説明

電子線ディスプレイ

【課題】蛍光体からの光取り出し効率、及び明所コントラストを向上させた電子線ディスプレイを提供する。
【解決手段】本発明の電子線ディスプレイは、電子放出素子10と、メタルバック4と、メタルバック4を介して電子放出素子10と対向し、電子放出素子10より放出される電子ビームの照射によって発光する蛍光体ドット20とを有する。さらに、本発明の電子線ディスプレイは、蛍光体ドット20の形成された領域内に開口8を有し、蛍光体ドット20を介して電子放出素子10に対向して配置された黒色部材3とを有するフェイスプレート1と、を備える。電子放出素子10から放出される電子ビームの電子ビーム照射領域6が、蛍光体ドット20より小さく、電子ビーム照射領域6内に黒色部材3の一部が位置し、開口8の少なくとも一部は、電子ビーム照射領域6の外側に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外光反射を減じた電子線ディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
CRTをはじめとする画像表示装置は、より一層の大判化が求められ研究が盛んに行なわれている。また大判化に伴い装置の薄型化・軽量化・低コスト化が重要な課題となっている。しかしながら、CRTは高電圧で加速した電子を偏向電極で偏向し、フェイスプレート上の蛍光体を励起するため、大判化をおこなうと原理的に奥行きが必要となり、薄型・軽量のものを提供する事が困難である。発明者らは前記の問題を解決し得る画像表示装置として、表面伝導型電子放出素子、ならびにこの表面伝導型電子放出素子を用いた画像表示装置について研究を行ってきた。
【0003】
近年、このような画像表示装置における輝度及びコントラスト等の画像特性を向上させる手段が種々開示されている。
【0004】
特許文献1には、ブラックマトリクスの占有面積を60%から95%とし、ブラックマトリクス上には金属膜が設けられ、かつブラックマトリクスには開口と複数の小孔を設け、光の取り出し効率を向上させることが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ブラックマトリクス膜と、このブラックマトリクス膜上に設けられた光反射膜と、蛍光体膜と、背面光反射膜(メタルバック)とからなる蛍光体スクリーン面が開示されている。特許文献2に係る発明は光の取り出し効率をメタルバックの構造にて向上させている。
【特許文献1】特開2006−004804号公報
【特許文献2】特開平11−339683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び特許文献2に記載されている画像表示装置はいずれも蛍光体からの光取り出し効率の向上を図るものであるが、近年、さらなる表示特性の向上が求められている。
【0007】
明所コントラストを向上させるためには、ブラックマトリクスの占有率を大きくする、すなわち開口率を小さくすることが必要となる。しかしながら、単に開口率を小さくすると、蛍光体の発光が遮られ、光の取り出し効率が低下してしまう。
【0008】
そこで、本発明は、蛍光体からの光取り出し効率、及び明所コントラストを向上させた電子線ディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の電子線ディスプレイは、電子源と、メタルバックと、該メタルバックを介して電子源と対向し、該電子源より放出される電子ビームの照射によって発光する蛍光体ドットとを有する。本発明の電子線ディスプレイは、さらに蛍光体ドットの形成された領域内に開口を有し、蛍光体ドットを介して電子源に対向して配置された黒色部材とを有するフェイスプレートと、を備える。このような電子線ディスプレイにおいて、電子源から放出される電子ビームの照射領域が、蛍光体ドットより小さく、照射領域内に黒色部材の一部が位置し、開口の少なくとも一部は、照射領域の外側に位置している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、蛍光体からの光取り出し効率、及び明所コントラストを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
