説明

電子輸送層用組成物、これを用いた電子輸送層、および電子輸送層を備える有機電界発光素子

【課題】電子輸送層用の組成物、これを用いた電子輸送層、および前記電子輸送層を備える有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】酸化アルミニウム(Al)と、可溶性チタン前駆体と、溶媒と、を含む電子輸送層用組成物、前記電子輸送層用組成物を用いた電子輸送層、および前記電子輸送層を備える有機電界発光素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子輸送層用組成物、これを用いた電子輸送層、および前記電子輸送層を備える有機電界発光素子に関し、さらに詳細には、酸化アルミニウム(Al)粒子と可溶性チタン前駆体とを含む電子輸送層用組成物、前記電子輸送層用組成物を塗布した後、乾燥して形成される電子輸送層、ならびに前記電子輸送層を備えることにより、低い駆動電圧、高い発光効率、および改良された寿命特性を有する有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機アクティブ発光素子である有機電界発光素子は、蛍光性またはリン光性の有機化合物薄膜(以下、有機膜と称す)に電流が加えられると、電子と正孔とが有機膜で結合して発光する現象を利用している。有機電界発光素子は、軽量で広い視野角を有し、高画質の画像を作り出すことができ、簡単な工程で製造することができる。また、有機電界発光素子は、低消費電力および低電圧駆動であるにもかかわらず、高色純度を有する動画を生み出すことができる。したがって、有機電界発光素子は、携帯用の電子機器に適している。
【0003】
一般的に、有機電界発光素子は、基板上にアノード、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、およびカソードが順次に積層されている構造である。前記正孔輸送層、前記発光層、および前記電子輸送層は、有機化合物から形成される有機膜である。
【0004】
前述したような構造を有する有機電界発光素子は、次のように駆動する。前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加すると、アノードから放出された正孔は、正孔輸送層を経由して発光層に移動する。一方、電子はカソードから放出され、電子輸送層を経由して発光層に移動する。発光層において、キャリアが再結合して励起子を生成する。この励起子が放射減衰して、物質のバンドギャップに該当する波長の光が放出される。
【0005】
前記有機電界発光素子の発光層の形成に用いられる材料は、その発光メカニズムによって、一重項励起子を利用する蛍光物質と、三重項励起子を利用するリン光物質とに区分される。発光層は、蛍光物質またはリン光物質をそれ自身にドープするか、または蛍光物質またはリン光物質を適切なホスト物質にドープすることによって形成される。電子が励起されると、ホストに一重項励起子と三重項励起子とが1:3の生成比率で発生する(例えば非特許文献1参照)。
【0006】
有機電界発光素子中の発光層の形成材料として蛍光物質が用いられる場合、ホストで発生した三重項励起子が用いられない。しかし、発光層の形成材料としてリン光物質が用いられる場合、一重項励起子および三重項励起子が使用され、100%の内部量子効率が得られうる(例えば非特許文献2参照)。したがって、リン光物質の使用は蛍光物質の使用よりも、高い発光効率をもたらす。
【0007】
しかし、このようなリン光物質を使用することによって発光効率を改良するとしても、まだ発光素子において要求される十分な発光効率が提供されていないため、発光効率を改良する様々な方法が試みられている。
【0008】
その一つの方法は、電荷発生層を発光層内に介在させることによって、単一発光を誘発させる代わりに多重発光を誘発させる方法である。また、発光効率は、金属および有機膜の電気的および物理的性質を改良し、界面特性を制御することによって改良されうる。しかし、これらの方法の工程は複雑であるためコストがかかるか、または、発光素子に要求される十分な発光効率が作り出されない。
【0009】
また、特定の高分子素材を用いて電荷輸送能力を改良する方法に基づき、正孔と電子とが結合して励起子が形成される工程が最適化され、これら励起子が発光する位置を均一に分布させることによって、発光効率を改良させることができる。
【0010】
キャリアの注入に関して、発光層の中心が励起される場合、正孔および電子の密度の均衡をとることは、素子の高効率化において最も重要な鍵である。
【0011】
例えば、電子輸送層(ETL:Electron Transport Layer)が有機発光層(EML:Emitting Layer)とカソードとの間に挿入されると、カソードから放出された電子のほとんどは、アノードに向かいながら有機発光層に移動し、正孔と再結合する。しかし、正孔輸送層(HTL:Hole Transport Layer)がアノードと有機発光層との間に挿入されると、有機発光層に移動した電子は正孔輸送層の界面によって遮断され、それ以上アノードに向かって移動できず、有機発光層に閉じ込められて再結合効率が向上する。
【0012】
すなわち、発光層と電極との間に電子輸送層および正孔輸送層が挿入されると、以下のような改良がなされうる;量子効率が向上する;キャリアの直接注入の代わりに、輸送層を通過させる第2の操作でキャリアを注入することにより駆動電圧が下がる;発光層に注入された電子および正孔が、アノードおよびカソードへ移動する際に、正孔輸送層および電子輸送層に遮断されることで再結合の制御ができ発光効率が改良される;電子および正孔の再結合によって生成される一重項励起子が電極と発光層との境界面で形成されるため、クエンチング(クエンチングとは、発光分子が互いに近くなって物質の発光が減少する現象である)が防止される。
【0013】
また、さらに効率的な正孔の注入のために、アノードと正孔輸送層との間に正孔注入層(HIL:Hole Injection Layer)が挿入されることがあるが、これは、アノードから正孔輸送層への正孔の注入時にエネルギー障壁を低くするために、ITOアノード電極の仕事関数(4.7〜5.0eV)および正孔輸送層のイオン化ポテンシャル(IP:Ionization Potential)を考慮することによって選定される仕事関数が5.0〜5.2eVである有機物から形成される。
【0014】
さらに、素子の効率の改良のために、カソード電極と電子輸送層との間に緩衝層としての役割を果たす、LiF、NaClなどの塩がさらに積層されるが、このときは、正孔注入層の考え方と異なって、カソードの界面の近くに、リチウム、ナトリウムなどの高い還元性を有する金属が同時蒸着によってドーピングされて、それにより電子注入障壁が低減されて、必要とされる駆動電圧を減少させる。
【0015】
電極は、有機電界発光素子の発光強度および発光効率に大きな影響を及ぼすが、これは、発光強度が発光素子に加えられる電流に左右されるためである。Mg電極を用いた場合の発光効率は、Al電極を用いた場合の発光効率に比べて50倍高い。したがって、Al電極は、より効率的に電子を注入するための緩衝層がさらに必要である。
【0016】
電子輸送層に無機化合物が用いられる場合、熱的安定性および化学的安定性が、有機化合物が用いられた場合と比較して改良され、それゆえ、長時間有機電界発光素子が駆動されても、電子輸送能力が変化せず、長時間安定した有機電界発光素子の性能を示す。
【0017】
このような低発光効率であるAl電極および発光層、例えばAlq3層の間に、適当な厚さのAl層を電子輸送層として介在させれば、電流および発光出力が著しく改良される。これは、向上した電子トンネリングと励起子のクエンチングとを除去し、Alq3層とAl電極層との界面でのキャリアトラップのギャップ状態を除去していることに起因する(例えば非特許文献3参照)。
【非特許文献1】Baldo et al.,Phys.Rev.B,1999,60,14422
【非特許文献2】Baldo et al.,Nature,Vol.395,151−154,1998
【非特許文献3】Applied Physics Letters,70,1233(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、電子輸送層としてAlだけを用いる場合、発光効率の改良には限界がある。したがって、より効果的な電子輸送層用材料の開発が求められている。
【0019】
そこで、本発明は、有機電界発光素子の駆動電圧、発光効率、および寿命特性が改良されうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するために、本発明は、酸化アルミニウム(Al)、可溶性チタン前駆体、および溶媒を含む電子輸送層用組成物を提供する。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、前記酸化アルミニウム(Al)と可溶性チタン前駆体とは、1:10〜4:1の質量比であることが好ましい。
【0022】
本発明の他の実施形態によれば、前記可溶性チタン前駆体は、下記化学式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
【化1】

