電子銃及び電子線装置
【課題】Langmuir limitを遙かに超える高輝度あるいは超高エミッタンスを得る
【解決手段】平面カソード、ウエーネルト、引き出し電極又はアノードとなる球面引き出し電極電子銃で、カソードとアノード間距離をDacとした時、電子銃電流をIe (mA)をつぎの範囲にする、
0.388/Dac -0.046 ≦ Ie ≦ 92.8/Dac + 9.28、 Dac ≧ 3 mm, あるいは
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦22/Dac + 32.7、 Dac < 3 mm.
また、凹面形状カソード、引き出し電極又はアノードとなる球面引き出し電極電子銃で、カソード半径をRc(mm)とした時電子銃電流をIe (A)をつぎの範囲にする、
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.159Rc3 + 0.35. Rc ≦ 2.5 mm, あるいは
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.255Rc3 - 1.17. Rc > 2.5 mm.
【解決手段】平面カソード、ウエーネルト、引き出し電極又はアノードとなる球面引き出し電極電子銃で、カソードとアノード間距離をDacとした時、電子銃電流をIe (mA)をつぎの範囲にする、
0.388/Dac -0.046 ≦ Ie ≦ 92.8/Dac + 9.28、 Dac ≧ 3 mm, あるいは
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦22/Dac + 32.7、 Dac < 3 mm.
また、凹面形状カソード、引き出し電極又はアノードとなる球面引き出し電極電子銃で、カソード半径をRc(mm)とした時電子銃電流をIe (A)をつぎの範囲にする、
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.159Rc3 + 0.35. Rc ≦ 2.5 mm, あるいは
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.255Rc3 - 1.17. Rc > 2.5 mm.
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にパターンが形成された試料の欠陥等を検査するための電子線装置に関し、より詳細には、半導体製造各工程後等におけるウエハ等の試料に電子ビームを照射し、その表面の性状に応じて変化する二次電子等を捕捉して画像データを形成し、該画像データに基づいて試料表面に形成されたパターン等の欠陥を高スループットで評価するための電子線装置に関する。またその様な装置等に使用される高輝度・高エミッタンス電子銃に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおいて、デザインルールは45nmの時代を迎えようとしており、また生産形態はDRAMに代表される少品種大量生産からSOC(Silicon on
chip)のように多品種少量生産へ移行しつつある。それに伴い、製造工程数が増加し、工程毎の歩留まり向上は必須となり、プロセス起因の欠陥検査が重要になる。
そして、半導体デバイスの高集積化及びパターンの微細化に伴い、高分解能、高スループットの検査装置が要求されている。45nmデザインルールのウエハの欠陥を調べるためには、40nm以下の分解能が必要であり、デバイスの高集積化による製造工程の増加により、検査量が増大するため、高スループットが要求されている。また、デバイスの多層化が進むにつれて、層間の配線をつなぐビアのコンタクト不良(電気的欠陥)を検出する機能も、検査装置に要求されている。
このような状況において、1本の光軸の近傍に複数のビームを形成し高スループット化する装置が検討されている。(Mamoru Nakasuji etal, Jpn. J,Appl.,Phys.,Vol 44,No.7B 2005,p5570)この様なマルチビーム装置では高輝度は勿論、高エミッタンスの電子銃が要求される。
ERL放射光源の入射用に用いる電子源では、超高輝度で大電流の電子銃が要求される。(西谷他、第53回応用物理学関連講演会講演予講習No2, 2006 春p798)、更にx−線源用にも高電流密度電子銃が必要である。
【特許文献1】特開2003−323860A
【特許文献2】特開2004−22235
【特許文献3】特開2003−297272
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した従来装置における電子銃は、カソード表面に高電界がかかる様、曲率半径の小さい凸型の球面形状を有するカソードと平面アノード、平面ウエーネルト電極を有する3電極電子銃が主流であった。しかしながらこの様な電子銃は、高輝度は得られるがエミッタンスが小さいという問題があった。輝度についてもLangmuir limitのため、高輝度を得るにはカソード電流密度を大きくする手段のみであった。
また、従来のタイプの電子銃ではカソードの近辺で電流密度が高いため、カソード付近でビームエネルギーの小さい時に電子同士が相互作用を起こしエネルギー幅が拡がる問題点があった。本発明は上記問題点を解決するためのもので、超高輝度を可能にし、マルチビーム発生に適し、エネルギー幅の小さい電子銃を提供する事を目的とし、さらに本発明で得られる電子銃の性能を充分生かせるマルチビームの電子光学系を提供することも目的とする。また、X- 線源用等の高電流密度電子銃を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記した目的を達成するために、本発明に係る電子線装置においては、円形平面のカソード、凸型球面の一部の形状を有する引出し電極、円錐台形状のウエーネルト電極を有する電子銃とした。
更にカソード、アノード又はビーム引出し電極、ウエーネルトを有する電子銃に於いて上記アノード又はビーム引出し電極の穴径をその位置でのビーム径より小さくし、上記アノード又はビーム引出し電極でのビーム透過率あるいは吸収電流量からカソード・ウエーネルトとアノード又はビーム引出し電極との軸合わせを行うようにした。
【0005】
上記手段において、上記カソードの外周と引き出し電極位置で光軸と交わる仮想的な円錐とこの円錐と67.5度の角度差を有する仮想的な円錐台を想定し、その外側に、上記ウエーネルト電極を設ける様にした。
【0006】
また、上記手段において上記仮想円錐台とウエーネルトとの同じ光軸上Z位置での半径差は、カソードに近い側が引き出し電極に近い側より小さいようにした。
【0007】
さらに、上記第1の手段において、上記カソード直径は、15μm〜960μmの範囲とし、電子銃電流Ieを次の範囲内に設定するようにした。
0.0196Rc - 0.5 ≦ Ie ≦0.111Rc -1.05 15 ≦ Rc ≦120μm
0.0196Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.0332Rc + 8.1 120< Rc ≦960μm
また、次の範囲に設定すると超高エミッタンスが得られる。
0.0136Rc - 0.3 ≦ Ie ≦0.103Re - 1.1 15 ≦ Rc ≦ 120μm
0.0226Rc - 1.7 ≦ Ie ≦ 0.0322Rc + 6.8, 120 < Rc ≦ 480μm
0.007Rc + 5.9 ≦ Ie ≦ 0.0191Rc + 13.2 480 < Rc ≦ 960μm
【0008】
また、上記第1の手段の電子銃から放出された電子線で複数の開口を照射しそれらの開口で整形された複数の電子線で試料面を走査し、走査点から放出された2次電子を拡大光学系で検出器に結像させ検出し、試料面の情報を得る装置において、上記拡大光学系の最終拡大レンズの手前に2次電子のクロスオーバ像を制御する補助レンズを設けるようにした。さらに、1次ビームの走査による2次電子軌道の補正を、第2拡大レンズの後方に2段の静電偏向器を設け、行うようにした。
【0009】
円形カソード、ウエーネルト電極、引き出し電極又はアノード電極を有し、上記カソードから放出させた電子線が、カソードから引き出し電極間はそのビーム径を単調に減少させ、引き出し電極の後方で最小ビーム径を形成するよう制御するようにした。更にこの最小ビーム径においては、カソードの法線方向に放出されたビーム軌道の内、少なくともカソード中心部からのビーム軌道は互いに交差せず、光軸とも交差しない軌道になるよう制御した。
また、引き出し電極又はアノードの孔径を小さくし、あるいは引き出し電極又はアノードの後面に小開口を設け、ビームの透過率を50%以下あるいは30%以下にした。
更に、上記最後の手段において上記カソード直径は60〜200μmの範囲とした。
また、小エミッタンス・高輝度が必要な場合は上記最後の手段においてカソード直径を40μm以下とした。
【0010】
また、上記最後の手段に於いて、カソードを凹面形状とし、上記凹面形状カソードの曲率半径をRccとし、引き出し電極又はアノード電極を曲率半径がRacの球面の一部の形状とし、カソード・引き出し電極又はアノード電極間間隔をDacとしたとき、
Dac + Rac > Rcc > Dac あるいは、
1.125Dac ≦ Rcc ≦0.833(Dac + Rac),を満たすようにした。
更に、上記最後の手段に於いてカソードを光陰極とし、レーザーエネルギーとカソードの仕事関数の差が0.2eV 以下となるレーザ波長のレーザでカソードを励起する様にした。また、
Langmuir limitを超える輝度あるいは高エミッタンスを得るには、電子銃電流Ie (A)をつぎの不等式を満たす範囲に制御した。
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.159Rc3 + 0.35. Rc ≦ 2.5 mm, あるいは
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.255Rc3- 1.17. Rc > 2.5 mm
ここで、電子銃電流を小さくしたい場合は、
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦0.132Rc3 - 0.059 に制御すれば良い。
また、高輝度でエミッタンスも必要な場合は、
0.132Rc3- 0.059 ≦Ie ≦0.159Rc3 + 0.35. Rc ≦ 2.5 mm, あるいは
0.132Rc3- 0.059 ≦Ie ≦0.255Rc3- 1.17. Rc > 2.5 mm に制御すれば良い。
【0011】
また、円形のカソード、凸面形状を有する引出し電極又はアノード電極、円錐台形状のウエーネルト電極を有する電子銃に於いて、上記アノード電極又は引き出し電極とカソード間距離をDac (mm)とした時、次式を満たす電子銃電流Ie (mA)に制御することにより超高輝度を得るようにした。
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦92.8/Dac + 9.28、 Dac ≧3mm、あるいは (16)
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦22/Dac + 32.7、 Dac < 3mm (17)
電子銃電流を大きくしたくない場合は、
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦17.8/Dac -1.51 (18)の範囲が良い。
超高輝度でエミッタンスも必要な場合は、
17.8/Dac - 1.51 ≦ I ≦92.8/Dac + 9.28、 Dac ≧ 3mm、または (19)
17.8/Dac - 1.51 ≦ Ie ≦22/Dac + 32.7、 Dac < 3mm (20)
高エミッタンスを得る条件は、次式を満たす電子銃電流Ieに制御するようにした。
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦117/Dac -8.35, Dac ≧ 4mm, 又は (21)
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦12/Dac + 17.8, Dac < 4mm (22)
上記で電子銃電流を大きくしたくない場合は、
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦17.3/Dac -1.99, (23)
高エミッタンスで輝度も必要な場合は、
17.3/Dac - 1.99 ≦ Ie ≦117/Dac -8.35, Dac ≧ 4mm、又は (24)
17.3/Dac - 1.99 ≦ Ie ≦12/Dac + 17.8, Dac < 4mm (25)
【発明の効果】
【0012】
本発明の電子銃では、Langmuir limit を超える輝度が得られるので、高分解能の電子装置を容易に実現できる。また、エネルギー幅の小さいビームを得られる可能性がある。更に、カソード・ウエーネルトとアノード間の軸合わせを容易に出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明に係る電子銃の概念的断面モデル図である。形状は光軸8の回りに回転対称形で、球面引き出し電極電子銃である。カソード1は電子線放出面が平面円板状で、LaB6,CeB6,W−ZrO等の低仕事関数材料あるいは光陰極である。ウエーネルト電極3は、円錐台の内面の一部の形状であるのは従来の電子銃と共通であるが、その位置と寸法は次の特徴がある。カソードの外周からアノード位置で光軸と交わる仮想的な円錐4を仮定し、この円錐と67.5度の角度差を有し、カソード外周でこの仮想円錐と接する仮想円錐台2を仮定し、その外側に3で示したウエーネルトを設けた。円錐4は近似的にビームの外周である。ビーム外周面は、ビーム電流を変えると変化するため仮想円錐は上記の様に定義した。また、仮想面2とウエーネルトとの同じZ位置での半径差はカソード側で小さく引き出し電極側で大きくした (図7の結果) 。引き出し電極のカソード側端9には放電を避けるため曲面にした。引き出し電極5は、曲率半径 4.4 mmの球面の一部の形状でビームが通る穴は光軸と平行な半径0.28 mmの穴とした。引き出し電極のアノード側の面6とアノード面の引き出し電極側の面7は平行平面とし、これらの電極間の軸合わせのズレが電子銃特性への影響が最小になる様にした。カソード1はウエーネルト3に対して組み込み前に大気中で軸合せ可能の構造とし、引き出し電極5もウエーネルト電極と同様の軸合せ可能にした。これら3電極とアノードとは図示の無い電子銃外側に設けた微調整機構によってビームを見ながら軸調整を行えるようにした。
【実施例1】
【0014】
【表1】
表1は、図1の電子銃モデル例である。このようなモデルでMEBS社シュミレーションソフト“Source”を用いて、計算を行った。また、”sourcea”を行うための条件も表1の最後に 3f.con に記載した。表1、2で太字はパラメータとして変化させた箇所である。シミュレーション手順は、 ・ ウエーネルト電圧をある値に設定し、”SourceV を実行するとカソード電流あるいは電子銃電流:Ie が算出される。
・ “SourceA“を実行するとカソード電流密度 Jc とクロスオーバ径 Dco、クロスオーバ位置:Zco が算出される。
・ “SourceB”を実行すると輝度の放出角度依存性が出力される。軸上輝度Bと輝度が軸上輝度の90%又は110%になる放出角を読み取り、該放出角と上記クロスオーバの積からエミッタンスを算出する。
図1のモデルでの電子銃及び従来の凸形カソード電子銃での代表的なシミュレーション結果を図2に示した。アノード電圧:4.5 kV,カソード:0V, 引き出し電圧:7 kV,ウエーネルト電圧を変えてビーム電流を変化させた。ビーム電流を変えて輝度を変化させた。図2で横軸は輝度(1000 A/cm2sr), 縦軸はエミッタンス(μmmrad)、である。図1で、引き出し電極曲率:4.4 mmR, カソード・引き出し電極間距離:1.5 mmである。
曲線21と24はカソード半径80μm、曲線22と25はカソード半径40μm、曲線23と26は、カソード半径30μm、の球面引き出し電極電子銃である。曲線27,20は曲率半径30μm、曲線28と29は15μmの曲率半径の球面形状の凸型カソード・平面アノード電極電子銃である。曲線21、22,23,27,28は輝度―エミッタンス特性であり、曲線20,24,25,26,29が輝度―カソード電流密度特性である。通常の電子銃特性の表示では、横軸を電子銃電流にし、縦軸に輝度とエミッタンスとカソード電流密度を3本の曲線で表示するのが多い。本図では、輝度とエミッタンスの関係や輝度とカソード電流密度との関係がすぐに分かる様にこの様な表示をした。
【0015】
輝度―エミッタンス曲線では、図の右あるいは上の曲線の性能が良く、輝度―カソード電流密度特性では図の右、あるいは下の曲線が高性能である。
この図で次のような事が言える。
・ 平面カソード球面引き出し電極電子銃は、凸型球面カソード平面アノード電極電子銃に比較して同じ輝度を出すのに小さいカソード電流密度:Jc(A/cm2)でよいのは20(30μmR凸カソード)、29(15μmR凸カソード)と24(80μmR平面カソード)、25(40μmR平面カソード)、26(30μmR平面カソード)とを比較すれば明らかである。
・ 球面引き出し電極電子銃は平面アノード電極電子銃より、同じ輝度のときエミッタンスが大きくなる。21(80μmR平面)、22(40μmR平面)、23(30μmR平面)と27(30μmR凸)、28(15μmR凸)とを比較すれば明らかである。特に、高輝度条件(曲線の右側)では圧倒的に球面引き出し電極電子銃が高エミッタンスである。
・ 19はカソード温度:1800K,加速電圧:4.5kVでのLangmuir Limit(後に述べる)である。従来の平面アノード電子銃では輝度―カソード電流密度特性は直線19の右側に出ることが無い、しかし、球面アノード電子銃では輝度―カソード電流密度特性が直線19の右側にあるので、この電子銃の性能がわずかではあるが良いことを示している。
図3は本発明の高輝度、高エミッタンス電子銃が使用される電子光学系である。高エミッタンスを有効利用して1本の光軸のまはりに多くのマルチビームを形成できる。当然光軸から離れた位置にもビームが形成されるので、1本のビームの場合より細かい注意が必要である。電子銃はカソード1、ウエーネルト3、引き出し電極5、アノード7を有する球面引き出し電極電子銃である。電子銃から放出されたビームは軸あわせ偏向器34でコンデンサレンズ35に軸合せされる。該レンズ35で収束されたビームは2段の軸合せ偏向器36,37で第2コンデンサレンズ38とマルチ開口42に軸合せされる。マルチ開口で成型されたマルチビームは回転調整レンズ49,52で縮小され、2段の軸合せ偏向器53,54でNA 開口55と縮小レンズ56への軸合せが行われ、レンズ56からの距離がレンズから開口までの距離にほぼ等しい位置57にマルチビームの縮小像を作り、静電偏向器58と電磁偏向器40とで光軸のオフセットが修正され、対物レンズ41に垂直入射し、試料面61にマルチビームを照射し走査する。試料面を走査するのは、静電偏向器58に重畳された走査信号と静電偏向器33とで行われる。32はマルチビームの軸上色収差を低減するための軸対称電極で、正の高電圧が印加される。試料面から放出された2次電子は電磁偏向器40及び43で一次光学系から離され静電偏向器48で垂直に直される。対物レンズ41、静電レンズ62、及び2段レンズ45,51で拡大され検出器46で各マルチビームからの2次電子が独立に検出される。
対物レンズ41は、レンズギャップ(不図示)が試料61の側に形成された電磁レンズであり、軸上色収差が小さく、さらに、軸対称電極32に高電圧を印加することにより、軸上色収差がより低減される構成を有している。
【0016】
図4は図3の電子光学系の1次系のみを光軸のオフセットと該オフセットを補正する偏向を無視した図を詳細にした図である。図4で147はマルチ開口42の結像を示す線である。148はクロスオーバの結像を示した線である。電子銃から放出されるビームのクロスオーバを2段のレンズ35及び38でマルチ開口42の後方で拡大像を作り、かつ調整可能にした。この結果、マルチ開口での電流密度を大きくし、照射強度一様性の良い領域をマルチ開口全体に丁度広げる調整を可能にした。
第2コンデンサレンズ38とマルチ開口42は間に軸合せ偏向器が入らない程度に狭い。コンデンサレンズ38の上に2段の偏向器36,37を設け、142で示した様にマルチ開口を偏向中心にした軌道とレンズ38を偏向中心とする軌道141とを選択可能にした。従って、開口への軸合せを行ったとき、レンズ軸は狂はず、レンズへの軸合せを行ったとき開口へのアライメントが狂はない。
【0017】
回転調整レンズ49,52は接近して設けるので間に軸合せ偏向器は入らない。これらのレンズの上方に2段の偏向器47を設け、上のレンズを偏向中心とする軌道144を選定すれば、レンズ52の軸合せを行ったとき、レンズ49の軸が狂はない。また、レンズ52を偏向中心である軌道143をとるようにして上のレンズ49の軸合せを行った時、下のレンズ52の軸が狂うことが無い。
【0018】
NA開口55と縮小レンズ56を接近して設けるが、これらの上に2段の偏向器53、54をもうけ、軌道145と軌道146を選択可能にした。この結果、縮小レンズ56の軸合せを行ったとき、NA 開口の軸が狂わず、NA開口への軸合せの時レンズ56の軸は狂わない。このように、2つの光学部品を接近させて配置したので、光路長が短くなり、空間電荷効果によるビームボケが小さく抑えられた。また、2段の光学部品の上に2段の偏向器を設けたので、2段の光学部品への軸合せは容易になった。
【0019】
図5は図3の光学系の2次光学系のみを光軸のオフセットと該オフセットを補正する偏向を無視単純化した図である。実線132は2次電子像の結像条件を示したもので、点線131は試料面から垂直に放出された2次電子の軌道で、最終拡大レンズ51の主面近傍でこれらの軌道が光軸と交差するようレンズ45の励起条件を決めるようにした。この結果、本発明の高エミッタンス電子銃を用い、光軸から遠い位置に設けたマルチビームからの2次電子像も低収差で像形成ができ、光軸上と同様の2次電子検出ができた。2段の偏向器59は静電偏向器で構成され、1次ビームの走査に同期して、2次ビームの軸を走査に依存せず1定に保つためのものである。この2段の偏向器59の調整は、1次ビームを走査視野の端に固定し、まず、レンズ45を偏向中心とする2段の偏向器59の偏向比1とレンズ51を偏向中心とする2段の偏向器59の偏向比2を求め、次に偏向比2で2段の偏向器を動作し、レンズ45のレンズ中心を求める。更に、偏向比1で2段の偏向器を動作し、レンズ51のレンズ中心を求める。これで視野の端での補正量が決定された。走査視野の任意の位置での補正量は、上記補正量を視野の光軸からの距離で内挿すればよい。調整後の軌道を135に示した。視野の端から出た主光線136も偏向器59の前段を過ぎた後は134の軌道になり、59の後段を過ぎた後は光軸上133を進行する。レンズ51の後方に偏向器137を設け正確に検出器に位置合せしても良い。
