説明

電子装置

IC素子10と、表面に導電層によるアンテナ回路21が形成された第一の回路層20と、表面に導電層31が形成された第二の回路層30とを含み、IC素子10は、珪素からなるベース基板11と、ベース基板11の一方の面に半導体回路が形成された半導体回路層12と、半導体回路層12上に形成された電極13とを有し、第一の回路層20がベース基板11の他方の面又は電極13のいずれか一方と、第二の回路層30がベース基板11の他方の面又は電極13の残る一方と、それぞれ電気的に接続することにより、安価で生産性に優れかつ良好な通信特性を得ることができる電子装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IC素子を搭載した非接触式個体識別装置に関して、安価で生産性に優れかつ良好な通信特性を得るのに好適な電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RFID(Radio Frequency Identification)タグを用いる非接触式個体識別システムは、物のライフサイクル全体を管理するシステムとして製造、物流、販売の全ての業態で注目されている。特に、2.45GHzのマイクロ波を用いる電波方式のRFIDタグは、IC素子に外部アンテナを取り付けた構造で数メートルの通信距離が可能であるという特徴によって注目されており、現在、大量の商品の物流及び物品管理や製造物履歴管理等を目的にシステムの構築が進められている。
【0003】
前記マイクロ波を用いる電波方式のRFIDタグとしては、例えば、株式会社日立製作所と株式会社ルネサステクノロジ社によって開発されたTCP(Tape Carrier Package)型インレットを用いたものが知られている。
【0004】
また、その他のインレット構造として、例えば、株式会社日立製作所の宇佐美により、IC素子の電極が向かい合った1組の各々の面に1個ずつ形成されたIC素子において、各々の面に形成された各電極にダイポールアンテナを接続するガラスダイオード・パッケージ構造が開発されている(特開2002−269520号公報)。さらに、宇佐美らにより、上記2個の電極がIC素子の向かい合った1組の各々の面に1個ずつ形成されたIC素子を励振スリット型ダイポールアンテナに実装する際に、アンテナによって前記IC素子の向かい合った1組の各々の面に1個ずつ形成された各電極を挟む、サンドイッチ・アンテナ構造が開発されている(ISSCC Digest of Technical Papers,pp.398−399,2003年)。励振スリットを有するダイポールアンテナ構造は、このスリットの幅及び長さを変えることで、アンテナのインピーダンスと上記IC素子の入力インピーダンスを整合することが可能で、通信距離を向上することができる。
【発明の開示】
【0005】
RFIDタグを用いた非接触式個体識別システムで大量の商品の物流及び物品管理を実現するためには、商品の1つ1つにRFIDタグを取り付ける必要があり、そのためにはRFIDタグの安価かつ大量な生産が不可欠となる。
【0006】
しかしながら、信号入出力用の2個の電極が同一面内に形成されたIC素子では、IC素子上の電極とアンテナ回路を精度良く位置合わせする必要がある。特に、良好な通信特性が得られる励振型ダイポールアンテナ構造ではIC素子の2つの電極が励振スリットを跨いでアンテナに接続されることで共振回路を形成するため、同一面上に全ての電極が形成されたIC素子では、信号入力用の2個の電極とスリットを精度良く位置合せする必要がある。そのため、従来はTAB(Tape Automated Bonding)工法を用いてIC素子を1個ずつアンテナ基板に実装していたが、前記TAB工法では、ダイシングフィルムからの真空吸着器による同一面上に全ての電極が形成されたIC素子の吸着や同一面上に全ての電極が形成されたIC素子とアンテナ基板の位置合せ及び加熱圧着、さらに樹脂封止等の各工程を同一面上に全ての電極が形成されたIC素子について1個ずつ行うため、各工程のタクト時間を1秒程度又は1秒以下に短縮することは非常に困難であり、大量生産性における大きな課題となっていた。
【0007】
