジング31内に配され、他端は収容部15の開口部21に向けられている。
【0023】
一方、基板7には、端子11の他端を個別に挿通させる小径の接続孔45が複数形成されており、端子11の他端は接続孔45に嵌められるように挿通された状態で、基板7に半田接続されている。なお、端子11と基板7との半田接続は、搭載面7aとは反対側に位置する基板7の裏面7bにおいて行われる。このように端子11と基板7とを接続することで、電子部品5A,5Bと端子11とが相互に電気接続されることになる。
【0024】
また、この電子機器1は、収容部15及び基板7によって画成される内部空間V1に封止樹脂(不図示)を充填して構成される。したがって、内部空間V1内に位置する電子部品5A,5Bや端子11はこの封止樹脂内に埋設され、また、基板7の搭載面7aが封止樹脂によって覆われることになる。
そして、基板7には、その厚さ方向に貫通して前述の封止樹脂を内部空間V1に充填するための注入口47が形成されている。この注入口47は、収容部15の厚さ方向に沿って凸曲面23cに対向するように配置されている。具体的には、図4に示すように、注入口47の中心軸線O1に対する凸曲面23cの接線T1の傾斜角度θが45°となる凸曲面23cの位置に注入口47の中心軸線O1が交差するように、注入口47と凸曲面23cとの相対位置が設定されている。なお、本実施形態において、注入口47は平面視円形状に形成されており(図1参照)、その中心軸線O1は収容部15の厚さ方向に延びる線とされている。
また、注入口47は、図1に示すように、凸曲面23cのうち基板7の面方向の周縁から最も離れた部分に対向するように形成されている。なお、図示例においては、注入口47が基板7の面方向の略中央に形成されているが、少なくとも平面視で凸曲面23cが延びる方向の中間位置に対向する位置に配置されていればよい。
【0025】
以上のように構成された電子機器1を製造する際には、はじめに、所定の金型内に樹脂材料を供給してインナーハウジング35を成形する(コネクタ部成形工程)。なお、インナーハウジング35に使用する樹脂材料としては、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等のように防水性や端子11の挿抜に耐え得る強度及び寸法精度を得ることが可能な特性を有していることが好ましい。
その後、インナーハウジング35に形成された複数の圧入孔43に、複数の端子11の一端側を圧入によって挿通させる(端子取付工程)。以上によって、多重成形における1次部材としてのコネクタ部13の製造が終了する。
【0026】
次いで、収容部15を成形するための金型内にコネクタ部13を配置し、この金型内に樹脂材料を供給する(収容部成形工程)。これにより、多重成形における2次部材としての収容部15が成形される。ここで、収容部15に使用する樹脂材料としては、PBT等のように防水性や外力による変形、あるいは、油脂等に対する耐性等の特性を有することが好ましい。
なお、コネクタ部13を金型内に配置する際には、コネクタ部13の一方の壁部37が収容部15の開口孔29に嵌合するように、また、他方の壁部38が収容部15の底壁部23に係合するように、金型に対するコネクタ部13の位置調整が図られる。さらに詳述すれば、コネクタ部13を金型内に配置する際には、収容部15の側壁25をなす樹脂材料が一方の壁部37に形成された突起39を取り囲むことができるように、また、収容部15の底壁部23をなす樹脂材料が他方の壁部38に形成された突出部(不図示)を取り囲むことができるように、金型に対するコネクタ部13の位置調整が図られる。
以上により、収容部15及びコネクタ部13からなるケース3の製造が終了する。
【0027】
また、ケース3の製造と同時あるいは前後に、基板7に接続孔45及び注入口47を形成しておき、さらに、種々の電子部品5A,5Bを基板7の搭載面7aに搭載しておく。そして、基板7によって収容部15の開口部21が覆われるように、基板7を収容部15の台座27上に配置する(基板配置工程)。その後、基板7と各端子11の他端とを半田接続することで、収容部15に対する基板7の取り付けが終了する。
最後に、基板7の注入口47から内部空間V1に封止樹脂となる液状の樹脂を注入し(樹脂注入工程)、この樹脂が硬化して封止樹脂となることで、電子機器1の製造が完了する。
【0028】
なお、樹脂注入工程においては、基板7が収容部15よりも鉛直方向上側に位置するようにケース3を配置する。この状態において、図5に示すように、注入口47から凸曲面23cに向けて液状の樹脂を注入すると、樹脂は凸曲面23cによって第1底面23a側の内部空間V1に導かれる。ここで、凸曲面23cは円弧状に形成されており、これによって第2底面23b側と第1底面23aとの間で凸曲面23cの傾斜角度の変化が一定となるため、樹脂を第1底面23a側の内部空間V1に滑らかに導くことができる。
この結果、樹脂は第1底面23a側の内部空間V1に充填されることになる。そして、第1底面23a側の内部空間V1に注入された樹脂の液面が第2底面23bと同じ高さになると、凸曲面23cが樹脂によって覆い隠されるため、第1底面23a及び第2底面23bの両方に樹脂が注入されていくことになる。