【0020】
図6は球面引き出し電極電子銃のカソード半径をパラメータとしたシミュレーション結果である。アノード電圧4.5 kV,カソードは0V, 引き出し電圧7kV,ウエーネルト電圧を変えて電子銃電流を変化させた。図6で横軸は輝度(1000 A/cm2sr), 縦軸はエミッタンス(μmmrad)、及びカソード電流密度:Jc (A/cm2)である。71と77は平面カソード半径100μmR、72と78は平面カソード半径80μmR、73と79は、平面カソード半径60μmR、74と80は平面カソード半径40μmR、75と70は平面カソード半径30μmR、76と69は、平面カソード半径20μmR、の球面引き出し電極電子銃である。図の上側の曲線群は輝度―エミッタンス特性であり、下側の曲線群は輝度―カソード電流密度:Jc特性であるのは、図2、図7、図8も共通である。図で曲線73,74はそれぞれ60μmR と40μmR の輝度・エミッタンス特性であり、曲線79,80,70,69は順にそれぞれ60,40,30及び20μm半径 の輝度・カソード電流密度特性である。
【0021】
曲線群77、78、79、80、70,69を見れば明らかな様にカソード半径が小さい電子銃の方が同じカソード電流密度Jcで高輝度になることがわかる。また、カソード半径の大きい方が高エミッタンスになる。したがって特に高輝度が欲しい場合は、カソード半径を小さくすれば良く、逆に特に高エミッタンスが欲しい場合は、カソード半径を大きくすれば良い。細かく見れば、30μmRの輝度ーエミッタンス特性75は20μmRのそれ76より、おなじ輝度でエミッタンスが1.5倍あり、マルチビーム用では明らかに30μRが20μR半径のカソードより有利である。また、輝度・エミッタンス特性で100μmR:71と80μR:72では、ほとんど差はなく、輝度・カソード電流密度特性で同じ輝度を得るのに80μmR:78は、100μmR:77より小さいカソード電流密度である。したがって80μmRは100μmRより有利である。以上のデータから、マルチビーム用カソードとしては30μmR から80μmRの範囲で、輝度を優先するかエミッタンスを優先するかでカソード半径を決めればよい。
ビーム数が少なくてよい特殊な用途あるいは単ビームでは、輝度が曲線の右端近くで3.8x105A/cm2sr まで伸びている20μmR が良い。
【0022】
図7は30μmRカソードの電子銃についてウエーネルトの開き角度を変化させたシミュレーション特性である。横軸、縦軸、輝度の変化方法、その他は全て図2や図6と同じである。ウエーネルトの引き出し電極側R座標:Rwaは、8.5mm(81,86)、Rwa:9.5mm(82,87)、Rwa:10.5mm(83,88)、Rwa:11.5mm(84,89)、及びRwa:12.5mm(85,80)である。これらは、前記仮想円錐:4との角度差は順に66.5度、68.1度、70.5度、72度、74度である。図1の仮想円錐4との角度差が従来最適と考えられている67.5度に比較して、Rwa:8.5mmは67.5度より小さく、Rwa:9.5、Rwa:10.5,Rwa:11.5及びRwa:12.5mmは67.5度より大きい。
【0023】
曲線81,82,83,84を比較するとエミッタンスが最大になる輝度の値は、Rwaが大きいほうが高輝度であるのが見られる。従って図1の仮想円錐4との角度差が従来最適と考えられている67.5度より大きいほうが良い特性であることがわかる。言い換えれば、上記仮想円錐台とウエーネルトとの同じZ位置での半径差は、カソードに近い側が小さく、引き出し電極側で大きくするのが良いと言える。また、Rwa:12.5mmについては、エミッタンスは小さいが、輝度が4x105 A/cm2sr を超えるのでマルチビームの数が少ない場合あるいは単ビームでは利用価値がある。
【0024】
図8はカソード面が図6、図7の平面の場合と異なり曲率半径5mmRの凹面形状である。ウエーネルトの引き出し電極側R座標:Rwa は10.5mmに固定した。曲線91,92,93,94,95と96及び、97,98,99,100,101及び102は順にカソード半径は、100μmR、80μmR、60μmR、40μmR、30μmR及び20μmRである。曲線91〜96は輝度―エミッタンス特性であり、曲線97〜102は輝度―カソード電流密度特性である。縦軸はカソード電流密度:Jc(A/cm2)である。カソード半径20μmR の96は30μmRの95より下に位置し、同じ輝度でエミッタンスが小さく、良くない。30μmRから100μmRまではカソード半径の増加に従って輝度は順次小さくなるが、エミッタンスが大きくなる。特に、100μmR の91は、輝度が2.8x105 A/cm2sr で400μmmradに達するエミッタンスが得られた。20μmRは特に高輝度が必要な場合は利用価値がある。結論としては、球面引き出し電極電子銃では凹面カソードは、20μmRから100μmRのカソード半径でよい特性を示す。特にこの電子銃構造はエネルギー幅の小さいビームが期待されることを次に述べる。
【0025】
図9はR方向を拡大して表示した電子軌道のシミュレーションである。(A)は従来の3電極、凸面カソード(15μmR)電子銃での代表的な軌道特性である。光軸に垂直な細い線は等電位面で、カソード面が0V,順に50V, 100V, 150V, 200V, 250V・・・である。カソード表面での電流密度が高く、更に50Vの等電位面付近でクロスオーバを形成している。この場合、電子のスピードがまだ小さい時に電流密度が大きいので電子同志の衝突が盛んに起きエネルギー幅が拡がる事が予想される。
これに対して、(B)は球面引き出し電極電子銃(半径100μmR、5mmR凹面カソード)の電子銃での電子線軌道である。1はカソード、4は図1で定義した仮想円錐、3はウエーネルト、5は引き出し電極である。カソード表面でビーム径が最大で、引き出し電極:5側に進むに従ってビーム径が小さくなり、引き出し電極:5より後方で最小ビーム径を形成する。同じ輝度では球面引き出し電極電子銃のカソード電流密度が小さいことは図2の輝度ーカソード電流密度特性から明らかである。電子速度が小さいカソード付近で電流密度が小さく、電流密度が高くなるのは電子速度が十分大きくなり、電子同志の相互作用が小さくなった場所即ち、引き出し電極より後方であるからエネルギー幅の拡がりかたは小さくなると十分予想できる。またカソードを光陰極とし、(レーザーエネルギーカソードの仕事関数)が0.2eV 以下となるレーザ波長のレーザでカソードを励起すると室温でカソードを動作できるので、エネルギー幅はさらに小さくなる。
【0026】
図10は図2、図6、図7、図8の球面引き出し電極電子銃の実モデルである。カソードから垂直に出た電子軌道と等電位面も示されている。カソード温度:1800 K。 カソード仕事関数2.36 eV、Richardson 定数:43でMEBS社シュミレーションソフト“Source”を用いて、Space charge:on、でシミュレーションを行った。ウエーネルトの位置と寸法を次に示す。
カソード側ウエーネルト座標Zwc: 0.5 mm(=カソード位置)、Rwc: 0.12mm
引き出し電極側ウエーネルト座標Zwa: 4.5 mm(カソード位置)、Rwa: 10.5 mmただし図7では8.5から12.5mmの範囲で可変。メッシュ数は、Z 方向:200、R 方向:60 。ビームエネルギー:4.5 keV 、ウエーネルト電圧:-10 〜-800 V、電子銃電流:0.001〜5 mA で輝度が図の値になるよう変化させた。その他、特性にあまり関係の無い寸法は、もし必要ならこの図で、引き出し電極曲率半径:4.4 mmから算出できる。
【実施例2】
【0027】
図11はカソード及び引き出し電極が球面形状の電子銃の第2の実施の形態である。この電子銃は、放射光源の入射器に用いる電子銃の様に、高輝度大電流電子銃に関する。ERL放射光源の入射用に用いる電子源あるいはx−線源用の高電流密度電子銃に適している。111はカソード、112は引き出し電極、113,114はウエーネルト電極、115は光軸でこの軸の周りに回転対称である。116はターゲットである。このモデルの詳細は表2に示した。
【0028】
【表2】
シミュレーション手順は、
1)ウエーネルト電圧をある値に設定し、引き出し電極電電圧をパラメータとし設定して”SourceV を実行するとカソード電流 Ie が算出される。
2)“SourceA“を実行するとカソード電流密度 Jc とクロスオーバ径Dco、クロスオーバ位置:Zco が算出される。
3)“SourceB”を実行すると輝度の放出角度依存性が出力される。軸上輝度Bと。輝度が軸上輝度の90%又は110%になる放出角を読み取り、該放出角と上記クロスオーバの積からエミッタンスを算出する。
【0029】
図12はPierceタイプ電子銃と非Pierceタイプ電子銃のシミュレーション結果を比較したものである。カソード曲率半径をRcc, カソード・アノード間隔をDac,アノード又は引き出し電極曲率半径をRacとすると、前者では、Rcc, Dac 及びRacはそれぞれ、6mm、4mm、及び2mmであり、Rcc = Dac + Racを満たし、後者ではRcc, Dac 及びRac はそれぞれ、5mm、4mm、及び2mmであり、Rcc < Dac + Racである。
121,122、及び123は非Pierceタイプの特性で、順に輝度(104 A/cm2sr)、エミッタンス(μmrad)及びカソード電流密度:Jc(A/cm2)である。124,125及び126はPierceタイプ電子銃で、順に輝度(104 A/cm2sr)、エミッタンス:E(μmrad)及びカソード電流密度:Jc(A/cm2)である。121と124を比較すれば明らかなように、電子銃電流Ieが0.9A以上では非Pierceタイプの輝度はPierceタイプの輝度の1桁以上の値を示している。カソード電流密度には両者殆ど差は無く、エミッタンスはPierceタイプの輝度が小さいIeの領域で大きい。高輝度が必要な電子銃では、Rcc < Dac + Racを満たす非PierceタイプがPierce type 電子銃より遙かに有利であり、特に電子銃電流が0.8 A以上では圧倒的に非Pierceタイプが有利である。カソード電流密度では、6 A/cm2以上に相当する。
【0030】
図13は図12のデータを用い、輝度を横軸、縦軸にエミッタンス(μmrad)又はカソード電流密度:Jc(A/cm2) で表示したものである。231及び232は非Pierceタイプの順に輝度―エミッタンス特性及び輝度―カソード電流密度特性である。130はLangmuir
Limitであり、式(-1)
Bmax = Jc(1+eΦ/kT)/π (-1) で示される理論的最大輝度(A/cm2sr)であり、従来の理論ではこの直線の右側には輝度―カソード電流密度曲線は存在しない筈である。ここでJcは本明細書での記号と同じく、カソード電流密度(A/cm2), e: 電子の電荷(1.6x10−19クーロン)、Φ:ビームエネルギー(eV), k: ボルツマン定数1.38x10−23(J/K)、T:カソード温度(K)である。非PierceタイプのB-Jc特性232はLangmuir Limit130の右側に曲線が存在するが、PierceタイプのB-Jc 特性234は、Langmuir Limit130の右側に曲線は存在しない。233はPierceタイプの輝度―エミッタンス特性である。
なぜ非Pierceタイプが従来の理論に合わないかは、次のように説明できる。即ち、(-1)式は、電子銃が光学モデルに厳密に従う場合に成立し、たとえば、後に軌道を示す様に層流モデルに近い場合には成立しないからである。光学モデルでは、カソードからの電子軌道は、まずクロスオーバを形成し、その後カソード像を形成する。従って軌道は光軸と何回も交差する。これに対して層流モデルでは、軌道は光軸と交差しないのが特徴である。従って、層流モデルに近い電子銃ではLangmuir Limitを超えても不思議ではなく、逆に、超高輝度を得るには、層流に近い軌道に制御すればよい。
【0031】
カソード曲率半径がどの範囲で超高輝度が得られるかを調べるためカソード曲率半径を4mmから6mmの間を0.2mm間隔で変化させシムレーションを行った。アノード・カソード間距離Dac は4 mm, アノード曲率半径Rac は2mmに固定した。図14はカソード曲率半径Rccを4.2 mm、4.4 mm、5.6, 及び5.8 mmとした場合のシミュレーション結果である。241はカソード曲率半径Rccが4.2 mmの場合,242はカソード曲率半径Rcc が5.8 mmの場合,243, 244はカソード曲率半径Rcc が4.4, 5.6 mmの場合である。太い実線は輝度のIe依存性であり、破線はエミッタンスのIe 依存性であり、細い実線はカソード電流密度JcのIe依存性である。Rccが4.2 mmと5.8 mmの場合は241と242の太い実線に示したように、輝度が他の2つの輝度に比べて大幅に小さい。特にIe
が大きい場合は、Rccが4.4 mm(243)、5.6 mm(244)の電子銃は4.2 mm及び5.8 mmの場合に比較して2桁以上大きい値が得られている。カソード電流密度Jcは4者ともほぼ同じ値であり、エミッタンスは、4.2 mmと5.8 mmの曲率半径での値が、輝度の小さい場合に大きい値である。高輝度が必要な場合は、Rccが4.4から5.6 mmの範囲が良い。この範囲を式で表すと次式になる。
1.1 Dac ≦ Rcc ≦ 0.9666 (Dac + Rac) の場合である。
【0032】
図15は、図14のデータを横軸に輝度、縦軸をエミッタンス(μmrad)又はカソード電流密度(A/cm2) で表示したものである。151はRccが4.2 mm、152は5.8 mm、153, 154は4.4, 5.6 mmで、ほぼ右下がりの曲線はいずれもB-E特性であり、僅かに増加関数の曲線がB-Jc特性である。158は1850 K, 3keVのLangmuir Limitである。B-Jc 特性151と152は直線158の右側にはなく、153、と154は158の右側に出ている。従って、Rccが4.4 mmより大きく5.6mmより小さい場合のみ超高輝度が得られた。
この結果と図12、図13での結果を総合すると、カソード曲率半径Rcc は、次式を満たす場合に超高輝度が期待される。
1.1 Dac ≦ Rcc ≦ 0.9666 (Dac + Rac)
【0033】
光陰極の場合は、室温でカソードを動作できるので、カソードから放出される電子のエネルギー幅が小さく、高輝度が期待できる。図16は(レーザーエネルギー―カソード仕事関数)が0.2 eV 以下になるレーザ波長とカソード仕事関数の組み合わせを選んだ場合のシミュレーション結果である。この組み合わせは、たとえば、CeBix とKr(クリプトン)レーザあるいは、LaB6 とAr レーザの組み合わせ等がある。161,162,163及び164は順にRccが4, 5.6, 4.2及び5.4 mmの場合であり、太い実線はいずれも輝度B(105 A/cm2sr)の電子銃電流Ie依存性であり、破線はエミッタンス(μmrad),細い実線はカソード電流密度Jc(A/cm2)である。カソード・アノード間距離Dacは4mm、アノード曲率半径Racは2mmに固定した。輝度の特性に注目すると、161と162は2x106以下の小さい値であるのに対して,163と164は1x107を超える大きい値になっている。 Dacは4mm、Racは2mmであるから、161はRcc = Dacであり,163はRcc = 0.933 (Dac + Rac) である。163,164はRccが1.05 Dacよりは大きく、0.9 (Dac + Rac)より小さい範囲に入っている。破線のエミッタンスは、高輝度では小さく、低輝度では比較的大きな値を示し、シミュレーションの正しさを表している。光軸近くのカソード電流密度は、ほぼ4条件で近い値であり、細かく見れば、同じIeではRccが4mm、4.2mm、5.4mm、5.6mmの順に大きくなっている。これはカソード曲率が大きいとカソード周辺部とアノード間距離が遠くなり、周辺部からの電子放出が小さくなるためである。
【0034】
図17は、図16のデータを横軸に輝度(105 A/cm2sr)、縦軸にエミッタンス(μmrad)又はカソード電流密度(A/cm2) で表示したものである。曲線171,172,173,及び174は順にRccが4, 5.6, 4.2及び5.4 mmに対応する。僅かに右上がりの線は輝度―カソード電流密度であり、ほぼ右下がりの曲線は輝度―エミッタンスである。175は3kV, 300KでのLangmuir Limitであり、この直線の右にある輝度―カソード電流密度の曲線はこの限界を超えている。171と172の実線は175の線の右には出られず、173と174即ち4.2mmと5.4mmのRccの電子銃でLangmuir Limitを超える輝度が得られている。従ってカソード曲率半径Rccは、図16での説明のように次式を満たせば高輝度が得られる。
1.05 Dac ≦Rcc ≦ 0.9 (Dac + Rac) (2)
【0035】
図18はPierce Type電子銃で、カソード表面の法線から45度の角度で、1850Kに対応する初期エネルギー(0.158eV)で放出された電子の軌道を描いたものである。カソードから放出されたすべての電流は365μmΦにターゲットで収束している。このモデルは、図11のウエーネルト電極を円錐台113と円盤114の組み合わせとし、113の円錐角を最適化した結果である。Ie: 1.26 Aが365μmΦの円に一様に分布したと仮定するとターゲットでの電流密度は1200 A/cm2になる。実際は一様分布ではないのでこの数倍の電流密度になっていると期待できる。カソード電流密度Jcは、10.1 A/cm2であり、120倍の電流密度になっている。
【0036】
図19はカソード曲率半径Rccを4.5 mm即ち非Pierce Typeにした場合である。カソードでの電流密度9.2 A/cm2に対して、2172 A/cm2 のターゲットでの電流密度が得られた、カソードでの密度の236倍である。
【0037】
図20は光陰極電子銃の場合で、LaB6カソードとArレーザの組み合わせを想定したシミュレーションで、引き出し電圧は25 kV,ターゲットは3kVである。カソード電流密度:Jcが8.62 A/cm2をターゲットで3510 A/cm2に収束できた。電流密度は、407倍に高密度になった。この様に光陰極の場合もカソード曲率半径を前記(2)式を満たす範囲に設定することにより、高密度にビームを収束できた。また、カソードからのビーム径が単調に減少し、引き出し電極より後方で最小ビーム径を形成するよう制御したので、速度の小さいカソード付近では電流密度が小さく、最小ビーム径ではビーム速度が充分大きくなった後に形成されるので、電子ー電子の相互作用が小さく、ベルシェ効果によるエネルギー幅の拡がりの小さいビームが得られる。また、最小ビーム径位置で、従来のクロスオーバの様に軌道が光軸や他の軌道と交差しないので電子・電子の相互作用が更に小さく、空間電化効果によるエネルギー幅の拡がりの更に小さいビームが得られる。尚、カソード外周部からのビームは下流の光学系の開口で除かれるので、少なくともカソード中心部からの軌道が光軸と交差しなければ良い。
【0038】
図21は、光陰極電子銃の場合で従来の凸面形状カソード・平面アノードの電子銃と、本発明の平面カソード・凸面アノード電子銃即ち図1のモデルとの比較である。210はカソード曲率半径:Rccが15μm、211はRccが30μmの凸面カソードであり、212,213,214はカソード半径がそれぞれ30μm、60μm及び80μmの平面カソード・凸面アノード電子銃である。従来の凸面形状カソード・平面アノードの電子銃210,211では輝度はカソード電流Ieの単調増加関数で、1x107A/cm2srに達していないのに対して、平面カソード・凸面アノード電子銃212、213,214では3mA 以下の比較的小さいIeで1x107A/cm2srを超える高輝度が得られている。
【0039】
図22は、図21の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。220は15μmRcc、221は30μmRccの凸面カソードであり、曲線222,223,224はカソード半径がそれぞれ30μm、60μm及び80μmの平面カソード・凸面アノード電子銃である。
点線の直線は300 K, 4.5 keVでのLangmuir Limitである。凸面カソード220と221では、輝度―カソード電流密度の細い線は、常にLangmuir Limitの直線の左側にあるのに対して、凸面アノード電子銃222,223,224の場合は、細い線がLangmuir Limit
の右側に存在し、小さいカソード電流密度で高輝度が得られている。エミッタンスも224では2x106 A/cm2sr で 、223では3x106で90μmmrad に達している。
【0040】
図23は、平面カソード半径Rc:60μm、カソード・アノード間隔Dac:1.5mm、4.4 mmアノード曲率半径の光陰極電子銃で、ウエーネルト角度を変化させた場合のシミュレーション結果である。ウエーネルトのカソード側座標は、Zwc:0.5, Rwc: 0.11に固定し、アノード側座標Rwa: 10mm(固定)、Zwa: 1, 2, 3, 4, 4.5, 5.5 と変化させた。ウエーネルトと光軸との角度は、それぞれ 87.1, 81.4, 75.8, 70.5, 68, 63.2 度であり、カソード端からアノード位置で光軸と交わる線の光軸との角度:2.3度を加算すると、ビーム端とウエーネルト角との差が算出され、それぞれ、89.4, 83.7, 78.1, 72.8, 70.3, 65.5 度となり、これらの条件でシミュレーションした。結果は順に、曲線239、238、237,236,235及び230に示した。ビーム端とウエーネルト角との差が小さい方が小さいカソード電流で高輝度が得られているのが分かる。89.4度を除き、ビーム端とウエーネルト角との差が小さいと最高輝度は小さくなる傾向である。特に65.5度の場合は、高輝度が得られるIeの値は70.3度とあまり変わらず、最高輝度が1/10以下になっている。この結果から、108 A/cm2srを超える輝度が得られるビーム端とウエーネルト角との差は、従来良いと考えられていた67.5度より大きい角度が良いと言える。
【0041】
図24は、図23の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。 241は300K, 4.5keVでのLangmuir Limitである。曲線249, 248, 247, 246, 245,及び244 はそれぞれビーム端とウエーネルト角との差が89.4, 83.7, 78.1, 72.8, 70.3, 65.5 度に対応する。65.5度の条件でも一応Langmuir Limit を超えている。ウエーネルト角が平面に近づけるほうが高輝度になるカソード電流密度が小さくなっている。これはIeが大きくなる図23の結果と一見矛盾しそうだが、ここでのカソード電流密度は、光軸近辺での値であって、カソードの平均密度ではないので矛盾はない。つまり、ウエーネルト角が開いていると、カソード周辺での電流密度が増加し、光軸近辺で小さいカソード電流密度でもIeを大きくしていると言える。65.5度では、Langmuir Limitは超えているが、カソード電流密度が30 A/cm2を超え、しかも同じ輝度でのエミッタンスの値が他の角度の電子銃に比較して小さく、大きいビーム電流を得るのに適さない。以上図23,24の結果から、ビーム端とウエーネルト角との差が、67.5度より大きいほうが良い。
