電子的に制御された焦点調節眼科用装置
【解決手段】第1の態様によると、本願発明はユーザによって装着される電子的に制御された焦点調節眼科用装置(43)に関する。本装置は、電圧印加のもとでエレクトロウェッティングによって移動可能な液体/液体界面を含む少なくとも1つの能動液体レンズと、印加される電圧の振幅が所望の焦点調節の関数である直流電圧を前記能動液体レンズに印加するための駆動部と、ユーザのまぶたの閉鎖および/または固視微動を検出するためのセンサ(41)と、ユーザの固視微動および/またはまぶたの閉鎖中に駆動部が直流電圧の分極を反転させうるように、前記センサと駆動部とを同期させるための制御部と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電子的に制御された焦点調節眼科用装置、より具体的には老眼などの調節障害を治療するための自動焦点調節眼科用装置に関する。そのような眼科用装置は、たとえば眼鏡、コンタクトレンズまたは眼球内インプラントである。
【背景技術】
【0002】
老眼は、近くの物体に焦点を合せる眼の能力が、年齢とともに次第に低下する状態である。人々が調節力を失う別の状況は、白内障の手術後である。つまり、天然のレンズの外科的切除に続いて、透明なポリマーから作られた固定型焦点レンズである人工眼内レンズインプラントが挿入される。矯正レンズおよびコンタクトレンズは、老眼および他の調節障害に伴って生じる焦点調節の喪失を補正するために、主に開発されてきた。最近になって調節性眼内レンズ(IOLs)の埋め込みが開発されてきた。
【0003】
自動焦点調節レンズまたは自動焦点調節インプラントは、自動調節をもたらしてもよい。自動調節は、老眼または他の調節障害の治療に対して非常に重要な特徴である。自動調節は、物体までの距離にかかわらず、観察された光景に自動的に焦点を合わせ、網膜上に鮮明な像を生成する眼の能力である。図1(A)は、老眼を矯正するための自動焦点調節レンズ視覚システムの通常の形態を説明する。患者は、能動レンズ10と、距離計11によって測定された患者が見ている物体との距離に応じて可変的な光学ジオプトリ補正をする前記能動レンズ10と、たとえば眼鏡に固定された前記距離計とを備えた眼鏡1を装着する。
【0004】
自動焦点調節レンズの問題(特にコンタクトレンズおよび眼球内インプラントに対する)の1つは、患者が見ている物体に関する距離情報を含む制御信号を、レンズに供給することである。
【0005】
自動焦点調節レンズの別の問題点は、レンズの操作を可能にする適切な小型電池または任意の他の電源を提供することである。コンタクトレンズまたは眼球内インプラントでは限られた空間しか使用することができないため、自動焦点調節レンズが使用できる消費電力は、非常に少ない消費電力、通常は数マイクロワット程度に制限されるであろう。眼鏡では、眼鏡の重さの制約が電池の種類にも制約をもたらす。これにより、わずか数マイクロワット、またはもっと言えば数10ナノワットしか消費しない自動焦点調節レンズを実現するという共通の目標がもたらされる。
【0006】
従来技術の公表文献の中には、変形レンズを用いた自動焦点調節レンズを有する視覚システムを記述しているものがある(たとえば、佐藤修ら、Journal of Robotics and Mechatronics 第13巻第6号(2001年)第581〜586頁、および藤田豊己ら、Journal of Robotics and Mechatronics 第13巻第6号第575〜579頁を参照)。このような視覚システムでは、距離計は眼の輻輳(convergence)を測定する小型の光学装置を用いて作られる。図1(B)は藤田豊己らによる上述の文献に記載された自動焦点調節眼鏡1を示す。この眼鏡は焦点距離レンズ駆動部17により制御される可変焦点調節レンズ15を含む。眼の輻輳を測定してこれに対応する患者が見ている物体との距離を計算するために、凝視(Gaze)距離検出器16が眼鏡に実装されている。
【0007】
当技術分野では異なるタイプの可変レンズが知られている。液晶系の眼球内インプラント用の適応レンズは、たとえばヴドヴィンら(Optics Express 第1巻第7号(2003年)第810〜881頁)において説明されてきた。G.リーら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2006年)第103巻第6100頁)には、可変回折レンズを含む1組の眼鏡が示されている。
【0008】
本出願の出願人による欧州特許出願第1996968号は、エレクトロウェッティング(electrowetting)式の可変焦点調節インプラントを説明する。本出願の図の1つが図2に再現されている。特に、エレクトロウェッティング式の能動液体レンズは、たとえば液晶能動レンズなどの他の技術と比較して、高度な補正動態(dynamics)をもたらす。たとえば、5〜7ディオプター(diopters)という視覚変動(optical variation)の典型的な範囲は、瞳孔径6mmの液体レンズを用いて実現できる。インプラント2は、透明で弾力性の物質、たとえばポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、エポキシ、ポリエステル、フッ素重合体、FEP、PTFA、ポリオレフィン、またはポリシクロオレフィンのような透明なポリマーから作られたカプセル2を含む。カプセル内には、2種類の液体21,22が封入されている。これらの液体は、透明で混和せず、およそ同じ密度および異なる屈折率を有する。第1の液体21は、非極性で非導電性の(つまり絶縁性の)の液体であって、カプセル内部で液滴を形成する。第2の液体22は導電性の極性液体であって、水性の溶液でありうる。環状である第1の電極23は、エレクトロウェッティング作動用に薄い絶縁膜24により被覆されている。図2に示される配置では、薄い絶縁膜24はカプセルの窓の機能も果たしている。第2の電極25は導電性液体22と直接接触している。エレクトロウェッティング作動はレンズを駆動させるために使用される。制御信号を受けると、電圧が電極23と電極25との間に印加される。印加された電圧は、エレクトロウェッティング効果により液体21の液滴の接触角における変化を誘導する。図2に示されるように、電圧が変化する間に液滴の形状は形状A(扁平な液滴)から形状B(曲面状の液滴)へと変化する。2つの液体の屈折率が異なるため、この装置は屈折が数ディオプターから数10ディオプターまで及びうる可変電動レンズを形成する。
【0009】
電圧に対する接触角の変化率は、理論上は印加された電圧の2乗に比例することが示されてきた(たとえばB.バージの「水による絶縁膜の電気毛管現象およびウェッティング」Comptes rendus de l’Academie des sciences−Serie deux, Mecanique, physique, chimie, sciences de l’univers, sciences de la terre−ISSN 0764−4450(1993年)第317巻第2号第157〜163頁を参照)。接触角は、電圧Vの関数として以下の式によって表現することができる。
【0010】
【数1】
【0011】
式中、ε、ε0、γはそれぞれ絶縁膜の誘電率、真空の誘電率、および2つの液体の界面の界面張力を表す。
【0012】
したがって、エレクトロウェッティング効果は、理論上は直流電圧(正または負のいずれか)または交流電圧によって得られる。式1中の電圧Vは、RMS(二乗平均平方根)値によって置換される:
【0013】
【数2】
【0014】
エレクトロウェッティング式の自動焦点調節レンズを作るために、いずれの溶液が使用されてもよいことを出願人は示してきた。交流電圧を用いることによって、非常に安定した自動焦点調節レンズがもたらされてもよい。この場合、屈折力の補正(ジオプトリ補正)は経時的に非常に安定している。しかし、消費電力が大きい(通常は数10ミリワットである)。直流電圧を用いることにより、低い消費電力が実現できるかもしれない。電圧反転用に電流を作り出す必要がないからである。しかし、後述するように、ジオプトリ補正は時間に対して安定でない可能性がある。
【0015】
