説明

電子素子搭載用基板の製造方法

【課題】アルミニウム製ヒートシンクを含む各層を一括ろう付する電子素子搭載用基板の製造方法において、セラミック基板とヒートシンクとを良好にろう付する。
【解決手段】セラミック基板(11)の一方の面に、ろう材(12)を介して金属からなる回路層(13)を重ねて配置するとともに、他方の面に、アルミニウムからなる熱応力緩和材(14)とアルミニウムからなるヒートシンク(15)をそれぞれろう材(16)(17)を介して重ねて配置して積層体(10)を仮組し、これらを同時に一括してろう付する電子素子搭載用基板の製造方法であって、仮組した積層体(10)において、セラミック基板(11)と熱応力緩和材(14)の接合部(18)の周囲にろう材の濡れ性を低下させる濡れ性低下材(20)を付着させた状態でろう付を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック基板にヒートシンクをろう付することによって放熱性能を付与した電子素子搭載用基板の製造方法に関する。
【0002】
本明細書および特許請求の範囲の記載において、「アルミニウム」の語はアルミニウムおよびその合金の両者を含む意味で用いられる。
【背景技術】
【0003】
電子素子搭載用基板では、チップが発生する熱を効率良く放熱するために、セラミック基板の素子搭載面とは反対側の面にヒートシンクをろう付することがある(特許文献1参照)。
【0004】
図1はこの種の電子素子搭載用基板の一例であり、電子素子搭載面であるセラミック基板(11)の一方の面にはアルミニウム回路層(13)がろう付され、他方の面にはアルミニウム層(14)を介してアルミニウム製ヒートシンク(15)がろう付されている。
【0005】
前記ヒートシンク(15)を構成するアルミニウムは、強度維持のためにAl−Mn系合金やAl−Fe系合金が用いられるものがある。また、セラミック基板(11)と高強度のアルミニウム合金で構成されたヒートシンク(15)を直接ろう付すると、通電時の発熱と非通電時の冷却による冷熱サイクルにおいて接合部の剥離やセラミック基板の割れが発生しやすいことから、軟質のアルミニウム層(14)を介在させることによって接合部に発生する熱応力を緩和して剥離の発生を抑制している。また、軽量化による構造変更による応力増加や、冷熱サイクル寿命向上のために、更なる接合界面の耐久性向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−153075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記電子素子搭載用基板の製造に際しては、アルミニウム回路層(13)とセラミック基板(11)との間、セラミック基板(11)とアルミニウム層(14)との間、アルミニウム層(14)とヒートシンク(15)との間にそれぞれろう材(12)(16)(17)を配置して積層体(10)を仮組し、仮組した積層物(10)を加熱することにより3箇所のろう付が一括して行われる。
【0008】
この一括ろう付時に、ヒートシンク(15)を構成するアルミニウム合金に由来する元素、例えばMnやFeが離脱して溶融したろう材(16)に混入し、セラミック基板(11)とアルミニウム層(14)との接合界面に侵入することが考えられた。また、従来よりも大きな熱応力が加わった場合でもヒートシンク(15)とアルミニウム層(14)との良好な接合状態が維持されるように、ろう付性と接合界面の耐久性の更なる向上が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した技術背景に鑑み、アルミニウム製ヒートシンクを含む各層を一括ろう付する電子素子搭載用基板の製造方法において、更なるろう付性向上と接合界面の耐久性向上を達成できる技術を提供するものである。
【0010】
即ち、本発明は下記[1]〜[10]に記載の構成を有する。
【0011】
[1]セラミック基板の一方の面に、ろう材を介して金属からなる回路層を重ねて配置するとともに、他方の面に、アルミニウムからなる熱応力緩和材とアルミニウムからなるヒートシンクをそれぞれろう材を介して重ねて配置して積層体を仮組し、これらを同時に一括してろう付する電子素子搭載用基板の製造方法であって、
仮組した積層体において、セラミック基板と熱応力緩和材の接合部の周囲にろう材の濡れ性を低下させる濡れ性低下材を付着させた状態でろう付を行うことを特徴とする電子素子搭載用基板の製造方法。
【0012】
[2]前記熱応力緩和材の外周面とセラミック基板の他方の面とによって入隅部が形成される積層体において、前記入隅部を含む、熱応力緩和材の外周面およびセラミック基板の他方の面に濡れ性低下材を付着させた状態でろう付を行う前項1に記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【0013】