【0042】
次に、カソード温度は1800Kに戻し、ビーム端とウエーネルト角との差を75.4度に固定し、超高輝度及び超高エミッタンスが得られる条件をカソード半径とカソード・アノード間隔Dacを変えて調べた。アノード曲率半径は、4.4mmである。図25はカソード・アノード間隔Dacを5.5mmに固定し、カソード半径Rcを15μmから960μmまで2倍ずつ変化した場合の結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの細線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線251, 252, 253, 254, 255, 256, 及び257 はそれぞれ15, 30, 60, 120, 240, 480,及び 960μmRcのカソード半径である。すべてのカソード半径電子銃で、Ieを増加すると、まず高エミッタンス条件になり、さらにIe を増加すると高輝度条件が現れる。15から120μmRcの範囲では、高輝度条件になるカソード電流密度はほぼ同じであるが、120から960μmRcでは高輝度になるカソード電流密度はカソード径の増加に伴って減少する。各カソード半径での最高エミッタンス条件、最高輝度条件になるIeの値を図25から読み取り表3にまとめた。
【0043】
【表3】
【0044】
図26は、図25の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。破線は1800K, 4.5 keVでのLangmuir limitであり、ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。曲線261, 263, 265, 及び267 はカソード半径Rcがそれぞれ15, 60, 240, 及び960μmに対応する。カソード半径の大きい電子銃では小さいカソード電流密度で高輝度及び高エミッタンス条件になり、同じ輝度条件では、エミッタンスが大きくなる傾向である。このDac条件では、例えば、1x105 A/cm2srの輝度でエミッタンスが100μmmrad 程度と小さく、高エミッタンスが必要な場合は適さない問題がある。また、エミッタンスが1000 mradμmのとき、輝度が2.5x10-2A/cm2sr と小さいので、高エミッタンス時高輝度も必要な場合にも適さない。
【0045】
図27はカソード・アノード間隔Dacを1mmに固定し、カソード半径Rcを15μmから960μmまで2倍ずつ変化した場合の結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの実線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線271, 272, 273, 274, 275, 276, 及び277 はそれぞれ15, 30, 60, 120, 240, 480,及び 960μmRcのカソード半径である。すべてのカソード半径電子銃で、Ieを増加すると、まず高エミッタンス条件になり、さらにIe を増加すると高輝度条件が現れる。15から120μmRcの範囲では、高輝度条件になるカソード電流密度はほぼ同じであるが、120から960μmRcでは高輝度になるカソード電流密度はカソード径の増加に伴って減少する。高エミッタンス条件、高輝度条件になるIeの値を図27から読み取り表3にまとめた。
【0046】
図28は、図27の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。右上がりの直線は1800K, 4.5keVでのLangmuir limitであり、ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。曲線281, 283, 285, 及び287 はカソード半径Rcがそれぞれ15, 60, 240, 及び960μmに対応する。カソード半径の大きい電子銃では小さいカソード電流密度で高輝度及び高エミッタンス条件になり、同じ輝度条件では、エミッタンスが大きくなる傾向である。このDacの条件ではカソード電流密度が、19〜55A/cm2と大きくなる問題点がある。
【0047】
図29はカソード・アノード間隔Dacを3mmに固定し、カソード半径Rcを15μmから960μmまで2倍ずつ変化した場合の結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの細線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線291, 292, 293, 294, 295, 296, 及び297 はそれぞれ15, 30, 60, 120, 240, 480,及び 960μmRcのカソード半径である。すべてのカソード半径電子銃で、Ieを増加すると、まず高エミッタンス条件になり、さらにIe を増加すると高輝度条件が現れる。15から120μmRcの範囲では、高輝度条件になるカソード電流密度はほぼ同じであるが、120から960μmRcでは高輝度になるカソード電流密度はカソード径の増加に伴って減少する。高エミッタンス条件、高輝度条件になるIeの値を図29から読み取り表3にまとめた。
【0048】
図30は、図29の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。300は1800K, 4.5keVでのLangmuir limitであり、ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。曲線301, 303, 305, 及び307 はカソード半径Rcがそれぞれ15, 60, 240, 及び960μmに対応する。カソード半径の大きい電子銃では小さいカソード電流密度で高輝度及び高エミッタンス条件になり、同じ輝度条件では、エミッタンスが大きくなる傾向である。このDacの条件ではカソード電流密度は、10A/cm2以下でありカソード電流密度が大きい問題点はなく、また、エミッタンスも105 A/cm2srの輝度で1000μmmrad 程度であり、高エミッタンスが必要な場合にも問題が無い。当然高エミッタンス時、高輝度が必要な場合も適切である。
【0049】
図31は、表3の数値をグラフにしたものである。横軸はカソード半径Rc(μm)であり、縦軸は各カソード半径電子銃での最大輝度と最大エミッタンスをあたえる電子銃電流:Ie(Bmax)mA, とIe(Emax) mA,であり、前者を実線、後者は破線で表示した。310はRcが120〜960μmの範囲でDacが1mmでのIe(Bmax)の値の分布を最小自乗法で直線表示したものである。313及び314はDacがそれぞれ3mmと5.5mmでの同様の直線である。最大エミッタンスを与える電子銃電流Ie(Emax)は、120から480μmの範囲では直線に乗ったが、960μmは同じ直線に乗らず、別の線で示した。Dacが1mmを311と312で表し、Dac:3mm を316と315で表し、Dac; 5.5 mmを317と318で示した。以上の直線は次のようになる。
310の直線は、Ie(B max)=.0332Rc + 8.1 ただしRcをμm、IeをmAとした。
314の直線は、Ie(B max)=.0294Rc - 1.3, 313の直線は、Ie(B max)=.0353Rc + 0.8,
311の直線は、Ie(E max)=.0322Rc + 6.8, 312の直線は、Ie(Emax)=.0191Rc + 13.2
316の直線は、Ie(Emax)=.0255Rc -1.2, 315の直線は、Ie(Emax)=.0202Rc + 1.6
317の直線は、Ie(Emax)=.0226Rc - 1.7, 318の直線は、Ie(Emax)=.007Rc + 5.9
Dacを1mmにした場合、最大輝度は、Ie(B max)=.033Rc + 8.1で得られ、Dacを5.5mmにした場合は、Ie(B max)=.0294Rc -1.3 で得られるから、Dacの1mmから5.5 mmの範囲では、
0.0294Rc - 1.3 ≦ Ie ≦ 0.0332Rc + 8.1 (1)
に最大輝度を与える電子銃電流がある。カソード電流密度を大きくしたくない場合は、[0047]の記述からDacを3から5.5mmの範囲にすればよいので、不等号の右側が313の式に変更され、
0.0294Rc - 1.3 ≦ Ie ≦0.0353Rc + 0.8, (2)
にすれば超高輝度が得られ、エミッタンスも必要な場合は、(0047)の記述からDacを1から3mmにすればよいので、最大輝度は(1)式の不等号の右側が313の式に変更され、
0.0353Rc + 0.8 ≦Ie≦ 0.0332Rc + 8.1 (3)
とすればよい。
最大エミッタンスを得る条件は次の様になる。Dacを1mmにした場合は、
直線311: Ie(Emax)=.0322Rc + 6.8, 但し 120≦ Rc ≦480(μm)又は
直線312: Ie(Emax)=.0191Rc + 13.2 但し 480 < Rc ≦960(μm)
Dacを5.5mmにすると、
直線317: Ie(Emax)=.0226Rc -1.7, 但し 120 ≦ Rc ≦ 480(μm)
直線318: Ie(Emax)=.007Rc + 5.9 但し 480 < Rc ≦ 960(μm)
従って、Dac を1mm〜5.5mmの範囲では、最大エミッタンスが得られる条件は、
0.0226Rc - 1.7 ≦ Ie ≦ 0.0322Rc + 6.8, 但し120 ≦ Rc ≦ 480(μm)又は
(4)
0.007Rc + 5.9 ≦ Ie ≦ 0.0191Rc + 13.2 但し 480 < Rc ≦ 960(μm) (5)
カソード電流密度を大きく出来ない場合は、(0047)の記述からDacを3mmから5.5mmの範囲にすればよく、(4)、(5)式の不等号の右側が315、316の式にそれぞれ変更され、
0.0226Rc - 1.7 ≦ Ie ≦ 0.0255Rc - 1.2, 但し 120 ≦ Rc ≦480(μm) (6)
0.007Rc + 5.9 ≦ Ie ≦ 0.0202Rc + 1.6 但し 480 < Rc ≦960(μm) (7)
輝度も必要な場合は、(0047)の記述からDacを1mmから3mmの範囲にすればよく、(4)、(5)式の不等号の左側が311、312の式にそれぞれ変更され、
0.0255Rc -1.2 ≦ Ie ≦ 0.0322Rc + 6.8, 但し 120 ≦ Rc ≦ 480(μm)(8)0.0202Rc + 1.6 ≦ Ie ≦ 0.0191Rc + 13.2 但し 480 < Rc ≦ 960(μm)(9)
【0050】
図32は、表3のうちRcが120μm以下を拡大表示したものである。このカソード半径範囲の場合は、小さい電子銃電流で超高輝度あるいは超高エミッタンスが得られる特徴がある。これに対して、カソード半径が120から960μmの範囲では、最大輝度、及び最大エミッタンスの値が、120μmRc以下の場合に比べて特に大きい特徴がある。
320は、カソード・アノード間距離Dacが1mmの場合、最大輝度を与える電子銃電流のカソード半径依存性である。直線の式は
Ie = 0.111Rc - 1.05, 最大エミッタンス条件は、321で Ie = 0.103Re - 1.1
Dac: 3 mm の最大輝度は、322:Ie = 0.0524Rc - 1.6
最大エミッタンス条件は、323: Ie = 0.0406Rc - 1.1
Dac: 5.5 mm での最大輝度は、324: Ie = 0.0196Rc -0.5
最大エミッタンスは、325: Ie = 0.0136Rc -0.3
従って、図31の場合と同じ論理から、Dacを1mmにした場合、最大輝度は、
Ie(Bmax)=0.111Rc -1.05になり、Dac を5.5mmにした場合は、
Ie(Bmax)=0.0196Rc -0.5 であるから、Dacを1mmから5.5mmの範囲では、
0.0196Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.111Rc - 1.05 但し、Rc≦120μm (10)
に最大輝度を与える電子銃電流がある。カソード電流密度を大きくしたくない場合は、(0047)の記述からDacを3から5.5mmにすればよいので、(10)式の右側が322の式に変更されるので
0.0196Rc - 0.5 ≦ Ie ≦0.0524Rc - 1.6, (11)
にすればよく、エミッタンスも必要な場合は、(0047)の記述からDacを1から3mmにすればよいので、最大輝度は(10)式の左側が322の式に変更され、
0.0524Rc -1.6 ≦ Ie ≦ 0.111Rc - 1.05 (12)
の電子銃電流の範囲にある。
最大エミッタンスを得る条件は次の様に纏められる。Dacを1〜5.5mmの範囲にした場合は、321の式と325の式の間に最大エミッタンスを得る条件があるので、
0.0136Rc - 0.3 ≦ Ie ≦0.103Re - 1.1 (13)
カソード電流密度を大きくしたくない場合は、(0047)の記述からDacを3〜5.5mmにすればよく、(13)式の右側が323の式に変更され、
0.0136Rc - 0.3 ≦ Ie ≦ 0.0406Rc - 1.1 (14)
輝度も大きくしたい場合は、(0047)の記述からDac を1〜3mmにすればよく、(13)式の左側が323の式に変更され、
0.0406Rc - 1.1 ≦ Ie ≦0.103Re - 1.1 (15)
【0051】
カソード半径Rcの15から960μmについてまとめると次の様になる。最大輝度は、
0.0196Rc - 0.5 ≦ Ie ≦0.111Rc -1.05 15 ≦ Rc ≦ 120μm、又は (10)
0.0294Rc - 1.3 ≦ Ie ≦ 0.0332Rc + 8.1 120 < Rc ≦ 960μm (1)
カソード電流密度を大きくしたくない場合は、
0.0196Rc - 0.5 ≦ Ie ≦0.0524Rc -1.6, 15≦ Rc ≦120μm、又は (11)0.0294Rc - 1.3 ≦ Ie ≦0.0353Rc + 0.8, 120 < Rc ≦960μm (2)
エミッタンスも必要な場合は、
0.0524Rc -1.6 ≦Ie ≦ 0.111Rc -1.05 15 ≦ Rc ≦ 120μm、又は(12)
0.0353Rc + 0.8 ≦Ie ≦ 0.0332Rc + 8.1 120< Rc ≦ 960μm (3)
最大エミッタンスを得る条件は、
0.0136Rc - 0.3 ≦ Ie ≦0.103Re - 1.1 15≦ Rc ≦120μm、 (13)
0.0226Rc - 1.7 ≦ Ie ≦ 0.0322Rc + 6.8, 120 < Rc ≦480、又は (4)
0.007Rc + 5.9 ≦ Ie ≦ 0.0191Rc + 13.2 480 < Rc ≦960。 (5)
カソード電流密度を大きく出来ない場合は
0.0136Rc - 0.3 ≦ Ie ≦ 0.0406Rc - 1.1 15 ≦ Rc ≦120μm. (14)
0.0226Rc - 1.7 ≦ Ie ≦ 0.0255Rc -1.2, 120 < Rc ≦480μm. 又は (6)
0.007Rc + 5.9 ≦ Ie ≦ 0.0202Rc + 1.6 480 < Rc ≦960μm. (7)
輝度も必要な場合は、
0.0406Rc - 1.1 ≦ Ie ≦0.103Re - 1.1 15 ≦ Rc ≦120μm (15)
0.0255Rc -1.2 ≦ Ie ≦ 0.0322Rc + 6.8, 120 < Rc ≦480μm.又は (8)
0.0202Rc + 1.6 ≦ Ie ≦ 0.0191Rc + 13.2 480< Rc ≦960(μm) (9)
【0052】
次に、ビーム端とウエーネルト角との差を75.4度に固定し、超高輝度及び超高エミッタンスが得られる条件をカソード半径とカソード・アノード間隔Dacを変えて調べた。アノード曲率半径は4.4 mmである。図33はカソード半径Rcを15μmに固定し、カソード・アノード間隔Dacを2,3,4,5、及び6mmに変えて調べた場合の結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの実線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線331, 332, 333, 334, 及び335 はそれぞれ6, 5,
4, 3, 及び2mmのカソード・アノード間隔Dacである。すべてのカソード・アノード間隔Dacで、Ieを増加すると、まず高エミッタンス条件になり、さらにIe を増加すると高輝度条件が現れる。最高エミッタンス条件、最高輝度条件になるIeの値を表4にまとめた。
【0053】
【表4】
【0054】
図34は、図33の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。340は4.5 keV, 1800 KでのLangmuir Limitである。曲線341, 342, 343, 344, 及び345 はカソード・アノード間隔Dacがそれぞれ6, 5, 4, 3 及び2 mmに対応する。カソード・アノード間隔Dacの大きい電子銃では小さいカソード電流密度で高輝度及び高エミッタンス条件になり、同じ輝度条件では、エミッタンスが小さくなる傾向である。このRcの条件では、エミッタンスが106A/cm2srの輝度で20μmmrad 以下であり、高エミッタンスが必要な場合に問題がある。また、1000μmmrad 程度の高エミッタンス時、輝度が1000A/cm2sr以下になる。高エミッタンスと高輝度が必要な場合は問題である。
【0055】
図35はカソード半径Rcを960μmに固定し、カソード・アノード間隔Dacを2,3,4,5、及び6mmに変えて調べた場合の結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの実線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線351, 352, 353, 354, 及び355 はそれぞれ6, 5, 4, 3, 及び2 mmのカソード・アノード間隔Dacである。すべてのカソード・アノード間隔Dacで、Ieを増加すると、まず高エミッタンス条件になり、さらにIeを増加すると高輝度条件が現れる。最高エミッタンス条件、最高輝度条件になるIeの値を本図から読み取り表4にまとめた。
図36は、図35の特性を用い、横軸を輝度、縦軸をエミッタンス(μmmrad、ほぼ右下がりの曲線)又はカソード電流密度(A/cm2ほぼ水平に近い線)で表示したものである。360は4.5 keV, 1800 KでのLangmuir Limit である。曲線361, 362, 363, 364, 及び365 はカソード・アノード間隔Dacがそれぞれ6, 5, 4, 3 及び2 mmに対応する。カソード・アノード間隔Dacの大きい電子銃では小さいカソード電流密度で高輝度及び高エミッタンス条件になり、同じ輝度条件では、エミッタンスが小さくなる傾向である。このRcの条件では、エミッタンスが106A/cm2srの輝度で200μmmrad 程度であり、高エミッタンスと高輝度が必要な場合にも問題は無い。しかし、高輝度あるいは高エミッタンスになるIeが大きい問題がある。
【0056】
図37はカソード半径Rcを120μmに固定し、カソード・アノード間隔Dacを2mmから6mmまで1mmずつ変化した場合の結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの実線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線371, 372, 373, 374, 及び375 はそれぞれDacが6、5、4、3、及び 2mmである。すべてのカソード・アノード間隔で、Ieを増加すると、まず高エミッタンス条件になり、さらにIe を増加すると高輝度条件が現れる。最高エミッタンス条件、最高輝度条件になるIeの値を表4にまとめた。最高エミッタンス条件、最高輝度条件になるIeの値は7.1mA以下であり、960μmRcでの問題点はこの条件では解消されている。
【0057】
図38は、図37の特性を用い、横軸を輝度、縦軸をエミッタンス(μmmrad、ほぼ右下がりの曲線)又はカソード電流密度(A/cm2ほぼ水平に近い線)で表示したものである。曲線381, 382, 383, 384, 及び385 はカソード・アノード間隔がそれぞれ6, 5, 4, 3 及び2mmに対応する。カソード・アノード間隔の大きい電子銃では小さいカソード電流密度で高輝度及び高エミッタンス条件になり、同じ輝度条件では、エミッタンスが小さくなる傾向である。このカソード半径の条件ではカソード電流密度は20A/cm2以下であり, カソード電流密度が大きい問題点はなく、またエミッタンスも1x106A/cm2srの輝度で40μmmrad 程度であり、高エミッタンスが必要な場合にも問題が無い。当然高エミッタンス時、高輝度が必要な場合も適切である。即ち、15μmRcでの問題点が解消されている。
【0058】
図39は、表4の数値をグラフにしたものである。横軸はカソード・アノード間隔Dacの逆数(1/Dac)であり、縦軸は各カソード・アノード間隔Dac電子銃での最大輝度と最大エミッタンスをあたえる電子銃電流:Ie(Bmax)mA, とIe(Emax) mA, であり、前者を実線、後者は破線で表示した。391はDacが6〜3 mmの範囲でRcが.96 mmでのIe(Bmax)の値の分布を最小自乗法で直線表示したものである。392はDacが3mm〜2mmでの同様の直線である。最大エミッタンスを与える電子銃電流Ie(Emax)は、Dacが6 mmから4mmの範囲では393の直線に乗り、4〜2mmでは394の直線で示した。Rcが0.12 mmでの最大輝度をあたえる電子銃電流:Ie(Bmax)mA,を395で表した。以下の直線は次のようになる。
391の直線は、Ie(Bmax)=92.8/Dac + 9.28 ただしDacをmm、IeをmAとした。
392の直線は、Ie(Bmax)=22/Dac + 32.7, 393の直線は、Ie(Emax)=117/Dac - 8.35,
394の直線は、Ie(Emax)=12/Dac + 17.8, 395の直線は、Ie(Bmax)=17.8/Dac - 1.51,
【0059】
図40は、表4のうちRcが120μmと15μmを拡大表示したものである。これらのカソード半径の場合は、小さい電子銃電流で超高輝度あるいは超高エミッタンスが得られる特徴がある。これに対して、カソード半径が120から960μmの範囲では、最大輝度、及び最大エミッタンスの値が、120μmRc以下の場合に比べて特に大きい特徴がある。
