説明

電子線発生装置およびそれに用いられる光電面収容カートリッジ

【課題】ベローズを用いることなく、光電面を所定の位置まで移動させることができるようにして、光電面の移動可能な距離を長くし、また、コストを低減し、装置の小型化を図ることができる電子線発生装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係る電子線発生装置1は、光電面収容カートリッジ2と、膜破り器32と、カソードプラグ移動用ロッド3とを備えている。光電面収容カートリッジ2は筒状部材であり、この筒状部材の開口部には、封止膜15,16が取付けられている。この筒状部材内には、カソードプラグ保持用リング11が取り付けられていて、光電面を取付けたカソードプラグ10がカソードプラグ保持用リング11に保持されている。カソードプラグ10とカソードプラグ移動用ロッド3には両者を結合する結合手段が設けられていて、カソードプラグ10はカソードプラグ移動用ロッド3を用いて光電面収容カートリッジ2から取り出すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線発生装置およびそれに用いられる光電面収容カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
電子線発生装置およびそれに用いられる光電面収容カートリッジの従来の技術としては、光電面をベローズの先端に取付けたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図16に従って従来の電子線発生装置300およびそれに用いられる光電面収容カートリッジ301を説明する。この光電面収容カートリッジ301は、光電面302を真空封止したものであり、光電面302はベローズ303の先端に基板を介して取付けられている。光電面収容カートリッジ301の開口部には、光電面302と対向するように金属膜304が取付けられていて、開口部が封止されている。光電面収容カートリッジ301はスライダ305に保持されている。
【0004】
電子線発生装置300は、光電面収容カートリッジ301の金属膜304を破るための膜破り器306を備えている。
【0005】
光電面収容カートリッジ301をスライダ305と一体の状態で膜破り器306に向けて押し出すと、光電面収容カートリッジ301の金属膜304は、閉じた状態の膜破り器306の円錐面部の頂点部に衝突し、円錐面部により金属膜304に穴が開けられる。そして、スライダ305をさらに押すと、膜破り器306の半円錐面部が開き、金属膜304は光電面収容カートリッジ301の端部の側面側に押し退けられる。
【0006】
次に、光電面302を、膜破り器306の開いた半円錐面部で形成される空間を通し、位置決め板の貫通穴に挿入し、光電面302を位置決めする。この状態で光電面302にレーザー光を照射し、光電面302から電子を放出させることにより電子線を発生させる。
【特許文献1】特開2003−45368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来の電子線発生装置300およびそれに用いられる光電面収容カートリッジ301では、該カートリッジ301内に、光電面302を取付けるベローズ303を備えていた。したがって、従来の電子線発生装置300およびそれに用いられる光電面収容カートリッジ301では、光電面収容カートリッジ301内の光電面302を移動させるとき、移動距離はベローズ303の伸張可能な長さで決まるため、光電面302を長い距離に渡って移動させるためには、光電面収容カートリッジ自身を移動させる別の長尺ベローズが不可欠であった。ところが、このベローズ303は、光電面収容カートリッジ301の部品の中でもっとも高価であるため、光電面収容カートリッジ301は、コストが高くなり、また、別の長尺ベローズが必要となることで電子線発生装置300全体のコストが高くなり、更に構造が複雑で、装置が大型化するという問題があった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、電子線発生装置およびそれに用いられる光電面収容カートリッジにおいて、コストが高く、構造が複雑で、装置が大型化するという問題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電子線発生装置は、光電面が取り付けられたカソードプラグと、このカソードプラグを着脱可能に保持する光電面保持用リングと、この光電面保持用リングが内部に取り付けられる筒状部材と、この筒状部材の一方および他方の開口部に取り付けられて内部を真空封止する一対の封止膜とを有して構成される光電面収容カートリッジと、この光電面収容カートリッジを保持するスライダと、封止膜を破る膜破り器またはスライダの少なくとも一方を移動させて封止膜の一方を膜破り器で破るための移動手段と、封止膜の他方を突き破ってカソードプラグに結合し、筒状部材の一方の開口部から光電面収容カートリッジの外部にカソードプラグを移動させるカソードプラグ移動用ロッドと、を備え、カソードプラグとカソードプラグ移動用ロッドは、互いに着脱可能な結合手段を有している。
