説明

電子部品及びその製造方法

【課題】ワイヤボンディング性に優れた湿式めっきレスの導体膜を基板の表面に備える電子部品ならびに該電子部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明によって提供される電子部品10は、無機基材20と、該基材の表面に形成された導体膜30と、該導体膜の一部にボンディングされたボンディングワイヤ50,55とを備えており、少なくとも一部にワイヤボンディング部40,45が形成されている。導体膜のうちの少なくともワイヤボンディング部を形成する部分は、Ag又はAg主体の合金から成るAg系金属と、該Ag系金属をコーティングするAl,Zr,Ti,Y,Ca,Mg及びZnから成る群から選択されるいずれかを構成要素とする金属酸化物とを含んでいる。金属酸化物のコーティング量は、Ag系金属100質量部に対して0.02〜0.1質量部に相当する量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式めっきレスの導体膜を備える電子部品及びその製造方法に関する。また、当該導体膜を形成するための材料に関する。
【0002】
ハイブリッドIC、マルチチップモジュール等の電子部品(典型的には半導体素子を包含する。)を構築するのに用いられる基板(例えばセラミック基板)に所定パターンの導体膜(配線、電極等)を形成する材料として、膜を構成する粉末材料を含み、ペースト状(あるいはスラリー状やインク状)に調製された導体膜形成用材料(以下、かかる流動性を有する導体膜形成用材料を「導体ペースト」という。)が使用されている。このような導体ペーストとして、例えば導体を形成する主成分たる粉末状のAg若しくはAg主体の合金(例えばAg−Pd合金、Ag−Pt合金)と、必要に応じて添加される種々の添加物(無機酸化物、ガラス粉末等)とを所定の有機媒質(ビヒクル)に分散させることにより調製されるものが挙げられる(以下「Ag系ペースト」と略称する。)。例えば特許文献1には、この種の導体ペーストの一例が記載されている。
【0003】
ところで、このようなAg系ペーストから形成された導体膜と基板上に予め半田付けされた半導体チップ等とをボンディングワイヤによって電気的にボンディング(接続)する際(例えば半導体チップ上のアルミ電極(例えばボンディングパッド部)と基板上の導体膜(パターン形成された配線)とをボンディングする際)、ボンディングワイヤと導体膜との間で十分な接続強度が得られない虞がある。接続強度が弱いとボンディング部分でボンディングワイヤが剥れる等、不具合が生じる場合があり、接続の信頼性を十分に担保することができない。
そこで、接続に必要な接続強度(ワイヤボンディング性)を満足するべく、従来はAgから構成された導体膜の表面に無電解Ni/Au又は無電解Ni/Pd/Au等を用いた湿式めっき処理を施す手法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3564089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このように導体膜の表面に金属めっき処理を別途行うことは、電子部品の製造工程をより煩雑化するため好ましくない。また、過度の無電解めっき(湿式めっき)処理を行うと電子部品の機械的強度あるいは電気特性の劣化を招く虞もある。なお、上述の特許文献1に記載の導体ペーストは、特にワイヤボンディングに着目した技術ではない。また、同一の基板上に、はんだ付けにより搭載する電子部品とワイヤボンディングにより搭載する電子部品とが混在する場合、それぞれの電子部品に対して適切な導体ペーストを用いる必要があり、導体膜を形成するには多くの工程数を要する。
そこで、本発明は、上述した従来の課題を解決すべく創出されたものであり、その目的は、ワイヤボンディング性に優れた湿式めっきレスの導体膜を基板の表面に備える電子部品ならびに該電子部品の製造方法を提供することである。また、そのような電子部品を構築するために用いられるワイヤボンディング性に優れた湿式めっきレスの導体膜を形成する材料の提供を他の目的の一つとする。また、基板上に半田付けによって搭載する電子部品とワイヤボンディングによって搭載する電子部品とのそれぞれに対して、同一の導体膜形成用材料での搭載が可能となる導体膜形成用材料の提供を他の目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するべく、本発明により、無機基材と、該基材の表面に形成された導体膜と、該導体膜の一部にボンディングされたボンディングワイヤとを備える、少なくとも一部にワイヤボンディング部が形成された電子部品が提供される。ここで開示される電子部品において、上記導体膜のうちの少なくとも上記ワイヤボンディング部を形成する部分は、Ag又はAg主体の合金から成るAg系金属と、該Ag系金属をコーティングするアルミニウム(Al),ジルコニウム(Zr),チタン(Ti),イットリウム(Y),カルシウム(Ca),マグネシウム(Mg)及び亜鉛(Zn)から成る群から選択されるいずれかを構成要素とする金属酸化物とを含み、上記金属酸化物のコーティング量は、上記Ag系金属100質量部に対して0.02〜0.1質量部に相当する量である。
【0007】
なお、本明細書において、「電子部品」とは、無機基材(典型的には結晶質(即ち非ガラス)のセラミック製基材或いは非晶質のセラミック製基材(即ちガラスセラミック製基材))を有する電子部品一般をいう。従って、このような無機基材を有するハイブリッドIC、マルチチップモジュール類、或いはセラミックコンデンサ等は、本明細書において定義される「電子部品」に包含される典型例である。
【0008】
本発明によって提供される電子部品では、無機基材の表面に形成された導体膜のうちの少なくともワイヤボンディング部を形成する部位の導体膜が上記構成(成分)であることから、従来の導体膜と比較して良好なワイヤボンディング性を備えている。このことから、かかる電子部品において、半導体素子等のワイヤボンディング対象の素子(チップ)類と導体膜とを十分な接続強度(特に導体膜とボンディングワイヤの接続部分の強度)でワイヤボンディング(接続)することが実現される。
【0009】
ここで開示される電子部品の好適な一態様では、上記導体膜のうちの少なくとも上記ワイヤボンディング部を形成する部分は、添加物として無機酸化物及び/又は酸化物ガラスをさらに含んでいる。
かかる構成によると、導体膜の焼結性が高まって、導体膜とボンディングワイヤとのワイヤボンディング部における機械的接続強度(即ちワイヤボンディング性)をより向上させることができる。なお、かかる構成の導体膜は、半田耐熱性に優れるためワイヤボンディング部以外の導体膜、例えば、半導体チップ等を搭載するための導体膜を形成した場合、半導体チップ等を基材の上に実装する(取り付ける)際の半田くわれの発生を効果的に防止することができる。
特に、上記添加物として無機酸化物を含んでおり、該無機酸化物は酸化ビスマスと酸化銅との混合物であって、該混合物の添加量は、上記Ag系金属100質量部に対して0.5〜5質量部に相当する量であることが好ましい。
或いは、上記添加物として酸化物ガラスを含んでおり、該ガラスの添加量は、上記Ag系金属100質量部に対して0.05〜0.5質量部に相当する量であることが好ましい。
【0010】
ここで開示される電子部品の好適な一態様では、上記無機基材は、結晶質セラミックスから成る結晶質セラミック基材であり、上記導体膜のうちの少なくとも上記ワイヤボンディング部を形成する部分は、上記添加物として無機酸化物を含んでいる。
或いは、ここで開示される電子部品の好適な一態様では、上記無機基材は、ガラス成分を主成分とする非晶質セラミックスから成る非晶質セラミック基材であり、上記導体膜のうちの少なくとも上記ワイヤボンディング部を形成する部分は、上記添加物として酸化物ガラスを含んでいる。ここで、主成分とは全体の50質量%を上回る量の成分をいい、典型的には70質量%以上のものをいう。
【0011】
ここで開示される電子部品の好適な一態様では、上記ボンディングワイヤは、金、アルミニウム及び銅のいずれかの金属元素を主構成要素とする金属製である。
かかる金属材料から構成されるボンディングワイヤは、例えば半導体素子と導体膜とを電気的および機械的に接続するのに好適に用いることができる。
【0012】