401は、カソード半径Rcが0.12mmの場合、最大エミッタンスを与える電子銃電流Ie(Emax)のカソード・アノード間距離Dac依存性である。直線の式は
Ie(Emax) = 17.3/Dac - 1.99, である。402、403は カソード半径Rcが15μmの場合、最大輝度及び最大エミッタンスをそれぞれ与える電子銃電流Ie(Bmax)及びIe(Emax)のカソード・アノード間距離Dac依存性である。直線の式は、
402: Ie(Bmax) = 0.409/Dac -0.0475
最大エミッタンス条件は、 403: Ie(Emax) = 0.388/Dac -0.046
以上でLangmuir limitを超える最大輝度を与えるIe値及び最大エミッタンスを与える電子銃電流Ieの式が出揃った。これらの式から、どのような電子銃電流範囲でLangmuir limitを超える最大輝度及び最大エミッタンスが得られるかを次に纏める。
【0060】
Langmuir limitを超える最大輝度:
15μmRcでは、402の直線:Ie(Bmax) = 0.409/Dac -0.0475
960μmRcでは、391の直線:Ie(Bmax) =92.8/Dac + 9.28 Dac ≧3mm
392の直線:Ie(B max) =22/Dac + 32.7, Dac <3mm
従って、カソード半径が15〜960μmの範囲では、
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦92.8/Dac + 9.28、 Dac ≧3mm (16)
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦22/Dac + 32.7、 Dac < 3mm (17)
の範囲にLangmuir limitを超える最大輝度がえられるIeがある。
上記で電子銃電流を大きくしたくない場合は、(0055)での記述から、Rcを15〜120μmの範囲にすればよく、(16)式の右側が395の式に変更されるので、
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦17.8/Dac -1.51 (18)
となる。
高輝度でエミッタンスも必要な場合は、(0055)での記述から、Rc を120〜960μmの範囲にすればよく(16)、(17)式の左側が395の式に変更されるので、
17.8/Dac - 1.51 ≦ I ≦92.8/Dac + 9.28、 Dac ≧ 3mm (19)
17.8/Dac - 1.51 ≦ Ie ≦22/Dac + 32.7、 Dac < 3mm (20)
高エミッタンスを得る条件:
15μmRcでは、403の直線:Ie(Emax) = 0.388/Dac -0.046
960μmRcでは、393の直線:Ie(E max)=117/Dac - 8.35, Dac ≧ 4mm
と394の直線:Ie(E max)=22/Dac + 17.8, Dac < 4mm
従って、カソード半径が15〜960μmの範囲では、
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦117/Dac -8.35, Dac ≧4mm, 又は (21)0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦12/Dac + 17.8, Dac < 4mm (22)
電子銃電流を大きくしたくない場合は、(0055)での記述から、Rcを15〜120μmの範囲にすればよく、(21)、(22)の不等式の右側は401の直線になり、
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦17.3/Dac -1.99, (23)
高エミッタンスで輝度も必要な場合は、(0055)での記述から、Rc を120〜960μmの範囲にすればよく(21)、(22)の左側が401の式に変更され、
17.3/Dac - 1.99 ≦ Ie ≦117/Dac -8.35, Dac ≧4mm (24)
17.3/Dac - 1.99 ≦ Ie ≦12/Dac + 17.8, Dac <4mm (25)
と表現できる。
【0061】
本発明の電子銃では電子銃電流が大きい傾向がある。この大きい電流で最小ビーム径迄流すと、空間電荷効果によってエネルギー幅が大きくなると予想される。この対策としてアノードあるいは引き出し電極の後面に小さい開口を設け、不要なビームを取り除く検討を行った。図41は500μm Rcの電子銃のアノード後面に小開口を設け、Langmuir limitを超えるかシミュレーションした結果である。縦軸はB(105A/cm2sr), E(μmmrad),Jc(A/cm2)である。曲線411, 412, 413及び414は開口半径が順に73.8, 61.5, 49.5, 37μmに対応する。開口位置でのビーム半径はほぼ200μmであり、ビームの透過率は、順に13.6, 9.47, 6.13, 3.42 %である。図から明らかな様に、大部分のビームを最小径になる手前でトラップしているにもかかわらず、2x107 A/cm2srを超える輝度が得られている。実用的には、透過率を1/3以下にすれば、空間電荷効果を1/3にできるので有効である。
図42は、図41の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。421, 422, 423, 及び424 は小開口半径がそれぞれ73.8, 61.5, 49.5 及び37μmに対応する。いずれの開口条件でもLangmuir limitを超えている。
アノードの後面に小開口を設ける代わりにアノード穴径を小さくしても同じく空間電荷効果を小さくできる。従って、アノード穴径をその位置でのビーム径より小さくすれば不要な電子銃電流を取り除ける。カソード・ウエーネルトとアノードのアライメントが最適の時アノードで吸収される電流は最小になり、アノードの透過率は最大になることを利用し、カソード・ウエーネルトとアノードのアライメントを行うことが出来る。
【0062】
図47は、図11のモデルで、カソード・アノード間隔を5mmに固定し、カソード半径Rcを1.5から3mmまで変えシミュレーションした結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの細線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線471, 472, 473 及び474 はそれぞれ1.5, 2, 2.5及び 3 mmRcのカソード半径である。すべてのカソード半径電子銃で、Ieを増加すると、まず高エミッタンス条件になり、さらにIe を増加すると高輝度条件が現れる。これらのRcの範囲では、高輝度条件になるカソード電流密度はカソード径の増加に伴って減少する。高エミッタンス条件、高輝度条件になるIeの値を図47から読み取り図43にまとめた。
【0063】
図48は、図47の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。曲線481, 482, 483,
及び484 はカソード半径Rcがそれぞれ1.5, 2, 2.5 及び3 mmに対応する。カソード半径の大きい電子銃では小さいカソード電流密度で高輝度及び高エミッタンス条件になり、同じ輝度条件では、エミッタンスが大きくなる傾向である。このDacの条件では輝度が106A/cm2srの時エミッタンスが0.59μmmrad 程度であり、高エミッタンスが必要な場合に問題である。
図49は、図11のモデルで、カソード・アノード間隔を3mmに固定し、カソード半径Rcを1から3mmまで変えシミュレーションした結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの細線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線491, 492, 493, 494 及び495 はそれぞれ1, 1.5, 2, 2.5及び 3 mmRcのカソード半径である。すべてのカソード半径電子銃で、Ieを所定の値にするとLangmuir limitを超える高輝度条件が得られる。これらの高輝度条件になるIeの値を図49から読み取り図44にまとめた。この電子銃条件では、高輝度条件になるIeの値が最大5.6 Aにも大きくなるのが問題である。
【0064】
図50は、図49の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。曲線501, 502, 503, 504 及び505 はカソード半径Rcがそれぞれ1, 1.5, 2, 2.5 及び3 mmに対応する。 カソード半径の大きい電子銃では、同じ輝度条件では、エミッタンスが大きくなる傾向である。
【0065】
図45は、図11のモデルで、カソード・アノード間隔を4mmに固定し、カソード半径Rcを1.5から3mmまで変えシミュレーションした結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの短線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線511, 512, 513 及び514 はそれぞれ1.5, 2, 2.5及び 3 mmRcのカソード半径である。カソード半径2, 2.5及び3mmの電子銃で、Ieを増加すると、まず高エミッタンス条件になり、さらにIe を増加すると高輝度条件が現れる。これらのRcの範囲では、高輝度条件になるカソード電流密度はカソード径の増加に伴って増加する。高輝度条件になるIeの値を図51から読み取り図44にまとめた。この条件では電子銃電流は最大で3.6 Aで比較的小さく特に問題は無い。
【0066】
図46は、図45の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。曲線511, 512, 513,
及び514 はカソード半径Rc がそれぞれ1.5, 2, 2.5 及び3 mmに対応する。カソード半径の大きい電子銃では同じ輝度条件では、エミッタンスが大きくなる傾向である。このDacの条件では輝度が106 A/cm2srの時エミッタンスが1.4 μmmrad 程度であり、高エミッタンスが必要な場合にも問題がなく、Dacが3mmや5mmの場合の問題点が解消された。
【0067】
図43は、図47の最大輝度あるいは最大エミッタンスを与えるIeの数値をグラフにしたものである。横軸はカソード半径Rcであり、縦軸はカソード・アノード間隔Dac:5mm電子銃での最大輝度と最大エミッタンスをあたえる電子銃電流:Ie(Bmax) A, とIe(Emax) A, であり、前者を 実線、後者は点線で表示した。531はRcが1.5〜3 mmの範囲でのIe(Bmax)の値の分布を最小自乗法で直線表示したものである。532はRcが1.5mm〜3mmでのIe(Emax)での同様の直線である。以下の直線は次のようになる。
531の直線は、Ie(Bmax)=0.987Rc - 0.73 ただしRcをmm、IeをAとした。
532の直線は、Ie(Emax)=0.733Rc - 0.5,
【0068】
図44は、図43の最大輝度を与えるIeの数値をグラフにしたものである。横軸はカソード半径の3乗:Rc3であり、縦軸は最大輝度をあたえる電子銃電流:Ie(Bmax)(A),である。
541は、Dac: 3 mmの場合で、最大輝度を与える電子銃電流Ie(Bmax)のカソード半径の3乗:Rc3依存性である。直線541, 542の式はIe(Bmax) = 0.187Rc3 + 0.35, 542: Ie(Bmax) = 0.255Rc 3-1.17
である。
直線543は Dac: 4 mmの場合、最大輝度を与える電子銃電流Ie(Bmax)のカソード半径の3乗:Rc3依存性である。直線の式は、
543: Ie(Bmax) = 0.132Rc3 - 0.059
以上でLangmuir limitを超える最大輝度を与えるIe値及び最大エミッタンスを与える電子銃電流Ieの式が出揃った。これらの式から、どのような電子銃電流範囲でLangmuir limitを超える最大輝度及び最大エミッタンスが得られるかを次に纏める。
【0069】
凹面カソード、凸面アノードあるいは引き出し電極及びウエーネルト電極を有する電子銃で、カソードとアノードあるいは引き出し電極間距離Dacが5mmの場合、Langmuir limit
を超える輝度あるいは高エミッタンスを与える電子銃電流Ieはそれぞれ次式を満たす。
Ie(Bmax)=0.987Rc -0.73,Ie(Emax)=0.733Rc - 0.5, また、Dacが3mmの場合、Langmuir limitを超える輝度を与える電子銃電流Ieは次式を満たす。
Ie = 0.187Rc3 + 0.35, Rc ≦ 2.5 mm
Ie = 0.255Rc3 - 1.17, Rc > 2.5 mm.
従って、Dacが3mm〜5mmの範囲の場合で、Langmuir limitを超える輝度あるいは高エミッタンスを与える電子銃電流Ieはつぎの不等式を満たす。
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.159Rc3 + 0.35. Rc ≦ 2.5 mm, あるいは
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.255Rc3- 1.17. Rc > 2.5 mm
ここで、電子銃電流を小さくしたい場合は、上の不等式の右側は直線543の式になるので
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦0.132Rc3 - 0.059
また、高輝度でエミッタンスも必要な場合は、上の2つの不等式の左側が543の式に変わり、
0.132Rc3- 0.059 ≦Ie ≦0.187Rc3 + 0.35. Rc ≦ 2.5 mm, あるいは
0.132Rc3- 0.059 ≦Ie ≦0.255Rc3- 1.17. Rc > 2.5 mm になる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上、本発明に係る電子線装置の発明を実施するための最良の形態を説明したところから理解されるように、本発明は、輝度が大きく、エミッタンスも大きい電子銃を利用可能にし、エネルギー幅が小さいと予想される電子銃が得られる。従って、1本の光軸の周りに多数のマルチビームを形成し、また光軸から遠い位置にあるビームからの2次電子検出も問題なく可能にし、電子銃から試料面までの距離を短くでき空間電荷効果でのボケも小さくできる。さらに、1次ビームの走査に同期して、2次電子軌道を2段の偏向器で補正するので走査視野の端でもマルチビームの検出ができる。
また、カソード曲率半径を、Pierce 条件からずらして、(アノード・カソード間距離+アノード曲率半径)より小さく、アノード・カソード間距離より大きくすることによって、X- 線源用等の大電流密度の電子銃が得られる。
さらに、Langmuir Limit をこえる超高輝度が得られ、あるいは、超高エミッタンスが得られる条件が分かった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る電子銃のカソード周辺を拡大した概念的断面モデル図である。
【図2】図1に示した電子銃、と従来の凸形カソード電子銃でのシミュレーション例である。
【図3】本発明の電子銃が使われる電子光学系。
【図4】図3に示した電子光学系の1次光学系の動作を詳細に示した図。
【図5】図3に示した電子光学系の2次光学系の動作を詳細に示した図。
【図6】図1に示した電子銃でのシミュレーションの第2の例。
【図7】図1に示した電子銃でのシミュレーションの第3の例。
【図8】図1に示した電子銃でのシミュレーションの第4の例である。横軸は、輝度(1000A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)
【図9】図1に示した電子銃での電子軌道のシミュレーションの例。
【図10】本発明で用いた電子銃の実寸法モデル。
【図11】本発明の他の実施の形態の電子銃モデル。
【図12】Pierce type 電子銃と本発明の電子銃のシミュレーションによる比較
【図13】図12の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図14】カソード曲率半径を変えシミュレーションした結果。
【図15】図14の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図16】光陰極でカソード曲率半径を変えシミュレーションした結果。
【図17】図16の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図18】Pierce type 電子銃でウエーネルト形状を円錐台と円盤形状の組み合わせとしたモデルでのシミュレーションした結果。
【図19】非Pierce type 電子銃でウエーネルト形状を円錐台と円盤形状の組み合わせとしたモデルでのシミュレーション結果。
【図20】光陰極での電子軌道のシミュレーション結果。
【図21】光陰極カソード電子銃で、凸型カソードと平曲カソードでのシミュレーション結果。
【図22】図21の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図23】ウエーネルト角度を変えシミュレーションした結果。
【図24】図23の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図25】カソード・アノード間隔5.5mmで、カソード曲率半径を変えシミュレーションした結果。
【図26】図25の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図27】カソード・アノード間隔:1mmで、カソード曲率半径を変えシミュレーションした結果。
【図28】図25の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図29】カソード・アノード間隔3mmで、カソード曲率半径を変えシミュレーションした結果。
【図30】図29の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図31】最大輝度を与える電子銃電流のカソード半径依存性
【図32】最大輝度を与える電子銃電流のカソード半径依存性 但しRc <120μm
【図33】カソード半径Rc:15μmでカソード・アノード間隔を変えシミュレーションした結果。
【図34】図33の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図35】カソード半径Rc:960μmでカソード・アノード間隔を変えシミュレーションした結果。
【図36】図35の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図37】カソード半径Rc:120μmでカソード・アノード間隔を変えシミュレーションした結果。
【図38】図37の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図39】最大輝度あるいは最大エミッタンスを与える電子銃電流の(1/Dac)依存性
【図40】図39の8mA以下の部分を拡大した図。
【図41】アノードあるいはビーム引き出し電極背面に小開口を設けたシミュレーション結果。
【図42】図41の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図43】最大輝度あるいは最大エミッタンスを与える電子銃電流のカソード半径依存性
【図44】最大輝度を与える電子銃電流の(Rc3)依存性
【図45】図11のモデルで、カソード・アノード間隔を4mmに固定し、カソード半径Rcを1.5から3mmまで変えシミュレーションした結果。
【図46】図45の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図47】図11のモデルで、カソード・アノード間隔を5mmに固定し、カソード半径Rcを1.5から3mmまで変えシミュレーションした結果。
【図48】図47の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図49】図11のモデルで、カソード・アノード間隔を3mmに固定し、カソード半径Rcを1から3mmまで変えシミュレーションした結果。
【図50】図49の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【符号の説明】
【0072】
2:仮想円錐台、4:仮想円錐、9:放電回避の曲面、34:軸合わせ偏向器、57:縮小像、59:1次ビームの走査に同期して軸を補正する2段の静電偏向器、46:マルチビームの検出器、141:第2コンデンサレンズを偏向支点とする軸合わせ軌道、142:マルチ開口を偏向支点とする軸合わせ軌道、143:レンズ52を偏向支点とする軸会わせ軌道、144:レンズ49を偏向支点とする軸合わせ軌道、145:開口55を偏向支点とする軸合わせ軌道、146:レンズ49を偏向支点とする軸合わせ軌道、148:電子銃のクロスオーバの結像を示す線、147:マルチ開口からのビームの結像線、
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にパターンが形成された試料の欠陥等を検査するための電子線装置に関し、より詳細には、半導体製造各工程後等におけるウエハ等の試料に電子ビームを照射し、その表面の性状に応じて変化する二次電子等を捕捉して画像データを形成し、該画像データに基づいて試料表面に形成されたパターン等の欠陥を高スループットで評価するための電子線装置に関する。またその様な装置等に使用される高輝度・高エミッタンス電子銃に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおいて、デザインルールは45nmの時代を迎えようとしており、また生産形態はDRAMに代表される少品種大量生産からSOC(Silicon on
chip)のように多品種少量生産へ移行しつつある。それに伴い、製造工程数が増加し、工程毎の歩留まり向上は必須となり、プロセス起因の欠陥検査が重要になる。
そして、半導体デバイスの高集積化及びパターンの微細化に伴い、高分解能、高スループットの検査装置が要求されている。45nmデザインルールのウエハの欠陥を調べるためには、40nm以下の分解能が必要であり、デバイスの高集積化による製造工程の増加により、検査量が増大するため、高スループットが要求されている。また、デバイスの多層化が進むにつれて、層間の配線をつなぐビアのコンタクト不良(電気的欠陥)を検出する機能も、検査装置に要求されている。
このような状況において、1本の光軸の近傍に複数のビームを形成し高スループット化する装置が検討されている。(Mamoru Nakasuji etal, Jpn. J,Appl.,Phys.,Vol 44,No.7B 2005,p5570)この様なマルチビーム装置では高輝度は勿論、高エミッタンスの電子銃が要求される。