【0029】
次に、樹脂注入工程について行った実験とその結果について説明する。
この実験においては、第1底面23aの平坦面23dに対する第2底面23bの高さ位置が10mmに固定されている。また、凸曲面23cは、第2底面23bに対する凸曲面23cの開き角度が180°となるように、さらに、凸曲面23cの傾斜角度θが45°となる位置を含むように形成されている。また、樹脂の注入速度は12.5g/secに固定している。
上記条件の下で、曲率半径Rを1〜5mmの間で1mmずつ変化させ、さらに、各曲率半径Rにおいて様々な粘度の樹脂を用いて樹脂注入工程を実施する実験を行った。
【0030】
その結果、同一の曲率半径Rに対して様々な粘度の樹脂を注入した場合には、樹脂の粘度が所定値よりも高くなったところで、内部空間V1が樹脂で満たされる前に基板7と収容部15の側壁25との隙間から樹脂が溢れ出し、内部空間V1にある封止樹脂中にボイドが発生することが確認された。すなわち、曲率半径Rを一定とした場合、ボイドの発生を防止できる樹脂の粘度には、上限値が存在する。
また、様々な曲率半径Rに対して同一粘度の樹脂を注入した場合には、曲率半径Rが所定値よりも小さくなったところで、前述と同様に、封止樹脂中にボイドが発生することが確認された。すなわち、樹脂の粘度を一定とした場合、ボイドの発生を防止できる曲率半径Rには、最小値が存在する。
以上の結果を図6のグラフにまとめる。なお、このグラフにおける各プロット点は、各曲率半径Rにおける樹脂の粘度の上限値を示すと同時に、樹脂の各粘度における曲率半径Rの最小値を示している。
【0031】
このグラフによれば、樹脂の粘度が高くなる程、曲率半径Rの最小値を大きく設定することで、ボイドの発生を防止できることが明らかとなった。また、曲率半径Rが大きくなる程、使用可能な樹脂の粘度の上限値が大きくなることが明らかとなった。したがって、曲率半径Rと樹脂の粘度との組み合わせが、グラフにおいてプロット点を結んだ線よりも下側の斜線領域内に収まっていれば、樹脂の注入速度を変えることなく、ボイドの発生を防止することができる。
この結果について考察すると、樹脂の粘度が高くなる程樹脂の流れは鈍くなるが、凸曲面23cの曲率半径Rが大きく設定され、これによって2つの底面23a,23bの配列方向に沿う凸曲面23cの長さ寸法が延びることで、粘度の高い樹脂でも、その注入速度を変えることなく、確実に第1底面23a側の内部空間V1に導くことができる、と考えられる。
なお、図6のグラフによれば、粘度の低い樹脂を注入する場合には、曲率半径Rが小さくても樹脂を十分に第1底面23a側の内部空間V1に導くことができることが分かる。そして、曲率半径Rを小さくすると、2つの底面23a,23bの配列方向に沿う凸曲面23cの長さ寸法を短く設定することができるため、電子機器1の小型化を図ることができる。
【0032】
以上説明したように、上記実施形態による電子機器1及びその製造方法によれば、基板7に対向する収容部15の底壁部23に段差を形成することで、基板7に搭載される電子部品5A,5Bの高さ寸法に合わせた内部空間V1を設計することが可能となるため、電子機器1の小型化・薄型化を図ることができる。
そして、電子機器1の製造に際して内部空間V1に注入される液状の樹脂は、第1底面23a側の内部空間V1に注入された樹脂の液面が第2底面23bと同じ高さになるまで、凸曲面23cによって第1底面23a側の内部空間V1に導くことができる。このため、樹脂の注入速度を低く設定しなくても、内部空間V1に対する樹脂の充填に偏りが生じることを防いで、封止樹脂中にボイドが発生することを防止できる。すなわち、ボイドの発生を防止しながら、電子機器1の製造効率向上を図ることが可能となる。
【0033】
特に、本実施形態においては、凸曲面23cを円弧状に形成し、さらに、樹脂の粘度が高くなる程、凸曲面23cの曲率半径Rの最小値を大きくなるように設定しているため、ボイドの発生を確実に防止することができる。
また、注入口47を凸曲面23cのうち基板7の面方向の周縁から最も離れた位置に形成することで、樹脂の充填に偏りが生じることをさらに抑制できるため、内部空間V1が樹脂で満たされる前に基板7の面方向の周縁と収容部15の側壁25との隙間から外部に漏れ出ることを防止できる。
【0034】
以上、本発明の実施形態である半導体装置について説明したが、本発明の技術的範囲はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、注入口47は平面視形状は、上記実施形態のように円形状に形成されることに限らず、楕円形状や多角形状等のように種々の形状に形成されていてよい。
また、凸曲面23cは、曲率半径Rが一定の円弧状に形成されることに限らず、例えば曲率半径が周方向に向けて変化する楕円状等の円弧に形成されていてもよい。
【0035】