【0010】
カソードプラグの結合手段をカソードプラグの底部に形成された雌ネジとし、カソードプラグ移動用ロッドの結合手段を当該カソードプラグ移動用ロッドの先端に形成された雄ネジとすることができる。
【0011】
カソードプラグの結合手段を当該カソードプラグに形成された鍵穴とし、カソードプラグ移動用ロッドの結合手段を鍵穴に係合可能なロッドとすることができる。
【0012】
光電面を透過型光電面とし、カソードプラグ移動用ロッドの一部を絶縁用パイプで構成し、該カソードプラグ移動用ロッドの内部に全長にわたって光ファイバーを配置することができる。
【0013】
本発明の光電面収容カートリッジは、光電面が取り付けられたカソードプラグと、このカソードプラグを着脱可能に保持する光電面保持用リングと、この光電面保持用リングが内部に取り付けられる筒状部材と、この筒状部材の一方および他方の開口部に取り付けられて内部を真空封止する一対の封止膜とを有して構成され、カソードプラグには、封止膜の他方を突き破って筒状部材の内部に進入するカソードプラグ移動用ロッドに結合するための結合手段が設けられている。
【0014】
カソードプラグの結合手段を当該カソードプラグの底部に形成された雌ネジとし、カソードプラグ移動用ロッドの先端に形成された雄ネジに螺合可能とすることができる。
【0015】
カソードプラグの結合手段を当該カソードプラグに形成された鍵穴とし、カソードプラグ移動用ロッドに設けられたロッドに係合可能とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、光電面を光電面収容カートリッジ外部に取り出そうとする場合、カソードプラグに設けられた結合手段とカソードプラグ移動用ロッドに設けられた結合手段を結合し、カソードプラグを光電面保持用リングから取り外し、カソードプラグ移動用ロッドを、このロッドの延長方向に直線的に移動させる。
【0017】
したがって、本発明では、長尺ベローズを用いることなく光電面を長い距離に渡って移動させることができるので、コストを低減し、構造を単純化し、装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の電子線発生装置の実施形態の説明図である。
【図2】本発明の電子線発生装置の光電面収容カートリッジからカソードプラグを取り出す動作手順を示す図である。
【図3】本発明の光電面収容カートリッジが複数個取付けられた電子線発生装置の説明図である。
【図4】本発明の光電面収容カートリッジの実施形態の説明図である。
【図5】本発明の光電面収容カートリッジに用いられるカソードプラグの第1の例の説明図である。
【図6】本発明の光電面収容カートリッジに用いられるカソードプラグ移動用ロッドの第1の例の説明図である。
【図7】本発明の光電面収容カートリッジに用いられるカソードプラグ保持用リングの第1の例の説明図である。
【図8】図5〜図7に示したカソードプラグ10、カソードプラグ移動用ロッド3、カソードプラグ保持用リング11、カソードプラグ保持用リング蓋112の斜視図である。
【図9】本発明の光電面収容カートリッジに用いられるカソードプラグ、カソードプラグ移動用ロッドの第2の例の説明図である。
【図10】図9に示すカソードプラグとカソードプラグ移動用ロッドの結合方法の説明図である。
【図11】本発明の光電面収容カートリッジに用いられるカソードプラグの第3の例の説明図である。
【図12】図11に示すカソードプラグを保持するカソードプラグ保持用リングの説明図である。
【図13】本発明の光電面収容カートリッジの光電面に透過型光電面が用いられた電子線発生装置の第1の例の説明図である。
【図14】本発明の光電面収容カートリッジの光電面に透過型光電面が用いられた電子線発生装置の第2の例の説明図である。
【図15】図14に示す電子発生装置を電子銃として用いた透過型電子顕微鏡の説明図である。
