説明

電子部品焼成用セラミックセッター及びその製造方法

【課題】 軽量で優れた通気性を有し、セラミック多層基板に使用されるAg電極材が焼成時に付着することを防止できできる、電子部品焼成用のセラミックセッター及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 セラミック繊維とセラミック粒子を主成分とする電子部品焼成用のセラミックセッターであって、セラミック繊維がアルミナシリケート質繊維及び/又はアルミナ質繊維であり、セラミック粒子としてスピネル粒子又はスピネル粒子とマグネシア粒子を含み、嵩密度が370〜950kg/mであり、平均線熱膨張係数(室温〜1000℃)が6.3×10−6/K以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温焼成セラミック多層基板などの電子部品の焼成に用いるセラミック製のセッターに関するものであり、特に電子部品に使用される銀電極材の付着防止に有効であり、軽量で通気性に優れるセラミックセッターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路を搭載する実装基板では、製造コストを低減する目的で、銅(Cu)や銀(Ag)の電極を使用し、1000℃以下の低温で焼成が可能なセラミック多層基板の開発が行われている。このセラミック多層基板は、主にアルミナ(Al)やガラス成分からなるグリーンシートの表面に導体ペーストを印刷し、これを数枚積層してセッターに載せ、グリーンシート内の有機バインダーを加熱除去した後、焼成することにより製造されている。
【0003】
上記セラミック多層基板の製造においては、グリーンシートに含まれる有機バインダーを短時間で効率よく除去することが重要である。そのため、グリーンシートの焼成に用いるセッターとして、セラミック繊維とセラミック粒子を主成分とし、軽量で通気性に優れたセラミックセッターが開発されてきた。
【0004】
例えば、特開平11−240769号公報(特許文献1)には、アルミナ含有量が75重量%以上でシリカ含有量が25重量%未満となるようにセラミック繊維とアルミナ粒子又はジルコニア粒子などのセラミック粒子とを混合し、無機結合剤を加えて成形した後、1100℃以上で焼成することにより、通気性の良いセラミックセッターを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−240769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載されたような従来の軽量で通気性に優れたセラミックセッターは、セラミック多層基板に使用される電極材、特にAg電極材が付着しやすいという欠点があった。このAg電極材が付着したセッターを使用すると、焼成されたセラミック多層基板にAgが付着するので、製造歩留まりが低下してしまうという問題があった。また、セラミックセッターの平均線熱膨張係数が、例えば7×10−6/K(室温〜1000℃)以上と比較的大きため、熱サイクルに対して割れや亀裂などの損傷が発生しやすいという問題もあった。
【0007】
尚、Ag電極材の付着を防ぐためには、セラミックセッターの表面にAgの付着を妨げるコーティングを施すことも考えられるが、コーティングを設けるとセッター表面の気孔が塞がれ、通気性が損なわれると言う不都合が生じる。通気性が損なわれると、有機バインダーを短時間で効率よく除去することができなくなり、製品のセラミック多層基板に反りや変色などの欠陥が生じやすくなる。
【0008】
本発明は、このような従来の軽量で通気性に優れたセラミックセッターの問題点に鑑み、軽量で優れた通気性を維持したまま、セラミック多層基板に使用されるAg電極材が付着することを防止でき、しかも熱膨張係数が小さく、熱サイクルに対して割れや亀裂などの損傷が生じることのない、電子部品焼成用のセラミックセッター及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者は、Ag電極材の付着を妨げる物質ないし材料を探索するために、上記特許文献1に記載されたセラミックセッターの表面に各種のセラミック粒子をコーティングし、各セラミックセッターのコーティング上にAg電極材の導体ペーストを印刷したセラミック多層基板用のグリーンシートを載せて焼成することにより、Ag電極材の付着の有無を調査した。
【0010】