本発明の電子線ディスプレイは、電界放出型電子ディスプレイ(FED)、表面伝導型電子放出ディスプレイ(SED)、陰極線ディスプレイ(CRT)などを包含している。特に、FEDやSEDは、電子ビームを所望の個所に照射する(電子ビームを収束する)ことが容易であるという点から、本発明が適用するのに好ましい形態である。なお、FEDに用いられる電子放出源としては、スピント型、MIM型、カーボンナノチューブ型、弾道電子面放出(BSD)型などが挙げられる。
【0013】
本発明の実施の形態について、表面伝導型電子放出素子を用いた電子線ディスプレイを例に挙げ、図1および図2を用いて説明する。
【0014】
図1(a)は、本発明のフェイスプレート1に電子ビームが照射され発光している様子をあらわす模式的な平面図である。また図1(b)は本発明の電子線ディスプレイにおけるフェイスプレート1の断面、ならびに電子ビームの軌道5を示す模式的な断面図である。
【0015】
なお、図中フェイスプレート1の平面方向をXY方向とし、電子放出素子10が設けられたリアプレート9とのギャップ方向をZ方向とする。
【0016】
フェイスプレート1には、電子ビーム(電子線)が照射され発光する蛍光体2と、黒色部材3と、メタルバック4が設けられている。フェイスプレート1の材料としては、蛍光体の発光を透過して観察するため、透明の絶縁性基板が好適に用いられ、ソーダライムガラスなどの板ガラスが好適に用いられる。その他に、PDP(Plasma Display Panel)の分野で用いられる高ひずみ点ガラスなども好適に用いられる。
【0017】
蛍光体2は、電子ビームの照射により発光し画像を形成する材料であり、複数の蛍光体2により、蛍光体ドット20を構成している。蛍光体2としては、CRTで用いられるP22蛍光体をはじめとする電子線励起で発光する粉状の蛍光体が好適に用いられる。また、材料としては同様のものではあるが、フェイスプレート1に直接成膜をおこなって作製する薄膜蛍光体も好適に用いられる。特にP22蛍光体は、CRTの開発により発光色、発光効率、色バランスなどに優れ、好適に用いることができる。また、蛍光体2はスクリーン印刷法、フォトリソグラフィ法、インクジェット法などで形成される。特にスクリーン印刷法が材料使用効率の点で好適に使用される。
【0018】
黒色部材3はブラックマトリクス・ブラックストライプなどとも呼ばれ、外光を吸収し明所コントラストを上げたり、蛍光体の混色を防いだりする目的で設けられている。黒色部材3には、蛍光体ドット20の形成された領域内に複数の開口8が形成されている。黒色部材3としては、カーボンブラック、黒色顔料および低融点ガラスフリットを含有したペーストなどが用いられる。また、黒色部材3は、スクリーン印刷法、フォトリソグラフィ法などで形成される。特に、黒色顔料および低融点ガラスフリットを含有したペーストに感光性樹脂を混合したものによるパターニングが行いやすいため、好適に用いられる。
【0019】
明所コントラストを向上させるためには、黒色部材3の占有率を大きくする、すなわち開口率を小さくすることが必要となる。ただし、単に開口率を小さくすると、蛍光体の発光が遮られる。よって、光の遮蔽を少なくし、極力光の取り出し効率を上げることが求められる。なお、光取り出し効率の向上については後述する。
【0020】
メタルバック4は、リアプレート9からの電子を加速するための加速電圧を印加するため、蛍光体2からの光のうちリアプレート9の方向に出た光をフェイスプレート1側に反射させるために設けられた部材である。メタルバック4は加速された電子ビームのエネルギー損失を極力小さくしつつ、光の反射率を向上する必要があるため、薄膜上の金属が好適に用いられる。メタルバック4としては、電子のエネルギー損失を小さくできるアルミニウムが、特に好適に用いられる。また、メタルバック4は、CRTで公知のフィルミング法、転写法などを用いて形成される。特に樹脂中間膜を用いるフィルミング法では、メタルバック4の反射率を向上できるために、好適に用いられる。
【0021】
フェイスプレート1と対向して配置されたリアプレート9上には電子放出素子(電子源)10が設けられている。
【0022】
次に、電子放出素子(電子源)10から放出された電子ビームについて説明する。電子放出素子10から放出された電子ビームは、軌道5のように飛翔し、フェイスプレート1上の蛍光体ドット20に照射され、電子ビームによる発光領域となる。
【0023】
ここで、電子ビーム照射領域について説明する。
【0024】
