説明

電子銃

【課題】2つの熱イオン電子源を用いて耐用年数を向上させ、またこれらの熱イオン電子源を迅速かつ効率的に交換することが可能な、低価格で小型高性能の電子銃を提供する。
【解決手段】電子銃10は、主熱イオン電子源44、副熱イオン電子源58及び集束電極62を備える第1のハウジング12と、アノード及び集束コイル86A、86Bを備える第2のハウジング14と、偏向コイル104A、104Bを備え、第2のハウジング14に接続し、かつ第1のハウジング12の反対側に位置する第3のハウジング16と、を備えるアセンブリからなる。電子銃10は、耐用年数を向上させるために2つの熱イオン電子源44、58を用いる。電子銃10の寸法は、この電子銃10の出力定格を制限することなく2つの熱イオン電子源44、58を容易に交換できるように小型になっている。これにより、長寿命、低価格、かつ汎用性の高い電子銃10が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子銃に関し、特に2つの熱イオン電子源を有する電子銃に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビーム炉ならびに電子ビームコータ(coater)は、物品に蒸着する蒸気を発生させる材料を加熱するために用いられる。電子ビーム炉は、電子銃と、偏向装置と、冷却装置と、を備える。電子銃によって、電子ビームが発生する。偏向装置によって、電子ビームが、材料を加熱するようにこの材料に案内される。冷却装置は、電子銃の過熱を防止するためにこの電子銃を冷却する。
【0003】
通常、電子銃は、電子源と、集束電極と、加速電極と、を備える。一般的に電子源は、電子を放出するように電流によって加熱されたカソードである。通常、集束電極は、電子をはじくようにマイナスに帯電しており、これによって電子が、概ね加速電極に向けて案内される。一般に、加速電極は、電子がビームを形成して下流側に進むように、電子源及び集束電極より小さくマイナスに帯電している。
【0004】
1つの周知の形式の電子銃においては、電子源ならびに集束電極が、ヘッド部に伸長して配置される。ヘッド部は、加速電極から離れて配置されたプラットフォームによって支持される。この種の電子銃は、信頼性があるとともに、多数の異なる出力定格において使用可能である。これらの電子銃のヘッド部、加速電極、ならびにプラットフォームの物理的な寸法は、電子銃の出力定格によって決まる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子銃が作動している間に、電子ビームがイオンを発生させ、これらのイオンは、電子の動きに相対して逆方向に移動するとともに、カソードとアノードとの間の電界内で加速する。高エネルギのイオンがカソードの表面に衝突するので、これらのイオンによって、カソード材が拡散し、かつ蒸発する。最終的にカソードは、恒常的な反射した電子の衝突により変形し、ひいては腐食する。また、カソードの変形は、電子銃の性能に影響を与える。電子銃の蒸発速度もまた、変化する。その結果、電子銃の平均耐用年数ならびに総耐用年数が、大幅に低下する。同様に、電子銃アセンブリにおける必要な数の目標物を被覆する電子銃の能力が制限され、また全体的な生産能力に著しい影響を及ぼす。
【0006】
従って、電子銃の耐用年数及び作動寿命を向上させ、かつ電子銃の出力定格を制限することなく熱イオン源を素早く効率的に交換することができるように構成された電子銃アセンブリが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、電子銃は、第1のプラットフォームに接続されたハウジング支持部材に調整可能に取り付けられた1つ或いは複数の基準となる部材を備える第1のハウジング内に配置された主熱イオン電子源、副熱イオン電子源及び集束電極と、第1のプラットフォームに調整可能に接続された1つ或いは複数の絶縁部材を備える第2のハウジング内に配置されたアノード及び1つ或いは複数の集束コイルと、第2のハウジングに接続し、かつ第1のハウジングの反対側に位置する第3のハウジング内に配置された1つ或いは複数の偏向コイルと、を備える。
【0008】