【図16】従来の電子発生装置およびそれに用いられる光電面収容カートリッジの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る電子線発生装置1およびそれに用いられる光電面収容カートリッジ2の好適な実施形態について、図1〜15を参照しながら詳細に説明する。なお、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明の電子線発生装置1の実施形態の装置をスライダ30の直線移動方向(図中の白抜き矢印)と直交する方向から観察した図である。電子線発生装置1は、スライダ30内に保持されている光電面収容カートリッジ2と、膜破り器32と、光電面収容カートリッジ2を膜破り器32の位置まで押し出す押出用パイプ31と、カソードプラグ移動用ロッド3とを備えている。光電面収容カートリッジ2は、筒状の容器12と、容器12の両端部に設けられたフランジ13,14とからなる筒状部材を有し、この筒状部材の一方および他方の開口部には、光電面収容カートリッジ2内部を真空封止するための封止膜15,16が取り付けられている。この筒状部材内には、取付部材17によりカソードプラグ保持用リング11が取り付けられていて、光電面を取り付けたカソードプラグ10がカソードプラグ保持用リング11に保持されている。カソードプラグ10とカソードプラグ移動用ロッド3には、図5〜11で詳述する結合手段が設けられていて、カソードプラグ10をカソードプラグ移動用ロッド3を用いて光電面収容カートリッジ2の一方の開口部から外部に移動させることができるように構成されている。光電面収容カートリッジ2とカソードプラグ移動用ロッド3の詳細は、図4〜図12に示し、その説明は後述する。
【0021】
図1、2に基づいて、光電面収容カートリッジ2からカソードプラグ10を取り出す動作手順を説明する。
【0022】
まず、図1に示すように、押し出しパイプ31によりスライダ30の底部を押し、スライダ30と光電面収容カートリッジ2を膜破り器32側に動かす。なお、この場合、膜破り器32を光電面収容カートリッジ2側に動かしてもよい。光電面カートリッジ2の一方の開口部に取り付けられている封止膜15と膜破り器32が当接すると、膜破り器32により封止膜15が破られる。さらに、スライダ30と光電面収容カートリッジ2を膜破り器32側に動かし、レバー34をスライダ30の先端で作動させ、膜破り器32を開くと、カソードプラグ10が通過できる空間が確保される(図2(a))。カソードプラグ移動用ロッド3をカソードプラグ10の方向に直線移動させると、光電面収容カートリッジ2の他方の開口部に取り付けられている封止膜16は、カソードプラグ移動用ロッド3の先端部により破られる(図2(b))。そして、カソードプラグ移動用ロッド3を光電面収容カートリッジ2内に進入させ、カソードプラグ移動用ロッド3の先端部をカソードプラグ10の底部に当接して、カソードプラグ移動用ロッド3とカソードプラグ10を図5〜8で詳述する結合手段により結合する(図2(c))。その後、カソードプラグ移動用ロッド3を用いてカソードプラグ10を、カソードプラグ保持用リング11から取り外し、光電面収容カートリッジ2の一方の開口部から外部に取り出し、膜破り器32の空間を通してレーザー光照射位置まで移動させる(図2(d))。
【0023】
本発明では、複数個の光電面収容カートリッジ2が電子線発生装置1内に取り付けられる場合があり、これを図3に示す。
【0024】
図3は、複数個の光電面収容カートリッジ2が電子線発生装置1内に取り付けられた実施形態の装置を膜破り器32の直線移動方向(図中の白抜き矢印)と直交する方向から観察した図である。図3に示すように電子線発生装置1は複数本の光電面収容カートリッジ2が収容されるカートリッジボックス40をチャンバー内に備えている。各光電面収容カートリッジ2はスライダ30内に保持されてカートリッジボックス40内に取り付けられている。カートリッジボックス40のレーザー光照射側のチャンバーには、光電面収容カートリッジ2の一方の開口部に取り付けられている封止膜15を破る膜破り器32が配置されている。この膜破り器32の両端はベローズ33により支持され、シールされている。カートリッジボックス40のレーザー光照射側と反対側には、カソードプラグ移動用ロッド3がカソードプラグ10の方向に直線移動可能に、またこのロッド3の中心軸の周りに回動可能に配置されている。カートリッジボックス40の回転により任意の光電面収容カートリッジ2を選び、膜破り器32を光電面収容カートリッジ2側に動かすと、真空度を保ちながら選ばれた光電面収容カートリッジ2の一方の封止膜15を破ることができる。カソードプラグ移動用ロッド3を用いてカソードプラグ10を光電面収容カートリッジ2から取り出す動作手順は図1、2に示した手順と同様である。