図2は電子ビームの強度を示す模式的図面である。電子線ディスプレイにおいて、電子ビームの照射強度分布は一様な分布とはならず、さまざまな分布を持つ。電子放出素子10の形状により電子ビームの照射強度分布は異なるが、図2には表面伝導型電子放出素子を用いたときの典型的な分布を示す。下のグラフはX方向断面の強度プロファイルである。表面伝導型電子放出素子の強度プロファイルは、ピークを持ち、そのピークの外側はなだらかに変化している。このように、電子放出素子は、その照射強度分布が所定の方向になだらかに変化するため、電子ビームの非照射部を明確に示しにくく、また、強く発光している領域は限定されている。したがって本発明では、電子ビームによる発光領域とは、電子ビームの照射強度分布のうち、ピーク強度の半分以上の強度を有する部分とする。
【0025】
なお、使用する蛍光体によっては、いわゆるガンマ特性、すなわち励起する電流密度を上げるほど発光効率が低下し輝度飽和が起こる現象を生じる場合がある。その場合には、電子ビームの照射強度プロファイルと、発光強度プロファイルは厳密には一致しない。しかしながら、本発明の目的は、蛍光体からの発光を効率よく取り出すことであり、発光プロファイルにおけるピークの半分の領域から求めた領域を電子ビーム照射領域6とする。ただし、この際に後述する複数の開口8を配置する際に、発光プロファイルがフェイスプレート1の外側から観察しにくい場合がある。その際には、次に示すような手法で電子ビーム照射領域6を求め、それに対して複数の開口を配置する。
(1)複数の開口8から観察できるプロファイルを測定する。
(2)電子放出源の形状、リアプレートの形状、加速電圧などから類推される電子ビームの予測プロファイルを測定する。
(3)開口が大きい、もしくは黒色部材3がないフェイスプレートを用いビームプロファイルを測定する。
【0026】
いずれにせよ、本発明の目的である蛍光体2からの光を効率よく取り出すためには、蛍光体2の内部での発光強度に着目する必要がある。
【0027】
また、電子ビーム照射領域6の大きさは、画素7(サブピクセルと呼ぶ場合もある)のサイズよりも小さく、おおむね固定された領域に照射されている。固定画素型の電子線ディスプレイにおいては、電子ビーム照射領域6は画素7よりも小さくなるため、光の取り出し方法を考慮する必要がある。CRTにおいては電子ビームを偏向コイルにて偏向し、スキャンして画像を表示する。そのため、スキャン方向に平行な方向には、画素全体に電子ビームが照射されることになる。ただし、シャドウマスクなどを有するCRTでは、電子ビーム照射領域6が限定される場合がある。このような場合にも本発明は好適に用いることができる。すなわち、フェイスプレートに照射される電子ビームの位置・領域が、ある部分に限定されているような電子線ディスプレイであれば、本発明を好適に用いることができる。
【0028】
次に複数の開口8を設ける際に、光の取り出し効率を向上するための方法について説明する。
【0029】
複数の開口8は、上述の電子ビームの照射により発光した光を取り出すために設ける。まず、図3および図4を用いて、複数の開口を設けることによる効果について説明する。図3(a)及び図4(a)は、フェイスプレートの断面を示す図である。図3(b)、図4(b)及び図4(c)はフェイスプレートの外側(観察者側)からみた平面図である。
【0030】
各図において電子ビームの照射により発光した蛍光体2aからの光線を矢印にて示している。蛍光体2aからの光線の出射方向は等方的である。なお、蛍光体2aは、蛍光体2のうち、開口8の直下に位置しておらず、黒色部材3に隠れた位置にある蛍光体である。
【0031】
図3(a)に示す例では、開口8は、電子ビームの照射により発光した蛍光体2aに対して左側に一つのみ形成されている。
【0032】
このような構成において、開口8の方向に向かう方向に出射された光線(蛍光体2aから左方向に出た矢印)は蛍光体2やメタルバック4に散乱・反射されて大部分が開口8から出射することができる。しかしながら、開口8と反対側に出射された光線(蛍光体2aから右方向に出た矢印)は蛍光体2やメタルバック4に散乱・反射されても、開口8に到達しにくい。また、到達したとしても、かなりの回数の散乱・反射により光が減衰してしまっている。
【0033】
また、図3(b)に示すように、電子ビーム照射により発光した蛍光体2aからの光線は、XY平面で色々な方向に出射される。その際に、開口8が発光した蛍光体2aの片側のみに配置される場合には、実線で示した光線が開口に向かい、破線で示した光線は開口8に向かわない。破線で示した光線も、散乱・反射のうえ開口8に到達する場合もあるが、そのためにはかなりの減衰を伴う。
【0034】
一方、図4(a)に示す例では、開口8は蛍光体2aに対して左右両側に形成されている。
