説明

電子部品

【課題】引き回された電極の機械強度を高めることができる電子部品を提供する。
【解決手段】セラミック製のシートを積層し、側壁部(6)で囲まれた有底のキャビティ(8)を備える筐体 (2)と、キャビティに載置される電子素子(10)と、側壁部の上面(30)に引き回して形成された電極(32)と、電極に接合され、キャビティ内を封止する金属製の蓋(46)とを具備し、電極は、キャビティを囲繞する周回パターン(34)と、周回パターンに交わって形成され、上面からの周回パターンの剥離を防止する補強パターン(36)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子素子を筐体に金属封止した電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の電子部品は電子素子を内蔵している。例えば携帯電話装置やテレビジョン受像器等の電子機器や通信装置に採用される表面弾性波デバイス(SAW(Surface Acoustic Wave)デバイス)には表面弾性波素子が内蔵されている。
【0003】
具体的には、このデバイスはセラミック製の筐体を有し、この筐体には側壁部で囲まれた有底のキャビティが備えられている。素子はキャビティに載置され、気密封止される(例えば、特許文献1参照)。この素子は機械的な応力や湿気等に弱いからである。そして、この気密封止には、樹脂封止の他、金属製の蓋を用いて封止する金属封止があり、樹脂封止よりも高い信頼性が要求される電子部品に用いられる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−071772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した側壁部には、その上面に電極を引き回したものがあり、この場合には、この上面と蓋とが電極を狭持して接合される。
しかしながら、当該構成の場合には、使用によって素子が発熱すると、筐体、特に側壁部の温度が上昇し、側壁部と電極との間に応力が作用して電極にクラックが生じるとの懸念がある。セラミック製の筐体と金属製の蓋とは線膨張係数が異なるからである。
【0006】
そして、このクラック部分に応力が集中する結果、筐体から蓋が剥離するとの問題がある。これでは、金属封止の効果が発揮されず、電子部品の信頼性が低下してしまう。このように、引き回された電極の機械強度を高める点については依然として課題が残されている。
なお、蓋の剥離を防止するには接合部分の厚みを大きくすることも考えられるが、これでは、製造コストの低廉化が図れないとの問題が別途生ずる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解消し、引き回された電極の機械強度を高める電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための第1の発明は、セラミック製のシートを積層し、側壁部で囲まれた有底のキャビティを備える筐体と、キャビティに載置される電子素子と、側壁部の上面に引き回して形成された電極と、電極に接合され、キャビティ内を封止する金属製の蓋とを具備し、電極は、キャビティを囲繞する周回パターンと、周回パターンに交わって形成され、上面からの周回パターンの剥離を防止する補強パターンとを有する。
【0009】
第1の発明によれば、セラミック製の筐体のキャビティには電子素子が載置されており、この素子は金属封止される。詳しくは、筐体の側壁部と金属製の蓋とが電極を狭持して接合されている。
そして、この電極は、キャビティを囲繞する周回パターンと、周回パターンに交わって形成された補強パターンとを有し、この補強パターンが側壁部の上面と周回パターンとの密着性を高めるべく構成されている。
よって、筐体と蓋とは線膨張係数が異なり、筐体の温度上昇によって側壁部と電極との間に応力が作用しても、これら側壁部の上面と電極との接合強度が高められるので、この上面から電極が、ひいては筐体から蓋が剥離し難くなる。この結果、金属封止の効果が確実に発揮され、電子部品の信頼性の向上に寄与する。
【0010】
第2の発明は、第1の発明の構成において、補強パターンは、周回パターンの外周側にのみ設けられていることを特徴とする。
第2の発明によれば、第1の発明の作用に加えてさらに、補強パターンが周回パターンの外周側のみ設けられ、内周側には設けられていないので、キャビティの容積が大きくならず、電子部品の小型化が達成可能となる。しかも、セラミック製の筐体を金属製の蓋で覆った場合にて、筐体の温度上昇に伴う熱応力にも対抗でき、側壁部からの電極の剥離をより確実に防止可能となる。
【0011】
第3の発明は、第1又は第2の発明の構成において、電極と蓋とを接合させ、金属を主成分として構成された接合部をさらに有し、接合部が金と錫とを主成分とする合金で構成されていることを特徴とする。