さらに、収容部15の底壁部23を構成する2つの底面23a,23b及び段差面23cの配置は、上記実施形態のものに限らず、少なくとも基板7に搭載される複数の電子部品5A,5Bの高さ寸法や配置に対応するように形成されていればよい。ただし、高さ寸法の最も高い電子部品5Aは、端子11に隣り合うように配されることが最も好ましい、すなわち、この電子部品5Aに対向配置される収容部15の底面23aはコネクタ部13の近傍に形成されることが好ましい。
【0036】
また、底面23a,23b及び段差面23cの数は、上記実施形態のものに限らず、電子部品の数や形状に応じて、例えば3つ以上の底面、及び、相互に隣り合う底面を連結する複数の段差面を有していてもよい。この場合、基板7の注入口47は、いずれか1つの段差面に対向する位置に形成されていればよいが、同一の段差面のうち基板の面方向の周縁から最も離れた部分に対向する位置に形成されることが好ましい。また、少なくとも注入口47に対向する1つの段差面のみが、凸曲面に形成されていればよい。
【0037】
さらに、ケース3の収容部15は、平面視で略矩形状に形成されることに限らず、円形状等、様々な形状とすることができる。
また、上記実施形態においては、コネクタ部13を製造する際に、インナーハウジング35の成形後に複数の端子11を圧入したが、例えば予め複数の端子11を所定の配列状態でインナーハウジング成形用の金型内に配置し、この金型内に樹脂を供給することでインナーハウジング35を成形してもよい。すなわち、インナーハウジング35及び端子11を備えるコネクタ部13は、インサート成形によって製造しても構わない。
【0038】
そして、ケース3は、上記実施形態の構成に限らず、少なくとも厚さ方向に開口する開口部21を有する箱状に形成されて、凸曲面とされた段差面23cを含む底壁部23を備えていればよい。したがって、アウターハウジング31は収容部15に一体に成形されることに限らず、例えばコネクタ部13に一体成形されていてもよい。また、ケース3は、コネクタ部13及び収容部15を多重成形によって一体に成形した構成に限らず、例えば、コネクタ部13及び収容部15を単純に一体成形してもよいし、収容部15のみを備えて構成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態である電子機器を示す平面図である。
【図2】図1のA−A矢視断面図である。
【図3】図1の電子機器において、ケースに基板を取り付ける前の状態を示す断面図である。
【図4】ケースの凸曲面と基板の注入口との位置関係を示す要部拡大断面図である。
【図5】注入口から内部空間に注入された樹脂の流れを示す要部拡大断面図である。
【図6】凸曲面の曲率半径と樹脂の粘度との関係を示すグラフである。
【図7】従来の半導体装置の一例を示す概略断面図である。
【図8】従来の半導体装置の他の例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 電子機器
3 ケース
7 基板
21 開口部
23 底壁部
23a 第1底面
23b 第2底面
23c 凸曲面(段差面)
47 注入口
R 曲率半径
V1 内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に開口する開口部を有するケースと、前記ケースの底壁部に対向配置されて前記開口部を覆う基板と、前記ケース及び前記基板によって画成される内部空間に充填される封止樹脂と、を備え、
前記基板に、その厚さ方向に貫通して前記封止樹脂を前記内部空間に充填するための注入口が形成され、
前記底壁部が、前記基板に対向して当該基板からの距離が相互に異なる2つの底面と、これら2つの底面を連結する段差面とを有し、
該段差面が、前記内部空間側に突出するように凸曲面に形成され、
前記注入口が、前記厚さ方向に沿って前記凸曲面に対向配置されていることを特徴とする電子機器。
【請求項2】
前記注入口が、前記凸曲面のうち前記基板の面方向の周縁から最も離れた部分に対向するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記凸曲面が円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記凸曲面の曲率半径の最小値は、前記基板の注入口から注入されて前記封止樹脂となる液状の樹脂の粘度が高くなる程、大きくなるように設定されることを特徴とする請求項3に記載の電子機器。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電子機器を製造する製造方法であって、
前記基板により前記ケースの開口部を覆った状態において、前記封止樹脂となる液状の樹脂を、前記基板の注入口から前記凸曲面に向けて注入することを特徴とする電子機器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−277881(P2009−277881A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127640(P2008−127640)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000002037)新電元工業株式会社 (776)
【Fターム(参考)】