また、タクト時間が長いとその分人件費等がかかり低コスト化の妨げになることに加え、同一面上に全ての電極が形成されたIC素子とアンテナ基板との接続は金−錫又は金−はんだ接合によって行うために、基板材料として耐熱性に優れ、高価であるポリイミドフィルムに銅箔を貼り合わせたテープ基材を用いる必要があることから、安価なインレットの生産が困難となっている。
【0008】
上記アンテナによって2個の電極が向かい合った1組の各々の面に1個ずつ形成されたIC素子の各々の面に1個ずつ形成された各電極を挟むサンドイッチ・アンテナ構造を用いれば、励振スリットと前記IC素子の各々の面に1個ずつ形成された各電極との高精度な位置合せが不要となるものの、電極をIC素子の両面に形成する必要がある。これらの電極は、従来、電気抵抗が小さく、耐酸化性に優れる金を用いることが多く、低コスト化の妨げとなる。
【0009】
本発明は、前記に鑑みてなされたものであり、安価で生産性に優れかつ良好な通信特性を得ることができる電子装置を提供するものである。
【0010】
前述の課題を解決するために、本発明に係る電子装置は、IC素子と、第一及び第二の回路層とを含む電子装置において、前記IC素子は、珪素からなるベース基板と、前記ベース基板の一方の面に半導体回路が形成された半導体回路層と、前記半導体回路層上に形成された電極とを有し、前記第一の回路層が前記ベース基板の他方の面又は前記電極のいずれか一方と、前記第二の回路層が前記ベース基板の他方の面又は前記電極の残る一方と、それぞれ電気的に接続している。
【0011】
前記第一及び第二の回路層の少なくとも1つ以上の層は、送信、受信又は送受信機能を有することが好ましい。
【0012】
この電子装置は、IC素子と、送受信アンテナして動作する第一及び第二の回路層とを含み、前記IC素子は珪素からなるベース基板と、ベース基板の一方の面に半導体回路が形成された半導体回路層と、半導体回路層上に形成された電極とを有し、向かい合った1組の各々の面に位置する前記ベース基板面の他方の面及び前記電極のいずれか一方が前記第一の回路層と、その残る一方が前記第二の回路層と電気的に接続していることが好ましい。
【0013】
この電子装置は、IC素子と、スリットが形成された送受信アンテナとして動作する第一の回路層と、前記IC素子と前記アンテナとを電気的に接続する短絡板として動作する第二の回路層とを含む電子装置において、前記IC素子は珪素からなるベース基板と、ベース基板の一方の面に半導体回路が形成された半導体回路層と、半導体回路層上に形成された電極とを有し、向かい合った1組の各々の面に位置する前記ベース基板の他方の面及び前記電極のうちのいずれか一方を第一の回路層と電気的に接続し、残る一方を第二の回路層と電気的に接続することが好ましい。
【0014】
少なくとも、前記ベース基板の他方の面は、前記第一又第二の回路層と導電性接着剤を介して接続されることが好ましい。
【0015】
前記導電性接着剤は、熱硬化性のマトリクス樹脂と、粒状もしくはりん片状もしくは針状の金属片とからなることが好ましい。
【0016】
少なくとも、前記ベース基板の他方の面は、前記第一又第二の回路層と異方導電性接着剤を介して接続されることが好ましい。
【0017】
前記異方導電性接着剤は、マトリクス樹脂と、金属粒子もしくは表面に金属層が形成された有機樹脂粒子からなる導電性粒子とを含有することが好ましい。
【0018】
前記IC素子は、前記異方導電接着剤のマトリクス樹脂によって封止されていることが好ましい
前記第一又は第二の回路層の少なくとも一方は、アルミニウムもしくは銅による導電層を含むことが好ましい。
【0019】
前記第一又は第二の回路層の少なくとも一方は、有機樹脂からなるベース基材に支持されており、前記有機樹脂は、塩化ビニル樹脂(PVC)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート樹脂(PC)、2軸延伸ポリエステル(O−PET)、ポリイミド樹脂から選択されることが好ましい。
【0020】
前記第一又は第二の回路層の少なくとも一方は、紙からなるベース基材に支持されていることが好ましい。
【0021】
本発明によれば、安価で生産性に優れかつ良好な通信特性を得ることができる電子装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明のインレットを上面から見た構造を示す図である。