第3の発明によれば、第1又は第2の発明の作用に加えてさらに、接合部が金と錫とを主成分とする合金で構成されているので、融点の低い接合部が形成され、筐体に与える影響が少なくて済む。
【0012】
第4の発明は、第3の発明の構成において、周回パターンと補助パターンとは連なって一体に形成されており、周回パターンの幅は同一幅で形成される一方、補助パターンの幅は周回パターンの幅よりも小さく形成されていることを特徴とする。
第4の発明によれば、第3の発明の作用に加えてさらに、周回パターンと補強パターンとが一体に設けられているので、側壁部の上面と電極との密着性がより一層高くなる。また、周回パターンの幅が同一幅で形成されるのに対し、補助パターンの幅は周回パターンの幅よりも小さく形成されることから、金と錫とを主成分とする合金が周回パターン内に留まって補助パターンに向けて流出し難くなり、周回パターン上の当該合金の高さが均一になる。この結果、上面と電極との接合強度がより一層高くなるし、特に金の使用量も少なくて済み、製造コストの低廉化も達成可能となる。
【0013】
第5の発明は、第1から第4の発明の構成において、周回パターンはキャビティの外周に沿った角部を有し、補助パターンは角部を回避した角部の近傍位置に形成されていることを特徴とする。
第5の発明によれば、第1から第4の発明の作用に加えてさらに、電極の角部の近傍位置は特に剥がれ易い箇所であるが、補助パターンがこの角部を回避してその近傍位置に設けられているので、特に剥がれ易い箇所がなくなり、上面と電極との接合強度がさらに高くなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、製造コストの低廉化を図りつつ、引き回された電極の機械強度を高める電子部品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本実施例のSAWデバイス(電子部品)1を示しており、このデバイス1は携帯電話装置やテレビジョン受像器等の電子機器や通信装置に採用される。
【0016】
デバイス1はパッケージ基板(筐体)2を有し、この筐体2は低温焼成によるセラミック(LTCC)の絶縁シートを積層して構成されている。また、筐体2にはキャビティ8が備えられている。詳しくは、底部4を形成するシートの上に平面視で長方形の貫通孔を有するシートが重ねられており、この孔の四辺が側壁部6で囲まれて有底のキャビティ8が形成されている。
【0017】
このキャビティ8には表面弾性波素子(電子素子)10が載置される。具体的には、この素子10は圧電基板12を有し、この基板12の表面上には櫛歯電極(IDT:Interdigital Transducer)等の層14が形成されており、この層14は成膜された金属膜をエッチングして形成される。なお、この櫛歯電極では電歪効果を用い、機械量と電気量との変換を行う。
【0018】
この層14の適宜位置にはバンプ15が形成されている。そして、この素子10を裏返し、バンプ15をキャビティ8の有底部分に設けられたランド16に重ね合わせて接合することにより、チップ実装が行われる。
ランド16は、底部4を貫通して穿設された導通部18を介して外部接続用のランド20に接続されている。また、本実施例では、電極32が側壁部6の上面30に引き回されており、この電極32は、側壁部6及び底部4を貫通して穿設された導通部22を介して外部接続用のランド24に接続されている。
【0019】
そして、電極32を有する上面30に金属製のリッド(蓋)46を重ね合わせ、これら上面30とリッド46とをロウ付けにて接合してキャビティ8内を気密封止すると、素子10を内蔵したSAWデバイス1が構成される。
ところで、本実施例の電極32は銀(Ag)の金属パターンが印刷で形成されている。
【0020】
詳しくは、図2及びこの図2にてリッド46及び素子10を省略した図3に示されるように、電極32は長方形のキャビティ8を囲繞する帯状の周回パターン34を備えており、パターン34はキャビティ8の角部9の位置に対峙した角部35にてその方向が変えられている。また、このパターン34の幅は同一幅で形成されている。
一方、電極32は補強パターン36も備えている。具体的には、この補強パターン36は、周回パターン34に連なって一体に形成されており、キャビティ8とは反対側の位置、つまり、周回パターン34の外周側にのみ設けられている。
【0021】
本実施例の補強パターン36は16個の四角形の凸状にて構成され、周回パターン34の各辺に対して4つずつ設けられている。詳しくは、凸状の各パターン36は周回パターン34の各辺に対して略直交方向に突出して形成されており、角部35を除いたこの角部35の近傍位置に設けられている。
【0022】