ERL放射光源の入射用に用いる電子源では、超高輝度で大電流の電子銃が要求される。(西谷他、第53回応用物理学関連講演会講演予講習No2, 2006 春p798)、更にx−線源用にも高電流密度電子銃が必要である。
【特許文献1】特開2003−323860A
【特許文献2】特開2004−22235
【特許文献3】特開2003−297272
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した従来装置における電子銃は、カソード表面に高電界がかかる様、曲率半径の小さい凸型の球面形状を有するカソードと平面アノード、平面ウエーネルト電極を有する3電極電子銃が主流であった。しかしながらこの様な電子銃は、高輝度は得られるがエミッタンスが小さいという問題があった。輝度についてもLangmuir limitのため、高輝度を得るにはカソード電流密度を大きくする手段のみであった。
また、従来のタイプの電子銃ではカソードの近辺で電流密度が高いため、カソード付近でビームエネルギーの小さい時に電子同士が相互作用を起こしエネルギー幅が拡がる問題点があった。本発明は上記問題点を解決するためのもので、超高輝度を可能にし、マルチビーム発生に適し、エネルギー幅の小さい電子銃を提供する事を目的とし、さらに本発明で得られる電子銃の性能を充分生かせるマルチビームの電子光学系を提供することも目的とする。また、X- 線源用等の高電流密度電子銃を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記した目的を達成するために、本発明に係る電子線装置においては、円形平面のカソード、凸型球面の一部の形状を有する引出し電極、円錐台形状のウエーネルト電極を有する電子銃とした。
更にカソード、アノード又はビーム引出し電極、ウエーネルトを有する電子銃に於いて上記アノード又はビーム引出し電極の穴径をその位置でのビーム径より小さくし、上記アノード又はビーム引出し電極でのビーム透過率あるいは吸収電流量からカソード・ウエーネルトとアノード又はビーム引出し電極との軸合わせを行うようにした。
【0005】
上記手段において、上記カソードの外周と引き出し電極位置で光軸と交わる仮想的な円錐とこの円錐と67.5度の角度差を有する仮想的な円錐台を想定し、その外側に、上記ウエーネルト電極を設ける様にした。
【0006】
また、上記手段において上記仮想円錐台とウエーネルトとの同じ光軸上Z位置での半径差は、カソードに近い側が引き出し電極に近い側より小さいようにした。
【0007】
さらに、上記第1の手段において、上記カソード直径は、15μm〜960μmの範囲とし、電子銃電流Ieを次の範囲内に設定するようにした。
0.0196Rc - 0.5 ≦ Ie ≦0.111Rc -1.05 15 ≦ Rc ≦120μm
0.0196Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.0332Rc + 8.1 120< Rc ≦960μm
また、次の範囲に設定すると超高エミッタンスが得られる。
0.0136Rc - 0.3 ≦ Ie ≦0.103Re - 1.1 15 ≦ Rc ≦ 120μm
0.0226Rc - 1.7 ≦ Ie ≦ 0.0322Rc + 6.8, 120 < Rc ≦ 480μm
0.007Rc + 5.9 ≦ Ie ≦ 0.0191Rc + 13.2 480 < Rc ≦ 960μm
【0008】
また、上記第1の手段の電子銃から放出された電子線で複数の開口を照射しそれらの開口で整形された複数の電子線で試料面を走査し、走査点から放出された2次電子を拡大光学系で検出器に結像させ検出し、試料面の情報を得る装置において、上記拡大光学系の最終拡大レンズの手前に2次電子のクロスオーバ像を制御する補助レンズを設けるようにした。さらに、1次ビームの走査による2次電子軌道の補正を、第2拡大レンズの後方に2段の静電偏向器を設け、行うようにした。
【0009】
円形カソード、ウエーネルト電極、引き出し電極又はアノード電極を有し、上記カソードから放出させた電子線が、カソードから引き出し電極間はそのビーム径を単調に減少させ、引き出し電極の後方で最小ビーム径を形成するよう制御するようにした。更にこの最小ビーム径においては、カソードの法線方向に放出されたビーム軌道の内、少なくともカソード中心部からのビーム軌道は互いに交差せず、光軸とも交差しない軌道になるよう制御した。
また、引き出し電極又はアノードの孔径を小さくし、あるいは引き出し電極又はアノードの後面に小開口を設け、ビームの透過率を50%以下あるいは30%以下にした。
更に、上記最後の手段において上記カソード直径は60〜200μmの範囲とした。
また、小エミッタンス・高輝度が必要な場合は上記最後の手段においてカソード直径を40μm以下とした。
【0010】
また、上記最後の手段に於いて、カソードを凹面形状とし、上記凹面形状カソードの曲率半径をRccとし、引き出し電極又はアノード電極を曲率半径がRacの球面の一部の形状とし、カソード・引き出し電極又はアノード電極間間隔をDacとしたとき、
Dac + Rac > Rcc > Dac あるいは、
1.125Dac ≦ Rcc ≦0.833(Dac + Rac),を満たすようにした。
更に、上記最後の手段に於いてカソードを光陰極とし、レーザーエネルギーとカソードの仕事関数の差が0.2eV 以下となるレーザ波長のレーザでカソードを励起する様にした。また、
Langmuir limitを超える輝度あるいは高エミッタンスを得るには、電子銃電流Ie (A)をつぎの不等式を満たす範囲に制御した。
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.159Rc3 + 0.35. Rc ≦ 2.5 mm, あるいは
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.255Rc3- 1.17. Rc > 2.5 mm
ここで、電子銃電流を小さくしたい場合は、
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦0.132Rc3 - 0.059 に制御すれば良い。
また、高輝度でエミッタンスも必要な場合は、
0.132Rc3- 0.059 ≦Ie ≦0.159Rc3 + 0.35. Rc ≦ 2.5 mm, あるいは
0.132Rc3- 0.059 ≦Ie ≦0.255Rc3- 1.17. Rc > 2.5 mm に制御すれば良い。
【0011】
また、円形のカソード、凸面形状を有する引出し電極又はアノード電極、円錐台形状のウエーネルト電極を有する電子銃に於いて、上記アノード電極又は引き出し電極とカソード間距離をDac (mm)とした時、次式を満たす電子銃電流Ie (mA)に制御することにより超高輝度を得るようにした。
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦92.8/Dac + 9.28、 Dac ≧3mm、あるいは (16)
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦22/Dac + 32.7、 Dac < 3mm (17)
電子銃電流を大きくしたくない場合は、
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦17.8/Dac -1.51 (18)の範囲が良い。
超高輝度でエミッタンスも必要な場合は、
17.8/Dac - 1.51 ≦ I ≦92.8/Dac + 9.28、 Dac ≧ 3mm、または (19)
17.8/Dac - 1.51 ≦ Ie ≦22/Dac + 32.7、 Dac < 3mm (20)
高エミッタンスを得る条件は、次式を満たす電子銃電流Ieに制御するようにした。
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦117/Dac -8.35, Dac ≧ 4mm, 又は (21)
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦12/Dac + 17.8, Dac < 4mm (22)
上記で電子銃電流を大きくしたくない場合は、
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦17.3/Dac -1.99, (23)
高エミッタンスで輝度も必要な場合は、
17.3/Dac - 1.99 ≦ Ie ≦117/Dac -8.35, Dac ≧ 4mm、又は (24)
17.3/Dac - 1.99 ≦ Ie ≦12/Dac + 17.8, Dac < 4mm (25)
【発明の効果】
【0012】
本発明の電子銃では、Langmuir limit を超える輝度が得られるので、高分解能の電子装置を容易に実現できる。また、エネルギー幅の小さいビームを得られる可能性がある。更に、カソード・ウエーネルトとアノード間の軸合わせを容易に出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明に係る電子銃の概念的断面モデル図である。形状は光軸8の回りに回転対称形で、球面引き出し電極電子銃である。カソード1は電子線放出面が平面円板状で、LaB6,CeB6,W−ZrO等の低仕事関数材料あるいは光陰極である。ウエーネルト電極3は、円錐台の内面の一部の形状であるのは従来の電子銃と共通であるが、その位置と寸法は次の特徴がある。カソードの外周からアノード位置で光軸と交わる仮想的な円錐4を仮定し、この円錐と67.5度の角度差を有し、カソード外周でこの仮想円錐と接する仮想円錐台2を仮定し、その外側に3で示したウエーネルトを設けた。円錐4は近似的にビームの外周である。ビーム外周面は、ビーム電流を変えると変化するため仮想円錐は上記の様に定義した。また、仮想面2とウエーネルトとの同じZ位置での半径差はカソード側で小さく引き出し電極側で大きくした (図7の結果) 。引き出し電極のカソード側端9には放電を避けるため曲面にした。引き出し電極5は、曲率半径 4.4 mmの球面の一部の形状でビームが通る穴は光軸と平行な半径0.28 mmの穴とした。引き出し電極のアノード側の面6とアノード面の引き出し電極側の面7は平行平面とし、これらの電極間の軸合わせのズレが電子銃特性への影響が最小になる様にした。カソード1はウエーネルト3に対して組み込み前に大気中で軸合せ可能の構造とし、引き出し電極5もウエーネルト電極と同様の軸合せ可能にした。これら3電極とアノードとは図示の無い電子銃外側に設けた微調整機構によってビームを見ながら軸調整を行えるようにした。
【実施例1】
【0014】
【表1】
表1は、図1の電子銃モデル例である。このようなモデルでMEBS社シュミレーションソフト“Source”を用いて、計算を行った。また、”sourcea”を行うための条件も表1の最後に 3f.con に記載した。表1、2で太字はパラメータとして変化させた箇所である。シミュレーション手順は、 ・ ウエーネルト電圧をある値に設定し、”SourceV を実行するとカソード電流あるいは電子銃電流:Ie が算出される。
・ “SourceA“を実行するとカソード電流密度 Jc とクロスオーバ径 Dco、クロスオーバ位置:Zco が算出される。
・ “SourceB”を実行すると輝度の放出角度依存性が出力される。軸上輝度Bと輝度が軸上輝度の90%又は110%になる放出角を読み取り、該放出角と上記クロスオーバの積からエミッタンスを算出する。
図1のモデルでの電子銃及び従来の凸形カソード電子銃での代表的なシミュレーション結果を図2に示した。アノード電圧:4.5 kV,カソード:0V, 引き出し電圧:7 kV,ウエーネルト電圧を変えてビーム電流を変化させた。ビーム電流を変えて輝度を変化させた。図2で横軸は輝度(1000 A/cm2sr), 縦軸はエミッタンス(μmmrad)、である。図1で、引き出し電極曲率:4.4 mmR, カソード・引き出し電極間距離:1.5 mmである。
曲線21と24はカソード半径80μm、曲線22と25はカソード半径40μm、曲線23と26は、カソード半径30μm、の球面引き出し電極電子銃である。曲線27,20は曲率半径30μm、曲線28と29は15μmの曲率半径の球面形状の凸型カソード・平面アノード電極電子銃である。曲線21、22,23,27,28は輝度―エミッタンス特性であり、曲線20,24,25,26,29が輝度―カソード電流密度特性である。通常の電子銃特性の表示では、横軸を電子銃電流にし、縦軸に輝度とエミッタンスとカソード電流密度を3本の曲線で表示するのが多い。本図では、輝度とエミッタンスの関係や輝度とカソード電流密度との関係がすぐに分かる様にこの様な表示をした。
【0015】
輝度―エミッタンス曲線では、図の右あるいは上の曲線の性能が良く、輝度―カソード電流密度特性では図の右、あるいは下の曲線が高性能である。
この図で次のような事が言える。
・ 平面カソード球面引き出し電極電子銃は、凸型球面カソード平面アノード電極電子銃に比較して同じ輝度を出すのに小さいカソード電流密度:Jc(A/cm2)でよいのは20(30μmR凸カソード)、29(15μmR凸カソード)と24(80μmR平面カソード)、25(40μmR平面カソード)、26(30μmR平面カソード)とを比較すれば明らかである。
・ 球面引き出し電極電子銃は平面アノード電極電子銃より、同じ輝度のときエミッタンスが大きくなる。21(80μmR平面)、22(40μmR平面)、23(30μmR平面)と27(30μmR凸)、28(15μmR凸)とを比較すれば明らかである。特に、高輝度条件(曲線の右側)では圧倒的に球面引き出し電極電子銃が高エミッタンスである。
・ 19はカソード温度:1800K,加速電圧:4.5kVでのLangmuir Limit(後に述べる)である。従来の平面アノード電子銃では輝度―カソード電流密度特性は直線19の右側に出ることが無い、しかし、球面アノード電子銃では輝度―カソード電流密度特性が直線19の右側にあるので、この電子銃の性能がわずかではあるが良いことを示している。
図3は本発明の高輝度、高エミッタンス電子銃が使用される電子光学系である。高エミッタンスを有効利用して1本の光軸のまはりに多くのマルチビームを形成できる。当然光軸から離れた位置にもビームが形成されるので、1本のビームの場合より細かい注意が必要である。電子銃はカソード1、ウエーネルト3、引き出し電極5、アノード7を有する球面引き出し電極電子銃である。電子銃から放出されたビームは軸あわせ偏向器34でコンデンサレンズ35に軸合せされる。該レンズ35で収束されたビームは2段の軸合せ偏向器36,37で第2コンデンサレンズ38とマルチ開口42に軸合せされる。マルチ開口で成型されたマルチビームは回転調整レンズ49,52で縮小され、2段の軸合せ偏向器53,54でNA 開口55と縮小レンズ56への軸合せが行われ、レンズ56からの距離がレンズから開口までの距離にほぼ等しい位置57にマルチビームの縮小像を作り、静電偏向器58と電磁偏向器40とで光軸のオフセットが修正され、対物レンズ41に垂直入射し、試料面61にマルチビームを照射し走査する。試料面を走査するのは、静電偏向器58に重畳された走査信号と静電偏向器33とで行われる。32はマルチビームの軸上色収差を低減するための軸対称電極で、正の高電圧が印加される。試料面から放出された2次電子は電磁偏向器40及び43で一次光学系から離され静電偏向器48で垂直に直される。対物レンズ41、静電レンズ62、及び2段レンズ45,51で拡大され検出器46で各マルチビームからの2次電子が独立に検出される。
対物レンズ41は、レンズギャップ(不図示)が試料61の側に形成された電磁レンズであり、軸上色収差が小さく、さらに、軸対称電極32に高電圧を印加することにより、軸上色収差がより低減される構成を有している。
【0016】
図4は図3の電子光学系の1次系のみを光軸のオフセットと該オフセットを補正する偏向を無視した図を詳細にした図である。図4で147はマルチ開口42の結像を示す線である。148はクロスオーバの結像を示した線である。電子銃から放出されるビームのクロスオーバを2段のレンズ35及び38でマルチ開口42の後方で拡大像を作り、かつ調整可能にした。この結果、マルチ開口での電流密度を大きくし、照射強度一様性の良い領域をマルチ開口全体に丁度広げる調整を可能にした。
第2コンデンサレンズ38とマルチ開口42は間に軸合せ偏向器が入らない程度に狭い。コンデンサレンズ38の上に2段の偏向器36,37を設け、142で示した様にマルチ開口を偏向中心にした軌道とレンズ38を偏向中心とする軌道141とを選択可能にした。従って、開口への軸合せを行ったとき、レンズ軸は狂はず、レンズへの軸合せを行ったとき開口へのアライメントが狂はない。
【0017】
回転調整レンズ49,52は接近して設けるので間に軸合せ偏向器は入らない。これらのレンズの上方に2段の偏向器47を設け、上のレンズを偏向中心とする軌道144を選定すれば、レンズ52の軸合せを行ったとき、レンズ49の軸が狂はない。また、レンズ52を偏向中心である軌道143をとるようにして上のレンズ49の軸合せを行った時、下のレンズ52の軸が狂うことが無い。
【0018】
NA開口55と縮小レンズ56を接近して設けるが、これらの上に2段の偏向器53、54をもうけ、軌道145と軌道146を選択可能にした。この結果、縮小レンズ56の軸合せを行ったとき、NA 開口の軸が狂わず、NA開口への軸合せの時レンズ56の軸は狂わない。このように、2つの光学部品を接近させて配置したので、光路長が短くなり、空間電荷効果によるビームボケが小さく抑えられた。また、2段の光学部品の上に2段の偏向器を設けたので、2段の光学部品への軸合せは容易になった。
【0019】
図5は図3の光学系の2次光学系のみを光軸のオフセットと該オフセットを補正する偏向を無視単純化した図である。実線132は2次電子像の結像条件を示したもので、点線131は試料面から垂直に放出された2次電子の軌道で、最終拡大レンズ51の主面近傍でこれらの軌道が光軸と交差するようレンズ45の励起条件を決めるようにした。この結果、本発明の高エミッタンス電子銃を用い、光軸から遠い位置に設けたマルチビームからの2次電子像も低収差で像形成ができ、光軸上と同様の2次電子検出ができた。2段の偏向器59は静電偏向器で構成され、1次ビームの走査に同期して、2次ビームの軸を走査に依存せず1定に保つためのものである。この2段の偏向器59の調整は、1次ビームを走査視野の端に固定し、まず、レンズ45を偏向中心とする2段の偏向器59の偏向比1とレンズ51を偏向中心とする2段の偏向器59の偏向比2を求め、次に偏向比2で2段の偏向器を動作し、レンズ45のレンズ中心を求める。更に、偏向比1で2段の偏向器を動作し、レンズ51のレンズ中心を求める。これで視野の端での補正量が決定された。走査視野の任意の位置での補正量は、上記補正量を視野の光軸からの距離で内挿すればよい。調整後の軌道を135に示した。視野の端から出た主光線136も偏向器59の前段を過ぎた後は134の軌道になり、59の後段を過ぎた後は光軸上133を進行する。レンズ51の後方に偏向器137を設け正確に検出器に位置合せしても良い。
【0020】
図6は球面引き出し電極電子銃のカソード半径をパラメータとしたシミュレーション結果である。アノード電圧4.5 kV,カソードは0V, 引き出し電圧7kV,ウエーネルト電圧を変えて電子銃電流を変化させた。図6で横軸は輝度(1000 A/cm2sr), 縦軸はエミッタンス(μmmrad)、及びカソード電流密度:Jc (A/cm2)である。71と77は平面カソード半径100μmR、72と78は平面カソード半径80μmR、73と79は、平面カソード半径60μmR、74と80は平面カソード半径40μmR、75と70は平面カソード半径30μmR、76と69は、平面カソード半径20μmR、の球面引き出し電極電子銃である。図の上側の曲線群は輝度―エミッタンス特性であり、下側の曲線群は輝度―カソード電流密度:Jc特性であるのは、図2、図7、図8も共通である。図で曲線73,74はそれぞれ60μmR と40μmR の輝度・エミッタンス特性であり、曲線79,80,70,69は順にそれぞれ60,40,30及び20μm半径 の輝度・カソード電流密度特性である。
【0021】
曲線群77、78、79、80、70,69を見れば明らかな様にカソード半径が小さい電子銃の方が同じカソード電流密度Jcで高輝度になることがわかる。また、カソード半径の大きい方が高エミッタンスになる。したがって特に高輝度が欲しい場合は、カソード半径を小さくすれば良く、逆に特に高エミッタンスが欲しい場合は、カソード半径を大きくすれば良い。細かく見れば、30μmRの輝度ーエミッタンス特性75は20μmRのそれ76より、おなじ輝度でエミッタンスが1.5倍あり、マルチビーム用では明らかに30μRが20μR半径のカソードより有利である。また、輝度・エミッタンス特性で100μmR:71と80μR:72では、ほとんど差はなく、輝度・カソード電流密度特性で同じ輝度を得るのに80μmR:78は、100μmR:77より小さいカソード電流密度である。したがって80μmRは100μmRより有利である。以上のデータから、マルチビーム用カソードとしては30μmR から80μmRの範囲で、輝度を優先するかエミッタンスを優先するかでカソード半径を決めればよい。
ビーム数が少なくてよい特殊な用途あるいは単ビームでは、輝度が曲線の右端近くで3.8x105A/cm2sr まで伸びている20μmR が良い。
【0022】
図7は30μmRカソードの電子銃についてウエーネルトの開き角度を変化させたシミュレーション特性である。横軸、縦軸、輝度の変化方法、その他は全て図2や図6と同じである。ウエーネルトの引き出し電極側R座標:Rwaは、8.5mm(81,86)、Rwa:9.5mm(82,87)、Rwa:10.5mm(83,88)、Rwa:11.5mm(84,89)、及びRwa:12.5mm(85,80)である。これらは、前記仮想円錐:4との角度差は順に66.5度、68.1度、70.5度、72度、74度である。図1の仮想円錐4との角度差が従来最適と考えられている67.5度に比較して、Rwa:8.5mmは67.5度より小さく、Rwa:9.5、Rwa:10.5,Rwa:11.5及びRwa:12.5mmは67.5度より大きい。
【0023】
曲線81,82,83,84を比較するとエミッタンスが最大になる輝度の値は、Rwaが大きいほうが高輝度であるのが見られる。従って図1の仮想円錐4との角度差が従来最適と考えられている67.5度より大きいほうが良い特性であることがわかる。言い換えれば、上記仮想円錐台とウエーネルトとの同じZ位置での半径差は、カソードに近い側が小さく、引き出し電極側で大きくするのが良いと言える。また、Rwa:12.5mmについては、エミッタンスは小さいが、輝度が4x105 A/cm2sr を超えるのでマルチビームの数が少ない場合あるいは単ビームでは利用価値がある。
【0024】