図3(A)および図3(B)に示されるように、定電圧が印加された場合、エレクトロウェッティング効果は数10ミリ秒〜数100秒の範囲の時定数τとともにゆっくりと減少する。補正が非常に長い時間(数10分)行われた場合、最終的にはエレクトロウェッティング効果は完全に消失する。分極反転時に、エレクトロウェッティング効果が回復することにより、患者の視力中に変動(perturbation)が誘導される。図3(A)および図3(B)は、直流電圧により駆動されたエレクトロウェッティング式能動レンズの典型的な応答を示す。各図の上には、能動レンズに印加された直流電圧を時間の関数として示す。各例に対して、半減期Tにて分極反転が加えられた。各図の下に示されているのは、任意の単位で表されたエレクトロウェッティング応答である。エレクトロウェッティング応答は、接触角、ディオプターで表されたレンズの屈折力、またはたとえばキャパシタンスのように液体の液滴の形状に関する任意の他の直接または間接測定のいずれかであってもよい。図3(A)に示された例では、エレクトロウェッティング効果の時定数τが半減期Tに比べてずっと小さいことにより、エレクトロウェッティング効果は消失するまで減少する。図3(B)は正反対の場合を示す。ここではエレクトロウェッティング効果の時定数τが半減期Tよりもずっと大きい。この場合でさえ、エレクトロウェッティング効果が不連続である可能性がある。これは患者には小さな衝撃性の変動として見えるかもしれない。この変動は鬱陶しいか、さらには耐えられないことがある。
【0016】
本願発明の目的の1つは、非常に安定した光学補正を保持しつつも低い消費電力によって、たとえば老眼または他の調節障害を補正するための電子的に制御された眼科用装置を提供することである。
【発明の概要】
【0017】
第1の態様によると、本願発明はユーザによって装着される電子的に制御された焦点調節眼科用装置を制御するための方法に関する。前記装置は、電圧を印加した状態でエレクトロウェッティングによって移動可能な液体/液体界面を含む少なくとも1つの能動レンズを含む。前記方法は、
振幅が眼科用装置の所望の焦点調節の関数である直流電圧を、前記能動レンズに印加するステップと、
ユーザの固視微動(microsaccade)および/またはまぶたの閉鎖(eyelid closing event)を検出するステップと、
前記固視微動および/またはまぶたの閉鎖中に直流電圧の分極を反転させるステップと、を含む。
【0018】
固視微動またはまぶたの閉鎖を利用して分極を反転させる。これにより、患者(ユーザ)には見えずに分極を反転させる間に、エレクトロウェッティング効果を最終的に不連続にすることができる。
【0019】
好ましい実施の形態によると、本方法は電圧の直近の分極反転からの経過時間を測定するステップと、前記経過時間が所定の第1の値よりも大きいときにのみ直流電圧の分極を反転させるステップと、をさらに含む。直近の分極反転からの経過時間を測定することにより、分極反転が頻繁に起こりすぎない状態を実現することが可能となる。したがって、消費電力を低く抑えることが可能となる。
【0020】
前記第1の値は、一般的には約100ミリ秒〜10秒、たとえば1秒〜5秒に含まれる。前記第1の値は、たとえば本システムによって許容された最大消費電力の関数として決定される。
【0021】
さらに好ましい実施の形態によると、本方法は、前記経過時間が前記第1の値より大きく所定の第2の値より小さい場合に、次に検出されたユーザの固視微動またはまぶたの閉鎖中に直流電圧の分極を反転させるステップと、前記経過時間が前記第2の値を上回るとすぐに、直流電圧の分極を反転させるステップと、をさらに含む。これにより、たとえユーザによる固視微動またはまぶたの閉鎖がなくても、所定の(最大)時間の後に確実に分極反転が生じるようにすることができる。したがって、エレクトロウェッティング効果のあらゆる大きな減少を防止することができる。
【0022】
前記第2の値は、一般的には約10秒〜2分に含まれ、液体レンズのエレクトロウェッティング時定数の関数として決定されてもよい。
【0023】
さらに好ましい実施の形態によると、本方法は所望の焦点調節を決定するために、ユーザが見ている物体までの距離を測定するステップをさらに含む。これにより、測定された距離に基づいて能動液体レンズを自動的に制御することが可能となる。
【0024】
第2の態様によると、本願発明はユーザによって装着される電子的に制御された焦点調節眼科用装置に関する。この装置は、
電圧を印加した状態でエレクトロウェッティングによって移動可能な液体/液体界面を含む少なくとも1つの能動液体レンズと、
印加される電圧の振幅が所望の焦点調節の関数である直流電圧を前記能動液体レンズに印加するための駆動部と、
ユーザのまぶたの閉鎖および/または固視微動を検出するためのセンサと、
ユーザの固視微動および/またはまぶたの閉鎖中に駆動部が直流電圧の分極を反転させうるように、前記センサと駆動部とを同期させるための制御部と、を含む。
【0025】
好ましい実施の形態によると、本眼科用装置は、ユーザが見ている物体までの距離を測定するための装置をさらに含む。所望の焦点調節は測定された距離の関数である。
【0026】
さらに好ましい実施の形態によると、制御部は直近の分極反転からの経過時間を測定するようにさらに構成されている。
【0027】
好ましい実施の形態によると、能動レンズは、
前記液体/液体界面を形成する2つの透明で混和しない液体である第1の導電液および第2の非導電液を収容するチャンバと、
それぞれ直流電圧が印加される、絶縁膜により被覆された第1の電極および前記導電液と接触する第2の電極と、を含む。
【0028】
好ましい実施の形態によると、エレクトロウェッティング効果の時定数は1秒より大きい。エレクトロウェッティング効果に対する時定数が大きいことにより、まぶたの閉鎖または固視微動とは無関係に分極反転が起きた場合に、ユーザに対する残存衝撃性の(residual shock)変動を制限することができる。
【0029】
第1の実施例によると、電子的に制御された焦点調節眼科用装置は、眼球内インプラントまたはコンタクトレンズである。
【0030】
第2の実施例によると、電子的に制御された焦点調節眼科用装置は、2つの能動液体レンズおよび各能動液体レンズ用の駆動部を含む1組の眼鏡である。制御部は、前記センサと駆動部との間の同期をさらに確実にする。
【0031】
本願発明の他の態様および長所は、以下の図を用いてなされた以下の説明から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1(A)】(既に説明済)従来技術に従った電子的に制御された焦点調節眼科用装置および眼鏡の一般的な構造を示す。
【図1(B)】(既に説明済)従来技術に従った電子的に制御された焦点調節眼科用装置および眼鏡の一般的な構造を示す。
【図2】(既に説明済)従来技術に従った眼球内インプラントに実装されたエレクトロウェッティング式能動レンズを示す。
【図3(A)】(既に説明済)2つの形態において印加電圧の関数としてエレクトロウェッティング式能動レンズの応答を示す。
【図3(B)】(既に説明済)2つの形態において印加電圧の関数としてエレクトロウェッティング式能動レンズの応答を示す。
【図4】本願発明の実施の形態に従った電子的に制御された眼科用装置の例を示す。
【図5】ユーザのまぶたの閉鎖を説明する写真である。
【図6】図4に示された能動コンタクトレンズの内部構造の一例を示す。
【図7】図6に示された能動コンタクトレンズが患者の眼に配置された一例を示す。
【図8】一例として時間の関数として能動レンズに印加された駆動信号、ならびに物体までの距離およびまぶたの閉鎖に基づく駆動信号を説明する図である。
【図9】本願発明の好ましい実施の形態に従った電子的に制御された焦点調節眼科用装置を制御するための方法を説明する図である。
【0033】
(詳細な説明)
図4は、第1の好ましい実施の形態に従った電子的に制御された焦点調節眼科用装置の例を示す。本装置は、患者の眼40の上に配置され、エレクトロウェッティングにより駆動される液体/液体界面(図4には示されていない)を含むことによって能動液体レンズを形成する能動コンタクトレンズ43を含む。本装置は、焦点が合わせられる物体までの距離を測定するための距離測定装置44をさらに含む。たとえば距離計は、従来技術に記載されているように、ユーザの眼の輻輳の測定を可能にするセンサである。本装置はまた、電源、液体レンズ用の駆動部、および制御部を備えた電子モジュール45を含む。駆動部は、液体レンズに所望の焦点調節に応じて電圧を印加するように構成されている。所望の焦点調節が距離測定装置44により測定されたある物体までの距離から計算されることによって、装置の自動的な焦点調節が可能となってもよい。以下でより詳細に説明するように、エレクトロウェッティング効果を回復させるために、電圧の分極反転が実現される。図4に示された実施の形態では、眼科用装置はユーザのまぶた42がいつ閉じられたかを検出するためのまぶたセンサ41をさらに含む。
【0034】
好ましい実施の形態によると、分極反転とまぶたの閉鎖(第1のモード)および/または眼の固視微動(第2のモード)との同期化が実行される。