【0025】
なお、図3は、複数個の光電面収容カートリッジ2が電子線発生装置内に取り付けられる場合において、膜破り器32を動かす例を示したが、従来の技術の特許文献1に記載されているように光電面収容カートリッジ2をスライダ30と共に膜破り器32側に動かすものでもよい。
【0026】
このように、本発明の実施形態では、ベローズを用いることなく、カソードプラグ移動用ロッド3を用いてカソードプラグ10を移動させることができるので、移動可能な距離を長くすることができ、また、コストを低減し、構造を単純化し、装置の小型化を図ることができる。
【0027】
次に、本発明に係る電子線発生装置1に用いられる光電面収容カートリッジ2およびカソードプラグ移動用ロッド3の好適な実施形態について、図4〜12を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
図4は、本発明の光電面収容カートリッジ2の実施形態の各構成要素や部材の配置関係を説明した図である。光電面収容カートリッジ2は、例えばUV透過ガラスで形成された筒状の容器12と、この容器12の両端部に設けられた例えばコバールで形成されたフランジ13,14とからなる筒状部材を有している。この筒状部材の一方および他方の開口部には、光電面収容カートリッジ2内部を真空封止する封止膜15,16が取付けられている。封止膜15,16は、30μm程度の厚さの金属性の膜、例えばコバール薄膜でもよい。この光電収容カートリッジ2内には、カソードプラグ保持用リング11が筒状の容器12に取付部材17を介して取り付けられている。光電面を取り付けたカソードプラグ10はカソードプラグ保持用リング11に保持されている。
【0029】
図5は、カソードプラグ10の第1の実施形態の構造図である。カソードプラグ10は、Mo、Ni、Cu、SUS316L等で作られた部材から成っている。カソードプラグ10は、一方の底部に雌ネジ102が形成されていて、有底円筒形状となっている。カソードプラグ10の円筒周面には2本の固定用ロッド101が嵌め込まれている。
【0030】
図6は、カソードプラグ移動用ロッド3の第1の実施形態をこのロッド3の中心軸線と直交する方向から観察した図である。カソードプラグ移動用ロッド3の先端には、カソードプラグ10の一方の底部に形成された雌ネジ102と螺合可能な雄ネジ21が形成されている。カソードプラグ移動用ロッド3は、直線・回転導入機と連結されていて、カソードプラグ移動用ロッド3の延長方向に直線移動し、このロッド3の中心軸の周りに回動できるようになっている。
【0031】
図7は、図5に示したカソードプラグ10を保持するためのカソードプラグ保持用リング11の第1の実施形態の蓋と本体の構造図である。このカソードプラグ保持用リング11は、一端部に壁部111を備えた中空円筒状部材から成っている。この壁部111には、円筒形状を有するカソードプラグ10と2本の固定用ロッド101が挿通可能な開口1111が設けられている。また、この壁部111には、開口1111を挟んで相対抗する位置に、カソードプラグ10に嵌め込まれている固定用ロッド101の回動を防止する回転防止用凸部114が形成され、回転防止用凸部114と固定用ロッド101が挿通可能な開口1111との間の壁部111上に、固定用ロッド101をカソードプラグ保持用リング11内側面に押し付けるための板バネ113が各々設けられている。カソードプラグ保持用リング11の他端部に取り付けられるカソードプラグ保持用リング蓋112には、壁部111と同様に円筒形状を有するカソードプラグ10と2本の固定用ロッド101が挿通可能な開口1121が設けられている。
【0032】
図8は、カソードプラグ10、カソードプラグ移動用ロッド3、カソードプラグ保持用リング11、カソードプラグ保持用リング蓋112の分解、組立図である。カソードプラグ10とカソードプラグ移動用ロッド3は、カソードプラグ10の一方の底部に形成された雌ネジ102と、カソードプラグ移動用ロッド3の先端に形成された雄ネジ21が螺合することにより結合される。カソードプラグ保持用リング11にはカソードプラグ保持用リング蓋112が取付けられる。
【0033】
固定用ロッド101が嵌め込まれているカソードプラグ10をカソードプラグ保持用リング11に取り付ける場合は、まず、カソードプラグ10と固定用ロッド101をカソードプラグ保持用リング11内に挿入し回転する。そうすると、固定用ロッド101は、回転防止用凸部114に当接すると共に板バネ113によりカソードプラグ保持用リング11の蓋112側内側面に押し付けられる。これにより、カソードプラグ10はカソードプラグ保持用リング11にしっかりと固定、保持される。