また、本発明によると、他の側面として、無機基材と、該基材の表面に形成された導体膜と、該導体膜の一部にボンディングされたボンディングワイヤとを備える、少なくとも一部にワイヤボンディング部が形成された電子部品における少なくともワイヤボンディング部を有する導体膜を形成する用途に用いるためのワイヤボンディング部形成用導体ペーストが提供される。即ち、ここで開示されるワイヤボンディング部形成用導体ペーストは、Ag又はAg主体の合金から成る平均粒径(典型的には電子顕微鏡観察若しくは光散乱法に基づいて得られる平均粒径)が0.3〜6.0μmのAg系金属粉末(金属微粒子)と、該Ag系金属粉末の表面をコーティングするAl,Zr,Ti,Y,Ca,Mg及びZnから成る群から選択されるいずれかを構成要素とする有機系金属化合物若しくは金属酸化物とを含んでいる。そして、上記有機系金属化合物若しくは金属酸化物のコーティング量は、上記Ag系金属粉末100質量部に対して金属酸化物換算で0.02〜0.1質量部に相当する量である。
【0013】
かかる構成の導体ペーストを用いて(塗布して)無機基材上に導体膜を形成する場合、従来のAgペーストを用いて導体膜を形成する場合と比較してワイヤボンディング性に優れる導体膜を形成することができる。従って、上記導体ペーストにより形成されたワイヤボンディング性に優れる導体膜と半導体素子等とをワイヤボンディングする場合、半導体素子等と導体膜とは、ボンディングワイヤによって十分な接続強度(特に導体膜とボンディングワイヤの接続部分の強度)を確保した状態で電気的に接続することができる。
【0014】
ここで開示される導体ペーストの好適な一態様では、添加物として無機酸化物粉末及び/又は酸化物ガラス粉末をさらに含んでいる。特に、上記Ag系金属粉末として平均粒径が3.0〜6.0μmであるAg系金属粉末を使用し、且つ添加物として無機酸化物粉末及び/又は酸化物ガラス粉末を含む導体ペーストが好ましい。
かかる構成の導体ペーストによると、ワイヤボンディング性をより向上させた導体膜を形成することができる。なお、かかる構成の導体ペーストを用いて形成された導体膜は、半田耐熱性に優れるためワイヤボンディング部以外の導体膜、例えば、半導体チップ等を搭載するための導体膜を形成した場合、半導体チップ等を基材の上に実装する(取り付ける)際の半田くわれの発生を効果的に防止することができる。
【0015】
特に、上記添加物として無機酸化物粉末を含んでおり、該無機酸化物粉末は酸化ビスマスと酸化銅との混合物であって、該混合物の添加量は、上記Ag系金属粉末100質量部に対して0.5〜5質量部に相当する量であることが好ましい。
或いは、上記添加物として酸化物ガラス粉末を含んでおり、該ガラス粉末の添加量は、上記Ag系金属粉末100質量部に対して0.05〜0.5質量部に相当する量であることが好ましい。
【0016】
また、本発明によると、他の側面として、無機基材と、該基材の表面に形成された導体膜と、該導体膜の一部にボンディングされたボンディングワイヤとを備える、少なくとも一部にワイヤボンディング部が形成された電子部品を製造する方法が提供される。ここで開示される電子部品の製造方法は、(1)以下の成分:Ag又はAg主体の合金から成る平均粒径が0.3〜6.0μmのAg系金属粉末;および、上記Ag系金属粉末の表面をコーティングするAl,Zr,Ti,Y,Ca,Mg及びZnから成る群から選択されるいずれかを構成要素とする有機系金属化合物若しくは金属酸化物;
ここで、上記有機系金属化合物若しくは上記金属酸化物のコーティング量は、上記Ag系金属粉末100質量部に対して金属酸化物換算で0.02〜0.1質量部に相当する量である;を有するワイヤボンディング部形成用導体ペーストを用意すること、(2)上記導体ペーストを上記無機基材の表面に塗布して、該無機基材の表面に導体膜を形成すること、及び(3)上記形成した導体膜の一部に上記ボンディングワイヤをボンディングすること、を包含する。
【0017】
本発明の電子部品の製造方法では、無機基材の表面に形成される導体膜は上記構成のワイヤボンディング部形成用導体ペーストから形成されるため、従来の導体膜と比較して良好なワイヤボンディング性を備えている。このため、かかる導体膜とボンディングワイヤとのボンディング部分(即ちワイヤボンディング部)において十分な接続強度が実現される。すなわち、かかる製造方法によって、半導体素子等と良好な接続性を有し、電気的特性および機械的特性に優れる電子部品を製造することができる。
【0018】
ここで開示される電子部品の製造方法の好適な一態様では、上記導体ペーストは、添加物として無機酸化物粉末及び/又は酸化物ガラス粉末をさらに含んでいる。特に、上記Ag系金属粉末として平均粒径が3.0〜6.0μmであるAg系金属粉末を使用し、且つ添加物として無機酸化物粉末及び/又は酸化物ガラス粉末を含む導体ペーストが好ましい。
【0019】
特に、上記添加物として無機酸化物粉末を含んでおり、該無機酸化物粉末は酸化ビスマスと酸化銅との混合物であって、該混合物の添加量は、上記Ag系金属粉末100質量部に対して0.5〜5質量部に相当する量であることが好ましい。
或いは、上記添加物として酸化物ガラス粉末を含んでおり、該ガラス粉末の添加量は、上記Ag系金属粉末100質量部に対して0.05〜0.5質量部に相当する量であることが好ましい。
【0020】
ここで開示される電子部品の製造方法の好適な一態様では、上記無機基材が結晶質セラミック基材であって、上記導体ペーストは、上記添加物として無機酸化物粉末を含んでいることを特徴とする。
或いは、ここで開示される電子部品の製造方法の好適な一態様では、上記無機基材がガラス成分を主成分とする非晶質セラミック基材であって、上記導体ペーストは、上記添加物として酸化物ガラス粉末を含んでいることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】一実施形態に係る電子部品の外観を模式的に示す斜視図である。
【図2】一実施例に係る電子部品の表面構造を示す写真である。
【図3】ワイヤボンディング性評価試験の試験方法を示す説明図である。
【図4】例4に係るテストピースを溶融状態の半田に浸漬した後の当該テストピース表面の状態を示す写真である。
【図5】例1に係るテストピースを溶融状態の半田に浸漬した後の当該テストピース表面の状態を示す写真である。
【図6】例13に係るテストピースを溶融状態の半田に浸漬した後の当該テストピース表面の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事項は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識に基づいて実施することができる。
【0023】
まず、本発明の電子部品の製造方法において好適に使用される材料について説明する。
本発明に係るワイヤボンディング部形成用導体ペースト(以下、単に「導体ペースト」という。)は、Ag系金属粉末を主成分とすることで特徴付けられるワイヤボンディング部形成用ペーストであって、上記目的を達成し得る限りにおいて他の副成分の内容や組成に特に制限はない。
Ag系金属粉末は、Ag若しくはAg主体の合金(例えばAg−Au合金、Ag−Pd合金)から実質的に構成されている微粒子群である。かかるAg系金属粉末としては、導電性付与の観点から、Ag単体または比抵抗値が概ね1.8〜5.0×10−6Ω・cm(好ましくは1.9〜3.0×10−6Ω・cm、例えば2.2×10−6Ω・cm)の合金から成るものが適当である。また、特に限定するものではないが、平均粒径が0.3〜6.0μmのAg系金属粉末が好ましい。また、そのような比較的微小な平均粒径を有し且つ粒径10μm以上(特に好ましくは粒径8μm以上)の粒子を実質的に含まないような粒度分布の比較的狭いAg系金属粉末が特に好ましい。
【0024】
特に限定するものではないが、Ag系金属粉末として平均粒径が3.0μm以上(典型的には3.0〜6.0μm)であるAg系金属粉末を用いて、導体ペーストを製造する場合には、後述する無機酸化物粉末やガラス粉末等の添加物を導体ペーストに用いる(含める)ことが好ましい。
なお、Ag系金属粉末自体は、従来公知の製造方法によって製造されたものでよく、特別な製造手段を要求するものではない。例えば、周知の還元析出法、気相反応法、ガス還元法等によって製造されたAg系金属粉末を使用することができる。
【0025】