【0035】
まぶたのまばたきはいくつかの段階に分解することができる。まぶたが閉じようとしている段階、まぶたが閉じた段階、まぶたが開こうとしている段階である。図5は、通常のビデオカメラ(30フレーム/秒)を用いて撮影された典型的なまぶたの閉鎖の例を示す。図5では、まぶたが通常50ミリ秒間閉じていることを確認することができる。これは分極反転を行うのに必要な時間よりも長い。まぶたが閉じるとできるだけすぐに、そしてまぶたが再び開く前にいつでも分極反転を行うことができるように、まぶたセンサは十分に速いことが必要である。したがって、(分極反転により誘導された)焦点の突然の上昇による小さな衝撃は、患者には見えないであろう。まぶたが閉じている時は目が見えないからである。
【0036】
第2のモードも非常に効果的である。眼が固視微動する間、網膜に投影された映像が素速く変化するため、焦点の素速い変化に患者が気付かないからである。焦点の変化は固視微動自体の素速い変化に含まれる。
【0037】
ヒトの眼の固視微動に関するいくつかの説明を以下に示す。固視微動はある種の眼の固視運動である。固視微動は小さくけいれんのような眼の不随意運動であって、随意衝動性運動の小型版のようである。固視微動はヒトだけではなく中心視覚を有する動物(霊長類やネコなど)において、(少なくとも数秒におよぶ)持続性の固視の最中に起きることが多い。固視微動の振幅は、2〜120分角(arcminutes)まで変化する。イングバートおよびマーゲンターラー(2006年)によると(「固視微動は小さな網膜像の変異(slip)により引き起こされる」Proc Natl Acad Sci USA(2006年5月2日)第103号第18巻第7192〜7197頁)、固視微動はドリフト(drift)および震え(tremor)を伴う眼の固視運動の3つの異なるタイプのうちの1つである。固視微動は「最大振幅(5〜7)を有する最速の成分を表し、1〜2回/秒の平均速度にて生じる。眼の固視運動により生み出された軌道はかなり不規則であって、ランダムウォーク(8〜10)という統計的特性を有する。より遅い動き(ドリフトおよび震え)に組み込まれた場合、固視微動は眼の弾道性の跳躍(ballistic jumps)(<1°)であって、おおよそ直線運動の時期(epoches)を示す」。ここで引用された文献から、固視微動の継続時間が10ミリ秒のオーダーであることが推測できるであろう。モラーら(2006年)によると(「安定的な両眼固視の維持における固視微動およびドリフトの寄与」F.モラー、M.L.ラウルセン、A.K.ショーリエ、Graefe’s Arch Clin Exp Ophthalmol(2006年)第244巻第465〜471頁)、「これらの眼の固視運動は、1934年から詳細に研究されてきた結果、遅いドリフト運動(振幅0.02°〜0.15°)によって妨害され、これらの運動に絶えず重ね合わされた速い固視微動(継続時間25ミリ秒、振幅0.22°〜1.11°、0.1〜5Hz)、高周波数(50〜100Hz)、低振幅(0.001°〜0.008°)、震え[5,6,20,23,25]とともにかなり一定であることが分かっている」。
【0038】
したがって、たとえばジャイロスコープを用いて開始の素速い検出を可能にするため、そして固視微動が終わる前に分極反転を加えるためには、固視微動の継続時間(>10ミリ秒)は十分に長い。
【0039】
2つのモード(まぶたおよび固視微動)が混合可能であることは当業者には自然に映るであろう。さらに、固視微動以外の眼の動きの形態が使用されてもよい。これらの眼の動きが十分に速い限り、これらが分極反転を引き起こすであろう。
【0040】
図6は、図4に示された眼科用装置に適した能動コンタクトレンズ50の考えられる内部構造を示す。能動コンタクトレンズ60は、液体/液体界面65を形成する2つの透明で混和しない液体62,63を含むポリマー外膜61を備えたエレクトロウェッティング式の能動液体レンズを含む。液体のうち一方は導電性であって、他方は電気的に絶縁性である。図2を参照して既に説明したように、2つの電極66,67はエレクトロウェッティング作動用に配列されている。図6の例では、第1の電極66は環状であって、薄い絶縁膜68により被覆されている。第2の電極67は導電性液体63と直接接触している。描かれた装置には、制御部用の電源64および液体レンズ用の駆動部(図6では参照番号69)を含む必要なすべての電子部品が組み込まれてもよい。レンズの梱包は、酸素透過性の透明な材料を用いて行われる必要がある。このような材料がコンタクトレンズに必須だからである。とは言え、これらの材料は水にも透過性であるため、レンズから外へと水が蒸発する可能性がある。したがって、これらの材料は使い捨て用である必要がある。眼球内インプラントの場合、梱包用の材料は、たとえばヒドロゲル親水性/疎水性アクリルまたはシリコーンのように生体適合性を有することがさらに必要となるであろう。
【0041】
図7は眼の側面図を示す。まぶたが開いている。能動コンタクトレンズ60は、たとえば超音波エコーまたは赤外線ビームに基づいて、たとえば小型距離計72を用いて焦点をリアルタイムに補正してもよい。距離計72は、眼の前にある物体までの距離(25cm〜数m)を測定する。コンタクトレンズ内部の制御部は、エレクトロウェッティングセル(液体レンズ)に印加される電圧を計算し、次に患者が常に良好な焦点を得るのに適した直流電圧を印加する。したがって患者は、近見に対しても遠方に対しても良好な視力を有する。制御部の別の部分または別の電子回路は、まぶたが開いているか閉じている場合にまぶたセンサ71から検出を行なってもよい。まぶたセンサがまぶたの閉鎖を検出するとすぐに、制御部が液体レンズに印加される直流電圧の分極反転を誘導してもよい。
【0042】
まぶたセンサは、まぶたが閉じているときに微光を検出する単純な光ダイオード、またはまぶたの接触を感知する物理接触センサ、または他のあらゆる可能なセンサとすることができる。
【0043】
距離計センサは、超音波エコーセンサ、または赤外線ダイオードもしくはレーザー光に基づく装置であってもよい。他の実施の形態によっては、たとえば眼のインプラントの実施の形態のように、距離情報は圧力センサによって得ることができる。圧力センサは、輻輳を制御する筋肉の下側にて眼の外側に配置されている(たとえばフランソワ・ミシェル博士による国際特許出願第2004/004605A1号を参照)。藤田豊己らによる従来技術において議論されているように、眼鏡の場合の距離測定装置はまた、両眼間の瞳孔の輻輳を観察することに基づくこともできる。
【0044】
固視微動中に分極反転が実現できる場合、まぶたセンサは眼の回転運動を検出する小型ジャイロスコープ(たとえばMEMS装置)によって置き換えられてもよい。眼の固視微動に典型的な100°/秒のオーダーの角速度は、そのようなセンサによって容易に測定できる。
【0045】
分極反転は(まぶたの場合と固視微動の場合の両方において)、古典的な水素ブリッジ電子構造、4端子型電界効果トランジスタ、または任意の反転電子リレーシステムを用いて行われてもよい。
【0046】
図4,6,7に示された例は、コンタクトレンズの特定の実施の形態を示す。しかし、白内障の手術用のインプラント(眼科用インプラントまたは結晶性インプラントとも呼ばれる)、可変コンタクトレンズおよび可変眼鏡さえも含むあらゆる形態のレンズに本願発明が同様に適用されてもよいことは明らかである。
【0047】
図8は、時間の関数として能動レンズに印加された駆動信号、ならびに物体までの距離(distance of the scene)およびまぶたの閉鎖に従った駆動信号を説明する図の例を示す。図8の上段に示された第1の曲線80は、距離計により測定された距離を示す。患者が移動しながら異なる物体を見ているときに、距離計は時間とともに可変距離を測定する。この測定された距離dは、制御部によってジオプトリ補正(曲線81)に変換される。制御部は、エレクトロウェッティング液体レンズへと制御電圧を搬送する。第3の曲線82はまぶたセンサの出力である。普通は眼は開いており、少しの間まぶたが閉じている。図8では、時間尺度が正確であることが意図されていない点に留意すべきである。まぶたの閉鎖の前に観察された距離の変化量が、典型的には数秒である長い時間尺度にて示されている。一方、まぶたの閉鎖および再開放のパターンは典型的には50ミリ秒の長さである。まぶたの閉鎖が検出された直後に、制御部は分極反転を引き起こす。第4の曲線83は、エレクトロウェッティング装置の電極間に印加された有効電圧に対応する。電圧は物体までの距離の関数である。遠方視力に対しては電圧は相対的に低いが、近見視力に対しては電圧は相対的に高い。上述したように、エレクトロウェッティング効果は電圧の2乗に比例する。このことは、電圧の絶対値が測定された距離に関係することを意味する。電圧のサイン(sign)が何であろうと、電圧に対する小さな絶対値は遠方視力に対応する。曲線83に示されるように、患者が見た像中に小さな衝撃を生み出しうる分極反転は、まぶたが閉じているために眼が見えていないときに1度起きる。
