説明

電子線装置

【課題】軸上色収差以外の収差を低減し、かつ、軸上色収差補正手段の長さを小さく内径を大きくしても軸上色収差を十分に低減する。
【解決手段】試料9上に長方形の視野で1次電子ビームが照射されることにより試料から放出された2次電子は、2次電子光学系により、写像投影光学系で拡大しかつ面検出器又は線検出器に導かれる。2次電子光学系は、試料から放出された2次電子による像を形成する結像手段を構成するレンズ8及び12と、その後段に設けられ、拡大像の球面収差を補正するウィーンフィルタ13と、ウィーンフィルタを経た電子ビームを拡大レンズ14及び15とを備えている。レンズ18は、焦点距離を調整可能で軸上色収差の大きさを可変とし、これにより、該軸上色収差の大きさをウィーンフィルタの軸上色収差の大きさと一致させることができる。これにより、球面収差及び軸上色収差の両方を低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線装置に関し、より詳細には、電子線を試料に照射し、それにより試料から放出される電子を検出器で検出することによって、試料の欠陥検出等の評価を、高スループットかつ高信頼性で行うことができる電子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長方形に成形された電子線(1次電子線)を試料に照射し、それにより試料から放出される電子(2次電子)をTDI検出器で検出する写像投影型の電子光学系を用いた電子線装置が提案されている。
また、ウィーンフィルタや4極子レンズを用いて軸上色収差を補正できるようにしたSEM及び透過型電子顕微鏡(TEM)も実用化されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記したように、SEMやTEMにおいては、軸上色収差を補正する手段が提案され実用化されているが、これは、軸上色収差係数が1mm〜100mm等の小さい値であるため、比較的簡単に軸上色収差補正レンズを用いて軸上色収差を低減させることが可能であるからである。
これに対して、写像投影型の電子光学系を用いた電子線装置においては、軸上色収差補正係数が数10mm〜数mと比較的大きいため、軸上色収差補正レンズの長さを巨大にする必要がある。また、軸上色収差補正用に多極子レンズを用いた場合、多極子レンズのボーア径を極端に小さくする必要もあり、電極間距離が短くなるため放電を回避することが不可能なサイズになるという問題もある。
【0004】
したがって、写像投影型の電子光学系を用いた電子線装置において、従来例の技術を用いて軸上色収差を補正することは必ずしも得策ではない。一方、このような写像投影型の電子光学系を用いた電子線装置において、電子光学系に生じる収差について十分に解析されておらず、したがってどのような収差を補正すれば効果的であるのか、何ら提案されていない状態であった。
さらに、従来の軸上色収差を補正する目的は、1nm〜0.1nmの超高分解能を得ることが目的であった。これに対して、半導体ウエハを評価する場合、分解能は20nm〜100nm程度で十分であるが、ビーム電流を大きくすることが求められている。ビーム電流を大きくするには、開口角(NA)を大きくする必要がある。NAが小さい場合、軸上色収差が大部分であるが、NAを大きくすると、軸上色収差がそれに比例して増加し、かつ、球面収差がNAの3乗に比例して大きくなる。そのため、ビーム電流を大きくするためにNAを大きくする場合、球面収差が軸上色収差に対比して大きくなり、球面収差を補正することが必須となる。
【0005】
本発明は、このような従来例の問題点に鑑み、写像投影型の電子光学系を用いた電子線装置における収差発生を解析することによってなされたものである。そして、本発明の目的は、写像投影型の電子光学系を用いた電子線装置において、軸上色収差以外の収差を低減し、かつ、軸上色収差補正手段の長さを小さくかつ内径を大きくしても、軸上色収差を十分に低減することができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明に係る、1次電子ビームを試料上に照射し、該照射により試料から放出される電子を検出することにより、試料上の情報を得るようにした電子線装置においては、
試料上に長方形の視野で1次電子ビームを照射する1次電子光学系と、
試料から放出された2次電子を写像投影光学系で拡大しかつ面検出器又は線検出器に導く2次電子光学系であって、
試料から放出された2次電子による像を形成する結像手段と、
結像手段の後段に設けられ、拡大像の球面収差を補正するウィーンフィルタと、
ウィーンフィルタと検出器との間に設けられ、ウィーンフィルタを経た電子ビームを拡大する拡大手段と
からなる2次電子光学系と
からなることを特徴としている。
【0007】
上記した本発明に係る電子線装置において、一実施形態において、結像手段は2段のレンズからなり、該2段のレンズの内部に電磁偏向器を有するビーム分離器があることが好ましい。また、他の実施形態において、結像手段は、2段のレンズからなり、該2段のレンズの内の後段のレンズは、焦点距離を調整可能に構成されて、該結像手段の軸上色収差の大きさを可変とし、これにより、該軸上色収差の大きさをウィーンフィルタの軸上色収差の大きさと一致させている。