次に、Ag系金属粉末の表面をコーティングする材料について説明する。
Ag系金属粉末のコーティングに使用する有機系金属化合物としては、最終的(焼成後)にAg系金属粉末の表面に本発明の目的の実現に適う金属(金属酸化物又はその還元物を含む)の被膜(即ち当該表面を被覆する付着物)を形成し得るものであれば特に制限はない。好適な構成金属元素として、Al、もしくはZr、もしくはTi、もしくはY、もしくはCa、もしくはMg、もしくはZn等が挙げられる。これらを構成元素とする有機酸金属塩、金属アルコキシド又はキレート化合物が好適に用いられる。
例えば、好適な金属アルコキシドとしては、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムブトキシド等のジルコニウムアルコキシド、アルミニウムエトキシド(Al(OC)、アルミニウムt-ブトキシド(Al(OC(CH)、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、アセトアルコキシアルミニウムエチルアセトアセテート、アセトアルコキシアルミニウムアセチルアセトネート等のアルミニウムアルコキシド、テトラプロポキシチタン(Ti(OC)等のチタン(IV)アルコキシドの他、Zn、Mg、Ca等を中心金属原子(イオン)とする種々の多核アルコラト錯体が挙げられる。また、好適なキレート化合物としては、Zn、Mg、Ca等を中心金属原子(イオン)とするエチレンジアミン(en)錯体、エチレンジアミンテトラアセタト(edta)錯体等が挙げられる。或いは、Ti、Zn、Mg等の金属(イオン)とキレートを形成した所謂キレート樹脂も、本発明に係る有機系金属化合物(キレート化合物)として好適である。
【0026】
また、Ag系金属粉末のコーティングに使用する有機系金属化合物として他の好適なものは、Al、もしくはZr、もしくはTi、もしくはY、もしくはCa、もしくはMg、もしくはZn等を構成金属元素とする有機酸金属塩である。特にAl又はZrを主構成金属元素とする有機酸金属塩が好適である。特に好適な有機酸金属塩は、上記列挙した元素を主構成金属元素とするカルボン酸塩である。例えば、Al、Ca、Ti、Y又はZrと各種脂肪酸(例えばナフテン酸、オクチル酸、エチルヘキサン酸)、アビエチン酸、ナフトエ酸等の有機酸との化合物が挙げられる。特に好適な有機酸金属塩は、Al又はZrとカルボン酸(特に脂肪酸)との化合物である。
【0027】
このような有機系金属化合物でコーティングされたAg系金属粉末を熱処理すると当該有機系金属化合物の酸化物である金属酸化物(ジルコニア、アルミナ等)の被膜がAg系金属粉末の表面に形成される。もっとも、無機基材(例えば結晶質セラミック基材或いは非晶質セラミック基材)と共にコーティングされたAg系金属粉末を焼成することによって、かかる金属酸化物が生成し得る。従って、有機系金属化合物でコーティングされたAg系金属粉末(即ちそれを含むペースト)を無機基材に付着させる前に予め熱処理しておくことは、必須の処理ではない。
【0028】
或いは、有機系金属化合物に代えて、種々の酸化物ゾル(典型的にはアルミナゾル、ジルコニアゾル等)を本発明のAg系金属粉末のコーティング材料として使用してもよい。この場合には、Ag系金属粉末の表面は、ジルコニア、アルミナ等の金属化合物(酸化物)で直接コーティングされたものとなる。
【0029】
而して、上記のような組成の有機系金属化合物又はその金属の酸化物によってコーティングされたAg系金属粉末によって形成された導体膜は、焼成後(有機系金属化合物をコーティングした場合はその金属の酸化物が生じた後)において、特に高いワイヤボンディング性、半田耐熱性及び半田耐候性(半田付け性)を実現する。従って、本発明に係るAgペーストを用いると、パラジウム(Pd)等の高価な貴金属を大量に使用せずに且つ煩雑なメッキ処理を行うことなく、実用上十分なレベルのワイヤボンディング性、半田耐熱性、接着強度及び半田耐候性を有する導体膜(例えば表面導体膜、側面導体膜、内部導体膜)を無機基材(例えば非晶質セラミック基材)に形成することができる。
【0030】
次に、本発明に係る導体ペースト(ワイヤボンディング部形成用導体ペースト)に含ませ得る副成分として好適なものについて説明する。
本発明の導体ペーストの副成分として、上記金属粉末を分散させておく有機媒質(ビヒクル)が挙げられる。本発明の実施にあたっては、かかる有機ビヒクルは金属粉末を分散させておくものであればよく、従来の導体ペーストに用いられているものを特に制限なく使用することができる。例えば、エチルセルロース等のセルロース系高分子、エチレングリコール及びジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ミネラルスピリット、ブチルカルビトール、ターピネオール等の高沸点有機溶媒が挙げられる。
【0031】
また、本発明の導体ペーストには、当該ペースト本来のワイヤボンディング性、半田濡れ性、半田耐熱性、半田耐候性等を著しく損なわない限りにおいて種々の添加物を副成分として含ませることができる。例えば、かかる添加物としては、無機酸化物粉末、ガラス粉末等が挙げられる。特に若干量の無機酸化物粉末及び/ガラス粉末の添加が好適である。
【0032】
すなわち、無機酸化物粉末は、無機基材(例えば結晶質セラミック基材)と導体膜との間の接着強度の向上に寄与し得る。さらに、本発明の導体ペーストから形成された導体膜の焼成時に過大な焼成収縮応力が生じるのを防止し、製造しようとする電子部品の精度や機械的強度を実用上高レベルに維持することに寄与する無機成分となり得る。そのような無機酸化物として、酸化銅、酸化ビスマス、酸化鉛、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化マグネシウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化タングステン等が挙げられる。これらのうち、酸化銅、酸化ビスマスが特に好適な酸化物である。なかでも酸化ビスマスは、Ag系金属粉末の焼結を促進するとともに、導体ペーストの粘度を低下させて無機基材との濡れ性を向上させ得るため、特に好適な無機酸化物である。また、酸化銅は無機基材(基板)との密着性を向上させ得る。
これら金属酸化物粉末を副成分として添加する場合には、ペーストの充填率や分散性を適切化するという観点から、平均粒径が5μm以下(典型的には1〜5μm、特に好ましくは1μm以下)の粉末が好ましい。また、比表面積については、少なくとも0.5m/gである粉体が好ましく、1.0m/g以上(典型的には1.0〜2.0m/g、特に好ましくは2.0〜100m/g)である粉体が特に好ましい。
【0033】
また、ガラス粉末は、無機基材(例えば非晶質セラミック基材)上に付着したペースト成分を安定的に焼付け・固着させること(即ち接着強度の向上)に寄与する無機成分(無機結合材)となり得る。特に酸化物ガラスが好ましい。後述する焼成温度との関係から、軟化点が概ね800℃以下のものが好ましい。そのようなガラス粉末として、鉛系、亜鉛系、ホウケイ酸系ガラス及びこれらにアルカリ土類金属酸化物を含んだガラスが挙げられ、典型的には、PbO−SiO−B系ガラス、PbO−SiO−B−Al系ガラスのような鉛系ガラス、SiO−ZnO−RO系ガラス(Rはアルカリ土類金属)、ZnO−SiO系ガラス、ZnO−B−SiO系ガラスのような亜鉛系ガラス、Bi−SiO系ガラス、Bi−B−SiO系ガラスのようなビスマス系ガラス等が挙げられる。これらのうち一種又は二種以上のガラス粉末を使用するのが適当である。また、使用するガラス粉末としては、その比表面積が概ね0.5〜50m/gであるものが好ましく、平均粒径が2μm以下(特に1μm程度又はそれ以下)のものが特に好適である。
【0034】
また、本発明の導体ペーストには、当該ペースト本来のワイヤボンディング性、半田濡れ性、半田耐熱性、半田耐候性等を著しく損なわない限りにおいて種々の有機添加剤を副成分として含ませることができる。例えば、かかる有機添加剤としては、各種の有機バインダ、無機基材(例えば結晶質セラミック基材)との密着性向上を目的としたシリコン系、チタネート系及びアルミニウム系等の各種カップリング剤等が挙げられる。