【図2】図2は、本発明のサンドイッチ・アンテナ構造のインレットを上面から見た構造と断面構造を示す図である。
【図3】図3は、本発明の第1の実施の形態を説明するための製造工程図である。
【図4】図4は、本発明の第2の実施の形態を説明するための製造工程図である。
【図5】図5は、本発明の第3の実施の形態を説明するための製造工程図である。
【図6】図6は、本発明の第4の実施の形態を説明するための製造工程図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0024】
本発明における電子装置は、一つの面に電極が形成され、その対向する面が珪素からなるベース基板であるIC素子と、少なくともいずれかが送受信アンテナとして動作する第一及び第二の回路層とを含むものである。
【0025】
図1に本実施の形態の電子装置であるRFIDタグ用インレットの一例であり、ダイポールアンテナにIC素子を実装したインレットの概略図を示す。図1(a)は上面から見た概略図であり、図1(b)はA−A’部の断面概略図である。前記IC素子10には、珪素からなるベース基板11と、ベース基板11面の一方の面に形成された半導体回路層12と、この半導体回路層12上に電極13が各々形成されている。前記IC素子10は電極13によって、異方導電性接着剤層40に含有される導電粒子41を介して、アンテナとして動作する第一の回路層20に接続されている。また、前記IC素子10はベース基板11の他方の面によって、異方導電性接着剤層40に含有される導電粒子41を介して同じくアンテナとして動作する第二の回路層30に接続されている。IC素子10の電極13は第一の回路層20と、ベース基板11は第二の回路層30と、それぞれ電気的に接続されている。
【0026】
また、本発明における電子装置は、一つの面に電極13が形成され、その対向する面が珪素からなるベース基板11であるIC素子10と、スリットが形成され、送受信アンテナとして動作する第一の回路層20と、前記IC素子10と前記第一の回路層20とを電気的に接続する短絡板として動作する第二の回路層30と、を含むものである。
【0027】
励振スリットを有するダイポールアンテナ構造は、このスリットの幅及び長さを変えることで、アンテナのインピーダンスと上記IC素子10の入力インピーダンスを整合することが可能であり、良好な通信特性を得るのに好適な構造である。
【0028】
図2に本実施の形態の電子装置であるRFIDタグ用インレットの一例であり、励振スリット型ダイボールアンテナにIC素子10を実装したサンドイッチ・アンテナ構造をもつインレットを示す。図2(a)はこのインレットを上面から見た概略図であり、図2(b)は図2(a)のB−B’部の断面概略図である。この図2を用いて、前記インレットの構造を簡単に説明する。
【0029】
IC素子10には、図1(b)に示した例と同様に、珪素からなるベース基板11と、ベース基板11面上に形成された半導体回路層12と、半導体回路層12上に形成された電極13が各々形成されている。前記IC素子10は電極13によって、ベース基材22及びアンテナ回路21で構成され、第一の回路層20に第1の接続部2において、異方導電性接着剤層40に含有される導電粒子41を介して接続されている。同様に、ベース基材32及び導電層31で構成され、第二の回路層30と前記IC素子10のベース基板11が第2の接続部3において、また、第二の回路層30と第一の回路層20が第3の接続部4において、異方導電性接着剤層40に含有される導電粒子41を介して各々接続されている。前記IC素子10のベース基板11の第2の接続部3と第一の回路層20上の第3の接続部4は、第一の回路層20に形成されたスリット1を跨いで接続される構造となる。すなわち、前記IC素子10の電極13とベース基板11は、第1の接続部2、アンテナ回路21、第3の接続部4、第二の回路層30の導電層31及び第2の接続部3を介して電気的に接続される。また、第一の回路層20と第二の回路層30の空隙は、異方導電性接着剤層40のマトリクス樹脂42によって封止されている。なお、図2ではIC素子10のベース基板11が第二の回路層30の導電層31と、電極13がアンテナ回路21と接続された構造を示したが、IC素子10のベース基板11と電極13が反転した構造であっても、インレットとしての性能に変わりはない。