図8はカソード面が図6、図7の平面の場合と異なり曲率半径5mmRの凹面形状である。ウエーネルトの引き出し電極側R座標:Rwa は10.5mmに固定した。曲線91,92,93,94,95と96及び、97,98,99,100,101及び102は順にカソード半径は、100μmR、80μmR、60μmR、40μmR、30μmR及び20μmRである。曲線91〜96は輝度―エミッタンス特性であり、曲線97〜102は輝度―カソード電流密度特性である。縦軸はカソード電流密度:Jc(A/cm2)である。カソード半径20μmR の96は30μmRの95より下に位置し、同じ輝度でエミッタンスが小さく、良くない。30μmRから100μmRまではカソード半径の増加に従って輝度は順次小さくなるが、エミッタンスが大きくなる。特に、100μmR の91は、輝度が2.8x105 A/cm2sr で400μmmradに達するエミッタンスが得られた。20μmRは特に高輝度が必要な場合は利用価値がある。結論としては、球面引き出し電極電子銃では凹面カソードは、20μmRから100μmRのカソード半径でよい特性を示す。特にこの電子銃構造はエネルギー幅の小さいビームが期待されることを次に述べる。
【0025】
図9はR方向を拡大して表示した電子軌道のシミュレーションである。(A)は従来の3電極、凸面カソード(15μmR)電子銃での代表的な軌道特性である。光軸に垂直な細い線は等電位面で、カソード面が0V,順に50V, 100V, 150V, 200V, 250V・・・である。カソード表面での電流密度が高く、更に50Vの等電位面付近でクロスオーバを形成している。この場合、電子のスピードがまだ小さい時に電流密度が大きいので電子同志の衝突が盛んに起きエネルギー幅が拡がる事が予想される。
これに対して、(B)は球面引き出し電極電子銃(半径100μmR、5mmR凹面カソード)の電子銃での電子線軌道である。1はカソード、4は図1で定義した仮想円錐、3はウエーネルト、5は引き出し電極である。カソード表面でビーム径が最大で、引き出し電極:5側に進むに従ってビーム径が小さくなり、引き出し電極:5より後方で最小ビーム径を形成する。同じ輝度では球面引き出し電極電子銃のカソード電流密度が小さいことは図2の輝度ーカソード電流密度特性から明らかである。電子速度が小さいカソード付近で電流密度が小さく、電流密度が高くなるのは電子速度が十分大きくなり、電子同志の相互作用が小さくなった場所即ち、引き出し電極より後方であるからエネルギー幅の拡がりかたは小さくなると十分予想できる。またカソードを光陰極とし、(レーザーエネルギーカソードの仕事関数)が0.2eV 以下となるレーザ波長のレーザでカソードを励起すると室温でカソードを動作できるので、エネルギー幅はさらに小さくなる。
【0026】
図10は図2、図6、図7、図8の球面引き出し電極電子銃の実モデルである。カソードから垂直に出た電子軌道と等電位面も示されている。カソード温度:1800 K。 カソード仕事関数2.36 eV、Richardson 定数:43でMEBS社シュミレーションソフト“Source”を用いて、Space charge:on、でシミュレーションを行った。ウエーネルトの位置と寸法を次に示す。
カソード側ウエーネルト座標Zwc: 0.5 mm(=カソード位置)、Rwc: 0.12mm
引き出し電極側ウエーネルト座標Zwa: 4.5 mm(カソード位置)、Rwa: 10.5 mmただし図7では8.5から12.5mmの範囲で可変。メッシュ数は、Z 方向:200、R 方向:60 。ビームエネルギー:4.5 keV 、ウエーネルト電圧:-10 〜-800 V、電子銃電流:0.001〜5 mA で輝度が図の値になるよう変化させた。その他、特性にあまり関係の無い寸法は、もし必要ならこの図で、引き出し電極曲率半径:4.4 mmから算出できる。
【実施例2】
【0027】
図11はカソード及び引き出し電極が球面形状の電子銃の第2の実施の形態である。この電子銃は、放射光源の入射器に用いる電子銃の様に、高輝度大電流電子銃に関する。ERL放射光源の入射用に用いる電子源あるいはx−線源用の高電流密度電子銃に適している。111はカソード、112は引き出し電極、113,114はウエーネルト電極、115は光軸でこの軸の周りに回転対称である。116はターゲットである。このモデルの詳細は表2に示した。
【0028】
【表2】
シミュレーション手順は、
1)ウエーネルト電圧をある値に設定し、引き出し電極電電圧をパラメータとし設定して”SourceV を実行するとカソード電流 Ie が算出される。
2)“SourceA“を実行するとカソード電流密度 Jc とクロスオーバ径Dco、クロスオーバ位置:Zco が算出される。
3)“SourceB”を実行すると輝度の放出角度依存性が出力される。軸上輝度Bと。輝度が軸上輝度の90%又は110%になる放出角を読み取り、該放出角と上記クロスオーバの積からエミッタンスを算出する。
【0029】
図12はPierceタイプ電子銃と非Pierceタイプ電子銃のシミュレーション結果を比較したものである。カソード曲率半径をRcc, カソード・アノード間隔をDac,アノード又は引き出し電極曲率半径をRacとすると、前者では、Rcc, Dac 及びRacはそれぞれ、6mm、4mm、及び2mmであり、Rcc = Dac + Racを満たし、後者ではRcc, Dac 及びRac はそれぞれ、5mm、4mm、及び2mmであり、Rcc < Dac + Racである。
121,122、及び123は非Pierceタイプの特性で、順に輝度(104 A/cm2sr)、エミッタンス(μmrad)及びカソード電流密度:Jc(A/cm2)である。124,125及び126はPierceタイプ電子銃で、順に輝度(104 A/cm2sr)、エミッタンス:E(μmrad)及びカソード電流密度:Jc(A/cm2)である。121と124を比較すれば明らかなように、電子銃電流Ieが0.9A以上では非Pierceタイプの輝度はPierceタイプの輝度の1桁以上の値を示している。カソード電流密度には両者殆ど差は無く、エミッタンスはPierceタイプの輝度が小さいIeの領域で大きい。高輝度が必要な電子銃では、Rcc < Dac + Racを満たす非PierceタイプがPierce type 電子銃より遙かに有利であり、特に電子銃電流が0.8 A以上では圧倒的に非Pierceタイプが有利である。カソード電流密度では、6 A/cm2以上に相当する。
【0030】
図13は図12のデータを用い、輝度を横軸、縦軸にエミッタンス(μmrad)又はカソード電流密度:Jc(A/cm2) で表示したものである。231及び232は非Pierceタイプの順に輝度―エミッタンス特性及び輝度―カソード電流密度特性である。130はLangmuir
Limitであり、式(-1)
Bmax = Jc(1+eΦ/kT)/π (-1) で示される理論的最大輝度(A/cm2sr)であり、従来の理論ではこの直線の右側には輝度―カソード電流密度曲線は存在しない筈である。ここでJcは本明細書での記号と同じく、カソード電流密度(A/cm2), e: 電子の電荷(1.6x10−19クーロン)、Φ:ビームエネルギー(eV), k: ボルツマン定数1.38x10−23(J/K)、T:カソード温度(K)である。非PierceタイプのB-Jc特性232はLangmuir Limit130の右側に曲線が存在するが、PierceタイプのB-Jc 特性234は、Langmuir Limit130の右側に曲線は存在しない。233はPierceタイプの輝度―エミッタンス特性である。
なぜ非Pierceタイプが従来の理論に合わないかは、次のように説明できる。即ち、(-1)式は、電子銃が光学モデルに厳密に従う場合に成立し、たとえば、後に軌道を示す様に層流モデルに近い場合には成立しないからである。光学モデルでは、カソードからの電子軌道は、まずクロスオーバを形成し、その後カソード像を形成する。従って軌道は光軸と何回も交差する。これに対して層流モデルでは、軌道は光軸と交差しないのが特徴である。従って、層流モデルに近い電子銃ではLangmuir Limitを超えても不思議ではなく、逆に、超高輝度を得るには、層流に近い軌道に制御すればよい。
【0031】
カソード曲率半径がどの範囲で超高輝度が得られるかを調べるためカソード曲率半径を4mmから6mmの間を0.2mm間隔で変化させシムレーションを行った。アノード・カソード間距離Dac は4 mm, アノード曲率半径Rac は2mmに固定した。図14はカソード曲率半径Rccを4.2 mm、4.4 mm、5.6, 及び5.8 mmとした場合のシミュレーション結果である。241はカソード曲率半径Rccが4.2 mmの場合,242はカソード曲率半径Rcc が5.8 mmの場合,243, 244はカソード曲率半径Rcc が4.4, 5.6 mmの場合である。太い実線は輝度のIe依存性であり、破線はエミッタンスのIe 依存性であり、細い実線はカソード電流密度JcのIe依存性である。Rccが4.2 mmと5.8 mmの場合は241と242の太い実線に示したように、輝度が他の2つの輝度に比べて大幅に小さい。特にIe
が大きい場合は、Rccが4.4 mm(243)、5.6 mm(244)の電子銃は4.2 mm及び5.8 mmの場合に比較して2桁以上大きい値が得られている。カソード電流密度Jcは4者ともほぼ同じ値であり、エミッタンスは、4.2 mmと5.8 mmの曲率半径での値が、輝度の小さい場合に大きい値である。高輝度が必要な場合は、Rccが4.4から5.6 mmの範囲が良い。この範囲を式で表すと次式になる。
1.1 Dac ≦ Rcc ≦ 0.9666 (Dac + Rac) の場合である。
【0032】
図15は、図14のデータを横軸に輝度、縦軸をエミッタンス(μmrad)又はカソード電流密度(A/cm2) で表示したものである。151はRccが4.2 mm、152は5.8 mm、153, 154は4.4, 5.6 mmで、ほぼ右下がりの曲線はいずれもB-E特性であり、僅かに増加関数の曲線がB-Jc特性である。158は1850 K, 3keVのLangmuir Limitである。B-Jc 特性151と152は直線158の右側にはなく、153、と154は158の右側に出ている。従って、Rccが4.4 mmより大きく5.6mmより小さい場合のみ超高輝度が得られた。
この結果と図12、図13での結果を総合すると、カソード曲率半径Rcc は、次式を満たす場合に超高輝度が期待される。
1.1 Dac ≦ Rcc ≦ 0.9666 (Dac + Rac)
【0033】
光陰極の場合は、室温でカソードを動作できるので、カソードから放出される電子のエネルギー幅が小さく、高輝度が期待できる。図16は(レーザーエネルギー―カソード仕事関数)が0.2 eV 以下になるレーザ波長とカソード仕事関数の組み合わせを選んだ場合のシミュレーション結果である。この組み合わせは、たとえば、CeBix とKr(クリプトン)レーザあるいは、LaB6 とAr レーザの組み合わせ等がある。161,162,163及び164は順にRccが4, 5.6, 4.2及び5.4 mmの場合であり、太い実線はいずれも輝度B(105 A/cm2sr)の電子銃電流Ie依存性であり、破線はエミッタンス(μmrad),細い実線はカソード電流密度Jc(A/cm2)である。カソード・アノード間距離Dacは4mm、アノード曲率半径Racは2mmに固定した。輝度の特性に注目すると、161と162は2x106以下の小さい値であるのに対して,163と164は1x107を超える大きい値になっている。 Dacは4mm、Racは2mmであるから、161はRcc = Dacであり,163はRcc = 0.933 (Dac + Rac) である。163,164はRccが1.05 Dacよりは大きく、0.9 (Dac + Rac)より小さい範囲に入っている。破線のエミッタンスは、高輝度では小さく、低輝度では比較的大きな値を示し、シミュレーションの正しさを表している。光軸近くのカソード電流密度は、ほぼ4条件で近い値であり、細かく見れば、同じIeではRccが4mm、4.2mm、5.4mm、5.6mmの順に大きくなっている。これはカソード曲率が大きいとカソード周辺部とアノード間距離が遠くなり、周辺部からの電子放出が小さくなるためである。
【0034】
図17は、図16のデータを横軸に輝度(105 A/cm2sr)、縦軸にエミッタンス(μmrad)又はカソード電流密度(A/cm2) で表示したものである。曲線171,172,173,及び174は順にRccが4, 5.6, 4.2及び5.4 mmに対応する。僅かに右上がりの線は輝度―カソード電流密度であり、ほぼ右下がりの曲線は輝度―エミッタンスである。175は3kV, 300KでのLangmuir Limitであり、この直線の右にある輝度―カソード電流密度の曲線はこの限界を超えている。171と172の実線は175の線の右には出られず、173と174即ち4.2mmと5.4mmのRccの電子銃でLangmuir Limitを超える輝度が得られている。従ってカソード曲率半径Rccは、図16での説明のように次式を満たせば高輝度が得られる。
1.05 Dac ≦Rcc ≦ 0.9 (Dac + Rac) (2)
【0035】
図18はPierce Type電子銃で、カソード表面の法線から45度の角度で、1850Kに対応する初期エネルギー(0.158eV)で放出された電子の軌道を描いたものである。カソードから放出されたすべての電流は365μmΦにターゲットで収束している。このモデルは、図11のウエーネルト電極を円錐台113と円盤114の組み合わせとし、113の円錐角を最適化した結果である。Ie: 1.26 Aが365μmΦの円に一様に分布したと仮定するとターゲットでの電流密度は1200 A/cm2になる。実際は一様分布ではないのでこの数倍の電流密度になっていると期待できる。カソード電流密度Jcは、10.1 A/cm2であり、120倍の電流密度になっている。
【0036】
図19はカソード曲率半径Rccを4.5 mm即ち非Pierce Typeにした場合である。カソードでの電流密度9.2 A/cm2に対して、2172 A/cm2 のターゲットでの電流密度が得られた、カソードでの密度の236倍である。
【0037】
図20は光陰極電子銃の場合で、LaB6カソードとArレーザの組み合わせを想定したシミュレーションで、引き出し電圧は25 kV,ターゲットは3kVである。カソード電流密度:Jcが8.62 A/cm2をターゲットで3510 A/cm2に収束できた。電流密度は、407倍に高密度になった。この様に光陰極の場合もカソード曲率半径を前記(2)式を満たす範囲に設定することにより、高密度にビームを収束できた。また、カソードからのビーム径が単調に減少し、引き出し電極より後方で最小ビーム径を形成するよう制御したので、速度の小さいカソード付近では電流密度が小さく、最小ビーム径ではビーム速度が充分大きくなった後に形成されるので、電子ー電子の相互作用が小さく、ベルシェ効果によるエネルギー幅の拡がりの小さいビームが得られる。また、最小ビーム径位置で、従来のクロスオーバの様に軌道が光軸や他の軌道と交差しないので電子・電子の相互作用が更に小さく、空間電化効果によるエネルギー幅の拡がりの更に小さいビームが得られる。尚、カソード外周部からのビームは下流の光学系の開口で除かれるので、少なくともカソード中心部からの軌道が光軸と交差しなければ良い。
【0038】
図21は、光陰極電子銃の場合で従来の凸面形状カソード・平面アノードの電子銃と、本発明の平面カソード・凸面アノード電子銃即ち図1のモデルとの比較である。210はカソード曲率半径:Rccが15μm、211はRccが30μmの凸面カソードであり、212,213,214はカソード半径がそれぞれ30μm、60μm及び80μmの平面カソード・凸面アノード電子銃である。従来の凸面形状カソード・平面アノードの電子銃210,211では輝度はカソード電流Ieの単調増加関数で、1x107A/cm2srに達していないのに対して、平面カソード・凸面アノード電子銃212、213,214では3mA 以下の比較的小さいIeで1x107A/cm2srを超える高輝度が得られている。
【0039】
図22は、図21の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。220は15μmRcc、221は30μmRccの凸面カソードであり、曲線222,223,224はカソード半径がそれぞれ30μm、60μm及び80μmの平面カソード・凸面アノード電子銃である。
点線の直線は300 K, 4.5 keVでのLangmuir Limitである。凸面カソード220と221では、輝度―カソード電流密度の細い線は、常にLangmuir Limitの直線の左側にあるのに対して、凸面アノード電子銃222,223,224の場合は、細い線がLangmuir Limit
の右側に存在し、小さいカソード電流密度で高輝度が得られている。エミッタンスも224では2x106 A/cm2sr で 、223では3x106で90μmmrad に達している。
【0040】
図23は、平面カソード半径Rc:60μm、カソード・アノード間隔Dac:1.5mm、4.4 mmアノード曲率半径の光陰極電子銃で、ウエーネルト角度を変化させた場合のシミュレーション結果である。ウエーネルトのカソード側座標は、Zwc:0.5, Rwc: 0.11に固定し、アノード側座標Rwa: 10mm(固定)、Zwa: 1, 2, 3, 4, 4.5, 5.5 と変化させた。ウエーネルトと光軸との角度は、それぞれ 87.1, 81.4, 75.8, 70.5, 68, 63.2 度であり、カソード端からアノード位置で光軸と交わる線の光軸との角度:2.3度を加算すると、ビーム端とウエーネルト角との差が算出され、それぞれ、89.4, 83.7, 78.1, 72.8, 70.3, 65.5 度となり、これらの条件でシミュレーションした。結果は順に、曲線239、238、237,236,235及び230に示した。ビーム端とウエーネルト角との差が小さい方が小さいカソード電流で高輝度が得られているのが分かる。89.4度を除き、ビーム端とウエーネルト角との差が小さいと最高輝度は小さくなる傾向である。特に65.5度の場合は、高輝度が得られるIeの値は70.3度とあまり変わらず、最高輝度が1/10以下になっている。この結果から、108 A/cm2srを超える輝度が得られるビーム端とウエーネルト角との差は、従来良いと考えられていた67.5度より大きい角度が良いと言える。
【0041】
図24は、図23の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。 241は300K, 4.5keVでのLangmuir Limitである。曲線249, 248, 247, 246, 245,及び244 はそれぞれビーム端とウエーネルト角との差が89.4, 83.7, 78.1, 72.8, 70.3, 65.5 度に対応する。65.5度の条件でも一応Langmuir Limit を超えている。ウエーネルト角が平面に近づけるほうが高輝度になるカソード電流密度が小さくなっている。これはIeが大きくなる図23の結果と一見矛盾しそうだが、ここでのカソード電流密度は、光軸近辺での値であって、カソードの平均密度ではないので矛盾はない。つまり、ウエーネルト角が開いていると、カソード周辺での電流密度が増加し、光軸近辺で小さいカソード電流密度でもIeを大きくしていると言える。65.5度では、Langmuir Limitは超えているが、カソード電流密度が30 A/cm2を超え、しかも同じ輝度でのエミッタンスの値が他の角度の電子銃に比較して小さく、大きいビーム電流を得るのに適さない。以上図23,24の結果から、ビーム端とウエーネルト角との差が、67.5度より大きいほうが良い。
【0042】
次に、カソード温度は1800Kに戻し、ビーム端とウエーネルト角との差を75.4度に固定し、超高輝度及び超高エミッタンスが得られる条件をカソード半径とカソード・アノード間隔Dacを変えて調べた。アノード曲率半径は、4.4mmである。図25はカソード・アノード間隔Dacを5.5mmに固定し、カソード半径Rcを15μmから960μmまで2倍ずつ変化した場合の結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの細線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線251, 252, 253, 254, 255, 256, 及び257 はそれぞれ15, 30, 60, 120, 240, 480,及び 960μmRcのカソード半径である。すべてのカソード半径電子銃で、Ieを増加すると、まず高エミッタンス条件になり、さらにIe を増加すると高輝度条件が現れる。15から120μmRcの範囲では、高輝度条件になるカソード電流密度はほぼ同じであるが、120から960μmRcでは高輝度になるカソード電流密度はカソード径の増加に伴って減少する。各カソード半径での最高エミッタンス条件、最高輝度条件になるIeの値を図25から読み取り表3にまとめた。
【0043】
【表3】
【0044】
図26は、図25の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。破線は1800K, 4.5 keVでのLangmuir limitであり、ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。曲線261, 263, 265, 及び267 はカソード半径Rcがそれぞれ15, 60, 240, 及び960μmに対応する。カソード半径の大きい電子銃では小さいカソード電流密度で高輝度及び高エミッタンス条件になり、同じ輝度条件では、エミッタンスが大きくなる傾向である。このDac条件では、例えば、1x105 A/cm2srの輝度でエミッタンスが100μmmrad 程度と小さく、高エミッタンスが必要な場合は適さない問題がある。また、エミッタンスが1000 mradμmのとき、輝度が2.5x10-2A/cm2sr と小さいので、高エミッタンス時高輝度も必要な場合にも適さない。
【0045】
図27はカソード・アノード間隔Dacを1mmに固定し、カソード半径Rcを15μmから960μmまで2倍ずつ変化した場合の結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの実線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線271, 272, 273, 274, 275, 276, 及び277 はそれぞれ15, 30, 60, 120, 240, 480,及び 960μmRcのカソード半径である。すべてのカソード半径電子銃で、Ieを増加すると、まず高エミッタンス条件になり、さらにIe を増加すると高輝度条件が現れる。15から120μmRcの範囲では、高輝度条件になるカソード電流密度はほぼ同じであるが、120から960μmRcでは高輝度になるカソード電流密度はカソード径の増加に伴って減少する。高エミッタンス条件、高輝度条件になるIeの値を図27から読み取り表3にまとめた。
【0046】