【0035】
このような構成においては、蛍光体2aから出射された光線(蛍光体2aから左右両方向に出た矢印)はいずれも、散乱・反射により光が減衰する前に開口8に到達しやすい。このように、蛍光体2aの左右両側、いいかえると発光部分が開口8でX方向において挟まれた位置に配置されていることが好ましい。
【0036】
また、図4(b)で示すように、発光する蛍光体2aの両側に開口8が配置される場合には、実線で示す左右向かう光線はいずれも開口8に到達することができる。もっとも、破線で示す開口8と平行なY方向に向かう光線は、散乱・反射のうえ開口8に到達する場合もあるが、そのためにはかなりの減衰を伴う。
【0037】
図4(c)に示す例では、蛍光体2aの周囲を囲むように開口8が形成されている。
【0038】
この構成の場合、蛍光体2aから出射された光線は、X、Yのいずれの方向においても開口8に到達しやすくなる。なお、開口8は必ずしも複数ではなく、つながった形態でも良い。
【0039】
次に、本発明の特徴である、電子ビーム照射領域に対する開口8の形状、位置について説明する。
【0040】
電子ビーム照射領域6が蛍光体ドット20よりも小さい本形態において、以下の構成とすることで、光を取り出す効率及び明所コントラストを向上させることができる。
【0041】
上述のとおり、光を取り出す効率を向上させるためには、発光する領域に対しその外側に開口8が存在することが求められる。そこで、開口8の少なくとも一部が電子ビーム照射領域6の外側に位置するようにする。
【0042】
また、明所コントラストを向上するためには、外光を吸収しうる黒色部材3の占有率を上げる、すなわち開口率を下げる必要がある。そこで、電子ビーム照射領域6内に黒色部材3の一部が位置するようにする。
【0043】
以下に本構成の具体例を示す。
【0044】
第一の構成として、開口8を複数に分割し、電子ビーム照射領域を十分に囲めるように、少なくともひとつの開口8を電子ビーム照射領域6よりも外側に配置する構成が考えられる。
【0045】
このような構成の例として、図5A(a)〜図5A(f)に示す構成が挙げられる。各図中、電子ビーム照射領域6は、縦長の楕円形状で示されている。また、各図には図示しないが、蛍光体ドット20は、各開口8の全て及び開口8の間に位置する黒色部材3aの全てを含む領域に配置されている。
【0046】
図5A(a)は、複数の長方形の開口8が互いに所定の間隔を空けて平行に配置された例を示している。
【0047】
より具体的に説明すると、本例では、該長方形の短手方向に6つ並列配置されているが、上下両端に位置する開口8には電子ビーム照射領域6は達しておらず、内側の4つの開口8にのみ電子ビーム照射領域6は位置している。つまり、開口8は、楕円形状の電子ビーム照射領域6の長軸方向においては、該長軸よりも広い領域に配置されている。
【0048】
また、長方形の開口8の長手方向の長さは、楕円形状の電子ビーム照射領域6の短軸よりも長い。
【0049】
黒色部材3にこのような開口8を形成することで、発光する領域に対しその外側に開口8を存在させ、かつ外光を吸収しうる黒色部材3aの占有率を上げて開口率を下げることができる。すなわち、光を取り出す効率を向上させ、かつ明所コントラストを向上させることができる。
【0050】
図5A(b)は、複数の正方形の開口8が互いに所定の間隔を空けてマトリクス状に配置された例を示している。これら各正方形の開口8の開口面積は、図5A(a)の長方形の各開口8の開口面積に比べて小さい。なお、各開口8の開口形状は正方形に限定されるものではなく、長方形でもよく、さらに多角形でもよい。
【0051】
図5A(c)は、開口形状が円形の開口8が互いに所定の間隔を空けてマトリクス状に配置された例を示している。また、図5A(c)では、ほとんど光線が届かない四隅の円形開口を無くすことにより、より効果的に開口率を低減している。本例においても、各開口8の開口形状は円形に限定されるものではなく、楕円形の他、外縁が曲線からなる開口形状であってもよい。
【0052】
図5A(d)は、図5A(a)と概ね同様の構成であるが、各開口8の角が丸めてある例について示したものである。さらに広義にはアスペクト比の大きい形状であれば良い(図5B参照)。
【0053】
このような開口8の配置であれば、図4(b)に示すように、ある点から出た光のうち、大部分の方向に出射される光を開口から取り出すことができる。
【0054】
図5A(e)は、複数の正方形の開口8が互いに所定の間隔を空けて千鳥格子状に配置された例を示している。