例えば、まず8個の各パターン36が、パターン34に対峙するリッド46の長さの約1/10以下の長さ分だけ、角部35からパターン34の外周縁に沿って離間した位置にそれぞれ形成されており、また、他の8個の各パターン36は、角部35からパターン34の外周縁に沿ってさらに離間した位置にそれぞれ形成されている。そして、この補強パターン36の幅は周回パターン34の幅よりも小さな幅で形成されている。
【0023】
ここで、本実施例では、側壁部6の上面30とリッド46との間に、Agの電極32の他、メッキ層や接合材の層が形成されている。
具体的には、図4に示される如く、上面30に印刷された電極32の上にはニッケル(Ni)のメッキ層38が形成され、さらに、このメッキ層38の上には金(Au)のメッキ層40が形成されている。また、このメッキ層40の上には金属を主成分として構成された接合部42が設けられ、接合部42の上にリッド46が設けられている。
【0024】
この接合部42は、例えばAuと錫(Sn)とを主成分とする合金で構成されたロウ材であり、側壁部6とリッド46とを接合する。なお、このリッド46は鉄(Fe)とNiとを主成分とする合金(コバール)で構成されており、当該ロウ材はリッド46よりも融点の低い合金である。
【0025】
上述した側壁部6とリッド46とを接合するにあたり、溶融した接合部42は従来に比して大きな面積を有する電極32上に広がり初める。
詳しくは、図5及び図6(A)に示されるように、接合部42は同一幅にて構成された周回パターン34を覆い初め、補強パターン36にも迫る勢いでフィレットが形成され、周回パターン34の総てを覆う。続いて、この接合部42は、図5及び図6(B)に示されるように、周回パターン34よりも狭い補強パターン36には流れず、このパターン36上ではフィレットが形成されない。
【0026】
以上のように、本発明は、引き回された電極の機械強度を高めることに着目したものである。
そして、本実施例によれば、LTCCの筐体2のキャビティ8には表面弾性波素子10が載置されており、この素子10は金属封止されている。詳しくは、筐体2の側壁部6とコバールのリッド46とがAgの電極32を狭持して接合されている。
この電極32は、キャビティ8を囲繞する周回パターン34と、このパターン34に対して略直交方向に形成された補強パターン36とを有し、このパターン36が電極32の面積を従来よりも大きくさせ、側壁部6の上面30とパターン34との密着性を高めている。
【0027】
よって、線膨張係数の大きな筐体2を線膨張係数の小さなリッド46で封止する場合において、素子10の発熱によって筐体2の温度が上昇すると、側壁部6には内向きの熱応力が作用するのに対し、リッド46には外向きの熱応力が作用する。つまり、側壁部6と電極32との間にはせん断応力が作用することになる。
しかしながら、上述した補強パターン36の構成により、これら側壁部6の上面30と電極32との接合強度が高められているので、電極32にクラックが生じ難くなるし、このクラック部分に他の応力も集中し難くなる。これにより、この上面30から電極32が、ひいては筐体2からリッド46が剥離し難くなる。この結果、金属封止の効果が確実に発揮され、SAWデバイス1の信頼性の向上に寄与する。
【0028】
また、補強パターン36は周回パターン34の外周側のみ設けられ、内周側には設けられていないことから、キャビティ8の容積が大きくならず、デバイス1の小型化が達成可能となる。しかも、LTCCの筐体2をコバールのリッド46で覆った場合には、コバールのリッド46よりも線膨張係数の大きな筐体2に対してより大きな熱応力が作用し得るが、補強パターン36が周回パターン34の外周側に形成されているので、この熱応力にも十分に対抗できる。また、例えば、マウントの際の衝撃による外力等にも十分対抗でき、側壁部30からの電極32の剥離をより確実に防止可能となる。
【0029】
さらに、周回パターン34と補強パターン36とが一体に設けられていることから、上面30と電極32との密着性がより一層高くなる。また、周回パターン34の幅が同一幅で形成されるのに対し、補助パターン36の幅は周回パターン34の幅よりも小さく形成される。よって、AuとSnとを主成分とするロウ材が周回パターン34内に留まって補助パターン36に向けて流出し難くなり、周回パターン34上の当該ロウ材の高さが均一になる。この結果、上面30と電極32との接合強度がより一層高くなるし、電極32の面積が従来よりも大きくなるにも拘わらず、ロウ材の量が少なくなる、特にAuの使用量が少なくて済み、製造コストの低廉化も達成可能となる。
【0030】
さらにまた、角部35を除くその近傍位置は特に剥がれ易い箇所であるが、補助パターン36がこの角部35の近傍位置に設けられているので、特に剥がれ易い箇所がなくなり、上面30と電極32との接合強度がさらに高くなる。しかも、周回パターン34の外周側の全周に形成される場合に比して、特にAuの使用量が少なくて済むことから、製造コストのさらなる低廉化も達成できる。
