説明

電子線照射装置の電子線安定化方法及び装置

【課題】本発明は電子線照射装置の電子線安定化方法及び装置に関し、フィールドエミッション形電子銃を用いた場合でも照射電流を安定化することができる電子線照射装置の電子線安定化方法及び装置を提供することを目的としている。
【解決手段】電流を検出可能な絞りを複数用意し、これら複数の絞りの絞り検出電流と、対応する電子線照射電流との関係をテーブルとしてメモリ21に記憶させておいて、電子線照射電流が小さい領域では、前記複数の絞り検出電流を加算したものを絞り検出電流とし、電子線照射電流が大きい領域では、前記複数の絞りのうち、特定の絞りの検出電流をそれぞれ検出電流として用いて、電子線照射電流のフィードバック制御を行なうように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子線照射装置の電子線安定化方法及び装置に関し、更に詳しくはEPMA(電子線マイクロアナライザ)、分析用SEM、分析用TEM、電子線描画装置など、安定した照射電流が必要な電子線照射装置の電子線安定化方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡(SEM)や、透過型電子顕微鏡(TEM)や、電子線描画装置等では、安定な照射電流を試料に対して照射する必要がある。このため、照射電流を安定化させるためのフィードバック制御が行われる。
【0003】
図3は従来装置の概念図である。図において、1は集束レンズ(CL)、2は対物レンズ、3は電子線、4,5は電子線を絞るための絞り、6は電流検出可能な絞りであり、微小電流計8で絞り検出電流を検出するようになっている。7は電子線3が照射されるターゲットである。該ターゲット7は、例えばウエハ等の試料である。照射電流は図の左から右に向かって増大するようになっている。このような構成の電子線照射装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0004】
電子源(図示せず)から放射された電子線3を集束レンズ(CL)1で集束する。集束された電子線3は続く絞り4,5,6を通過し、対物レンズ2で再度集束させて、電子線3をターゲット7に照射する。ここで、集束レンズ1の励磁電流を変更すると、絞り6を通過する電流量が変わり、ターゲット7に照射する照射電流量が変わる。
【0005】
電子線3の周辺部が絞り5で遮られる条件では、絞り6で検出する電流はグラフ1のように照射電流量に比例する。グラフ1はターゲット7への照射電流と絞り検出電流との関係を示す図である。αが照射電流−絞り検出電流特性を示す。この特性は、対物絞り6の特性を示している。
【0006】
この絞り6で検出する電流を電流計8で測定し、この検出電流が一定になるように集束レンズ1の焦点位置のフィードバック制御を行なうことで、照射電流を一定に保つことができる。
【0007】
従来のこの種の装置としては、電子銃と集束レンズとの間に放出電流を検出する検出器を配置すると共に、設定されたプローブ電流における検出器の初期値及び集束レンズの励磁補正データを記憶する手段を備え、初期値に対する検出器の出力の変化に応じて励磁補正データにより集束レンズ電流を補正するように構成したプローブ電流安定化装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0008】
また、集束レンズの下方に電流検出スリットを配置して該電流検出スリットの周縁部にあたるビームを検出し、該検出した電流値を集束レンズにフィードバックすることによってビーム電流を一定に制御する電子ビームスタビライザにおいて、電流検出スリットにメッシュ付きホールを備え、電流検出スリットの周縁部とメッシュを介してビームを検出するように構成したことを特徴とする電子ビームスタビライザが知られている(例えば特許文献2参照)。
【0009】
また、収束レンズと対物レンズの間であって、前記収束レンズによる電子ビームの収束点より対物レンズ側に、電子ビーム遮蔽用の第1絞りと、この第1絞りより対物レンズ側に、前記第1絞りより大きい開口を持つ第3絞りを上面に有し前記第1絞りより小さい開口を持ち、かつ、前記対物レンズにおける電子ビームの開き角を設定するための第2絞りを下面に有する箱状のビーム電流測定手段と、このビーム電流測定手段の検出した測定ビーム電流に基づいて前記収束レンズの強さを変更できるレンズ制御手段を備え、前記測定ビーム電流が一定となるように前記収束レンズの強さを制御することを特徴とする電子ビーム装置が知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平1−183044号公報(第3頁左上欄第1行〜同頁右下欄第8行)
【特許文献2】特開平1−292733号公報(第2頁左下欄第10行〜第17行)。