本発明によれば、電子銃を用いる方法は、主熱イオン電子源を加熱し、この主熱イオン電子源から第1の電界を通して第1の電子ビームを放出し、この第1の電子ビームを副熱イオン電子源に衝突させ、この副熱イオン電子源を加熱し、副熱イオン電子源から第2の電子ビームを放出し、第2の電界を通してこの第2の電子ビームを加速させ、集束電極を介して第2の電子ビームを集束し、加速アノードを通して第2の電子ビームを透過させ、1つ或いは複数の磁界を介して第2の電子ビームを集束し、1つ或いは複数の磁界を介して第2の電子ビームを偏向させ、第2の電子ビームを目標物に衝突させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の軸方向の電子銃は、2つの熱イオン電子源を備える。主熱イオン電子源が加熱すると同時に、この電子源が電子流を放出する。この電子流は、副熱イオン電子源に衝突して、この電子源を加熱する。ビーム内の電子は、主熱イオン電子源ならびに副熱イオン電子源によって発生した対向する電位の電界内で加速してエネルギを得る。電界内で電子が加速することによって、これらの電子は、集束電極により整列して電子ビームを形成する。集束電極によって、電子ビームが、副熱イオン電子源と視線が一直線に整列している加速アノードの開口部に案内される。電子ビームがアノードを通過して、1組の集束コイル及び1組の偏向コイルによって発生した磁界の範囲内に入るので、この電子ビームは加速し続ける。2組のコイルは、電子ビームを垂直及び水平に偏向させ、さらにこの電子ビームを集束するために、十分な強度を有する磁界を発生させることができる。磁界の方向及び強度によって、電子ビームは要求される方向に偏向する。これによって得られた電子ビームを、物体を加熱し、さらに走査操作を行うために用いることができる。
【0010】
本発明の電子銃は、小型であるとともに種々の性質を有するので、既存の電子ビーム式物理的蒸着装置に取り付け可能な軸方向の電子銃である。通常、軸方向の電子銃10は、第1のハウジング12即ち熱イオン電子源アセンブリと、第2のハウジング14即ち電子ビーム集束アセンブリと、第3のハウジング16即ち電子ビーム制御モジュールと、を備える。また、電子ビーム制御モジュールの構成要素を、電子ビーム集束アセンブリ内に備えてもよい。
【0011】
本発明の軸方向の電子銃は、1つ或いは複数の調整手段を用いる。通常、調整手段は、2つ以上の部品を互いに固定し、そして必要であればこれらの部品を分解するために緩めることができるあらゆる形式の調整可能な手段として記載されている。適切な調整可能な手段は、ねじ、ボルト、ナット、クランプなどの部品を備えるものの、これらに限定されない。同様に、これらの調整手段が挿入されるチャネルは、必要であれば、調整手段と組み合わされるように、必要な相補的な表面の特徴部(facial indicia)を有してもよい。代表的な表面の特徴部は、溝、滑らかな孔(smooth bore)、面取りした表面、先細の面、上述の表面の特徴部のうちの少なくとも1つを備える組み合わせなどを含んでもよいが、これに限定されない。また、本発明の軸方向の電子銃は、1つ或いは複数の固着手段を用いる。通常、固着手段は、2つ以上の部品を互いに固定し、そして必要であればこれらの部品を分解するために緩めることができるあらゆる形式の固着可能な手段として記載されている。適切な固着可能な手段は、ねじ、ボルト、ナット、クランプなどの部品を備えるものの、これらに限定されない。
【0012】
図1、図2を参照すると、第1のハウジング12の熱イオン電子源アセンブリが、1つ或いは複数の高圧絶縁体11によって第2のハウジング14に接続される。高圧絶縁体11は、第1のハウジング12のプレート15の1つ或いは複数の開口部13を通して配置される。開口部13は、高圧絶縁体11をねじ式に収容するように設計されている。また、プレート15は、開口部17と、調整フランジ19と、を備え、このフランジ19を介して熱イオン電子源アセンブリが、開口部17を通して配置され、また調整できるように位置する。高圧絶縁体11は、第2のハウジング14の突起23に取り付けられた固着手段21を用いて第2のハウジング14に固定される。第2のハウジング14は、1つ或いは複数の第2の固着手段25を用いて第3のハウジング16に取り外し可能に接続される。図示のように、高圧絶縁体11を、別のハウジング(例えば、金属の蒸着工程で発生する粉塵にさらされないように上部に固定されたキャップを有する円筒型のハウジング)内に入れることもできる。
【0013】