【0031】
また、接合部42がAuとSnとを主成分とするロウ材で構成されている。よって、電気伝導や熱伝導が良好で、且つ、化学的にも安定し、融点の低い接合部32が形成され、筐体2に与える影響も少なくて済み、この点もデバイス1の信頼性の向上に寄与する。また、側壁部6が変形し難くなり、側壁部6を薄くしたいとの要求にも対応可能となる。
【0032】
本発明は、上記実施の形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。
例えば、本発明の接合部は金属を主成分として構成されていれば良く、必ずしも上記構成に限定されるものではない。
【0033】
また、上記実施例ではSAWデバイス単体について説明されているが、本発明の電子部品はモジュール基板にも適用可能である。
すなわち、図7及び図8に示されるように、当該電子部品1AはLTCCのモジュール基板(筐体)2Aを有しており、この筐体2Aの側壁部6Aで囲まれたキャビティ8には表面弾性波素子10が載置されている。この素子10はAgの内層パターン62に接続され、このパターン62は他の内層パターン62や各導通部64を介して外部接続用のランド60等に接続される。
【0034】
一方、筐体2Aの表面上の適宜位置にはAgの外層パターン66やランド68が形成され、このパターン66には各種のチップ部品70が搭載されており、所望の電気回路が構成されている。このパターン66もまた内層パターン62や各導通部64を介してランド60等に接続される。
【0035】
本実施例の側壁部6Aの上面30にも、周回パターン34及び補強パターン36からなるAgの電極32が引き回されており、この電極32がランド68等に接続される。そして、この電極32を有する上面30にメッキ層を介してコバールのリッド46を重ね合わせ、これら上面30とリッド46とがAuとSnとを主成分とする接合部42によって接合されることにより、キャビティ8内が金属封止されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施例に係るSAWデバイスの断面図である。
【図2】図1のデバイスの平面図である。
【図3】図2のデバイスの電極等を説明する図である。
【図4】図1のIVで囲まれた部分の拡大図である。
【図5】図2のVで囲まれた部分の拡大図である。
【図6】図5のA−A線矢視断面図、及びB−B線矢視断面図である。
【図7】他の実施例を説明する図である。
【図8】図7のVIII−VIII線矢視断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 SAWデバイス(電子部品)
2 パッケージ基板(筐体)
6 側壁部
8 キャビティ
9 角部
10 表面弾性波素子(電子素子)
30 上面
32 Ag電極(電極)
34 周回パターン
35 角部
36 補強パターン
42 接合部
46 リッド(蓋)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック製のシートを積層し、側壁部で囲まれた有底のキャビティを備える筐体と、
前記キャビティに載置される電子素子と、
前記側壁部の上面に引き回して形成された電極と、
前記電極に接合され、前記キャビティ内を封止する金属製の蓋とを具備し、
前記電極は、前記キャビティを囲繞する周回パターンと、前記周回パターンに交わって形成され、前記上面からの前記周回パターンの剥離を防止する補強パターンとを有することを特徴とする電子部品。
【請求項2】
請求項1に記載の電子部品において、
前記補強パターンは、前記周回パターンの外周側にのみ設けられていることを特徴とする電子部品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子部品において、
前記電極と前記蓋とを接合させ、金属を主成分として構成された接合部をさらに有し、前記接合部が金と錫とを主成分とする合金で構成されていることを特徴とする電子部品。
【請求項4】
請求項3に記載の電子部品において、
前記周回パターンと前記補助パターンとは連なって一体に形成されており、
前記周回パターンの幅は同一幅で形成される一方、前記補助パターンの幅は前記周回パターンの幅よりも小さく形成されていることを特徴とする電子部品。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の電子部品において、
前記周回パターンは前記キャビティの外周に沿った角部を有し、
前記補助パターンは前記角部を回避した前記角部の近傍位置に形成されていることを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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