有機バインダとしては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、セルロース系高分子、ポリビニルアルコール等をベースとするものが挙げられる。本発明の導体ペーストに良好な粘性及び塗膜(無機基材に対する付着膜)形成能を付与し得るものが好適である。また、本発明の導体ペーストに光硬化性(光性)を付与したい場合には、種々の光重合性化合物及び光重合開始剤を適宜添加してもよい。上記の他にも本発明に係る導体ペーストには、必要に応じて界面活性剤、消泡剤、可塑剤、増粘剤、酸化防止剤、分散剤、重合禁止剤等を適宜添加することができる。これら添加剤は、従来の導体ペーストの調製に用いられ得るものであればよく、詳細な説明は省略する。
【0035】
次に、上記導体ペーストを塗布する基材について説明する。ここで開示される電子部品の製造方法に用いられる無機基材としては、結晶質セラミック基材(以下、「セラミック基材」とする。)と、ガラス成分を主成分とする非晶質セラミック基材(以下、「ガラスセラミック基材」とする。)が挙げられる。
セラミック基材としては、主成分がアルミナ、ジルコニア等のセラミック材料から構成されるもの、若しくは一般式xBaO・yNd・zTiO(6≦x≦23、13≦y≦30、64≦z≦68、x+y+z=100)、該主成分に対して副成分としてCu酸化物をCuO換算で0.1〜3.0質量%、Zn酸化物をZnO換算で0.1〜4.0質量%、B酸化物をB換算で0.1〜3.0質量%の範囲で含有する誘電体磁器組成物が挙げられる。
【0036】
また、ガラスセラミック基材は、主成分としてのガラス成分とフィラー(アルミナ等のセラミック粉末)とを含むグリーンシートを焼成することで形成される基材である。ガラス成分としては、典型的には、酸化ケイ素、酸化ストロンチウム、酸化カルシウム及び酸化アルミニウム(アルミナ)等が挙げられる。これらのうち一種又は二種以上のガラス成分を含むのが適当である。また、フィラーとしては、比誘電率が30以下のコージライト、ムライト、ステアタイト及びフォルステライト等を用いることができる。ここで、ガラス成分とフィラーとの質量比は60:40〜80:20(例えば70:30)であることが好ましい。ガラス成分が上記範囲を外れると複合組成物となり難く、強度及び焼結性が低下するからである。
グリーンシートは、典型的には、ガラス成分とフィラー(例えばアルミナ)とバインダとを有機溶剤とともに混合してスラリー状の誘電体ペーストを調製し、これを例えばポリエチレンテレフタレート(PET)シート等の支持体上にドクターブレード法等によって成膜することにより形成される。バインダは、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。例えば、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等が挙げられる。また、有機溶剤も従来公知のものを特に制限なく使用することができる。例えば、ターピネオール、ブチルカルビトール、アセトン及びトルエン等が挙げられる。
【0037】
次に、本発明の電子部品の製造方法について説明する。
まず、Ag系金属粉末の表面への有機系金属化合物又はその金属酸化物のコーティング方法、すなわち所定の有機系金属化合物でコーティングされた金属粉末の製造方法について説明する。
本発明の実施に用いられる金属粉末は、その主体たるAg系金属粉末の表面に満遍なくほぼ均等に有機系金属化合物又はその金属酸化物がコーティングされるのが好ましいが、そのコーティング方法に特に制限はない。例えば、従来知られている金属粒子への有機物コーティング方法をそのまま適用することができる。一例を挙げると、先ず、トルエン、キシレン、各種アルコール等の適当な有機溶剤に所望の有機系金属化合物を溶解若しくは分散する。次いで、得られた溶液若しくは分散液(ゾル)にAg系金属粉末を添加し、分散・懸濁する。この懸濁液を所定時間静置又は撹拌することによって、当該懸濁液中のAg系金属粉末の表面を目的の有機系金属化合物でコーティングすることができる。このとき、特に限定するものではないが、好ましくは有機系金属化合物又はその金属酸化物のコーティング量が酸化物換算でAg系金属粉末100質量部に対して0.02〜0.1質量部(例えば0.025〜0.1質量部)に相当する量となるように所望する有機系金属化合物若しくは金属酸化物をAg系金属粉末にコーティングする。かかるコーティング量が酸化物換算でAg系金属粉末100質量部に対して0.02質量部に相当する量よりも少なすぎる場合には、コーティングの効果が希薄であり、本発明に関する上記目的を達成し難い。他方、かかるコーティング量が酸化物換算でAg系金属粉末100質量部に対して0.1質量部に相当する量よりも過剰に多い場合には、Ag系金属粉末本来の電気的特性等の諸機能が損なわれる虞があるため好ましくない。
【0038】
次に、本発明に係る導体ペーストの調製について説明する。この導体ペーストは、上述したように有機系金属化合物又はその金属酸化物でコーティングされたAg系金属粉末(典型的にはAg単体)と有機媒質(ビヒクル)を混和することによって容易に調製することができる。このとき、必要に応じて上述したような添加剤(添加物)を添加・混合するとよい。例えば、三本ロールミルその他の混練機を用いて、Ag系金属粉末及び各種添加剤(添加物)を有機ビヒクルとともに所定の配合比で直接混合し、相互に練り合わせる。
【0039】
特に限定するものではないが、好ましくは、一種又は二種以上の有機系金属化合物又はその金属酸化物でコーティングされたAg系金属粉末の含有率がペースト全体の60〜95質量%となるように各材料を混練するのがよく、70〜90質量%となるように混錬するのが特に好ましい。
ペースト調製に用いられる有機ビヒクルの添加量は、ペースト全体のほぼ1〜40質量%となる量が適当であり、1〜20質量%となる量が特に好ましい。
また、添加物として上述の無機酸化物粉末を加える場合には、Ag系金属粉末100質量部に対して0.5〜5質量部程度の使用が好ましい。より好ましくは0.5〜3質量部程度である。さらに好ましくは1〜2質量部程度である。かかる低率の添加量によると、本発明に係る導体ペーストの良好な導電率や半田濡れ性を実質的に損なうことなく、本発明のペーストから得られる焼成物(導体膜)の無機基材に対する接着強度の向上及び焼成収縮の抑制、さらにはワイヤボンディング性及び半田耐熱性の向上を実現することができる。なお、特に限定するものではないが、無機基材としてセラミック基材を用いる場合には、導体ペーストに無機酸化物粉末を加えるのが好ましい。
他方、添加物として上述のガラス粉末を加える場合には、Ag系金属粉末100質量部に対して0.05〜0.5質量部程度の使用が好ましい。より好ましくは0.1〜0.3質量部程度である。さらに好ましくは0.1〜0.2質量部程度である。かかる低率の添加量によると、本発明に係る導体ペーストの良好な導電率や半田濡れ性を実質的に損なうことなく、本発明のペーストから得られる焼成物(導体膜)の無機基材に対する接着強度の向上、さらにはワイヤボンディング性及び半田耐熱性の向上を実現することができる。なお、特に限定するものではないが、無機基材としてガラスセラミック基材(グリーンシート)を用いる場合には、導体ペーストにガラス粉末を加えるのが好ましい。
特に限定するものではないが、Ag系金属粉末として平均粒径が3.0〜6.0μmである金属粉末を使用し、且つ添加物として無機酸化物粉末及び/又は酸化物ガラス粉末を含む導体ペーストを好ましい用いることができる。
【0040】
次に、上記調製した導体ペースト(ワイヤボンディング部形成用導体ペースト)を無機基材に塗布するが、該導体ペーストは、無機基材上に配線、電極等の導体膜を形成するのに従来用いられてきた導体ペーストと同様に取り扱うことができ、従来公知の方法を特に制限なく採用することができる。典型的には、スクリーン印刷法やディスペンサー塗布法等によって、所望する形状・厚みとなるようにして導体ペーストを無機基材に塗布する。次いで、好ましくは乾燥後、加熱器中で適当な加熱条件(典型的には最高焼成温度が概ね500〜960℃、好ましくはAgの融点を超えない温度域、例えば700〜960℃特には800〜900℃)で所定時間加熱することによって、塗布したペーストを焼成(焼き付け)し、硬化させる。この一連の処理を行うことによって、目的の導体膜(配線、電極等)が形成される。