【0034】
固定用ロッド101が嵌め込まれているカソードプラグ10をカソードプラグ保持用リング11から取り外す場合は、まず、カソードプラグ移動用ロッド3を、このロッド3の延長方向に直線移動させてこのロッド3の先端の雄ネジ21をカソードプラグ10の雌ネジ102に当接し、カソードプラグ移動用ロッド3を、このロッド3の中心軸の周りに回動させて雄ネジ21と雌ネジ102を螺合する。この際、円筒形状を有するカソードプラグ10の円筒周面に嵌め込まれている固定用ロッド101は回転防止用凸部113に当接しているので、カソードプラグ10のつれまわりは防止できる。その後、カソードプラグ移動用ロッド3を、上記と逆方向にこのロッド3の中心軸の周りに回動させて、カソードプラグ10と固定用ロッド101を、カソードプラグ保持用リング11の壁部111の開口1111、およびカソードプラグ保持用リング蓋112の開口1121に位置合わせし、該開口1111または開口1121を介してカソードプラグ保持用リング11から取り外す。
【0035】
図9は、カソードプラグ10の第2の実施形態の構造図と、カソードプラグ移動用ロッド3をこのロッド3の中心軸線と直交する方向から観察した図である。この第2の実施形態でも、図5に示す第1の実施形態と同様に、カソードプラグ10は、Mo、Ni、Cu、SUS316L等で作られた円筒形状を有する部材から成り、円筒形状を有するカソードプラグ10の円筒周面には2本の固定用ロッド101が嵌め込まれている。そして、この第2の実施形態では、カソードプラグ10の一方の端部が中空にされ、その周囲の円筒部に鍵穴103が形成されている。カソードプラグ移動用ロッド3の先端には2本のカソードプラグ固定用ロッド22が設けられている。この第2の実施形態においても、カソードプラグ移動用ロッド3は、直線・回転導入機と連結されていて、カソードプラグ移動用ロッド3の延長方向に直線移動し、このロッド3の中心軸の周りに回動できるようになっている。
【0036】
図9に示す第2の実施形態のカソードプラグ10を着脱可能に保持するカソードプラグ保持用リング11の構成は、図7で示したカソードプラグ保持用リング11の第1の実施形態と同じであり、カソードプラグ10をカソードプラグ保持用リング11に固定、保持する形態も第1の実施形態と同じである。
【0037】
図9に示す固定用ロッド101が嵌め込まれているカソードプラグ10をカソードプラグ保持用リング11から取り外す場合は、カソードプラグ10とカソードプラグ移動用ロッド3を結合する必要がある。図10は、カソードプラグ10とカソードプラグ移動用ロッド3を結合するための手順を示す図である。まず、カソードプラグ移動用ロッド3を、このロッド3の延長方向に直線移動させて、カソードプラグ固定用ロッド22をカソードプラグ10の鍵穴103に挿入する(図10(a)(b)参照)。その後、カソードプラグ移動用ロッド3を、このロッド3の中心軸の周りに回動させて、カソードプラグ固定用ロッド22を鍵穴103に沿って移動させ(図10(c)参照)、更にカソードプラグ移動用ロッド3を、このロッド3の上記延長方向と逆の方向に直線移動させて、カソードプラグ固定用ロッド22をカソードプラグ10の鍵穴103の端部に当接し、カソードプラグ10とカソードプラグ保持用リング11を結合する(図10(d)参照)。この際、円筒形状を有するカソードプラグ10の円筒周面に嵌め込まれている固定用ロッド101はカソードプラグ保持用リング11内の回転防止用凸部114に当接しているので、カソードプラグ10のつれまわりは防止できる。その後、カソードプラグ移動用ロッド3を上記と逆方向にこのロッド3の中心軸の周りに回動させて、カソードプラグ10と固定用ロッド101を、カソードプラグ保持用リング11の壁部111の開口1111、およびカソードプラグ保持用リング蓋112の開口1121に位置合わせし、該開口1111または開口1121を介してカソードプラグ保持用リング11から取り外す。
【0038】
図11は、カソードプラグ10の第3の実施形態の構造図である。この第の実施形態でも、図5に示す第1の実施形態と同様に、カソードプラグ10は、Mo、Ni、Cu、SUS316L等で作られた円筒形状を有する部材から成り、円筒形状を有するカソードプラグ10の円筒周面には2本の固定用ロッド101が嵌め込まれている。そして、この第3の実施形態では、円筒形状を有するカソードプラグ10の円筒周面に複数個のボールプランジャー固定用溝104が設けられている。カソードプラグ10とカソードプラグ移動用ロッド3の結合手段は、図5、図6で示した第1の実施形態と同じであってもよいし、図9に示した第2の実施形態と同じであってもよい。