【0048】
上述した実施の形態は(以下に示すアルゴリズムの例と同様に)まぶたセンサの実例に関するが、これらが他の態様に、たとえば眼の固視微動として適用されてもよいことは当業者には明らかであろう。この最後の実例では、まぶたセンサは改良されたフィルタリング、ノイズ除去および閾値を有するジャイロスコープ情報によって置き換えられてもよい。
【0049】
材料工学、特に絶縁膜および液体の工学が、エレクトロウェッティング効果の大きな時定数τを実現するために行われることが有利である。この材料工学には、電荷注入に耐性のある絶縁体が必要となることが多い。一般に、内部で電荷が帯電している(たとえばイオンが容易には貫通できない)硬質材料は有望な候補となるであろう。たとえば直流電圧下でフッ素重合体により被覆されたパリレン絶縁層を用いることにより、1秒を超える時定数が得られてもよい(たとえばウェルターズらのLangmuir(1998年)第14巻第1535〜1538頁を参照)。大きな時定数を得るために、フッ素化された有機材料もしくは無機材料、またはゾルゲル合成により形成された有機と無機のハイブリッド材料を使用することにも関心が持たれてもよい。さらに、導電液は塩が入った水溶液を含むことが有利である。塩はサイズの大きいイオンから構成されていることが好ましい。非導電液は、脂肪油、芳香油、シリコーン油、ゲルマニウム(germane)化合物の混合物を含むことが有利である。エレクトロウェッティング式の液体レンズにおける液体の工学は、たとえば公開された国際特許出願第2007088453A1号に本出願人の名前にて記載されている。
【0050】
図9は、本願発明の好ましい実施の形態に従った自動焦点調節補正レンズを制御するための方法のフローチャートである。この実施の形態では、無限ループによって測定された距離の関数として自動焦点調節レンズのリアルタイムな補正を行うことが可能となる。これにより、眼が常にはっきりと見える状態を確保することができる(図9のステップ91、92)。直近の分極反転から経過した時間を監視するために、タイマーがセットされる(図9のステップ93)。一連の試験が実装されることにより、分極反転が頻繁すぎずかつまれすぎない頻度で起きる状態を確保することができる。実際、ユーザがまぶたを頻繁にまばたきしすぎて、まぶたの閉鎖が検出されるたびにシステムが分極を反転させると、消費電力が多くなりすぎる。その結果、電池の自律性が損なわれてしまう。この影響を防止するために、第1の試験(t>tmin)は、直近の分極反転が最近であれば、さらに分極反転をする必要がないことを保証する(図9のステップ94)。tminの値は、装置によって許容されうる最大消費電力によって決定される。典型的にはtminは1秒〜5秒のオーダーでありうる。一方、まぶたが非常にまれにしか閉じなければ、直近の分極反転からのエレクトロウェッティング効果の効率が失われすぎるというリスクがある。第2の試験(t>tmax)は、所定時間tmaxが経過した後、即座に分極反転が起きることを保証する(図9のステップ95)。tmaxの値は、エレクトロウェッティング効果の時定数τよりも小さい必要がある。分極が反転したときの残存衝撃性の変動をできるだけ小さくするために、tmaxの値は通常約1分である。直近の分極反転からの経過時間がtmin〜tmaxの間に含まれる場合、第3の試験(図9のステップ96)がまぶたの閉鎖を監視する。つまり、まぶたが閉じた場合に分極反転が生じる(ステップ97).
【0051】
眼の固視微動を用いて分極反転を制御する場合、分極反転を進行させようとして信頼できる情報を制御システムへと伝えるために、ジャイロスコープの信号処理および角速度情報の閾値に関係するいくつかの明らかな違いがあるかもしれない。
【0052】
図9に示されたアルゴリズムは片眼の制御に対して説明された。電子的に制御された焦点調節眼科用装置が眼球内インプラントまたはコンタクトレンズである場合、両眼用の装置を独立して制御することが最も容易なモード制御であろう。しかし、両方の制御を同期することが有利でありうる。これには両眼それぞれの装置の制御部間における情報の伝達を要する。眼鏡の場合、単一の制御部および単一の距離測定装置を実装しうる。これにより、眼鏡の両方の能動レンズに対する制御を同期することが可能となる。
【0053】
限られた数の実施の形態に関して本願発明を説明した。しかし、本開示の恩恵を受ける当業者であれば、本願明細書に開示された開示の範囲から逸脱しない範囲で、他の実施の形態を考え出すことが可能であることを理解するであろう。特に本願発明は、眼位計、屈折計、網膜検査用顕微鏡、または単純な眼の試験ツールなどの眼の試験装置および眼の診断装置にも応用できる。この場合、分極反転の衝撃を受けることは患者にとって不愉快となりかねない。そのため、本願発明の原理はたとえば携帯機器に対して有用でありうるが、それらには限られない。したがって、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ制限される。
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電子的に制御された焦点調節眼科用装置、より具体的には老眼などの調節障害を治療するための自動焦点調節眼科用装置に関する。そのような眼科用装置は、たとえば眼鏡、コンタクトレンズまたは眼球内インプラントである。
【背景技術】
【0002】
老眼は、近くの物体に焦点を合せる眼の能力が、年齢とともに次第に低下する状態である。人々が調節力を失う別の状況は、白内障の手術後である。つまり、天然のレンズの外科的切除に続いて、透明なポリマーから作られた固定型焦点レンズである人工眼内レンズインプラントが挿入される。矯正レンズおよびコンタクトレンズは、老眼および他の調節障害に伴って生じる焦点調節の喪失を補正するために、主に開発されてきた。最近になって調節性眼内レンズ(IOLs)の埋め込みが開発されてきた。
【0003】
自動焦点調節レンズまたは自動焦点調節インプラントは、自動調節をもたらしてもよい。自動調節は、老眼または他の調節障害の治療に対して非常に重要な特徴である。自動調節は、物体までの距離にかかわらず、観察された光景に自動的に焦点を合わせ、網膜上に鮮明な像を生成する眼の能力である。図1(A)は、老眼を矯正するための自動焦点調節レンズ視覚システムの通常の形態を説明する。患者は、能動レンズ10と、距離計11によって測定された患者が見ている物体との距離に応じて可変的な光学ジオプトリ補正をする前記能動レンズ10と、たとえば眼鏡に固定された前記距離計とを備えた眼鏡1を装着する。
【0004】
自動焦点調節レンズの問題(特にコンタクトレンズおよび眼球内インプラントに対する)の1つは、患者が見ている物体に関する距離情報を含む制御信号を、レンズに供給することである。
【0005】
自動焦点調節レンズの別の問題点は、レンズの操作を可能にする適切な小型電池または任意の他の電源を提供することである。コンタクトレンズまたは眼球内インプラントでは限られた空間しか使用することができないため、自動焦点調節レンズが使用できる消費電力は、非常に少ない消費電力、通常は数マイクロワット程度に制限されるであろう。眼鏡では、眼鏡の重さの制約が電池の種類にも制約をもたらす。これにより、わずか数マイクロワット、またはもっと言えば数10ナノワットしか消費しない自動焦点調節レンズを実現するという共通の目標がもたらされる。
【0006】
従来技術の公表文献の中には、変形レンズを用いた自動焦点調節レンズを有する視覚システムを記述しているものがある(たとえば、佐藤修ら、Journal of Robotics and Mechatronics 第13巻第6号(2001年)第581〜586頁、および藤田豊己ら、Journal of Robotics and Mechatronics 第13巻第6号第575〜579頁を参照)。このような視覚システムでは、距離計は眼の輻輳(convergence)を測定する小型の光学装置を用いて作られる。図1(B)は藤田豊己らによる上述の文献に記載された自動焦点調節眼鏡1を示す。この眼鏡は焦点距離レンズ駆動部17により制御される可変焦点調節レンズ15を含む。眼の輻輳を測定してこれに対応する患者が見ている物体との距離を計算するために、凝視(Gaze)距離検出器16が眼鏡に実装されている。