なお、特に限定するものではないが、無機基材としてセラミック基材を用いる場合には、予めセラミック基材の焼成処理を行い、焼成後のセラミック基材上に導体ペーストを塗布して、該導体ペーストを焼成する処理(後焼き)を行うことが好ましい。これにより、セラミック基材上に目的の導体膜が形成される。
一方、無機基材としてガラスセラミック基材を用いる場合には、グリーンシート上に導体ペーストを塗布して、グリーンシートと導体ペーストとを焼成処理(同時焼成)することが好ましい。これにより、グリーンシートが焼成されて形成されたガラスセラミック基材上に目的の導体膜が形成される。
【0041】
次いで、無機基材上に半導体チップ等を実装する(例えばリフロー方式により半田実装する)。実装された半導体チップ(典型的には半導体チップ上のアルミ電極(ボンディングパッド))と基材上に形成された導体膜(典型的には配線、電極)とをボンディングワイヤを用いて従来と同様の方法(即ちワイヤボンディング)で電気的及び機械的に接続することで、電子部品(例えばハイブリッドICやマルチチップモジュール)が得られる。
本発明の導体ペーストにより形成された導体膜は、従来のように導体膜表面をめっき処理することなく、半導体素子等と導体膜とをボンディングワイヤによって直接接続することができる。さらに導体膜とボンディングワイヤの接続部分(ワイヤボンディング部)において十分な接続強度(ワイヤボンディング性)を備えている。
ボンディングワイヤは、ワイヤボンディングする際に用いられる従来と同様のものを使用することができる。例えば、金、アルミニウム及び銅のうちのいずれかの金属元素を主構成要素とする金属製のワイヤが挙げられる。
なお、本発明に係る導体ペーストにより形成された導体膜は、半田耐熱性および半田耐候性に優れていることから、種々の半導体素子等を導体膜上に半田によって搭載する場合に好適に用いることができる。
【0042】
本発明に係る電子部品の好適例を図1に示す。図1は、一実施形態に係る一実施形態に係る電子部品の外観を模式的に示す斜視図である。図1に示すように、本実施形態に係る電子部品10は、ガラスセラミック基材(無機基材)20と、基材20の表面に形成された導体膜30と、該導体膜30の一部にボンディングされたボンディングワイヤ50とを備えている。より詳細には、ガラスセラミック基材20は、所定のパターンからなる導体膜(内部導体膜)が形成された複数のガラスセラミック基材が積層された多層ガラスセラミック基板である。また、複数の層に亘って回路を縦方向に接続するため必要なビアホール導体膜(図示せず)を形成する。
セラミック基材20の表面に所定パターンの導体膜30(典型的には配線、電極)が形成されており、該導体膜30の一部に半導体素子60,65がリフロー方式によりそれぞれ半田実装されている。そして、半導体素子60に形成された複数のボンディングパッド(典型的にはアルミ電極)70と、導体膜30とが、ボンディングワイヤ50によって機械的及び電気的にそれぞれ接続されている。同様に、半導体素子65のボンディングパッド75と導体膜30とがボンディングワイヤ55によって接続されている。本発明に係る電子部品では、導体膜30とボンディングワイヤ50,55とが接続した部分、即ちワイヤボンディング部40,45において、十分な機械的接続強度(ワイヤボンディング性)での接続が実現されている。
【0043】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0044】
<例1>
本例では、金属粉末のベースとして、一般的な湿式法により調製された平均粒径が0.7μmの略球状のAg粉末を使用した。一方、該Ag粉末をコーティングする材料として、ジルコニウムアルコキシド(ここではジルコニウムブトキシド)を用いた。而して、適当な有機溶媒(ここではメタノール)に上記金属アルコキシドを添加し、濃度5〜100g/lのコーティング用溶液を調製した。次いで、かかる溶液中に上記Ag粉末を適当量懸濁させ、適宜撹拌しつつ1〜3時間懸濁状態を維持した。その後、Ag粉末を回収し、60〜110℃で通風乾燥した。
以上の処理によって、酸化ジルコニウム(ZrO)換算でAg粉末100質量部に対して0.05質量部となる量の上記ジルコニウムアルコキシドによって表面がほぼ均等にコーディングされたAg粉末(以下「ZrコーティングAg粉末」)という。)を得た。
次に、上記得られたZrコーティングAg粉末を使用して導体ペーストを調製した。すなわち、最終的なペースト濃度(重量比)がZrコーティングAg粉末87wt%および残部がビヒクル(ここではターピネオールとエチルセルロース)となるように使用材料を秤量し、三本ロールミルを用いて混錬した。これにより、例1に係る導体ペーストを調製した。
【0045】
次に、例1に係る導体ペーストを用いて、セラミック基材(ここでは厚みが約0.8mmのセラミック製(アンテナモジュール)基板)の表面に導体膜を形成した。すなわち、予め上記セラミック基材を電気炉中で900℃、1時間の焼成処理を行った後、一般的なスクリーン印刷法に基づいて上記焼成処理が施されたセラミック基材の表面に導体ペーストを塗布し、所定の膜厚の塗膜を形成した。続いて、遠赤外線乾燥機を用いて100℃で15分間の乾燥処理を施した。この乾燥処理により、上記塗膜から溶剤が揮発していき、セラミック基材上に未焼成の導体膜が形成された。
【0046】
次に、この導体膜をセラミック基材ごと焼成した(後焼き)。すなわち、電気炉中で800℃の温度、45分間の焼成処理を行った。この焼成処理によって、図2に示すように、焼成膜厚み12μmの導体膜をセラミック基材上に焼き付けた。以下、単に導体膜というときは当該焼成後の導体膜を指す。
【0047】
次に、ワイヤボンディング装置(HW27U−HF;九州松下製)を用いて、図2に示すように、上記導体膜の一部にボンディングワイヤを接続(ボンディング)した。ワイヤボンディング条件を以下に示す。
<ワイヤボンディング条件>
ボンディングワイヤ:99.99%Au、直径25μm(GMH2;田中電子工業製)
キャピラリー:1551−W3−BNIA(GAISER製)
超音波出力時間(1st,2nd):25ms,30ms
超音波出力(1st,2nd):65bit,75bit
ボンド荷重(1st,2nd):55g,70g
ワイヤボンディング温度:100℃
このワイヤボンディングにより、セラミック基材に焼き付けられた導体膜の一部にボンディングされたボンディングワイヤを備える例1に係る電子部品を作製した。
【0048】
<例2>
電気炉中で850℃、45分間の焼成処理(後焼き)を行った他は例1と同様にして、例2に係る電子部品を作製した。
【0049】
<例3>
電気炉中で900℃、45分間の焼成処理(後焼き)を行い、焼成膜厚み12μmの導体膜をセラミック基材上に焼き付けた。その他の点については例1と同様にして、例3に係る電子部品を作製した。
【0050】
<例4>
平均粒径が2.0μmの略球状のAg粉末を使用した。そして、例1と同様の処理を行い、ZrO換算でAg粉末100質量部に対して0.1質量部となる量のジルコニウムアルコキシドによって表面がほぼ均等にコーティングされたAg粉末を得た。
最終的なペースト濃度(重量比)がZrコーティングAg粉末87wt%および残部がビヒクル(ここではターピネオールとエチルセルロース)となるように使用材料を秤量し、さらにAg粉末100質量部に対して0.5質量部となる量の酸化ビスマス(Bi)と、Ag粉末100質量部に対して0.5質量部となる量の酸化銅(CuO)とを加え、三本ロールミルを用いて混錬した。これにより、例4に係る導体ペーストを調製した。
例4に係る導体ペーストを用いて、電気炉中で850℃、45分間の焼成処理(後焼き)を行い、焼成膜厚み13μmの導体膜をセラミック基材上に焼き付けた。その他の点については例1と同様にして、例4に係る電子部品を作製した。
【0051】
<例5>
平均粒径が2.5μmの略球状のAg粉末を使用した。そして、例1と同様の処理を行い、ZrO換算でAg粉末100質量部に対して0.05質量部となる量のジルコニウムアルコキシドによって表面がほぼ均等にコーティングされたAg粉末を得た。
最終的なペースト濃度(重量比)がZrコーティングAg粉末87wt%おび残部がビヒクル(ここではターピネオールとエチルセルロース)となるように使用材料を秤量し、さらにAg粉末100質量部に対して0.1質量部となる量の酸化物ガラス粉末(SiOとZnOとBとBaOとを含むSi−Zn−RO系ガラス)を加え、三本ロールミルを用いて混錬した。これにより、例5に係る導体ペーストを調製した。