【0030】
次に、サンドイッチ・アンテナ構造をもつRFIDタグ用インレットの製造方法について例を挙げて説明する。
【0031】
本発明における前記電子装置の製造方法の第1の例は、金属箔を用いてアンテナ回路を形成する工程及びベース基材上に前記アンテナ回路を設けることで第一の回路層を形成する工程もしくはベース基材上に設けた金属箔からアンテナ回路を設けることで前記第一の回路層を形成する工程、前記アンテナ回路上のIC素子搭載部及び第二の回路層との接続部に第1の導電性接着剤層もしくは異方導電性接着剤層を形成する工程、前記第一の回路層のアンテナ回路上にIC素子を位置合せし仮固定する工程、前記IC素子上に第2の導電性接着剤層もしくは異方導電性接着剤を形成する工程、仮固定した前記IC素子及び前記第一の回路層のアンテナ回路上の所定の位置に電気的に接続するように導電層を形成した前記第二の回路層を位置合せする工程、前記第二の回路層を前記IC素子及び第一の回路層上に第2の導電性接着剤層もしくは異方導電性接着剤層を介して一括して加熱圧着する工程、を少なくとも有するものである。
【0032】
また、本発明における前記電子装置の製造方法の第2の例は、金属箔を用いてアンテナ回路を形成する工程及びベース基材上に前記アンテナ回路を設けることで第一の回路層を形成する工程もしくはベース基材上に設けた金属箔からアンテナ回路を設けることで前記第一の回路層を形成する工程、前記第一の回路層のアンテナ回路上のIC素子搭載部に第1の導電性接着剤層もしくは異方導電性接着剤層を形成する工程、前記第一の回路層のアンテナ回路上にIC素子を位置合せし仮固定する工程、前記IC素子上に第2の導電性接着剤もしくは異方導電性接着剤層を形成する工程、仮固定した前記IC素子及び前記第一の回路層のアンテナ回路上の所定の位置に電気的に接続するように導電層を形成した第二の回路層を位置合せする工程、前記第二の回路層を前記IC素子上に第2の導電性接着剤層もしくは異方導電性接着剤層を介して加熱圧着する工程、前記第一の回路層のアンテナ回路の所定の位置に前記第二の回路層を超音波を印加しながら圧着する工程、を少なくとも有するものである。
【0033】
また、本発明における前記電子装置の製造方法の第3の例は、金属箔を用いてアンテナ回路を形成する工程及びベース基材上に前記アンテナ回路を設けることで第一の回路層を形成する工程もしくはベース基材上に設けた金属箔からアンテナ回路を設けることで前記第一の回路層を形成する工程、前記第一の回路層のアンテナ回路上のIC素子搭載部に第1の導電性接着剤層もしくは異方導電性接着剤層を形成する工程、前記第一の回路層のアンテナ回路上にIC素子を位置合せし仮固定する工程、前記IC素子上に第2の導電性接着剤もしくは異方導電性接着剤層を形成する工程、仮固定した前記IC素子及び前記第一の回路層のアンテナ回路上の所定の位置に電気的に接続するように導電層を形成した第二の回路層を位置合せする工程、前記第二の回路層を前記IC素子上に第2の導電性接着剤層もしくは異方導電性接着剤層を介して加熱圧着する工程、前記第一の回路層のアンテナ回路の所定の位置に前記第二の回路層を複数の針状の突起を有する治具にて機械的に圧接する工程、を少なくとも有するものである。
【0034】
前記第1〜第3の例において、IC素子の電極及びベース基板のうちのどちらが第一の回路層と接続しても、また、電極及びベース基板の面方向に回転しても電子装置としての性能に変わりはなく、前記IC素子を特定の方向に並べる必要がないため、本発明の構造は大量生産を実現する上で好適である。
【0035】
前記第1〜第3の例において、少なくともIC素子のベース基板の接続部は、導電接着剤もしくは異方導電性接着剤を介して形成される。前記導電性接着剤は熱硬化性のマトリクス樹脂と、粒状もしくはりん片状もしくは針状の金属片を含有する。また、前記異方導電性接着剤はマトリクス樹脂と、金属粒子もしくは表面に金属層が形成された有機樹脂粒子からなる導電性粒子を含有する。IC素子と第一及び第二の回路層を加熱圧着する際に、マトリクス樹脂中に含有される金属片もしくは導電性粒子がIC素子の珪素からなるベース基板に密着した状態で固定されるため、良好な電気的接続を得ることができる。