【特許文献3】特許第3520165号(段落0009〜0014)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
タングステン(W)フィラメントなどを使用した熱電子放出形電子銃の場合は、光源から放出される電子量(電流)が多いため、絞り6でフィードバック制御するのに十分な電流がえられる。一方、高輝度高空間分解能の像を得るためには、フィールドエミッション形電子銃を用いる必要がある。
【0012】
しかしながら、フィールドエミッション形電子銃から放出される電子量(電流)は少ないため、ターゲットに照射する放射電流をタングステンW,LBGなどの熱電子銃で得られる照射電流と同じ程度の値を得る条件では、フィードバックを行なうための検出電流が少なくなり、フィードバック制御するのに十分な電流を絞りで検出できないという問題がある。
【0013】
また、図4に示すように、絞り6で検出する電流を増やすために、絞り5や4の径を大きくした場合、I→II→…IV→Vとターゲット7に照射する照射電流を多くすると、電子
線3の周辺部が絞り5で遮られなくなり、ある照射電流以上は、絞り6で検出する電流が照射電流と比例しなくなる。
【0014】
グラフ2にそのことを示す。グラフ2に示す特性は、照射電流がI1になるまでは、照射電流は絞り検出電流と比例関係にあるが、照射電流がI1より大きくなると、特性αは絞り検出電流と比例しなくなる。
【0015】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、フィールドエミッション形電子銃を用いた場合でも照射電流を安定化することができる電子線照射装置の電子線安定化方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記した課題を解決するために、本発明は以下のような構成をとっている。
(1)請求項1記載の発明は、電流を検出可能な絞りを複数用意し、これら複数の絞りの絞り検出電流と、対応する電子線照射電流との関係をテーブルとしてメモリに記憶させておいて、電子線照射電流が小さい領域では、前記複数の絞り検出電流を加算したものを絞り検出電流とし、電子線照射電流が大きい領域では、前記複数の絞りのうち、特定の絞りの検出電流をそれぞれ検出電流として用いて、電子線照射電流のフィードバック制御を行なうようにしたことを特徴とする。
【0017】
(2)請求項2記載の発明は、電子線照射装置の全体の動作を制御する制御装置を用いて、前記メモリに記憶されている絞り検出電流と、対応する電子線照射電流との関係を用いて、電子線照射電流が小さい領域では、複数の絞り検出電流を加算したものを検出電流とし、電子線照射電流が大きい領域では、前記複数の絞りのうち、特定の絞りの検出電流を検出電流として、電子線照射電流のフィードバック制御を行なうことを特徴とする。
【0018】
(3)請求項3記載の発明は、電流を検出可能な複数の絞りと、各絞りに流れる電流を検出する絞り検出電流検出手段と、これら複数の絞りの絞り検出電流と、対応する電子線照射電流との関係をテーブルとして記憶するメモリと、全体の各構成要素の動作制御を行なう制御装置と、を具備し、前記制御装置は、前記メモリを参照し、電子線照射電流が小さい領域では、前記複数の絞り検出電流を加算したものを絞り検出電流とし、電子線照射電流が大きい領域では、前記複数の絞りのうち、特定の絞りの検出電流を検出電流として用いて、電子線照射電流のフィードバック制御を行なうようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下のような効果を奏する。
(1)請求項1記載の発明によれば、電子線照射電流が小さい領域では、前記複数の絞り検出電流を加算したものを絞り検出電流とし、電子線照射電流が大きい領域では、前記複数の絞りのうち、特定の絞りの検出電流をそれぞれ検出電流として用いて、電子線照射電流のフィードバック制御を行なうようにしたので、フィールドエミッション形電子銃を用いた場合でも、常に安定なフィードバック制御を行なうことができる。
【0020】
(2)請求項2記載の発明によれば、電子線装置の全体の動作を制御する制御装置を用いて、フィールドエミッション形電子銃を用いた場合でも、常に安定なフィードバック制御を行なうことができる。
【0021】
(3)請求項3記載の発明によれば、電子線照射電流が小さい領域では、前記複数の絞り検出電流を加算したものを絞り検出電流とし、電子線照射電流が大きい領域では、前記複数の絞りのうち、特定の絞りの検出電流をそれぞれ検出電流として用いて、電子線照射電流のフィードバック制御を行なうようにしたので、フィールドエミッション形電子銃を用いた場合でも、常に安定なフィードバック制御を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の構成例を示す図である。