【0007】
当技術分野では異なるタイプの可変レンズが知られている。液晶系の眼球内インプラント用の適応レンズは、たとえばヴドヴィンら(Optics Express 第1巻第7号(2003年)第810〜881頁)において説明されてきた。G.リーら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2006年)第103巻第6100頁)には、可変回折レンズを含む1組の眼鏡が示されている。
【0008】
本出願の出願人による欧州特許出願第1996968号は、エレクトロウェッティング(electrowetting)式の可変焦点調節インプラントを説明する。本出願の図の1つが図2に再現されている。特に、エレクトロウェッティング式の能動液体レンズは、たとえば液晶能動レンズなどの他の技術と比較して、高度な補正動態(dynamics)をもたらす。たとえば、5〜7ディオプター(diopters)という視覚変動(optical variation)の典型的な範囲は、瞳孔径6mmの液体レンズを用いて実現できる。インプラント2は、透明で弾力性の物質、たとえばポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、エポキシ、ポリエステル、フッ素重合体、FEP、PTFA、ポリオレフィン、またはポリシクロオレフィンのような透明なポリマーから作られたカプセル2を含む。カプセル内には、2種類の液体21,22が封入されている。これらの液体は、透明で混和せず、およそ同じ密度および異なる屈折率を有する。第1の液体21は、非極性で非導電性の(つまり絶縁性の)の液体であって、カプセル内部で液滴を形成する。第2の液体22は導電性の極性液体であって、水性の溶液でありうる。環状である第1の電極23は、エレクトロウェッティング作動用に薄い絶縁膜24により被覆されている。図2に示される配置では、薄い絶縁膜24はカプセルの窓の機能も果たしている。第2の電極25は導電性液体22と直接接触している。エレクトロウェッティング作動はレンズを駆動させるために使用される。制御信号を受けると、電圧が電極23と電極25との間に印加される。印加された電圧は、エレクトロウェッティング効果により液体21の液滴の接触角における変化を誘導する。図2に示されるように、電圧が変化する間に液滴の形状は形状A(扁平な液滴)から形状B(曲面状の液滴)へと変化する。2つの液体の屈折率が異なるため、この装置は屈折が数ディオプターから数10ディオプターまで及びうる可変電動レンズを形成する。
【0009】
電圧に対する接触角の変化率は、理論上は印加された電圧の2乗に比例することが示されてきた(たとえばB.バージの「水による絶縁膜の電気毛管現象およびウェッティング」Comptes rendus de l’Academie des sciences−Serie deux, Mecanique, physique, chimie, sciences de l’univers, sciences de la terre−ISSN 0764−4450(1993年)第317巻第2号第157〜163頁を参照)。接触角は、電圧Vの関数として以下の式によって表現することができる。
【0010】
【数1】
【0011】
式中、ε、ε0、γはそれぞれ絶縁膜の誘電率、真空の誘電率、および2つの液体の界面の界面張力を表す。
【0012】
したがって、エレクトロウェッティング効果は、理論上は直流電圧(正または負のいずれか)または交流電圧によって得られる。式1中の電圧Vは、RMS(二乗平均平方根)値によって置換される:
【0013】
【数2】
【0014】
エレクトロウェッティング式の自動焦点調節レンズを作るために、いずれの溶液が使用されてもよいことを出願人は示してきた。交流電圧を用いることによって、非常に安定した自動焦点調節レンズがもたらされてもよい。この場合、屈折力の補正(ジオプトリ補正)は経時的に非常に安定している。しかし、消費電力が大きい(通常は数10ミリワットである)。直流電圧を用いることにより、低い消費電力が実現できるかもしれない。電圧反転用に電流を作り出す必要がないからである。しかし、後述するように、ジオプトリ補正は時間に対して安定でない可能性がある。
【0015】
図3(A)および図3(B)に示されるように、定電圧が印加された場合、エレクトロウェッティング効果は数10ミリ秒〜数100秒の範囲の時定数τとともにゆっくりと減少する。補正が非常に長い時間(数10分)行われた場合、最終的にはエレクトロウェッティング効果は完全に消失する。分極反転時に、エレクトロウェッティング効果が回復することにより、患者の視力中に変動(perturbation)が誘導される。図3(A)および図3(B)は、直流電圧により駆動されたエレクトロウェッティング式能動レンズの典型的な応答を示す。各図の上には、能動レンズに印加された直流電圧を時間の関数として示す。各例に対して、半減期Tにて分極反転が加えられた。各図の下に示されているのは、任意の単位で表されたエレクトロウェッティング応答である。エレクトロウェッティング応答は、接触角、ディオプターで表されたレンズの屈折力、またはたとえばキャパシタンスのように液体の液滴の形状に関する任意の他の直接または間接測定のいずれかであってもよい。図3(A)に示された例では、エレクトロウェッティング効果の時定数τが半減期Tに比べてずっと小さいことにより、エレクトロウェッティング効果は消失するまで減少する。図3(B)は正反対の場合を示す。ここではエレクトロウェッティング効果の時定数τが半減期Tよりもずっと大きい。この場合でさえ、エレクトロウェッティング効果が不連続である可能性がある。これは患者には小さな衝撃性の変動として見えるかもしれない。この変動は鬱陶しいか、さらには耐えられないことがある。
【0016】
本願発明の目的の1つは、非常に安定した光学補正を保持しつつも低い消費電力によって、たとえば老眼または他の調節障害を補正するための電子的に制御された眼科用装置を提供することである。
【発明の概要】
【0017】
第1の態様によると、本願発明はユーザによって装着される電子的に制御された焦点調節眼科用装置を制御するための方法に関する。前記装置は、電圧を印加した状態でエレクトロウェッティングによって移動可能な液体/液体界面を含む少なくとも1つの能動レンズを含む。前記方法は、
振幅が眼科用装置の所望の焦点調節の関数である直流電圧を、前記能動レンズに印加するステップと、
ユーザの固視微動(microsaccade)および/またはまぶたの閉鎖(eyelid closing event)を検出するステップと、
前記固視微動および/またはまぶたの閉鎖中に直流電圧の分極を反転させるステップと、を含む。
【0018】
固視微動またはまぶたの閉鎖を利用して分極を反転させる。これにより、患者(ユーザ)には見えずに分極を反転させる間に、エレクトロウェッティング効果を最終的に不連続にすることができる。
【0019】
好ましい実施の形態によると、本方法は電圧の直近の分極反転からの経過時間を測定するステップと、前記経過時間が所定の第1の値よりも大きいときにのみ直流電圧の分極を反転させるステップと、をさらに含む。直近の分極反転からの経過時間を測定することにより、分極反転が頻繁に起こりすぎない状態を実現することが可能となる。したがって、消費電力を低く抑えることが可能となる。
【0020】
前記第1の値は、一般的には約100ミリ秒〜10秒、たとえば1秒〜5秒に含まれる。前記第1の値は、たとえば本システムによって許容された最大消費電力の関数として決定される。
【0021】
さらに好ましい実施の形態によると、本方法は、前記経過時間が前記第1の値より大きく所定の第2の値より小さい場合に、次に検出されたユーザの固視微動またはまぶたの閉鎖中に直流電圧の分極を反転させるステップと、前記経過時間が前記第2の値を上回るとすぐに、直流電圧の分極を反転させるステップと、をさらに含む。これにより、たとえユーザによる固視微動またはまぶたの閉鎖がなくても、所定の(最大)時間の後に確実に分極反転が生じるようにすることができる。したがって、エレクトロウェッティング効果のあらゆる大きな減少を防止することができる。
【0022】
前記第2の値は、一般的には約10秒〜2分に含まれ、液体レンズのエレクトロウェッティング時定数の関数として決定されてもよい。
【0023】
さらに好ましい実施の形態によると、本方法は所望の焦点調節を決定するために、ユーザが見ている物体までの距離を測定するステップをさらに含む。これにより、測定された距離に基づいて能動液体レンズを自動的に制御することが可能となる。
【0024】