【0024】
前記化学式(1)において、Rは、互いに独立して、−CHC=CH−COCH、−CHC=CH−COOC、−CHCH−COONH、−COR’、−CO(C)COOR”、または置換されていてもよいC〜C10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、この際、R’は、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、R”は、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基である。
【0025】
【化2】

【0026】
前記化学式(2)において、Rは、互いに独立して、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、R’は、互いに独立して、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基である。
【0027】
【化3】

【0028】
前記化学式(3)において、Rは、互いに独立して、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基である。
【0029】
【化4】

【0030】
前記化学式(4)中、Rは、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基である。
【0031】
また、本発明は、前記電子輸送層用組成物を、塗布後乾燥させて形成される電子輸送層を提供する。
【0032】
さらに、本発明は、基板と、アノードと、正孔輸送層と、発光層と、前記電子輸送層と、カソードと、を備える有機電界発光素子を提供する。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、発光効率が改良され、低い駆動電圧を有し、寿命特性が改良された有機電界発光素子が提供されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0035】
本発明は、Alおよび可溶性チタン前駆体を含む電子輸送層用組成物、前記電子輸送層用組成物から形成される電子輸送層を提供する。前記電子輸送層用組成物に含まれる溶媒はコーティング性を向上させうる。本発明の電子輸送層用組成物は、多孔性のAlが用いられるため、電子輸送層の表面積が広くなり、それによって優れた電子輸送効率を示す。また、本発明の電子輸送層用組成物は可溶性チタン前駆体が用いられるため、電荷が容易に発生し、電子輸送層用組成物が分散液状態になり、低温で本発明の電子輸送層用組成物を塗布することが可能になる。
【0036】
前記Alおよび前記可溶性チタン前駆体は、高い誘電定数を有する絶縁性物質であり、優れた電子輸送特性を有するため、電子輸送層を形成する材料として好適である。
【0037】
本発明で用いられるAlは、比表面積が90〜140m/gの範囲であることが好ましく、粒子サイズが20〜150nmの範囲であることが好ましい。本発明に用いられうる、商業的に入手可能なAlの例としては、Sasol社製のPURALOX(登録商標)/CATALOX(登録商標) SBaシリーズ、PURALOX(登録商標)/CATALOX(登録商標) SCFaシリーズ、PURALOX(登録商標)/CATALOX(登録商標) SCCaシリーズ、PURALOX(登録商標) NGaシリーズ、PURALOX(登録商標) Th100/150、CATALOX(登録商標) HTa HTFa101、またはPURALOX(登録商標) SCFa−140L3などが挙げられる。
【0038】
前記可溶性チタン前駆体は、下記化学式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0039】
【化5】

【0040】
前記化学式(1)中、Rは、互いに独立して、−CHC=CH−COCH、−CHC=CH−COOC、−CHCH−COONH、−COR’、−CO(C)COOR”、または置換されていてもよいC〜C10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、この際、R’は、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、R”は、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基である。
【0041】
【化6】

【0042】
前記化学式(2)中、Rは、互いに独立して、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、R’は、互いに独立して、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基である。
【0043】
【化7】

【0044】
前記化学式(3)中、Rは、互いに独立して、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基である。
【0045】
【化8】

【0046】
前記化学式(4)中、Rは、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基である。
【0047】
また、前記可溶性チタン前駆体は、テトラアルキルチタネートまたはチタンキレートが好ましい。ここで、「可溶性」という語句は、有機溶媒に溶解されて液体状態になることが可能であることを意味する。
【0048】
前記テトラアルキルチタネートの例としては、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラキス(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンエトキシド、またはテトライソプロピルチタネートなどが好ましく挙げられる。
【0049】
前記チタンキレートは、下記化学式(5)〜(7)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0050】
【化9】