【0055】
図5A(f)は、複数の円形の開口8が互いに所定の間隔を空けて千鳥格子状に配置された例を示している。
【0056】
次に、第二の構成として、第1の構成のように開口を分割した形状とするのではなく、電子ビーム照射領域6を内包するような開口を想定し、電子ビーム照射領域6の中に黒色部材3を配置する構成が考えられる。
【0057】
図5A(g)は、電子ビーム照射領域6よりも大きな開口面積の開口8の中にひとつの黒色部材3aが形成された例を示している。
【0058】
図5A(h)は、電子ビーム照射領域6よりも大きな開口面積の開口8の中に複数の矩形の黒色部材3aがマトリクス状に配置された例を示している。
【0059】
図5A(i)は、電子ビーム照射領域6よりも大きな開口面積の開口8の中に複数の長方形の黒色部材3aが並列に配置された例を示している。図5A(i)に示す例の黒色部材3aは、その一方の端部が開口8の周囲に接している。
【0060】
さらに、光の取り出し効率をより向上させるために必要な開口部分の構成(黒色部材・反射部材・開口の配置)について説明する。
【0061】
電子照射により発光した蛍光体からでた光線は、
(1)蛍光体での散乱
(2)メタルバックでの反射
(3)黒色部材での反射
を繰り返して開口から観察者側に出射される。したがって、光線の減衰を極力減らすためには、(1)〜(3)での吸収を極力減らすことと、(1)〜(3)の起こる距離を短くすることが考えられる。このうち(1)〜(3)のうち吸収が最も多いのは(3)の黒色部材によるものである。
【0062】
そこで、図6に示すように、電子ビーム照射領域6内に配置された黒色部材3aの蛍光体2側(蛍光体ドット20に対向する側)に、反射部材11を設けることで、もっとも影響の大きい黒色部材3aでの吸収を減ずることができる。電子ビーム照射領域6内に配置された黒色部材3a以外の部分の黒色部材3についても反射部材11を設けるとより好適である。但し、以下の説明では、簡単のため、電子ビーム照射領域6内に配置された黒色部材3aについてのみ説明する。
【0063】
反射部材11としては、金属膜のような鏡面反射をするものと、セラミックスのような拡散反射をする白色の材料を用いた白色部材を用いることができる。
【0064】
反射部材11として金属膜を使用する場合には、反射率の高い金属を用いることができ、銀・アルミニウム・ニッケル・プラチナ・ロジウムなどが好適に使用できる。特に、アルミニウムは安価であり、反射率も高く、フォトリソグラフィにも向いているので好適に使用できる。黒色部材3aに積層して金属の反射膜を作製する方法としては、真空蒸着法・転写法・めっき法・スクリーン印刷法などが挙げられる。また、パターニングの方法としては、フォトリソグラフィ・転写法・スクリーン印刷法などが挙げられる。スクリーン印刷法については金属片の微小フレークをペースト化したものを使用する。特に、真空蒸着法により成膜した金属膜を、フォトリソグラフィで開口以外のところに形成する方法が、プロセスの容易性から好適に用いることができる。
【0065】
次に、反射部材11として白色部材を使用する場合について説明する。白色部材とは、拡散反射率の高い部材のことをいう。ここでは、拡散反射率が50%以上のものを白色部材とする。黒色部材3aに白色部材を積層すると、下地となる黒色部材3aの表面状態によらず高い反射率を得ることができる。白色部材の材料としては、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどのセラミックスや拡散反射板に用いられる硫酸バリウムなどが挙げられる。白色部材を形成する方法としては、上記材料をペースト化し、フォトリソグラフィ、スクリーン印刷、転写法などが挙げられる。このうち特にセラミックスの感光性ペーストを用いたフォトリソグラフィが、プロセスの容易性から好適に用いることができる。
【0066】
また、黒色部材3aと反射部材11を同時にパターニングすることもできる。あらかじめ全面に黒色部材3aの材料を塗布し、続けて反射部材11の材料を成膜もしくは塗布する。これらの材料に感光性材料を混入しておき、一括で感光・現像することで、まとめてパターニングができるため、特に好適に黒色部材3aと反射部材11の積層構造を形成できる。
【0067】