【0036】
異方導電性接着剤を介して接続を行う場合には、IC素子を第一及び第二の回路層と加熱圧着することによって電気的接続を行うとともに、第一及び第二の回路層の空隙を封止することができる。この場合、異方導電性接着剤層の厚みの合計を少なくとも前記IC素子の厚みの2分の1以上にすることが、第一及び第二の回路層との封止性を得ることができ、高信頼性を実現する点で好ましい。
【0037】
前記第1〜第3の例において、第一の回路層のアンテナ回路を形成する金属箔及び第二の回路層を形成する導電層の少なくとも一方はアルミニウムもしくは銅である。
【0038】
前記第1〜第3の例において、第一及び第二の回路層の第1及び第2の金属箔の少なくとも一方は有機樹脂又は紙からなるベース基材に支持されている。前記有機樹脂は、塩化ビニル樹脂(PVC)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート樹脂(PC)、2軸延伸ポリエステル(O−PET)、ポリイミド樹脂から選択される。
【0039】
前記第1〜第3の例において、第一の回路層を形成する方法としては、例えば、金属箔を用いてアンテナ回路を形成してからベース基材上に設けることで第一の回路層を形成する方法、ベース基材上に金属箔を設けてからエッチング等によりアンテナ回路を形成することで第一の回路層を形成する方法がある。
【0040】
前記第1〜第3の例において、第二の回路層を形成するために導電層をベース基材上に設ける方法としては、例えば、金属箔を単に前記ベース基材上に貼り付けるだけの方法があり、前記金属箔についてエッチング等の処理をする必要がないことから、低コスト化することができる点で好ましい。
【0041】
前記第1〜第3の例において、図1におけるA−A’方向を幅方向としたとき、第二の回路層はスリットを跨いで前記IC素子にかかる程度の長さを有することが必要であり、アンテナ回路の幅とほぼ同等の長さを有していることがインレット全体の外観上好ましい。
【0042】
前記第1〜第3の例において、前記各工程を経て、本発明の電子装置であるインレット構造を得ることができる。
【0043】
前記インレットについて、RFIDタグの形態で使用する際には、インレットの上下にカバーシートを設けることが、回路を保護してショート等を防ぐ点で好ましい。
【0044】
前記第1〜第3の例において、前記IC素子と第二の回路層を用い、スリットを跨ぐ接続構造とすることで、前記IC素子とアンテナ回路上の励振スリットの高精度な位置合せが不要であるため、複数の前記IC素子を例えば篩いや金型を用いて整列するような粗い位置精度でも、一括して第一の回路層に良好に実装することができる。即ち、前記IC素子を1個ずつ実装する場合に比べて優れた生産性を実現することができる。生産性を向上することでインレット1個当たりのタクト時間を短縮することができる。
【0045】
前記第1〜第3の例において、前記IC素子と第二の回路層を用い、スリットを跨ぐ接続構造を形成するために、導電性接着剤もしくは異方導電性接着剤層を介して接続を行うために、前記IC素子の珪素からなるベース基板上に金等を用いて電極を形成する必要がなく、低コスト化を実現できる。
【0046】
前記第1〜第3の例において、前記IC素子と第一及び第二の回路層の電気的接続は、導電性接着剤もしくは異方導電性接着剤層を介して行い、また、第一及び第二の回路層の電気的接続は、導電性接着剤もしくは異方導電性接着剤層を介した接続、もしくは超音波を印加して行う接続、もしくは複数の針状の突起を有する治具を用いた機械的圧接にて行うため、アンテナ回路上の表面めっきが不要であること、かつ、金属接合を形成するために200℃以上の高温でのボンディングに耐えうる高耐熱性ベース基材が不要であることから、安価なベース基材及びアンテナ回路の使用が可能となり、低コスト化を実現することができる。
【0047】