【0051】
前記化学式(5)〜(7)中、Rは、互いに独立して、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基である。
【0052】
前記化学式(1)〜(7)中のR、前記化学式(2)中のR’、ならびに前記化学式(1)で表される化合物中に含まれうるR’およびR”として用いられうるアルキル基は、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基である。具体的な例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−アミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチルペンタン−2−イル基、3−メチルペンタン−3−イル基、4−メチルペンチル基、4−メチルペンタン−2−イル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブタン−2−イル基、2−メチルヘキサン−2−イル基、2,4−ジメチルペンタン−3−イル基、1,1−ジメチルペンタン−1−イル基、2,2−ジメチルヘキサン−3−イル基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、2−メチルヘプチル基、2−メチルヘプタン−2−イル基、3−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−4−イル基、2−メチルオクタン−3−イル基、n−ノニル基、またはn−デシル基などが挙げられる。前記化学式(1)〜(3)および(5)〜(7)で表される化合物は、分子内に2つ以上のRを有し、前記化学式(2)で表される化合物は分子内に2つのR’を有するが、この場合、分子内のそれぞれのRおよびR’は、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0053】
また、前記チタンキレートは、アセチルアセトネートチタネートキレート、エチルアセトアセテートチタネートキレート、トリエタノールアミンチタネート、または乳酸チタネートキレートのアンモニウム塩であることが好ましい。
【0054】
本発明の組成物中の前記Alと可溶性チタン前駆体との質量比は、1:10〜4:1であることが好ましい。前記質量比が前記範囲を外れてAlが少な過ぎると、発光効率が低下する場合がある。前記質量比が前記範囲を外れてAlが多過ぎると、Alが凝集しやすくなり、均一な膜を維持し難い場合がある。
【0055】
本発明の電子輸送層用組成物に用いられる溶媒の例としては、イソプロピルアルコール、ブタノール、またはヘキサノールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前記溶媒は単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0056】
前記溶媒の使用量は、Alと可溶性チタン前駆体との合計の質量100質量部に対して10〜80質量部であることが好ましい。前記溶媒の使用量が10質量部未満の場合、分散およびコーティング性の制御が難しくなる場合があり、80質量部を超えると、膜厚の調整が難しくなる場合がある。
【0057】
本発明による組成物を塗布後に乾燥して、電子輸送層が形成される。前記電子輸送層は、Alと可溶性チタン前駆体とを含んでいる。このような電子輸送層は、電子の発光層への注入を容易にして、発光層においてキャリアが再結合して励起子を生成することを促進し、素子の全体的な発光効率を改良しうる。
【0058】
本発明による電子輸送層用組成物の塗布方法および乾燥方法は特に制限はない。塗布は、例えばスピンコート法、ディップ法、またはスプレーコート法などによって行われうる。乾燥は、例えば熱風乾燥などによって行われうる。
【0059】
前記電子輸送層の厚さは、デバイスの構造により変わりうるが、10〜500nmであることが好ましく、50〜100nmであることがより好ましいい。前記電子輸送層の厚さが前記範囲を外れると、電子輸送の効率が低下する場合がある。
【0060】
前記電子輸送層は、アノード、正孔輸送層、および発光層が順次に積層された基板上に形成され、前記電子輸送層の上にカソードが配置されて有機電界発光素子が完成する。
【0061】
前記有機電界発光素子は、電子注入層、正孔注入層、電子遮断層、および正孔遮断層からなる群より選択される少なくとも1つの層をさらに備えることが好ましい。
【0062】
本発明による有機電界発光素子のアノードの形成材料は、4eV以上の仕事関数を有する金属、合金、導電性化合物、またはこれらの混合物であることが好ましい。具体的な例としては、AuもしくはCuIなどの金属または金属化合物、ITO(インジウムスズ酸化物)、SnO、もしくはZnOなどの透明導電性材料、またはこれらの混合物などが挙げられる。アノードの厚さは、10〜200nmであることが好ましい。
【0063】