上記検討の結果、スピネル(MgO・Al)粒子とマグネシア(MgO)粒子とがAg電極材の付着防止に有効であることを見出した。しかし、表面にスピネル粒子やマグネシア粒子などのセラミック粒子をコーティングしたセラミックセッターは、コーティングによって通気性が損なわれ、脱バインダー性が悪くなるため、このセッターを用いて焼成したセラミック多層基板に反りや変形が発生するという別の不都合が生じることが分った。
【0011】
そこで、表面にスピネル粒子やマグネシア粒子をコーティングする代わりに、主成分としてセラミック繊維に混合するセラミック粒子としてスピネル粒子あるいはマグネシア粒子を用いてセラミックセッターを製造した。これらのセラミックセッターに、Ag電極材の導体ペーストを印刷したセラミック多層基板用のグリーンシートを載せて焼成することにより、スピネル粒子やマグネシア粒子を含有するセラミックセッターへのAg電極材の付着の有無を調査した。
【0012】
その結果、表面にコーティングを設けなくても、スピネル粒子やマグネシア粒子を含有するセラミックセッターであれば、Ag電極材の付着がなくなり、しかも良好な通気性を維持できるため、焼成したセラミック多層基板に反りや変形が生じないことが確認され、本発明を完成させたものである。ただし、マグネシア粒子はセッターの製造過程にてスラリー中で水和して膨潤するため、配合量が多くなると脱水プレス法や吸引法などで成形する際の濾過抵抗が大きくなり、成形が困難となることから単独での使用は好ましくないことが分った。
【0013】
即ち、本発明が提供するセラミックセッターは、セラミック繊維とセラミック粒子を主成分とする電子部品焼成用のセラミックセッターであって、該セラミック繊維がアルミナシリケート質繊維及び/又はアルミナ質繊維であり、該セラミック粒子としてスピネル(MgO・Al)粒子又はスピネル粒子とマグネシア(MgO)粒子を含み、嵩密度が370〜950kg/mであることを特徴とする。
【0014】
また、本発明が提供するセラミックセッターの製造方法は、セラミック繊維とセラミック粒子を主成分とする電子部品焼成用のセラミックセッターの製造方法であって、セラミック繊維としてアルミナシリケート質繊維及び/又はアルミナ質繊維10〜60重量%と、セラミック粒子としてスピネル粒子又はスピネル粒子とマグネシア粒子30〜75重量%と、無機結合剤5〜16重量%とを、水に混合してスラリーとし、成形した後、1200〜1400℃で焼成することを特徴とする。
【0015】
上記本発明によるセラミックセッターの製造方法において、セラミック繊維としてアルミナシリケート質繊維を使用するか、あるいは無機結合剤として好ましいシリカゾルを使用した場合、結晶相の一部としてコーディエライト相が形成される。このコーディエライト相を含むことによって、セラミックセッターの熱膨張係数が低下し、例えば平均線熱膨張係数で6.3×10−6/K(室温〜1000℃)以下となり、耐スポーリング性が向上するため特に好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、軽量で優れた通気性を有し、有機バインダーを短時間で効率よく除去することができると同時に、表面にコーティングを設けなくても、セラミック多層基板の焼成の際にAg電極材が付着することのないセラミックセッターを提供することができる。更には、熱膨張係数が小さく、熱サイクルに対して割れや亀裂などの損傷が生じることのない、耐スポーリング性に優れたセラミックセッターを提供することができる。
【0017】
従って、本発明のセラミックセッターを使用すれば、セラミック多層基板用グリーンシートの焼成時にAg電極材の付着がないのでセラミックセッターを繰り返し使用できるうえ、繰り返し使用しても割れや亀裂などの損傷の発生を抑制できるため、製造コストの低減に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のセラミックセッターは、セラミック繊維とセラミック粒子を主成分とし、これらを無機結合剤と共に水に混合してスラリーとし、湿式成形した後、その成形体を焼成して得られる高通気性のセラミックセッターである。上記セラミック繊維としてはアルミナシリケート質繊維又はアルミナ質繊維のいずれか片方若しくは両方を使用し、上記セラミック粒子としてはスピネル粒子又はスピネル粒子とマグネシア粒子を用いる。
【0019】
本発明のセラミックセッターは、主成分のセラミック粒子としてスピネル(MgO・Al)粒子を単独で用いるか又はマグネシア(MgO)粒子と共に用いることによって、セラミックセッターの表面にコーティングを設けなくても、セラミック多層基板用グリーンシートのAg電極材が焼成の際に付着することを防止できる。尚、本発明によりAg電極材の付着を防止できる理由については、スピネル粒子やマグネシア粒子とAgとの濡れ性が悪い点などが考えられるが、詳細は明らかになっていない。