例えば、従来の金−錫接合等で接続する場合には第一の回路層のベース基材として耐熱性の高いポリイミドを使用する必要があったのに対し、例えば、安価なポリエチレンテレフタレート等を使用することができる。また、前記接続部のアンテナ回路上の表面に錫めっき等を施す必要がないことから、錫やはんだのめっき性が悪いものの安価なアルミニウムをアンテナ回路の材料に使用することができる。従って、例えば、ポリエチレンテレフタレートのベース基材にアルミニウムのアンテナ回路を形成して得られる第一の回路層は、安価なRFIDタグ用インレットを製造するために好適な部材である。
【0048】
即ち、本発明の電子装置は、IC素子と、スリットが形成された送受信アンテナとして動作する第一の回路層と、前記IC素子と前記アンテナとを電気的に接続する短絡板として動作する第二の回路層とを含む電子装置において、前記IC素子は珪素からなるベース基板と、ベース基板上に半導体回路が形成された半導体回路層と、半導体回路層上に形成された電極とを有し、向かい合った1組の各々の面に位置する前記電極(ベース基板の一方の面)及び前記ベース基板面(ベース基板の他方の面)のうちの一方が前記第一の回路層と電気的に接続し、残るもう一方が前記第二の回路層と電気的に接続していることを特徴とする電子装置である。
【0049】
前記第1〜第3の例で説明したように、少なくとも前記IC素子の珪素からなるベース基板面と第一及び第二の回路層との電気的接続部が導電性接着剤もしくは異方導電性接着剤を介して行われることによって、インレットが低コストで生産できるとともに、その生産性を飛躍的に向上することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の好適な実施例について図面を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
<第1の実施の形態>
以下、図3を用いて、第1の実施の形態を説明する。
【0052】
まず、図3(a)に示すように、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートによるベース基材22に、厚み9μmのアルミニウム箔を接着剤にて貼り合わせたテープ状基材のアルミニウム箔面に、スクリーン印刷でエッチングレジストを形成した後、エッチング液に塩化第二鉄水溶液を用いて、アンテナ回路21を形成し、第一の回路層10を作成する。ここで、アンテナ回路21のアンテナ幅を2.5mm、スリット幅を0.5mmとした。図は以下の工程を含めて、図2のB−B’で切断した場合の断面を示す。
【0053】
次に、図3(b)に示すように、アンテナ回路21上の所定の位置に、幅2mmの異方導電性接着フィルム40(AC−2052P−45(日立化成工業(株)製))を80℃でラミネートし、セパレータフィルムを剥がして異方導電性接着剤層40を形成した。
【0054】
次に、図3(c)に示すように、IC素子10をアンテナ回路21上の所定の位置に位置合せし、仮固定した。図には電極13がアンテナ回路21面に対向するように示したが、上下を反転しベース基板11がアンテナ回路21面に対向するように仮固定しても差し支えはない。
【0055】
次に、図3(d)に示すように、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートによるベース基材32に、厚み9μmのアルミニウム箔を接着剤にて貼り合わせた、幅2mmのテープ状基材のアルミニウム箔面上に、前記テープ基材と同幅の前記異方導電性接着フィルム400を80℃でラミネートし、セパレータフィルムを剥がし、異方導電性接着剤層40付き第二の回路層30とした後、前記異方導電性接着剤層40がIC素子10に対向する向きで、第一の回路層20と所定の位置に合せ、仮固定した。
【0056】
次に、図3(e)に示すように、異方導電性接着材層40付き第二の回路層30側から圧着ヘッドを降下し、圧力12MPa、温度180℃、加熱時間15秒の条件で、前記異方導電性接着剤層40付き第二の回路層30を第一の回路層20の前記IC素子10及びアンテナ回路21に対して所定の位置に一括して加熱圧着するとともに、第一の回路層20と第二の回路層30との空隙を封止した。圧着ヘッドには、前記IC素子10と第一の回路層20及び第二の回路層30の接続と、第一の回路層20及び第二の回路層30の接続が同時にできるように、前記IC素子10の厚み分の突起を所定の位置に形成してある。
【0057】