[3]前記熱応力緩和材は貫通穴を有するパンチングメタルであり、仮組した積層体において前記貫通穴の周面に濡れ性低下材を付着させた状態でろう付を行う前項1または2に記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【0014】
[4]前記濡れ性低下材はボロンナイトライドおよびカーボンのうちの少なくとも1種である前項1〜3のいずれかに記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【0015】
[5]前記濡れ性低下材を有機分散媒に分散させた分散液を塗布することにより濡れ性低下材を付着させる前項4に記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【0016】
[6]前記分散液にバインダを加える前項5に記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【0017】
[7]前記濡れ性低下材は、加熱による分解生成物であるカーボンが560℃において付着位置に残留する樹脂である前項1〜3のいずれかに記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【0018】
[8]前記樹脂は、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂のうちの少なくとも1種からなる接着剤である前項7に記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【0019】
[9]積層体を仮組した後に濡れ性低下材を付与する前項1〜8のいずれかに記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【0020】
[10]仮組前のセラミック基板および熱応力緩和材の一方または両方の相対する面の縁部に濡れ性低下材を付与し、他の部材とともに重ねて積層体を仮組し、仮組した積層体を積層方向に押し付けて濡れ性低下材を積層界面から外部に排出させて接合部の周囲に付着させる前項1〜8のいずれかに記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
上記[1]に記載の基板電子素子搭載用基板の製造方法によれば、仮組した積層体のセラミック基板と熱応力緩和材の接合部の周囲に濡れ性低下材が付着しているので、ろう付時に接合部の周囲で溶融したろう材もしくはヒートシンク由来の元素がはじかれる。このため、ヒートシンクから離脱した元素のろう材への侵入が阻止され、ろう材に混入して接合界面に入り込むことができず、前記元素がろう付性を低下させることなく良好なろう付が達成される。ひいては、基板電子素子搭載用基板の使用環境において発熱と冷却が繰り返されて非常に大きな熱応力を受けた場合でも接合界面の剥離が抑制され、冷熱サイクルにおける接合界面の耐久性が向上する。
【0022】
上記[2]に記載の発明によれば、熱応力緩和材の寸法がセラミック基板よりも小さく、熱応力緩和材の外周面とセラミック基板の他方の面とによって入隅部が形成される積層体において、上記[1]に記載した効果が得られる。
【0023】
上記[3]に記載の発明によれば、熱応力緩和材として用いられるパンチングメタルの貫通穴の周面に濡れ性低下材が付着しているので、ヒートシンクに由来する元素が貫通穴を通じてろう材に混入することが防がれる。
【0024】
上記[4]に記載の発明によれば、ボロンナイトライドおよび/またはカーボンの濡れ性低下効果により、良好なろう付を達成できる。
【0025】
上記[5]に記載の発明によれば、ボロンナイトライドおよび/またはカーボンを有機分散媒に分散させた分散液として付与するので、所定の位置に付与することが容易であり、かつ付着量の調節も容易である。
【0026】
上記[6]に記載の発明によれば、バインダによって分散液の粘性が高くなるので、塗布時に液だれしにくくなって所要量の濡れ性低下材を容易に付着させることができる。
【0027】
上記[7]に記載の発明によれば、560℃において、付着させた樹脂が付着位置に熱分解生成物であるカーボンとして残留しているので、カーボンの濡れ性低下効果によって良好なろう付を達成できる。
【0028】
上記[8]に記載の発明によれば、ろう付前においては接着剤による仮止め効果によって積層体のハンドリング性が高められ、ろう付時には熱分解生成物であるたカーボンの濡れ性低下効果により、良好なろう付を達成できる。
【0029】
上記[9]に記載の発明によれば、積層体の仮組後に塗布するので付着量の調節が容易である。
【0030】