第2の態様によると、本願発明はユーザによって装着される電子的に制御された焦点調節眼科用装置に関する。この装置は、
電圧を印加した状態でエレクトロウェッティングによって移動可能な液体/液体界面を含む少なくとも1つの能動液体レンズと、
印加される電圧の振幅が所望の焦点調節の関数である直流電圧を前記能動液体レンズに印加するための駆動部と、
ユーザのまぶたの閉鎖および/または固視微動を検出するためのセンサと、
ユーザの固視微動および/またはまぶたの閉鎖中に駆動部が直流電圧の分極を反転させうるように、前記センサと駆動部とを同期させるための制御部と、を含む。
【0025】
好ましい実施の形態によると、本眼科用装置は、ユーザが見ている物体までの距離を測定するための装置をさらに含む。所望の焦点調節は測定された距離の関数である。
【0026】
さらに好ましい実施の形態によると、制御部は直近の分極反転からの経過時間を測定するようにさらに構成されている。
【0027】
好ましい実施の形態によると、能動レンズは、
前記液体/液体界面を形成する2つの透明で混和しない液体である第1の導電液および第2の非導電液を収容するチャンバと、
それぞれ直流電圧が印加される、絶縁膜により被覆された第1の電極および前記導電液と接触する第2の電極と、を含む。
【0028】
好ましい実施の形態によると、エレクトロウェッティング効果の時定数は1秒より大きい。エレクトロウェッティング効果に対する時定数が大きいことにより、まぶたの閉鎖または固視微動とは無関係に分極反転が起きた場合に、ユーザに対する残存衝撃性の(residual shock)変動を制限することができる。
【0029】
第1の実施例によると、電子的に制御された焦点調節眼科用装置は、眼球内インプラントまたはコンタクトレンズである。
【0030】
第2の実施例によると、電子的に制御された焦点調節眼科用装置は、2つの能動液体レンズおよび各能動液体レンズ用の駆動部を含む1組の眼鏡である。制御部は、前記センサと駆動部との間の同期をさらに確実にする。
【0031】
本願発明の他の態様および長所は、以下の図を用いてなされた以下の説明から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1(A)】(既に説明済)従来技術に従った電子的に制御された焦点調節眼科用装置および眼鏡の一般的な構造を示す。
【図1(B)】(既に説明済)従来技術に従った電子的に制御された焦点調節眼科用装置および眼鏡の一般的な構造を示す。
【図2】(既に説明済)従来技術に従った眼球内インプラントに実装されたエレクトロウェッティング式能動レンズを示す。
【図3(A)】(既に説明済)2つの形態において印加電圧の関数としてエレクトロウェッティング式能動レンズの応答を示す。
【図3(B)】(既に説明済)2つの形態において印加電圧の関数としてエレクトロウェッティング式能動レンズの応答を示す。
【図4】本願発明の実施の形態に従った電子的に制御された眼科用装置の例を示す。
【図5】ユーザのまぶたの閉鎖を説明する写真である。
【図6】図4に示された能動コンタクトレンズの内部構造の一例を示す。
【図7】図6に示された能動コンタクトレンズが患者の眼に配置された一例を示す。
【図8】一例として時間の関数として能動レンズに印加された駆動信号、ならびに物体までの距離およびまぶたの閉鎖に基づく駆動信号を説明する図である。
【図9】本願発明の好ましい実施の形態に従った電子的に制御された焦点調節眼科用装置を制御するための方法を説明する図である。
【0033】
(詳細な説明)
図4は、第1の好ましい実施の形態に従った電子的に制御された焦点調節眼科用装置の例を示す。本装置は、患者の眼40の上に配置され、エレクトロウェッティングにより駆動される液体/液体界面(図4には示されていない)を含むことによって能動液体レンズを形成する能動コンタクトレンズ43を含む。本装置は、焦点が合わせられる物体までの距離を測定するための距離測定装置44をさらに含む。たとえば距離計は、従来技術に記載されているように、ユーザの眼の輻輳の測定を可能にするセンサである。本装置はまた、電源、液体レンズ用の駆動部、および制御部を備えた電子モジュール45を含む。駆動部は、液体レンズに所望の焦点調節に応じて電圧を印加するように構成されている。所望の焦点調節が距離測定装置44により測定されたある物体までの距離から計算されることによって、装置の自動的な焦点調節が可能となってもよい。以下でより詳細に説明するように、エレクトロウェッティング効果を回復させるために、電圧の分極反転が実現される。図4に示された実施の形態では、眼科用装置はユーザのまぶた42がいつ閉じられたかを検出するためのまぶたセンサ41をさらに含む。
【0034】
好ましい実施の形態によると、分極反転とまぶたの閉鎖(第1のモード)および/または眼の固視微動(第2のモード)との同期化が実行される。
【0035】
まぶたのまばたきはいくつかの段階に分解することができる。まぶたが閉じようとしている段階、まぶたが閉じた段階、まぶたが開こうとしている段階である。図5は、通常のビデオカメラ(30フレーム/秒)を用いて撮影された典型的なまぶたの閉鎖の例を示す。図5では、まぶたが通常50ミリ秒間閉じていることを確認することができる。これは分極反転を行うのに必要な時間よりも長い。まぶたが閉じるとできるだけすぐに、そしてまぶたが再び開く前にいつでも分極反転を行うことができるように、まぶたセンサは十分に速いことが必要である。したがって、(分極反転により誘導された)焦点の突然の上昇による小さな衝撃は、患者には見えないであろう。まぶたが閉じている時は目が見えないからである。
【0036】
第2のモードも非常に効果的である。眼が固視微動する間、網膜に投影された映像が素速く変化するため、焦点の素速い変化に患者が気付かないからである。焦点の変化は固視微動自体の素速い変化に含まれる。
【0037】
ヒトの眼の固視微動に関するいくつかの説明を以下に示す。固視微動はある種の眼の固視運動である。固視微動は小さくけいれんのような眼の不随意運動であって、随意衝動性運動の小型版のようである。固視微動はヒトだけではなく中心視覚を有する動物(霊長類やネコなど)において、(少なくとも数秒におよぶ)持続性の固視の最中に起きることが多い。固視微動の振幅は、2〜120分角(arcminutes)まで変化する。イングバートおよびマーゲンターラー(2006年)によると(「固視微動は小さな網膜像の変異(slip)により引き起こされる」Proc Natl Acad Sci USA(2006年5月2日)第103号第18巻第7192〜7197頁)、固視微動はドリフト(drift)および震え(tremor)を伴う眼の固視運動の3つの異なるタイプのうちの1つである。固視微動は「最大振幅(5〜7)を有する最速の成分を表し、1〜2回/秒の平均速度にて生じる。眼の固視運動により生み出された軌道はかなり不規則であって、ランダムウォーク(8〜10)という統計的特性を有する。より遅い動き(ドリフトおよび震え)に組み込まれた場合、固視微動は眼の弾道性の跳躍(ballistic jumps)(<1°)であって、おおよそ直線運動の時期(epoches)を示す」。ここで引用された文献から、固視微動の継続時間が10ミリ秒のオーダーであることが推測できるであろう。モラーら(2006年)によると(「安定的な両眼固視の維持における固視微動およびドリフトの寄与」F.モラー、M.L.ラウルセン、A.K.ショーリエ、Graefe’s Arch Clin Exp Ophthalmol(2006年)第244巻第465〜471頁)、「これらの眼の固視運動は、1934年から詳細に研究されてきた結果、遅いドリフト運動(振幅0.02°〜0.15°)によって妨害され、これらの運動に絶えず重ね合わされた速い固視微動(継続時間25ミリ秒、振幅0.22°〜1.11°、0.1〜5Hz)、高周波数(50〜100Hz)、低振幅(0.001°〜0.008°)、震え[5,6,20,23,25]とともにかなり一定であることが分かっている」。
【0038】
したがって、たとえばジャイロスコープを用いて開始の素速い検出を可能にするため、そして固視微動が終わる前に分極反転を加えるためには、固視微動の継続時間(>10ミリ秒)は十分に長い。
【0039】
2つのモード(まぶたおよび固視微動)が混合可能であることは当業者には自然に映るであろう。さらに、固視微動以外の眼の動きの形態が使用されてもよい。これらの眼の動きが十分に速い限り、これらが分極反転を引き起こすであろう。
【0040】