軸方向の電子銃10の第1のハウジング12(図2)は、簡易トラップ(false trap)ホルダ20内に配置された簡易トラップ18を備える。図示のように、簡易トラップホルダ20は、簡易トラップ18用の突起22或いは他の支持手段を備えてもよい。簡易トラップホルダ20は、絶縁体26によって支持されるように設計されたリップ24をさらに備える。絶縁体26は、単一の中実の部品もしくは互いに取り付けられる2つの半部を備える。絶縁体26は、簡易トラップホルダ20を収容するために設計された開口部を形成するように接続している。第1の調整手段28は、絶縁体26及び簡易トラップホルダ20内に形成された1つ或いは複数の第1のチャネル30内に配置され、またこの調整手段28によって、簡易トラップホルダ20が絶縁体26内の所定の位置に堅固に保持される。絶縁体26は、さらに、フィラメントホルダ32の周囲に配置される。フィラメントホルダ32は、単一の中実の部品であってもよく、或いは互いに結合する2つの半部を備えてもよい。フィラメントホルダ32は、絶縁体26及びこのホルダ32内に形成された1つ或いは複数の第2のチャネル36内に配置された第2の調整手段34によって、絶縁体26内の所定の位置に堅固に固定される。1つ或いは複数の電気端子52が、好ましくは第2の調整手段34に接続され、また1つ或いは複数の遮蔽装置54が、電気端子52と第2の調整手段34との間に配置される。遮蔽装置54は、金属の蒸着工程によって生じた粉塵から軸方向の電子銃10の絶縁体26を保護するために設計されている。第1のハウジング12内にガンチャンバ50を形成かつ画定するように、簡易トラップホルダ20、絶縁体26、及びフィラメントホルダ32が結合する。
【0014】
フィラメントホルダ32の少なくとも一部分が、第1のハウジング12の断熱容器38内に挿入される。断熱容器38の内部においては、クランプ40が、フィラメントホルダ32の周囲に配置される。クランプ40は、単一の中実の部品であってもよく、或いは互いに結合する2つの半部を備えてもよい。主熱イオン電子源44を収容するために設計されたキャビティ42を形成するように、クランプ40及びフィラメントホルダ32が結合する。また、フィラメントホルダ32は、このホルダ32及びクランプ40内に形成された1つ或いは複数の第3のチャネル48内に配置された第3の調整手段46によって、クランプ40内の所定の位置に堅固に固定される。
【0015】
主熱イオン電子源44が、キャビティ42内に配置されるとともに、第1の熱遮蔽体54及び第2の熱遮蔽体56を貫通している。好ましくは、主熱イオン電子源44は、フィラメントホルダ32とクランプ40との間に円周方向に配置されたフィラメントコイルである。適切なフィラメントコイルとしては、加熱されたときに電子を放出することが可能な電子銃に用いられる適当な材料、例えばタングステンなどからなるが、これに限定されない。第1の熱遮蔽体54は、この遮蔽体54を通して主熱イオン電子源44が挿入できるように設計された開口部を有する複数の熱遮蔽プレートを備える。同様に、第2の熱遮蔽体56も、この遮蔽体56を通して主熱イオン電子源44が挿入できるように設計された開口部を備える。第2の熱遮蔽体56は、好ましくは第1の熱遮蔽体54の下方に接触して配置される。主熱イオン電子源44は、好ましくは副熱イオン電子源58の向かい側に配置される。
【0016】
副熱イオン電子源58は、1つ或いは複数の調整リング60の内側に配置され、さらに断熱容器38に固定された集束電極62内に配置される。調整リング60は、好ましくは集束電極62内に副熱イオン電子源58を収容し、かつ固定するために設計される。また、副熱イオン電子源58は、集束電極62の突起66によって支持される。集束電極62は、好ましくは開口部70を備え、この開口部70を通して副熱イオン電子源58が配置されるとともに、この電子源58の平面72は、第2のハウジング14と視線が一直線になっている。副熱イオン電子源58は、この電子源58の平面72の周囲に円周方向に配置されたリップ64を有する実質的に円筒型の形状を備える。円周方向に配置されたリップ64は、好ましくは、副熱イオン電子源58が、集束電極62の開口部70内で懸架されるように、突起66に接触する。プレート68は、副熱イオン電子源58、集束電極62双方の構成要素を断熱容器38内に堅固に固定するために、この電子源58及び電極62双方の上部に接触して配置される。
【0017】
副熱イオン電子源58は、加熱されたときに電子を放出することが可能な電子銃に用いられる適当な材料、例えばタングステンなどからなるが、これに限定されない。好ましくは、主熱イオン電子源44及び副熱イオン電子源58は、同一の材料からなる。