上記[10]に記載の発明によれば、仮組前に濡れ性低下材を全周に付与しなくても押し付けによって全周に付着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】電子素子搭載用基板とヒートシンクとを仮組した積層体の断面図である。
【図2】図1の部分拡大図であり、濡れ性低下材の付与位置を示す断面図である。
【図3A】積層体の仮組前の部材に濡れ性低下材を付着させた状態を示す斜視図である。
【図3B】図3Aの部材を用いて仮組した積層体の断面図である。
【図3C】図3Bの積層体を積層方向に押し付けた状態を示す断面図である。
【図4】図3A〜3Cの濡れ性低下材の付与方法において、濡れ性低下材の付与位置および広がり領域を示す斜視図である。
【図5】他のヒートシンクを組み込んだ積層体の断面図である。
【図6】熱応力緩和材として用いるパンチングメタルの斜視図である。
【図7】図6のパンチングメタルを組み込んだ積層体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
〔積層体の基本構造〕
図1は、本発明にかかる基板電子素子搭載用基板の製造方法において、仮組した積層体の一実施形態を示している。
【0033】
仮組した積層体(10)において、セラミック基板(11)の一方の面は電子素子搭載面となる面であり、ろう材(12)を介して回路層(13)が重ねられている。前記セラミック基板(11)の他方の面は放熱経路となる面であり、熱応力緩和材(14)を介してヒートシンク(15)とが積層され、セラミック基板(11)と熱応力緩和材(14)との間、熱応力緩和材(14)とヒートシンク(15)との間にはそれぞれろう材(16)(17)が配置されて、図1に示す順に各層が重ねられている。
【0034】
本発明は、前記積層体(10)を一括ろう付した時に、ヒートシンク(15)に由来する元素がセラミック基板(11)と熱応力緩和材(14)との接合界面に侵入することを阻止することを目的とする。
【0035】
〔積層体を構成する各層の詳細〕
前記積層体(10)を構成する各層の材料は以下のとおりである。
【0036】
回路層(13)を構成する金属としては、導電性が高くかつセラミック基板(11)とろう付可能な金属を用いるものとし、特に高純度アルミニウムを推奨できる。
【0037】
セラミック基板(11)を構成するセラミックとしては、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコニウム等を例示できる。これらのセラミックは電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れている点で推奨できる。
【0038】
熱応力緩和材(14)は、剛性の高いセラミック基板(11)とヒートシンク(15)との接合界面に発生する熱応力を緩和するための層であるから、軟質のアルミニウムを用いることが好ましく、特に高純度アルミニウムが好ましい。
【0039】
ヒートシンク(15)を構成するアルミニウムは、強度維持、成形性、耐食性に優れた材料を用いることが好ましく、これらの特性を有するものとして0.5〜1.5質量%のMnを含有するAl−Mn系合金、0.3〜0.6質量%のFeを含有するAl−Fe系合金を推奨できる。また、MnおよびFeはろう材(16)に混入すると金属間化合物を形成してろう付性を低下させる元素であるから、ヒートシンクに由来する元素のろう材(16)への侵入を阻止する本発明を適用する意義が大きい。
【0040】
ろう材(12)(16)(17)はAl−Si系合金、Al−Si−Mg系合金等のろう材を用いる。ろう材(12)(16)(17)はろう材箔として層間に配置しても良いし、回路層(13)、熱応力緩和材(14)、ヒートシンク(15)を構成するアルミニウムと一体化したブレージングシートとして用いることもできる。
【0041】
〔濡れ性低下材の付着位置〕
前記積層体(10)において、図2に示すように、セラミック基板(11)と熱応力緩和材(14)との接合部(18)の周囲にろう材の濡れ性を低下させる濡れ性低下材(20)を付与する。濡れ性低下材(20)を付与した状態でろう付加熱すると、接合部(18)の周囲においては溶融したろう材(16)の濡れ性が低下してろう材(16)がはじかれるので、外部からの元素が溶融したろう材(16)とともに接合部(18)の周端部(18a)から内部に侵入することができない。ここで言う外部からの元素とは、ろう付加熱によってヒートシンク(15)を構成するアルミニウム合金から離脱した元素であってMnやFe等が該当する。これらの元素はろう材(16)に混入するとろう付性を低下させる元素であり、セラミック基板(11)と熱応力緩和材(14)との接合部(18)にろう材(16)ととも侵入することを阻止することで良好なろう付を達成できる。そして、セラミック基板(11)と熱応力緩和材(14)とが良好にろう付されることで、基板電子素子搭載用基板の使用環境において発熱と冷却が繰り返されて非常に大きな熱応力を受けた場合でも接合界面の剥離が抑制され、冷熱サイクルにおける接合界面の耐久性が向上する。