【0039】
図12は、図11に示した円筒周面に複数個のボールプランジャー固定用溝104を有するカソードプラグ10を保持するためのカソードプラグ保持用リング11の第2の実施形態の構造図である。この第2の実施形態のカソードプラグ保持用リング11は、中空円筒状部材から形成され、この中空円筒状部材の内周面には、カソードプラグ10の円筒周面に嵌め込まれている固定用ロッド101が挿入される回転防止用溝118が形成されている。また、カソードプラグ保持用リング11の中空円筒状部材の内周面には、カソードプラグ10のボールプランジャー固定用溝104と対向する位置に、複数個のボールプランジャー115が、その先端に取り付けられた硬球116が、中空円筒状部材の中空部に突出するように取付けられている。ボールプランジャー115内にはバネ117が挿入されていて、硬球116はボールプランジャー115内部から突出する方向に押圧されている。これにより、硬球116は、突出側から押圧されるとその圧力でボールプランジャー115内部に入り込む。
【0040】
固定用ロッド101が嵌め込まれているカソードプラグ10をカソードプラグ保持用リング11に取り付ける場合は、固定用ロッド101を、カソードプラグ保持用リング11の回転防止用溝118内に挿入しながら、カソードプラグ10をカソードプラグ保持用リング11に挿入する。その際、カソードプラグ保持用リング11に取付けられたボールプランジャー115の硬球116は、カソードプラグ10の円筒周面に押圧されてボールプランジャー115内部に入り込む。そして、カソードプラグ10のボールプランジャー固定用溝104がボールプランジャー115の硬球116の位置に到達したとき、硬球116がバネにより押し出され、ボールプランジャー固定用溝104内に嵌合する。これにより、カソードプラグ10はカソードプラグ保持用リング11に固定、保持される。
【0041】
固定用ロッド101が嵌め込まれているカソードプラグ10をカソードプラグ保持用リング11から取り外す場合は、図5,6に示した第1の実施形態、または図9に示した第2の実施形態と同じ方法で、固定用ロッド101が嵌め込まれているカソードプラグ10とカソードプラグ移動用ロッド3を結合する。その際、固定用ロッド101は、カソードプラグ保持用リング11の回転防止用溝118内に挿入されているので、カソードプラグ10のつれまわりは防止できる。そして、カソードプラグ移動用ロッド3を、このロッド3の延長方向に直線移動させると、ボールプランジャー115の硬球116とボールプランジャー固定用溝104の係合がはずれ、固定用ロッド101が円筒周面に嵌め込まれているカソードプラグ10をカソードプラグ保持用リング11から取り外すことができる
【0042】
本発明は、通常反射型光電面(光電面表面に励起光を照射する)で用いられるが、透過型光電面で用いられる場合もあり、この場合の電子線発生装置100,200の例を図13、14に示す。なお、透過型光電面はカソードプラグ10に取り付けられる。
【0043】
図13は、光電面として透過型光電面を用いた電子線発生装置100の第1の実施形態の装置をスライダ30の直線移動方向と直交する方向から観察した図である。光電面として透過型光電面を用いた電子線発生装置100の第1の実施形態においても、電子線発生装置100は、スライダ30内に保持されている光電面収容カートリッジ2と、膜破り器32と、光電面収容カートリッジ2を膜破り器32の位置まで押し出す押出用パイプと、カソードプラグ移動用ロッド3とを備えていて、光電面収容カートリッジ2は筒状部材を有し、この筒状部材の一方および他方の開口部には、光電面収容カートリッジ2内部を真空封止するための封止膜15,16が取り付けられ、光電面収容カートリッジ2の筒状部材内には、カソードプラグ保持用リング11、カソードプラグ保持用リング11に保持されたカソードプラグ10が内蔵されている。カソードプラグ10とカソードプラグ移動用ロッド3には、図5〜11で詳述する結合手段が設けられていて、カソードプラグ10をカソードプラグ移動用ロッド3を用いて光電面収容カートリッジ2の一方の開口部から外部に移動させることができるように構成されている。
【0044】