【0018】
第2のハウジング14の電子ビーム集束アセンブリは、凹部74を備え、開口部76を備える実質的に円錐台形状の加速アノード78が、この凹部74に配置される。円錐台形状の突起75は、プレート77及び凹部74内に配置された第5の調整手段80によって所定の位置に固定される。開口部76は、好ましくは副熱イオン電子源58と視線が一直線に整列する。加速アノード78は、好ましくは副熱イオン電子源58と視線が一直線に整列して配置される。1対の集束コイル86A、86Bは、各々のコイル86A、86Bが電子ビームチャンバ82と平行に整列し、かつ電源コネクタ94を通して電力を得るように第2のハウジング14内に配置される。各集束コイル86A、86Bの周辺には、軸方向の電子銃10の使用中に冷却流を搬送し、かつこれらのコイル86A、86Bの過熱を防止するように設計された複数の冷却チャネル88が存在する。冷却液貯蔵部(図示せず)は、冷却液を軸方向の電子銃10に搬送するために、1つ或いは複数の冷却液用ホース90、92を用いてこの電子銃10に接続される。集束コイル86A、86B及び冷却チャネル88は、好ましくは熱遮蔽材95によって電子の散乱及び汚染から保護される。
【0019】
第3のハウジング16の電子ビーム制御モジュールは、第2のハウジング14の下方に接触して配置される。第3のハウジング16は、ベース96と、このベース96と一体になって配置された1対の側壁98と、を備える。側壁98は、冷却チャネル100と、電源コネクタ94に取り付けられた1対の偏向コイル104A、104Bを収容するために設計されたクレードル(cradle)構造体102と、の双方を形成するように延びている。クレードル構造体102は、この構造体102と一体になって形成され、かつベース96の外壁108によって支持されるように設計されたエッジ106を備える。開口部112を有する熱遮蔽体110は、偏向コイル104A、104B、クレードル構造体102、及び側壁98の上部に配置される。熱遮蔽体110は、散乱電子及び汚染から偏向コイル104A、104Bを保護するために、第6の調整手段114によってクレードル構造体102に接続される。軸方向の電子銃10の電子ビームチャンバ116を形成し、かつ画定するように、熱遮蔽体110及び側壁98が結合する。電子ビームチャンバ116は、好ましくは第2のハウジング14の電子ビームチャンバ82と視線が一直線に整列する。軸方向の電子銃10の第3のハウジング16は、上述のとおり当業者に知られている適当な数の固着手段を用いて既存の構造体に固定される。
【0020】
集束コイル86A、86B及び偏向コイル104A、104Bは、磁石と、好ましくはこれらのコイルと結合した環状の12極の磁気回路と、を備える。磁気回路、集束コイル86A、86B、偏向コイル104A、104B、及びハウジング12、14、16は、全て“接地”電位下に存在する。集束コイル86A、86B及び偏向コイル104A、104Bは、例えば、1つの巻きつけられた集束コイル86A(例えば、N極)の始端部が別の巻きつけられた集束コイル86B(例えば、S極)の終端部に接続するように、それぞれ2つのコイルの組として互いに巻きつけられ、かつ直列に接続される。集束コイル86A、86Bもしくは偏向コイル104A、104Bのいずれかによって、電子ビームを垂直に偏向させることが可能な磁界が発生するとともに、別の組の集束コイル86A、86Bもしくは偏向コイル104A、104Bによって、電子ビームを水平に偏向させることが可能な磁界が発生する。
【0021】
高電圧回路は、軸方向の電子銃10のフィラメント電流回路、衝突回路、及び加速電圧回路用に用いられる。低電圧回路は、偏向コイル及び偏向磁石、集束コイル及び集束磁石の双方に用いるための電源回路として用いられる。軸方向の電子の出力は、ビーム電流を加速電圧で乗算することによって示される。軸方向の電子銃10の出力は、副熱イオン電子源58の衝突電流の変化に対する主熱イオン電子源44のフィラメント電流の変化即ち、副熱イオン電子源58の温度変化を通して調整することができる。
【0022】