【0042】
前記濡れ性低下材(20)は、少なくとも接合部(18)の周端部(18a)および周端部(18a)に隣接する部分を覆うように付着していることが好ましい。また、侵入阻止対象の元素はヒートシンク(15)に由来するものであるから、ヒートシンク(15)から接合部(18)の周端部(18a)までの最短経路となる熱応力緩和材(14)の外周面(14a)に付与することが好ましく、さらには接合部(18)の周端部(18a)に隣接するセラミック基板(11)の部分にも付与することが好ましい。図示例の積層体(10)は熱応力緩和材(14)の寸法がセラミック基板(11)よりも小さく、熱応力緩和材(14)の外周面(14a)とセラミック基板(11)の他方の面(11a)(ヒートシンク側の面)とによって入隅部が形成されているので、入隅部を含む熱応力緩和材(14)の外周面(14a)およびセラミック基板(11)の他方の面(11a)に濡れ性低下材(20)を付与することが好ましい。濡れ性低下材(20)は接合部(18)の周囲において周方向に途切れることなく付与することが必要であるが、必ずしも熱応力緩和材(14)の外周面(14a)およびセラミック基板(11)の他方の面(11a)の全体に付与する必要はない。濡れ性低下材(20)が接合部(18)の周端部(18a)を覆い、かつ周端部(18a)に隣接する部分に付与されていれば元素の侵入を阻止できるからである。図2は、熱応力緩和材(14)の外周面(14a)にはその全面に濡れ性低下材(20)を付与し、セラミック基板(11)の他方の面(11a)には接合部(18)に隣接する部分にのみ濡れ性低下材(20を)付与した例を示している。
【0043】
〔濡れ性低下材の種類〕
前記濡れ性低下材として、ボロンナイトライド、カーボン、樹脂、接着剤を例示できる。本発明において、「ろう材の濡れが悪い状態」および「ろう材をはじく」とは、ろう材との接触角が90°以上である場合とする。上述した濡れ性低下材はいずれもこの条件を満たしている。
【0044】
ボロンナイトライドおよびカーボンはどちらもろう材をはじく性質があり、どちらか一方または両方を併用できる。これらの濡れ性低下材の付与方法として、粉末の濡れ性低下材を有機分散媒に分散させた分散液、あるいはバインダを加えて粘性を高めた分散液として付与する方法を推奨できる。この付与方法によれば、所定の位置に付与することが容易であり、かつ付着量の調節も容易である。有機分散媒としては、ポリエチレングリコール、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチル、シンナー等を例示できる。有機分散媒は水溶性有機分散媒、非水溶性有機分散媒のいずれでも使用できるが、ろう付中に蒸発しにくい非水性のものが好ましい。さらに、分散液にはバインダとして樹脂やワックスを加えても良い。バインダを加えると液の粘性が高まるので、塗布時に液だれしにくくなって所要量の濡れ性低下材を容易に付着させることができる。バインダはアクリル系樹脂が好ましく、分子量は1万〜150万のものが好ましい。
【0045】
ボロンナイトライドおよびカーボンの付与量は、それぞれ0.1〜20g/mの範囲が好ましい。0.1g/m未満ではろう材の濡れ性を悪くする効果が小さく、20g/mを超える大量付与は不経済である。ボロンナイトライドおよびカーボンの特に好ましい付与量はそれぞれ1〜15g/mである。
【0046】
樹脂はろう付時の加熱によって分解してカーボンを生成し、生成したカーボンは濡れ性低下材として機能する。前記濡れ性低下材はろう付温度に近い高温域において接合部の周囲に存在している必要があるので、加熱分解生成物であるカーボンが樹脂として付着させた位置に残留していることが必要である。具体的にはろう付温度に近い560℃において付着させた位置にカーボンとして残留する樹脂を使用できる。
【0047】
接着剤もまた、ろう付時の加熱によって熱分解してカーボンを生成し、560℃において付着位置にカーボンとして残留するので、濡れ性低下材として使用できる。カーボンを生成する接着剤としてエポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂等を例示できる。
【0048】
上述した樹脂および接着剤は必要に応じて溶剤を加えて適宜粘性を調整し、仮組した積層体の所要位置に付与する。樹脂および接着剤の付着量は、それぞれ0.5〜50g/mの範囲が好ましい。0.5g/m未満ではろう材の濡れ性を悪くする効果が小さく、50g/mを超える大量付与は不経済である。樹脂および接着剤の特に好ましい付与量はそれぞれ1〜15g/mである。