また、本発明に係る電子線装置において、ウィーンフィルタは、複数のパーマロイ板、絶縁スペーサ、励磁コイル、及び円筒形コアからなることが好ましい。
さらに、本発明に係る電子線装置において、1次電子光学系は、長方形の視野を分割した副視野毎に、試料上に1次電子ビームを照射するよう構成され、かつ検出器は、副視野毎に2次電子検出を行うよう構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、上記したように構成されているので、軸上色収差以外の収差(特に、球面収差)を低減することができる。また、軸上色収差補正手段の長さを小さくかつ内径を大きくしても、軸上色収差を十分に低減することができ、ウィーンフィルタの長さを短くすることができるので、電子線装置の光路長を比較的短くすることができる。また、ウィーンフィルタの内径を大きくすることができるので、電極間距離を比較的大きくすることができ、よって不要な電極間の放電を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明の一実施形態の写像投影型の電子光学系を用いた電子線装置の主要部を示している。この電子線装置においては、電子銃1から放出された電子線は、2段のコンデンサレンズ2及び3によって照射領域の大きさ及び照射電流密度が調整され、正方形等の矩形開口4で成形される。成形された矩形の1次電子ビームは、2段の照射レンズ5及び6で倍率を調整され、さらにビーム分離器7及び対物レンズ8を介して、試料9上の長方形の視野内の1つの副視野に照射される。試料9上の視野は、1次電子ビームの走査方向に例えば9個並んだ副視野に分割され、これら副視野の選択は、静電偏向器25及び26により行われる。1次電子ビームの照射及び2次電子ビーム検出による画像データの取得は、副視野単位で行われる。
1次電子ビームが2次電子ビームに影響を与えないようにするために、1次電子ビームがビーム分離器7を通過後も、1次電子ビームの経路が2次電子ビームの経路と異なるように設計されている。
【0010】
試料9から放出された2次電子は、対物レンズ8に印加された正電圧と試料9に印加された負電圧とにより生成される加速電界で加速及び集束され、細い平行ビームとなってビーム分離器7で図1の左方向に偏向される。そして、NA開口10により開口角が制限され、電磁偏向器11により垂直方向に偏向され、補助レンズ12により集束されて縮小像を生成する。その後、ウィーンフィルタ13により軸上色収差及び球面収差が補正され、2段の拡大レンズ14、15を介して、CMOSイメージセンサ部16を構成する9個のCMOSイメージセンサの1つに結像され検出される。これにより、試料上の情報を保持した電気信号が得られる。9個のCMOSイメージセンサは、3行3列に配置され、静電偏向器27によって、順次選択される。CMOSイメージセンサを9個備えているので、各センサを照射している時間の9倍以内のデータ読み出し時間を必要とするCMOSイメージセンサであれば、データ読み出しによる時間の無駄を生じない。
光軸から離れた副視野から放出された2次電子ビームは、静電偏向器28及び29により、光軸と一致するように偏向される。
【0011】
図2は、軸上色収差及び球面収差補正用のウィーンフィルタ13の断面構造(ただし、1/4のみ)を示している。ウィーンフィルタ13は、以下のようにして製造される。
・電極を構成するパーマロイ板18〜20とヨークを構成するパーマロイ円筒17を準備し、絶縁スペーサ22にネジ23で固定する。
・これらパーマロイを熱処理してアニールする。
・補正用の磁場を発生させるためのコイル21をパーマロイ板18〜20に巻回する。
・パーマロイ板18〜20及びパーマロイ円筒17の先端をワイヤカットで高精度に加工する。
・絶縁スペーサ22のうちの、ビーム照射可能な面、及び、その他の絶縁を保持するのに必要な面を除き、金コーティングを行う。
【0012】
軸対称レンズ系の軸上色収差を補正するために、該軸対称レンズ系の軸上色収差とウィーンフィルタ13の軸上色収差とを、符号が逆で絶対値を等しくする調整する必要がある。これら絶対値を正確に合わせるために、補助レンズ12の励起電圧を可変とする。そして、ウィーンフィルタ13の軸上色収差が小さい場合は、補助レンズ12の励起電圧を調整して、2次電子ビームが図1の点線の軌道を通るようにし、ウィーンフィルタ13の軸上色収差と軸対称レンズ系の軸上色収差との絶対値を一致させる。
このような構成のウィーンフィルタ13を用いることにより、対物レンズの軸上色収差係数を大幅に小さくすることができる。また、ウィーンフィルタ13の長さを短くすることができるので、電子線装置の光路長を比較的短くすることができる。また、ウィーンフィルタ13の内径を大きくすることができるので、電極間距離を比較的大きくすることができ、よって不要な電極間放電を防止することができる。
【0013】
なお、対物レンズの軸上色収差係数を大幅に小さくすることができる理由は、以下の通りである。
対物レンズの軸上色収差をウィーンフィルタで補正する場合、ウィーンフィルタにより生成される負の軸上色収差係数Cax(wf)と、対物レンズが作る像点での軸上色収差係数Cax(image)とは、絶対値が等しく符号を逆にする必要がある。対物レンズの物点(試料上の点)での軸上色収差係数Cax(object)は、光学系のZ軸(光軸)方向の寸法が決まれば、ほぼ決定することができる。そして、軸上色収差係数Cax(image)は、以下のように表すことができる。