図28は、図27の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。右上がりの直線は1800K, 4.5keVでのLangmuir limitであり、ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。曲線281, 283, 285, 及び287 はカソード半径Rcがそれぞれ15, 60, 240, 及び960μmに対応する。カソード半径の大きい電子銃では小さいカソード電流密度で高輝度及び高エミッタンス条件になり、同じ輝度条件では、エミッタンスが大きくなる傾向である。このDacの条件ではカソード電流密度が、19〜55A/cm2と大きくなる問題点がある。
【0047】
図29はカソード・アノード間隔Dacを3mmに固定し、カソード半径Rcを15μmから960μmまで2倍ずつ変化した場合の結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの細線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線291, 292, 293, 294, 295, 296, 及び297 はそれぞれ15, 30, 60, 120, 240, 480,及び 960μmRcのカソード半径である。すべてのカソード半径電子銃で、Ieを増加すると、まず高エミッタンス条件になり、さらにIe を増加すると高輝度条件が現れる。15から120μmRcの範囲では、高輝度条件になるカソード電流密度はほぼ同じであるが、120から960μmRcでは高輝度になるカソード電流密度はカソード径の増加に伴って減少する。高エミッタンス条件、高輝度条件になるIeの値を図29から読み取り表3にまとめた。
【0048】
図30は、図29の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。300は1800K, 4.5keVでのLangmuir limitであり、ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。曲線301, 303, 305, 及び307 はカソード半径Rcがそれぞれ15, 60, 240, 及び960μmに対応する。カソード半径の大きい電子銃では小さいカソード電流密度で高輝度及び高エミッタンス条件になり、同じ輝度条件では、エミッタンスが大きくなる傾向である。このDacの条件ではカソード電流密度は、10A/cm2以下でありカソード電流密度が大きい問題点はなく、また、エミッタンスも105 A/cm2srの輝度で1000μmmrad 程度であり、高エミッタンスが必要な場合にも問題が無い。当然高エミッタンス時、高輝度が必要な場合も適切である。
【0049】
図31は、表3の数値をグラフにしたものである。横軸はカソード半径Rc(μm)であり、縦軸は各カソード半径電子銃での最大輝度と最大エミッタンスをあたえる電子銃電流:Ie(Bmax)mA, とIe(Emax) mA,であり、前者を実線、後者は破線で表示した。310はRcが120〜960μmの範囲でDacが1mmでのIe(Bmax)の値の分布を最小自乗法で直線表示したものである。313及び314はDacがそれぞれ3mmと5.5mmでの同様の直線である。最大エミッタンスを与える電子銃電流Ie(Emax)は、120から480μmの範囲では直線に乗ったが、960μmは同じ直線に乗らず、別の線で示した。Dacが1mmを311と312で表し、Dac:3mm を316と315で表し、Dac; 5.5 mmを317と318で示した。以上の直線は次のようになる。
310の直線は、Ie(B max)=.0332Rc + 8.1 ただしRcをμm、IeをmAとした。
314の直線は、Ie(B max)=.0294Rc - 1.3, 313の直線は、Ie(B max)=.0353Rc + 0.8,
311の直線は、Ie(E max)=.0322Rc + 6.8, 312の直線は、Ie(Emax)=.0191Rc + 13.2
316の直線は、Ie(Emax)=.0255Rc -1.2, 315の直線は、Ie(Emax)=.0202Rc + 1.6
317の直線は、Ie(Emax)=.0226Rc - 1.7, 318の直線は、Ie(Emax)=.007Rc + 5.9
Dacを1mmにした場合、最大輝度は、Ie(B max)=.033Rc + 8.1で得られ、Dacを5.5mmにした場合は、Ie(B max)=.0294Rc -1.3 で得られるから、Dacの1mmから5.5 mmの範囲では、
0.0294Rc - 1.3 ≦ Ie ≦ 0.0332Rc + 8.1 (1)
に最大輝度を与える電子銃電流がある。カソード電流密度を大きくしたくない場合は、[0047]の記述からDacを3から5.5mmの範囲にすればよいので、不等号の右側が313の式に変更され、
0.0294Rc - 1.3 ≦ Ie ≦0.0353Rc + 0.8, (2)
にすれば超高輝度が得られ、エミッタンスも必要な場合は、(0047)の記述からDacを1から3mmにすればよいので、最大輝度は(1)式の不等号の右側が313の式に変更され、
0.0353Rc + 0.8 ≦Ie≦ 0.0332Rc + 8.1 (3)
とすればよい。
最大エミッタンスを得る条件は次の様になる。Dacを1mmにした場合は、
直線311: Ie(Emax)=.0322Rc + 6.8, 但し 120≦ Rc ≦480(μm)又は
直線312: Ie(Emax)=.0191Rc + 13.2 但し 480 < Rc ≦960(μm)
Dacを5.5mmにすると、
直線317: Ie(Emax)=.0226Rc -1.7, 但し 120 ≦ Rc ≦ 480(μm)
直線318: Ie(Emax)=.007Rc + 5.9 但し 480 < Rc ≦ 960(μm)
従って、Dac を1mm〜5.5mmの範囲では、最大エミッタンスが得られる条件は、
0.0226Rc - 1.7 ≦ Ie ≦ 0.0322Rc + 6.8, 但し120 ≦ Rc ≦ 480(μm)又は
(4)
0.007Rc + 5.9 ≦ Ie ≦ 0.0191Rc + 13.2 但し 480 < Rc ≦ 960(μm) (5)
カソード電流密度を大きく出来ない場合は、(0047)の記述からDacを3mmから5.5mmの範囲にすればよく、(4)、(5)式の不等号の右側が315、316の式にそれぞれ変更され、
0.0226Rc - 1.7 ≦ Ie ≦ 0.0255Rc - 1.2, 但し 120 ≦ Rc ≦480(μm) (6)
0.007Rc + 5.9 ≦ Ie ≦ 0.0202Rc + 1.6 但し 480 < Rc ≦960(μm) (7)
輝度も必要な場合は、(0047)の記述からDacを1mmから3mmの範囲にすればよく、(4)、(5)式の不等号の左側が311、312の式にそれぞれ変更され、
0.0255Rc -1.2 ≦ Ie ≦ 0.0322Rc + 6.8, 但し 120 ≦ Rc ≦ 480(μm)(8)0.0202Rc + 1.6 ≦ Ie ≦ 0.0191Rc + 13.2 但し 480 < Rc ≦ 960(μm)(9)
【0050】
図32は、表3のうちRcが120μm以下を拡大表示したものである。このカソード半径範囲の場合は、小さい電子銃電流で超高輝度あるいは超高エミッタンスが得られる特徴がある。これに対して、カソード半径が120から960μmの範囲では、最大輝度、及び最大エミッタンスの値が、120μmRc以下の場合に比べて特に大きい特徴がある。
320は、カソード・アノード間距離Dacが1mmの場合、最大輝度を与える電子銃電流のカソード半径依存性である。直線の式は
Ie = 0.111Rc - 1.05, 最大エミッタンス条件は、321で Ie = 0.103Re - 1.1
Dac: 3 mm の最大輝度は、322:Ie = 0.0524Rc - 1.6
最大エミッタンス条件は、323: Ie = 0.0406Rc - 1.1
Dac: 5.5 mm での最大輝度は、324: Ie = 0.0196Rc -0.5
最大エミッタンスは、325: Ie = 0.0136Rc -0.3
従って、図31の場合と同じ論理から、Dacを1mmにした場合、最大輝度は、
Ie(Bmax)=0.111Rc -1.05になり、Dac を5.5mmにした場合は、
Ie(Bmax)=0.0196Rc -0.5 であるから、Dacを1mmから5.5mmの範囲では、
0.0196Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.111Rc - 1.05 但し、Rc≦120μm (10)
に最大輝度を与える電子銃電流がある。カソード電流密度を大きくしたくない場合は、(0047)の記述からDacを3から5.5mmにすればよいので、(10)式の右側が322の式に変更されるので
0.0196Rc - 0.5 ≦ Ie ≦0.0524Rc - 1.6, (11)
にすればよく、エミッタンスも必要な場合は、(0047)の記述からDacを1から3mmにすればよいので、最大輝度は(10)式の左側が322の式に変更され、
0.0524Rc -1.6 ≦ Ie ≦ 0.111Rc - 1.05 (12)
の電子銃電流の範囲にある。
最大エミッタンスを得る条件は次の様に纏められる。Dacを1〜5.5mmの範囲にした場合は、321の式と325の式の間に最大エミッタンスを得る条件があるので、
0.0136Rc - 0.3 ≦ Ie ≦0.103Re - 1.1 (13)
カソード電流密度を大きくしたくない場合は、(0047)の記述からDacを3〜5.5mmにすればよく、(13)式の右側が323の式に変更され、
0.0136Rc - 0.3 ≦ Ie ≦ 0.0406Rc - 1.1 (14)
輝度も大きくしたい場合は、(0047)の記述からDac を1〜3mmにすればよく、(13)式の左側が323の式に変更され、
0.0406Rc - 1.1 ≦ Ie ≦0.103Re - 1.1 (15)
【0051】
カソード半径Rcの15から960μmについてまとめると次の様になる。最大輝度は、
0.0196Rc - 0.5 ≦ Ie ≦0.111Rc -1.05 15 ≦ Rc ≦ 120μm、又は (10)
0.0294Rc - 1.3 ≦ Ie ≦ 0.0332Rc + 8.1 120 < Rc ≦ 960μm (1)
カソード電流密度を大きくしたくない場合は、
0.0196Rc - 0.5 ≦ Ie ≦0.0524Rc -1.6, 15≦ Rc ≦120μm、又は (11)0.0294Rc - 1.3 ≦ Ie ≦0.0353Rc + 0.8, 120 < Rc ≦960μm (2)
エミッタンスも必要な場合は、
0.0524Rc -1.6 ≦Ie ≦ 0.111Rc -1.05 15 ≦ Rc ≦ 120μm、又は(12)
0.0353Rc + 0.8 ≦Ie ≦ 0.0332Rc + 8.1 120< Rc ≦ 960μm (3)
最大エミッタンスを得る条件は、
0.0136Rc - 0.3 ≦ Ie ≦0.103Re - 1.1 15≦ Rc ≦120μm、 (13)
0.0226Rc - 1.7 ≦ Ie ≦ 0.0322Rc + 6.8, 120 < Rc ≦480、又は (4)
0.007Rc + 5.9 ≦ Ie ≦ 0.0191Rc + 13.2 480 < Rc ≦960。 (5)
カソード電流密度を大きく出来ない場合は
0.0136Rc - 0.3 ≦ Ie ≦ 0.0406Rc - 1.1 15 ≦ Rc ≦120μm. (14)
0.0226Rc - 1.7 ≦ Ie ≦ 0.0255Rc -1.2, 120 < Rc ≦480μm. 又は (6)
0.007Rc + 5.9 ≦ Ie ≦ 0.0202Rc + 1.6 480 < Rc ≦960μm. (7)
輝度も必要な場合は、
0.0406Rc - 1.1 ≦ Ie ≦0.103Re - 1.1 15 ≦ Rc ≦120μm (15)
0.0255Rc -1.2 ≦ Ie ≦ 0.0322Rc + 6.8, 120 < Rc ≦480μm.又は (8)
0.0202Rc + 1.6 ≦ Ie ≦ 0.0191Rc + 13.2 480< Rc ≦960(μm) (9)
【0052】
次に、ビーム端とウエーネルト角との差を75.4度に固定し、超高輝度及び超高エミッタンスが得られる条件をカソード半径とカソード・アノード間隔Dacを変えて調べた。アノード曲率半径は4.4 mmである。図33はカソード半径Rcを15μmに固定し、カソード・アノード間隔Dacを2,3,4,5、及び6mmに変えて調べた場合の結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの実線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線331, 332, 333, 334, 及び335 はそれぞれ6, 5,
4, 3, 及び2mmのカソード・アノード間隔Dacである。すべてのカソード・アノード間隔Dacで、Ieを増加すると、まず高エミッタンス条件になり、さらにIe を増加すると高輝度条件が現れる。最高エミッタンス条件、最高輝度条件になるIeの値を表4にまとめた。
【0053】
【表4】
【0054】
図34は、図33の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。340は4.5 keV, 1800 KでのLangmuir Limitである。曲線341, 342, 343, 344, 及び345 はカソード・アノード間隔Dacがそれぞれ6, 5, 4, 3 及び2 mmに対応する。カソード・アノード間隔Dacの大きい電子銃では小さいカソード電流密度で高輝度及び高エミッタンス条件になり、同じ輝度条件では、エミッタンスが小さくなる傾向である。このRcの条件では、エミッタンスが106A/cm2srの輝度で20μmmrad 以下であり、高エミッタンスが必要な場合に問題がある。また、1000μmmrad 程度の高エミッタンス時、輝度が1000A/cm2sr以下になる。高エミッタンスと高輝度が必要な場合は問題である。
【0055】
図35はカソード半径Rcを960μmに固定し、カソード・アノード間隔Dacを2,3,4,5、及び6mmに変えて調べた場合の結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの実線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線351, 352, 353, 354, 及び355 はそれぞれ6, 5, 4, 3, 及び2 mmのカソード・アノード間隔Dacである。すべてのカソード・アノード間隔Dacで、Ieを増加すると、まず高エミッタンス条件になり、さらにIeを増加すると高輝度条件が現れる。最高エミッタンス条件、最高輝度条件になるIeの値を本図から読み取り表4にまとめた。
図36は、図35の特性を用い、横軸を輝度、縦軸をエミッタンス(μmmrad、ほぼ右下がりの曲線)又はカソード電流密度(A/cm2ほぼ水平に近い線)で表示したものである。360は4.5 keV, 1800 KでのLangmuir Limit である。曲線361, 362, 363, 364, 及び365 はカソード・アノード間隔Dacがそれぞれ6, 5, 4, 3 及び2 mmに対応する。カソード・アノード間隔Dacの大きい電子銃では小さいカソード電流密度で高輝度及び高エミッタンス条件になり、同じ輝度条件では、エミッタンスが小さくなる傾向である。このRcの条件では、エミッタンスが106A/cm2srの輝度で200μmmrad 程度であり、高エミッタンスと高輝度が必要な場合にも問題は無い。しかし、高輝度あるいは高エミッタンスになるIeが大きい問題がある。
【0056】
図37はカソード半径Rcを120μmに固定し、カソード・アノード間隔Dacを2mmから6mmまで1mmずつ変化した場合の結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの実線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線371, 372, 373, 374, 及び375 はそれぞれDacが6、5、4、3、及び 2mmである。すべてのカソード・アノード間隔で、Ieを増加すると、まず高エミッタンス条件になり、さらにIe を増加すると高輝度条件が現れる。最高エミッタンス条件、最高輝度条件になるIeの値を表4にまとめた。最高エミッタンス条件、最高輝度条件になるIeの値は7.1mA以下であり、960μmRcでの問題点はこの条件では解消されている。
【0057】
図38は、図37の特性を用い、横軸を輝度、縦軸をエミッタンス(μmmrad、ほぼ右下がりの曲線)又はカソード電流密度(A/cm2ほぼ水平に近い線)で表示したものである。曲線381, 382, 383, 384, 及び385 はカソード・アノード間隔がそれぞれ6, 5, 4, 3 及び2mmに対応する。カソード・アノード間隔の大きい電子銃では小さいカソード電流密度で高輝度及び高エミッタンス条件になり、同じ輝度条件では、エミッタンスが小さくなる傾向である。このカソード半径の条件ではカソード電流密度は20A/cm2以下であり, カソード電流密度が大きい問題点はなく、またエミッタンスも1x106A/cm2srの輝度で40μmmrad 程度であり、高エミッタンスが必要な場合にも問題が無い。当然高エミッタンス時、高輝度が必要な場合も適切である。即ち、15μmRcでの問題点が解消されている。
【0058】
図39は、表4の数値をグラフにしたものである。横軸はカソード・アノード間隔Dacの逆数(1/Dac)であり、縦軸は各カソード・アノード間隔Dac電子銃での最大輝度と最大エミッタンスをあたえる電子銃電流:Ie(Bmax)mA, とIe(Emax) mA, であり、前者を実線、後者は破線で表示した。391はDacが6〜3 mmの範囲でRcが.96 mmでのIe(Bmax)の値の分布を最小自乗法で直線表示したものである。392はDacが3mm〜2mmでの同様の直線である。最大エミッタンスを与える電子銃電流Ie(Emax)は、Dacが6 mmから4mmの範囲では393の直線に乗り、4〜2mmでは394の直線で示した。Rcが0.12 mmでの最大輝度をあたえる電子銃電流:Ie(Bmax)mA,を395で表した。以下の直線は次のようになる。
391の直線は、Ie(Bmax)=92.8/Dac + 9.28 ただしDacをmm、IeをmAとした。
392の直線は、Ie(Bmax)=22/Dac + 32.7, 393の直線は、Ie(Emax)=117/Dac - 8.35,
394の直線は、Ie(Emax)=12/Dac + 17.8, 395の直線は、Ie(Bmax)=17.8/Dac - 1.51,
【0059】
図40は、表4のうちRcが120μmと15μmを拡大表示したものである。これらのカソード半径の場合は、小さい電子銃電流で超高輝度あるいは超高エミッタンスが得られる特徴がある。これに対して、カソード半径が120から960μmの範囲では、最大輝度、及び最大エミッタンスの値が、120μmRc以下の場合に比べて特に大きい特徴がある。
401は、カソード半径Rcが0.12mmの場合、最大エミッタンスを与える電子銃電流Ie(Emax)のカソード・アノード間距離Dac依存性である。直線の式は
Ie(Emax) = 17.3/Dac - 1.99, である。402、403は カソード半径Rcが15μmの場合、最大輝度及び最大エミッタンスをそれぞれ与える電子銃電流Ie(Bmax)及びIe(Emax)のカソード・アノード間距離Dac依存性である。直線の式は、
402: Ie(Bmax) = 0.409/Dac -0.0475
最大エミッタンス条件は、 403: Ie(Emax) = 0.388/Dac -0.046
以上でLangmuir limitを超える最大輝度を与えるIe値及び最大エミッタンスを与える電子銃電流Ieの式が出揃った。これらの式から、どのような電子銃電流範囲でLangmuir limitを超える最大輝度及び最大エミッタンスが得られるかを次に纏める。
【0060】
Langmuir limitを超える最大輝度:
15μmRcでは、402の直線:Ie(Bmax) = 0.409/Dac -0.0475
960μmRcでは、391の直線:Ie(Bmax) =92.8/Dac + 9.28 Dac ≧3mm
392の直線:Ie(B max) =22/Dac + 32.7, Dac <3mm
従って、カソード半径が15〜960μmの範囲では、
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦92.8/Dac + 9.28、 Dac ≧3mm (16)
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦22/Dac + 32.7、 Dac < 3mm (17)
の範囲にLangmuir limitを超える最大輝度がえられるIeがある。
上記で電子銃電流を大きくしたくない場合は、(0055)での記述から、Rcを15〜120μmの範囲にすればよく、(16)式の右側が395の式に変更されるので、
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦17.8/Dac -1.51 (18)
となる。
高輝度でエミッタンスも必要な場合は、(0055)での記述から、Rc を120〜960μmの範囲にすればよく(16)、(17)式の左側が395の式に変更されるので、
17.8/Dac - 1.51 ≦ I ≦92.8/Dac + 9.28、 Dac ≧ 3mm (19)
17.8/Dac - 1.51 ≦ Ie ≦22/Dac + 32.7、 Dac < 3mm (20)
高エミッタンスを得る条件:
15μmRcでは、403の直線:Ie(Emax) = 0.388/Dac -0.046
960μmRcでは、393の直線:Ie(E max)=117/Dac - 8.35, Dac ≧ 4mm
と394の直線:Ie(E max)=22/Dac + 17.8, Dac < 4mm
従って、カソード半径が15〜960μmの範囲では、
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦117/Dac -8.35, Dac ≧4mm, 又は (21)0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦12/Dac + 17.8, Dac < 4mm (22)
電子銃電流を大きくしたくない場合は、(0055)での記述から、Rcを15〜120μmの範囲にすればよく、(21)、(22)の不等式の右側は401の直線になり、
0.388/Dac - 0.046 ≦ Ie ≦17.3/Dac -1.99, (23)
高エミッタンスで輝度も必要な場合は、(0055)での記述から、Rc を120〜960μmの範囲にすればよく(21)、(22)の左側が401の式に変更され、