【0049】
〔濡れ性低下材の付与方法〕
前記濡れ性低下材はろう付時に接合部の周囲に付着していれば良いので付与方法は限定されず、積層体を仮組する前および後のどちらで付与しても良い。
【0050】
仮組した積層体に付与する場合は、液状または粘液状に調製した濡れ性低下材を所要位置に塗布する。仮組後に塗布するので付着量の調節が容易である。図2の積層物(10)の形状であれば、セラミック基板(11)の下面(11a)と熱応力緩和材(14)の外周面(14a)との入隅部を中心にして塗布すれば、接合部(18)の周端部(18a)、および両方の面(11a)(14a)の接合部(18)の周端部(18a)に隣接する部分に付着させることができる。
【0051】
濡れ性低下材を付与した後に積層体を仮組する方法として、図3A〜3C示す、以下の方法を推奨できる。
【0052】
(1)図3A
セラミック基板(11)および熱応力緩和材(14)の一方または両方の相対する面(14b)(11a)に、液状または粘液状に調製した濡れ性低下材(20)を付与する。付与位置は両者が重なり合う領域内の縁部とする。図示したセラミック基板(11)の面上の破線は熱応力緩和材(14)が重なる領域を示している。また、濡れ性低下材(20)を均一に塗り広げる必要もなく、周方向に連続している必要もない。例えば、図示例のように点状に付与すれば良い。
【0053】
(2)図3B
セラミック基板(11)および熱応力緩和材(14)を他の部材とともに重ねて積層体(10)を仮組する。
【0054】
(3)図3C
仮組した積層体(10)を積層方向に押し付ける。この押し付けにより、濡れ性低下材(20)を拡げて周方向に繋げかつ積層界面から外方に押し出して外部に排出させる。外部に押し出された濡れ性低下材(20)は接合部(18)の周端部(18a)およびに接合部(18)の周端部(18a)に隣接する両方の面(11a)(14a)に付着する。図4は熱応力緩和材(14)の上面(セラミック基板に相対する面)(14b)を示す図面であり、点状に付着させた押し付け前の濡れ性低下材(20)を実線で示し、押し付けによって広がった領域を破線で示している。周方向に点在する濡れ性低下材(20)が押し付けによって繋がり、濡れ性低下材(20)が全周に行き亘る。そして、濡れ性低下材(20)は全周で接合界面から外部に排出されて、接合部(18)の周囲に付着する。同様に、セラミック基板(11)の下面(11a)においても濡れ性低下材が押し付けによって広がって全周に行き亘り、かつ接合界面から外部に排出されて接合部(18)の周囲に付着する。なお、積層体(10)を押し付けても接合界面には僅かに濡れ性低下材が残留するが、周端部に近い外縁部でありかつ残留量も微量であるからろう付け性を低下させるには至らない。
【0055】
上記方法によれば、仮組前に濡れ性低下材を全周に付与しなくても押し付けによって全周に付着させることができる。ただし、周方向における仮組前の濡れ性低下材の付与位置は任意であり、全周に付与する場合も本発明に含まれる。
【0056】
また、濡れ性低下材がバインダを加えて粘性のある分散液や接着剤である場合は、外部に排出した濡れ性低下材がセラミック基板(11)、ろう材(16)、熱応力緩和材(14)を仮止めすることになるので、積層体(10)のハンドリング性を高めることができる。また、濡れ性低下材によって上記の3層が仮止めされるので、3層を仮止めしてから他の部材やろう材を仮組して積層体を完成させることもできる。このような仮止め効果が得られることから、この付与方法は接着剤や粘性のある分散液に適している。なお、仮組後に濡れ性低下材を追加付与しても良い。
【0057】
〔ろう付条件〕
仮組した積層体のろう付条件は特に限定されず、真空ろう付、不活性ガス雰囲気中のろう付を例示できる。
【0058】
〔積層体の他の実施形態〕
本発明において、各部材の形状は上述したものに限定されない。
【0059】
ヒートシンクはセラミック基板側の外面がフラットであればセラミック基板と広い面積でろう付して高い放熱性能が得られるので、セラミック基板側の面以外の外部形状や内部形状は問わない。ヒートシンクの他の形状として、平板の他方の面にフィンをろう付したヒートシンク、平板の他方の面にフィンを立設したヒートシンク、1つまたは複数の中空部を有するチューブ型ヒートシンク、中空部内にフィンを設けたチューブ型ヒートシンク等を例示できる。ヒートシンクが複数部材を組み立ててろう付することによって完成するものである場合は、仮組したヒートシンクを積層体に組み込み、これらを同時に一括してろう付することもできる。例えば、図5に示した積層体(30)に組み込まれたヒートシンク(31)は、上下の皿状部材(32a)(32b)を合わせることによって中空部(33)を形成し、その中空部(33)内に波状フィン(34)を配置したものである。これらの部材を仮組したヒートシンク(31)は、回路層(13)、セラミック基板(11)、熱応力緩和材(14)、ろう材(12)(16)(17)ともに仮組され、一括してろう付される。