電子銃10が作動している間に、約1A〜80A、特に約5A〜70A、好ましくは約10A〜60Aのフィラメント電流が、絶縁体26を通る電気端子52を介して主熱イオン電子源44のフィラメントコイルに印加される。主熱イオン電子源44によって、熱イオンの粒子雲(例えば、電子雲)が発生し、この粒子雲内の電子が、主熱イオン電子源44を通る電流の印加によって発生した電界内で整列する。これらの電子は、別の熱イオン粒子雲を発生させるように、副熱イオン電子源58に案内され、この電子源58に衝突して該電子源58を加熱する。衝突電圧は、約0.5kV〜2.5kVであり、特に約1.0kV〜2.0kV、好ましくは1.5kVである。衝突電流は、必要であれば最大約1Aにまで調整することができる。また、副熱イオン電子源58は、逆電位の別の電界を発生させるために主熱イオン電子源44の双方に相対する逆電位(例えば、負電位)を得るように、電流によって帯電する。電界の加速電圧は、約5kV〜45kVであり、特に約10kV〜35kV、好ましくは約17kV〜25kVである。電子ビームが逆電位の電界を通過するので、電子が加速する。熱イオン即ち電子が、電界内で整列するとともに、集束電極62によって電子ビーム(図示せず)として加速アノード78に案内される。
【0023】
電子ビームが加速アノード78を通過すると、電子が、集束コイル86A、86B及び偏向コイル104A、104Bによって発生した磁界に入る。計約0.1A〜2A、特に計約0.5A〜1.5A、好ましくは計1Aの電流が、集束コイル86A、86Bに印加される。計約1A〜5A、特に計約2A〜4A、好ましくは計約3Aの電流が、偏向コイル104A、104Bに印加される。電子ビームを用いて走査操作を行うために、種々の電流を印加することによって、約5°〜35°の角度、特に約10°〜30°の角度、好ましくは約20°の角度でオペレータが電子ビームを偏向させることができるように軸方向の電子銃10の作動が可能になる磁界が発生する。
【0024】
本発明の軸方向の電子銃は、今日、設計が可能な既存の平面ビーム電子銃と比較して多くの利点を有する。図3を参照すると、図中のグラフは、第1世代の線形電子ビーム銃(A)の耐用年数を第2世代の線形電子ビーム銃(B)の耐用年数及び、本発明の軸方向の電子銃(C)の耐用年数と比較していることを示している。第2世代の線形電子ビーム銃によって、第1世代の線形電子ビーム銃における特定の欠点が解消され、これにより第1世代の電子銃の平均耐用年数と比較して第2世代の線形電子ビーム銃の平均耐用年数が、約22.9%向上する。本発明の軸方向の電子銃における実際の耐用年数は、第2世代の線形電子ビーム銃の平均耐用年数と比較して約55%向上する。図は、これをほぼ100%の実際の耐用年数に換算している。この大幅な向上は、主熱イオン電子源、副熱イオン電子源の双方を用いる本発明の軸方向の電子銃によりもたらされる。
【0025】
電子銃が作動している間に、電子は、所望の目標物に反射し、ガンチャンバを通って後方に進む。これらの反射した電子が、熱イオン電子源を含むガンチャンバの内部面全体に衝突する。本発明の軸方向の電子銃と対照的に、今日の電子銃は、反射した電子に継続してさらされる1つの熱イオン電子源のみを用いている。その結果、恒常的な反射した電子の衝突、ひいてはこれによる腐食により、熱イオン電子源が変形する。これによって、電子ビーム銃の走査周波数が減少するとともに、この電子ビーム銃の蒸発速度が変化する。本発明の軸方向の電子銃においては、副熱イオン電子源は、主熱イオン電子源と比較して質量が大きく、また電子源としてだけでなく反射した電子の目標物としても機能する。副熱イオン電子源をこれらの反射した電子に継続してさらすことによって、この電子源が最終的に変形して腐食する。しかしながら、主熱イオン電子源は、腐食することなく作動し続ける。結果として得られた2つの熱イオン電子源を備える設計によって、図3に示されるように、今日の既存の電子銃と比較して、軸方向の電子銃の作動寿命及び平均寿命が向上する。さらに、本発明の軸方向の電子ビーム銃によって、安定した蒸発速度及び向上した走査周波数が得られる。実用的には、電子銃の作動寿命の向上率は、電子銃の使用中に被覆することが可能な目標物の数が事実上倍になるという本発明の軸方向の電子銃の能力となる。
【0026】