【0020】
上記Ag電極材の付着防止効果は、スピネル粒子でもマグネシア粒子でも得られる。しかしながら、マグネシア粒子はスラリー中で水和して膨潤するため、配合量が多くなると脱水プレス法や吸引法などで成形する際の濾過抵抗が大きくなり、成形が困難となることから単独での使用は好ましくない。従って、マグネシア粒子をスピネル粒子と併用する場合、マグネシア粒子の配合量は後述するように20重量%以下とすることが望ましい。
【0021】
本発明のセラミックセッターは、上記スピネル粒子及びマグネシア粒子以外のセラミック粒子を含有してもよい。スピネル粒子及びマグネシア粒子以外のセラミック粒子としては、特に制限されることはないが、例えばアルミナ粒子を好適に使用することができる。尚、スピネル粒子、マグネシア粒子及びアルミナ粒子などセラミック粒子の粒径は、50μm(325メッシュ)以下であることが好ましい。セラミック粒子の粒径が50μmを超えると、得られるセラミックセッターの強度低下や脱粒の恐れがあるからである。
【0022】
上記セラミック繊維のうち、アルミナシリケート質繊維の化学組成は、アルミナ(Al)が32重量%以上であり、且つアルミナとシリカ(SiO)の合計が80重量%以上であることが好ましい。また、アルミナ質繊維の化学組成は、アルミナが72重量%以上であることが好ましい。上記の化学組成を有するアルミナシリケート質繊維及びアルミナ質繊維は、セッターの強度特性及びクリープ特性を向上させるなどの点で優れているからである。
【0023】
次に、本発明のセラミックセッターの製造方法について、具体的に説明する。まず、セラミック繊維であるアルミナシリケート質繊維及び/又はアルミナ質繊維と、セラミック粒子として少なくともスピネル粒子と、無機結合剤とを、水中に撹拌混合してスラリーとする。無機結合剤としては、一般的にセラミック繊維成形体の製造に使用されているものであればよく、例えば、シリカゾル(コロイダルシリカとも称する)、アルミナゾルを好適に用いることができる。
【0024】
各成分の配合組成は、アルミナシリケート質繊維及び/又はアルミナ質繊維を10〜60重量%、スピネル粒子又はスピネル粒子とマグネシア粒子を30〜75重量%、無機結合剤を5〜16重量%とする。アルミナシリケート質繊維及び/又はアルミナ質繊維が10重量%未満では密度が高くなって通気性が低下し、60重量%を超えると密度が小さくなって強度が低下し、耐摩耗性も悪くなるからである。また、無機結合剤が5重量%未満ではセラミックセッターの強度が低下しやすく、16重量%を超えると濾過抵抗が高くなりって成形に長時間を要し、セッターに亀裂や空隙が発生しやすくなる。
【0025】
また、スピネル粒子又はスピネル粒子とマグネシア粒子が30重量%未満ではAg電極材の付着防止効果が得られず、75重量%を超えると密度が高くなって通気性が低下し、脱粒や強度低下が生じやすいため好ましくない。ただし、スピネル粒子と共にマグネシア粒子を添加する場合、マグネシア粒子は20重量%以下が好ましい。マグネシア粒子が20重量%を超えると、濾過抵抗が大きくなり過ぎ成形が困難になるからである。また、アルミナ粒子を添加する場合には、アルミナ粒子が50重量%を超えると相対的にスピネル粒子が減り、Ag電極材の付着防止効果が低減することとなるため、アルミナ粒子は50重量%以下とすることが好ましい。
【0026】
得られたスラリーは、有機高分子凝集剤の水溶液を加えて凝集させ、圧力を加えながら脱水する脱水プレス法や、吸引して脱水する吸引法などの方法により、所定の形状に湿式成形する。この成形体を乾燥し、1200〜1400℃で焼成することにより、本発明のセラミックセッターが得られる。尚、焼成温度が1200℃未満では焼成が不十分で満足すべき強度が得られず、逆に1400℃を超えると成形体ないしセッターの収縮が大きくなりすぎるため好ましくない。
【0027】
このようにして得られた本発明のセラミックセッターは、表面にコーティングを有しておらず、嵩密度が370〜950kg/m、好ましくは400〜700kg/mであり、JIS R2115に準拠して測定した通気率は4.5×10−8〜29.0×10−8cmであって、軽量で且つ高い通気性を備えている。従って、セラミック多層基板用グリーンシートの焼成時に、有機バインダーを短時間で効率よく除去することができる。
【0028】
また、本発明のセラミックセッターの化学組成は、アルミナ(Al)が41〜84重量%、シリカ(SiO)が6〜45重量%、マグネシア(MgO)が8〜35重量%であることが好ましい。特に結晶相の一部としてコーディエライト(MgAlSi18)相を含むことで小さな熱膨張係数が得られ、具体的にはJIS R227−3に準拠して測定した平均線熱膨張係数が3.6〜6.3×10−6/K(室温〜1000℃)の範囲となる。その結果、耐スポーリング性に優れ、加熱冷却のサクルが短くても亀裂や割れのないセラミックセッターが得られる。