図6は、図4に示された眼科用装置に適した能動コンタクトレンズ50の考えられる内部構造を示す。能動コンタクトレンズ60は、液体/液体界面65を形成する2つの透明で混和しない液体62,63を含むポリマー外膜61を備えたエレクトロウェッティング式の能動液体レンズを含む。液体のうち一方は導電性であって、他方は電気的に絶縁性である。図2を参照して既に説明したように、2つの電極66,67はエレクトロウェッティング作動用に配列されている。図6の例では、第1の電極66は環状であって、薄い絶縁膜68により被覆されている。第2の電極67は導電性液体63と直接接触している。描かれた装置には、制御部用の電源64および液体レンズ用の駆動部(図6では参照番号69)を含む必要なすべての電子部品が組み込まれてもよい。レンズの梱包は、酸素透過性の透明な材料を用いて行われる必要がある。このような材料がコンタクトレンズに必須だからである。とは言え、これらの材料は水にも透過性であるため、レンズから外へと水が蒸発する可能性がある。したがって、これらの材料は使い捨て用である必要がある。眼球内インプラントの場合、梱包用の材料は、たとえばヒドロゲル親水性/疎水性アクリルまたはシリコーンのように生体適合性を有することがさらに必要となるであろう。
【0041】
図7は眼の側面図を示す。まぶたが開いている。能動コンタクトレンズ60は、たとえば超音波エコーまたは赤外線ビームに基づいて、たとえば小型距離計72を用いて焦点をリアルタイムに補正してもよい。距離計72は、眼の前にある物体までの距離(25cm〜数m)を測定する。コンタクトレンズ内部の制御部は、エレクトロウェッティングセル(液体レンズ)に印加される電圧を計算し、次に患者が常に良好な焦点を得るのに適した直流電圧を印加する。したがって患者は、近見に対しても遠方に対しても良好な視力を有する。制御部の別の部分または別の電子回路は、まぶたが開いているか閉じている場合にまぶたセンサ71から検出を行なってもよい。まぶたセンサがまぶたの閉鎖を検出するとすぐに、制御部が液体レンズに印加される直流電圧の分極反転を誘導してもよい。
【0042】
まぶたセンサは、まぶたが閉じているときに微光を検出する単純な光ダイオード、またはまぶたの接触を感知する物理接触センサ、または他のあらゆる可能なセンサとすることができる。
【0043】
距離計センサは、超音波エコーセンサ、または赤外線ダイオードもしくはレーザー光に基づく装置であってもよい。他の実施の形態によっては、たとえば眼のインプラントの実施の形態のように、距離情報は圧力センサによって得ることができる。圧力センサは、輻輳を制御する筋肉の下側にて眼の外側に配置されている(たとえばフランソワ・ミシェル博士による国際特許出願第2004/004605A1号を参照)。藤田豊己らによる従来技術において議論されているように、眼鏡の場合の距離測定装置はまた、両眼間の瞳孔の輻輳を観察することに基づくこともできる。
【0044】
固視微動中に分極反転が実現できる場合、まぶたセンサは眼の回転運動を検出する小型ジャイロスコープ(たとえばMEMS装置)によって置き換えられてもよい。眼の固視微動に典型的な100°/秒のオーダーの角速度は、そのようなセンサによって容易に測定できる。
【0045】
分極反転は(まぶたの場合と固視微動の場合の両方において)、古典的な水素ブリッジ電子構造、4端子型電界効果トランジスタ、または任意の反転電子リレーシステムを用いて行われてもよい。
【0046】
図4,6,7に示された例は、コンタクトレンズの特定の実施の形態を示す。しかし、白内障の手術用のインプラント(眼科用インプラントまたは結晶性インプラントとも呼ばれる)、可変コンタクトレンズおよび可変眼鏡さえも含むあらゆる形態のレンズに本願発明が同様に適用されてもよいことは明らかである。
【0047】
図8は、時間の関数として能動レンズに印加された駆動信号、ならびに物体までの距離(distance of the scene)およびまぶたの閉鎖に従った駆動信号を説明する図の例を示す。図8の上段に示された第1の曲線80は、距離計により測定された距離を示す。患者が移動しながら異なる物体を見ているときに、距離計は時間とともに可変距離を測定する。この測定された距離dは、制御部によってジオプトリ補正(曲線81)に変換される。制御部は、エレクトロウェッティング液体レンズへと制御電圧を搬送する。第3の曲線82はまぶたセンサの出力である。普通は眼は開いており、少しの間まぶたが閉じている。図8では、時間尺度が正確であることが意図されていない点に留意すべきである。まぶたの閉鎖の前に観察された距離の変化量が、典型的には数秒である長い時間尺度にて示されている。一方、まぶたの閉鎖および再開放のパターンは典型的には50ミリ秒の長さである。まぶたの閉鎖が検出された直後に、制御部は分極反転を引き起こす。第4の曲線83は、エレクトロウェッティング装置の電極間に印加された有効電圧に対応する。電圧は物体までの距離の関数である。遠方視力に対しては電圧は相対的に低いが、近見視力に対しては電圧は相対的に高い。上述したように、エレクトロウェッティング効果は電圧の2乗に比例する。このことは、電圧の絶対値が測定された距離に関係することを意味する。電圧のサイン(sign)が何であろうと、電圧に対する小さな絶対値は遠方視力に対応する。曲線83に示されるように、患者が見た像中に小さな衝撃を生み出しうる分極反転は、まぶたが閉じているために眼が見えていないときに1度起きる。
【0048】
上述した実施の形態は(以下に示すアルゴリズムの例と同様に)まぶたセンサの実例に関するが、これらが他の態様に、たとえば眼の固視微動として適用されてもよいことは当業者には明らかであろう。この最後の実例では、まぶたセンサは改良されたフィルタリング、ノイズ除去および閾値を有するジャイロスコープ情報によって置き換えられてもよい。
【0049】
材料工学、特に絶縁膜および液体の工学が、エレクトロウェッティング効果の大きな時定数τを実現するために行われることが有利である。この材料工学には、電荷注入に耐性のある絶縁体が必要となることが多い。一般に、内部で電荷が帯電している(たとえばイオンが容易には貫通できない)硬質材料は有望な候補となるであろう。たとえば直流電圧下でフッ素重合体により被覆されたパリレン絶縁層を用いることにより、1秒を超える時定数が得られてもよい(たとえばウェルターズらのLangmuir(1998年)第14巻第1535〜1538頁を参照)。大きな時定数を得るために、フッ素化された有機材料もしくは無機材料、またはゾルゲル合成により形成された有機と無機のハイブリッド材料を使用することにも関心が持たれてもよい。さらに、導電液は塩が入った水溶液を含むことが有利である。塩はサイズの大きいイオンから構成されていることが好ましい。非導電液は、脂肪油、芳香油、シリコーン油、ゲルマニウム(germane)化合物の混合物を含むことが有利である。エレクトロウェッティング式の液体レンズにおける液体の工学は、たとえば公開された国際特許出願第2007088453A1号に本出願人の名前にて記載されている。
【0050】
図9は、本願発明の好ましい実施の形態に従った自動焦点調節補正レンズを制御するための方法のフローチャートである。この実施の形態では、無限ループによって測定された距離の関数として自動焦点調節レンズのリアルタイムな補正を行うことが可能となる。これにより、眼が常にはっきりと見える状態を確保することができる(図9のステップ91、92)。直近の分極反転から経過した時間を監視するために、タイマーがセットされる(図9のステップ93)。一連の試験が実装されることにより、分極反転が頻繁すぎずかつまれすぎない頻度で起きる状態を確保することができる。実際、ユーザがまぶたを頻繁にまばたきしすぎて、まぶたの閉鎖が検出されるたびにシステムが分極を反転させると、消費電力が多くなりすぎる。その結果、電池の自律性が損なわれてしまう。この影響を防止するために、第1の試験(t>tmin)は、直近の分極反転が最近であれば、さらに分極反転をする必要がないことを保証する(図9のステップ94)。tminの値は、装置によって許容されうる最大消費電力によって決定される。典型的にはtminは1秒〜5秒のオーダーでありうる。一方、まぶたが非常にまれにしか閉じなければ、直近の分極反転からのエレクトロウェッティング効果の効率が失われすぎるというリスクがある。第2の試験(t>tmax)は、所定時間tmaxが経過した後、即座に分極反転が起きることを保証する(図9のステップ95)。tmaxの値は、エレクトロウェッティング効果の時定数τよりも小さい必要がある。分極が反転したときの残存衝撃性の変動をできるだけ小さくするために、tmaxの値は通常約1分である。直近の分極反転からの経過時間がtmin〜tmaxの間に含まれる場合、第3の試験(図9のステップ96)がまぶたの閉鎖を監視する。つまり、まぶたが閉じた場合に分極反転が生じる(ステップ97).