Cax(image)
=M(φ(wf)/φ(SE))3/2Cax(object)
ただし、Mは物点から像点への拡大率、φ(wf)はウィーンフィルタを通過時の電子ビームのエネルギ、φ(SE)は2次電子の初期エネルギ(試料面でのエネルギ)である。
上記式から明らかなように、拡大率Mを小さくするとCax(image)を小さくすることができ、したがって、ウィーンフィルタによる軸上色収差係数を小さくすることができる。
【0014】
また、ウィーンフィルタを図2に示すように12極子にすることによって、2極電場、2極磁場、4極電場、4極磁場、6極電場、6極磁場を発生させることができる。そして、2極の電場・磁場によって、ウィーン条件(電子ビームを直進させる条件)を満たし、4極の電場・磁場によって軸上色収差を補正し、6極の電場・磁場によって球面収差を補正することができる。よって、軸上色収差とともに球面収差を補正することができる。
【0015】
図1に示した電子線装置において、対物レンズ8を静電レンズではなく電磁レンズとしてMOL動作をさせることにより、副視野の移動時の収差を低減させることもできる。その他、種々の変更が可能である。
【0016】
図3は、図1のレンズ8及び12での収差特性をシミュレーションした結果である。NA開口値が310mrad以下の場合、軸上色収差(グラフ31)が球面収差(グラフ32)より大きいが、NA開口値が310mrad以上では、球面収差の方が大きくなる。軸上色収差のみをウィーンフィルタで補正した場合、収差特性はグラフ38のようになり、100nmのボケを得るためには、NAを190mrad以下にする必要がある。軸上色収差と球面収差の両方を修正した場合、残存収差はグラフ40のようになり、100nmのボケを得るためには590mradまで大きくすることができる。
190mradでは、SE(2次電子)の透過率は3.57%しか得られないのに対して、590mradでは、30.9%の透過率が得られ、10倍近くの透過率が得られる。したがって、写像投影型の電子光学系を用いた電子線装置において、軸上色収差のみではなく、球面収差も補正することにより、性能が大幅に向上することが分かる。
なお、図3において、グラフ33は5次の球面収差、グラフ34はコマ収差、35は3次の軸上色収差、36は4次の軸上色収差、37は倍率色収差、39は軸上色収差のみを補正した場合に100nm以下のボケが得られるNA開口値、41は軸上色収差と球面収差とを補正した場合の100nm以下のボケが得られるNA開口値である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の電子線装置における電子光学系を示す説明図である。
【図2】図1に示した電子線装置におけるウィーンフィルタの構成を示す断面図である。
【図3】拡大光学系における収差特性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次電子ビームを試料上に照射し、該照射により試料から放出される電子を検出することにより、試料上の情報を得るようにした電子線装置において、
試料上に長方形の視野で1次電子ビームを照射する1次電子光学系と、
試料から放出された2次電子を写像投影光学系で拡大しかつ面検出器又は線検出器に導く2次電子光学系であって、
試料から放出された2次電子による像を形成する結像手段と、
結像手段の後段に設けられ、拡大像の球面収差を補正するウィーンフィルタと、
ウィーンフィルタと検出器との間に設けられ、ウィーンフィルタを経た電子ビームを拡大する拡大手段と
からなる2次電子光学系と
からなることを特徴とする電子線装置。
【請求項2】
請求項1記載の電子線装置において、結像手段は、2段のレンズからなり、該2段のレンズの内部に電磁偏向器を有するビーム分離器があることを特徴とする電子線装置。
【請求項3】
請求項1記載の電子線装置において、結像手段は、2段のレンズからなり、該2段のレンズの内の後段のレンズは、焦点距離を調整可能に構成されて、該結像手段の軸上色収差の大きさを可変とし、これにより、該軸上色収差の大きさをウィーンフィルタの軸上色収差の大きさと一致させることを特徴とする電子線装置。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の電子線装置において、ウィーンフィルタは、複数のパーマロイ板、絶縁スペーサ、励磁コイル、及び円筒形コアからなることを特徴とする電子線装置。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の電子線装置において、1次電子光学系は、長方形の視野を分割した副視野毎に、試料上に1次電子ビームを照射するよう構成され、かつ検出器は、副視野毎に2次電子検出を行うよう構成されていることを特徴とする電子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−278027(P2006−278027A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92273(P2005−92273)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】