なお、黒色部材3aに金属膜を形成するか、あるいは白色部材を形成するかは黒色部材3aの表面状態によって適宜選択可能である。黒色部材3aが平坦である場合には、鏡面反射を得られる金属膜を好適に用いることができる。一方、黒色材料3aが平坦でない場合、平坦でない黒色部材3a上に金属膜を形成しても光沢面が得られず、反射率が下がってしまう。このような場合、上述したように、黒色部材3aの表面状態によらず高い反射率を得ることができるセラミックス等の白色部材を用いるのが好ましい。
【0068】
次に、光を取り出すまでの距離を短くすることにより、光の取り出し効率を向上する方法について述べる。もちろん、最もよいのは発光した部分に開口があることではあるが、それでは開口率を下げることができない。しかし、黒色部材3aで遮光された部分の距離(開口間距離であり、遮光部材の長さ)が短ければ、その部分での散乱される回数が少なくなるので、光の減衰率を低下できる。
【0069】
黒色部材3aで遮光された距離を短くするのに適した形状について図7を用いて説明する。なお、図7に示す例は図5A(a)に示した構成のものである。
【0070】
図7に示す例では、開口8は長方形でありアスペクト比が大きく、また、開口8の間に位置する黒色部材3aもアスペクトの大きい矩形となっている。このような構成とすることで、開口8の間に位置する黒色部材3aに遮光された部分の蛍光体2aからの発光は、図中の白矢印の方向に出た場合には最短距離で開口に到達させることができる。
【0071】
また、それ以外の方向に出た光も比較的短い距離で開口に到達する。加えて、開口率を下げやすいために、明所コントラストを上げる効果が大きい。
【0072】
開口8をアスペクト比の大きい長方形(すなわち、黒色部材3aもアスペクト比の大きい矩形もしくは長方形)にすることが、明所コントラストを向上させるのに特に好適な構成といえる。もっとも、遮光された部分の距離Lが余りに長いと、遮光部分をアスペクト比の大きい長方形にしても効果が小さくなる。そのため、黒色部材3aの距離Lはある範囲内に留めたほうが好ましい。なお、開口率を下げる程度が少なくて良い場合には、図5A(h)のような形状が光の取り出し効果を大きくすることができ、好適である。
【0073】
次に、黒色部材3aの距離Lと蛍光体2の膜厚との関係について説明する。
【0074】
電子ビームで励起され発光した蛍光体2からの光線は等方的に放射されるため、ある程度の広がりを有する。この光線は蛍光体2からなる蛍光体ドット20の膜厚が主に関係し、概ねこの膜厚の5倍程度の距離(XY方向)に広がる。そのため、黒色部材3aの距離Lが蛍光体ドット20の膜厚の5倍以上あると、ほぼ全ての光線が必ず黒色部材3aで反射するために、光の取り出し効率が低くなる。したがって、黒色部材3aの距離Lは蛍光体2の膜厚の5倍以下が好ましい。
【0075】
次に、開口率と明所コントラストとの関係について説明する。
【0076】
開口率が大きすぎると明所コントラストを向上させる効果が小さくなる。しかしながら、開口率を余り小さくしすぎても、光の取り出し効率が低下してしまう。
【0077】
明所コントラスト向上の効果は、電子ビーム照射領域6における開口率が90%ぐらいから効果が見え始め、70%より低いと顕著に表れる。一方、電子ビーム照射領域6における開口率が30%より低いと光の取り出し効率が下がり、20%より低いと輝度が低くなりすぎる。したがって開口率は20%以上90%以下の範囲内、好ましくは30%以上70%以下の範囲内とすることにより、明所コントラストを良好に向上させることができる。
【0078】
図8に、電子ビーム照射領域における開口率に対する、輝度とコントラストとの関係を示すグラフを示す。
【0079】
開口率が30%では、輝度は6割程度に低下してしまい、開口率を30%より低くすると暗くなりすぎる。逆に開口率が70%程度では明所コントラスト向上の効果が3割程度と小さくなってしまう。
【0080】
以上、表面伝導型電子放出素子を用いた電子線ディスプレイについて本発明を具体的に説明した。なお、他の電子放出素子を用いたディスプレイにおいても本発明は好適に用いることができる。他の電子放出素子を用いたときには、それに応じた電子ビームの照射領域が形成される。スピント型であれば多数のスポットにより形成され、シャドウマスクを用いたCRTであればシャドウマスクの開口の部分にとほぼ同様の形状をしたシャープな電流密度プロファイルになる。その際にも、電子ビームの照射領域に対し明所コントラストを向上するために、開口の形状を決めることにより明所コントラストを大幅に向上できる。
【0081】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明を詳しく説明する。
(実施例1)