【実施例】
【0029】
セラミック繊維としてイソライト工業(株)製のイソウール(商品名)と電気化学工業(株)製のアルセン(商品名)を用い、セラミック粉末として少なくともスピネル粉末を使用して、以下のごとくセラミックセッターを製造した。尚、上記イソウールはAlが45重量%、AlとSiOの合計が98重量%のアルミナシリケート質繊維であり、また上記アルセンはAlが97重量%の結晶性アルミナ質繊維である。
【0030】
[実施例1]
アルミナシリケート質繊維のイソウール20重量%と、アルミナ質繊維のアルセン8重量%と、平均粒径7.5μmのスピネル粉末48重量%と、平均粒径4.3μmのアルミナ粉末16重量%と、無機結合剤のシリカゾル8重量%とを、150リットルの水に添加し、数分間撹拌混合してスラリーを形成した。
【0031】
このスラリーに有機高分子凝集剤として澱粉の水溶液を加えて凝集させ、縦660mm×横330mm×厚さ60mmの板状に加圧吸引成形した。得られた板状の成形体を120℃で乾燥させた後、1300℃で3時間焼成し、表面加工並びにスライス加工を施してセッターを製造した。
【0032】
得られたセッターの嵩密度は690kg/mであった。また、通気率(JIS R2115)、3点曲げ強度(JIS R2619)、室温〜1000℃での平均線熱膨張係数(JIS R2207−3)を測定し、更にセッターの結晶相をX線回折法により分析した。得られた結果を、下記表1にまとめて示した。
【0033】
この実施例1のセッターを使用して、セラミック多層基板用グリーンシートの焼成を行った。即ち、主にアルミナ(Al)やガラス成分からなる通常のセラミック多層基板用グリーンシートの表面に電極材としてAg導体ペーストを印刷し、これを数枚積層してセッターに載せ、450℃で5時間加熱して有機バインダーを除去した後、900℃で1時間焼成することによりセラミック多層基板を製造した。
【0034】
焼成後のセッターについて、顕微鏡を用いて目視観察したところ、Ag電極材の付着は全く認められず、反りもなく、割れや亀裂などの損傷も発生していなかった。また、焼成により得られたセラミック多層基板にも、反りや変形は全く発生しなかった。
【0035】
[実施例2]
上記実施例1と同様にしてセッターを製造したが、セラミック粉末として上記実施例1と同じスピネル粉末61重量%のみを用いる(アルミナ粉末を用いず)と共に、シリカゾル11重量%を添加した。
【0036】
得られたセッターの嵩密度は910kg/mであった。この実施例2のセッターについて、上記実施例1と同様に、通気率、3点曲げ強度、平均線熱膨張係数を測定し、更にセッターの結晶相を分析した。得られた結果を、上記と同様にして求めた化学組成と共に、下記表1にまとめて示した。
【0037】
更に、この実施例2のセッターを使用して、上記実施例1と同様にセラミック多層基板用グリーンシートの焼成を行った。焼成後のセッターを顕微鏡で目視観察したところ、Ag電極材の付着は全く認められず、反りもなく、割れや亀裂などの損傷も発生していなかった。また、焼成により得られたセラミック多層基板にも、反りや変形は全く発生しなかった。
【0038】
[実施例3]
上記実施例1と同様にしてセッターを製造したが、セラミック繊維としてアルミナシリケート質繊維のイソウール30重量%のみを用い(アルミナ繊維を用いず)、セラミック粉末として上記実施例1と同じスピネル粉末62重量%のみを用い(アルミナ粉末を用いず)、シリカゾル8重量%を添加した。
【0039】
得られたセッターの嵩密度は700kg/mであった。また、この実施例3のセッターについて、上記実施例1と同様に、通気率、3点曲げ強度、平均線熱膨張係数を測定し、更にセッターの結晶相を分析した。得られた結果を、上記と同様にして求めた化学組成と共に、下記表1にまとめて示した。
【0040】
更に、この実施例3のセッターを使用して、上記実施例1と同様にセラミック多層基板用グリーンシートの焼成を行った。焼成後のセッターを顕微鏡で目視観察したところ、Ag電極材の付着は全く認められず、反りもなく、割れや亀裂などの損傷も発生していなかった。また、焼成により得られたセラミック多層基板にも、反りや変形は全く発生しなかった。
【0041】
[実施例4]
上記実施例1と同様にしてセッターを製造したが、セラミック繊維としてアルミナシリケート質繊維のイソウール50重量%のみを用い(アルミナ繊維を用いず)、セラミック粉末として上記実施例1と同じスピネル粉末42重量%のみを用い(アルミナ粉末を用いず)、シリカゾル8重量%を添加した。