次に、既存の電子ビーム被覆装置内の電子銃を交換する必要性が、本発明の軸方向の電子銃の設計概念に拍車をかけている。発明者は、最新型の電子ビーム銃が大型の寸法で、少なくとも3フィートの長さであることを明らかにするために、旧型の電子ビーム銃のみを交換しようと努めてきた。不都合にも、最新型の電子ビーム銃の寸法が、既存の電子ビーム被覆装置の使用を妨げてきた。その結果、本発明の軸方向の電子ビーム銃は、コンパクトな設計になっているとともに、寸法は、好ましくは高さ約240mm(9.45インチ)、直径200mm(7.87インチ)である。また、本発明の設計上の特徴を維持しつつ電子ビーム銃の寸法が変更可能である。例えば、本発明の軸方向の電子ビーム銃の高さを約200mm(7.87インチ)から400mm(15.75インチ)に、また直径を約150mm(5.91インチ)から300mm(11.8インチ)にしてもよい。本発明の軸方向の電子銃のコンパクトな設計により、電子銃アセンブリ全体の総設置面積が、今日、使用可能なほとんどの電子ビーム銃の総設置面積より小さくなり、さらに、より大型の電子銃アセンブリと同等の出力が供給されると同時に、より長い耐用年数も得られる。また、コンパクトな設計によって、本発明の軸方向の電子ビーム銃を、全てではないが、多数の市販の電子ビーム被覆装置に取り付けることができる。図1に示されているように、軸方向の電子銃を、種々の方法(例えば、ねじ、ボルト、リベット、パンチ、クランプなど)を用いて既存の構造体に取り付けてもよい。
【0027】
第3に、本発明の軸方向の電子ビーム銃によって、他の市販の電子銃と比較して大幅なコスト面での利益ももたらされる。本発明の軸方向の電子ビーム銃の価格は、装置全体で約$60,000〜$100,000であると概算される。対照的に、既存の市販の電子銃の価格は、約$400,000〜$500,000である。また、これらの既存の市販の電子銃は、本発明の軸方向の電子銃によって立証された設計上の利点ならびに平均耐用年数を有していない。さらに、発明者が経験したように、ある市販の電子銃を、寸法が著しく異なる既存の市販の電子ビーム被覆装置に広く用いることができない。
【0028】
最後に、本発明の軸方向の電子ビーム銃は、一般的な工具を用いて1人で組み立てることができる。1人で持ち上げて結合することができないほど重い部品はない。さらに、大半の部品は、互いに嵌合するか、或いは本明細書に記載されているように、ねじ、ボルト、及び他の調整手段を用いて互いに固定される。故に、作業者は、部品を接続する種々のレンチやドライバを用いて、本発明の軸方向の電子銃を素早く組み立てることができる。
【0029】
本発明は、本明細書に記載の実施例に限定されず、また実施例は単に本発明を実施する最良の形態と考えられるものであり、形態、大きさ、部品の配置、或いは工程の詳細が修正され得ることを理解されたい。本発明は、むしろ全ての修正が本発明の請求項の範囲により画定される真の範囲内に含まれることを意図するものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の軸方向の電子銃の第2のハウジング及び第3のハウジングを示す断面図。
【図2】図1の軸方向の電子銃の第1のハウジングを示す断面図。
【図3】本発明の軸方向の電子銃の熱イオン電子源(即ち、カソード寿命)を、従来技術の第1世代の線形電子ビーム銃ならびに第2世代の線形電子ビーム銃と比較しているグラフ。
【符号の説明】
【0031】
10…軸方向の電子銃
11…高圧絶縁体
12、14、16…ハウジング
13、17、76…開口部
15、77…プレート
19…調整フランジ
21、25…固着手段
23、75…突起
74…凹部
80、114…調整手段
82、116…電子ビームチャンバ
86A、86B…集束コイル
88、100…冷却チャネル
90、92…冷却液用ホース
94…電源コネクタ
95…熱遮蔽材
96…ベース
98…側壁
102…クレードル構造体
104A、104B…偏向コイル
110…熱遮蔽体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のプラットフォームに接続されたハウジング支持部材に調整可能に取り付けられた1つ或いは複数の基準となる部材を備える第1のハウジング内に配置された主熱イオン電子源と、副熱イオン電子源と、集束電極と、
上記第1のプラットフォームに調整可能に接続された1つ或いは複数の絶縁部材を備える第2のハウジング内に配置されたアノードと、1つ或いは複数の集束コイルと、
上記第2のハウジングに接続し、かつ上記第1のハウジングの反対側に位置する第3のハウジング内に配置された1つ或いは複数の偏向コイルと、
を備えることを特徴とする電子銃。
【請求項2】
上記副熱イオン電子源は、1つ或いは複数の調整リングの内側に配置されることを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