【0052】
次に、例5に係る導体ペーストを用いて、グリーンシートの表面に導体膜を形成した。すなわち、一般的なスクリーン印刷法に基づいてグリーンシートの表面に導体ペーストを塗布し、所定の膜厚の塗膜を形成した。続いて、遠赤外線乾燥機を用いて100℃で15分間の乾燥処理を施した。本例で使用したグリーンシートは以下のように形成した。即ち、酸化ストロンチウム、酸化カルシウム、アルミナ及び酸化ケイ素を主成分とするガラスと、フィラーとしてアルミナのセラミック粉末とを質量比が70:30となるように秤量し、エチルセルロース及びターピネオールとともに混合してスラリー状の誘電体ペーストを調製し、ドクターブレード法により該ペーストを厚みが40μmとなるようにPET上に塗布して形成した。
次に、この導体膜をグリーンシートごと焼成した(同時焼成)。すなわち、電気炉中で900℃、1時間の焼成処理を行った。この焼成処理によって、グリーンシートが焼結されてガラスセラミック基材が形成され、導体膜を該ガラスセラミック基材上に焼き付けた。このときの焼成膜厚みは13μmであった。次に、該ガラスセラミック基材に形成された導体膜の一部に例1と同様の条件でワイヤボンディングを行い、例5に係る電子部品を作製した。
【0053】
<例6>
ZrO換算でAg粉末100質量部に対して0.025質量部となる量のジルコニウムアルコキシドによって表面がほぼ均等にコーティングされたAg粉末を用いた。その他の点については例5と同様にして、例6に係る電子部品を作製した。
【0054】
<例7>
平均粒径が0.4μmの略球状のAg粉末を使用した。そして、例1と同様の処理を行い、ZrO換算でAg粉末100質量部に対して0.1質量部となる量のジルコニウムアルコキシドによって表面がほぼ均等にコーティングされたAg粉末を得た。
最終的なペースト濃度(重量比)がZrコーティングAg粉末87wt%および残部がビヒクル(ここではターピネオールとエチルセルロース)となるように使用材料を秤量し、さらにAg粉末100質量部に対して0.2質量部となる量の酸化物ガラス粉末(SiOとZnOとBとBaOとを含むSi−Zn−RO系ガラス)を加え、三本ロールミルを用いて混錬した。これにより、例7に係る導体ペーストを調製した。
例7に係る導体ペーストを用いて、電気炉中で850℃、1時間の焼成処理(同時焼成)を行い、焼成膜厚み15μmの導体膜をガラスセラミック基材上に焼き付けた。その他の点については例3と同様にして、例7に係る電子部品を作製した。
【0055】
<例8>
ペースト調製において酸化物ガラス粉末を添加しなかった点以外は、例7と同様にして、例8に係る導体ペーストを調製した。
例8に係る導体ペーストを用いて、電気炉中で850℃、45分間の焼成処理(後焼き)を行い、焼成膜厚み15μmの導体膜をセラミック基材上に焼き付けた。その他の点については例1と同様にして、例8に係る電子部品を作製した。
【0056】
<例9>
無機酸化物として酸化ビスマス(Bi)と酸化銅(CuO)を含有するペーストを調製した。Ag粉末100質量部に対して0.5質量部となる量の酸化ビスマスと、Ag粉末100質量部に対して0.5質量部となる量の酸化銅を用いた。その他の点については、例8と同様にして、例9に係る導体ペーストを調製した。
例9に係る導体ペーストを用いた。その他の点については例8と同様にして、例9に係る電子部品を作製した。
【0057】
<例10>
平均粒径が3.5μmの略球状のAg粉末を使用した。そして、例1と同様の処理を行い、ZrO換算でAg粉末100質量部に対して0.1質量部となる量のジルコニウムアルコキシドによって表面がほぼ均等にコーティングされたAg粉末を得た。
最終的なペースト濃度(重量比)がZrコーティングAg粉末87wt%おび残部がビヒクル(ターピネオールとエチルセルロース)となるように使用材料を秤量し、三本ロールミルを用いて混錬した。これにより、例10に係る導体ペーストを調製した。
次に、例10に係る導体ペーストおよび例1と同様のセラミック基材を用いて、該セラミック基材の表面に導体膜を形成した。すなわち、一般的なスクリーン印刷法に基づいてセラミック基材の表面に導体ペーストを塗布し、所定の膜厚の塗膜を形成した。続いて、遠赤外線乾燥機を用いて100℃で15分間の乾燥処理を施した。
次に、この導体膜をセラミック基材ごと焼成した(同時焼成)。すなわち、電気炉中で850℃〜900℃、1時間の焼成処理を行った。この焼成処理によって、焼成膜厚み14μmの導体膜をセラミック基材上に焼き付けた。その他の点については例1と同様にして、例10に係る電子部品を作製した。
【0058】
<例11>
無機酸化物として酸化ビスマス(Bi)と酸化銅(CuO)を含有するペーストを調製した。Ag粉末100質量部に対して0.5質量部となる量の酸化ビスマスと、Ag粉末100質量部に対して0.5質量部となる量の酸化銅とを使用(添加)した。その他の点については、例10と同様にして、例11に係る電子部品を作製した。
【0059】
<例12>
平均粒径が6.0μmの略球状のAg粉末を使用した。そして、例1と同様の処理を行い、ZrO換算でAg粉末100質量部に対して0.05質量部となる量のジルコニウムアルコキシドによって表面がほぼ均等にコーティングされたAg粉末を得た。その他の点については、例11と同様にして、例12に係る導体ペーストを調製した。
例12に係る導体ペーストを用いて、電気炉中で900℃、1時間の焼成処理(同時焼成)を行い、焼成膜厚み13μmの導体膜をセラミック基材上に焼き付けた。その他の点については例11と同様にして、例12に係る電子部品を作製した。
【0060】
<例13>
本例では、金属粉末のベースとして、平均粒径が2.0μmの略球状のAg粉末を使用した。有機系金属化合物によるコーティングは行っていない。すなわち、かかる非コーティングAg粉末をそのまま用いて最終的なペースト濃度(重量比)が当該Ag粉末87wt%および残部がビヒクル(ターピネオールとエチルセルロース)となるようにこれら材料を秤量し、三本ロールミルを用いて混錬した。これにより、例12に係る導体ペーストを調製した。
次に、例13に係る導体ペースト及び例5に係るグリーンシートを用いて、グリーンシート(ガラスセラミック基材)の表面に導体膜を形成した。すなわち、予め上記グリーンシートを電気炉中で900℃、1時間の焼成処理を行った後、一般的なスクリーン印刷法に基づいて上記焼成処理によってグリーンシートが焼結されて形成されたガラスセラミック基材の表面に導体ペーストを塗布し、所定の膜厚の塗膜を形成した。
次に、この導体膜をガラスセラミック基材ごと焼成した(後焼き)。すなわち、電気炉中で850℃の温度で45分間の焼成処理を行った。この焼成処理によって、焼成膜厚み12μmの導体膜をガラスセラミック基材上に焼き付けた。その他の点については例1と同様にして、例13に係る電子部品を作製した。
【0061】
<例14>
例13と同様にして、導体膜をガラスセラミック基材上に焼き付けた。次に、該導体膜の表面に無電解Ni/Auめっきを施した(めっき厚さ0.5μm)。次に、めっきが施された導体膜の一部にボンディングワイヤを例1と同様の条件で接続し、例14に係る電子部品を作製した。
【0062】
<例15>
酸化物ガラス粉末として(SiOとZnOとBとBaOとを含むSi−Zn−RO系ガラス)を含有するペーストを調製した。Ag粉末100質量部に対して2.0質量部となる量の上記酸化物ガラス粉末を使用(添加)した。その他の点については、例13と同様にして、例15に係る導体ペーストを調製した。
例15に係る導体ペーストを用いて、焼成膜厚み11μmの導体膜をガラスセラミック基材上に焼き付けた。その他の点については例13と同様にして、例15に係る電子部品を作製した。
【0063】
<例16>
平均粒径が0.2μmの略球状のAg粉末を使用した。そして、例1と同様の処理を行い、ZrO換算でAg粉末100質量部に対して0.1質量部となる量のジルコニウムアルコキシドによって表面がほぼ均等にコーティングされたAg粉末を得た。
最終的なペースト濃度(重量比)がZrコーティングAg粉末87wt%および残部がビヒクル(ターピネオールとエチルセルロース)となるように使用材料を秤量し、三本ロールミルを用いて混錬した。これにより、例16に係る導体ペーストを調製した。