透過型光電面を用いた電子線発生装置100の第1の実施形態においては、透過型光電面がカソードプラグ10に取り付けられ、カソードプラグ移動用ロッド3の内部にはレーザー光等の励起光が通っている。励起光は大気と真空を分けている真空窓51を通って、カソードプラグ移動用ロッド3の内部に導光される。カソードプラグ移動用ロッド3は先端側と後端側に2分割され、両者は例えばセラミックパイプ等の絶縁パイプ53を介して連結されている。カソードプラグ移動用ロッド3の後端側は、直線・回転導入機55に連結されている。カソードプラグ移動用ロッド3の先端近くには、真空窓51から導光された光を集光する集光用レンズ52が配置されている。真空窓51から導光された励起光は、カソードプラグ移動用ロッド3内を通り、集光用レンズ52で集光されて透過型光電面裏面から光電面に照射される。集光用レンズ52を用いない場合は、励起光のビームサイズまたはカソードプラグ移動用ロッド3内の内径でビームサイズが決まる。このように、透過型光電面を用いると励起光の光電面への照射の位置合わせが反射型に比べて容易になる。
【0045】
図14は、光電面として透過型光電面を用いた電子線発生装置200の第2の実施形態の装置をスライダ30の直線移動方向と直交する方向から観察した図である。透過型光電面を用いた電子線発生装置200の第2の実施形態においても、電子線発生装置200は、スライダ30内に保持されている光電面収容カートリッジ2と、膜破り器32と、光電面収容カートリッジ2を膜破り器32の位置まで押し出す押出用パイプと、カソードプラグ移動用ロッド3とを備えていて、光電面収容カートリッジ2は筒状部材を有し、この筒状部材の一方および他方の開口部には、光電面収容カートリッジ2内部を真空封止するための封止膜15,16が取り付けられ、光電面収容カートリッジ2の筒状部材内には、カソードプラグ保持用リング11、カソードプラグ保持用リング11に保持されたカソードプラグ10が内蔵されている。カソードプラグ10とカソードプラグ移動用ロッド3には、図5〜11で詳述する結合手段が設けられていて、カソードプラグ10をカソードプラグ移動用ロッド3を用いて光電面収容カートリッジ2の一方の開口部から外部に移動させることができるように構成されている。透過型光電面を用いた電子線発生装置200の第2の実施形態においては、透過型光電面がカソードプラグ10に取り付けられ、カソードプラグ移動用ロッド3の内部には光ファイバー50が配置され、光ファイバー50の端部には、励起光を導光する光ファイバー用真空コネクター54が連結されている。図13に示す透過型光電面を用いた電子線発生装置100の第1の実施形態と同様に、カソードプラグ移動用ロッド3は先端側と後端側に2分割され、両者は例えばセラミックパイプ等の絶縁パイプ53を介して連結されている。カソードプラグ移動用ロッド3の後端側は、直線・回転導入機55に連結されている。光ファイバー用真空コネクター54から導光された光は、光ファイバー50を介して透過型光電面裏面から光電面に照射される。この構造により、励起光の光電面への照射の位置合わせが不要になる。光ファイバーは、複数本を束ねたバンドルファイバーを使用することができる。これにより、LED、ランプ等のレーザーと比べて集光性が悪い光源でもより効率のよい導光が可能になる。
【0046】
図13、14に示す透過型光電面を用いた電子線発生装置100、200の第1、2の実施形態例においては、カソードプラグ移動用ロッド3の一部に、例えばセラミックパイプ等の絶縁用パイプを入れている。これにより、通常、マイナスの高電圧に印加されている光電面とカソードプラグ移動用ロッド3に連結されている直線・回転導入機55を電気的に絶縁することができる。また、セラミックパイプ等の絶縁用パイプを用いることなく光電面とカソードプラグ移動用ロッド3に連結されている直線・回転導入機55を電気的に絶縁する方法としては、カソードプラグ自身をマイナスの高電圧を印加する電極にセットし、カソードプラグ移動用ロッド3をカソードプラグ10からはずしてしまうという方法がある。この方法を用いると、放電の問題が少なくなり、より実用的となる。
【0047】
図14に示す電子線発生装置200の第2の実施形態の透過型光電面の光電面収容カートリッジ2を透過型電子顕微鏡の電子銃として用いた実施形態を図15に示す。
【0048】
図15は、光電面として透過型光電面の光電面収容カートリッジ2を電子銃として用いた透過型電子顕微鏡を電子ビームの方向と直交する方向から観察した図である。電子線発生装置200の光ファイバー用真空コネクター54は、光ファイバー50を介して励起用光源60に接続されている。電子線発生装置200の電子ビーム出口側には、引き出し電極56、磁界レンズ57、試料58、検出部59が設けられている。透過型光電面から出た電子ビームは引き出し電極56により加速され、磁界レンズ57により試料58上に集束される。試料58から放出された透過電子をカメラ等の検出部59で測定し、透過電子画像を得る。本発明は、透過型電子顕微鏡に限らず、走査型電子顕微鏡でも用いることができる。また、透過型電子顕微鏡では、励起光源にパルスレーザーを用いることで、時間分解電子顕微鏡として用いることができる。