本発明による有機電界発光素子のカソードの形成材料は、4eV以上の仕事関数を有する金属、合金、電気伝導性化合物、またはこれらの混合物であることが好ましい。具体的な例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、カルシウム、マグネシウム、リチウム、リチウム合金、インジウム、アルミニウム、マグネシウム合金、アルミニウム合金、またはこれらの混合物などが挙げられる。その他、アルミニウム/リチウム合金、マグネシウム/銀合金、またはマグネシウム/インジウム合金なども用いられうる。カソードの厚さは、10〜200nmであることが好ましい。
【0064】
本発明による有機電界発光素子の正孔輸送層の形成材料は、正孔輸送物質として一般的に用いられるいかなる物質であってもよく、例えば、N,N'−ジフェニル−N,N'−ジ(3−メチルフェニル)−4,4'−ジアミノビフェニル、N,N'−ジフェニル−N,N'−ジナフチル−4,4'−ジアミノビフェニル、N,N,N’,N'−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリンなどのポルフィリン化合物誘導体;主鎖または側鎖に芳香族3級アミンを有する重合体、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N,N−トリ(p−トリル)アミン、4,4’,4’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−n−フェニルアミノ]トリフェニルアミンなどのトリアリールアミン誘導体;N−フェニルカルバゾールおよびポリビニルカルバゾールなどのカルバゾール誘導体;無金属フタロシアニン、銅フタロシアニンなどのフタロシアニン誘導体;スターバースト型アミン誘導体;エナミン誘導体;スチルベン誘導体;芳香族3級アミンなどのスチリルアミン化合物誘導体;またはポリシランなどが挙げられる。
【0065】
前記発光層の形成に用いられる発光物質は、一般的に用いられる蛍光およびリン光発光物質であれば、いかなる物質であってもよく、また、1種以上の高分子ホスト材料、高分子と低分子との混合ホスト、低分子ホスト材料、および非発光高分子マトリクスからなる群より選択される少なくとも1種の材料をさらに含んでもよい。ここで、高分子ホスト材料、低分子ホスト材料、および非発光高分子マトリックスは、従来の有機電界発光素子用の発光層の形成に一般的に用いられるいかなる物質であってもよい。高分子ホスト材料の例としては、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、またはポリチオフェンなどが挙げられる。低分子ホスト材料の例としては、4,4'−N,N'−ジカルバゾールビフェニル(CBP)、4,4'−ビス[9−(3,6−ビフェニルカルバゾリル)]−1−1,1'−ビフェニル、9,10−ビス[(2'、7'−t−ブチル)−9',9''−スピロビフルオレニルアントラセン、またはテトラフルオレンなどが挙げられる。非発光高分子マトリックスの例としては、ポリメチルメタクリレート、またはポリスチレンなどが挙げられる。しかし、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0066】
前記発光層の厚さは、30〜100nmであることが好ましい。前記発光層の厚さが30nm未満の場合、発光効率および寿命が低下する場合があり、100nmを超えると、駆動電圧が上昇する場合がある。
【0067】
前記有機電界発光素子では、各層の間にバッファ層が形成されうるが、このようなバッファ層の形成材料は、一般的に用いられるいかなる物質であってもよく、例えば、銅フタロシアニン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリフェニレンビニレン、またはこれらの誘導体などが挙げられる。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
前記発光層は、真空蒸着法、スパッタリング法、印刷法、コーティング法、インクジェット法、または転写法などの多様な方法により形成されうる。
【0069】
図1A〜図1Cは、本発明の好ましい一実施形態による有機電界発光素子の積層構造を示す断面概略図である。
【0070】
図1Aを参照すれば、アノード10の上部に正孔輸送層11および発光層12が積層され、前記発光層12の上部に電子輸送層13およびカソード14が形成される。
【0071】
図1Bを参照すれば、アノード10の上部に正孔輸送層11が積層され、前記正孔輸送層11の上に発光層12が積層される。前記発光層12の上部に電子輸送層13および電子注入層15が順次に積層され、その上にカソード14が形成される。
【0072】
図1Cを参照すれば、アノード10の上部に正孔輸送層11、電子ブロッキング層16、発光層12、電子輸送層13、および電子注入層15が順次に積層される。電子注入層15の上部にカソード14が形成される。
【0073】
前述のような積層構造を有する本発明の有機電界発光素子は、一般的な製造方法によって形成可能であり、その製造方法は特に限定されるものではない。
【0074】
本発明の有機電界発光素子の製造については、特別な装置や方法を必要とせず、本発明の有機電界発光素子は、従来の発光材料を用いた有機電界発光素子の製造方法によって製造されうる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を、下記実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