【図2】本発明装置の動作概念図である。
【図3】従来装置の動作概念図である。
【図4】従来装置の他の動作概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例を示す構成図である。図3と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、3は電子線、1は電子線3を集束する集束レンズ(CL)、2は電子線3をターゲット上に細かく絞って照射するための対物レンズ(OL)である。
【0024】
4は第1の絞り、5は第2の絞り、6は第3の絞りである。これら絞りのうち、5と6は電流検出可能な絞りであり、6は対物絞りを兼ねてもよい。7はターゲット(試料)である。8は第2の絞り5の検出した電流を測定する電流計、9は第3の絞り6の検出した電流を測定す電流計である。
【0025】
13はこれら2つの電流計8,9の電流計の出力を加算する加算器である。SWは電流計9の出力をa接点に、加算器13の出力をb接点に受けるスイッチである。20は装置の各構成要素を制御すると共に全体の動作を制御する制御装置である。該制御装置20としては、例えばパーソナルコンピュータが用いられる。21は該コンピュータ20と接続され、各種の情報を記憶するメモリである。該メモリ21としては、例えばRAMやハードディスク装置が用いられる。
【0026】
22は制御装置20からの制御信号を受けて集束レンズ1を駆動するアンプである。該アンプ22としては、例えば出力可変の電源が用いられる。前記スイッチSWの共通接点cは制御装置20に入っている。これにより、制御装置20からスイッチSWの接点をaかbか選択することができる。10は電子線照射電流を測定する電流計であり、その出力は制御装置20に入力されている。
【0027】
図2は本発明装置の動作概念図である。図3と同一のものは、同一の符号を付して示す。図のグラフ3について説明する。グラフ3において、横軸は電子線照射電流、縦軸は絞り検出電流である。電子線照射電流はターゲット7に照射される電流、絞り検出電流は、絞り5と6の検出電流を示している。αは絞り5の特性であり、βは絞り6の特性である。α+βは特性αと特性βを加算した特性を示す。
【0028】
絞り5の特性αは電子線照射電流値がI1のところから検出電流特性が非線形になっている。照射電流がI1になる領域までは、特性α+βをフィードバック制御に用いる。照射電流がI1より大きい領域では特性βをフィードバック制御に用いる。そこで、グラフ3に太い実線で示す特性をメモリ21に記憶しておく。制御装置20はこの特性を用いてフィードバック制御を行なう。
【0029】
電子線3を集束レンズ1で集束して、絞り4〜6を通過させて、対物レンズ2でもう一度集束させて、電子線3をターゲット7に照射する。集束レンズ1の焦点位置を変更すると、絞り6を通過する電流量が変わり、ターゲット7に照射する照射電流量が変わる。
【0030】
集束レンズ1は、磁界レンズや電界レンズ、電磁重畳レンズなどであり、励磁電流や印加電圧を変更して、電子線3の焦点位置を変更することができる。絞り5と6は、電流検出が可能な絞りである。ここでは、簡単のために電流検出可能な絞りを2つとして説明するが、絞り4と絞り6の間に更に電流検出可能な絞りを設ける場合も考えられる。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0031】
電子線3の周辺部が絞り5で遮られる条件I〜Vでは、絞り6で検出する電流はグラフ
3のβのように照射電流の全領域で比例する。同様に、電子線3の周辺部が絞り4で遮られる条件(I〜II)では、絞り6で検出する電流はグラフ3のI1より左側の領域では、
照射電流量に比例する。しかしながら、電子線3の周辺部が絞り4で遮られない条件(II
〜V)では、絞り5で検出する電流は特性αに示すように照射電流には比例しない。
【0032】
制御装置20は、電流計10の出力をモニタしており、この出力が電流値I1を超えない領域では、スイッチSWの共通接点cをb接点側に接続し、絞り5と6で検出した電流を合計した電流である特性α+βを用いて、電子線照射電流が一定となるように制御信号をアンプ22に出力する。アンプ22では、集束レンズ1に制御信号を印加する。ここで、集束レンズ1が磁界レンズの場合には励磁電流を、集束レンズ1が電界レンズの場合には電圧をそれぞれ集束レンズ1に与えることになる。
【0033】
このようなフィードバック制御を行なうことで、電子線照射電流が一定となるような制御を行なうことができる。また、電子線照射電流を電流計10でモニタしていた制御装置20は、電子線照射電流がI1を越えた場合には、共通接点cをa側に接続し、特性βを用いて、電子線照射電流が一定となるようなフィードバック制御を行なう。
【0034】