例16に係る導体ペーストを用いて、電気炉中で850℃〜900℃、45分間の焼成処理(後焼き)を行い、焼成膜厚み14μmの導体膜をガラスセラミック基材上に焼き付けた。その他の点については例13と同様にして、例16に係る電子部品を作製した。
【0064】
<例17>
平均粒径が0.4μmの略球状のAg粉末を使用した。そして、例1と同様の処理を行い、ZrO換算でAg粉末100質量部に対して0.01質量部となる量のジルコニウムアルコキシドによって表面がほぼ均等にコーティングされたAg粉末を得た。
最終的なペースト濃度(重量比)がZrコーティングAg粉末87wt%および残部がビヒクル(ターピネオールとエチルセルロース)となるように使用材料を秤量し、三本ロールミルを用いて混錬した。これにより、例17に係る導体ペーストを調製した。
例17に係る導体ペーストを用いて、電気炉中で850℃〜900℃、1時間の焼成処理(同時焼成)を行い、焼成膜厚み14μmの導体膜をガラスセラミック基材上に焼き付けた。その他の点については例5と同様にして、例17に係る電子部品を作製した。
【0065】
<例18>
ZrO換算でAg粉末100質量部に対して0.25質量部となる量のジルコニウムアルコキシドによって表面がほぼ均等にコーティングされたAg粉末を得た。その他の点については例17と同様にして、例18に係る電子部品を作製した。
【0066】
<例19>
平均粒径が8.0μmの略球状のAg粉末を使用した。そして、例1と同様の処理を行い、ZrO換算でAg粉末100質量部に対して0.05質量部となる量のジルコニウムアルコキシドによって表面がほぼ均等にコーティングされたAg粉末を得た。
最終的なペースト濃度(重量比)がZrコーティングAg粉末87wt%および残部がビヒクル(ターピネオールとエチルセルロース)となるように使用材料を秤量し、さらにAg粉末100質量部に対して0.5質量部となる量の酸化ビスマス(Bi)と、Ag粉末100質量部に対して0.5質量部となる量の酸化銅(CuO)とを加え、三本ロールミルを用いて混錬した。これにより、例19に係る導体ペーストを調製した。
例19に係る導体ペーストを用いて、電気炉中で900℃、1時間の焼成処理(同時焼成)を行い、焼成膜厚み13μmの導体膜をガラスセラミック基材上に焼き付けた。その他の点については例5と同様にして、例19に係る電子部品を作製した。
なお、上述の例におけるAg粉末平均粒径、有機系金属化合物(即ちジルコニウムアルコキシド)のコーティング量、添加物の種類及びその添加量、Ni/Auめっきの有無、焼成膜厚み、焼成温度、無機基材及び焼成方法を、以下の表1〜5に欄を設けて示している。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
次に、得られた各例に係る電子部品の特性評価として、ワイヤボンディング性(即ち、初期引張強度およびプレッシャークッカーテスト(PCT)後引張強度)、半田耐熱性および半田耐候性(はんだ付け性)を以下のように試験・測定した。これら特性評価試験の結果は、電子部品ごとに表1〜表5の対応する欄に示している。
【0073】
[ワイヤボンディング性評価]
上記各例に係る電子部品につき、ワイヤボンディング性を評価した。
(1)初期引張強度測定試験
図3に示すように、上記各例に係る電子部品100の無機基材(セラミック基材或いはガラスセラミック基材)110上の導体膜120に接続されているボンディングワイヤ130を、ボンディングテスタ200(ここでは株式会社RHESCA製の型式PTR−1000を用いた。)にて、鉛直方向上側に0.5mm/secの速度で矢印Xの方向に引っ張り上げて、ボンディングワイヤが破断したときの初期引張強度(g)を測定した。ここで初期引張強度とは、導体膜にボンディングワイヤを接続した直後のボンディングワイヤの引張強度をいう。
(2)PCT後引張強度測定試験
上記各例に係る電子部品に対して、温度121℃、湿度98%RH、圧力2atm、60時間の条件下でそれぞれプレッシャークッカーテスト(PCT)を行った。そして、PCT後の各例に係る電子部品のボンディングワイヤに対して、上記(1)の測定試験と同じ条件下でPCT後引張強度(g)を測定した。
初期引張強度及びPCT後引張強度のいずれもが6(g)以上の場合には、ワイヤボンディング性が優れていると判断して表中において◎で示した。また、初期引張強度及びPCT後引張強度のいずれか一方が6(g)以上の場合には、ワイヤボンディング性があると判断して表中において○で示した。他方、初期引張強度及びPCT後引張強度のいずれもが6(g)より小さい場合にはワイヤボンディング性が劣ると判断して表中において×で示した。
【0074】
[半田耐熱性評価試験]
上記例1〜例19に係る導体ペーストを、それぞれ各例に係る無機基材からなるテストピース45mm×32mm×0.8mmの直方体形状)の表面に、幅0.2mmで導体ペーストを塗布して、各例に係る電子部品を製造するときと同様の条件で導体ペーストの焼成処理を行い、導体膜をテストピース上に焼き付けた。そして、各例に係るテストピースの導体膜部分にロジンフラックスを塗布した後、当該テストピースを260℃の溶融状態の半田(Sn/Pb=60/40(重量比))に10秒間浸漬した。
而して、浸漬後に「半田くわれ」されなかった部分、即ち浸漬前と比較して浸漬後に基材(基板)上に残存している導体膜の面積比率で半田耐熱性を評価した。図4〜図6は、それぞれ、例4、例1、例13に係る導体膜の上記半田耐熱性評価試験後の状態を示す写真である(他の例についての写真は掲示していない)。半田くわれがないもの(即ち、導体膜が半田中に溶解していないもの)は優れた半田耐熱性を示すものと判断し、表中において◎で示した。また、半田くわれが発生しているが、導体膜の略90%以上が残存しているものは良好な半田耐熱性を示すものと判断し、表中において○で示した。他方、導体膜の残存している部分が浸漬前の90未満のものは半田耐熱性が比較的劣っているものと判断し、表中において×で示した。なお、上記試験後の他の例に係るテストピースにおいて、図4と同様なものは◎とし、図5と同様なものは○とし、図6と同様なものは×として表中に示した。)
【0075】
[半田耐候性評価試験]
上記例1〜例19に係る導体ペーストを、それぞれ各例に係る無機基材からなるテストピース45mm×32mm×0.8mmの直方体形状)の表面に、幅0.2mmで導体ペーストを塗布して、各例に係る電子部品を製造するときと同様の条件で導体ペーストの焼成処理を行い、導体膜をテストピース上に焼き付けた。そして、各例に係るテストピースに対して、温度121℃、湿度98%RH、圧力2atm、60時間の条件下でそれぞれプレッシャークッカーテスト(PCT)を行った。そして、上記各例に係るテストピースに形成されたそれぞれの導体膜について、25%ロジンフラックスに浸漬させて導体膜形成部分にロジンフラックスを塗布した後、共晶半田(Sn/Pb=60/40(重量比))に所定時間浸漬させた。ここでは、半田温度条件及び浸漬時間を235±5℃×2±0.5秒とした。
而して、浸漬後に導体膜表面を覆っている半田の面積比率で半田耐候性を評価した。半田の剥れがないものは優れた半田耐候性を示すものと判断し、表中において◎で示した。また、半田の一部は剥れているが、導体膜の略95%以上が半田で覆われているものは良好な半田耐候性を示すものと判断し、表中において○で示した。他方、導体膜の90%未満しか半田に覆われていないものは半田耐候性が比較的劣っているものと判断し、表中において×で示した。
【0076】
ワイヤボンディング性評価試験から明らかなように、本発明の導体ペースト、即ちAg金属粉末の平均粒径が0.3〜6.0μmであって該Ag金属粉末100質量部に対してZrの酸化物換算で0.02〜0.1質量部に相当する量を含むペーストから形成された導体膜は、初期引張強度及びPCT後引張強度に優れておりワイヤボンディング性に優れることが確認できた(例1〜例12)。また、添加物を加えた各例の結果から、適当量の酸化物ガラス粉末または無機酸化物粉末を導体ペーストに加えることによって、ワイヤボンディング性が向上していることが確認できた(例えば例10と例11、例8と例7及び例9)。なお、例14の電子部品では、導体膜(ワイヤボンディング部)をめっきすることによって、初期引張強度は優れていることが確認できたが、PCT後引張強度に関しては強度が劣っており不十分であることが確認できた。
【0077】