【請求項3】
1つ或いは複数の上記調整リングは、上記副熱イオン電子源を所定の位置に固定することができる1対の調整可能なタングステン製のリングからなることを特徴とする請求項2に記載の電子銃。
【請求項4】
上記調整リングの内側に配置された上記副熱イオン電子源は、上記集束電極の開口部内に配置されるとともに、上記集束電極とプレートとの間の所定の位置に固定されることを特徴とする請求項2に記載の電子銃。
【請求項5】
上記副熱イオン電子源は、ある平面の周囲に円周方向に配置されたリップを有する実質的に円筒型の形状を備えることを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
【請求項6】
上記副熱イオン電子源のリップは、上記集束電極の突起によって支持されるとともに、上記開口部内で懸架されることを特徴とする請求項5に記載の電子銃。
【請求項7】
上記主熱イオン電子源は、フィラメントホルダとクランプとの間に円周方向に配置されたフィラメントコイルであることを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
【請求項8】
熱イオン電子源アセンブリを備える上記第1のハウジングであって、
このアセンブリは、
円周方向に配置されたリップ及び簡易トラップを収容することが可能な開口部を有する本体を備える簡易トラップホルダと、
1つ或いは複数の第2のチャネルを貫通している第2の調整手段によって固定されるフィラメントホルダの周囲に配置された、1つ或いは複数の第1のチャネルを貫通している第1の調整手段によって固定される上記簡易トラップホルダを収容することが可能な開口部を形成するために互いに接続された絶縁体と、
上記主熱イオン電子源を収容するために設計された第1のキャビティを形成するように、1つ或いは複数の第3のチャネルを貫通している第3の調整手段によって固定される上記フィラメントホルダの周囲に配置されるクランプと、
上記主熱イオン電子源を挿入することができるように貫通して設計された開口部を有する複数の遮蔽プレートを備える第1の熱遮蔽体と、
上記第1の熱遮蔽体の下方に配置された上記主熱イオン電子源を挿入することができるように設計された開口部を有する第2の熱遮蔽体と、を備え、
上記簡易トラップホルダ、上記絶縁体及び上記フィラメントホルダは、ガンチャンバを形成するために結合することを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
【請求項9】
上記電子銃は、さらに、上記絶縁体及び上記フィラメントホルダの上記第2の調整手段に接続された1つ或いは複数の電気端子を備えることを特徴とする請求項8に記載の電子銃。
【請求項10】
上記電子銃は、さらに、上記第2の調整手段の各々と上記絶縁体との間に配置された1つ或いは複数の遮蔽体を備えることを特徴とする請求項9に記載の電子銃。
【請求項11】
上記フィラメントホルダ、上記クランプ、上記第1の熱遮蔽体、及び上記第2の熱遮蔽体の少なくとも一部分が、上記第1のハウジングの断熱容器内に配置されることを特徴とする請求項8に記載の電子銃。
【請求項12】
上記主熱イオン電子源ならびに上記副熱イオン電子源は、互いに向かい合って配置されることを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
【請求項13】
電子ビーム集束アセンブリを備える上記第2のハウジングであって、
このアセンブリは、
アノードモジュール内に配置され、かつ第4の調整手段を用いてカバープレートによって固定された加速アノードと、
上記アノードモジュール内に配置された1組の集束コイルと、
上記アノードモジュール内の1組の第1の集束コイルの周囲に配置された複数の第1の冷却チャネルと、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
【請求項14】
上記電子銃は、さらに、上記アノードモジュールの外側の周囲に配置された1つ或いは複数の遮蔽体を備えることを特徴とする請求項13に記載の電子銃。
【請求項15】
電子ビーム制御モジュールを備える上記第3のハウジングであって、
このモジュールは、
上記電子ビーム制御モジュール内に配置された1組の偏向コイルと、
上記制御モジュール内の1組の偏向コイルの周囲に配置された複数の第2の冷却チャネルと、を備え、