以上の工程にて、図2及び図3(e)に示す形状のインレットを得た。また、通信試験を行った結果、通信不良はなかった。
【0058】
本工程を用いれば、IC素子10の珪素からなるベース基板11(前記他方の面)上に電極を形成する必要がないため、良好な通信特性をもつインレットを低コストで実現することができる。
【0059】
<第2の実施の形態>
以下、図4を用いて、第2の実施の形態を説明する。
【0060】
まず、図4(a)に示すように、図3(c)までは第1の実施の形態と同様の工程を用いて、前記第一の回路層20の加工を行い、前記異方導電性接着フィルムをアンテナ回路上にラミネートして異方導電性接着剤層40を形成し、アンテナ回路21上の所定の位置に、前記IC素子10を仮固定した。
【0061】
次に、図4(b)に示すように、前記IC素子10のアンテナ回路21に対向する面とは反対面上に銀フィラー含有導電性接着剤50を塗布した。
【0062】
次に、図4(c)に示すように、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートによるベース基材32に、厚み9μmのアルミニウム箔を接着剤にて貼り合わせて導電層31とし、幅2mmのテープ状の第二の回路層30とした後、前記アルミニウム箔による導電層31がIC素子10に対向する向きで、第一の回路層20と所定の位置に合せ、仮固定した。
【0063】
次に、図4(d)に示すように、第二の回路層30側から圧着ヘッドを降下し、圧力12MPa、温度180℃、加熱時間15秒の条件で、前記第二の回路層30を第一の回路層20の前記IC素子10及びアンテナ回路21に対して所定の位置に一括して加熱圧着するとともに、第一の回路層20と第二の回路層30との空隙を封止した。圧着ヘッドには、前記IC素子10と第一の回路層20及び第二の回路層30の接続と、第一の回路層20及び第二の回路層30の接続が同時にできるように、前記IC素子10の厚み分の突起を所定の位置に形成してある。
【0064】
以上の工程にて、図2及び図4(d)に示す形状のインレットを得た。また、通信試験を行った結果、通信不良はなかった。
【0065】
本工程を用いれば、第1の実施の形態と同様に、IC素子10の珪素からなるベース基板11(前記他方の面)上に電極を形成する必要がないため、良好な通信特性をもつインレットを低コストで実現することができる。
【0066】
<第3の実施の形態>
以下、図5を用いて、第3の実施の形態を説明する。
【0067】
まず、図5(a)に示すように、図3(c)までは第1の実施の形態と同様の工程を用いて、前記第一の回路層20の加工を行い、前記異方導電性接着フィルムをアンテナ回路21上のIC素子10の実装位置の近傍の所定の位置にラミネートして異方導電性接着剤層40を形成し、アンテナ回路21上の所定の位置に、前記IC素子10を仮固定した。
【0068】
次に、図5(b)に示すように、図3(d)と同様の工程を用いて、異方導電性接着剤層40をIC素子10の接続位置の近傍の所定の場所に形成した異方導電性接着剤層40付き第二の回路層30を準備した後、前記異方導電性接着剤層40がIC素子10に対向する向きで、第一の回路層20と所定の位置に合せ、仮固定した。
【0069】
次に、図5(c)に示すように、第二の回路層30側から圧着ヘッドを降下し、圧力12MPa、温度180℃、加熱時間15秒の条件で、前記第二の回路層30を第一の回路層20の前記IC素子10に対して所定の位置に一括して加熱圧着するとともに、第一の回路層20と第二の回路層30との間のIC素子10の近傍を封止した。
【0070】
次に、図5(d)に示すように、第二の回路層30と第一の回路層20の接続部に、第二の回路層30側から超音波接合ヘッド110を降下し、出力1Wの超音波振動を圧力12MPa、温度180℃、印加時間1秒の条件で印加しながら、超音波接合を行った。
【0071】
以上の工程にて、図2及び図5(d)に示す形状のインレットを得た。また、通信試験を行った結果、通信不良はなかった。
【0072】
本工程を用いれば、第1及び第2の実施の形態と同様に、IC素子10の珪素からなるベース基板11上(前記他方の面)に電極を形成する必要がないため、良好な通信特性をもつインレットを低コストで実現することができる。
【0073】
<第4の実施の形態>