本実施例は、図1に示される黒色部材を有する電子線ディスプレイを製造した。
【0082】
まず、本発明の特徴を示すフェイスプレート1の作製方法について説明する。
[工程1:黒色部材の形成]
ソーダライムガラスの基板上についてアニール処理を行うとともに洗浄した。その後、黒色部材3となる黒色ペーストを厚さ5μmとなるように全面に塗布した。本実施例では黒色ペーストとして感光剤を混合したカーボンブラックを用いた。塗布後、図1(a)に示すようなサブピクセルあたり複数の開口8を有するような形状になるように露光を行い、現像し所望のパターンを得た。なお、RGB正方画素のピッチが450μm(サブピクセルの大きさがX方向150μm、Y方向450μm)とした。また、サブピクセルの中の開口8がひとつあたりX方向100μm、Y方向20μmとし、開口8の間に位置する黒色部材3aのY方向(距離L)を20μmとした。開口8はサブピクセルあたり6箇所をY方向に並ぶように配置した。その後450度で焼成を行った。
[工程2:反射部材の形成]
次に、反射部材11として真空蒸着法によりアルミニウムを厚さ300nmで全面に成膜した。次に、フォトレジストを全面に塗布し、開口8の部分のレジストが除去されるように露光を行った。次に、現像により開口8の部分のレジストを除去し、アルミニウム膜をエッチングで除去した後に、残ったレジストを剥離した。
[工程3:蛍光体の形成]
次に、RGBの蛍光体2をスクリーン印刷法により形成した。使用した蛍光体2は、化成オプト社製のP22蛍光体であり、赤:P22RE3(Y22S)、緑P22GN4(ZnS:Cu、Al)、青=22B2(ZnS:Ag,Cl)を用いた。それぞれの蛍光体2の平均粒径は7μmであり、蛍光体ドット20の平均膜厚が15μmになるように形成した。その後450度で焼成を行った。
[工程4:メタルバックの形成]
次に、CRTの分野で公知であるフィルミング法を用いてメタルバック4を作製した。樹脂中間膜を形成した後、真空蒸着法によりアルミニウムを厚さ100nmで形成した。その後450度で焼成を行い、樹脂中間膜を除去した。
[工程5:真空容器の形成]
以上の工程を経てフェイスプレート1を作製し、リアプレート9と組み合わせて真空容器を形成し、電子線ディスプレイとしての動作を確認した。なお、リアプレート9および電子放出素子10の作製方法については説明を省略する。
【0083】
ここで、本実施例において使用した表面伝導型電子放出素子の構成について説明する。
【0084】
図9は本実施例のリアプレートの構成の一部を示す平面図である。リアプレート9には、線順次駆動する際の走査線13と、信号線14が形成され、層間絶縁層16で絶縁されている。また、走査線13と信号線14には、それぞれ電子放出素子10に給電するための電極15が接続されている。なお電子放出素子10のナノギャップ長さLGは100μmとした。また、フェイスプレート1とリアプレート9の距離は2mmとした。作製した画像表示パネルを素子駆動電圧16V、加速電圧10kVで駆動した際の電子ビームによる発光領域は図1(a)に示すとおりになった。
【0085】
作製した電子線ディスプレイの輝度を測定したところ、450cd/m2であった。また、室内照度300lxの時の拡散反射率を測定したところ3%であり、明所コントラストは300程度であった。
(実施例2)
本実施例は、反射部材11として白色材料を用いた例である。ただし、開口8の形状や蛍光体2・メタルバック4の製法などは実施例1と同様であるため、説明を省略する。
[黒色部材および反射部材の形成]
ソーダライムガラスの基板上についてアニール処理を行うとともに洗浄した。その後、黒色部材3となる黒色ペーストを厚さ5μmになるように全面に塗布した。本実施例では黒色ペーストとして感光剤・バインダー樹脂・黒色顔料・低融点ガラスフリットを混合したペーストを用いた。
【0086】
次に、白色ペーストを厚さ5μmになるように全面に塗布した。本実施例では白色ペーストとして、感光剤、アルミナ、低融点ガラスフリットを混合したペーストを用いた。
【0087】
白色ペーストを積層して塗布した後、乾燥を行い、所望の形状になるように露光を行い、現像し図1(a)に示すようなパターンを得た。その後450度で焼成を行った。
【0088】
その後、実施例1と同様の手段で蛍光体およびメタルバックを形成した。
【0089】
作製した電子線ディスプレイの輝度を測定したところ、420cd/m2であった。また、室内照度300lxの時の拡散反射率を測定したところ3%であり、明所コントラストは280程度であった。