【0051】
眼の固視微動を用いて分極反転を制御する場合、分極反転を進行させようとして信頼できる情報を制御システムへと伝えるために、ジャイロスコープの信号処理および角速度情報の閾値に関係するいくつかの明らかな違いがあるかもしれない。
【0052】
図9に示されたアルゴリズムは片眼の制御に対して説明された。電子的に制御された焦点調節眼科用装置が眼球内インプラントまたはコンタクトレンズである場合、両眼用の装置を独立して制御することが最も容易なモード制御であろう。しかし、両方の制御を同期することが有利でありうる。これには両眼それぞれの装置の制御部間における情報の伝達を要する。眼鏡の場合、単一の制御部および単一の距離測定装置を実装しうる。これにより、眼鏡の両方の能動レンズに対する制御を同期することが可能となる。
【0053】
限られた数の実施の形態に関して本願発明を説明した。しかし、本開示の恩恵を受ける当業者であれば、本願明細書に開示された開示の範囲から逸脱しない範囲で、他の実施の形態を考え出すことが可能であることを理解するであろう。特に本願発明は、眼位計、屈折計、網膜検査用顕微鏡、または単純な眼の試験ツールなどの眼の試験装置および眼の診断装置にも応用できる。この場合、分極反転の衝撃を受けることは患者にとって不愉快となりかねない。そのため、本願発明の原理はたとえば携帯機器に対して有用でありうるが、それらには限られない。したがって、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ制限される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが装着した電子的に制御された焦点調節眼科用装置(60)を制御するための方法であって、
前記焦点調節眼科用装置(60)は、電圧印加のもとでエレクトロウェッティングによって移動可能な液体/液体界面を含む少なくとも1つの能動レンズを含み、
振幅が眼科用装置の所望の焦点調節の関数である直流電圧を、前記能動レンズに印加するステップと、
ユーザの固視微動および/またはまぶたの閉鎖を検出するステップと、
前記固視微動および/またはまぶたの閉鎖中に直流電圧の分極を反転させるステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
電圧の直近の分極反転からの経過時間(t)を測定するステップと、
前記経過時間(t)が所定の第1の値(tmin)よりも大きいときにのみ直流電圧の分極を反転させるステップと、をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の値(tmin)は約100ミリ秒〜10秒、好ましくは1秒〜5秒に含まれることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記経過時間(t)が前記第1の値(tmin)より大きく所定の第2の値(tmax)より小さい場合に、次に検出されたユーザの固視微動またはまぶたの閉鎖中に直流電圧の分極を反転させるステップと、
前記経過時間(t)が前記第2の値(tmax)を上回るとすぐに、直流電圧の分極を反転させるステップと、をさらに含むことを特徴とする請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の値(tmax)は約10秒〜2分に含まれることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
所望の焦点調節を決定するためにユーザが見ている物体までの距離を測定するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ユーザによって装着される電子的に制御された焦点調節眼科用装置(43,60)であって、
電圧印加のもとでエレクトロウェッティングによって移動可能な液体/液体界面(65)を含む少なくとも1つの能動液体レンズと、
印加される電圧の振幅が所望の焦点調節の関数である直流電圧を前記能動液体レンズに印加するための駆動部と、
ユーザのまぶたの閉鎖および/または固視微動を検出するためのセンサ(41)と、
ユーザの固視微動および/またはまぶたの閉鎖中に駆動部が直流電圧の分極を反転させうるように、前記センサ(41)と駆動部とを同期させるための制御部と、を含む装置。
【請求項8】
ユーザが見ている物体までの距離を測定するための装置をさらに含み、
所望の焦点調節は測定された距離の関数であることを特徴とする請求項7に記載の眼科用装置。
【請求項9】
制御部は、直近の分極反転からの経過時間を測定するようにさらに構成されていることを特徴とする請求項7または8のいずれかに記載の眼科用装置。
【請求項10】
能動レンズは、
前記液体/液体界面(65)を形成する2つの透明で混和しない液体(61,62)である第1の導電液(63)および第2の非導電液(62)を収容するチャンバ(61)と、
それぞれ直流電圧が印加される、絶縁膜(68)により被覆された第1の電極(66)および前記第1の導電液(63)と接触する第2の電極(68)と、を含むことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の眼科用装置。
【請求項11】
エレクトロウェッティング効果の時定数(τ)が1秒より大きいことを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の眼科用装置。
【請求項12】
眼球内インプラントまたはコンタクトレンズであることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の眼科用装置。
【請求項13】
前記装置は、2つの能動液体レンズと各能動液体レンズ用の駆動部とを含む1組の眼鏡であって、
制御部は、前記センサ(41)と駆動部との間の同期をさらに確実にすることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の眼科用装置。
【請求項1】
ユーザが装着した電子的に制御された焦点調節眼科用装置(60)を制御するための方法であって、
前記焦点調節眼科用装置(60)は、電圧印加のもとでエレクトロウェッティングによって移動可能な液体/液体界面を含む少なくとも1つの能動レンズを含み、
振幅が眼科用装置の所望の焦点調節の関数である直流電圧を、前記能動レンズに印加するステップと、
ユーザの固視微動および/またはまぶたの閉鎖を検出するステップと、
前記固視微動および/またはまぶたの閉鎖中に直流電圧の分極を反転させるステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
電圧の直近の分極反転からの経過時間(t)を測定するステップと、
前記経過時間(t)が所定の第1の値(tmin)よりも大きいときにのみ直流電圧の分極を反転させるステップと、をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の値(tmin)は約100ミリ秒〜10秒、好ましくは1秒〜5秒に含まれることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記経過時間(t)が前記第1の値(tmin)より大きく所定の第2の値(tmax)より小さい場合に、次に検出されたユーザの固視微動またはまぶたの閉鎖中に直流電圧の分極を反転させるステップと、
前記経過時間(t)が前記第2の値(tmax)を上回るとすぐに、直流電圧の分極を反転させるステップと、をさらに含むことを特徴とする請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の値(tmax)は約10秒〜2分に含まれることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
所望の焦点調節を決定するためにユーザが見ている物体までの距離を測定するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ユーザによって装着される電子的に制御された焦点調節眼科用装置(43,60)であって、
電圧印加のもとでエレクトロウェッティングによって移動可能な液体/液体界面(65)を含む少なくとも1つの能動液体レンズと、
印加される電圧の振幅が所望の焦点調節の関数である直流電圧を前記能動液体レンズに印加するための駆動部と、
ユーザのまぶたの閉鎖および/または固視微動を検出するためのセンサ(41)と、
ユーザの固視微動および/またはまぶたの閉鎖中に駆動部が直流電圧の分極を反転させうるように、前記センサ(41)と駆動部とを同期させるための制御部と、を含む装置。
【請求項8】
ユーザが見ている物体までの距離を測定するための装置をさらに含み、
所望の焦点調節は測定された距離の関数であることを特徴とする請求項7に記載の眼科用装置。
【請求項9】
制御部は、直近の分極反転からの経過時間を測定するようにさらに構成されていることを特徴とする請求項7または8のいずれかに記載の眼科用装置。
【請求項10】
能動レンズは、
前記液体/液体界面(65)を形成する2つの透明で混和しない液体(61,62)である第1の導電液(63)および第2の非導電液(62)を収容するチャンバ(61)と、
それぞれ直流電圧が印加される、絶縁膜(68)により被覆された第1の電極(66)および前記第1の導電液(63)と接触する第2の電極(68)と、を含むことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の眼科用装置。
【請求項11】
エレクトロウェッティング効果の時定数(τ)が1秒より大きいことを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の眼科用装置。
【請求項12】
眼球内インプラントまたはコンタクトレンズであることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の眼科用装置。
【請求項13】
前記装置は、2つの能動液体レンズと各能動液体レンズ用の駆動部とを含む1組の眼鏡であって、
制御部は、前記センサ(41)と駆動部との間の同期をさらに確実にすることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の眼科用装置。
【図1(A)】
【図1(B)】
【図2】
【図3(A)】
【図3(B)】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図5】
【図1(B)】
【図2】
【図3(A)】
【図3(B)】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図5】
【公表番号】特表2013−513127(P2013−513127A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541523(P2012−541523)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068878
【国際公開番号】WO2011/067391
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(509127457)パロット (23)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068878
【国際公開番号】WO2011/067391
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(509127457)パロット (23)
【Fターム(参考)】
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