以下、図6を用いて、第4の実施の形態を説明する。
【0074】
まず、図6(a)に示すように、図5(c)までは第3の実施の形態と同様の工程を用いて、第一の回路層20の加工、異方導電性接着剤層40の形成、アンテナ回路21上の所定の位置へのIC素子10を仮固定、異方導電性接着剤層40付き第二の回路層30の準備及び第一の回路層20への仮固定、第二の回路層30の加熱圧着を順次行った。
【0075】
次に、図6(b)に示すように、第一の回路層20と第二の回路層30の接続部を、多数の針状の凹凸をもつ一組のかしめ治具120を用いて圧接を行った。圧接によって第一の回路層20と第二の回路層30のアルミニウム箔同士が塑性変形を起こし、機械的に接触した状態で固定され、電気的接続が得られる。すなわち、第一の回路層20のアンテナ回路21と第二の回路層30の導電層31が電気的に接続する。
【0076】
以上の工程にて、図2及び図6に示す形状のインレットを得た。また、通信試験を行った結果、通信不良はなかった。
【0077】
本工程を用いれば、第1〜第3の実施の形態と同様に、IC素子10の珪素からなるベース基板11上(前記他方の面)に電極を形成する必要がないため、良好な通信特性をもつインレットを低コストで実現することができる。
【0078】
以上の実施例の結果をまとめて表1に示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
IC素子と、第一及び第二の回路層とを含む電子装置において、
前記IC素子は、珪素からなるベース基板と、前記ベース基板の一方の面に半導体回路が形成された半導体回路層と、前記半導体回路層上に形成された電極とを有し、
前記第一の回路層が前記ベース基板の他方の面又は前記電極のいずれか一方と、前記第二の回路層が前記ベース基板の他方の面又は前記電極の残る一方と、それぞれ電気的に接続していること
を特徴とする電子装置。
【請求項2】
少なくとも、前記ベース基板の他方の面は、前記第一又第二の回路層と導電性接着剤を介して接続されることを特徴とする請求の範囲第1項記載の電子装置。
【請求項3】
前記導電性接着剤は、熱硬化性のマトリクス樹脂と、粒状もしくはりん片状もしくは針状の金属片とからなることを特徴とする請求の範囲第2項記載の電子装置。
【請求項4】
少なくとも、前記ベース基板の他方の面は、前記第一又第二の回路層と異方導電性接着剤を介して接続されることを特徴とする請求の範囲第1項記載の電子装置。
【請求項5】
前記異方導電性接着剤は、マトリクス樹脂と、金属粒子もしくは表面に金属層が形成された有機樹脂粒子からなる導電性粒子とを含有することを特徴とする請求の範囲第4項記載の電子装置。
【請求項6】
前記IC素子は、前記異方導電接着剤のマトリクス樹脂によって封止されていることを特徴とする請求の範囲第4項又は第5項記載の電子装置。
【請求項7】
前記第一又は第二の回路層の少なくとも一方は、アルミニウムもしくは銅による導電層を含むことを特徴とする請求の範囲第1項乃至第6項のいずれかに記載の電子装置。
【請求項8】
前記第一又は第二の回路層の少なくとも一方は、有機樹脂からなるベース基材に支持されており、前記有機樹脂は、塩化ビニル樹脂(PVC)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート樹脂(PC)、2軸延伸ポリエステル(O−PET)、ポリイミド樹脂から選択されることを特徴とする請求の範囲第1項乃至第7項のいずれかに記載の電子装置。
【請求項9】
前記第一又は第二の回路層の少なくとも一方は、紙からなるベース基材に支持されていることを特徴とする請求の範囲第1項乃至第7項のいずれかに記載の電子装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/076202
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517695(P2005−517695)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001486
【国際出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】