(比較例)
次に比較例として、図10に示す、電子ビーム照射領域6の全体を覆う開口8が形成された黒色部材3を作製した。作製方法などは実施例1と同様であり、開口8の形状のみが異なる。開口8はサブピクセルあたりひとつであり、電子ビーム照射領域6を内包する長方形とした。開口の寸法はX方向100μm、Y方向220μmとした。
【0090】
作製した電子線ディスプレイの輝度を測定したところ、500cd/m2であった。また、室内照度300lxの時の拡散反射率を測定したところ6%であり、明所コントラストは170程度であった。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の電子線ディスプレイの模式的な平面図及び断面図である。
【図2】電子ビーム照射領域および強度プロファイルを示す図である。
【図3】開口が、発光した蛍光体に対して片側に一つのみ形成された黒色部材を有するフェイスプレートにおける、蛍光体から出射された光の進行状態を模式的に示した図である。
【図4】開口が、発光した蛍光体に対して両側、あるいは周囲に形成された黒色部材を有するフェイスプレートにおける、蛍光体から出射された光の進行状態を模式的に示した図である。
【図5A】本発明の効果を得ることができる形状の開口が形成された黒色部材の例を示す模式的な平面図である。
【図5B】開口のアスペクト比を説明する図である。
【図6】反射部材を備えた黒色部材を有するフェイスプレートの模式的な側断面図である。
【図7】黒色部材で遮光された距離を短くする際に適した形状について説明するための図である。
【図8】電子ビーム照射領域における開口率に対する、輝度とコントラストとの関係を示すグラフである。
【図9】本発明の一実施例におけるリアプレートの構成の一部を示す平面図である。
【図10】比較例としての電子線ディスプレイの模式的な平面図および断面図である。
【符号の説明】
【0092】
1 フェイスプレート
2 蛍光体
3 黒色材料
4 メタルバック
6 電子ビーム照射領域
8 開口
10 電子放出素子
20 蛍光体ドット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子源と、メタルバックと、該メタルバックを介して前記電子源と対向し、該電子源より放出される電子ビームの照射によって発光する蛍光体ドットと、該蛍光体ドットの形成された領域内に開口を有し、前記蛍光体ドットを介して前記電子源に対向して配置された黒色部材とを有するフェイスプレートと、を備える電子線ディスプレイにおいて、
前記電子源から放出される電子ビームの照射領域が、前記蛍光体ドットより小さく、前記照射領域内に前記黒色部材の一部が位置し、前記開口の少なくとも一部は、前記照射領域の外側に位置することを特徴とする電子線ディスプレイ。
【請求項2】
前記開口を複数有し、該複数の開口の少なくとも一つは、前記照射領域の外側に位置する、請求項1に記載の電子線ディスプレイ。
【請求項3】
前記複数の開口は、互いに所定の距離を空けて配置されている、請求項2に記載の電子線ディスプレイ。
【請求項4】
前記開口の各形状は長方形である、請求項2または3に記載の電子線ディスプレイ。
【請求項5】
前記所定の距離は、前記蛍光体ドットの膜厚の5倍以下である、請求項3に記載の電子線ディスプレイ。
【請求項6】
前記照射領域内における、前記複数の開口の開口率が30%以上70%以下の範囲内である、請求項2ないし5のいずれか1項に記載の電子線ディスプレイ。
【請求項7】
前記黒色部材のうち、少なくとも前記照射領域内に位置する前記黒色部材の前記蛍光体ドットに対向する側に、前記蛍光体ドットを構成する蛍光体からの光を反射する反射部材が形成されている、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の電子線ディスプレイ。
【請求項8】
前記反射部材は金属膜である、請求項7に記載の電子線ディスプレイ。
【請求項9】
前記反射部材は白色の材料からなる、請求項7に記載の電子線ディスプレイ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−252440(P2009−252440A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97025(P2008−97025)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】