【0060】
また、図6に示すように、熱応力緩和材として、熱応力を吸収させるための貫通穴(42)を穿設したパンチングメタル(41)を使用することがある。図7に示すように、かかるパンチングメタル(41)を用いた積層体(40)においては、ヒートシンク(15)から離脱した元素が貫通穴(42)を通ってろう材(16)に混入するおそれがある。このため、積層体(40)の仮組前にパンチングメタル(41)の貫通穴(42)の周面(42a)にもろう材濡れ防止材を付与しておくことが好ましい。なお、冷熱サイクルによる熱応力の影響は接合部(19)の外周端部(19a)が最も大きく、中心近くは外周端部より(19a)も影響が少なく剥離の発生も少ないため、本発明において、熱応力緩和材としてパンチングメタル(41)を使用する場合でも貫通穴(42)の周面(42a)へのろう材濡れ性低下材の付与は必須条件ではない。積層体(40)において、図7のように、セラミック基板(11)とパンチングメタル(41)の接合部(19)の外周端部(19a)の周囲にろう材濡れ防止材(20)を付与し、貫通穴(42)の周面(42a)にろう材濡れ防止材(20)を付与せずにろう付する場合も本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0061】
図1に示す構造の積層体を仮組して一括してろう付するろう付試験を行った。各例において使用する部材および積層体のろう付条件は共通であり、濡れ性低下材とその付与方法のみが異なる。
【0062】
セラミック基板(11)は窒化アルミニウムからなる30mm×30mm×厚さ0.6mmの平板である。回路層(13)は99.99%以上の高純度アルミニウムからなる厚さ0.6mmの板である。熱応力緩和材(14)は99.99%以上の高純度アルミニウムからなり、28mm×28mm×厚さ1.6mmの平板である。ヒートシンク(15)はAl−1質量%Mn合金からなる厚さ5mmの平板である。ろう材(12)(16)(17)はAl−10質量%Si−1質量%Mg合金からなる厚さ30μmの箔である。
【0063】
(実施例1、3)
表1に示す濡れ性低下材および有機分散媒で濡れ性低下材濃度が20%の分散液を調製し、仮組した積層体(10)のセラミック基板(11)と熱応力緩和材(14)との入隅部および熱応力緩和材(14)の外周面(14a)に、濡れ性低下材の付着量が10g/mとなるように塗布した。この塗布により、図2に参照されるように、濡れ性低下材(20)を接合部(18)の周端部(18a)、熱応力緩和材(14)の外周面(14a)の全面および周端部(18a)に隣接するセラミック基板(11)の他方の面(11a)の一部に付着した。
【0064】
(実施例2、4)
表1に示す濡れ性低下材、有機分散媒、バインダを1:1:1で混合し、仮組した積層体(10)のセラミック基板(11)と熱応力緩和材(14)との入隅部および熱応力緩和材(14)の外周面(14a)に、濡れ性低下材(20)の付着量が10g/mとなるように塗布した。濡れ性低下材(20)の付着位置は実施例1、3と同じである。
【0065】
(比較例)
濡れ性低下材を付与しなかった。
【0066】
(実施例5〜7)
表1に示す濡れ性低下材(接着剤)を仮組した積層体(10)のセラミック基板(11)と熱応力緩和材(14)との入隅部に濡れ性低下材の付着量が10g/mとなるように塗布した。この塗布により、濡れ性低下材(20)が接合部(18)の周端部(18a)、周端部(18a)に隣接する熱応力緩和材(14)の外周面(14a)の一部、周端部(18a)に隣接するセラミック基板(11)の他方の面(11a)の一部に付着した。
【0067】
(実施例8)
図3A〜3Cに示すように、仮組前のセラミック基板(11)および熱応力緩和材(14)の相対する面(11a)(14b)に、表2に示す濡れ性低下材(接着材)(20)を点状に付着させ、他の部材とともに重ねて積層体(10)を仮組し、仮組した積層体(10)を積層方向に押し付け、濡れ性低下材(20)を拡げて周方向に繋げかつ積層界面から外部に排出させた。これにより、濡れ性低下材(20)が、接合部(18)の周端部(18a)、周端部(18a)に隣接する熱応力緩和材(14)の外周面(14a)の一部、周端部(18a)に隣接するセラミック基板(11)の他方の面(11a)の一部に付着した。また、濡れ性低下材(20)の付着量は10g/mとなった。
【0068】
各例の仮組した積層体(10)を7×10−4Paの真空中で600℃×20分で真空ろう付した。
【0069】