抵抗値が15Ω/cmであり、厚さが150nm(1500Å)であるコーニング社製のITOガラス基板を、50mm×50mm×0.7mmのサイズに切断して、イソプロピルアルコールと純水との1:1(体積比)混合溶媒、純水、およびイソプロピルアルコールを用いて順次に超音波洗浄した後、不活性ガスを用いて乾燥させた。正孔注入物質であるPEDOT(poly(3,4−etylenedioxythiophene):ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))/PSS(poly(styrene sulfonate):ポリスチレンスルホン酸)(商品名:BAYTRON(登録商標)P VP AI 4083、Bayer社製)から形成された高分子溶液を、50nm(500Å)の厚さにスピンコートして正孔輸送層を形成させた。次いで、発光物質(緑色発光物質)であるgreen223(Dow社製)を10質量%の濃度でトルエンに溶かし、70nm(700Å)の厚さを有する発光層を形成させた。次いで、前記発光層の上部にチタン酸テトライソプロピル2g、イソプロピルアルコール1g、およびAl(商品名PURALOX(登録商標)/CATALOX(登録商標) SCFa)0.2gを混合した溶液を、2000rpmで2分間スピンコートした後、150℃で3分間乾燥させて、電子輸送層を形成させた。
【0077】
次いで、Alを1nm/secの速度で蒸着させて、厚さ200nmのアノードを形成し、その後封止することで有機電界発光素子を完成させた。この際、封止工程は、乾燥した窒素雰囲気下のグローブボックス内で、BaO粉末を用いてAl蒸着後の結果物を密封した後、UV硬化剤を用いて最終処理することによりなされた。
【0078】
完成した有機電界発光素子は、多層型素子であって、概略の構造は、図2に示した通りである。有機電界発光素子の発光面積は6mmであった。
【0079】
本発明による電子輸送層用組成物において、ほぼ均一な薄膜がスピンコート法によって形成されることを確認した。
【0080】
(実施例2)
電子輸送層用組成物として、Al 0.2g、可溶性チタン前駆体であるテトラ−n−ブチルチタン2g、および溶媒であるブタノール1gを含む組成物を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で、有機電界発光素子を製造した。
【0081】
(実施例3)
電子輸送層用組成物として、Al 0.2g、可溶性チタン前駆体であるテトラキス(2−エチルヘキシル)チタネート2g、および溶媒であるイソプロピルアルコール1gを含む組成物を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で、有機電界発光素子を製造した。
【0082】
(比較例)
電子輸送層として発光層上にAlq3(トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(III))層を、25nm(250Å)の厚さで形成したことを除いては、実施例1と同様の方法で、有機電界発光素子を製造した。
【0083】
実施例1〜3および比較例で得られた有機電界発光素子の発光効率および寿命特性の測定結果を下記表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
表1からわかるように、本発明による電子輸送層を備えた有機電界発光素子は、従来の電子輸送物質から作製した比較例の有機電界発光素子に比べて、低い駆動電圧、高い発光効率、および優れた寿命特性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、有機電界発光素子関連の技術分野に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1A】本発明の一実施形態による有機電界発光素子の積層構造を示す断面概略図である。
【図1B】本発明の一実施形態による有機電界発光素子の積層構造を示す断面概略図である。
【図1C】本発明の一実施形態による有機電界発光素子の積層構造を示す断面概略図である。
【図2】本発明の一実施形態による有機電界発光素子を示す概略図である。
【符号の説明】
【0088】
10 アノード、
11 正孔輸送層、
12 発光層、
13 電子輸送層、
14 カソード、
15 電子注入層、
16 電子ブロッキング層、
20 基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウム(Al)と、
可溶性チタン前駆体と、
溶媒と、
を含む電子輸送層用組成物。
【請求項2】
前記電子輸送層用組成物中の前記酸化アルミニウムと前記可溶性チタン前駆体との質量比は、1:10〜4:1であることを特徴とする、請求項1に記載の電子輸送層用組成物。
【請求項3】
前記可溶性チタン前駆体は、下記化学式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1または2に記載の電子輸送層用組成物:
【化1】