【0049】
この実施形態では、ベローズを用いていないので、光電面と膜破り器32、直線・回転導入機55を電気的に絶縁することができ、DC高電圧の印加が可能になった。
【符号の説明】
【0050】
1、100、200…電子線発生装置、2…光電面収容カートリッジ、3…カソードプラグ移動用ロッド、10…カソードプラグ、11…カソードプラグ保持用リング、12…容器、13…フランジ、14…フランジ、15…封止膜、16…封止膜、17…取付部材、21…雄ネジ、22…カソードプラグ固定用ロッド、30…スライダ、31…押し出しパイプ、32…膜破り器、33…ベローズ、34…レバー、40…カートリッジボックス、50…光ファイバー、51…真空窓、52…集光用レンズ、53…絶縁パイプ、54…光ファイバー用真空コネクター、55…直線・回転導入機、56…引き出し電極、57…磁界レンズ、58…試料、59…検出器、60…励起用光源、101…固定用ロッド、102…雌ネジ、103…鍵穴、104…ボールプランジャー固定用溝、111…壁部、112…カソードプラグ保持用リング蓋、113…板バネ、114…回転防止用凸部、115…ボールプランジャー、116…硬球、117…バネ、118…回転防止用溝、1111…開口、1121…開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電面が取り付けられたカソードプラグと、このカソードプラグを着脱可能に保持する光電面保持用リングと、この光電面保持用リングが内部に取り付けられる筒状部材と、この筒状部材の一方および他方の開口部に取り付けられて内部を真空封止する一対の封止膜とを有して構成される光電面収容カートリッジと、
この光電面収容カートリッジを保持する保持手段と、
前記封止膜を破る膜破り器または前記保持手段の少なくとも一方を移動させて前記封止膜の一方を前記膜破り器で破るための移動手段と、
前記封止膜の他方を突き破って前記カソードプラグに結合し、前記筒状部材の一方の開口部から前記光電面収容カートリッジの外部に前記カソードプラグを移動させるカソードプラグ移動用ロッドと、
を備え、
前記カソードプラグと前記カソードプラグ移動用ロッドは、互いに着脱可能な結合手段を有していることを特徴とする電子線発生装置。
【請求項2】
前記カソードプラグの前記結合手段は当該カソードプラグの底部に形成された雌ネジであり、前記カソードプラグ移動用ロッドの前記結合手段は当該カソードプラグ移動用ロッドの先端に形成された雄ネジである請求項1記載の電子線発生装置。
【請求項3】
前記カソードプラグの前記結合手段は当該カソードプラグに形成された鍵穴であり、前記カソードプラグ移動用ロッドの前記結合手段は前記鍵穴に係合可能なロッドである請求項1記載の電子線発生装置。
【請求項4】
前記光電面が透過型光電面であり、前記カソードプラグ移動用ロッドは、一部を絶縁用パイプで構成し、該カソードプラグ移動用ロッドの内部には全長にわたって光ファイバーを配置している請求項1ないし3のいずれか1項記載の電子線発生装置。
【請求項5】
光電面が取り付けられたカソードプラグと、このカソードプラグを着脱可能に保持する光電面保持用リングと、この光電面保持用リングが内部に取り付けられる筒状部材と、この筒状部材の一方および他方の開口部に取り付けられて内部を真空封止する一対の封止膜とを有して構成され、
前記カソードプラグには、前記封止膜の他方を突き破って前記筒状部材の内部に進入するカソードプラグ移動用ロッドに結合するための結合手段が設けられていることを特徴とする光電面収容カートリッジ。
【請求項6】
前記カソードプラグの前記結合手段は当該カソードプラグの底部に形成された雌ネジであって、前記カソードプラグ移動用ロッドの先端に形成された雄ネジに螺合可能である請求項5記載の光電面収容カートリッジ。
【請求項7】
前記カソードプラグの前記結合手段は当該カソードプラグに形成された鍵穴であって、前記カソードプラグ移動用ロッドに設けられたロッドに係合可能である請求項5記載の光電面収容カートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−150882(P2011−150882A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10994(P2010−10994)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】