各ろう付品について、−40℃と125℃の反復を2000サイクル行う冷熱試験を行い、セラミック基板(11)の割れを調べるとともに超音波探傷機によりセラミック基板(11)と熱応力緩和材(14)との接合部における剥離面積を測定し、下記の基準で評価した。剥離面積率とは接合部の全面積に対して剥離が生じた部分の面積の割合である。評価結果を表1に示す。
【0070】
○:セラミック基板に割れがなく、かつ剥離面積率が3%未満のもの
△:セラミック基板に割れがなく、かつ剥離面積率が3%以上5%未満満のもの
×:セラミック基板に割れが生じたもの、あるいは剥離面積率が5%以上のもの
【0071】
【表1】

【0072】
表1より、本発明の方法で製造したろう付品はセラミック基板と熱応力緩和材とが良好にろう付され、かつ冷熱サイクルにおいてもセラミック基板が割れることがなく、かつ接合界面の剥離が抑制された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明はセラミック基板とアルミニウム製ヒートシンクとを同時にろう付する電子素子搭載用基板の製造に好適である。
【符号の説明】
【0074】
10、30、40…積層体
11…セラミック基板
11a…他方の面
12、16、17…ろう材
13…回路層(アルミニウム回路層)
14…熱応力緩和材(アルミニウム層)
14a、41a…外周面
15、31…ヒートシンク
18、19…接合部
18a、19a…周端部
20…濡れ性低下材
41…パンチングメタル(熱応力緩和材)
42…貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック基板の一方の面に、ろう材を介して金属からなる回路層を重ねて配置するとともに、他方の面に、アルミニウムからなる熱応力緩和材とアルミニウムからなるヒートシンクをそれぞれろう材を介して重ねて配置して積層体を仮組し、これらを同時に一括してろう付する電子素子搭載用基板の製造方法であって、
仮組した積層体において、セラミック基板と熱応力緩和材の接合部の周囲にろう材の濡れ性を低下させる濡れ性低下材を付着させた状態でろう付を行うことを特徴とする電子素子搭載用基板の製造方法。
【請求項2】
前記熱応力緩和材の外周面とセラミック基板の他方の面とによって入隅部が形成される積層体において、前記入隅部を含む、熱応力緩和材の外周面およびセラミック基板の他方の面に濡れ性低下材を付着させた状態でろう付を行う請求項1に記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【請求項3】
前記熱応力緩和材は貫通穴を有するパンチングメタルであり、仮組した積層体において前記貫通穴の周面に濡れ性低下材を付着させた状態でろう付を行う請求項1または2に記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【請求項4】
前記濡れ性低下材はボロンナイトライドおよびカーボンのうちの少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【請求項5】
前記濡れ性低下材を有機分散媒に分散させた分散液を塗布することにより濡れ性低下材を付着させる請求項4に記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【請求項6】
前記分散液にバインダを加える請求項5に記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【請求項7】
前記濡れ性低下材は、加熱による分解生成物であるカーボンが560℃において付着位置に残留する樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂は、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂のうちの少なくとも1種からなる接着剤である請求項7に記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【請求項9】
積層体を仮組した後に濡れ性低下材を付与する請求項1〜8のいずれかに記載の電子素子搭載用基板の製造方法。
【請求項10】
仮組前のセラミック基板および熱応力緩和材の一方または両方の相対する面の縁部に濡れ性低下材を付与し、他の部材とともに重ねて積層体を仮組し、仮組した積層体を積層方向に押し付けて濡れ性低下材を積層界面から外部に排出させて接合部の周囲に付着させる請求項1〜8のいずれかに記載の電子素子搭載用基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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