このように、本発明によれば、電子線照射電流領域I〜Vまでの全領域で直線の絞り検
出電流特性を用いて電子線照射電流が一定となるようなフィードバック制御を行なうことができる。特に、電子線照射電流がα+βを用いてフィードバック制御を行なう場合には、絞り電流値が大きな領域でフィードバック制御を行なうため、SN比のよい制御を行なうことができる。このような一連のフィードバック制御において、制御装置20はメモリ21に記憶されている値を参照している。α+β又はβがメモリ21に記憶されているデータ値を越えた場合又はデータ値に達しない場合には、フィードバック制御に異常があるものとして異常処理を行なうことができる。本発明では、グラフ3の太い実線で示す特性を用いてフィードバック制御を行なうことになる。
【0035】
本発明によれば、電子線照射電流が小さい領域では、前記複数の絞り検出電流を加算したものを絞り検出電流とし、電子線照射電流が大きい領域では、前記複数の絞りのうち、特定の絞りの検出電流をそれぞれ検出電流として用いて、電子線照射電流のフィードバック制御を行なうようにしたので、フィールドエミッション形電子銃を用いた場合でも、常に安定なフィードバック制御を行なうことができる。
【0036】
上述の実施例では、電子線照射電流をモニタして、電子線照射電流がI1を超えたかどうかでフィードバックの切り替えを行なう場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限るものではない。スイッチSWの共通接点cを接点a又はbに接続しておいて、絞り検出電流が小さい領域Aでは、スイッチSWの共通接点cをb接点に接続し、α+βの特性を用いてフィードバック制御を行なう。制御装置20は、メモリ21に記憶されているグラフ3の特性を参照して、加算器13の出力であるα+βが最大値に達したことを検出したら、スイッチSWに選択信号を送り、共通接点cをa接点に切り替え、βの特性を用いてフィードバック制御を行なうようにしてもよい。このような制御を用いると、電流計10は不要になる。
【0037】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、電流を検出可能な絞りを複数使用して、各照射電流値にて、照射電流と検出した電流が比例関係にある絞りで検出した電流を合計して、集束レンズのフィードバック制御に使用することができる。本発明によれば、フィールドエミッション形電子銃などの光源からの電子放出量の少ない電子銃でも、照射電流の大小によらず、集束レンズをフィードバック制御するのに十分な検出電流が得られる。
【符号の説明】
【0038】
1 集束レンズ
2 対物レンズ
3 電子線
4 絞り
5 絞り
6 対物絞り
7 ターゲット
8 電流計
9 電流計
10 電流計
13 加算器
20 制御装置
21 メモリ
22 アンプ
SW スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流を検出可能な絞りを複数用意し、
これら複数の絞りの絞り検出電流と、対応する電子線照射電流との関係をテーブルとしてメモリに記憶させておいて、
電子線照射電流が小さい領域では、前記複数の絞り検出電流を加算したものを絞り検出電流とし、電子線照射電流が大きい領域では、前記複数の絞りのうち、特定の絞りの検出電流をそれぞれ検出電流として用いて、電子線照射電流のフィードバック制御を行なうようにしたことを特徴とする電子線照射装置の電子線安定化方法。
【請求項2】
電子線照射装置の全体の動作を制御する制御装置を用いて、前記メモリに記憶されている絞り検出電流と、対応する電子線照射電流との関係を用いて、電子線照射電流が小さい領域では、複数の絞り検出電流を加算したものを検出電流とし、電子線照射電流が大きい領域では、前記複数の絞りのうち、特定の絞りの検出電流を検出電流として、電子線照射電流のフィードバック制御を行なうことを特徴とする請求項1記載の電子線照射装置の電子線安定化方法。
【請求項3】
電流を検出可能な複数の絞りと、
各絞りに流れる電流を検出する絞り検出電流検出手段と、
これら複数の絞りの絞り検出電流と、対応する電子線照射電流との関係をテーブルとして記憶するメモリと、
全体の各構成要素の動作制御を行なう制御装置と、
を具備し、
前記制御装置は、前記メモリを参照し、電子線照射電流が小さい領域では、前記複数の絞り検出電流を加算したものを絞り検出電流とし、電子線照射電流が大きい領域では、前記複数の絞りのうち、特定の絞りの検出電流を検出電流として用いて、電子線照射電流のフィードバック制御を行なうようにしたことを特徴とする電子線照射装置の電子線安定化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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