前記化学式(1)中、Rは、互いに独立して、−CHC=CH−COCH、−CHC=CH−COOC、−CHCH−COONH、−COR’、−CO(C)COOR”、または置換されていてもよいC〜C10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、この際、R’は、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、R”は、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基であり;
【化2】

前記化学式(2)中、Rは、互いに独立して、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、R’は、互いに独立して、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基であり;
【化3】

前記化学式(3)中、Rは、互いに独立して、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基であり;
【化4】

前記化学式(4)中、Rは、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基である。
【請求項4】
前記可溶性チタン前駆体は、テトラアルキルチタネートまたはチタンキレートであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子輸送層用組成物。
【請求項5】
前記テトラアルキルチタネートが、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラキス(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンテトラエトキシド、またはテトライソプロピルチタネートであることを特徴とする、請求項4に記載の電子輸送層用組成物。
【請求項6】
前記チタンキレートが、下記化学式(5)〜(7)からなる群より選択されるいずれか1つであることを特徴とする、請求項4に記載の電子輸送層用組成物:
【化5】

前記化学式(5)〜(7)中、Rは、互いに独立して、置換されていてもよいC〜C10の直鎖状または分岐状のアルキル基である。
【請求項7】
前記チタンキレートが、アセチルアセトネートチタネートキレート、エチルアセトアセテートチタネートキレート、トリエタノールアミンチタネート、または乳酸チタネートのアンモニウム塩であることを特徴とする請求項4に記載の電子輸送層用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子輸送層用組成物を、塗布後乾燥させて形成される電子輸送層。
【請求項9】
基板と、
アノードと、
正孔輸送層と、
発光層と、
請求項8に記載の電子輸送層と、
カソードと、
を備える有機電界発光素子。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−201474(P2007−201474A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14344(P2007−14344)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】