【0042】
得られたセッターの嵩密度は400kg/mであった。また、この実施例4のセッターについて、上記実施例1と同様に、通気率、3点曲げ強度、平均線熱膨張係数を測定し、更にセッターの結晶相を分析した。得られた結果を、上記と同様にして求めた化学組成と共に、下記表1にまとめて示した。
【0043】
更に、この実施例4のセッターを使用して、上記実施例1と同様にセラミック多層基板用グリーンシートの焼成を行った。焼成後のセッターを顕微鏡で目視観察したところ、Ag電極材の付着は全く認められず、反りもなく、割れや亀裂などの損傷も発生していなかった。また、焼成により得られたセラミック多層基板にも、反りや変形は全く発生しなかった。
【0044】
[実施例5]
上記実施例1と同様にしてセッターを製造したが、セラミック繊維としてアルミナシリケート質繊維のイソウール30重量%のみを用い(アルミナ繊維を用いず)、セラミック粉末として上記実施例1と同じスピネル粉末42重量%と、平均粒径13.6μmのマグネシア粉末20重量%を用い(アルミナ粉末を用いず)、シリカゾル8重量%を添加した。
【0045】
得られたセッターの嵩密度は850kg/mであった。また、この実施例5のセッターについて、上記実施例1と同様に、通気率、3点曲げ強度、平均線熱膨張係数を測定し、更にセッターの結晶相を分析した。得られた結果を、上記と同様にして求めた化学組成と共に、下記表1にまとめて示した。
【0046】
更に、この実施例5のセッターを使用して、上記実施例1と同様にセラミック多層基板用グリーンシートの焼成を行った。焼成後のセッターを顕微鏡で目視観察したところ、Ag電極材の付着は全く認められず、反りもなく、割れや亀裂などの損傷も発生していなかった。また、焼成により得られたセラミック多層基板にも、反りや変形は全く発生しなかった。
【0047】
[実施例6]
上記実施例1と同様にしてセッターを製造したが、セラミック繊維としてアルミナシリケート質繊維のイソウール60重量%のみを用い(アルミナ繊維を用いず)、セラミック粉末として上記実施例1と同じスピネル粉末32重量%のみを用い(アルミナ粉末を用いず)、シリカゾル8重量%を添加した。
【0048】
得られたセッターの嵩密度は500kg/mであった。また、この実施例6のセッターについて、上記実施例1と同様に、通気率、3点曲げ強度、平均線熱膨張係数を測定し、更にセッターの結晶相を分析した。得られた結果を、上記と同様にして求めた化学組成と共に、下記表1にまとめて示した。
【0049】
更に、この実施例6のセッターを使用して、上記実施例1と同様にセラミック多層基板用グリーンシートの焼成を行った。焼成後のセッターを顕微鏡で目視観察したところ、Ag電極材の付着は全く認められず、反りもなく、割れや亀裂などの損傷も発生していなかった。また、焼成により得られたセラミック多層基板にも、反りや変形は全く発生しなかった。
【0050】
【表1】

【0051】
[比較例1]
上記実施例1と同様にしてセッターを製造したが、セラミック繊維としてアルミナシリケート質繊維のイソウール30重量%のみを用い(アルミナ繊維を用いず)、セラミック粉末として上記実施例1と同じアルミナ粉末60重量%のみを用い(スピネル粉末を用いず)、シリカゾル10重量%を添加した。
【0052】
得られたセッターの嵩密度は690kg/mであった。このセッターについて、上記実施例1と同様にして、通気率、3点曲げ強度、平均線熱膨張係数を測定し、更にセッターの結晶相を分析した。得られた結果を、上記と同様にして求めたセッターの化学組成と共に、下記表2にまとめて示した。
【0053】
また、この比較例1のセッターを使用して、上記実施例1と同様にセラミック多層基板用グリーンシートの焼成を行ったところ、焼成後のセッターの表面にはAgの付着が認められた。尚、焼成により得られたセラミック多層基板には反りや変形は認められなかった。
【0054】
そこで、このセッターの表面に、上記実施例1と同じスピネル粉末のコーティングを施した。即ち、スピネル粉末を有機バインダーと混合してスラリーとし、上記セッターの表面に塗布した後、120℃で乾燥し、1350℃で2時間焼成することにより、スピネルコーティングを形成した。このセッターの通気率は、コーティング前が6.7×10−8cmであったのに対し、コーティング後は1.3×10−8cmであった。
【0055】