上記制御モジュールは、第5の調整手段によって上記第2のハウジングに固定されることを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
【請求項16】
上記電子銃は、図3で示されるように測定された耐用年数を有することを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
【請求項17】
上記電子銃は、約200mm(7.87インチ)〜400mm(15.75インチ)の高さ及び約150mm(5.91インチ)〜300mm(11.8インチ)の直径からなることを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
【請求項18】
電子銃を用いる方法であって、
この方法は、
主熱イオン電子源を加熱し、
上記主熱イオン電子源から第1の電界を通して第1の電子ビームを放出し、
上記第1の電子ビームを副熱イオン電子源に衝突させ、
上記副熱イオン電子源を加熱し、
上記副熱イオン電子源から第2の電子ビームを放出し、
第2の電界を通して上記第2の電子ビームを加速させ、
集束電極を介して上記第2の電子ビームを集束し、
加速アノードを通して上記第2の電子ビームを透過させ、
1つ或いは複数の磁界を介して上記第2の電子ビームを集束し、
1つ或いは複数の磁界を介して上記第2の電子ビームを偏向させ、
上記第2の電子ビームを目標物に衝突させることを特徴とする使用方法。
【請求項19】
上記主熱イオン電子源の加熱は、この電子源への約1A〜80Aの電流の印加を含むことを特徴とする請求項18に記載の使用方法。
【請求項20】
上記第1の電子ビームの放出は、
第1の電位を有する上記第1の電界内で電子雲を発生させ、
上記電子雲を上記第1の電子ビームに集束し、
上記第1の電子ビームを上記副熱イオン電子源に向けて案内することを特徴とする請求項18に記載の使用方法。
【請求項21】
上記第1の電界ならびに上記第2の電界は、正反対の電位を備えることを特徴とする請求項18に記載の使用方法。
【請求項22】
上記第2の電子ビームは、約0.5kV〜2.5kVの衝突電圧を備えることを特徴とする請求項18に記載の使用方法。
【請求項23】
上記第2の電界は、約17kV〜25kVの加速電圧を備えることを特徴とする請求項18に記載の使用方法。
【請求項24】
1つ或いは複数の上記磁界を介する上記第2の電子ビームの集束は、
磁石及び集束コイルを備える1つ或いは複数の集束コイルによって第1の磁界を発生させ、
上記第1の磁界を通して上記第2の電子ビームを透過させることを特徴とする請求項18に記載の使用方法。
【請求項25】
上記の方法は、さらに、約1Aの電流を1つ或いは複数の上記集束コイルに印加することによって、上記第1の磁界を発生させることを特徴とする請求項24に記載の使用方法。
【請求項26】
1つ或いは複数の上記磁界を介する上記第2の電子ビームの偏向は、
磁石及び集束コイルを備える1つ或いは複数の集束コイルによって、第2の磁界を発生させ、
上記第2の磁界を通して上記第2の電子ビームを透過させることを特徴とする請求項18に記載の使用方法。
【請求項27】
上記の方法は、さらに、約3Aの電流を1つ或いは複数の上記偏向コイルに印加することによって、上記第2の磁界を発生させることを特徴とする請求項25に記載の使用方法。
【請求項28】
上記の方法による偏向は、約5°〜35°の角度で上記第2の電子ビームを偏向させることを特徴とする請求項18に記載の使用方法。
【請求項29】
上記の方法による偏向は、約20°の角度で上記第2の電子ビームを偏向させることを特徴とする請求項18に記載の使用方法。
【請求項30】
上記の方法は、さらに、上記第2の電子ビームで上記目標物を走査することを特徴とする請求項18に記載の使用方法。
【請求項31】
上記の方法は、さらに、上記第2の電子ビームで上記目標物を被覆することを特徴とする請求項18に記載の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−128874(P2007−128874A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285627(P2006−285627)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】