また、半田耐熱性評価試験から明らかなように、本発明のワイヤボンディング部形成用導体ペーストにより形成された導体膜は、他の特性として良好な半田耐熱性を備えていることが確認できた(例1〜例12。特に添加物を加えた例では、より半田耐熱性に優れていることが確認できた(例4〜7、例9、例11及び例12)。従って、上記導体ペーストを用いて形成された導体膜に半導体素子等を実装する場合、導体膜の表面にめっき処理を施すことなく、導体膜に半導体素子等を半田実装することができる。
また、半田耐候性評価試験から明らかなように、本発明のワイヤボンディング部形成用導体ペーストにより形成された導体膜は、他の特性として良好な半田耐候性を備えていることが確認できた(例1〜例12)。従って、上記導体ペーストを用いて形成された導体膜に半導体素子等を直接半田実装した電子部品は、長期間の使用に対しても半導体素子等が導体膜から剥がれ落ちにくいという性質をもつと考えられる。
このように、本発明の導体膜形成用材料(導体ペースト)を用いて導体膜を基板上に形成することによって、基板(無機基材)上に半田付けを用いて搭載する電子部品と、ワイヤボンディングを用いて搭載する電子部品とのそれぞれに対して、同一の導体膜形成用材料での電子部品の搭載が可能となる。
【符号の説明】
【0078】
10 電子部品
20 ガラスセラミック基材(無機基材)
30 導体膜
40,45 ワイヤボンディング部
50,55 ボンディングワイヤ
60,65 半導体素子
70,75 ボンディングパッド
100 電子部品
110 無機基材
120 導体膜
130 ボンディングワイヤ
200 ボンディングテスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機基材と、該基材の表面に形成された導体膜と、該導体膜の一部にボンディングされたボンディングワイヤとを備える、少なくとも一部にワイヤボンディング部が形成された電子部品であって、
前記導体膜のうちの少なくとも前記ワイヤボンディング部を形成する部分は、Ag又はAg主体の合金から成るAg系金属と、該Ag系金属をコーティングするAl,Zr,Ti,Y,Ca,Mg及びZnから成る群から選択されるいずれかを構成要素とする金属酸化物とを含み、
前記金属酸化物のコーティング量は、前記Ag系金属100質量部に対して0.02〜0.1質量部に相当する量である、ワイヤボンディング部付き電子部品。
【請求項2】
前記導体膜のうちの少なくとも前記ワイヤボンディング部を形成する部分は、添加物として無機酸化物及び/又は酸化物ガラスをさらに含んでいる、請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
前記無機基材は、結晶質セラミック基材であり、
前記導体膜のうちの少なくとも前記ワイヤボンディング部を形成する部分は、前記添加物として無機酸化物を含んでいる、請求項2に記載の電子部品。
【請求項4】
前記無機基材は、ガラス成分を主成分とする非晶質セラミック基材であり、
前記導体膜のうちの少なくとも前記ワイヤボンディング部を形成する部分は、前記添加物として酸化物ガラスを含んでいる、請求項2に記載の電子部品。
【請求項5】
前記無機酸化物は、酸化ビスマスと酸化銅との混合物であって、該混合物の添加量は、前記Ag系金属100質量部に対して0.5〜5質量部に相当する量である、請求項2または3に記載の電子部品。
【請求項6】
前記酸化物ガラスの添加量は、前記Ag系金属100質量部に対して0.05〜0.5質量部に相当する量である、請求項2または4に記載の電子部品。
【請求項7】
前記ボンディングワイヤは、金、アルミニウム及び銅のうちのいずれかの金属元素を主構成要素とする金属製である請求項1から6のいずれか一項に記載の電子部品。
【請求項8】
無機基材と、該基材の表面に形成された導体膜と、該導体膜の一部にボンディングされたボンディングワイヤとを備える、少なくとも一部にワイヤボンディング部が形成された電子部品における少なくともワイヤボンディング部を有する導体膜を形成する用途に用いるための導体ペーストであって、
前記導体ペーストは、Ag又はAg主体の合金から成る平均粒径が0.3〜6.0μmのAg系金属粉末と、該Ag系金属粉末の表面をコーティングするAl,Zr,Ti,Y,Ca,Mg及びZnから成る群から選択されるいずれかを構成要素とする有機系金属化合物若しくは金属酸化物とを含んでおり、
前記有機系金属化合物若しくは前記金属酸化物のコーティング量は、前記Ag系金属粉末100質量部に対して金属酸化物換算で0.02〜0.1質量部に相当する量である、ワイヤボンディング部形成用導体ペースト。
【請求項9】
添加物として無機酸化物粉末及び/又は酸化物ガラス粉末をさらに含んでいる、請求項8に記載の導体ペースト。
【請求項10】
前記Ag系金属粉末の平均粒径が3.0〜6.0μmのときは、添加物として無機酸化物粉末及び/又は酸化物ガラス粉末をさらに含んでいる、請求項9に記載の導体ペースト。
【請求項11】
前記無機酸化物粉末は酸化ビスマスと酸化銅との混合物であって、該混合物の添加量は、前記Ag系金属粉末100質量部に対して0.5〜5質量部に相当する量である、請求項9または10に記載の導体ペースト。
【請求項12】
前記酸化物ガラス粉末の添加量は、前記Ag系金属粉末100質量部に対して0.05〜0.5質量部に相当する量である、請求項9または10に記載の導体ペースト。
【請求項13】
無機基材と、該基材の表面に形成された導体膜と、該導体膜の一部にボンディングされたボンディングワイヤとを備える、少なくとも一部にワイヤボンディング部が形成された電子部品を製造する方法であって、
(1)以下の成分:
Ag又はAg主体の合金から成る平均粒径が0.3〜6.0μmのAg系金属粉末;および、
前記Ag系金属粉末の表面をコーティングするAl,Zr,Ti,Y,Ca,Mg及びZnから成る群から選択されるいずれかを構成要素とする有機系金属化合物若しくは金属酸化物;
ここで、前記有機系金属化合物若しくは前記金属酸化物のコーティング量は、前記Ag系金属粉末100質量部に対し金属酸化物換算で0.02〜0.1質量部に相当する量である;
を有するワイヤボンディング部形成用導体ペーストを用意すること、
(2)前記導体ペーストを前記無機基材の表面に塗布して、該無機基材の表面に導体膜を形成すること、
(3)前記形成した導体膜の一部に前記ボンディングワイヤをボンディングすること、
を包含する、電子部品の製造方法。
【請求項14】
前記導体ペーストは、添加物として無機酸化物粉末及び/又は酸化物ガラス粉末をさらに含んでいる、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記Ag系金属粉末の平均粒径が3.0〜6.0μmのときは、前記導体ペーストは添加物として無機酸化物粉末及び/又は酸化物ガラス粉末をさらに含んでいる、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記無機基材が結晶質セラミック基材であって、前記導体ペーストは、前記添加物として無機酸化物粉末をさらに含んでいる、請求項14または15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記無機基材がガラス成分を主成分とする非晶質セラミック基材であって、
前記導体ペーストは、前記添加物として酸化物ガラス粉末をさらに含んでいる、請求項14または15に記載の製造方法。
【請求項18】
前記無機酸化物粉末は酸化ビスマスと酸化銅との混合物であって、該混合物の添加量は、前記Ag系金属粉末100質量部に対して0.5〜5質量部に相当する量である、請求項14から16のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項19】
前記酸化物ガラス粉末の添加量は、前記Ag系金属粉末100質量部に対して0.05〜0.5質量部に相当する量である、請求項14または15または17に記載の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−238799(P2011−238799A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109596(P2010−109596)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】