このスピネルコーティングを施した比較例1のセッターを用いて、上記実施例1と同様にセラミック多層基板用グリーンシートの焼成を行ったところ、焼成後のスピネルコーティング付きセッターの表面にはAg電極材の付着は認められなくなった。しかし、コーティングにより通気性が損なわれ、脱バインダー性が悪くなったため、得られたセラミック多層基板に反りや変形が発生した。
【0056】
[比較例2]
上記実施例1と同様にしてセッターを製造したが、セラミック繊維としてアルミナシリケート質繊維のイソウール20重量%のみを用い(アルミナ繊維を用いず)、セラミック粉末として上記実施例1と同じアルミナ粉末75重量%のみを用い(スピネル粉末を用いず)、シリカゾル5重量%を添加した。
【0057】
得られたセッターの嵩密度は1020kg/mであった。このセッターについて、上記実施例1と同様にして、通気率、3点曲げ強度、平均線熱膨張係数を測定し、更にセッターの結晶相を分析した。得られた結果を、上記と同様にして求めた化学組成と共に、下記表2にまとめて示した。
【0058】
この比較例2のセッターを使用して、上記実施例1と同様にセラミック多層基板用グリーンシートの焼成を行ったところ、焼成後のセッターの表面にはAg電極材の付着が認められた。尚、この比較例2のセッターは、上記比較例1のセッターに比べて嵩密度が大きく、従って通気率が低下していた。
【0059】
この比較例2のセッターについても、上記比較例1と同様にスピネルコーティングを施した後、上記実施例1と同様にセラミック多層基板用グリーンシートの焼成を行った。その結果、焼成後のスピネルコーティング付きセッターの表面にAg電極材の付着は認められなくなったが、セッターの通気率がコーティング前の1.8×10−8cmに対してコーティング後は0.63×10−8cmに低下したため、脱バインダー性が更に悪くなり、得られたセラミック多層基板には顕著な反りや変形が発生した。
【0060】
【表2】

【0061】
上記した比較例の結果から分るように、従来の軽量で通気性に優れたセラミックセッターは、表面にAg電極材が付着してしまう。スピネルなどのコーティングを施せばAg電極材の付着はなくなるが、コーティングにより通気性が損なわれて脱バインダーが悪くなるため、被焼成物に反りや変形が生じてしまう。
【0062】
一方、本発明のセラミックセッターは、上記実施例から分るように、表面にコーティングを施さなくても、Ag電極材の付着を防止することができる。しかも、嵩密度が低く通気性に優れているため、脱バインダーが良好であり、被焼成物に反りや変形が生じることはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック繊維とセラミック粒子を主成分とする電子部品焼成用のセラミックセッターであって、該セラミック繊維がアルミナシリケート質繊維及び/又はアルミナ質繊維であり、該セラミック粒子としてスピネル粒子又はスピネル粒子とマグネシア粒子を含み、嵩密度が370〜950kg/mであることを特徴とするセラミックセッター。
【請求項2】
前記セラミックセッターの化学組成が、アルミナ41〜84重量%、シリカ6〜45重量%、マグネシア8〜35重量%であることを特徴とする、請求項1に記載のセラミックセッター。
【請求項3】
結晶相の一部としてコーディエライト相を含み、平均線熱膨張係数が6.3×10−6/K(室温〜1000℃)以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のセラミックセッター。
【請求項4】
セラミック繊維とセラミック粒子を主成分とする電子部品焼成用のセラミックセッターの製造方法であって、セラミック繊維としてアルミナシリケート質繊維及び/又はアルミナ質繊維10〜60重量%と、セラミック粒子としてスピネル粒子又はスピネル粒子とマグネシア粒子30〜75重量%(ただし、マグネシア粒子は20重量%以下)と、無機結合剤5〜16重量%とを、水に混合してスラリーとし、成形した後、1200〜1400℃で焼成することを特徴とするセラミックセッターの製造方法。
【請求項5】
前記スピネル粒子及びマグネシア粒子以外のセラミック粒子として、50重量%以下のアルミナ粒子を添加混合することを特徴とする、請求項4に記載のセラミックセッターの製造方法。

【公開番号】特開2011−42519(P2011−42519A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190695(P2009−190695)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(391029509)イソライト工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】