17.3/Dac - 1.99 ≦ Ie ≦117/Dac -8.35, Dac ≧4mm (24)
17.3/Dac - 1.99 ≦ Ie ≦12/Dac + 17.8, Dac <4mm (25)
と表現できる。
【0061】
本発明の電子銃では電子銃電流が大きい傾向がある。この大きい電流で最小ビーム径迄流すと、空間電荷効果によってエネルギー幅が大きくなると予想される。この対策としてアノードあるいは引き出し電極の後面に小さい開口を設け、不要なビームを取り除く検討を行った。図41は500μm Rcの電子銃のアノード後面に小開口を設け、Langmuir limitを超えるかシミュレーションした結果である。縦軸はB(105A/cm2sr), E(μmmrad),Jc(A/cm2)である。曲線411, 412, 413及び414は開口半径が順に73.8, 61.5, 49.5, 37μmに対応する。開口位置でのビーム半径はほぼ200μmであり、ビームの透過率は、順に13.6, 9.47, 6.13, 3.42 %である。図から明らかな様に、大部分のビームを最小径になる手前でトラップしているにもかかわらず、2x107 A/cm2srを超える輝度が得られている。実用的には、透過率を1/3以下にすれば、空間電荷効果を1/3にできるので有効である。
図42は、図41の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。421, 422, 423, 及び424 は小開口半径がそれぞれ73.8, 61.5, 49.5 及び37μmに対応する。いずれの開口条件でもLangmuir limitを超えている。
アノードの後面に小開口を設ける代わりにアノード穴径を小さくしても同じく空間電荷効果を小さくできる。従って、アノード穴径をその位置でのビーム径より小さくすれば不要な電子銃電流を取り除ける。カソード・ウエーネルトとアノードのアライメントが最適の時アノードで吸収される電流は最小になり、アノードの透過率は最大になることを利用し、カソード・ウエーネルトとアノードのアライメントを行うことが出来る。
【0062】
図47は、図11のモデルで、カソード・アノード間隔を5mmに固定し、カソード半径Rcを1.5から3mmまで変えシミュレーションした結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの細線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線471, 472, 473 及び474 はそれぞれ1.5, 2, 2.5及び 3 mmRcのカソード半径である。すべてのカソード半径電子銃で、Ieを増加すると、まず高エミッタンス条件になり、さらにIe を増加すると高輝度条件が現れる。これらのRcの範囲では、高輝度条件になるカソード電流密度はカソード径の増加に伴って減少する。高エミッタンス条件、高輝度条件になるIeの値を図47から読み取り図43にまとめた。
【0063】
図48は、図47の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。曲線481, 482, 483,
及び484 はカソード半径Rcがそれぞれ1.5, 2, 2.5 及び3 mmに対応する。カソード半径の大きい電子銃では小さいカソード電流密度で高輝度及び高エミッタンス条件になり、同じ輝度条件では、エミッタンスが大きくなる傾向である。このDacの条件では輝度が106A/cm2srの時エミッタンスが0.59μmmrad 程度であり、高エミッタンスが必要な場合に問題である。
図49は、図11のモデルで、カソード・アノード間隔を3mmに固定し、カソード半径Rcを1から3mmまで変えシミュレーションした結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの細線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線491, 492, 493, 494 及び495 はそれぞれ1, 1.5, 2, 2.5及び 3 mmRcのカソード半径である。すべてのカソード半径電子銃で、Ieを所定の値にするとLangmuir limitを超える高輝度条件が得られる。これらの高輝度条件になるIeの値を図49から読み取り図44にまとめた。この電子銃条件では、高輝度条件になるIeの値が最大5.6 Aにも大きくなるのが問題である。
【0064】
図50は、図49の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。曲線501, 502, 503, 504 及び505 はカソード半径Rcがそれぞれ1, 1.5, 2, 2.5 及び3 mmに対応する。 カソード半径の大きい電子銃では、同じ輝度条件では、エミッタンスが大きくなる傾向である。
【0065】
図45は、図11のモデルで、カソード・アノード間隔を4mmに固定し、カソード半径Rcを1.5から3mmまで変えシミュレーションした結果である。実線は輝度のIe依存性で、点線はエミッタンスのIe 依存性であり、右上がりの短線はカソード電流密度のIe 依存性である。曲線511, 512, 513 及び514 はそれぞれ1.5, 2, 2.5及び 3 mmRcのカソード半径である。カソード半径2, 2.5及び3mmの電子銃で、Ieを増加すると、まず高エミッタンス条件になり、さらにIe を増加すると高輝度条件が現れる。これらのRcの範囲では、高輝度条件になるカソード電流密度はカソード径の増加に伴って増加する。高輝度条件になるIeの値を図51から読み取り図44にまとめた。この条件では電子銃電流は最大で3.6 Aで比較的小さく特に問題は無い。
【0066】
図46は、図45の特性を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス(μmrad)、又はカソード電流密度(A/cm2)で表示したものである。ほぼ右下がりの曲線は輝度・エミッタンス曲線であり、ほぼ水平に近い線は輝度・カソード電流密度曲線である。曲線511, 512, 513,
及び514 はカソード半径Rc がそれぞれ1.5, 2, 2.5 及び3 mmに対応する。カソード半径の大きい電子銃では同じ輝度条件では、エミッタンスが大きくなる傾向である。このDacの条件では輝度が106 A/cm2srの時エミッタンスが1.4 μmmrad 程度であり、高エミッタンスが必要な場合にも問題がなく、Dacが3mmや5mmの場合の問題点が解消された。
【0067】
図43は、図47の最大輝度あるいは最大エミッタンスを与えるIeの数値をグラフにしたものである。横軸はカソード半径Rcであり、縦軸はカソード・アノード間隔Dac:5mm電子銃での最大輝度と最大エミッタンスをあたえる電子銃電流:Ie(Bmax) A, とIe(Emax) A, であり、前者を 実線、後者は点線で表示した。531はRcが1.5〜3 mmの範囲でのIe(Bmax)の値の分布を最小自乗法で直線表示したものである。532はRcが1.5mm〜3mmでのIe(Emax)での同様の直線である。以下の直線は次のようになる。
531の直線は、Ie(Bmax)=0.987Rc - 0.73 ただしRcをmm、IeをAとした。
532の直線は、Ie(Emax)=0.733Rc - 0.5,
【0068】
図44は、図43の最大輝度を与えるIeの数値をグラフにしたものである。横軸はカソード半径の3乗:Rc3であり、縦軸は最大輝度をあたえる電子銃電流:Ie(Bmax)(A),である。
541は、Dac: 3 mmの場合で、最大輝度を与える電子銃電流Ie(Bmax)のカソード半径の3乗:Rc3依存性である。直線541, 542の式はIe(Bmax) = 0.187Rc3 + 0.35, 542: Ie(Bmax) = 0.255Rc 3-1.17
である。
直線543は Dac: 4 mmの場合、最大輝度を与える電子銃電流Ie(Bmax)のカソード半径の3乗:Rc3依存性である。直線の式は、
543: Ie(Bmax) = 0.132Rc3 - 0.059
以上でLangmuir limitを超える最大輝度を与えるIe値及び最大エミッタンスを与える電子銃電流Ieの式が出揃った。これらの式から、どのような電子銃電流範囲でLangmuir limitを超える最大輝度及び最大エミッタンスが得られるかを次に纏める。
【0069】
凹面カソード、凸面アノードあるいは引き出し電極及びウエーネルト電極を有する電子銃で、カソードとアノードあるいは引き出し電極間距離Dacが5mmの場合、Langmuir limit
を超える輝度あるいは高エミッタンスを与える電子銃電流Ieはそれぞれ次式を満たす。
Ie(Bmax)=0.987Rc -0.73,Ie(Emax)=0.733Rc - 0.5, また、Dacが3mmの場合、Langmuir limitを超える輝度を与える電子銃電流Ieは次式を満たす。
Ie = 0.187Rc3 + 0.35, Rc ≦ 2.5 mm
Ie = 0.255Rc3 - 1.17, Rc > 2.5 mm.
従って、Dacが3mm〜5mmの範囲の場合で、Langmuir limitを超える輝度あるいは高エミッタンスを与える電子銃電流Ieはつぎの不等式を満たす。
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.159Rc3 + 0.35. Rc ≦ 2.5 mm, あるいは
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.255Rc3- 1.17. Rc > 2.5 mm
ここで、電子銃電流を小さくしたい場合は、上の不等式の右側は直線543の式になるので
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦0.132Rc3 - 0.059
また、高輝度でエミッタンスも必要な場合は、上の2つの不等式の左側が543の式に変わり、
0.132Rc3- 0.059 ≦Ie ≦0.187Rc3 + 0.35. Rc ≦ 2.5 mm, あるいは
0.132Rc3- 0.059 ≦Ie ≦0.255Rc3- 1.17. Rc > 2.5 mm になる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上、本発明に係る電子線装置の発明を実施するための最良の形態を説明したところから理解されるように、本発明は、輝度が大きく、エミッタンスも大きい電子銃を利用可能にし、エネルギー幅が小さいと予想される電子銃が得られる。従って、1本の光軸の周りに多数のマルチビームを形成し、また光軸から遠い位置にあるビームからの2次電子検出も問題なく可能にし、電子銃から試料面までの距離を短くでき空間電荷効果でのボケも小さくできる。さらに、1次ビームの走査に同期して、2次電子軌道を2段の偏向器で補正するので走査視野の端でもマルチビームの検出ができる。
また、カソード曲率半径を、Pierce 条件からずらして、(アノード・カソード間距離+アノード曲率半径)より小さく、アノード・カソード間距離より大きくすることによって、X- 線源用等の大電流密度の電子銃が得られる。
さらに、Langmuir Limit をこえる超高輝度が得られ、あるいは、超高エミッタンスが得られる条件が分かった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る電子銃のカソード周辺を拡大した概念的断面モデル図である。
【図2】図1に示した電子銃、と従来の凸形カソード電子銃でのシミュレーション例である。
【図3】本発明の電子銃が使われる電子光学系。
【図4】図3に示した電子光学系の1次光学系の動作を詳細に示した図。
【図5】図3に示した電子光学系の2次光学系の動作を詳細に示した図。
【図6】図1に示した電子銃でのシミュレーションの第2の例。
【図7】図1に示した電子銃でのシミュレーションの第3の例。
【図8】図1に示した電子銃でのシミュレーションの第4の例である。横軸は、輝度(1000A/cm2sr)、縦軸はエミッタンス(μmmrad)とカソード電流密度:Jc(A/cm2)
【図9】図1に示した電子銃での電子軌道のシミュレーションの例。
【図10】本発明で用いた電子銃の実寸法モデル。
【図11】本発明の他の実施の形態の電子銃モデル。
【図12】Pierce type 電子銃と本発明の電子銃のシミュレーションによる比較
【図13】図12の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図14】カソード曲率半径を変えシミュレーションした結果。
【図15】図14の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図16】光陰極でカソード曲率半径を変えシミュレーションした結果。
【図17】図16の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図18】Pierce type 電子銃でウエーネルト形状を円錐台と円盤形状の組み合わせとしたモデルでのシミュレーションした結果。
【図19】非Pierce type 電子銃でウエーネルト形状を円錐台と円盤形状の組み合わせとしたモデルでのシミュレーション結果。
【図20】光陰極での電子軌道のシミュレーション結果。
【図21】光陰極カソード電子銃で、凸型カソードと平曲カソードでのシミュレーション結果。
【図22】図21の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図23】ウエーネルト角度を変えシミュレーションした結果。
【図24】図23の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図25】カソード・アノード間隔5.5mmで、カソード曲率半径を変えシミュレーションした結果。
【図26】図25の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図27】カソード・アノード間隔:1mmで、カソード曲率半径を変えシミュレーションした結果。
【図28】図25の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図29】カソード・アノード間隔3mmで、カソード曲率半径を変えシミュレーションした結果。
【図30】図29の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図31】最大輝度を与える電子銃電流のカソード半径依存性
【図32】最大輝度を与える電子銃電流のカソード半径依存性 但しRc <120μm
【図33】カソード半径Rc:15μmでカソード・アノード間隔を変えシミュレーションした結果。
【図34】図33の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図35】カソード半径Rc:960μmでカソード・アノード間隔を変えシミュレーションした結果。
【図36】図35の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図37】カソード半径Rc:120μmでカソード・アノード間隔を変えシミュレーションした結果。
【図38】図37の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図39】最大輝度あるいは最大エミッタンスを与える電子銃電流の(1/Dac)依存性
【図40】図39の8mA以下の部分を拡大した図。
【図41】アノードあるいはビーム引き出し電極背面に小開口を設けたシミュレーション結果。
【図42】図41の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図43】最大輝度あるいは最大エミッタンスを与える電子銃電流のカソード半径依存性
【図44】最大輝度を与える電子銃電流の(Rc3)依存性
【図45】図11のモデルで、カソード・アノード間隔を4mmに固定し、カソード半径Rcを1.5から3mmまで変えシミュレーションした結果。
【図46】図45の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図47】図11のモデルで、カソード・アノード間隔を5mmに固定し、カソード半径Rcを1.5から3mmまで変えシミュレーションした結果。
【図48】図47の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【図49】図11のモデルで、カソード・アノード間隔を3mmに固定し、カソード半径Rcを1から3mmまで変えシミュレーションした結果。
【図50】図49の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果。
【符号の説明】
【0072】
2:仮想円錐台、4:仮想円錐、9:放電回避の曲面、34:軸合わせ偏向器、57:縮小像、59:1次ビームの走査に同期して軸を補正する2段の静電偏向器、46:マルチビームの検出器、141:第2コンデンサレンズを偏向支点とする軸合わせ軌道、142:マルチ開口を偏向支点とする軸合わせ軌道、143:レンズ52を偏向支点とする軸会わせ軌道、144:レンズ49を偏向支点とする軸合わせ軌道、145:開口55を偏向支点とする軸合わせ軌道、146:レンズ49を偏向支点とする軸合わせ軌道、148:電子銃のクロスオーバの結像を示す線、147:マルチ開口からのビームの結像線、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のカソード電流密度で電子線を放出する凹面形状のカソード、凸面形状を有する引出し電極又はアノード、及びウエーネルト電極を有し、上記凹面形状カソードの曲率半径をRcc(単位mm)とし、引き出し電極又はアノード電極を曲率半径がRac(単位mm)の球面の一部の形状とし、カソードと引き出し電極又はカソードとアノード間隔をDac(単位mm)としたとき、
1.1Dac ≦ Rcc ≦ 0.9(Dac + Rac)
を満たすようにした事を特徴とする電子銃。
【請求項2】
請求項1に於いて、カソード電流:Ieの単位をA とした時、カソード電流Ieを
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.159Rc3 + 0.35. Rc ≦ 2.5 mm, あるいは
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.255Rc3 - 1.17. Rc > 2.5 mm
の範囲に制御する事を特徴とする電子銃。
【請求項3】
請求項1に於いて、
1.125Dac ≦ Rcc ≦0.833(Dac + Rac),
を満たすようにする事を特徴とする電子銃。
【請求項4】
請求項2に於いて、電子銃電流Ieを
0.132Rc3- 0.059 ≦ Ie ≦0.159Rc3 + 0.35. Rc ≦ 2.5 mm, あるいは
0.132Rc3 - 0.059 ≦ Ie ≦0.255Rc3- 1.17. Rc > 2.5 mm
に制御する事を特徴とする電子銃。
【請求項5】
請求項1に於いて、上記所定のカソード電流密度は10 A/cm2以下であることを特徴とする電子銃。
【請求項6】
請求項1に於いて、上記カソードから放出させた電子線が、カソードから上記引き出し電極又はアノード電極間はそのビーム径を単調に減少させ、上記引き出し電極又はアノード電極の後方で最小ビーム径を形成するよう制御する事を特徴とする電子銃。
【請求項7】
請求項6に於いて、上記最小ビーム径においては、カソードの法線方向に放出されたビーム軌道の内、少なくともカソード中心部からのビーム軌道は互いに交差せず、光軸とも交差しない軌道になるよう制御する事を特徴とする電子銃。
【請求項1】
所定のカソード電流密度で電子線を放出する凹面形状のカソード、凸面形状を有する引出し電極又はアノード、及びウエーネルト電極を有し、上記凹面形状カソードの曲率半径をRcc(単位mm)とし、引き出し電極又はアノード電極を曲率半径がRac(単位mm)の球面の一部の形状とし、カソードと引き出し電極又はカソードとアノード間隔をDac(単位mm)としたとき、
1.1Dac ≦ Rcc ≦ 0.9(Dac + Rac)
を満たすようにした事を特徴とする電子銃。
【請求項2】
請求項1に於いて、カソード電流:Ieの単位をA とした時、カソード電流Ieを
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.159Rc3 + 0.35. Rc ≦ 2.5 mm, あるいは
0.733Rc - 0.5 ≦ Ie ≦ 0.255Rc3 - 1.17. Rc > 2.5 mm
の範囲に制御する事を特徴とする電子銃。
【請求項3】
請求項1に於いて、
1.125Dac ≦ Rcc ≦0.833(Dac + Rac),
を満たすようにする事を特徴とする電子銃。
【請求項4】
請求項2に於いて、電子銃電流Ieを
0.132Rc3- 0.059 ≦ Ie ≦0.159Rc3 + 0.35. Rc ≦ 2.5 mm, あるいは
0.132Rc3 - 0.059 ≦ Ie ≦0.255Rc3- 1.17. Rc > 2.5 mm
に制御する事を特徴とする電子銃。
【請求項5】
請求項1に於いて、上記所定のカソード電流密度は10 A/cm2以下であることを特徴とする電子銃。
【請求項6】
請求項1に於いて、上記カソードから放出させた電子線が、カソードから上記引き出し電極又はアノード電極間はそのビーム径を単調に減少させ、上記引き出し電極又はアノード電極の後方で最小ビーム径を形成するよう制御する事を特徴とする電子銃。
【請求項7】
請求項6に於いて、上記最小ビーム径においては、カソードの法線方向に放出されたビーム軌道の内、少なくともカソード中心部からのビーム軌道は互いに交差せず、光軸とも交差しない軌道になるよう制御する事を特徴とする電子銃。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【公開番号】特開2009−64792(P2009−64792A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329019(P2008−329019)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【分割の表示】特願2007−38804(P2007−38804)の分割
【原出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(500159772)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【分割の表示】特願2007−38804(P2007−38804)の分割
【原出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(500159772)
【Fターム(参考)】
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